第11話 冒険者だってきちんとした職業

「んん……朝?」


 目を開けて、窓から差し込む朝日に目を細めるニィナ。

 ベッドから身を起こし、きょろきょろと部屋の中を見渡し、ここはどこだろうと寝ぼけた頭で考えて……


「……ああ、そっか。孤児院だっけ」


 ニィナは自分が夜を明かした場所を思い出す。


 俺もニィナが起きたことで目が開いて、まぶしい朝日を視界に収める。

 下を見れば、ボロ布ではない、まともな物を着ており……そのことに感動していた。

 寝間着ではなく、肩が紐な肌着なのだけども。

 普通の寝間着は寝苦しいとニィナが断ったのだ。


 ……ボロ布の時と露出度はあんまり変わってないような気がする。


 だが、それでもようやくまともな服を着ることができたのだ……!


『おはよーニィナ。よく眠れた?』

「おはよう神様。寝床があるだけで全然違うね」

『そうだね……あとでミスティにも感謝しないと』

「うん」


 昨日の飲み会の後、宿屋を取ろうにも無一文だったを忘れており……ミスティが暮らす孤児院の空いてる部屋にお邪魔させてもらったのだ。

 教会が経営してるだけあって、質素ながらもまともな生活を送るだけの質は用意されていた。


 孤児院と聞くと貧困にあえぎ、その日の食べ物にも困るみたいなイメージだったけれど……そうとは限らないらしい。


 少なくともここは、きちんと施設として機能している。


「あ、おはようございますニィナちゃん。朝ご飯、出来てますので食堂まで来てもらえますか?」

「うん、わかった」


 扉の向こうに立つミスティは白い神官服の上にエプロンをしていた。

 他の子たちを起こしに回っているのか、大きめの声がここまで届いている。


『さ、ニィナも着替えて行かないと』

「うん」


 ニィナは壁にかけられている『見習い神官』の服を手に取って、もぞもぞと着替え始めた。


 この服は、さすがにボロ布のままで過ごすわけにもいかないと、ミスティを通して老人の祭司から昨日渡されたものだ。


 服の構造はミスティが着る神官服と変わらないのだけど、真っ白なわけではなく、所々に紫の差し色が織り込まれている。

 これで『神典教』所属の神官ではないことを示しているとのこと。


 そして左腕のところには青色の輪が刺繍されており、これが見習いの証らしい。

 色のない真っ白な服は一人前、『神典』の装丁と同じ赤色が入った服は偉い人の証なのだとか。



 そんな服に袖を通して、変なところはないかを首をひねったりしながら確認して……


「……よしっ」


 きちんと着ることができた、と嬉しそうにするのだった。





 食堂へと向かうと、ニィナよりも小さい子供たちが騒がしくはしゃいでいた。

 口をそろえて、お腹すいたー、ご飯まだーと急かしている。


 その中にニィナも混ざり、隅っこのほうでおとなしくしていようと席に着く。

 こんなに大勢の中にいることには慣れていないのか、やたらとソワソワしている。


「なぁなぁ! ねーちゃんって冒険者になるの?」

「え、どうして?」


 隣に座る男の子にいきなり話しかけられた。

 突然そんなことを聞かれて、戸惑っているとまくし立てるようにその男の子は勝手に話しを進める。


「だって、その服! ミスティねーちゃんと同じだもん!」


 といってニィナの服を指さし、自信たっぷりに答える。


「で、なるの? 冒険者!」

「……まあ、なるつもりだけど」

「いいなぁー、おれも早く10歳になって《天能》を授かりたいや。そしたら冒険者になるんだー!」

「そっか……なれると、いいね」


 そういって男の子はニィナのことを羨ましがる。

 キラキラと目を輝かせて、明るい未来を信じて疑っていない。

 その姿がまぶしくて、ニィナは頷くことしかできなった。



***



 朝食を食べて、孤児院の子供たちや院長に見送られながら、ミスティと共に、冒険者組合に向かう。


 歩いてすぐに見覚えのある場所になり、


『酒場の隣に冒険者組合って……まあ、ありがちだけどさ』


 昨日、さんざん騒いだ酒場の隣にある立派な建物に到着する。

 朝なので酒場は閉まっていたけれど、代わりに冒険者組合の建物が騒がしい。


 慣れた様子で扉を開いて、中に入るミスティの後を追う。


「わあ……」


 中は人でにぎわっており、受付に並ぶ人やテーブルを囲って話し合う人たちなど、様子が様々。

 その中で、見知った顔を見つけてそちらに近づいていく。


「おはようございますリーダー」

「おう、おはよう」


 椅子に座ってテーブルに肘を置きながら、こちらに気付いて手を上げるカヴェル。

 他の仲間もそろっており、同じようにテーブルを囲っている。


 ……のだけど。


「うぅ……」

「あ、あの、大丈夫ですか? ミルカ様」

「うん……飲み過ぎただけだから……」

「…………」

「あ、おはよう、ニィナちゃん……昨日はごめんなさいね」

「う、うん。気にしてない」


 顔色を悪くして、突っ伏している魔術士のミルカはミスティの隣にいるニィナに気付いて面を上げ、挨拶をする。


 昨日のこともあって、少しだけぎこちないニィナ。


「――さて。全員そろったことだし、ニィナの冒険者登録に行くぞ」


 そんな微妙な空気を取っ払うように、リーダーのカヴェルが声を出し、次にすることを共有する。


「冒険者登録?」

「ああ。……と、忘れてた。お前の身分証だ」

「あ、ありがとう」


 紐が通った金属の板を渡される。

 表面には名前と天能に発行した街の名前が刻まれており、なくさないように首にかけておく。


「よし、それで受付にいって冒険者登録をするんだ。それでお前は晴れて冒険者見習いだ」

「分かった」





「――はい、必要事項は問題ありません。ようこそ冒険者組合へ」


 パーティー全員で受付へと向かい、ニィナが読み書きができないことが発覚してちょっと躓きつつも……無事に冒険者になることができた。

 というか俺も読めない。

 言葉は分かるのに、文字がちんぷんかんぷんすぎる。


 まあ、読み書きはあとで覚えるとして……これで、お金を稼ぐことができるようになった! やったぜ。


 なんだかワクワクしながら、この後は初心者依頼とか受けたりするのかなぁ、と思っていたら受付さんが事務的にこう告げるのだった。



「では、これより『神官ギルド』にて三日間の技能講習を受けてもらいます。頑張ってください」


 ……なんて?

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