第3話 無防備なほど敵は狙ってくる
『ふぃー……ようやく寝てくれた』
俺は《安眠の加護》と《健康の加護》を発動させることで、ニィナを眠らせる。
この二つの加護は、APを消費することで対象を安眠させることができたり、病気になりにくくなったり疲労が回復しやすくなるという効果がある。
これでぐっすり寝れて、明日には万全な体調になるだろう。
『しかし寝ないで休むつもりだったとは……』
ニィナは魔物がいるから危ない、と夜でも進もうとしていた。
それをなんとか説得して、焚き火をたいて休息させることにしたのだ。
……なのに、今度は寝ないでこのまま休むと言い出して、思わず頭を抱えてしまったよ。
澄ました顔して、平気で無理をしようとする姿は見てて放っておけない。
『いや……俺は、自分が助かりたいだけなんだ』
この子が死んでしまったら、自分がどうなるのかな分からない以上……ニィナの安全は第一。
結局は自分のことしか考えていないのだ。
閉ざされた視界で、焚き火の温かさだけを感じながら、俺は自分の本音に対して失望する。
『神様……ねえ』
――ガサリ、と音がする。
神様だと、自分がそう呼ばれるのに値する奴だとは思えない。……でも。
『――《外なる知恵の神》による強制操作を開始します』
「『今することは、こうしてうだうだ考えることじゃないよな』」
***
目を開けると、武装した集団に取り囲まれていた。
……追手だろうな、と思う。
ぐるりと周囲を見渡すと、だいたい五人ほどだろうか。
誰も彼もが粗暴な者ばかりで、夜の暗がりも相まって、とても恐ろしく見える。
「気を付けろ! こいつは魔術を使うぞ!」
少し後方のほうから、大声で全体に指揮を出す人物がいる。
こいつがこの荒くれ者たちのリーダーなのだろう。
じりじりと距離を詰められる。
「『“
「詠唱させるなっ!」
俺が口を開いた途端に武器を構えて突撃してくる。
「『――《
体全体が光の粒子に包まれ、体の内側に熱がこもるような感覚。
《
これで、低いニィナのステータスを補い……強化された力で、攻撃をかわす。
けれども、取り囲まれていて後ろからの攻撃もあることを忘れてはいけない。
「『……ッ』」
身をかがめて、右横に転がってなんとか回避する。
やっぱり囲まれていると面倒……おまけに攻撃手段は、詠唱しなきゃいけない魔術しかない。
どうしたものか、と考える暇をも与えてはくれず、荒くれ者たちは畳み抱えてくる。
地面に伏せて、身を低くしたままの俺はすぐに次の行動に移せず、これは回避できないなと悟る。
「死ね!」
「『……っ』」
剣が振り下ろされる。
間に合わない。
……ごめん。
「『――っ。“
「なっ、ぎやあああ!!」
両腕で盾に攻撃を防ぎ、驚いているすきにすかさず詠唱して、相手を燃やす。
目の前から火が燃え盛り、悲鳴が聞こえてくる。
けれど俺はそれどころじゃなかった。
腕で剣をそのまま受け止めたせいで、めちゃくちゃ痛い。
でも、このままじっとするわけにもいかないので、燃えて必死に火を消そうとしている荒くれ者から離れる。
「『ふっ、ぐっ……《
そして、血まみれでぐちょぐちょの腕を魔術で癒し……涙をこらえながら、さらに口を開く。
仲間がやられて茫然としているこの隙を逃すわけにはいかない。
「『“
今度は一人ではなく、視界に映る人間全員を対象として魔術を発動させる。
荒くれ者たちは突然、体が燃え初め、悲鳴を上げながら地面に転がっていく。
五人の人間が燃えれば、暗かった周囲も少しは明るくなる。
「『……逃げるか』」
戦闘が終わり、俺はすぐにそう判断した。
他にも仲間がいるかもしれない。
ニィナには悪いけど、体を休ませるのはそのあとだ。
くそっ。
こんなに早く追手がくるなんて思わなかった。
……それと、敵の襲撃を察知する術や、魔術以外の隙の少ない攻撃手段も検討しないと。
手数は多いにこしたことはない。
***
「『はぁ……はぁ……』」
急いで距離を取るために、長く走ったせいか少し息切れを起こしてしまう。
けれどもそのかいあって、荒くれ者どもが燃えている光景が見えないくらいにまで遠くにこれた。
「『《
走ったせいでできた足の傷を癒し、そのまま強制操作を解除する。
ニィナはまだ寝ているようで、そのまま寝息を立て始めた。
やっぱり強制操作中のことはニィナは意識できないらしい。
そのおかげで穏やかに眠れているのだろう。
なんてことを考えながら、俺はニィナの憑依を解除する。
ニィナに憑依していたことで痛みや外の空気などの感じていたものが遠ざかり、視界が揺らぐ。
そうして視界が安定すると、見慣れてきた真っ白な部屋に戻ってきた。
「……さて」
不安要素は早めに解消しておこう。
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