25.光の国

そこは元の世界の200年前…の筈


時を遡るのは一瞬の出来事で


周囲の様子がどれくらい変わったのか一見では分からない


只…勇者と手を繋いで居た筈の魔女は消え去り


目の前に若き日の魔女が驚いた表情でこちらを見ていた…




追憶の森


「ハッ!!こ、光臨…した」



魔女の発した初めの言葉だった


それに勇者が答える



「君は魔女だね?」


「わらわは光の国の姫じゃ…勇者の光臨を待っておった…」


「僕達は魔王を倒す為に200年先の未来から来た」


「おぉぉ預言者の言った通りじゃ…」


「姫?あれ?魔女は?…なんか全然違う人なんだけど…」


「魔女は僕達の心の中に居る」


「え?え?え?」



僧侶は混乱していた


赤い瞳は同じでも人相が別人だったからだ



「姫!!その者達は!?」



木陰から現れたのは体格の良いエルフだった



「エルフ!!この者たちは異世界から現れた勇者じゃ…予言の通り…わらわの下に現れたのじゃ」


「どこからやって来た!?気配は何処にも無かったのに…勇者!?どいつだ?」


「僕が勇者だ」


「青い瞳の勇者…大剣を携えた騎士…精霊の如き僧侶…まさか本当に現れるとは…」


「勇者達よ…ついて参られよ…預言者の墓まで案内してたもう」


「…たもう?」


「僧侶…良いから行こう」


「う、うん…なんか魔女じゃない感じ~」


「姫だと名乗ってるから…とりあえず呼び名は姫…かな?」


「いいな~」


「まぁ付いて行こう…」





光の都


そこは魔女の塔から少し離れた森の中だった


元の世界では遺跡が散らばっていたが…この世界ではまだ壮大な都が健在だった



「ここは森の中にあった遺跡だ…」


「すご~い!!光の都だったんだぁ~」


「そうじゃ…ここは光の都シン・リーン…わらわはこの都の第一王女じゃ」


「姫!!この者たちを信用して良いのか?」


「構わぬ!!わらわの目に間違いは無い」



この姫とエルフの会話からお転婆ぶりが伺えた


そもそも王族の姫が一人で森を散策するのは危険がある筈なのに護衛はエルフ一人…


恐らくそのエルフは姫の従士か何かなのだろう



「何処に連れて行くつもりかな?…姫」…勇者は姫に並び尋ねる


「わらわの光の塔の地下じゃ…預言者がそこで眠っておる」


「預言者?…僕達が来ることは予言されていた?」


「そうじゃ…半年程前に預言者が現れ異世界より勇者が光臨すると予言していったのじゃ」


「眠ってるって…どういう事かな?」


「預言者はほどなくして亡くなったのじゃ…墓で眠っておる」


「どうして僕達をそこへ?」


「預言者の遺言じゃ」


「おい!!勇者!!姫の隣を歩くな!!」…そのエルフは声を荒らげる


「良い!!わらわは勇者の話が聞きたいのじゃ…お主は後を付いて参れ」


「くぅ…」


「わらわは魔法使いじゃ…勇者と共に魔王を倒せと預言者は申しておった」


「そうか…」


「気になるね」


「きになる~」


「こっちじゃ…この階段を下りるのじゃ」




光の塔の地下


見覚えのある塔だった


地下が有る事は知っていたが案内された事が無かったから初めて入った


地上に出ている塔の部分よりも地下の方が正確に…精巧に作られた建造物だった


壁面は石なのか金属なのか分からない


どうやってそれを組み上げたのかも想像出来ない位不思議な建造物だ



「静かだね~ウフフ」


「この時代の方が精巧な物を作れたんだね…」


「そんな感じ~どうしてかなぁ?」



姫はある石棺の前で立ち止まった



「この石棺に…その予言者が入って居るのかな?」


「そうじゃ…待っておれ…勇者に渡せと預かっている物がある」


「ますます気になる…何だろう?」


「ねぇねぇ…お墓に杖が供えてあるよ~」


「その杖は預言者が持っていた杖だ…杖が無ければ歩けなかった様だ」エルフが口を開いた


「へぇ~おじいちゃんだったんだぁ」


「俺は見ていない…話によると長旅でえらく衰弱していたらしい」


「お墓に手を合わせておこう…」


「お祈りしてあげる~」



しばらくして姫が戻って来た


歩き方はノソノソと動く魔女と違い…軽快な足取りだった


雰囲気的に始まりの国の女隊長を思い出させる



「勇者よ…預言者からの預かり物を持ってきたぞよ…」


「手紙?」


「なんて書いてあるの~?」


「こ、これは…」



”やぁ…元気にしてるかな?


”きっとこの手紙を読むのは君達からしたらすぐの事なんだろうね


”君達に大事なことを伝えたくて僕は長老に無理を言って


”僕1人で200年前よりもう少し昔に飛んだんだ


”まず君達が居なくなった後のことを先に書く


”君達が200年前に戻った後も元の世界は何の変化も無かったんだ


”世界中でゴーレムが暴れだし、魔王の予言どおり僕達は辺境の村で生き長らえた


”仲間が1人、又1人戦死していく中で僕は古文書の解読を進めてやっとすべて解読した


”結論…命の泉の呪いを解くのが遅すぎた


”呪いを解いてもすべての浄化まで数年掛かるらしい


”だから君達にもう一度命の泉に刺さってる魔槍を抜いて呪いを解いて欲しいんだ


”実は200年前の世界にはまだミスリル銀が発見されていない


”でも君達は持ってる…勇者が持つ銀の剣と僧侶が持つ銀のロザリオ


”魔王を倒す為には勇者の銀の剣で心臓を貫けば良い


”命の泉の呪いを解くのには僧侶が持ってる銀のロザリオを使えば良い


”それで未来は変わる筈だ


”ドラゴンのオーブをここに残すから役に立てて欲しい



「予言者は商人か…」


「グスン…」その手紙を読みながら僧侶は涙をこぼしている


「まだ続きがあるよ…」



”今この世界に来て僕はやっと目が覚めた…ここが現実の世界


”そして君達の事も良くわかる…勇者と精霊と導く者…それが君達だ


”僕達のすべてが君達の心の中にある…それこそが勇気だ


”やっとすべてが揃った…世界を頼む


”夢幻の住民より




手紙を読み終わり騎士は姫に尋ねる



「預言者がどういう風に亡くなったか教えて欲しい…」



預言者がここに来た時には痩せ衰えておった…


予言を残した数日後に眠るように息を引き取った


安らかな顔をしておった…すべてを尽くしたかのようじゃった


預言者は他にも数々の事を語って言った


そのすべてを書き記し文書にしておる所じゃ


この先200年の予言も残して行っておる


希望に満ちた予言じゃ…海が太陽できらめくと言っておった




「商人らしい…グスン」


「そうか…きらめく海を見せてあげたかった」


「わらわはどうすれば良いのじゃ?」


「僕たちは預言者の言うとおり命の泉へ行かなければならない」


「共に行けば良いのじゃろうか?」


「姫!!それは父上が許さない…」


「わらわが言い聞かせる…勇者よ!国王の所へ参るぞよ」


「え!?」


「予言の勇者が現れたと知ればわらわが共に行くのも許してくれる筈じゃ」


「姫!!国王を困らせないでくれ…いくら勇者が現れたとしても姫が同行するのは筋がおかしい」


「主はうるさいのぅ…わらわに黙って付いて来れば良いのじゃ!!」


「待って!!」



騎士は逸る姫を諫める



「なんじゃ?」


「僕はこの予言者と付き合いが長い…もう少しこの墓に居させて欲しい」


「わたしからもお願い…もしかしたらお話出来るかも知れないから…」


「ふむ…よかろう…気が済むまで手を合わせるが良い」






騎士は眼を瞑り耳を澄ませてそこに商人の魂が残って居無いか探した


けれどエルフの様に仲間の魂を感じる事は出来なかった


骸が収められて居るであろうその石棺に手を添え語り掛ける



「商人?聞こえているかい?」


「1人でこんな遠くまで大変だったね…」


「歩くの大変だったろう?」


「君が成そうとしてた事は僕達が引き継ぐ」


「君の想いは確かに受け取ったよ」


「もし生まれ変わって又会えたら」


「きらめく海でバーベキューでもしよう」


「僕はまだやらなきゃいけない事が残って居るから」


「まずそれを片付けて来る」


「君はゆっくり休んでて良いよ」


「おやすみ」



その声は石棺に染み入り何の反応も無かったけれど


騎士の心の中に居る商人はちゃんと答えた気がした


ハハ君ならそう言うと思ったよ


任せたね…と




「そろそろ良いか?」


「あぁ…話は済んだ…行こうか」


「では行くぞよ?付いて参れ」




王城


姫に案内されたのは正面から城へ行く通路では無く


恐らく王族だけが知って居る隠し通路だった


殆ど誰の目に着くことも無く城内へ導かれ…その途中ですれ違った者は近衛兵だったと思われる


近衛兵達は姫の行動をある程度察知している様子で…見知らぬ3人が城内を案内されて居ても止める事はしなかった


そしてそのまま国王の面前へ行き口論を始める



「その者達が予言の勇者達と申すのか?」


「だから言うて居るじゃろう…わらわは予言の通り勇者と共に魔王を滅ぼしに行く」


「う~む…困ったオテンバ娘じゃのぅ」


「予言の通りであれば必ずや魔王を倒せる筈じゃ」


「ならぬ!!」


「何故じゃ!!予言者の残した言葉も信じようとはせず…こうしてその通りに現れても父上は未だ信じぬか」


「王たるもの信用の置けぬ者の予言を鵜呑みには出来ん」


「父上!魔王が直ぐそこに迫って居るのじゃぞ!?」


「ええい黙れ!これは国王としての命令じゃ…主は城から一歩も出てはならん!」


「ぐぬぬ…」


「勇者達よ…済まぬが我が娘を同行させることは許す事が出来ぬ…理解して下され」


「イヤじゃ…わらわは勇者と共に魔王を滅ぼすのじゃ!」


「黙れと言うておろうが!エルフ!!姫を塔へ閉じ込めよ!!お主に見張りを命ずる!!」


「ハッ!!!」


「なんという事じゃ…父上は世界が魔王に滅ぼされても良いのか?」


「そうは思っておらん…だがお主が勇者と同行し役に立てるとも思っては居らぬ」


「父上!!わらわは…」


「エルフ!!我が娘を早う連れて行け!!うるさくて敵わん」


「姫!御免…」



エルフは暴れる姫を担ぎ上げ国王の前から姿を消した



「勇者達よ…見苦しい所を見せてしまったのう…ここは一旦引取りを願いたい」


「あ…はい」


「魔王討伐の旅に出るのであれば支度金と装備品を用意する故…娘の代わりの者を雇って下され」


「いえ…失礼致しました…」



勇者達3人はそのまま近衛兵に連れられ王城を後にした…





城外


城門から出された3人は早々に馬2頭と金貨の入った袋を渡され追い出された形となった


姫の取った強引な手段の結果ではあったが…良く考えると当たり前の事だったと思う



「王様は厳しかったね~」


「仕方が無いかな…」


「わたし達だけで行くの?」


「そうするしか無い」


「馬を貰えただけでも良かったよ…」


「そうだね…徒歩で命の泉まで行くのはさすがに厳しい」


「これからどうするの~?」


「まず…今どういう状況なのか把握しないと…」


「少し情報を集めよう…」


「ひとまず宿屋かな」


「何処にあるのかなぁ~?」


「来たばかりで右も左も分からない…とりあえず人の集まって居る方へ歩こう」



3人は馬の手綱を引き城門から下って行く街道を歩き始めた


その道中でこの国が異常事態に有る事が分かって来た


街道には難民と思われる人たちに溢れそこかしこでテントを広げ寄り集まって居た


見るからに着の身着のまま逃げて来たのが分かる



「ん~~どうやら宿屋に泊まれる状況では無さそうだ」


「この人ごみは…難民だよね?」


「そういう感じだね…子供達まで武器を持ってギラ付いた目をしてる」


「慌しい感じ~」


「誰かに今の状況を聞いてみようか」


「ねぇねぇ!あそこで食べ物を配ってるよ~」


「食料の配給だね…あそこの兵隊に事情を聞いてみよう」





配給所


「子供達から先に並んでくれぇ!!」


「順番に配るから慌てるなぁ!!」


「沢山は無いから大事にしろよ!!」



配給していたのは保存の利く硬いパンと干し肉だった


スープは先に女子供に配給され既に無くなって居た



「次はお前か!?3人分だな?」


「はい…あの…」


「なんだ?忙しいから手短にしろ!」


「今魔王軍はどういう状況ですか?」


「直に此処まで攻めて来るらしい…エルフの森の向こう側は全滅したそうだ」


「ここの難民達はどこから?」


「近隣の町や村から避難してきている…まともな戦力が残ってるのは光の国だけだからな?」


「一番近い町はどこに?」


「南に歩いて10日だが…お前達は何処から来たんだ?」


「ウフフ~遠い国から魔王を倒しに来たの~」


「ハッハッハそりゃ頼もしい!風体からして傭兵だな?ここに攻めて来る前に倒してくれぇ!」


「は~い!!」


「ほら食料貰ったんなら行った行ったぁ!!こっちぁ忙しいんだ!!」


「行こうか…」




街道


「貰った食料は大事にとって置こう…保存食だから後で役に立つ」


「そうだね」


「他にお店無いのかなぁ?」


「お店らしい所は全部閉店になってる…これがこの国の現状だ」


「困ったね…命の泉へ行けるだけの食料が調達出来そうに無い」


「そうだ!森の町があった場所はどうなってるかな?」


「馬で行けば直ぐだったかな?」


「でももうすぐ日が暮れそうだよ?」


「こうしよう…僕はもう少しここで情報を集める…騎士と僧侶は馬で走ってちょっと見てきて」


「わかった…僕は夜目が利くから少々暗くても問題無い」


「後でこの場所で合流しよう」


「オッケ~」





騎士と僧侶は森の町があったであろう場所の林をうろついていた


でも林の中に続く馬車を引く道しか見当たらない


良く考えたら光の都が傍に有るのにわざわざ危険な外に誰か住む筈も無い



「確かこの辺りの筈だけど…」


「まだ何も無いんだね~」


「無駄足だったかな…」


「ねぇねぇ道沿いにさぁ~壊れた馬車が有るけど使えないかなぁ?」


「本当だ…荷物を運ぶのに良さそうだ」


「直せば使えるカモ~」



騎士はその馬車の近くで馬を降り馬車を修理出来そうか調べる事にした



「どう?使えそう?」


「車輪は壊れてない…とりあえず持って帰ろう」


「手で引っ張るの~?」


「植物の魔法でツタを出してくれるかな?…馬に引かせる」


「ほ~い!!罠魔法!」…植物が壊れた馬車に絡みついた


「よし!もどって少し修理すれば今晩は馬車で休める」


「やったぁ!途中で柔らかい草も拾って行こうね?」




騎士達は寝床を作れるだけの草を刈り取り馬車に乗せて帰路に付く




街道


すっかり日が暮れて街道の脇に溢れる難民たちは小さな焚火を囲んで暖まって居る


森が近い事も有り薪には困って居ないらしい


そのお陰か使えそうな木箱や樽は何処にでも放置してあり


騎士はそれらを馬車に積み込みながら勇者と待ち合わせて居る場所へ向かった



「勇者はまだ戻って来てないな…今のうちに馬車を直しておく」


「何か手伝う~?」


「破れた布の縫い合わせ出来るかい?」


「は~い」


「僕は穴の空いた荷室を直すよ」



拾った木箱を解体して釘と木材を再利用する


継ぎはぎだらけの馬車になってしまったが十分使える様に修理が出来た


トンテン カンカン



「あれ?騎士?僧侶?」


「あ!!勇者が戻ってきた~ウフフ」


「どうしたんだい?この馬車」


「拾ってきたの~」


「へぇ?良い物拾ってきたね…」


「今日は馬車の中で休めそうだよ…今修理してる」トンテン カン


「勇者は何か収穫あった~?」


「姫からの手紙を預かった…エルフが届けてくれたよ」


「え!?…何って書いてある?」



”南の町で待て


”隙を見て城を抜け出す



「オテンバな魔女っ子だね~ウフフ」


「エルフが見張りをしてるんじゃ?」


「あの感じだとエルフは姫に逆らえない様だね」


「ねぇねぇ…あのエルフってさぁ…長老さんだよね?」


「多分そうだね…大分尻に敷かれてるみたいだ」


「じゃぁきっと抜け出して来るね」


「まぁ…ここだと物資の調達が難しそうだから一回南の町へ行こう」


「それが良い…最低限の物資が無いと旅にもならない」


「あ…ハチミツ酒だけは2瓶買う事が出来たよ」


「わ~い」


「僧侶!今飲んだらダメだよ…それも非常用で残して置こう」


「ぶぅ…」





そこかしこで焚火の明かりが揺らめき真っ暗闇と言う事は無かった


子供達は既に寝静まり…焚火の近くでヒソヒソと誰かが会話する声が聞こえる


騎士達は幸運にも馬車を手に入れその中で休むことが出来た



「夜になっても兵隊さん達が沢山警備してる~」


「それだけ魔王軍の警戒をしてるんだよ」


「難民さん達はみんな路地で寝泊りかぁ…」


「あっちは焚火が近いから馬車よりも温かいかもね」


「雨が降ったら大変だね」


「そうだね…僕達は馬車の屋根が付いてるだけ良い」


「こういう状況がそれほど長く持つとは思えないな…」


「その通りだ…急がないとね」


「うん…明日は日が昇る前に出発しよう」



騎士は眠りにつく前にヒソヒソと話すその声に耳を傾けた


その話の中で分かって来たのは


この時代に居る一部の魔物が普通の武器ではどうしても倒す事が出来ない様だ


それはレイスやゴーストと呼ばれる悪霊に属する魔物


銀が発見されて居ないから対処出来ないのだ


だから逃げるしか選択が無かった…そうやって人間達は追い詰められた


これから未来に銀を発見する事が如何に重要な事なのか思い知った




翌朝…


まだ日の出前なのに難民たちは既に配給を受け取る為の列を作っていた


騎士達はそれを横目に馬車を動かし始める



「馬車は僕が馭者をする…騎士と僧侶は馬で周囲の警戒をしながら付いて来て」


「分かった…僧侶行くよ?」


「ふぁ~い…むにゃ」



馬は2頭居る


1頭は馬車を引き…もう1頭は騎士と僧侶が乗って周囲の警戒だ


騎士の重たい巨人の剣は馬車の後端に引っかけ馬の負担を軽くした




---3人で現実世界での旅が始まった---




林道


南にあるという町へ行く為には林道を通る必要があった


道中で魔物に襲われたと思われる馬車がいくつか放置されていて


そこで亡くなった人の骸も放置されていた


それらを見つけては簡単に埋葬しながら南を目指す


放置された馬車の中には使える物資も少しは残って居たから


旅に必要な道具類は段々と揃って来ていた




「僧侶?君は馬車に乗って物資の整理を頼むよ」


「は~い!!でも騎士は遠くに行ったらダメだよ?」


「分かってる…馬車からは離れないよ」


「ねぇねぇ…拾った盾とかどうするの~?邪魔だよう…」


「矢を撃たれた時に身を隠せる様に上手く馬車に取り付けてくれれば良い」


「やってみる~」



道中に現れる魔物は元の世界では見た事の無い魔物ばかりだった


巨大な虫や狂暴な謎の動物


こちらを見つけ次第襲い掛かって来るが勇者の魔法と騎士の振るう巨人の剣に敵う魔物は居ない


ただ頻繁に魔物に襲われる為休息する場所を探すのが大変だった



「安全に野営できる所は無いかな?」…日暮れが近くなり勇者が不安をこぼす


「洞窟を探すしかない」


「また魔物が来たよ~」


「火炎魔法!」ゴゥ ボボボボ


「フン!!」グサッ!!



勇者が魔法を放ち…魔物が怯んだ所に騎士が止めを刺す


この繰り返しで良かったが歩き詰めの馬を休息させる必要があった



「早く洞窟を探そう…」


「林道沿いだとやっぱり見つからないか…」


「少し林の中を行ってみようか?」


「ねぇねぇ…倒れた木の根っこの所が馬車を隠しやすいと思うの~」


「んん?何処にある?」


「ほらあそこ!!」


「お!?少し手を加えれば囲えそうだ…そこにしようか」




大木の根


カサカサ カサカサ



「だめだ…大きな蜘蛛が居る」


「掃除する…誘き出せるかい?」


「やってみる…氷結魔法!」ピシピシ!


「行く!!」



騎士は勇者の放った魔法に合わせて大きな蜘蛛に切りかかった



「騎士ぃ!!後ろ~!!」


「え!?」



頭上から糸で吊るされた蜘蛛が騎士の背後に降りて来ていた



「シャーーーー」シュルシュル!!


「うわ!!蜘蛛の糸か!」



騎士は蜘蛛の糸に絡まれて動けない



「くぅ…蜘蛛が騎士に近すぎて魔法が撃てない…」


「焼いてくれぇ!!僕は炎の耐性がある!!」


「わ、わかった…」


「あ!!」



シュン シュン グサ グサ!!


何処からか放たれた矢が蜘蛛に突き刺さった



「だ、誰だ!?」


「フン…」



光の国に居る筈のエルフが姿を現す



「その蜘蛛に手を出すな…何もしなければ襲っては来ない」


「君か…助かった」


「魔物だと思ってむやみに退治するのは関心しないぞ勇者!」



エルフはそう言いながらその蜘蛛に突き刺さった矢を抜いた


急所を貫いたらしく即死した様だ



「あと2匹の蜘蛛は放置…かい?」


「今倒した蜘蛛はその2匹の餌になる…少し離れまで運ぶから手伝え」


「あ…分かった…それより先に蜘蛛の糸で絡まった騎士をどうにかしないと」


「僕は大丈夫!!む~ん!!」ブチブチ


「うお!…蜘蛛の糸を振り切った…なんて奴だ…」


「ところでエルフ!君は一人かい?姫の監視はしなくて良かったのかな?」



パカラッ パカラッ


馬に乗った姫が現れた



「やっと追い付いたぞよ…さすがはエルフじゃ…直ぐに居場所が分かったのぅ」


「あぁ…やっぱり一緒に居たか」


「ウフフ~お城から抜け出して来たの~?」


「抜け出すと手紙に書いてあったじゃろう…エルフが居ればわらわは何でも出来るのじゃ」


「姫…これで俺はもう城には戻れない…」


「何を言うて居る…主を従士にしたのはわらわじゃ…追放されても又従士に指名すれば良いだけの話じゃ」


「ま、まぁ…とりあえずこの蜘蛛を処置して少し落ち着いて休める様にしよう」


「そうじゃな…ここをどうするつもりだったのじゃ?」


「この木の根を背にして馬車を隠そうとして居たんだ」


「僧侶!軽く植物のツタで周囲を囲んで魔物に襲われない様にしよう」


「おっけ~!!直ぐに終わるからその大きな蜘蛛はどこか遠くに置いて来てね~」


「勇者!蜘蛛を運ぶぞ…手伝え」


「あ…うん…」



勇者とエルフはその蜘蛛を運び


騎士と僧侶は他の倒木と植物のツタで周囲を囲い安全に休めるキャンプを作った




焚火


メラメラ パチ


囲いが出来上がった頃には周囲はすっかり暗くなっていた


倒木のお陰で薪には困らない…


馬車で横になるのと違って焚火の近くでは体が癒されるのを感じる



「ふぅ…やっとゆっくり出来る」…騎士は木の根にもたれ掛かりくつろぎ初めていた


「姫?城を抜け出して来て良かったのかい?」


「よい!!わらわは自分の事は自分で決めるのじゃ」


「エルフは姫が逃げないように見張りをしているのでは?」


「エルフはわらわの言う事は何でも聞くのじゃ」


「お城に帰ったら叱られるカモ~ウフフ」


「もうその話は良い…なんとかなるじゃろう」


「姫…今ならまだ父上の逆鱗に触れる事も無いと思うが…」


「その話はもう良いと言うたじゃろう!…それからもう姫と呼ぶでない…その名は聞き飽きた」


「ならなんて呼べば?」


「魔女~!!」


「魔女?」


「うむ…魔女で良いぞ…わらわは魔法使いの魔女っこ姫じゃ」


「ウフフ~なんかオテンバ魔女って感じ~」




焚火に暖まりながら軽く保存食を口に入れる


どうやら魔女は何も荷物を持たないで追いかけて来た様だ



「魔女?何か食べるかい?」


「わらわの分はエルフが持って来るで構わんで良いぞ?」


「そういえばさっき水を汲みに行くと言ったまま帰って来ないな…」


「心配せずともエルフは戻って来る…お?噂をすれば何とやらじゃな…」



エルフは荷物を抱えて戻って来た



「姫…あ…いや魔女!果物と木の実を採って来た…ハチミツもある」


「うむ…今は果物だけで良いぞ」


「へぇ?エルフ凄いな」


「お前達の分もあるから傷む前に食べろ」


「わ~い!!わたしも果物ほし~い!」


「さて…落ち着いた様だな?明日からどうするつもりなのだ?」


「一度南の町に行って物資の調達をしようと思って居たんだけれど…」


「物資?何が必要なのじゃ?」


「エルフの森を抜けて命の泉まで行けるだけの食材だね…今は少しの保存食しか無い」


「無駄足になりそうじゃな…向こうは兵隊の分隊が詰めて居って食料不足は光の国と変わらぬ」


「じゃぁ南の町に行っても物資調達は難しい?」


「そうじゃな…傭兵を雇う分には良いんじゃがのぅ」


「森で狩りをしながら行くしか無いね」


「これエルフ…ここから西へ行ってエルフの森に入るのはどうじゃ?」


「それは…まずい」


「困ったのぅ」


「どうまずい?」


「エルフは森から追放されたのじゃ…森には帰れんらしい」


「困ったね…行き先はエルフの森の向こう側だ…他のエルフに遭遇しないように迂回しながら行けないかな?」


「エルフの里を迂回するとケンタウロスが居て危ない」


「ケンタウロス?」


「森に住まう魔物じゃ」


「ケンタウロスは槍を使う種と弓を使う種が居て槍を使う方は俺じゃ手に負えない」


「わたしと騎士で相手してあげる~ウフフ」


「魔女が危険に曝されてしまう…」


「他に方法は無いじゃろう?…わらわの従士であればお主がわらわを守れば良い」


「勇者も魔女を守ってあげて…僕と僧侶でケンタウロスは何とかするよ」


「魔女を守るのは俺の役目だ!勇者の手助けは要らん!」


「エルフ!言う事を聞くのじゃ…急がねば魔王軍が攻めて来るぞよ?」


「フン!」




深夜


睡眠を取らなくても良いエルフが見張りをしてくれているお陰で


簡易的なキャンプでも十分安全になった


焚火を囲んでそれぞれが横になっていたが…勇者は一人焚火を見つめながら考え事をしている



「勇者!どうしたんだい?」


「え…あぁ…」…勇者は女海賊の短刀を見ながらうなだれて居る


「なんかおかしいな?」


「実は…記憶がおかしいんだ」


「え!?」


「君といつ出会ったとか…色んな事が思い出せない」


「記憶の喪失…」


「君は大丈夫なのかな?」


「ハッ!!」



--そう言えば夢で見た記憶がどんどん無くなって行く様に---


---色んな記憶がうっすらと消えて行ってる様な気がする---


---でもまだ僕は覚えてる…これは忘れちゃいけない記憶だ---


---そうだ!あの手紙…商人の手紙を見れば思い出す---



騎士は慌てて手紙を取り出し読み返した



「覚えてる…大丈夫だ…まだ覚えてる…」


「実はね…僕は文字の読み書きが出来ないんだ…だから記憶を書き留めて置くことが出来ないんだよ」


「そうだったんだ…」


「寝ると多分いつも夢を見る…過去の記憶はその夢と見分けが付かなくて…いつの間に思い出せなくなるんだ」


「だからまだ記憶のハッキリしている君が旅をリードした方が良い…僕はその内旅の目的も忘れてしまうかもしれない」


「そうか…寝るのが怖いんだね?」


「うん…」


「……」


「この短刀…少しだけ記憶に残ってる…これの持ち主と深い関係だった筈…でももう顔も思い出せない」


「こうやって焚火で暖まりながら背中合わせで沢山話をした筈なのに…何も覚えてない」


「君が無口になる理由が分かって来たよ…」


「無口?…他の人にはそう見えてるのか…」


「君は孤独なんだ…抱えてる物が特殊だから…孤独になってしまうんだ」


「あぁ…そうだね…それでもこの短刀の持ち主はいつも一緒だった様に思う…それなのに今居なくなった」


「その持ち主は…」


「言わなくて良い…どうせ思い出せないし…その話を聞いても切なくなるだけだよ」


「分かった…君は君のまま前に進もう」


「それしかないね…」




---勇者の抱える苦悩が少し分かって来た---


---大事な記憶を代償にしながら魔王と戦う宿命なんだ---




翌朝


勇者の言われた通り旅のリードは騎士がする事になった


道が整備されて居ない森の中を馬車で移動するのは馬にとって負担となる


だから馬車を引くのは今までの2頭に加え…魔女とエルフが乗って来た馬も合わせ4頭で引く


騎士は魔物に襲われた時以外は痛んで行く馬車の修理と整備を担当する事にした



「行き先を変更する…ここから西に向かってエルフの森を抜けようと思う」


「は~い」


「エルフ!お主は馬車の馭者が良かろう…わらわと勇者は襲って来る魔物を魔法でけん制する役じゃ」


「エルフ!馭者頼むね?森に付くまでは今後の行動を相談しよう」


「相談も何もエルフの里を迂回して行くのだろう?」


「その後どうするかだよ…森を抜けた後命の泉までどれくらい掛かるかな?」


「エルフの里を迂回しながら森を抜けるのに3週間…その後山岳地帯を進んで2週間…」


「結構掛かるな…食料調達が課題か…」


「森の中は果物が比較的入手しやすいからそれ程困らない筈…」


「小動物の狩りは問題ない?」


「森の浅い所では問題無い…トロールの寝床付近はダメだ…トロールが怒り出す」


「トロールが居るのか…」


「一応避けて進むつもりだが何処で寝て居るか全部は把握出来ないから怒らせない様に進む必要がある」


「じゃぁ火が使えないね…」


「その通り…だから火を使って肉を燻すなら森の奥に入る前にやるんだ」


「よし!森の入り口に付いたらまず狩りをして食料を確保しよう」





森の入り口


ここに来る前にいくつかの廃墟となった集落を通って来た


壊れた馬車から使える車輪を外し予備として馬車の側面に取り付けた


修理用の資材や暖を取る為の毛皮などが揃い物資もだんだんと充実してきている



「シッ!!」…騎士は何かに気付いた


「んん!!?」


「中型の動物の気配がする…」


「どうして分かる…本当だ…お前も森の声を聞くのか?」


「勇者!!魔法で仕留めれるかい?」


「やってみる…」


「待て!…俺がやる…苦しませたくない」


「ここはエルフに任せた方が良い…一発で仕留めんと動物が苦しむでのぅ」


「ここで待ってろ!」ピョン



シュタタ


エルフは馬車を止め軽やかに飛び降りる



「エルフさんすご~い…足音がしない~ウフフ」


「さすがエルフ…」


「……」…騎士はその姿を見て思い出した



---エルフか---


---確かに身のこなしはエルフの娘に似ている---


---金髪の髪を揺らして走るのも同じだ---


---走りながら弓をつがえるその仕草も同じ---


---呼吸も分かる…射るタイミングも分かる---



シュン! バシュ!



「仕留めた様だね」


「え?どこ~?」


「音で分かる…」


「行こうか…」勇者が馬の手綱を持ち馬車を動かす



ヒヒ~ン ガタガタ ゴトゴト



「待った…止まって!」


「え?…」


「エルフが動物を弔ってる…終わるまで待とう」


「エルフさんお祈りしてるのかなぁ?」


「エルフは普通殺生は好まない…彼に殺生をさせてるのは僕達だって忘れちゃいけないよ」


「そうじゃな」



エルフが仕留めた中型の動物は牡鹿だった


牡鹿が絶命するまでの短い時間に苦しまない様に手を当て落ち着かせている


エルフはその牡鹿に恐らく最後に森を見せたと思われる…命の尊さと儚さを感じた



「行こうか…エルフが呼んでる」


「どうして分かるの~?」


「なんとなくだよ…」


「おいでって言えば良いのにね~」


「エルフってそういう感じなのさ…行こう」



馬車を動かしエルフの下へ向かった



「うわぁ…大きな鹿さん…」


「ちょっと早いけど…今晩はここで野営しよう」


「ふむ…ちと獲物が大きい故解体が大変じゃな?」


「うん…僕は早速解体して干し肉を作るから魔女は手伝って?」


「何をすれば良いのじゃ?」


「煙で燻すんだ…火魔法を使って欲しい…勇者とエルフは周囲を警戒してて」


「俺は水を汲んで来る…シカが居ると言う事は水源が近い」


「あーそうだね…もし安全なら水浴びが出来ると良いね」


「周囲の警戒は勇者と僧侶でやるんだ」


「は~い!!」


「僧侶?馬車を囲むようにいつもの罠魔法も頼むね」


「おっけ~ウフフ」



エルフが水を汲みに行ってる間に空を飛ぶ魔物の襲撃が有った…魔女曰くガーゴイルという魔物らしい


勇者と魔女の魔法で焼き払い事無きを得たが


僧侶の操る植物で馬車を囲うだけでは空からの襲撃に無防備な事が露呈してしまった


そしてしばらくしてエルフが帰って来る…



「む!?これは…ガーゴイルじゃないか!」


「エルフ!戻って来たんだね」


「少し行った先に小さな小川と洞穴を見つけた…野営するならそっちに移動した方が良い」


「その様だね…茨で囲うだけだとダメな様だ」


「ねぇねぇ…遠くの空で飛んでるのってさぁ…」


「アレはガーゴイルの群れだ…夜になると活動を始める…急いで洞穴の方に移動しよう」




一行はエルフに案内されこの場所を離れる事にした




森の洞穴


その洞穴は馬車で丁度入り口を塞げるほどの大きさで


中で野営するには丁度良さそうな広さがあった



「照明魔法!」ピカー


「うわ!…ダメだバジリスクが要る…」エルフはその魔物から目を背ける


「何匹居る?掃除する」


「待て!バジリスクは毒を持っていて近づくのは危険だ…ここで野営は出来ない」


「大丈夫!僕は毒に耐性を持ってるんだ」


「何!?中途半端な耐性なんか役に立たないぞ!?」


「ええと…」



騎士は耳を澄ませバジリスクの気配を探した



「3匹か…勇者!毒を撒き散らかしたく無いから倒した後に火炎で焼いて!」


「分かった…」


「行くよ!!」ダダダ



騎士は戸惑う事無く真っ直ぐバジリスクのいる方へ向かった


巨人の剣は牛並みの大きさのバジリスクをスイカを割る様に真っ二つに切り裂く


その攻撃に合わせて勇者は灼熱の炎で飛び散る体液を一瞬で燃やした



「騎士はバジリスクと目を合わせても石化しないのか?」…エルフは驚いた表情でその戦い振りを見ていた


「僕はドラゴンの耐性を持ってる…毒も石化も効かない」



あまりに余裕にバジリスク3匹を処理する騎士と勇者を見てエルフはこぼす



「ハハ凄いな…あり得ない戦い方だ…」


「魔女!洞穴の壁面を炎で焼いて!」


「うむ…虫か何か居るのじゃな?」


「毒が散らばってるかも知れないから消毒だよ」


「任せい!火炎地獄!」ボボボボボボボ



洞穴の消毒作業は数分で終わった


3匹のバジリスクは高温で焼かれ炭化し匂いを発する事も無かった



「ちょっと焼き過ぎで洞穴の中が熱いな…軽く掃除して熱を冷まそう」


「直ぐそこに小川があって水浴びが出来るぞ?」


「おぉ!!わらわは水浴びがしたかった所じゃ」


「わたしも~」


「これエルフ!主はわらわ達を見張って居れ」


「ええ?エルフさんに見られて恥ずかしくないの~?」


「小さき頃より共に水浴びをして居るで何も気にならんわ…早う行くぞ」


「僕と勇者は洞穴の掃除をしておくから明るい内に水浴びしておいで」


「わかった~」


「あ!!そうそう…馬車に乗ってる汚れた毛皮も洗って置いて欲しいかな」


「おっけ~」



こうして洞穴に騎士と勇者を残し3人は近くの小川に水浴びに行った




燻製


3人が水浴びに行ってる間騎士と勇者は簡単な釜戸を作りシカ肉の燻製を作っていた


薄く切り開いたシカ肉を煙で燻すだけの簡単な保存食


勇者はシカ肉を薄く切る時にあの短刀を使っていた



「使い勝手良さそうだね…その短刀」


「うん…こういう肉の処理は全然記憶に無いけど体が覚えてるみたいだ」


「脂肪だけ切り分けて茹でて居るのも自然と?」


「誰に教えてもらったのか…油分だけ使うんだよ」


「ハハそういうのは忘れないんだね」


「角はどうする?」


「残しておく…どうしてだろう?」


「教えてあげるよ…薬にするか…武器の材料にするんだ」


「あぁそうだった…」


「記憶が無くなって行くのはどんな気分なのかな?」


「どの記憶が無いのか分からないから…何とも言えない」


「まぁ確かにそうかも知れないなぁ…」


「その内夢と現実の区別がつかなくなるよ…全部夢を見ている様な感覚になる」


「夢か…」


「誰かに目を覚ませって言われた気がする…その意味を今考えてる」


「夢から覚めろって事かな?」


「さぁ?」


「心の中でもそういう声がする」


「それは精霊の声なのかい?」


「分からない…僕は記憶が無いからその声に従うしか無いんだ」


「今も目を覚ませと聞こえる?」


「呼ぶ声…聞いた事の無い誰かの声…」


「不思議だね…僕の場合声というか…音なんだ」


「音?」


「耳を澄ますと色々な事が分かる…もしかするとそれが精霊の声なのかも知れないってね」


「今何か聞こえるかい?」


「僧侶のお腹の音かな…シカ肉を焼いて待っててと言ってる」


「ハハそんなのまで聞こえるんだ」


「冗談だよ…でもそういう音が近くに有る事を感じる」


「感じる!!そうだ…それも誰かに言われてる」


「感じる事と音を聞く事って同じかもしれないよ」


「そうなんだ…感じる事は聞く事か」


「君も森の声を良く聞いてみると良い…あれ?」


「んん?」


「そういえば森が静かで気にして無かったけど…何か呼んでる感じがするな」


「どこに?」


「分からない…もう少し静かになったら聞いてみるよ」


「うん…それよりこの干し肉作るの…今晩中に終わりそうにない」


「あぁ急ごうか…干し肉にしないと直ぐに腐っちゃうから」





水浴びから戻って来た魔女と僧侶は新鮮なシカ肉の山賊焼きを食べて満腹になった



「休んでも良いよ」


「うん…エルフさんは休まなくて良いの~?」


「エルフはのぅ…わらわ達人間の様に眠らんでも良いのじゃ」


「疲れないのかなぁ?」


「少しだけ自然と同化して体を癒すらしい…瞑想と言うのじゃ」


「勇者?焼けたシカ肉が余ってるけど食べないのかい?」


「もう食べたよ」


「少ししか食べて無いじゃ無いか」


「肉よりも木の実とかの方が口に合うんだ…僕は少食だから気にしないで」


「わらわも肉より果物の方が好きじゃな」


「なんだ…結局肉を食べるのは僕と僧侶か…この肉も燻して明日以降の保存食にするか…」


「ハチミツが余って居ったろう?漬けて置けば燻さんでも保存出来るぞよ?」


「それも良いね…」


「エルフはハチミツを良く採って来てくれるで遠慮なく使うと良い」


「エルフが居ると森の中での旅が楽だね」


「そうじゃな…ところで勇者よ…寝るまでの間暇じゃろう?」


「んん?どうかした?」


「わらわに高位魔法の使い方を教えてはくれんか?」


「高位魔法と言っても大した魔法じゃないんだけど…」


「主はどの魔術書で学んだのじゃろう?何故無詠唱で発動するのじゃ?」


「魔術書…僕は文字が読めない…あれ?忘れてしまったのか?」


「まぁ良い…まず無詠唱のコツが知りたいのじゃが…」



勇者と魔女はこうして距離を縮めていく


魔女は勇者に魔法を教わる事で関係を深めて行った




森の深い所


最も森の深い場所に有るエルフの里を迂回すると言っても


森を抜ける為には浅い森ばかりを行く訳に行かない


奥へ進むにつれ魔物に襲われる事も多くなり


その度に馬車の足を止める必要があった



「う~ん…この調子で魔物と戦いながら進むと命の泉まで随分掛かりそうだね」


「森を早く抜けたい…騎乗で戦えれば少しは進行も早いんだが…」


「森の中で騎乗戦闘は無理だ…馬が足を傷つけてしまう」


「気球があったら良かったね~」


「気球?…それは何だ?」


「空を飛べる乗り物~」


「空を飛ぶなんて事が可能なのか?」


「この時代にはまだ無い様だね…歩くしかない」


「これからどんな魔物が出て来るの~?」


「この先に出てくる魔物は…ケンタウロス、ゴブリン、トロール、ワーウルフ」


「森を抜けた後は?」


「ミノタウロス、オーガ、ハーピー、リザードマン」


「特に危険なのはどの魔物?」


「ミノタウロスとオーガは巨体で倒すのが困難だ」


「騎士なら巨人相手でも大丈夫だよ~」


「え!?そんな事ある訳…ううん!?その手はどうした!?」


「これは義手だよ…足も義足さ」ガチャリ ドサ



騎士は義手を外して見せた



「お前…そんな体で戦ってたのか」


「これは僕の大事な宝物だよ」---夢幻の世界が実在していた証---


「お前達には驚くことばかりだ」


「そうだ!エルフのオーブを持って居たんだった…聴いてみるかい?」


「オーブ…なぜこのような物を…」


「話すと長くなるよ…まず聴いてみて」




エルフは馬車を走らせながらそのオーブを聴いていた


どういう仕組みで聴く事が出来るのか僕には理解出来なかった


只の水晶のような石にどうして知識を詰める事が出来たのだろう…




「ねぇねぇ~エルフがおとなしくなっちゃったね~」


「エルフのオーブには知識も詰まってると長老が言ってた」


「どんな知識なんだろうね~」


「さぁね?」


「あ!!!それ~商人の口癖~ウフフ」


「フフ僕達の心の中に生きてる…か」


「うん!わたし皆のことちゃんと覚えてる~」


「僕も覚えてるよ…僕を突き動かしてるのは商人や盗賊達…皆なんだって感じる」


「そうだね~もう会えないかなぁ?」


「どうかな?」


「ウフフ~それも商人の口癖~」


「思い返せば商人は凄い人だった」


「でもね~トランプは弱いの~最後にジョーカー持つのはいつも商人だったよ~」


「それも運命かな?」



---ジョーカー?---


---もしかして僕は商人にとってジョーカーなのか?---


---ジョーカーを切って商人は上がった…そういうゲームだったのかも知れない---


---何にも属さない特殊なカード…最後の切り札…番狂わせの一手---


---そうだ僕は正攻法では無く亜流で行く特殊なスタイルだ---


---僕がすべてを変える…その為に此処に来たんだ---





エルフの森南部


北部にあるエルフの里を南側に迂回する形で森を行く


襲い掛かって来る魔物の中にはゴブリンやオークと言った


割と知能の高い魔物も居て集団で襲われる事もあった


しかし魔女は勇者の教えでどんどん魔法が上達して行き


2人が放つ魔法によって魔物を寄せ付けないでいた



「氷結魔法!」ピシピシ カキーン!


「落雷魔法!」ガガーン ビリビリ!



「あの2人息ピッタリ~ウフフ」


「出番が無くなったよ」


「魔女の魔法も上達してるね~」


「……」



エルフは魔女と勇者の距離が近づいて行くのが面白くない様で


黙って馬車を走らせながら気にしていない素振りをするその背中からくやしさが染み出ていた



「ケンタウロスはまだ見てないけど…」


「いや…もうすぐケンタウロス達がこちらに気付く」


「そんなに危ないの~?」


「森を自由自在に走り回る…弓を持つケンタウロスは近づいては来ないが弓で突然襲い掛かってくる」


「槍を持つ方は?」


「そいつはもっと危ない…一気に接近して来る…森でケンタウロスより機動力のある魔物は他に居ない」


「エルフでも恐れるのか」


「恐れてる訳じゃない…同胞と戦いたくないだけだ」


「同胞?」


「元はエルフの仲間なのだ…魔王によってケンタウロスは変わってしまった」


「どんな風に~?」


「ケンタウロスはエルフに比べて粗野で乱暴な戦士だ…魔王の策略を見破る程の知性を持っていないんだ」


「戦いは避けた方が良いのか?」


「出来れば避けたいが…それは無理だ…人間を目の敵にしている」


「襲って来ない事を祈ろう」




川沿い


起伏の激しい森を行くよりも川沿いを進んだ方が馬車を壊さないで済む


それに川沿いの方が休息の取れる洞窟を発見しやすく


なにより水の確保と魚を捕まえる事が出来る


だが遮蔽物が少ないから魔物に見つけられやすく安全とは言えなかった



「何かに追われてる気がする…」


「フフ気付いたか…もう狙われてるぞ」


「やっぱりケンタウロスだよね?」


「間違いない…矢に当たらない様に盾で身を隠すんだ」


「僕と僧侶は騎乗で少し後から付いて行く…川沿いなら馬を走らせられる」


「何をする気だ?」


「相手が何体居るか知りたい…少し誘ってみる」


「襲ってきたらどうする?」


「なるようになるさ」



騎士と僧侶はいつものように2人で馬に乗り馬車から少し離れた



「ねぇねぇあそこの影に何か居るよ~」


「分かってるよ…反対側にも居る」


「わたしはお祈りしてるね~」


「頼む…」



騎士達が乗る馬は鞍が付いているだけの殆ど裸の馬だ


矢避けを装備して居無いから弓矢の恰好の的に見えている筈だ


しかし本当は精霊の加護で矢を当てる事は出来ない…そうやって相手に矢を撃たせ数を把握するつもりだった



シュン シュン シュン


ケンタウロスの放った矢は当然外れる



「弓持ちが3体…馬車まで走るよ!つかまって!」


「は~い!!」


「あ!!!まずい!!!馬車の方にも槍持ちが3体行ってる」


「後ろの弓持ったお馬さん?追いかけてくるよ~」


「6体に挟まれてるのか!!くそぅ…槍持ちを1体片付ける!!」




馬車の方では…


エルフが槍持ちのケンタウロスに気付き馬車を止めた



「勇者!!槍持ちが来た!!」…そう言うと同時に弓を持ち矢をつがえる


「爆炎魔法!」ゴゥ ボボボボボボボ



勇者は火炎の魔法でケンタウロスの行く手を阻もうとした



「だめだ!!もっと撃て!!それじゃ当たらない!!」


「マーーーーーー」…ケンタウロスは咆哮をあげながら突進してくる



グサ! ビリビリ! ガラガラ ドシャーン!


ケンタウロスの巨大な槍が馬車の幌を貫き積んで有った木箱が砕け散った


中に乗って居た勇者と魔女は幸運にもその槍に当たっては居ない



「降りろ!!馬車ごと串刺しにされるぞ!!」


「分かってる!!魔女!!馬車を囲む様に火魔法を!!」


「火炎魔法!」ゴゴゴゴゴ



勇者と魔女は馬車を降り馬車の周囲に火柱を立てた


しかしそれを軽々飛び越えてケンタウロスが向かって来る


その時…



パカラッ パカラッ ザクン!!


騎士が振るう巨人の剣がケンタウロスを捕らえる…




「うお!!ま…真っ二つ?」



ザバーーーー


2つに分かれたケンタウロスの胴体から大量の鮮血が飛び散り地面に落ちた


何が起きたか分からずその2つの肉片はそれぞれのたうち回る



「後ろから弓持ちが3体来てる!!エルフ!!弓でけん制してくれぇ」


「わ、分かった!」ギリリ シュン!


「勇者!!魔法でけん制して!!」


「爆炎魔法!」ゴゥ チュドーーン



勇者は空中で破裂する魔法で火の玉を周囲に巻き散らかす


魔女も合わせて同じ魔法を使い辺りは一瞬のうちに火の玉が飛び交う危険な領域になった


それを縫うようにケンタウロスは空中を自在に駆け回りながらこちらの様子を伺う



「くそぅ…森の中を飛ぶように速い…」



槍持ちのケンタウロスに気を取られている隙に後方から弓持ちのケンタウロスが既に近付いていた


それに気付いた時にはそのケンタウロスに体当たりをされた



ガツン! ヒヒ~ン ガッサー


ケンタウロスの巨体に押され精霊の加護で守られては居たが馬ごと吹き飛ばされた



「いやぁぁぁぁ~」ズザザー


「グァ…突撃が早すぎる…」ドサー


「いった~い…」


「僧侶立って!!僕から離れないで」



シュン シュン シュン ドス ドス ドス


続けて弓持ちのケンタウロスは矢を放った…その狙いは乗って居た馬だ…



「なにぃ!!馬がやられる…」---こいつら賢いぞ---


「あぁぁぁお馬さんが~回復魔法が届かないよぅ」


「おいで!!走ろう!」…騎士は僧侶を左手で引っ張る


「来てる来てる来てるぅぅ~」


「フンッ!!」ザクッ 右手に持った巨人の剣を一振り



ケンタウロスの前足2本を付け根から切り落とした…


そこに丁度心臓が合った様で一気に血があふれ出す



「マーーーーーー」…ケンタウロスは地面に這い蹲り暴れている


「行くよ!!早く」


「あわわわ」



エルフは騎士と僧侶に近付くケンタウロスを弓矢でけん制していた


放った矢はケンタウロスの急所を的確にとらえ、それを嫌がったのか無暗に突撃はして来なくなった



「あと4体…ハッ!!そうだ!!ケンタウロスは冷気に弱い!!勇者!!冷気の魔法だ!!」


「氷結魔法!」ピシピシ


「地面だ!地面を凍らせればケンタウロスは走れない」


「魔女!!水魔法を頼む」


「水魔法!」ザバー ビチャ ビチャ


「氷結魔法!」ピシピシ カキーン



魔女と勇者の合わせ技は近くに川が流れて居た事もあり


大量の水を一気に凍らせ辺り一面氷で覆われた



「氷!!?うわわわわ…」ツルッ ドテーン


「うふふ~ツルツル~」


「これ走れないじゃないか…」


「這って行った方が良いカモ~」


「よし!ケンタウロスが逃げて行く」


「もう大丈夫かな?」


「馬を一頭失ってしまったのぅ」


「ケンタウロスは去ったと思うかい?」


「6匹中2匹もやられたらさすがに警戒する…しかもやられ方が酷い…一刀で両断してしまうとは…」


「この辺りは早く通り越したい…先を急ごう」


「その方が良い…馬1頭の被害で済んだのも運が良かった」


「散らばった荷を早く乗せてもう行こう」



荷の片付けが終わり次第一行は早々にその場所を離れた


馬車の幌は破れてしまって補修が必要だったがまず移動する事を優先した


戦利品で拾ったケンタウロスの弓矢と槍はとても良質でどちらもエルフが使うのに適していた



「エルフは槍を使えるのかい?」


「これは槍の先端だけ外して剣にするんだ…これほど大きな黒曜石は見た事が無い」


「ほう?黒曜石とな?」


「珍しい物なのかな?」


「そうだ…エンチャントして使えば魔剣になれる」


「へぇ?」


「丁度シカの角もあるから持ち手を作る事も出来る…騎士!馭者を変わってくれないか?」


「良いよ…」


「早速だが今から剣に作り替える…これが有れば俺も接近戦で戦える」


「そういえばエルフは接近戦用の武器を持って居なかったね」


「エルフは通常の鉄の武器を持たんのじゃよ」


「それでみんな弓を持ってるのか…」


「ねぇねぇ…弓のケンタウロスさんずっと付いて来る~」


「弓の射程の外だ…様子を見てるんだね」


「多分もう襲って来ない…あいつらもそんなに馬鹿じゃない」


「ただ…今日は寝られそうにないな」


「もう少し先に行けば馬を走らせれるだけの林になる筈…そこまで行けばもうすこしスピードアップできる」


「野営は出来そうかな?」


「無理だ…魔物を寄せ付けない工夫があれば良いが…」


「わたしできるよ~ウフフ」


「馬車を植物のツタで囲うだけではダメだ」


「わたしね~罠魔法のツタで編み物が出来るの~」


「家でも作る気かい?」


「出来るカモ~」






一行はケンタウロスの居るエリアを抜け馬車を走らせ易い林に差し掛かった


安全に野営できそうな場所を探してはみたが中々見つからず


切り立った崖を背に僧侶の罠魔法で陣地を作る事にした



ザワザワ シュルリ


僧侶は茨を編み物の様に絡め馬車の周囲を囲って行く


そしてそのまま崖の壁面に茨を寄り付かせ完全に囲ってしまった



「馬車も丸ごとツタの囲いに入れてしまうのか…」


「これどうやって外に出るんだい?」


「魔女の火魔法で燃やせば良いと思う~ウフフ」


「まぁ…とりあえず安全にはなるか…」


「さて…僕は馬車の修理でもするかな」


「何か手伝う~?」


「幌を縫い合わせたいんだ…蜘蛛の糸を結ってくれるかい?」


「おっけ~」


「俺は木の実でも探して来る…ちょうど新しく作った剣も切れ味を試したかった」



エルフは茨の囲いの一部をその剣で切り抜き足早にそこを出て行ったが


木の実を探しに行く前にすぐ引き返して来る



「あれ?どうかしたの?」


「ここはトロールの寝床だ…火を使わない様に忠告に戻った」


「トロールか…そうだ僧侶?魔女とエルフに回復魔法を…」


「は~い…銀のロザリオも持ってねぇ~…はい」


「何をするつもりじゃ?」


「呪いを解くの~ウフフ回復魔法!」


「俺もか?」


「うん!!回復魔法!」


「はて?何か変わったかのう?」


「これでトロールには襲われない」


「何故分かる?」


「エルフ…耳を澄ましてよく聴いて」


「僧侶…ちょっとそのロザリオを貸して?」


「うん…」



騎士は手渡されたロザリオを軽く指で弾く


リーン…



「何を感じる?」


「光か?」


「そう…君はこの銀のロザリオと僧侶の浄化の力で呪いが解かれたんだ…だからトロールには襲われない」


「ハッ…まてよ…本当だ…闇を感じない」


「勇者が勇者たるのはこの音のお陰なんだよ…勇者が持つ剣は振るたびにこの音が出る」


「騎士…それにいつから気付いていたんだ?…僕は知らなかった」…勇者が口を開く


「君の剣戟を聞いた時からさ…まぁ初めに教えてくれたのはエルフの娘という人なんだけどね」


「預言者の言っていた事はやっぱり本当だったのか…」


「だから言うておろう…わらわはずっと信じておった」


「この銀と…僧侶の浄化の力で魔王の呪いを祓いに行く…命の泉まで」



その夜…一行は軽く果物でお腹を膨らませ早めに休憩を取った




深夜


森は魔物が徘徊し森の声は騒がしくいろいろな音を運んで来る


ウルフの遠吠え…蝙蝠の羽音…そこかしこでザワザワとしていた



「お前も森の声を聞くんだな…」


「エルフほどには聞こえない」


「トロールが近くに来てる」


「知ってる」


「様子を伺ってる」


「明日の朝になればここの周りは大きな石だらけになる」


「トロールを味方に付けている…という解釈で良いのか?」


「それはエルフも同じでしょ?」


「俺の場合エルフの里から追放されて居て味方とは言えない…互いに関わらないだけだ」


「どうして追放を?」


「魔王が決めた戒律を守らないからだ…もう10年以上他のエルフ達は魔王の下僕に成り下がっている」


「なるほどね…ドラゴンも魔王の下僕になっていると聞いた」


「その通り…魔王は他人の記憶を操作するまやかしを得意とする…だから従うしか無いんだ」


「記憶の操作か…」


「さてそろそろ寝ろ…俺は眠らないからお前は休んで良い」


「そうさせてもらうよ…ありがとう」




翌朝


案の定トロールたちに囲まれ…安全だったのか危険なのか分からないが


何事も無く朝を迎える



「わお~大きな石がい~っぱいウフフ」


「驚いたな…」


「これは全部トロールかえ?」


「そうだ…俺達を一晩中監視してた」


「ねぇねぇ大きな石の上に乗ってる小鳥さんってさぁ?昼間のトロールさん?」


「そうだよ…」


「フフ…」



エルフはクスリと笑みをこぼす


それを見た騎士は間違いに気付いた



「あれ?違ったかい?」


「トロールは今寝て居る…鳥はトロールの恋人と言った方が表現が合う」


「なんだそうだったのか…そういうのは教えてくれないと分からないな」


「わざわざ教える事でも無い」


「さて…馬も食事が終わったし…そろそろ出発しようか」



---トロールの恋人が鳥だと聞いて---


---どうしてゴーレムが暴走を始めたのか理解出来た気がする---




一行は森に入ってもう2週間ほどになる


山場は過ぎ森の魔物に襲われる頻度も少なくなって来た



「森を抜けるまで後どれくらい掛かる?」


「1週間ぐらいか…」


「森を抜けた後は?」


「森は抜けないでそのまま北に進路を変えた方が良いと思うが…馬車の事を考えると一旦出た方が良いかも知れん」


「んん?森を出ると危ないとかな?」


「砂漠の方にはリザードマンが居るんだ…どの程度というのが正直分からない」


「まぁ森の切れ目を北上して様子見だね」


「その後は山岳地帯に入って行くがミノタウロスが要る筈」


「それも強敵だったね」


「人間を食らう牡牛だ…魔王の手下の中で一番凶暴だと聞く」


「魔王の手下…やっと魔王に近づいてる感じだな」


「それは倒していかないといけないね」…勇者が口を挟む


「倒せると思ってるのか?」


「フフそれは少し違う…倒さなきゃいけないと思ってる」


「そうだよ…倒せるか?ではなくて倒すつもりだ」


「ねぇねぇ~魔王って今何処にいるのかなぁ?」


「砂漠の南の果てに港町があって半年前に魔王に占拠された…今は多分そこに居る」


「砂漠の南の果て?」


「始めて聞くね?場所的に中立の国の所かな~?」


「よし…この先どうするか見えて来た…命の泉のあとは南の果てを目指そう」




”心の中で声がする


”商人ならこう考えるだろう


”盗賊ならこんな気構えを持つ


”囚人なら落ち着いて考える


”女盗賊ならこう切り抜ける


”薬剤師が考えそうなこと


”海賊王の娘達の声


”そして義手と義足が僕を支えている事も


”それが僕を突き動かすモノ


”僕の心の部分

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