22.暴走

エルフの森南部


ここは北部の森と比較して深い森では無く


割と平坦な地形に木が生い茂り所々に草原もある


馬を走らせるには丁度良かった



パカラッ パカラッ



「まだ時間がある…馬に生きた牧草を食べさせる…少し休もう」


「船が長かったもんね~」


「どうどう…」グイ



手綱を引き馬を下りた


ブルル~ ガフ ガフ



「上には飛行船が付いて来てるかい?」


「うん!遠くで旋回してる~」


「エルフが急に襲ってくるかもしれないから一応気を付けておいて」


「精霊の加護をしてるから大丈夫~」


「会話しながらでも出来るんだ」


「心の中でお祈り中~」


「ここから東へ行けば森を抜けられる…馬の休憩が終わったら森を抜けよう」


「ウフフ食べてる食べてるぅ」



モシャモシャ ブルル~



「君も何か食べるかい?」


「いいの…食べると眠たくなっちゃう」


「なんか最近食欲無いのかい?」


「なんでかなぁ?お腹は空いてるのに喉を通らない感じ~赤ちゃん出来たかなぁ?」


「え!?」


「ウフフわたし騎士の赤ちゃん生みた~い」


「ハハ…まぁ全部終わってからだね」


「早く終わらせよ~う!毎日だっこするぞぉ~!!」



---僕が思い出した断片的な記憶では---


---そうはならないんだ---


---元気に振舞う君が愛おしいよ---


---どうにかして変えたい---






エルフの森の端


パカラッ パカラッ


森の切れ目を目指して馬が駆ける



「ハッ!!あれは…森が燃えている…どうして?」


「ねぇねぇ!!おかしいよ?あそこに居るのゴーレムだよ?」


「話が違う!!ゴーレムは半日後ろに居る筈じゃ…」


「早く行った方が良いカモ~」


「ハイヤ!」手綱を緩め常歩から速歩に速度を上げる



パカラッ パカラッ



「機械の国の小さい気球も沢山居る…森に火炎瓶を落としてるのか?」


「エルフは火が苦手って魔女が言ってた~」


「もしかして機械の国もエルフを攻撃してる…のか?」


「でもあのゴーレムってさぁ…なんかおっかしいな~」


「手当り次第に暴れてる感じだね」


「ねぇねぇ…もしかしてさぁ…船から離れると暴走するとか?」


「まさか…」



”ゴーレムは機械の国の船から遠くは離れない


”女海賊がそう言ってたな


”それは理由がある気がするんだ…理由?



「そういえば…ゴーレムは海岸線沿いをずっと移動してる」


「まさかのまさかカモ~」


「女海賊が撒いた網が裏目に出るかもしれない…」


「この状況ってさぁ~飛行船から見えるかなぁ?」


「見えてる筈…だけど森で暴れてるゴーレムは見えない」


「どうしよう…」 


「あのゴーレムだけ片付けてみる…どうなってるか確かめる」



騎士は馬を回頭させゴーレムの所へ向かった


パカラッ パカラッ




暴走するゴーレム


ゴスン ゴスン ギギー ドカン


そのゴーレムは鉄の鎧で身を固め手当たり次第に近くの木々をなぎ倒していた


手には巨大な大砲の様な物を持ちこちらを見つけるや否やそれを構えた



「オーーーーーン!!」…ゴーレムの咆哮と同時にその大砲が火を吹く



ゴゥ! ボボボボボ


騎士達は精霊の加護によりブレスを払いのけた



「ゴーレムの反応が早い!加護が無ければ直撃だった」


「こ…これどうするの?」


「僧侶!つかまって!ぶった切る!」ブン! ザクリ!!



騎士はそのままゴーレムへ突進し巨人の剣でその足を切断した


ゴーレムは片足を失いその場で倒れる…ドスーン!!



「どうだ!?止まったか?」


「ダメ!!片足が無くても這って来る~」


「これで馬並みに早いのか!!僧侶!ゴーレムを良く見て!」


「大きな兜の中に光る目が一つ、全身土色の鎧、あとはあとは…」アセアセ


「頭の位置は手が届きそうかい?」


「這ってるうちは届きそう~」


「折り返して交差するよ…しっかりつかまって」


「は~い!」ギュ



ゴーレムの這う速度は走らせる馬の速度と変わらないから距離は開かない


旋回して交差するのに余裕は無く一瞬で距離が詰まる


騎士はゴーレムの脇をすり抜けながらその首を切り落とす…ザクン!!



「オーーーーーン」ドサッ ゴロゴロゴロ


「どうだ!?」


「だめぇぇぇ!!まだ動いてるぅぅぅ!!」


「森を出る!!ハイヤ!!」



騎士は馬に合図し襲歩で距離を開けようとした


その馬は最高速で駆け抜ける



「ゴーレムさん早いよ~追いつかれるよ~」


「首無しでどうして追って来られる!!」


「ダメダメ追い付かれるぅ!!」


「森を抜ける!!光だ!!」


「早く早く!!」



パカラッ パカラッ



「よし!!太陽の光だ!!」


「あ!!!動かなくなった…」


「飛行船は上に…あれ?居ない!」


「森の上!!小さな気球と戦ってるみたい」


「まぁ良いや…このゴーレムを調べよう」





停止したゴーレム


ガチャン! バラバラ


騎士は巨人の剣でゴーレムをぶつ切りにしながらその鎧を剥ぎ取って行く



「なるほど…心臓を丸ごと機械の心臓に入れ替えてるんだ」


「取り出せる~?」


「ピカピカ光ってる…なんだこれは?」


「魔石と機械?」


「これは持って帰って調べてもらう…僧侶!煙玉で飛行船を呼んで!!」


「わかった~火魔法」ポ チリチリ もくもくもくもく


「森の方は気球が見えなくなったね…」


「気が付いてくれるかなぁ?」


「すぐ来ると思う…向こうにもゴーレムが見えた筈だから」


「ねぇねぇ…ゴーレムの中身ってトロールさんなんだよね?」


「そうだね…」


「夜になったら又動き出さないかなぁ?」


「どうかな?心臓が無くなっても良いのかどうか分からないよ」


「トロールさんっていつも肩に鳥が乗って居たんだけど…」


「うん…」


「居ないね?」


「鳥…そうか鳥もトロールの一部なのか…鳥を捕らえてると言う事も考えられるな」


「籠に入れられちゃってるのかなぁ?」


「多分その鳥もエルフの娘と同じ様に捕らわれの身なんだ…だから人間に敵対する」


「なんか全部人間が悪い事してるね」


「それが魔王の掛けた呪いだよ…憎悪に支配されてる」


「あ!!飛行船がこっちに来る~」


「よし!君は周囲を警戒してて?」


「は~い!!」



飛行船は真っ直ぐこちらへ降りて来た


フワフワ ドッスン



「見てたよ…どうしてゴーレムが?」


「まずコレを…ゴーレムの心臓に入ってた」


「心臓を機械に入れ替えてるのか…予想した通りだ」


「森を飛んでた小さな気球は?」


「あぁ…あれは追い払った…弓を一発当てるだけで逃げて行ったよ」


「そうか…話が随分違って驚いた」


「ゴーレムは他にも居そうかい?」


「見たのはこの一体だけ…どうも機械の国の船から離れると暴走してる様だよ」


「暴走だって!?このゴーレムは暴走してたのかい?」


「所かまわず暴れ回ってた…そして足が馬より速い」


「じゃぁ森が燃えてるのはもうゴーレムが一部来てるって事だね?」


「うん…暴走したゴーレムが暴れまわってる可能性がある」


「これはちょっと作戦を考え直さないと…僕は一回海賊船に戻る!」


「僕達はこのまま始まりの国を目指しても良いのかな?」


「う~ん…見失っちゃうかも知れないなぁ…」


「これを持っていけ…煙玉と閃光玉だ」ドサドサ


「あぁ…夜に閃光玉を使って貰えれば直ぐに居場所が分かる」


「分かったよ…」


「何個あるの~?」


「20個づつだ…定期的に閃光玉で知らせろ」


「じゃぁ僕達は北に向かって始まりの国を目指す」


「待って!!この魔石も持って行って…魔女が遠視魔法を使えるかもしれない」


「遠視魔法?」


「その魔石は遠視の効果が有るらしい…君の目を通じて魔女が様子を見る事が出来る」


「わかった…日が落ちる前に森から少し離れたい…もう行くよ」


「うん…気を付けて」




こうして騎士達2人は森を抜け草原を行くことになった…




その頃…


始まりの国城門では執政と女隊長が揉めていた



「衛兵隊長!なぜ衛兵を出撃させん?」


「衛兵は国を守るのが責務であります。衛兵が城を空けては国王様をお守りする事は出来ませぬ」


「今はエルフと戦である…」


「お言葉ですがエルフが森を出て始まりの国を侵略に来るとは思えませぬ」


「衛兵隊長は上官の意向に背くと言うのか?」


「エルフとの関係をこじらせたのは執政殿であります。エルフの森の侵略を止めれば戦は終わります」


「衛兵隊長の任を解くと言えば良いか?」


「私は衛兵隊長としての責務を果たしており解任される覚えはありませぬ」


「では只今を持って…」



女隊長はその言葉を遮り口を荒らげた



「それを職権乱用と言うのです…精鋭兵!!これより発言を書記せよ!!」


「ハッ!!」


「ぐぬぬ…」


「執政殿管轄の海兵及び空兵は下げた方が良いと思われます…陸での行動は慣れておりませぬ」


「キマイラは只今をもって我が管轄とする…」


「精鋭兵!!今の発言を国王様に報告しろ!!」


「ハッ!!」


「ふっふっふ…すでに承認済みの話…我が息子が育てたキマイラは息子が動かす」


「くっ…執政!エルフをすべて焼き払うつもりか!?」


「口の聞き方に注意した方が良い…衛兵隊長…立場をわきまえよ」


「……」ギリリと奥歯を噛む


「衛兵隊長はおとなしく城で見ているが良い…もう歩兵は不要であると思い知る」


「それは国王様の御意向か?」


「国王様はすでにご老体…王子と我が息子がこれからこの国を采配するのだ」


「王子はまだ子供では無いか!!ハッ!!まさか国王に毒を盛ったな!?」


「ふっふっふ冤罪を擦り付ける気か?証拠も無いのに下手な事を口にするな」


「ぐぬぬ…」---この国は滅ぶ---


「精々城の警備でもしていろ…ふっふっふ…はっはっは…」





衛兵宿舎


ツカツカツカ


女隊長が無言で歩くその姿は他の衛兵から見れば機嫌が悪い時のそれだった


何か言われまいと皆下を向く



「衛兵!!駿馬を用意しろ!!」


「ハッ!!隊長はどこか行かれるのでありますか?」


「戦地を直接見て来る…すぐに戻る!!」


「私たちは待機で良いのでしょうか?」


「市民を避難させる準備をしておけ…避難先は港町だ」


「え!!?そんなに深刻な戦況でしょうか?」


「事態が急変する可能性があるだけだ!黙って準備を進めろ」


「ハッ!!駿馬は城門前に準備しておきます!」


「着替えて来る」





城門前


ヒヒ~ン ブルル~



「馬の足は速いですが全速力で長い距離は走らないで下さい…戻って来られなくなります」


「この馬だとエルフの森の国境までどれくらいだ?」


「2時間で行けます」


「早いな」


「恐らく国で一番早い馬だと思います」


「ご苦労だった…任務へ戻れ」


「ハッ!…でも待ってください」


「何だ?まだ何かあるか?」


「その…兜を装着を願います」


「少し戦地を見るだけだが?」


「いえ…エルフの放つ矢は的確に頭部を狙って来ます」


「フン!」


「どうかご無事に戻って頂きたいのであります!」


「分かった…助言は聞こう」


「ありがたく!!」


「では行って来る!兜は持って行くぞ?」


「喜んで!!」



パカラッ パカラッ


その駿馬は他の軍馬の3倍は速かった


女隊長は国境に向かい馬を走らせる





エルフの森国境


ゴゴゴゴゴ


森の至る所で火の手が上がりもうもうと煙が立ち上がっていた


その上空を小型の気球がいくつも飛んで居る



”どういう事だ?機械の国の気球だと?


”森を焼き過ぎだ!!何をしているんだ!!


”エルフは見当たらない…何と戦ってる?


”自軍は下がり始めてるか?


”エルフに押されてるのか?


”ハッ!!黒い騎士の一騎掛け…何者だ?



森に入っていた兵隊達は後退しようとしていた


後方に控えるベースキャンプに一度戻るつもりなのだろう


定石を無視したその隊列を見て女隊長は苛立ちを募らせる



オーーーーーーン


女隊長はその聞いた事の無い咆哮を耳にしてそちらを伺う



”巨人?1…2…3…いや森の中にまだ居る


”もしやアレは機械の国のゴーレムという奴か?


”なんでこんな所に…なんだアレは!ゴーレムの足が速い!!


”まずい自軍に追いつく



ゴゥ ボボボボボ


ゴーレムの持つ大砲が火を吹く



”大砲からブレス!!?


”黒い騎士が…単騎で立ち向かっていると言うか!


”ハッ!!エルフもゴーレムに弓を…


”自軍は下がる一方か


”まさかあれは…ゴーレムの暴走なのか?


”くぅ…キマイラの出撃は免れんか


”しかし何故機械の国が絡んでくる…


”また執政が裏で手を引いているな…あの愚か者め


”急いで戻らねば!!…夜までには城へ到達しそうだ



パカラッ パカラッ




単騎掛け


騎士達は戦場の真っ只中に到着していた


既にそこにも暴走したゴーレムが暴れ回り…エルフと人間の戦いは大混乱となっていた



「見つけた!!」


「兵隊さんあぶな~い」


「あれは追いつかれる…ゴーレム3体か?」


「森の中にもっと居るみた~い」


「足止めする!!」


「気をつけてね~精霊の加護もゴーレムに捕まえられたらダメカモ~」


「くそう!日暮れが近い」


「太陽の光がなくなるとゴーレムさん手を付けられなくなる~?」


「森に住むトロールも動き出してしまう」


「え?トロールさんも?」


「トロール…いやゴーレムも夜は倒すことが出来ない」


「まずいカモ~」


「つかまって!!」


「は~い」 ギュ



オーーーーーーーン


ゴゥ ボボボボボボ


ゴーレムの放つブレスを跳ね除け騎士は巨人の剣で叩き切りまくる… ザクン! ザクン! グサリ!


でもそれはゴーレムにとって致命傷では無かった



「だめぇ~つかまるよぅぅぅぅ」


「3体同時は無理か…森まで釣る」


「ゴーレムさん速いよぅ」


「火の海をくぐる!精霊の加護を!」


「精霊の加護!」



燃え盛る炎を潜りゴーレムの追随を引き離す



「見てぇ~エルフさんが他のゴーレムと戦ってる~」


「1体だな!?援護する」



騎士はゴーレムの背後から切り込みその四肢をすべて切り落とした



「ゴーレムさん手足全部無くなっても動いてる…」


「元はトロールだから…また生えてくる筈」


「あ!!エルフさんがわたしたちに弓を向けてるよぅ」


「エルフ達!!僕はエルフのオーブを持っている!!」



そのエルフ達は顔を見合わせている



「直にゴーレムの大軍が来る!!ここは少し引いた方が良い!!」


「お前は仲間か?」


「始まりの国の人間達は後退している!!一旦引いて夜明けを待て!!」


「……」…エルフ達は雰囲気で会話している様だ


「あのゴーレム達の中身はトロールだ…夜は手が付けられない」


「トロールは我々の味方の筈」


「心臓が入れ替えられている…元のトロールの心は持っていない」


「そんな事が…まさか…」


「早く戻って体制を整えるんだ!!日が昇れば勝機は有る!!」


「お前は名を何と言う?」


「騎士だ!エルフの長老と魔女の仲間だ」


「覚えておく!ここは下がる!川を越えて火を逃れる…全員来い!!」



エルフ達は音を立てる事無くその気配を消した


その数は20名程度…対する人間はその10倍も20倍も居た筈


そこに暴走したゴーレムが入り込みこの有様だ



「ああぁぁ…暗くなって来たよぅ…」


「僧侶!!今日最後の煙玉を!!」


「は~い!火魔法!」ポ チリチリ もくもくもくもく


「僕達は一旦この森から逃れる…始まりの国方面へ向かう!!」



パカラッ パカラッ





岩場


騎士達は四方が岩に囲まれた窪みに身を隠した


上空で旋回しているであろう飛行船へ現在地を知らせる為に閃光玉を使う



パシュ! ピカーーーーー



「今日はここで野営しよう…ここなら閃光玉の光も上からじゃないと見えなさそうだ」


「足元がゴツゴツしてる~」


「仕方が無いよここは岩場だから…風を避けてる分まだ良い」


「火は起こさなくて良いの?」


「火が無いと寒くて休めないね…君に熾せるかい?」


「オッケ~任せて~」


「じゃぁ僕は寝床を作る…」ジャラリ


「だめぇ!!鎖で繋いでるから騎士も一緒にやるの~」


「あぁ…まいったな…」


「火魔法!フーフー」メラ パチ


「慣れたもんだね」


「うふふのふ~」


「じゃぁ次に草と木を少し集めないと…」


「ねぇねぇ…向こうの空が赤く光ってる」


「森が燃えている…」


「恐くなってきた~今日もだっこして寝るね~」


「その方が暖かいね」


「あのね?わたし孤児だったんだ…寒い夜もだっこして寝ると暖かいの」


「分かるよ…僕も孤児だった…教会で孤児同士寄り集まって寝るんだ」


「うん…その感じ…こうやってだっこしてると他に何も要らないって思えて安心するの」


「確かにそうだな…星空の下で凍えそうな時も…こうしてるとそれで良いって思ってたな」


「幸せなんだね?」


「そうだね…今のこの瞬間がとても幸せなんだ」


「そうやって凍えて死んでいく子も一杯見たよ…良かったのかな?」


「どうかな?そんな世界にはしたくないけど…」


「あ~騎士の腕の中あったか~いウフフ」


「そうかい?寝ても良いんだよ?」


「うん…なんか安心したら眠たくなった」



2人は小さな焚火で温まりながらつかの間の休息を取った…




真夜中


ドーン ドーン


遠くで鳴り響く大砲の音…



「ハッ!!」ガバッ!



騎士はその音で目を覚ました



「まだ日が昇って居ないのに大砲の音…なにか起きてる!」


「むにゃ~もっとする~?いいよ~」


「僧侶!寝ぼけてる場合じゃない!…もう行こう」


「ほえ?」キョロ キョロ


「大砲の音がした!戦いが始まってる…」


「まってぇ~」


「ホラ肩を!」


「ごめんねぇ~ウフフ」



ヒヒ~ン ブルル


馬も大砲の音で少し興奮している様だ


騎士達は馬に乗り岩場を後にした


月明かりで何も見えないと言う事は無い


暗闇の向こうに薄っすらと見える始まりの国から大砲を撃つ火薬の光が見えた


ドーン ドーン!!



「こんな夜中に大砲を撃って当たる訳無い…」


「ゴーレムさんに襲われてるのかなぁ?」


「それしか考えられないね…いつの間に僕達を追い越しちゃってるんだよ」


「なんか早すぎる気がするなぁ…」


「急ごう!」



パカラッ パカラッ




始まりの国付近


大砲の音はその後何度も聞こえた


でもゴーレムの姿は見当たらない



「くそう!暗くて様子が見えない」


「閃光玉使って見る~?」


「お願い!!出来るだけ上に放り投げて」


「火魔法!」ポ チリチリ


「投げて!!」


「え~い!!」ポイッ ピカーーーーーーー



閃光が辺りを照らす


城壁に人影が動くのが見えた



「始まりの国は攻城兵器を出してる…」


「大きな弓みたいのがそうなの~?」


「大砲とバリスタだ…奥に投石機もありそうだ…大砲で掘りを作ってんだ」



ドーン ドーン ドーン ドーン



「なるほど堀でゴーレムの足を封じるつもりなんだ…」


「ゴーレムさんは見えなかったよー」


「見えてるともう遅い…始まりの国はもうゴーレムに備えてるんだよ」


「商人達は飛行船で上に居るかなぁ?」


「さっきの閃光玉が見えてると良いけどね」


「衛兵さん達にも見えちゃってるよね~?」


「多分…ハッ!!空から火炎瓶が降り始めた」


「みて~火だるまのゴーレムさん?が見える~」


「そうか!!トロールの回復力を封じるには火で炙り続けないといけないんだ…だから森に火を…」


「火だるまのゴーレムさん走ってくる~」


「アレを倒してみる」



騎士は馬を回頭させて火だるまのゴーレムに切りかかる


そのゴーレムは動きが鈍かった



「オーーーーーーン」…咆哮をあげるゴーレムは大砲を持って居ない


「やっぱり火で弱ってる」


「でもまだ動いてるよ~」


「回復力を封じてるだけだ…倒すには至ってない」


「どうすれば倒せるのかなぁ?」


「心臓の機械を壊せば良さそうだけど…懐まで入ると捕まってしまう」


「太陽の光が無いとダメかなぁ…」


「くそう!!夜明けまで長い…」


「ねぇねぇ…向こうの方!!火だるまのゴーレムさんがいっぱい出てくる~」


「え!!?まさかさっきの咆哮は仲間を呼んだ…のか?」



ピカー チュドーーーーーーン


一閃の光が突き抜け当たるものすべて巻き込み大爆発が起きる



「うわぁ!!何だ!?」ドサーー ヒヒ~ン



爆発に驚いたのか馬が暴れ騎士たちは落馬した…



「あわわわ」


「僧侶!!大丈夫か!?」


「わたしは平気~お馬さんは?」


「あそこだ!!驚いて逃げてる…追いかけよう」


「今のゴーレムさん何処行ったかなぁ?」


「バラバラだ…キマイラのブレスが直撃したんだ!!」


「はぁはぁ…お馬さん待ってぇ~」


「大丈夫!…あの馬は肝が据わっている…すぐに止まるよ」



ピカー チュドーーーーーーン


ピカー チュドーーーーーーン



その光は強大な威力を発揮し地平線の彼方にあるいくつもの山と森を簡単に吹き飛ばした


巻き上げられた業火の炎は辺りを赤く染め…次第にキノコ雲を形成して行く


あまりに強大過ぎるそのエネルギーを目の当たりにし…誰もが世界の滅びを予感した



「よし!!乗れる!!僧侶つかまって!!」


「うん…」



騎士は僧侶を片腕に抱き馬に飛び乗った



「よしよし落ち着いて居るな?最後まで頼むよ!ハイヤ!!」…騎士は馬を落ち着かせ走らせる


「森が燃えてる…怖いよぅ…」


「僧侶!精霊の加護をお願い」


「うん…精霊の加護!」


「ダメだ…キマイラのブレスの狙いが定まっていない…このままじゃ森が燃えるだけだ」


「火だるまのゴーレムさんがどんどん出て来る…」


「いや…ゴーレムは攻撃される方向を目指して彷徨ってるだけだ…今ので方向が定まったんだ」


「キマイラさんは何処~?」


「丘の上!!あそこの岩場だ…行こう!!」



パカラッ パカラッ




岩場の影


ピカー チュドーーーーーン



「フハハハハ燃やせ燃やせぇ」


「直撃しないとゴーレムを止められません!!」


「しっかり狙って撃てぇ」


「しかし…拘束具が邪魔で可動範囲に限りが…」


「数を撃てぇ!!このキマイラは永久機関だハハハハ」


「ヴォオオオオオオオオ」



ピカー チュドーーーーーーン


狙いの定まらないキマイラのブレスはいたずらに周囲を破壊して行く



「フハハハ圧倒的な火力じゃないかハハハ」


「手足を失ってもゴーレムは向かって来ます!!」


「直撃させれば問題無い!!撃て撃てぇ!!他の首も開放しろぉ!!」


「3つ首で稼動するのですか!?」


「そうだ!!すべて焼き払え!!地獄のいかずちを食らえぇぇ!!」



そこに大剣を携え巨大な馬に乗った騎士が現れた



「だ…誰か来ます!!黒い騎士?…報告にあった黒騎士だと思われます!!」


「そんなのが居る話は聞いていないぞ?構わず焼き払え!!」


「ハッ!!」



兵隊達は慌ててキマイラの拘束具を外し他の首も解放した


自由になったその首は口元から溶岩の様な液体がしたたり落ちている


僧侶はその様子を見ていた…



「ハッ…キマイラさんの首が動いた」


「ブレスが来る!!」



ゴゥ ボボボボボボボ


その首はドラゴンと同様に灼熱の炎を吐く


直撃を避けた騎士はキマイラを回り込みながら様子を伺う




「アイツは!!?魔王島に居た奴だ…うぐぐぐ…ハァハァ」---憎悪が湧いてくる---


「え?え?え?」


「僧侶…回復魔法を…く…れ」…騎士は怒りで我を忘れそうになっていた


「回復魔法!」


「ハァハァ…」


「どうしたの~?」


「アイツはエルフの娘を辱めた奴だ…腹から憎悪が湧いてくる…」


「わたしが癒してあげる~回復魔法!」


「エルフの娘を助けないと…」



ゴゥ ボボボボボボボ


3つの首を解放されたキマイラのブレスは休むことなく騎士が乗る馬を追い続けた


そのキマイラは接近戦でも圧倒的な火力を持っていた



「くぅぅ…近づけない」


「ねぇ見てあそこ!!…隊長だよ?」


「え!?」



拘束したキマイラの背後に女隊長と数名の兵隊が接近していた


馬で走り回る騎士に気を取られ誰も女隊長達が近づいて居るのに気付かなかったのだ



シュン! グサ!!


女隊長は何も言わず弓矢をその男に向かって放った



「ぐぁ…だ、誰だ!!」


「そこまでだ!執政の息子め!キマイラは衛兵隊で管理する!」


「フハハハこんな事をしてタダで済むと思っているのか?」


「残念だがお前の父上は私が殺した…お前も私に命乞いをするか?」


「なに!?反逆者だ!!捕えろ!!」


「……」



兵隊達は黙ってその行く末を見ている



「無駄だ!執政の息子!私は兵からの信頼が厚い…反逆者はお前だ」


「こっちには王子が付いている!!兵隊共!!私の言う事が聞けないのか!!」


「王子を薬漬けにしたのはお前の父の仕業だ…国を乗っ取ろうとする反逆者め!」


「殿下を薬漬けに!!?」…兵隊達はその話を聞き動揺している


「フハハハキマイラは私の物だ…私の言う事しか聞かない」


「黙れ!」女隊長は再度弓矢を放つ シュン グサ!


「ぐあ!!くぅぅ…キマイラを使わないとゴーレムは防げない」


「もっとマシな命乞いをしろ」ギリリ シュン グサ!


「うぐぅ…フフフハハハ…拘束具を解放する」



執政の息子は何かの器具を動かした


どう連動しているのか分からないが拘束具を固定していた金具が抜けキマイラは自由になった



「お前…何を…」


「こ、これでキマイラは自由だ…防いでみろフハハハハハ」



ヴォオオオオオオオオ ドス ドス


拘束具が外れたキマイラは咆哮を揚げながら進撃を始める



「兵隊共!!全員下がれ!!夜明け前に全市民を避難させる!!」


「は、はい!!キ、キマイラは?」


「こうなっては手が付けられない!!被害が拡大する前に避難だ!!」



パカラッ ブルル~ ガフガフ


ブレスが止み進撃を始めたキマイラに騎士は近づいた



「エルフの娘…助けに来た!」


「待て!!お前達は誰だ?それに近付くな!!」


「隊長~~キマイラさんの事は任せて~~」


「何!?その声はまさか…何故その黒騎士と共に…」


「選ばれた勇者と…私は隊長の部下の僧侶~」


「聖戦士では無く僧侶だと?…それに選ばれた勇者?…どういう事だ!!」


「詳しい話はまた今度~今は避難した方が良いと思うの~」


「待て!!お前達はキマイラを知って居るのか?」


「うん!全部知ってる~隊長が海賊王の娘って事も~」


「馬鹿な…」


「隊長の妹さんの女海賊も仲間だよ?」


「お前達はキマイラを処理しに来たと言うのか?」



ゴゥ ボボボボボボボ


キマイラは近付く騎士達に灼熱の炎を吐いた


しかし精霊の加護によりその炎は散らばり周囲を焼く



「くそう!!暴走を始めた!!兵隊共!!早く戻れ!!」


「必ずキマイラは森へ返す!!ゴーレムはバリスタで心臓を貫けば止まる筈…だから凌いで!」


「心臓だな!?」


「心臓に入ってる機械を壊せば良い」


「ゴーレムは海を越えれないからどうしてもダメな時は船で辺境の村まで逃げて~」


「わかった!!キマイラを頼む!!行くぞぉ!!兵隊!!」



女隊長は兵隊を引き連れ城の有る方向へ走り去った


そして執政はただ一人残される



「フハハハ無駄むだぁ…私のキマイラは止められる訳…」



ジャキリ!!


騎士は巨人の剣を執政の息子へ向ける



「私を殺してもキマイラは止められん…止めれるのは私だけだぁ」


「騎士!!やめて~!!」


「すまない…どうしても許せない」


「だめぇぇぇぇ!!そんな事してもエルフの娘は帰って来ないの!!」


「くぅぅぅ…」…奥歯を噛みしめる


「フハハハ分かったぞ…あの時ゴミを大事そうに持って帰った負け犬だな?」


「騎士ぃ…キマイラさん行っちゃうよ~」


「どうだ?私の研究の成果は…すばらしいだろう?世界を征服する力だ」


「そんな人放っておいて早く行こ~」



ヴォオオオオオオオオ 


ピカー チュドーーーーーーン


キマイラが吠え…宙に向かって光るブレスを振り回し始めた



「エ、エルフの娘…」


「騎士ぃ!!早く止めよう!!」



騎士は馬を翻し執政の息子に背を向けキマイラの下へ駆け出した



「フハハハハハ…アーハハハハハ」




進撃のキマイラ


キマイラは成獣に進化を遂げていたがその肉体は歩く度に削げ落ち…又再生し…


歩んだその跡には大量の肉片と血が残されていた


肉片はグツグツと沸騰しむせかえる様な蒸気を発生させる



ピカー チュドーーーーーーン



「次々機械の国の気球が落とされて行く…」


「キマイラさんに追いつける~?」


「僧侶!近づいたらキマイラに回復魔法を!我を忘れてる…」


「わかった~もうすこし近づいて~」


「エルフの娘!!森へ帰ろう!!」…騎士はキマイラと並走して叫んだ


「ヴォオオオオオオオ」ピカー チュドーーーーン


「ダメだ…止まらない…」


「回復魔法!」


「エルフの娘!!迎えに来たんだ!!森へ帰ろう!!」



ヴォオオオオオオオオ ドス ドス


ピカー チュドーーーーーーン



「すご過ぎる…森が…無くなって行く」…僧侶は間近にブレスのエネルギーを見てその深刻さに気付いた


「エルフの娘を止めないと…世界が破滅する」


「どうするの~?」


「キマイラの前に回る!!」



騎士は強引にキマイラの進行方向へ回る



「エルフの娘~!!止まってくれぇ!!」


「ヴォオオオオオオ」ゴゥ ボボボボボボ



灼熱のブレスが騎士達を包み込む



「いやぁ!精霊の加護!」


「くぅ…エルフの娘!!目を覚ましてくれぇぇぇ」


「騎士ぃ!!エルフのオーブを!!」


「エルフの娘!!このエルフのオーブを聞いてくれ…森へ帰ろう!!」



ヴォオオオオオオオオ ドス ドス


キマイラにそのオーブを聞く能力は既に失われていた…もうエルフでは無い



「ダメ…聞いてくれない」


「助けに来たんだ…一緒に森へ行こう…もう森を破壊するのは止めよう」


「ヴォオオオオオ」ゴゥ ボボボボボボ



灼熱のブレスは精霊の加護で守られていたとしても


周囲に散らばった炎の熱でじわじわと身を焼かれる



「いやぁぁぁぁ…熱い…」


「くそぅ…止められないのか…僕は君に止めなんか刺したく無い…目を覚ましてくれぇ!!」


「怒りで我を忘れてる?もしかして…憎悪?」


「ハッ!!僧侶!!銀のロザリオを貸して!!」---そうだ僕は銀のアクセサリーで救われたんだ---


「え?え?…これ?」


「エルフの娘!!僕だ!!この音を聞いてくれぇ!!」



騎士は銀のロザリオを指で弾き音を鳴らす


その音には聖なる力が宿っていた…ミスリル銀の音色が鳴り響く


リーン…



「思い出してくれぇ!!僕はこの音の意味が分かった!!」


「これは君が教えてくれたんだ…憎悪を祓う唯一の方法だ」



キマイラはその歩みを止める



「止まった?」


「ヴォーーーーーン」


「泣き声も変わってる…」


「もう殺し合いは十分だ!!森へ帰ろう!!」


「キマイラの目から血が流れてくるぅ~回復魔法!回復魔法!回復魔法!」



僧侶の掛けた回復魔法はキマイラの心を優しく癒して行く


グツグツと煮えたぎっていたキマイラの肉体は徐々に温度を下げ


流している血の涙は騎士達に降り注ぎ全身を赤く染めた



「ヴォーーーーーン」…その泣き声はひどく心を打つ


「さぁ帰ろう…君を森に還す約束だ…付いて来れるね?」


「ふぇ~ん…エルフの娘が可哀そう…うぇ~ん」


「行こう…」




---キマイラは一度も足を休める事は無かった---


---振り向く事も無く---


---ゆっくり森の中を進む---


---僕もその後をひたすら着いて行く---


---それが僕達の会話だった---





飛行船


商人達の飛行船は光るブレスを逃れる為キマイラの真上に位置していた


真下を直接目視する事が出来ないから魔女の使う遠視魔法が頼りだった



「キマイラのブレスが治まった…魔女?見えるかい?」


「ううぅぅぅ…あれがエルフの娘かえ?」…魔女は目を潤ませている


「僕達にも見えるかな?」


「わらわの目に映っておる筈じゃ」


「移動してる?森に帰ろうとしてるのかな?」


「そうじゃ…エルフの娘は我を取り戻し森へ帰ろうとしておる…」


「ゴーレムはどうなってる!?」


「それは見える…バラバラになっても這って進もうとしているな」


「もうすぐ夜明けだね…海賊船に戻って次の手を打とう!太陽が出てる内に人を避難させないと!」


「わかった…海賊船に戻る」


「それにしても…エルフの森南部はもうダメかな…被害が甚大過ぎる所じゃ無い」


「火災が酷すぎるようだ…上昇気流であの上はもう飛べん」


「わらわが雨乞いをしてやろう」


「そんな事が出来るの?」


「強い魔力が必要じゃ…勇者と共にやれば上手く行くじゃろうて」


「手伝うよ…どうすれば良い?」


「わらわに手を合わせよ…主の魔力を借りるぞよ?」



その日…魔女の雨ごいの甲斐が有ってか次第に天候が悪くなり雨が降り注いだ


しかし燃え盛る森の炎をそう簡単に消す事は出来ない


その後数日はくすぶる事となる…


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