21.不穏

砂漠の町


ガヤガヤ ガヤガヤ


何処からか商隊が入って来たのか砂漠に似合わない格好の者が町をうろついていた



「どうしたってんだ…えらく賑わってんな」


「様子がおかしいわね…私は聞き込みしてから後で商人ギルドの地下に行くわ」


「おう!頼む…俺達は先に行こう」


「砂漠の町に似合わない格好の人がいっぱ~い」


「お祭りか何かな?」


「いや…こんな時期に祭りは聞いたことが無い…そんな事より商人が心配だ」


「そうだね~早く行こう~」





商人ギルド地下


そこでは薬剤師が商人の看病をし囚人は帳簿を眺めていた



「帰ったぞ!どうだ?商人の具合は?」


「ハッ!!癒し苔は集まった?」


「いっぱいあるよ~♪ウフフ」


「頂戴!今から薬を作るわ」



薬剤師は荷物を受け取り癒し苔をすり鉢に入れ何かと調合を始めた



「具合は良くねぇのか?」


「一度も目を覚ましていない」


「呼吸は…してるな」


「すぅ…すぅ…」


「心臓も今は安定している」


「これじゃ栄養がとれんな…目を覚まさん事には…」


「女海賊達は~?」


「中立の国を経由して海賊船に行くと言って慌てて出て行った」


「何かあったのか?」


「中立の国から市民が避難してきている」


「それで人が多いのか…」


「何かあったのかなぁ?」


「機械の国のゴーレムが大軍で駐留しているらしい」


「なんだとう!?」


「それに合わせてリザードマンとドラゴンも来ている」


「おいおい!大変な事になってるじゃねぇか!!」


「だから女海賊は偵察に行った…すぐ戻るとも言っていたが…」



薬剤師は薬の調合を終えた様だ



「薬が出来たわ…飲ませるの手伝って」


「は~い」


「わたしが首を押さえるから僧侶はゆっくり口の中に入れて」


「うん…」チョロチョロ


「んぐ…んぐ…」


「お薬ってこれだけ?」


「それで全部…沢山あっても少ししか抽出出来ないの」


「そっかぁ…効くと良いね~」


「そうね」



「わらわと勇者は少し町に出てくるぞよ」


「おぉそうだな…飛行船が長かったからな…気分転換して来い」


「いいないいな~」


「勇者!気をつけろよ?」


「あ…うん…町を散策したら戻ってくる」


「わらわは勇者と一緒に町で買い物をするのが夢じゃった」


「ぬはは…じゃぁ金貨も持って行け!」ジャラリ


「それには及ばぬ…少しの金貨で良いのじゃ」


「そうか…まぁ楽しんで来い」






情報収集に出ていた女盗賊が戻って来た



「中立の国の王が急病で亡くなったそうよ」


「急病?まさか暗殺じゃねぇだろうな?」


「そのまさかの線が強そう…今は王子が統治してるけど政治には弱いみたい」


「なんだって急に…」


「始まりの国の情報が中立の国にリークしてるって話は前に聞いたことがあったわ」


「お前は誰がリークしてたか知ってるのか?」


「私の調べでは始まりの国の執政…黒い噂が絶えない」


「ん~む…暗殺された線がやっぱり強いな」


「機械の国は中立の国と友好だからゴーレムが駐留する形になって居るのは納得ね」


「始まりの国次第だが場合によっちゃ戦争になりかねんな…」


「中立の国はドラゴンを退けるだけの戦力を持ってるのかしら?」


「いや…あそこは武力を持たない国だ…今はゴーレム頼りだろうな」


「そのゴーレムはどれくらいの火力を?」


「1体で6匹の子ドラゴンと互角に戦える…」


「え!!?そんなのが100体以上も?ウソでしょ?」


「俺はこの目で見た」


「信じられない…それなら半分の50体でも始まりの国と戦争出来るわね」


「ところがだ…始まりの国のキマイラはもっとすげぇ」


「魔女騒動の時の?」


「そうだ…3分で中立の国の城をバラバラに出来る…いや…消す事が出来る」


「汗が出てきた…」


「とにかく破壊力が半端無え…一瞬でドカーンだ」




翌日


バタバタバタ


薬剤師が慌てた様子で来た



「商人が目を覚ましたの!!」


「本当か!?」


「誰か食事をお願いできる?」


「わたしが作ってあげよ~か~?ウフフ」


「お前はダメだ…女盗賊できるか?」


「流動食で良いのかしら?」


「うん。お願い!!他の人はまだ商人を刺激する事は言わないでね?」


「わかってる!今話しできるか?」


「うん。色々聞きたがってる」


「おい!騎士!行くぞ」





商人の寝室


ガチャリ バタン!


「やぁ…どれくらい経ったのかな?」


「まぁ1週間って所か…具合はどうだ?」


「お腹が減ってるよ…動くのがしんどいさ」


「今女盗賊が食事を作ってくれてる…少し待て」


「夢を見たんだ…僕は始めて良い夢を見たよ」


「ほう…どんな夢だ?」


「走ってる夢さ…ほら…僕は走ったことが無いから」


「気持ちよかったか?」


「最高だったよ…思いっきり走っても苦しくないんだ」


「まぁ…走ると疲れるがなヌハハ」


「あと海の夢も見たんだ」


「海?」


「海が太陽できらめくんだよ…眩しくて目が開けられない…そんな夢さ」


「それは直に正夢になる」


「どういう事だい?」


「命の泉の呪いが解けてから光できらめく水が湧くようになった」


「本当かい!?見たかったな」


「心配するな…呪いは解けた」


「良かった…きらめく海を見るまで僕は死ねないなぁハハハ」


「んむ…薬剤師が不老長寿の薬を作ってお前に飲ませた…しばらくは大丈夫だろう」


「そうか…生かされてるのか…ありがたい」


「まぁ今は体力を付けないとな」


「そうだね…がんばるよ」



商人は騎士と僧侶に向き直った



「騎士…君には感謝しないといけないね」


「僕に?」


「正直僕は勇者じゃないと魔槍は抜けないと思っていたんだ…君が抜くのは予想外だったよ」


「ヌハハそうだな…まさか自分の手足の骨が折れるまでやるとはな」


「ドラゴンは力では抜けないと言ってたんだよ」


「それを無理やり抜いた訳だ」


「君は魔王を超える力を持っているのかも知れないね」


「わたしも手伝ったの忘れてないかなぁ?」


「ハハそうだったね…僧侶の力かもしれないね」


「まぁ結果オーライだな」


「ねぇねぇ商人が読んでた古文書なんだけどさぁ…」


「ん?何かあったかい?」


「ほらほら~?ここの項見て~」パラパラと古文書をめくる


「精霊と魔王の項かい?」


「うん!精霊さんって女神様なの?」


「女神というか見た目は女性だね…ここの項に書いてあるのは精霊と魔王の戦いの事さ」


「戦いがあったんだぁ~」


「精霊は魔王に封印されたと書いてるよ」


「へぇ~…じゃぁ勇者はどうして精霊の声が聞こえるのかなぁ?」


「さぁね?でも封印された先は夢幻の世界となってるからソコから話しかけるのかもね」


「夢幻?…夢…幻…」…騎士は夢幻の言葉を聞き眉をひそめ遠くを眺めた


「ハハこの世界だと思っているのかい?考えすぎだよ…今僕達はここに居る…今が現実さ」


「んむ…俺は俺だ!現実に違いない」




---気になったのは夢幻に閉じ込められた精霊の事---


---その声はどうして心の中で聞こえるんだ?---





数日後


商人は徐々に軽快しいつまでも横になって居るのが苦痛な様だ



「ほっ…」スタッ


「おい!もう起き上がって良いのか?」


「少し元気が出てきたんだ…落ち着かなくてね」


「薬剤師!!良いのか!?」


「少しなら良いと思う…体を動かした方が血の巡りも良いし…」


「バーベキューが食べたいなぁ」


「ん~む…外は暑いぞ?俺達がバーベキューになっちまう」


「ハハやっぱり地下は快適だねぇ」


「汗をかくのは心臓に負担だから控えめにして欲しい…」


「そういえば女海賊を見ないなぁ…どうしてるんだい?」


「あのアバズレは海賊船に一回戻ると言って出て行った…もうすぐ戻る筈だが」



ガチャリ!!ドタドタ


慌ただしく女海賊が入って来た



「はぁはぁ…大変!!」女海賊は肩で息をするほど急いで来た様だ


「女海賊待て!!商人はまだ体調が悪い…こっちに来い」


「そんな事言ってる場合じゃ…」


「良いから来い!!」盗賊に腕を引っ張られる


「ちょちょちょ!!」



「盗賊待って!!何か隠してるね?」


「んあぁ…」


「僕の体調は気にしなくて良いよ…話して」



盗賊は女海賊の腕を離しバチンとお尻を叩いた



「ってぇな!何すんだよ!!」


「うるせぇ!おら商人が話聞きたがってんだ…話してやれ」


「言われなくてもわかってんよ!!始まりの国がエルフと戦争始めちゃってんのさ」


「あぁなるほどね…」


「ほんで中立の国に駐留してたゴーレム達が移動してて森の向かってんだって」


「ゴーレム!?ちょっと待って!!どういう事だい?初めから話して欲しい」



終わりの国に来てたゴーレムの大軍は制圧した後に中立の国へ向かったんだよ


程なくして中立の国の国王が暗殺されて混乱の中ゴーレム達が到着して駐留する形になった


それと同時にドラゴンとリザードマンが中立の国を襲撃するようになって難民が大量発生


その間始まりの国ではエルフとの関係が悪化して戦争状態になって


機械の国のゴーレム達は今そこに向かおうとしてんの


始まりの国から見るとエルフの他にゴーレムも乗じてる様に見えちゃってんのさ



「最悪のシナリオじゃないか…キマイラが動き始める」


「海賊達は今難民を辺境の村に移送するのに手一杯」


「くそう!!」バンッ


「商人!落ち着いてくれ…」


「わかっているよ…どうするか少し考えたいかな」



話を聞いていた騎士が口を開く



「僕に考えがある…」


「騎士…何か良い方法が?」


「キマイラを…エルフの娘を森へ返す」


「そんな事が出来るのかい?」


「エルフのオーブを使えば言う事を聞くかもしれない…元はエルフの娘だ」


「成功する自信は?」


「自信は無い…でもエルフの娘を森へ返す気構えは持っている」


「気構えって…」


「約束したんだ…森へ返してあげるって」


「言う事を聞かなかったら?」


「僕が責任を持って止めを刺す」


「君に出来るかい?エルフの娘に止めを刺すなんて君には出来ないと思うな」


「エルフの娘を守れなかったのは僕だ…責任は取る」


「わかった…それで行こう…君にとっていづれ通る道なんだね」


「ありがとう…」



騎士の覚悟を聞いた僧侶は胸から出て来るモヤモヤした気持ちを抑える為に


銀のロザリオを握りしめてうつ向いていた



「よし!まず海賊王の船に行こう!ここから2~3日だよね?」


「パパの船まではわたしが案内する!」


「ゴーレムの移動速度からすると始まりの国まで…どのくらい掛かるかな?」


「エルフの森を直接横断してるから今日から数えて10日くらいじゃね?」


「ギリギリ間に合う感じか…」


「てかこっから直接始まりの国に行った方が良いんじゃね?」


「騎士には馬が必要だよ…海賊王の船には騎士の馬が乗ってる」


「そんなん始まりの国で買えば良いじゃん!」


「今は戦争中だよ…まともな馬が買える訳ない」


「キィィィィィいらいらする!!」


「それと君達をむやみに危険に晒す訳にも行かないよ」


「何言ってんのさ!?わたしは行くよ?」


「君はまだキマイラを見たことが無いよね…飛行船なんか一発で落とされる」


「そんな空飛んでる相手にそうそう何か出来ないって」


「ダメだよ…君はこれからリーダーになる人間だと言う事を忘れないで欲しい」


「え!!?わたしがリーダー?」


「僕達にも海賊達にも…それから難民達にも君が必要さ」


「わたしの美貌の事言ってんならまぁ合ってるけどさ…」


「僕の勘は結構当たる…君は世界を動かすキーマンになる…そういうカリスマ的な物を持っているよ」


「ムフフ…あんた分かってんね?おっぱい触らしてやるよ」


「商人!アバズレをあんまおだてんな」


「アハハまぁおだててる訳じゃ無いんだけどね」


「ちょ!!アバズレって何さ!!」


「ほんじゃケツデカのメスガキでどうよ?」


「まぁまぁここで言い争ってる場合じゃない…準備して早く行こう」






飛行船


「忘れ物は無いな!?」


「乗った!」


「よし!行くぞ」



ボボボボボボ フワフワ


異形の飛行船が2基同時に飛び立つ光景は


それを見上げる人にとって何処かの組織が動いて居る様に見える


今の世界の状況も相まって噂されるのは魔王軍が動いて居ると言う事


そうやって世界はどんどん悪い方向へ転がって行く




「やっぱり上から見ると随分人が避難してきてるね」


「中立の国からだと船に乗れなかった奴は砂漠の町に来るしかないだろ」


「女海賊から聞いたけどドラゴンじゃゴーレムに歯が立たないって…」


「だろうな?ゴーレム1体とドラゴン6匹で互角だ…俺も見た事が有る」


「ブレスと爪だけじゃ攻めきれないのか…」


「ゴーレムの着てる鎧を引っ剥がせば太陽の光で石になるんだがな」


「中身はトロールかぁ…鎧に穴を開けられればなぁ」


「鉄の鎧はそうそう穴開かん」


「硫黄があれば鉄を溶かす薬を作れるわ?」


「本当かい?」


「とても危険な薬…ほとんどの金属を溶かしてしまう」


「硫黄か!?心当たりがある…辺境の村の裏山は火山だ…硫黄も少し見かけた」


「よし!海賊達に取ってきてもらおう」




中立の国の上空で…


「見ろ!ドラゴンが飛び回っている」


「どこどこ~?」


「下だ!!この望遠鏡を使え」ポイ


「うふふのふ~ドレドレ」


「馬鹿!!反対だ」


「えへへ~…ドラゴンさん中立の国に近づけないみた~い」


「ゴーレムは見えるか?」


「わお~大きな大砲持ってる~…あ!!港に大きな船が居るよ~」


「ちょちょちょ…見せて」



商人は望遠鏡を受け取り覗き込む



「どう~?」


「ゴーレムをどうやって操ってるんだ?操作してる人が見当たらない」


「そういえばそうだな」


「ゴーレムの頭の部分に人が入ってるのかな?…いやそんなスペースがあるように見えない」


「まてよ…そういえば機械の国の兵隊なんか見た事無いな」


「船の方にも人影が見えないなぁ…自律で動いてるのかな?」


「ん~む」


「まったく動かないゴーレムも居る…本当にロボットみたいだ」


「しかし兵隊が見当たらんのは不気味だ…」


「もし頭部だけ交換出来るとしたら?…義手の様に」


「まぁ不可能では無さそうだが…」


「石になってる間に頭部だけ交換…簡単そうじゃないか?」


「捕まえて分解してみっか?」


「出来ればそうしたいね…でも不思議だ」





海の上空で…


騎士は真っ黒な海を眺めていた


寄りそう僧侶が小声で話しかける



(ねぇ騎士?)


(うん?どうしたんだい?)


(あのね?魔女には内緒の事なんだけど…)


(何だろう?)


(女海賊さんが隠れて泣いてる所見たの)


(え?それが…どうして?)


(多分なんだけど…勇者と魔女が一緒に居るのにヤキモチ焼いてるんだと思う)


(あぁ…そういう関係だったのかな)


(わたしもエルフの娘にヤキモチするから…なんか分かる)


(僕の場合そういう関係では無いけどね)


(違うの…わたしの入れない特別な繋がりに心がモヤモヤしてる…)


(君と僕はもっと特別だと思う)


(ウフフ嬉しい…でもね?女海賊さんもそういう気持ち抱えててツライんだと思う)


(君は優しいね…)


(だから女海賊さんに辛く当たらない様にみんなに伝えて欲しい)


(わかった…気にかけておく)


(だっこして良い?)


(おいで…)



---騎士が耳を澄ませる向こう側にエルフの娘が要る---


---どうしてもこのモヤモヤが消えて無くならない---


---もっとぎゅっとだっこして---


---わたしを置いて行かないで---





海賊船



「おーし!!見つけた!!良い位置に居るな」


「海はまだきらめいていない…」


「もうしばらくかかるんじゃねぇか?」


「お!?盗賊!!女海賊の飛行船がどいたよ」


「よし!着陸する」



女海賊の飛行船は例の如くロープ一本で空中をフワフワ浮いて居る


そのロープの上を女海賊は怖がる素振りも無く器用にも伝って降りて行った



「うほーアイツ無茶苦茶だな…」


「なんかここから見てると子供みたいでかわいらしいね」


「子供はあんな綱渡りしないだろ」


「何て言うんだろうな…ひた向きな感じだよ」


「あんまアイツに言うなよ?調子に乗っちまうから」



盗賊が操作する飛行船は船尾楼の上に着陸した


フワフワ ドッスン



「降りて良いぞぉ!!」


「よう来たなぁ!!疲れたやろ…ちっと休んでいけや」


「海賊王…いつもすまないね」


「かまんかまん」


「今の状況はどうなってるのかな?」


「機械の国の船が陸沿いで始まりの国の方向へ動いてるわ」


「陸の方はどうなってるか分かる?」


「ここに来る前に見えんかったんか?」


「エルフの森を横断してるらしいけど上からは見えなかったね」


「わいは陸の方はよう分からんな…娘の方が詳しいわ」


「ゴーレムは機械の国の船から遠くは離れないっぽいよ」


「と言う事は機械の国の船が目印になるんだね」


「多分ね」


「この海賊船で先回りするのは出来るかな?」


「それは出来るが…危のうないか?」


「先回りして騎士達だけ降ろしたい」


「パパお願い!」


「しゃーないなぁ…お前等ぁ!!進路変更や!!港町方面へ全速力や!!」


「へ~い!!」




居室


一行は狭い飛行船で体を十分に動かせなかった環境から解放されて


各々がリフレッシュした後に居室に集まり始めて居た


そこで軽く今後の事を話し合う



「僕も騎士達と一緒に行きたい…」


「勇者…今君を失う訳に行かないんだ」


「役に立てるかも知れない」


「だめだよ…騎士と僧侶の組み合わせは精霊の加護が出来る…だから行けるかも知れないというだけなんだ」


「精霊の加護…」


「それが無いと戦争の真っ只中には行かせられないよ…多分ゴーレムとキマイラのど真ん中に行く事になる」


「俺達はどうする?」


「僕と囚人だけで上空から騎士達を見守る…あとの人は海賊船に残って」


「なにぃ!?俺ら留守番だってか…」


「囚人は飛行船を動かせるよね?」


「もちろんだ」


「わたしも行く」…名乗り出る薬剤師


「君は…」


「わたしが居ないと商人は生きられないわ?」


「わかった…薬剤師は僕の命をお願い」


「俺達は待って居れば良いのか?」


「僕が不在の間は女海賊がリーダーさ」


「ななななんだと~う!!」


「女海賊には後の作戦を話しておく」


「ぐぬぬ」


「大丈夫だよ…彼女は見た目よりずっと考えてるよ…心配ないさ」




船長室


女海賊は勇者と魔女から距離を置くため居室へ入ろうとはしなかった


だから商人の作戦は別途個別で聞く形になっている


商人は女海賊に今後の事を話した



「そういう事さ…分かったね?」


「わたしにそんな忙しい事やらせる訳?」


「君の言う事はなんだかんだ皆聞くだろう?」


「まぁそうだけどさぁ…」


「ハハまぁ君の好きなようにして良いよ…でも勇者だけは守って」


「それは私等ドワーフの宿命さ…わかってるよ…言われた通り騎士達が戻るまで絶対祈りの指輪を使わせない」


「それで良い」


「わたしはわたしのやり方で動くかんね?」


「自信があればそれでも構わないよ…ただ」


「何さ?」


「命を粗末にはしないで」


「そんな事分かってるって!」


「君はね?勇者に何か思い入れがあるよね?」


「なななな何も無いよ…」


「ハハ分かりやすいね君…死んでも勇者は守ると顔に書いてある」


「うっさいな!大事な約束全部忘れちゃうあんなバカ知らない!!」


「へぇ?君も色々あるんだね…まぁ兎に角君には生きて貰わないと困る」


「だからそんな無茶しないって!」


「信じるよ…そして必ず世界を救おう」


「ハイハイ分かったからもう出て行って!!疲れてんだから寝る!」


「じゃぁ…良い夢が見れると良いね」


「うっせー出てけ!!」



ガチャリ バタン


商人は船長室を後にした



---大事な約束か---


---わざわざ聞きはしなかったけれど---


---どうやら切ない事情がありそうだ---


---200年越しの愛に割り込めない訳か---




翌日


早々に女海賊の飛行船は飛んで行った



「おい!商人!女海賊にどんな指示をしたんだ?」


「機械の国の船の足止めさ」


「足止め?」


「その他にも色々とやることを説明しておいた」


「足止めなんかどうやってやる」


「網だよ‥機械の国の船はスクリューと言う物を回して進むらしい」


「それに引っ掛けるのか?」


「そうだね…女海賊の指揮で機械の国の進行方向に大量の網を撒いておくんだ」


「それでさっき飛んで行ったのか」


「ゴーレムは機械の国の船から遠くは離れないと行ったよね?」


「女海賊がそう言ってたな」


「それは理由がある気がするんだ…船が止まればゴーレムも止まるかもしれない」


「なるほど…他にはどんな指示を?」


「僕達が行った後の行動さ…僕達が戻った場合…戻らなかった場合…いろいろだよ」


「信用して良いんだな?」


「ハハハ大丈夫さ…今のも実は彼女のアイデアだよ」


「ふむ…」




船首にて…


騎士は海の向こうを見ていた



「ねぇ騎士?エルフの娘とお話しているの?」


「ん?違うよ…海の声を聞いていただけだよ」


「なんか胸がくるしいよぅ」


「あ…ごめん…」


「え!?どうして謝るの?悪いのはわたしの方なのに」


「違うんだ…そういうのじゃないんだ」


「お願い話して…わたし寝られないかも」


「エルフの娘とは空気を使って会話が出来たんだ」


「知ってる…」


「そう…言葉意外に仕草や小さな音を使って表現するんだ…エルフ特有の表現方法だよ」


「うん…そんな風に通じ合ってるのも知ってる」


「恋とかそういう気持ちじゃないよ…エルフとは心を通わせる事が出来るんだ」


「私も騎士と通じ合いたいよぅ…グスン」


「でも僕は見てしまった…目の前でエルフの娘が心臓を取り出され…血を一滴残らず抜かれ…」


「え?え?え?海葬されたって…」


「頭を割って脳と骨髄をキマイラに移植する所を…エルフの娘はその時…抜け殻になった」


「そ、そんな事が…」


「アイツはエルフの娘の亡骸を役に立たないゴミだと言った…そういう風にしたのはアイツなのに」


「知らなかった…」


「心が通じたエルフの娘はもう動くことは無い…泣かない…笑わない…どうしても許せないんだ」


「ごめんね…わたしが馬鹿だった」


「僕はエルフの娘を森へ返すと約束した…彼女はそれに空気の会話で答えてくれた」


「貝殻…」


「他にももっと沢山の事を教わったよ…だからこだわっているんだ…必ず森へ返す」


「ぅぅ…うぇ~ん…わたし…騎士の心の中で…そんな風になれないよぅ…」


「泣かないで…約束したよね?全部の事が終わったら…君と一緒になるって」


「うん…グスン」


「一緒にエルフの娘を森に返そう」


「うん…がんばる」


「ありがとう…おいで…だっこしてあげる」




とある漁村


接岸出来そうな海岸を探していた海賊王は


桟橋のある小さな漁村を見つけ船を走らせた



「接岸するぞぉぉ!!」


「騎士!僧侶!降りる準備を…」


「もう出来てる」


「ここは機械の国の船の半日前方やぁ!!お前等が降りたら即離岸する!!」


「僕達は騎士達を上空で見守るよ」


「煙玉と閃光玉の準備もオッケ~」


「何かあったらソレを使って教えて」


「は~い」


「海賊船に残った人は女海賊の指示に従ってね」


「分かってる!!」



ガコン! グラグラ


船体が桟橋に当たって踏板が置かれた



「騎士!!早よう降りろぉ!!」


「じゃぁ行って来る」



グイ パカパカ


手綱を引き慎重に馬を降ろす



「気をつけて!!上手くいったら僕達もエルフの長老の所へ向かうよ」


「必ずエルフの娘を連れて帰る」


「はよ行けえええ!!」



騎士と僧侶は馬に乗り海賊船を離れた



パカ パカ パカラッ パカラッ



向かう先は始まりの国…


2人はあの時の様に森の中へ消えて行った

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