20.解呪

海賊船


フワフワ ドッスン


「アバズレ娘の飛行船はなかなか器用な事するな…」


「僕達の飛行船がが降りられる様にしてくれてるんじゃないかい?」


「まぁ…そうなんだろうがロープ切れたら飛んでっちまうぞ?」


「ハハそんなこと気にする子に見えないよ」


「アレに乗る時はどうするつもりな訳よ?」


「ロープを伝って行くしか無いよね」


「落ちたら海だぜ?」


「それも考えて無いんじゃないかい?あの子は…」


「ヌハハさすが海賊王の娘だな」


「僕はその心臓がうらやましいよ」





甲板


そこでは女海賊が勇者に噛みついていた



「あんたさぁ…こっちは心配してたんだよ!?」


「いや…ええと…」


「行くなら行くって言ってくれないとわたしも面子ってもんがあんだよ」


「君は…僕の事を知っているの…かな?」


「ちょ…あんた又記憶無くなっちゃってんの?…マジか…」」


「又?…ごめん覚えて居無いんだ」


「あんたさぁ!!私との約束も忘れちゃってる訳?」


「まぁまぁ…女海賊さんおちついて~」…僧侶が間に入る


「あんたもあんたよ!!みんなしてイチャ付いて!!」


「よう!何揉めてんだ!?口うるさい女に絡まれてるのか?」


「カチン!!!盗賊も女盗賊と出来ちゃってるワケ?」


「ヌハハお前には関係無ぇだろ!ガキは黙ってろ」


「ムッカ!!」


「女海賊!お前は私が鍛えてやる」…囚人が割入る


「わたしはそんな暇無いの!」


「良いからこっちに来い」


「ちょちょ…何すんのさ!!腕引っ張んないで!!」


「今から飛行船の改造だ」


「はぁ?またわたしに力仕事させようってんの?」


「お前の経験が必要だ」


「わたしは忙しいの!あんた一人でやって!!」


「黙って付いて来い」


「ちょちょ!引っ張んないでって!!もう!!離してよ!!」





居室


「早速だけどちょっとやりたい事があるんだ…出来るだけ急ぎたい」


「明日の朝に命の泉に向かいたい」


「命の源に突き刺さってる魔槍を抜きたいんだ」


「確証は持てないんだけど勇者なら魔槍を抜けるかもしれない」


「あの魔槍を抜かない限りこの世界は呪いから解放されない」


「剣士、レンジャー、戦士はこれからどうしたい?」



「俺は任務があるから始まりの国へ戻らなくてはならない」


「剣士とレンジャーは?」


「僕は…」


「俺は決めた!女海賊に惚れた!…なぁ剣士も行くよな?」


「う~ん…構わないけど…前後関係が良く分からなくて」


「それは追々分かって来るよ」


「この海賊船はどこに向かってるんだ?」


「中立の国方面さ…途中で下船して始まりの国行きの民間船に乗れば戻れるよ」


「そうか…俺は戻って隊長に報告を…」


「そうだ!!隊長に返事をしておいて貰いたい…『例の件は了解した』ってね」


「わかった…お前達の事はどう話せば良い?」


「すべて隊長に話してから指示を貰って欲しい…良いね?」


「お前達は一体何者なんだ?」


「世界を救おうとする者達だよ…君の上官も同じさ…その下に居る君も同じ筈」


「敵では無いんだな?」


「そう信じてる」




翌朝


「俺らの飛行船には騎士、僧侶、勇者、魔女、商人、薬剤師が乗ってくれ」


「ほんで女海賊の飛行船には剣士、レンジャー、囚人、女盗賊…それから荷物を多めに積んで欲しい」


「夜は魔女の照明魔法を目印にして付いて来い」


「じゃぁ行くぞ!!」



一行は急ぎで命の泉へ戻る事となった


…と言うのも女海賊が勇者に対して騒ぎ立ててまともに話が出来ないから


勇者と女海賊を一旦引き離す目的もあった



「うお!上昇が早いな」


「女海賊の研究の成果だよ…縦帆2つだけで良いらしいよ」


「そりゃ楽になるな」


「球皮の後端にも羽を付けてるんだ…なぜか速度が増すらしい」


「あのアバズレ見かけによらずしっかり研究してるんだな」


「いや…けっこう賢いよ」


「ん~む目は悪くねぇのにわざわざ眼帯してる奴がか?」


「ハハあの眼帯には秘密があるんだってさ」


「なぬ!?」


「小さい穴が開いてて遠くが見えやすくなるらしい」


「マジか…」


「賢いだろう?」





飛行船


ビョーーーーウ バサバサ


改造した飛行船は今までも早く…風を受けたロープがヒョウヒョウと音を鳴らす


その音が速度を測る目安にもなっていた



「やっと少し落ち着いて話が出来るね…青い瞳の勇者」


「……」


「君の事が知りたいんだ」


「……」


「ハハまず僕達の事から話した方がよさそうだね…どこから話そうかな」


「僕から話す…僕はもともと選ばれた勇者として魔王を倒す旅に出たんだ」



騎士はこれまで起きた事を語り始めた


勇者はその話を軽くうなずきながら聞いていた


商人もその話に加わりながらこれから何をすべきかを話す…




「…という訳さ…ややこしいでしょ?」


「そんな中僕はこの世界が幻だという事に気が付いたんだ」


「勇者はどう思ってる?この世界を…」


「分からない…僕は昔の記憶が無い…ただ心の中なのか誰かの声は聞こえる」


「精霊の声なのかな?どんな風に聞こえるのかな?」


「耳を澄ませると何処からか声がする…心の中なのかも知れない…その声に導かれるんだ」


「導きねぇ…」



僕はいつの間にか…気が付いたら旅をしていた


その昔の記憶は無い


その声に導かれていつの間にかここに居る


声は常に『呪いを解く鍵を探せ』と語りかけていた…でもそれは人なのか物なのか分からなかった


そんな旅の最中僕は常に命を狙われ、彷徨いながら流れに流れて終わりの国まで来て


あなた達と出会った



「よく分からないな…君は本当に勇者なのかい?」


「今もその声は今ハッキリと聞こえる『魔王を探せ』と」


「魔王が何処に居るか知っているのかい?」


「知らない…でもあなた達と一緒に居ることは導きだと思っている」


「この世界に魔王は居ない…」騎士が会話を濁す


「でも200年前には居るんだ…きっと君はソコに行く事になる」


「それも魔王が掛けた呪いの一つだよ…この世界はループしているんだ」


「どうにかしてそれを断ち切りたいよね」


「ねぇねぇ勇者さん?記憶が無いのはいつからなの~?」


「え…良く分からないんだ」


「女海賊さんと一緒に魔王島に行った記憶も無いの?」


「覚えていない…」


「記憶を無くす呪いか何かあるのかもね…」


「一つ僕が分かるのは次元の交差…もう片方の次元の記憶は直に無くなって行くんだ」


「ええと良く分からない話だな…魔女は何か分からないかい?」


「次元の話は難しいぞよ?」


「例え話で分かりやすく説明出来ないかい?」


「ふむ…ではのぅ…お主が仮に100年前の時代に飛んだと仮定しよう…」



その100年前にはその時代の出来事が起きて居る


じゃがお主が何か変化を加えてしまうと元の時代でお主が生まれなくなる可能性があるのじゃ


その場合存在自体が無くなってしまうのじゃ


じゃがのう…歴史には強制力が働いておってそう簡単には変わらん様になって居る


それは記憶の喪失によって防がれるのじゃ


100年前に飛んだお主は次第に記憶を失いその時代の記憶と調和を始める


その時代の人になり切ってしまうのじゃよ…そうやって歴史が守られる物なのじゃ



「なるほど…次元を超える代償はそれまでの記憶を失うと言う事か…」


「つまり勇者は次元を超えて来たと言う事かな?」


「僕にその自覚は無い…覚えて居無いから」


「ふごーーーすぴーーー」…僧侶は難しい話で寝てしまった様だ


「アハハ僧侶はのん気だなぁ…」


「むぁ!!あぁぁごめんね~難しい話は苦手なのぉ…むにゃむにゃ」


「まぁこの話はもう終わりにしようか」



少し後…



「魔女は子供みたいに勇者に甘えてるね」


「魔女が魔女じゃないみたいだ」


「200年待ったんだ…そっとしておこう」


「ねぇねぇわたしも甘えて良いかなぁ~ねぇねぇ」


「ハッ!!…そうだ僧侶!君は精霊の声は聞いた事あるのかな?」


「ほぇ?精霊の声?ウフフ~わたしが精霊カモ~なんてね~」


「まじめに答えてよ」


「ん~~どうかなぁ…始めて命の泉に行った時は『呪いをどうやって解くんだろう?』って思ったけど?」


「思ったけど?」


「それって精霊の声だったのかなぁ?」


「ん~~~なんか違うね」


「今は『魔王は何処に居るのかな?』って思ってるけど…それも違う?」


「ん~~~それもなんか違うね…ほら声が聞こえるとか姿が見えるとか…」


「わたしはね~夢も見たこと無いの~」


「夢?」


「うん!寝たら一瞬で朝になる感じ~ウフフ」


「ハハハ良い体質だね」


「イビキだけは勘弁してくれ…俺が寝られん」


「ええええええ」




飛行船の窓


ビョーゥ バサ バサ


飛行船の高度はかなり高い位置を飛んで居た


下に広がる砂漠と向こうに見える森…


騎士はそれを眺めながら耳を澄ませている



「……」


「騎士?考え事かい?」


「風の音…声かな?…それを聞いてる」


「君は精霊の声は聞こえないのかい?」


「良く分からない…でも聞こえているのかもしれない」


「かもしれないって?」



勇者の言う『呪いを解く鍵を探せ』と


僧侶の言う『呪いをどうやって解くんだろう?』


これは同じ様な意味になる


勇者の『魔王を探せ』と


僧侶の『魔王は何処に居るのかな?』も同じ


耳を澄ませると風や水…あらゆる物から伝わって来るのは


それに似た感覚



「僕は幽閉されている間ずっと銀のアクセサリーを指で弾く音を聞いていたんだ」


「……」


「銀の音を聞くと不思議と心が安らいだ」


「今思えばそれは心の闇…『呪いを解く方法を探してた』と言い換えられる」


「それが精霊の声?僕にも聞こえるかな?」


「耳を澄ませるだけだよ…他に何も要らない」


「今は聞こえるかい?」


「風の音だけだよ…」


「なにか感じる物は?」


「空間を感じる…その中に僕は何かを探してる」


「なるほど…魔王を探してると言い換えられるのか…深いな」



---何か気になる---


---騎士も勇者も…僧侶の感じてる事と同じ事を声として聞いて居る様だ---


---もしかして知らずに声を発しているのは僧侶なんじゃ無いか?---





ヒューゥ バサバサ


飛行船は安定飛行に入ると何もやる事が無くなる


高高度で寒いのもあり皆毛皮に包まり火の魔石で暖を取る


操舵している盗賊だけは忙しそうに羅針盤で方位を確認し地図とにらめっこだ



「今から行く命の泉の事を古文書で調べたんだ」


「お?何か発見でもあったか?」


「まぁ…ベタな話だけど古文書によると200年前よりずっと前に魔王が命の泉を汚染したと書いてる」


「そこに刺さってる魔槍を抜けば良いのかい?」


「くそデカイ槍だぞ?囚人では抜けなかった」


「ドラゴンが言うには普通の人間には抜けないらしい」


「勇者なら抜けるっていう保障も無いな…無駄足にならなきゃ良いが」


「ドラゴンさんでも抜けなかったのかなぁ?」


「さぁね?…でも僕の勘は結構当たるんだよ」


「勇者!責任重大だな!ヌハハ」


「自信は無いよ…」


「ん~む…確かに騎士に比べると勇者は大分キャシャな体付きだな」


「ハハハそうだね…見るからに騎士の方が適任に見える」


「まぁ一人ずつ試してみるだな…意外とあのアバズレ娘が抜いたりするかもしれん」


「そうだね…なんかあの子は持ってる物が有ると思うよ」


「なんか勇者と魔女がくっついて怒ってるけど大丈夫かなぁ?」


「わらわと勇者はこうなる運命じゃ」


「いや…ええと…」


「記憶が無いのは仕方が無いと言うて居ろう…わらわを感じてみよ」


「ヌハハなんか勇者は嫌がって無えか?」


「なんだろう…懐かしい感じはする」


「それで良い…主が目覚めてくれれば良いのじゃ」


「目覚め?」


「それは主の問題じゃからわらわを感じで目覚めよ」


「何に目覚めるんだろう…勇者で有る事に目覚める?そういう事なんだろうか?」


「まぁあんま深く考えんな」


「あのね?女海賊さんの機嫌も治してあげてね?」


「あ…うん…正直誰なのか覚えて居無いんだよ」


「しかし…なんでだ?」



盗賊は後方に続く女海賊の飛行船を気にしている



「どうしたんだい?」


「どうも女海賊の飛行船の方が少し速い気がすんのよ」


「同じ様にしてる筈なんだけどね…なんでだろう?」


「違うのは派手さだけなんだがな…帆の張り角も見た感じ同じだ…」


「あっちはドラゴンに似せてウロコみたいな物を貼り付けてるよね」


「あんなもんじゃ速さは変わらんだろ」


「いや…そうでもないよ…魚は水中を早く泳げるじゃないか…それと同じかも」


「なぬ!!」


「本当…あの子はあなどれないね」


「おいおい…偶然だろ」




砂嵐地帯


ビョーーーーウ バサバサ


竜巻の影響で飛行が不安定になった



「ちぃと揺れるぜ」


「何か出来る事はあるかな?」


「そうだな…女海賊の飛行船が付いて来てるか見ておいてくれ」


「分かった」



「イチャイチャすんなあああああ!!」



「な、なんだ?」


「向こうの飛行船がすぐ真後ろに居る!!」


「どわ!マジか!!危ねぇだろ!!」


「わたしの奴隷1号!撃て!!」


「任せろ!!」



ギリリ シュン! ストン!


レンジャーは矢を放った



「うお!!あぶねぇ!!バカヤローこのケツデカがぁ!!当たったらどうすんだ!!」


「じゃね~ベロベロバー」


「この矢…ロープが付いてる」


「そういう事か!騎士!矢に付いてるロープを結んでおいてくれ」


「もうやってる」


「ハハハさすがだね女海賊…やり方が手際良い」


「おぉ…揺れが収まった…」


「船も連結すると揺れが小さくなるよね…多分女海賊の飛行船はこっちより少し速度落としてる」


「ロープを張って安定させてんのか…」


「きっとそうだ」


「んむむ…認めるしかねぇな…あのケツデカめ」





山頂付近


「はぁはぁ…」


「商人!ゆっくり意識的に大きく呼吸して」


「すーーはーーすーーはーー」


「やっぱり標高が高い所は心臓に良くないな」


「そんなに心臓が悪化してるのか…」


「ここに来るのはこれで最後にした方が良いと思う」


「もうすぐ山頂だ!」


「なんて高い山なんだ…まだ上に上がるのかな?」


「騎士はここに来るの始めてだったね~世界のすべてが見えそうな感じだよ~ウフフ」


「世界のすべてか…」


「命の泉の前に直接降りる!」



フワフワ ドッスン




命の泉


サラサラ…


聞こえるのはサラサラと流れる水の音だけ…


歩む足音を立てるの事に罪悪感を感じるくらいの静寂…



「ドラゴンさんは居ないね~」


「んむ…商人!俺が背負ってやる…来い!」ヨッコラ


「す、すまない」


「女海賊の飛行船も降りてきた~」


「あぁ…後から付いて来るだろう…俺達は先に行こう」


「なんて静かな所なんだ」


「足元気をつけてね~小さなお花が咲いてるの~ウフフ」


「あ!!癒し苔を摘んで行かないと…」


「え?このお花は癒し苔って言うの~?」


「癒し苔は不老長寿の薬が作れるの…」


「へ~?不老長寿ってなに~?」


「不老長寿と言っても寿命を少し長くするくらいの効果しか無いけれど…商人には良い薬になる」


「そりゃ良い!!少し貰って行ってもバチは当たらんだろ」


「うん!少し摘んで行くから先に行ってて」



サラサラサラ


流れ出る小さな川を登った先にその泉はある



「ここが命の泉?」


「そうさ…泉の真ん中に魔槍が突き立ってる筈…勇者!抜いて見て」


「やってみる…」


「わらわも一緒に行くぞよ」


「一緒にやろう」



ジャブジャブと2人は泉に刺さる魔槍の所まで来た



「これが魔槍ロンギヌスか…なんて大きな槍だ」


「行くぞよ?」


「むん…むんん…むんんん…くはぁ」



勇者は魔槍を引き抜こうとしたがピクリとも動かない



「だめかい?」


「抜けない…どうやって抜くんだろう?」


「くそう!!」…商人はバチャン!と水面を叩いた


「お、おい!暴れるなよ」


「すまない…僕の思い違いだったみたいだ…これで世界が救われると思った」


「まあそう言う事もある…気にすんな」


「くそう!!くそう!!くそう!!どうすれば良いんだ!!」バチャン!バチャン!


「落ち着け!!」


「はぁ…はぁ…ゲホッゲホッ」



騎士はその様子を見て名乗り出た



「僕がやってみる」


「わたしも手伝う~」


「僧侶には僕の腰を支えて欲しい」


「わかった~」


「……」---すべての力を出し切る---


「準備良いかなぁ?」


「スーーハーー…フンッ!!!」



ボコッ!!



「うお!!足がめり込んでやがる」


「んがあああああああ!!!!」



ズブズブ!!


騎士の両足が泉の中に沈んで行く



「あわわ…」僧侶は慌てて騎士の腰を支えた


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」



ボキボキ! バキ!


騎士の体から骨が砕ける音がした



「え?え?騎士ぃ!!骨が折れてるよぅ」



ズボォ!! ズズズズ…



「ぬ、抜けた…」


「僧侶!騎士に回復魔法を!手足の骨が折れてる」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「魔槍が灰になっていく…」サラサラ…


「騎士!!命の源の傷跡に銀を埋め込んで!!」


「銀?アクセサリーか」



リーン…



「それを魔槍が刺さっていた穴に!!」


「エルフの娘…君が残してくれた物で世界を救う!」…騎士は魔槍の刺さっていた穴にそれを詰め込んだ


「僧侶!命の源に回復魔法を!!」


「え?あ…うん!回復魔法!回復魔法!回復魔法!」



シーン…静寂



「な、なんか変わったか?」


「多分これで良い…僕達は魔王の呪いを解いた筈」


「きっとこれで世界は救わ…れる…さ」


「おい商人!!大丈夫か?…フラフラしてんぞ?」



ゆっくり倒れる商人を盗賊は抱きかかえた



「まずい…」


「横にしてあげた方が良いかも~」


「そ、そうだな…」


「薬剤師を呼んでくる」…勇者は駆け足で薬剤師の下へ走る


「呼吸が弱い!!どうすりゃ良いんだ!?」


「心臓は無事かなぁ?」


「だめだ!止まりそうだ…ちっと心臓マッサージすっから僧侶は回復魔法を頼む!」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」




そこへ女海賊の飛行船が命の泉へ着水した


フワフワ ザブ~ン



「やっと着いたぁ~ってあんた何やってんの?」


「おぉ!!良い所に来た!!お前の飛行船の荷物を俺の飛行船に積み替えてくれ!」


「何よ!!わたしは今着いたばかりなの!!」


「商人が倒れた…お前の飛行船で早く地上まで降ろして欲しい」


「ちょ!!?マジ?心臓止まってる?」


「止まりそうだ」


「大変!!そんなマッサージじゃダメ!!わたしがやるからあんたは荷物積み替えて!!」ニヤリ


「わ、わかった!!マッサージ頼む」


「お~い!!わたしの奴隷1号と2号!!荷物を降ろして!!」


「げげ…まただよ」


「あとでアソコ掃除させてやっから急いで!」


「は、はい!!今降ろします」


「あららららら…顔が真っ青じゃん」



タッタッタッタ


薬剤師が駆けつけて来た



「商人は!?」


「此処!!心臓マッサージやってる」


「息は有りそうね…まだ間に合う…マッサージ休まないでね」



薬剤師は懐から薬を取り出した



「何するつもり?」


「これは強心薬…もしもの時にだけ使うの!僧侶!!水をすくってきて!」


「は~い!!」


「少しづつ口の中へ…」


「おくちア~~ン」チョロチョロ


「うん!それで良い」


「アレレ~?お水が太陽の光でキラキラ光ってる~」


「本当ね…この泉の水は光でキラキラするのね」


「これマッサージ続けてて良いん?」グイグイ


「多分もう強心薬が効いて来てる筈…少し様子を見て」


「ふぅぅ結構しんどいな…」


「心臓は大丈夫みたい…意識が無いから呼吸が浅いのがダメね」


「人工呼吸が必要ね」


「ええええ!!私は嫌だよ…おい奴隷1号!!あんた荷物降ろし終わったね?」


「え?…はぁ…」


「商人に人工呼吸すんだってさ!あんたやって!!」


「えええええ!?」


「急いでんだよ!!今度アソコ舐めさせやっから早くやって!」


「はい!!」…レンジャーは見事に女海賊に調教されていた




数分後…


「よし!!荷物積み替え終わった!!騎士!!商人をゆっくり運んでくれ」


「わかった」ヨッコラ


「奥だ!風通しの良い所に寝かせてくれ!」


「商人の看護で私も女海賊の飛行船に乗るわ」


「女海賊!一番近い町は砂漠の町だ!急いで山を降りてソコへ向かってくれ」ポイ


「忙しいなぁ…ん?これ何?」パス


「商人ギルドの地下の鍵だ…裏に入り口がある」


「そこに運べば良い訳ね?」


「囚人も一緒に行ってやってくれ…俺達はあっちの飛行船で砂漠の町に向かう」


「わかった」


「じゃぁ後は頼む…」


「待って!!癒し苔をもう少し採ってきて欲しいの」


「任せろ!残った奴らで摘み取っておく」


「お~い!わたしの奴隷1号と2号も速く乗って~!!」


「はいーーー!!」


「あぁ…またこき使われる」


「全速力で行くよ!!縦帆開いて!!」



ゴゴゴゴゴ フワフワ


女海賊の飛行船では奴隷1号と2号が2枚の縦帆をそれぞれ張り替える


小回りさせる為には帆の操作が忙しい


奴隷1号のレンジャーはなんだかんだで女海賊の言いなりで2号の剣士は付き合わされている感じだ


女海賊は不思議と人を言いなりにさせる才能が有った



「行ったな…じゃぁ俺達は癒し苔を摘み取ってから戻るか」


「もう女盗賊が先に摘み行ってるよ~」


「そうか…俺に摘めるだろうか」


「盗賊さんはジャマになると思う~飛行船の準備でもしておいて~ウフフ」


「それならそれでも良いが…ん?命の泉がきらめいてる…水って本当は光を反射する物なのか?」


「どうかなぁ~?眩しいね~」


「呪いは解けたようだね?」


「でも世界中に広がるまで時間がかかりそうだね~」


「まぁ…これで商人の作戦は成功だな」


「そういえばさぁ…商人が取り乱すの始めて見たなぁ」


「アイツは自分の命がもう残り僅かなのを知ってるんだろ…だから失敗したくないんだ」


「呪いが解けて良かったね~」


「これで世界が救われると尚良いんだがな」


「まだやる事が残っている…」


「キマイラとゴーレムか…」


「急がないと」




飛行船


「ねぇねぇ砂漠の町までここからどの位?」


「3日って所だ…もしかすると2日かもな?」


「その間どうしよっかな~あ!!商人が読んでた古文書だぁ」


「お前に読めるのか?」


「試しに読んでみるね~ウフフ」


「どうせ暇だから解読できるならやって見ろ」


「僕にも見せて」


「一緒に見よ~」パラパラ



文字は読めないから挿絵だけ見るね~


この絵はエルフかな?


耳が長いから多分そうだね~


これは?精霊かな?


かなぁ?女神様?


こっちは魔王かな


槍を持ってるからそうかも~


この杖をついてるのは誰だろ?


誰かな?…文字が読めないと分からないね


だめだぁ眠たくなった…むにゃ

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