19.先回り

砂漠の町


「お!!?来た!!遅っそい!!もう」


「あ!女海賊さんみーっけウフフ」


「酒場に探しに行く手間が省けた」


「あんたら遅すぎなんだって!!わたしは待つのがキライなの!!」


「ねぇねぇ女海賊さんは大丈夫だったの~?」


「エルフの森の上をさぁ~王国の気球が飛びまわってるなんて聞いてなかったさ」


「あれ~??王国は気球を禁止してた筈だけどなぁ~」


「禁止してるのは始まりの国の上空だけでしょ!?」


「平気だったの~?」


「わたしの飛行船はあんな気球の10倍速いから大丈夫!」


「ねぇねぇ馬は乗せられるかなぁ?」


「それは無理…重すぎだし臭いのもダメ」


「あぁぁ…お馬さんが可哀そう…」


「てか僧侶!あんたも臭い!何日アソコ洗ってないのよ!」


「え!!?わたし臭い?」クンクン


「早く宿屋で綺麗にしてきて!じゃないと飛行船に乗せてあげない」


「う、うん…行って来る~」




飛行船


「ハイハイ!乗った乗ったぁ!!」


「うわぁ~飛行船に色塗ったの~?」


「あんた達があんまり遅いからわたし色に染めたの」


「これはトカゲを模擬しとるんかいのう?」


「トカゲじゃなくてドラゴンだって!!中はピンク色」


「目がチカチカするのぅ」


「良いから早く乗って!!人に見られると面倒臭いんだって…」


「は~い!!」



4人はど派手な飛行船に乗り込んだ


垂直に高度を上げる事は出来ないが風を受けてどんどん高度が上がる


安定飛行に入ってからも女海賊は地上の様子を気にしていた




「ええと…何処行っちゃったかなぁ…」


「え?どうかしたの?」


「あ!!居た居た…砂漠のリザードマンの動きが変なのさ…群れで移動してるみたい」


「砂漠の町は大丈夫かなぁ?」


「町まで来るかと思ったけど…違うみたい…どこに向かってるんだろ」


「見えるかい?」


「ほらあそこ…」


「南を目指してる…かな」


「中立の国は南の方角じゃろう?」


「そう!だから早く行かなくちゃいけないの」


「中立の国までは飛行船で2日くらい?」


「そんなもんかな」


「商隊で行くと20日くらい掛かるのにね~」


「飛行船は高度上げると超速いから」



数時間後…



「ねぇねぇ見て見て~ドラゴンさんの群れも南の方角に飛んでる~」


「ちょ!!?マジ?どこ?」


「下の方~」


「うっわ!!7匹居るネ」


「何かあるのかなぁ?」


「ちょい待ち…ええと方角は…中立の国の進路からは少しずれてるな…」


「ズレた先に何があるの~?」


「いや海なんだけど…なんかあるんかな…」


「その先は~?」


「ずっと先には機械の国?…ちょい遠いよ」


「何か動き出したかのぅ…」



その後飛行船から地上を見下ろし


リザードマンやドラゴンだけでは無くその他多くの魔物達が移動しているのが気になった


何かが起ころうとしている…





中立の国のとある倉庫


夜の闇に紛れて密かに飛行船はその倉庫に降りた


まさか誰か居るとは思って居なかったが


囚人が一人そこで作業をしていた



「はろはろ~」


「女海賊か…手伝って行け」


「また飛行船作ってんの?」


「お前に一基盗られたからもう一基作っている所だ」


「わたしは忙しいの!魔女を商人の所に連れて行かないと…」


「それは騎士と僧侶にまかせて良い…お前は残って手伝いだ」…そう言って腕を掴む


「ちょちょ…ちょっとぉ~」


「ウフフ~先行ってるね~」


「次の飛行船は縦帆だけで軽量化する…そっちを引っ張れ」


「あのね…わたしは忙しいって言ってんじゃん!」


「だまってヤレ」


「もう!!」


「お前ほど美人で出来る女は他に居ない…」


「ムフフ…もっかい言って?」


「お前ほど単純でバカな女は他に居ない…あぁ口が滑った」


「おい!!」




商人ギルド


「やぁ!無事に戻ってきたね…遅かったじゃないか」


「うん…色々あったの~」


「でも丁度良い時に戻ったね…魔女の愛しき人が中立の国に来てるらしい」


「なぬ!!?それは真か?…どこじゃ?」


「今盗賊と女盗賊が宿屋と船まで捜しに行ってる」


「おおぅ…やっと会えるか」


「終わりの国の調査に向かっているらしい」


「どうして~?」


「終わりの国が滅んだ噂が始まりの国まで届いたのさ…調査隊に入っているって話だよ」


「ここで待っておれば良いのか?」


「それがね…終わりの国まで海路で行くか陸路で行くのかが分かっていないんだよ」


「もし陸路で行く場合もう出発してしまった可能性もある」


「陸路だったらどうするの~?」


「ハハ心配しなくてももう考えてあるよ…それより…」


「ん??」


「中立の国はもう危ない…早くこの国を出たい」


「どういう事かなぁ~?」


「どうやら僕達は王国から指名手配されてるんだ」


「ええええええ??もう町を歩けない?」


「そうだね…特に君は特別指名手配で懸賞金が掛かって居るよ…まぁ女聖戦士なんだけどね」


「悪い事はして無いのになぁ…」


「想定はしていたさ…ドラゴンを導く魔王の手先だという容疑だよ」


「なんかショック…」


「まぁ目立った事はもう出来ない…だから先に秘密基地に行っておいて」


「わかった~」




秘密基地


…といっても飛行船を作っている倉庫の近くにある小屋だ


女海賊は文句を言いながらも囚人を手伝い忙しそうにして居た



「早よう愛しき人に会いたいのぅ…」


「もうすぐだね?わたしは数年騎士に会えないだけで辛かった…」


「分かるぞよ?」


「エルフの娘にヤキモチしてるのも辛かった…でも会えた瞬間全部忘れたの」


「忘れるとな?」


「辛かった事全部報われるの…魔女もきっと報われるよ」


「ほうか…わらわはのぅ…もう一度会うて何がしたいのか本当は分からんのじゃ」


「それって…ただ会いたい…愛しいっていう気持ち?」


「そうじゃ…その後どうなりたいと言うのが無いのじゃ…何故じゃろうのぅ…」


「なんか不思議だね?」


「うむ…もう一度会うてわらわを感じて欲しいというだけじゃな…不思議なもんじゃ」



ガチャリ バタン


商人が一人秘密基地に戻って来た



「あれ?まだ盗賊達は戻って来てないかな?」


「戻ってないよ~」


「じゃぁ先に…魔女に見てもらいたい物があるんだ…コレさ」…商人は魔女に例の地図を手渡した


「何の地図かいの?」


「謎の文字が書いて有るよね?魔女なら分かるんじゃ無いかと思ってね」


「これは魔族が使う文字じゃな…わらわは読めんがの」


「読める人を知らないかい?」


「エルフの長老なら読めるやもしれん…一応魔族じゃ」


「魔女はこの地図が何か想像つくかい?」


「はて?何じゃろうか?」


「僕は魔王が残した予言の書だと思ってるんだけど…内容が分からなくてね」


「そういえばさぁ~複製されたものが各王国にあるって商人言ってなかったっけ~?」


「そうだね…翻訳された物も各王国にあると思うよ」


「それなら終わりの国に探しに行った方が早いカモ~」


「ハハその通りだよ…それを今から言おうとしてたんだ」



ガチャリ ドタン! バタン!


慌てた様子で盗賊と女盗賊が戻って来た



「ハァハァ…帰ったぜ」


「ダメね…ハァハァ例の人は船には乗ってないわ」


「どうしたんだい?息を切らして」


「もう自由に動き回れねぇ…俺達の顔は全員バレてんぞ?」


「そうか…もう潮時だね」


「早くここを離れた方が良い…この秘密基地がバレるのも時間の問題だ」


「物資は海賊船に積み終わったかな?」


「それは終わってる…どうする?」


「本物の勇者が海路じゃ無いとすると飛行船で移動する方が良いね」


「囚人が組み立ててる奴はもう動くんか?」


「聞いてみないとね…囚人の所に行こう」





とある倉庫


「囚人!!終わったか!?」


「女海賊の働きが悪くてな…もう少しだ」


「もう!!わたしに力仕事なんかさせんなよ!!」


「良いからソコを押さえてろ」


「どうやらすぐに出発しなきゃならねぇ様だ」


「そうか…あと1時間待て」


「じゃぁこうしよう…盗賊と女盗賊!秘密基地に火をつけて来てくれないか?」


「良いのか?」


「時間を稼ぎたい…もう戻ることも無いと思う」


「わかった!女盗賊行くぞ!」


「フフ忙しいわね」


「騎士!お前も手伝ってくれ…ロープを張るのに力がいる」


「わかった…」



女海賊は力仕事から解放されてホッとした様だ



「今度の飛行船はどんなの?」


「横帆無しで軽量化しているんだ…操作は難しいけれど低空で小回りが利く筈だよ」


「速さは?」


「どうかな?横帆の抵抗が無い分早くなるかもね」


「ヤバ!!こっちの方が欲しくなってきた!!」


「僕達にあんな派手な飛行船に乗れと言うのかい?ハハハ」


「軽い分垂直上昇が出来る?」


「どうだろうね?やってみないとね」


「欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい~~」


「君は分かりやすいねぇ…まぁ事が済んだら使って良いよ」


「いえ~~~い!!」





1時間後…


新型の飛行船は完成し飛べる準備が整った


女海賊は別働で海賊王の船まで伝令の役をする事になる



「女海賊は海賊王にこの手紙を渡して…作戦が書いてある」


「うん!!じゃぁ先に飛ぶね」


「盗賊さんと女盗賊さん遅いなぁ…」


「彼等なら大丈夫さ…囚人!飛べる準備は良いかな?」


「大丈夫だ…ロープを切れば真っ直ぐ上に上がる」


「来た!!来た来た…早く乗ってぇ~」


「追われてるな…」



追われる盗賊達の後方でモクモクと煙が立ち上がった


同時に閃光玉が激しく光る…煙に反射して追っ手は目をくらます



「ハァハァ…女盗賊!ダッシュで飛行船に飛び乗れ!」


「ハァハァ…分かってる!!あなたも遅れないで」


「早く~~乗ってぇぇ!!」


「騎士!!ロープを切れ!!」



言われるまま繋いであったロープを切る…スパッ!!



「まてぇ~~~!!」


「な…なんだあの気球は!?」



追っ手を残し飛空艇はゆっくり垂直に高度を上げて行く



「ギリギリセーフ…ハァハァ」


「フフフ…ウフフフフ」


「なかなかヤルじゃねぇか!相棒!」


「ハァハァ…あなたもね!?」


「さて…中立の国はもう見納めだよ…みんな良く見ておいて」


「塩の香りをもっと嗅いでおけばよかったなぁ~」


「今日はこの飛行船でバーベキューでもしよう!」


「飛行船でバーベキューだと?」


「小型の炉を買ったんだよ…小さいけどちゃんと焼けるんだ」


「そら楽しみだ」


「少しだけどお酒も買ってある」


「わ~い!!ウフフ」




飛行船


一行は小さな炉で細々と肉を焼きながら一時の休息を取った


操舵は囚人…残りの5人は炉を囲み今後の事を話し合う



「おいひい~♪」モグモグ


「じゃぁみんな食べながら聞いてくれるかな…」モグモグ


「これから行くのは終わりの国だよ…本物の勇者の先回りをする」


「それから終わりの国で亡くなった衛兵達の埋葬と…予言の書を翻訳した物を探したい」


「海賊王には衛兵達の埋葬の為に応援を出してくれと手紙を出しておいた」



「ゾンビがウヨウヨしてるんじゃねぇか?」


「ソコは抜かりない…銀製の武器を用意してある」


「俺達がゾンビ退治して海賊が死体の片付けって感じか?」


「そうだね…あと戦利品の略奪も海賊にお願いする」


「わらわの愛しき人は本当に来るんじゃろうな?」


「間違いないよ…必ず来る」


「ねぇねぇ…そういえばさぁ…砂漠のリザードマンとドラゴンさんがね?」モグモグ


「ん?」


「群れで南の方に移動してたの~女海賊が言うには海に向かってるって~」モグモグ


「海に?そういえば海賊王もクラーケンがおかしいって言ってたな…」


「気になる話だな?」


「次海賊王に会ったら話を聞いて見よう」





夜間飛行


騎士は下に広がる真っ黒な海を眺めていた


夜空は星が光っているのに海は真っ黒でそれは深淵の闇様に思えた



「……」


「騎士や…お主は言葉が少なくなったのぅ」


「これから起こる事を少し知っているんだ…」


「商人には話したか?」


「いや…話せない」


「わらわには話せるか?」


「魔女も知っているのかい?」


「わらわは定めを受け入れておる…人間はすでに魔王の呪いに捕われて生きておる」


「どうして急に思い出したのか…」


「お主は囚われの身の間魔王の心を少し覗いたのじゃろぅ」


「憎悪が溢れて来た…でも僧侶の回復魔法で我に返った…」


「それだけか?」


「他には何も…」



その時魔女は騎士の胸元で光る銀のアクセサリーが気になった



「ん?それは何じゃ?」


「これは僕がエルフの娘に買ってあげたアクセサリーだよ…形見になってしまったけどね」




ガバッ!!


商人は急に飛び起きた



「商人聞いておったんか」


「呪いを解く方法はソレだ!銀が必要なんだ!」


「銀?」


「ドラゴンが命の源を修復するには銀が必要だと言ってた…これが呪いを解くって事だ」



商人はブツブツと一人事を始めた



”そういえば銀ってどうやって作るんだ?


”ドワーフが生んだんだ…それがミスリル銀…


”だからドワーフは滅ぼされたのか?


”今銀を作ることが出来るのは…終わりの国と機械の国


”まてよ?憎悪が僕達を突き動かしているのか?


”だから終わりの国を滅ぼしてしまった…


”機械の国は自分達を守るためにゴーレムを作り…


”始まりの国はキマイラを生んだ…


”でもそれをドラゴン達は許さない…


”それはみんな憎悪に突き動かされ…


”知らず知らずやっているんじゃないか?




翌日


「さぁみんな一人ずつ銀の装備を持って」


「なんだ?何する気よ?」


「良いから早く…出来ればその装備をずっと持ってて欲しい」


「じゃぁ俺は銀の短剣だな」



各々がそれぞれ使うであろう銀の装備を身に着けた



「わたしは~?」


「君はもう銀のロザリオがあるよね?…じゃぁ僧侶!一人ずつ回復魔法をお願い」


「は~い♪回復魔法!回復魔法!回復魔法!」



僧侶は一人づつ順に回復魔法を掛けて行く



「なんだ?何のおまじないよ?」


「これで僕達は皆呪いが払われた筈…何か変わった事はないかい?」


「ん~む…何も変わってないが…」


「ハハハ何も感じないね…でもこれで間違った判断をしなくなるかもしれない」


「なんのこっちゃ」


「僕は良く寝てる間夢を見るんだ」


「俺も夢は見るが…何か関係あるのか?」


「さぁね?わからないよ…でもこれで悪夢を見なくなるかもしれないな~ってね」


「悪夢…ふむ…そういやあんまり良い夢は見たことが無ぇ」


「わらわの夢は愛しき人を失う夢ばかりじゃ」


「わたしも良い夢は見たことが無いよ…気にしてなかったけど」


「私は夢なんか見たこと無いよ~ウフフいつもぐっすり」


「だろうな…お前のイビキのせいで俺は悪い夢を見る」


「ええええええ?そんなにイビキひどいの~?」


「特に酒を飲んだ後だな…騎士は良くガマンしてる」


「そんなぁ~…」モジモジ





終わりの国上空


「よし!!じゃぁ高度下げるぞ!!」


「ねぇねぇ!あの黒い塊って何かなぁ?」


「んん?なんだありゃ…動いてんな」


「どこだい?あれはカラスの群れ…かな?」


「ぬははカラスか…いかにもって感じだな」


「大分荒らされてそうだね」


「終わりの国の城に直接降りるぞ?」


「うん…そうして」


「ひどい有様じゃのぅ…数年前に来た時とはえらい変わり様じゃ」


「多分誰も生き残ってないよ」


「いやわからんぞ?…城には地下がある」…囚人が口を挟む


「うわぁぁ…ゾンビがいっぱい~」


「町の方はゾンビだらけだな…城までは上がって来てないが」


「盗賊!あそこの広間に着陸しよう」


「わかった」




城の中庭


フワフワ ドッスン


「やっぱりここまではゾンビは来ない様だな」


「騎士と僧侶は手当り次第にゾンビを掃除して来てくれるかな?」


「武器はどうしよう?」


「銀の槍が有った筈…それでゾンビの心臓を突いて来て」


「わかった」


「盗賊と女盗賊は町の状況を見てきて!使えそうな物資とかね」


「わかったわ」


「囚人は城の中を案内して…予言の書を探すのと生存者が居ないか調べよう」


「付いて来い」


「夕暮れまでにはみんな戻って来てね」




街道


ヴヴヴヴヴヴヴ


廃墟と化した街には無数のゾンビ達が彷徨って居た


武器を持った兵隊のゾンビも少なくない…


騎士は銀の槍で手当たり次第にゾンビの心臓を突く



「フン!」ブスリ!


「ガァァァァァ…」


「いっぱい居るねぇ~」


「歩いてゾンビ退治するのは手間が掛かるな…フン!」ブスリ!


「お馬さん居ないかなぁ…」


「そうだ!!…城の宿舎に馬小屋が有るかも知れない」


「行ってみようよ~」


「そうだね」




馬小屋


ブルル~ ガフガフ


小屋の囲いから出られなかったのだろうか


一頭だけ生きた重馬が残って居た


既に牧草を食べ尽くして気が立っている様に見える



「居たぁ~!!ウフフ」


「この馬だけ生き残ってる」


「回復魔法してあげる~回復魔法!」


「牧草と水もあげないと」



騎士は近くの納屋から牧草を運びその馬に与えた


ブルル~ ヒヒ~ン もしゃもしゃ



「ウフフ~食べてる食べてるぅ~」


「僧侶はまだ馬に近づかないで…警戒してる」


「すごく大きなお馬さんだね~」


「丈夫な馬じゃなきゃ生き残れなかったんだと思う」


「ねぇねぇあそこにあるのってお馬さんに着せる物かなぁ?」


「ん?あぁ…この馬用の鞍だね…重装の軍馬の様だね」


「お腹空いてたんだね~…いっぱい食べてね~」


「僕が馬に寄るから何かあっても僧侶は動かないで」


「は~い」


「よしよし…もう大丈夫だ…解放してあげる」



ブルル~ ガフガフ ヒヒ~ン


その馬は気性が荒かった


騎士の姿を見ても怖がる様子を見せない


逃げる素振りも無く堂々とした印象だ


騎士も負け地と堂々と振舞う…時間は掛かったがゆっくりと距離を縮めて行った



「お、おさまった?…大分暴れたね」


「やっと納得してくれた」


「お馬さん乗せてくれるかなぁ?」


「大丈夫!もう落ち着いてる」



騎士はその軍馬に乗った


調教されているから信頼関係が出来ればちゃんと乗せてくれる



「わたしも乗って良い?」


「おいで」


「わぉぉ~大きいぃ~ウフフ」


「僧侶は精霊の加護の祈りをしておいてくれるかな?」


「は~い!」


「行くよ!…まず並足からだ」…軽く首の付け根を叩き馬に合図を送る



パカパカ パカパカ



「よしよし…やっと小屋から出られたね…軽く運動でもしよう」



その後騎士たちは馬の運動も兼ねて軽くゾンビ退治に出かけた


久しぶりに自由に外を走れる事が嬉しかったのか


馬は直ぐに騎士の言う事を利く様になった



「ゾンビは何体居るんだろう…キリが無い」


「もう暗くなってきたよ~」


「そろそろ帰ろうか」


「うん…お腹も減ったよぅ」


「これはしばらくゾンビ退治が続きそうだ」


「明日もがんばろ~」





城門


そこでは盗賊が拾って来た荷車に物資を乗せて運んでいる最中だった



「おお!!馬が居たのか!!丁度良かった手伝ってくれ」


「どうしたの~?」


「暗くなる前に食料を町から運びたい」


「え?どうして~?」


「城の地下にまだ衛兵達が生き残ってたんだ…えらく衰弱してる」


「本当に~?何人くらい居るの?」


「よく分からんが100人以上は居るんじゃねぇか?…怪我人ばかりだ」


「たいへんだぁ~」


「治療は薬剤師がやってる…まず食料を運ばねぇと!」


「俺はもう一回街に戻って物資集めてくっからこの荷車を引っ張って城まで運んどいてくれ」


「わかった」


「後で又ここまで荷車引っ張って来るからその後の運搬も頼むな?」






「やぁ!戻ったね…騎士はどうしたの?」


「盗賊さんを手伝って物資の運搬に行っちゃった…」


「あらら…鎖は外しちゃったんだね」


「鎖は荷車運ぶのに使いたいって言うから今だけ外したの」


「なるほどね…」


「ねぇねぇ衛兵さん達が見つかったって聞いたんだけど…」


「そうだね…早速だけど僧侶は衛兵達に回復魔法を掛けて欲しい」


「うん!わかった~」


「一人ずつ銀のロザリオを持たせてから回復してあげて」


「オッケ~ウフフ」


「それから衛兵達の治療を薬剤師と交代してきてくれるかな?」


「は~い」


「薬剤師には魔女の料理を手伝ってもらいたいんだ…どうやら魔女の料理が怪しい」


「え?お腹空いたんだけどなぁ…」


「見た目の話さ…栄養はありそうだけどなんか怪しい」


「どういう意味~?」


「魔女っぽい料理なんだよ…なんというかブツ切りで煮込むみたいな…」


「ウフフ~わかった~」




その夜…


魔女の作った謎の料理が皆に振舞われた



「!!?んま~~~い!!」モグモグ


「見た目は別にして…魔女の料理おいしいね」モグモグ


「本当だな!!」モグモグ


「衛兵達も喜んで食べてるみたいよ?」


「衛兵達の様子はどうかな?」


「怪我の方はもう良いからあとは栄養ね」


「動けないのは変わらないか…海賊達が来たら辺境の村まで運んでもらおう」


「それが良いと思う」


「盗賊!町の様子はどうだい?」


「ゾンビ退治に数週間はかかりそうな数居るぞ…1000体以上だな」


「物資は?」


「大分焼けてしまってるが金属製の物はほとんど使える…食料は100人居るとすると1週間分だな」


「城の備蓄と合わせて10日って所かぁ」


「わらわの愛しき人はいつ来るのじゃ?」


「陸路で向かってる筈だから…あと2週間くらいだと思う」


「食料は海賊船待ちになっちまうな…」


「先に女海賊が飛行船で来てくれると助かるんだけどね」


「あの娘は行動が読めん」


「ハハそうだね…他に食料を確保するとしたら…」


「よし!俺と女盗賊で近くの森まで行って狩りをしてくる」


「大丈夫かい?」


「騎士が馬を見つけたんだ…馬で荷車を引かせれば大物の獲物も狩れる」


「じゃぁ明日から頼むよ」





翌日


「じゃぁ盗賊!食料の調達は頼んだね」」


「まかせろ!今晩はシカ肉祭りだ」


「僕は城で予言の書を探す」


「ねぇねぇカラスが沢山来てるよ~?」


「カラスも食料目当てかな?」


「カラスはわたしにまかせて」


「何するつもりだい?」


「リーダーのカラスだけ餌付けすれば言う事聞く様になると思う」


「へぇ…そんな事できるんだ?」


「カラスは色々な病気を持ってるから飼いならして見たかったの…ゾンビ化も多分カラスが影響していそう」


「君は又変な趣味を持ってるんだね…カラスを飼うのかぁ」


「これも研究よ」


「私と騎士はゾンビの数を減らしてくるね~」


「あ!!倒したゾンビは火葬して欲しい…そのままだと衛生的に悪いから」


「ふむ…わらわが燃やすで騎士と僧侶はゾンビを倒すだけで構わんぞ」


「では私は魔女の安全を守るとするか…」


「そうじゃな…囚人が付いて居ればわらわも安心じゃ」





ゾンビ退治


乗馬した状態からの槍攻撃でゾンビ退治は格段に効率的になった



パカラッ パカラッ ブスリ!!



「それにしてもこんなに沢山のドラゴンの涙を使ったんだろうか…」


「違うと思うなぁ~」


「どうしてそう思う?」


「ほら~衛兵さんと同じ装備のゾンビが居るもん」


「伝染しているとしたら僕達も危ないな…」


「あとで薬剤師さんに相談しないとね~」


「どうやって伝染するんだろう?」


「カラスかも~」


「なるほど…それで薬剤師が興味持ってたのか」


「わたしって賢い~?」


「見直したよ」


「惚れた~?ウフフ」


「……」


「惚れたって言ったらもっと癒してあげるよ~」


「ちょっと待って…これ凄く大変な事が起きてると思うんだ…」


「どうして?」


「もしこのゾンビ化が伝染する病気の様な物なら世界は滅んでしまう気がする」


「世界中がゾンビに埋め尽くされる?」


「うん…そうならない様に地下に閉じ込めて居たんじゃないかな?」


「え!?…拡散させてしまったのは私達?」


「そうかも知れない…」





数日後


商人は焼けた書物の山からやっと翻訳された予言の書を発見した




「なんて事だ…でたらめばかりじゃないか」


「なんて書いてあるの~?」


「この予言の書には…




勇者は人間を裏切り世界を滅ぼすと書いてある


他にはドワーフの滅亡や銀の生産


始まりの国の滅亡、中立の国の滅亡、終わりの国の滅亡、機械の国の滅亡


エルフの森での戦争、ドラゴンの襲撃、クラーケンの襲撃


新たな武器や病気の誕生…まことしやかに書いてあるけど…




「そら見方によっては全部当たってるんじゃ無えか?」


「いや…どれ一つ具体的な数字や方法は書いてない」


「それを予言ってんだろ?」


「僕に言わせるとこんなの只の暗示だよ」


「暗示?」


「そうさ…魔王が残した予言の書というだけで国王達は信じてしまっている…ただの暗示さ」


「人間は頼るものが無い時に神のお告げや暗示に従うものじゃ…」


「その予言の書の地図にある×印は何なんだよ?」


「ここに記述は無いけど後から書き足した物に見える」


「僕は知っているよ…」


「どういう事だい?」


「そこは人間が最後に戦う場所…最後に疫病で人間達は滅びる」


「騎士がどうしてそんな事を?」


「騎士は僧侶によって魔王の心から解放された時に思い出したと言うておる」


「人間がすべて滅んだ後…気が付いたら又初めに戻る…そういう世界」


「この世界は幻?…また予定通りに事が進んでいく?」


「呪いは解けた筈なのにね~」


「そうさ!僕達はもう呪いに縛られない…ここから先は僕達の世界だ!」


「こういう考えが出来るのも呪いが解けたおかげかもな」


「ねぇ…最後に疫病で皆死ぬって言ったわね?」


「僕が思い出した記憶だとそうだよ」


「わたし何となく分かる…もしわたしのスライムに何か有ったら吸い取った毒が散らばると思う」


「スライムを増やせば毒が散らばっても又吸わせれば良いと思うけどね~ウフフ」


「ううむ…少し考えたい…」…商人は予言の書を睨み又ブツブツと一人言を始めた





1週間後


本物の勇者を待つ間


騎士と僧侶はゾンビ退治…魔女と囚人は死体の処理


盗賊と女盗賊は食料調達…商人と薬剤師は疫病の研究に明け暮れていた


盗賊は狩ったシカを引きずりながら山間から見える海の向こうに海賊船を発見した



「海賊船が来たぞぉ!!4隻来てる!!…やっとマシな食いもん食えるぞ!!」


「飛行船は来てないかい?」


「こっち向かって飛んで来てる」


「よし…付いたら伝令を頼みたいんだ…呼んでくれるかな?」


「分かった!!…誘導してくんな?」



フワフワ ドッスン!


女海賊の操る飛行船は通常の気球とは明らかに違った軌跡で飛ぶ


慣れていると言うか…危なっかしいと言うか


城の城壁をすり抜けてわざわざ降りられそうにない場所へ降りて来る




「はろはろ~調子はどう~?」


「お前…また飛行船改造したのか?」


「わかるぅ~?あんた達と同じにしたのさ~待ちきれなくってね」


「さすが囚人が見込むだけあるな…一人でやったのか?」


「そんなんわたしの奴隷どもにやらせたに決まってんじゃん」


「そ、そうか…それより商人が呼んでるぞ」


「てかアイツ!本物の勇者まだ来て無いん?」


「まだだ…もうちょいだと思うんだがな」


「ぐぬぬ…見つけたらチンコ引っこ抜いてやる!」


「ぶは…お前等どういう関係よ?」


「色々あんだって」


「それより商人の所に早く行け…多分大事な用事だ」


「おけおけ!」…女海賊の歩き方は特徴的だ


ど派手な衣装をワザワザ見せびらかすように大きなお尻を振って歩く…フリフリ


「お前よぅ…もうちっと普通に歩けんのか?ケツが邪魔だケツが!!」


「うっさいな!!海賊は恰好からなんだって!!」


「誰も見て無えだろ」


「あんた見てんじゃん!」


「なんかそのケツ見てるとぶっ叩きたくなるんだが…」


「爺じぃは引っ込んでろ!フン!!」






廃城となった広間に商人達は居座って居た


…と言っても瓦礫が少ないからたまたまその広間で寝泊まりしているだけだが…



「…なんかメッチャ悪者が住んでる雰囲気になっちゃってんね…」


「やぁ女海賊!!待って居たんだよ」


「用事って何?」


「ちょっと伝令を頼みたくてね」


「パパん所?」


「そうだよ…衛兵100人程を辺境の村まで送るように海賊王に伝えて欲しいんだ」


「ええ!?100人も居んの!?海賊船4隻じゃ足りないじゃん」


「乗ってる海賊達を降ろしても無理かな?」


「ん~~パパに聞いてみるね」


「あと君のパパとも少し話がしたい」


「ほんじゃ直接話せば良いじゃん!連れて来るわ」


「ハハ君の口添えが有った方が上手く話が進むかなと思ってね…」


「おけおけ!パパは私の言う事は何でも聞くから多分大丈夫」


「たのむよ」


「それとさぁ~わたしの飛行船も見て!!改造したんだ」


「お!?見せてもらおうかな」


「わたしの研究だとさ~縦帆は2つで十分みたい」


「へぇ~すごいじゃないか」


「スピードが出るから羽も少し小さくしたのさ!小型帆船並みに小回り利くよ」


「君はこの筋で大成しそうだね」


「もう海賊やめて空賊になるよ」


「ハハハ良いね」




1時間後…


女海賊の飛行船は海賊王を乗せて戻って来た



「なんや商人!?困った事あるんか?」


「わざわざ呼んですまないね…ちょっと海の様子が聞きたいんだ」


「その話か…なんや機械の国の船がちぃとおかしいわ」


「この間はクラーケンの動きもおかしいって言ってたよね?」


「そうや!多分な?機械の国の船は終わりの国を目指しとる感じやで?」


「ここに!?」


「あの船はめちゃくちゃ遅いんやが来週辺りにはここまで来よるで?」


「なんか落ち着いても居られない感じなのか…」


「あの船はワイらでは何も出来んから関わらん方がええ」


「そうか…あとね?衛兵100人は辺境の村まで送れそうかな?」


「あと2隻必要やな…娘に伝令させよか?」


「間に合うならお願いしたい」


「5日で来れると思うわ…娘の飛行船がめちゃめちゃ速ようてなガハハ」


「じゃぁ頼むよ…あと終わりの国の略奪は海賊に任せたよ」


「そら良えなぁ!!武器が欲しかった所や…火薬がようさん有るとええ!」


「自由に持って行って構わないよ」


「ガハハ~仲間の海賊共も喜ぶわ!」


「あと死体の埋葬で人手を回して欲しい…1000体くらいゾンビの死体が出る」


「穴は大砲で掘ったるわ!そこに埋めりゃええで?」


「イイネ!それもお願い」




海賊王は船に戻るなり港へ船を着け4隻の海賊船で大砲を撃って来た


ドカン! ドカン! ドカン!



「うはぁ…穴掘り早えぇな…」


「さすが建物は壊さない様に撃ってくれてるね」


「こりゃ又忙しくなりそうだ」


「魔女が焼いてくれたゾンビから順に埋葬していこう」


「墓標はどうする?」


「もちろん必要だよ…誰の遺体なのか分からないけれど其処に埋葬されているという記なんだから」




一方魔女は動かなくなったゾンビを焼く作業に追われて居た


街の中はそこらじゅうでゾンビが焼かれ煙が立ち昇る


上空ではカラスの大群が舞い…そこに数か月前までは沢山の人間が営んでいたとはとても思えない


地獄のような光景だった


カー カー バサバサ バサバサ



「薬剤師や…カラスは言う事聞くんか?」


「言う事は中々聞かないけど…ホラ?一応リーダーの言う事は聞くみたい」


「エサ次第かの?」


「そうね…全部のカラスから病気を吸い取るのはちょっと無理かな」


「やはりカラスがゾンビにする病気を持っておるんか?」


「そうだと思う…これだけ広がってしまってはもう手遅れね」


「カラスが渡り鳥では無いのが救いかのぅ」


「直に渡り鳥にも感染すると思う」


「厄介じゃのぅ」


「もう少し慣らして集められるようになったら…魔女に焼いてもらうしか拡大を止める方法は無さそう」


「仕方ないのぅ…」


「それでもすべてを焼ける訳では無いからきっと広がってしまう」


「ゾンビ化を治療する薬は作れんのか?」


「機材が足りないのと…私と同じくらいの薬学知識を持った人が何人も必要…それでも直ぐには作れない」


「気が滅入ってしまうな…」


「なんだか…予言のリミット時間を知ってしまった様で…悲しくなるわ」


「魔法の中にはのぅ…死者を操る魔法も有るのじゃが…」


「それは死者がゾンビになるの?」


「ゾンビとはちと違う…種明かしは寄生虫なのじゃ」


「え!?死体の脳に寄生させる?…それで生体活動が無くても動ける?」


「何かのヒントにならんか?」


「ゾンビは頭部を切断されても動く…それはどうして?」


「わらわは分からぬ…」


「細胞に寄生?…でもどうして銀が効果的なのか…銀で心臓を貫くのはどうして?」


「銀は浄化の作用じゃな」


「浄化の作用といえば聖水…もしかして聖水はゾンビ化の病を治療出来るのかも知れない」


「わらわの知識が少し役だった様じゃな?」


「少し商人と相談してみるわ」





2週間後…


その者達は馬車に乗って現れた


ゾンビ狩りをしていた騎士はその気配に気付く



「あっちの方で音がする…」


「どこ~聞こえないよ~?」


「シッ!」



ドーン! ドカーン!



「本当だ…遠くで何か爆発する音だぁ…」


「少し様子を見ながら近付く…君は祈りを続けて」


「は~い!!」




その者達は1台の馬車で4人構成のパーティだった


小柄な剣士…大柄な戦士…弓を扱うレンジャー…そしてあの青い瞳の魔法剣士


馬車を操って居たのは戦士…残りの3人は徒歩でゾンビを相手に戦って居る



「どうなってる!?首を落としてもまだ動く!!」…小柄な剣士は困惑している


「気をつけろ!!こいつら死なないぞ」…レンジャーは倒れないゾンビと距離を取りながら回り込む


「どうする?逃げるか?」


「魔法剣士!前に出過ぎだ!」



魔法剣士は静止を聞かず一人でゾンビの心臓を突いた…ブスリ!



「た、倒した?…のか?」


「……」…魔法剣士は次に迫るゾンビを見定めている


「よし!僕らは援護しながら進もう」


「レンジャーは回復役に回って!!」



その4人は既に熟練の冒険者の域に達していた


魔法が使える回復役が2人…しっかり前衛を務められる剣士と戦士…さらに遠距離攻撃が出来るレンジャー


これ以上無い構成だ




「ねぇねぇ…今ゾンビ倒した人って魔女の愛しき人じゃない?」


「多分そうだ」


「どうするの~?」


「行く…精霊の加護を!」



パカラッ パカラッ


騎士は馬を彼らの前まで走らせる




「だ、誰か来た!!」…始めに気付いたのは小柄な剣士…彼がリーダーだ


「……」…魔法剣士は姿勢を低くして警戒している


「む!」…レンジャーは弓をつがえ狙いを定める


「気を付けろ!」



騎士はゆっくり彼らに近付く



「誰だ!!?」


「ここは危ない」


「魔王の使いか!?」


「く、黒騎士だな」


「違うの~」…僧侶はフードを下ろし顔を見せた


「ハッ!!姫が捕われている!!」


「姫!?」…僧侶はニンマリ喜んで居る


「姫をどうするつもりだ!?」


「付いて来い…ここは危ない」




ヴヴヴヴヴヴ ガァァァ!!


彼等の背後にゾンビの群れが迫る



「ゾンビが!!」


「くそう!数が多い」



騎士はゾンビの目を逸らせる為馬を走らせた



「来たぞ!!」シュン!レンジャーは騎士に矢を放ったが精霊の加護で守られて居る騎士には通じない


「何ぃ!!はじき返した!!」


「城へ向かえ!!」


「言われなくたって…」



騎士はゾンビの群れを引き連れながらその場を去る



「逃げるのかぁ!!」


「まて慌てるな!!」


「戦士!馬車の馭者をそのまま頼む!僕達はゾンビを倒しながら城に向かう」


「わかった…すこし離れて追従する」


「レンジャーは矢を温存して」


「わかってるよ」


「魔法剣士が先頭でお願い!僕は援護に回る」


「……」コクリと頷く魔法剣士


「やっぱり終わりの国が魔王軍に飲まれたというのは本当だったんだ…」


「それにしてもこのゾンビ達も魔王軍の仕業か?」


「急ごう…姫が心配だ」




終わりの国


街は既に廃墟となりそこら中で燃える遺体…


上空ではカラスの群れが舞い…誰が見ても魔王軍の仕業としか思えない有様



「そんな…ひどい…ひどすぎる」


「廃墟だ…な」


「アレを!!カラスの大群が城に集まってるぞ」


「魔王が居るのか!?」


「そんな筈は…」…戦士は首を傾げている



ある程度事情を知って居る戦士は困惑していた


なぜなら戦士は始まりの国の衛兵隊長から送られた監視役だったからだ



「見ろ!!人影だ!!城に向かってる」


「慌てないで気を付けて行こう」






「門が開きっぱなしだ」


「さっきの人影はどこに?」


「ここにはゾンビが居ない」


「嫌な予感がするな」


「王国からの密書は誰に渡せば…」


「行ってみるしかないね」


「ゴクリ…まさか僕達が魔王と対面するなんて事…無いよね?」



小柄な剣士は心の準備が出来て居なかった



「衛兵が居ないという事は…この国はもう滅んで居る」…戦士は落ち着いて言う


「皆良いかい?何も成果無しじゃ帰れない…入るよ!」



小柄な剣士はそれでも勇敢に振舞う


そうやって仲間を鼓舞する才能があるのだ


4人は小柄な剣士を先頭に門を潜った…


そこで待って居たのはホウキ持って掃除していた商人…



「待っていたよ」


「お、お前は一体何者だ!?」


「ハハハ誰だと思う?」


「魔王か!?それとも魔王の側近か!?」


「やっぱりそう思うよねアハハハ…騎士!!門を閉めて!!」



ガラガラガラ ガシャーン


落とし門が落ちる



「ハッ!!さっきの黒騎士…と姫?」


「しまったぁぁ!!逃げ道を塞がれた!!」…レンジャーが言う


「ええと…あのね?君達は勘違いしてるんだよ」


「なんだって!?終わりの国を滅ぼしたのはお前達じゃないのか!?」


「それはドラゴンがやったのさ」


「ドラゴンだって!?」


「囚人!!魔女を呼んできてくれないか?」


「わかった…」


「何をするつもりだ!」


「君達に会わせたい人が居てね」


「どう見ても魔王と側近と黒騎士…魔女にカラス使い…魔王軍に違いない!」


「いや…だからちょっと話を聞いて欲しい」


「剣士!これはまやかしだ!世界の半分をやるとか言うに決まってる!」


「話ってなんだ!?」


「だめだ剣士!!騙されるな!!」


「結論から言うよ…同志になって欲しい」


「そら見ろ!!俺達は騙されないぞ!!」


「ハハハじゃぁこう言えば良いのかな?『勇者よ我が物になれ!』ってね?」


「……」



魔法剣士がピクリと反応した



「魔法剣士!君は本物の勇者だね?」


「僕は…良く分からない」魔法剣士が口を開く


「僕達はこの世界が幻だと知っているんだ…そして魔王が掛けた呪いの解き方も知っている」


「君達は一体…誰?僕を知って居る…のか?」


「僧侶!回復魔法を掛けてあげて」


「は~い!!」


「え!?君は姫では…あああああああああああ!!」


「どうした剣士!?」


「君は…武闘会の時の…」


「エッチな剣士さんハイ!この銀のロザリオ持ってね~ウフフ」


「順番だからね~回復魔法!回復魔法!回復魔法!回復魔法!」



僧侶は一人づつ順番に回復魔法を掛けてあげた



「さて…武器を置いて欲しい」


「魔女を連れて来たぞ」…囚人が魔女を連れて戻って来る


「おおおぉぉぉぉ…わらわの愛しき人じゃ…」


「君は…夢に出てくる人か?」


「やっと会えた…会いたかった…会いたかったぞよ…もう離さぬ」



魔女は勇者に抱き付いた



「ちょ…ちょっと待って…僕は君を知らない…」


「な、なんだぁ?」


「え!?なんでこうなる?」


「これは一体…」…困惑する3人


「魔女~鎖で繋いであげるぅ~~」


「うおぉぉぉぉんひっくひっく…うえぇぇぇぇん」


「ど、どうすれば」


「だっこしてあげれば良いの~ウフフ」


「わらわを忘れたのか?グスン!200年待ったぞよ?もうわらわを離さないでおくれ」


「200年?何の事なのか分からない…」


「なんか…魔王との対面が台無しになってないか?」…とレンジャー


「ハハハ良いじゃないかバーベキューでもしよう」


「おい!!上に上がって来い!シカ肉が準備できてるぜ!!」


「は~い!」


「何がなんだか…」


「拍子が抜けた」


「こ、これはまやかしに違いない!!みんな騙されるな!!」…レンジャーは諦めが悪かった


「良いから早く来いよ!!肉が焦げる!!」





バーベキュー


酒と肉を食らいながら商人はこれまでの経緯を話した



「と言う事は終わりの国はもう…」


「ドラゴンに襲撃される前に辺境の村に避難したんだ…この国の姫君も避難しているさ」


「この状況を始まりの国にどう説明すれば…」


「噂通りドラゴンに滅ぼされたで良いじゃないかな?」


「預かっている密書はどうしよう…」


「君はその中身を見たのかい?」


「見てないです」


「ハハ正直なんだね」


「悪い事はキライなんです」


「じゃぁ密書はそのまま返品かな…ただ…」


「ただ?」


「君達はもう始まりの国へは帰らない方が良い」


「いや…俺は任務が残ってる」…戦士が口を開く


「任務?…君は始まりの国の衛兵かな?」


「そうだ!」


「ハハハ良い事を教えてあげよう…君の上官は僕達の仲間さ」


「なんだと!?どういう事だ!?もしかしてお前達は隊長の言う海賊の一味か?」


「ん~海賊みたいなものかもね…一応バッチもあるよホラ」…商人は海賊のバッチを見せた


「隊長から直々に貰った指令の中にバッチを持つ海賊に出会った時に渡す手紙が…」


「ああ…きっと僕達の事だよ」


「これだ…」…戦士は懐から出したその手紙を商人に渡した



”例の物が完成したようだ


”自体が悪化する前に処分を願う



「渡せば分かるはずだと…これは何の事だ?」


「エルフの娘…」…騎士は眉を潜める


「やらなきゃいけない事が山積みだね…」


「なんだ!?言っている事が分からん!」


「やっぱり君達には一緒に手伝って貰いたい…」




ヒュルルル~ バーン ピカーーーー




「おい!!!何かの合図だ!!!」…盗賊が音のした方を振り返る


「女海賊からの信号かな!?皆外に出よう!!」


「おい!!緊急事態だ!!全員外に出ろ!!」


「ふぁ~い!」モグモグ





城の外


「ちっ…もう日暮れで良くみえねぇ」


「飛行船がこっちに…え!?海岸を見て!!」


「どこだ!?機械の国の船か?…お、おい!!10隻は来てるぞ!!」


「盗賊!飛行船の用意を!!」


「わかった!!」


「え!?な、なんだアレ?ドラゴンか?」


「アレは飛行船よ!!今は私たちの指示に従って!!」


「機械の国もどうやら僕達を魔王軍だと思ってる様だね」


「そのようね…早く逃げないといけない」



フワフワ ズザザザー


女海賊の飛行船は城の目の前で緊急着陸した




「大変!大変!パパの船があと10分で出港するから早く乗ってぇ~!!」


「騎士と僧侶は馬に乗って海賊船へ!!」


「剣士達も馬車を船に乗せるんだ…騎士の後に付いて行って!!」


「残りは飛行船で…」


「待って!!カラスを処分させて!!」



カァーカァー ザワザワ バサバサ


夕暮れ時は一番カラスが活発に集まる


バーベキューの匂いに釣られたのだろう



「うお!!すげぇ数のカラスが…」


「魔女!?カラスを焼けるかい?」


「火炎地獄!」ゴゥ ゴゴゴゴゴ



先に魔法を発したのは勇者だった


魔女もそれに続き同じ魔法を発した



ギャーギャー ドサドサドサ



「うゎ…すごいな…空が焼ける…」


「あぁ心が痛む…折角なついて来たと言うのに…」


「よし!!皆後で海賊船で落ち合おう!」


「早く飛行船に乗れぇ!!」


「わたしの飛行船は土足禁止ねぇ~」



空を舞うカラスは炎で焼かれまるで流星群の様に降り注ぐ


終わりの国上空で起きたその現象はこの世の終わりを象徴する様なラグナロクを思わせた


降り注ぐ炎を縫うように飛び立つドラゴンを模した飛行船は


迫りくる機械の国の船を尻目に大空へ逃れて行った…




ドラゴンの飛行船


ゴゴゴゴゴ バサバサ


魔石の出力は最大…2枚の縦帆はバサバサと音を立ててはためく



「おい!見ろ!!巨人が大量に上陸してる」


「海賊船は大丈夫そうかい?」


「あぁ…日が暮れてるのが幸いしてるな」


「ゴーレムはどれくらいの数かな?」


「どんどん船から出てくるぞ…今のところ50体位か?」


「終わりの国を制圧に来た様だ…間一髪だったね」


「あんな大軍じゃたまったもんじゃねぇな」


「機械の国のゴーレムはもっと居る筈…何年も前からトロールの密売が続いてる」


「お前が知ってる数でどれくらいだ?」


「僕が知ってるだけで100くらいかな?捕まえるのが簡単だからもっと居ると思う」


「見つからないうちに海賊船に向かうぜ?」


「あのさぁ…操舵してんのわたしなんだけど!」


「ヌハハ悪い…いつもの口癖だ」


「てか縦帆の張り替えあんたも手伝って!!忙しいんだから!!」


「わーった!わーった!!」

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