18.黒騎士

夢か現実か…



「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「おいおい…もう十分やろう…」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「まぁしゃぁないなぁ…わいの義手と義足使ったらええ」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「失った手足はもう生えて来んがそれほど不自由はせんで?」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「それより心の方やな…生きる事を拒否しとるかもしれんわ」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「おまんなんやそれ…鎖で繋いどるんか?」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「がはは…もう置いて行かれんようにしとるんか?」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「わいから言わすと置いて行ったのはどっちや?って話やな」



---わたしを置いていかないで---


---君だったのか---



「お!?指が動いたで?」


「え?え?え?…」僧侶は騎士の眼を強制的に開いてみた


「ううん…」


「お願い…目を覚まして…」


「無理やり目を開けんでもえーがな…」


「がが…お…置いていって…ごめんよ」


「うお!!なんちゅう目覚めの言葉や!!」


「ぶわぁぁぁぁぁん…」僧侶は顔をしわくちゃにして騎士に抱き付いた


「目ぇ覚ましよった…えらいこっちゃ…えらいこっちゃ」



夢なのか現実なのか分からない…


記憶がおぼろで今がどんな状態なのか分からないままもう一度眼を瞑った



「だめぇぇぇ…うえっ…うえっ…」



僧侶は無理矢理僕の眼を開ける


どうやら寝てはいけない様だ


僕は頭を整理しながら考えた


今はいつなのか…どこなのか…どの時点なのか…





翌日


僧侶はひと時も僕から離れなかった


そして僕の体の欠損した部分を触り涙を流していた



「もうすぐ商人達が海賊船まで来る筈や…」


「シクシク」


「なんやまだ泣いとるんか?」


「騎士の手と足が無いの…」


「わいの義手と義足があるがな…今持ってくるわ」



自分の体の異変は随分前から気付いて居た


左手と右足はその時から腐り動か無くなって居たから…



「僧侶…も…う大丈夫…だよ」


「ごめんね…助けるの遅くなっちゃったよぅ…うわーん」


「ほれ!!この義手と義足を使ってみぃ!!」



海賊王は金属で出来た上等なそれを持って僕に装着させようとする



「こうやってはめるんや…」


「立て…るの…か?」


「立ってみぃ!!慣れれば普通に走れるで?」


「んむむ…」…体を起こし膝を付く


「騎士?手を繋いであげる…」…小さな手が僕を支える



感覚の無い右足に体重を乗せて義足の具合を確認してみた


ぎこちないが歩くことは出来る様だ



「その義足は風の魔石が付いとるけー慣れれば今までより早く動けるで?」


「義手の…方は?」


「力の魔石が付いとる!!おっ!!そうや!!巨人用の武器を海で引き上げたんやった」


「巨人?」


「お~い!!お前らぁ~巨人の武器を引きずって来い~~!!」


「へい!!お頭ぁ!!」


「2メートル越えの馬鹿でかい両手剣や…わいは使えんかったがおまんなら使えるか思うてな」


「持ってきやしたぜぇ…はぁはぁ」



それは剣と言うより鉄塊と言った方が正しい



「持ってみぃ!!」



普通なら持てる訳無いと思う…でも僕はこれぐらいの大剣を振るう夢を見た事がある


だから手を伸ばし持ち上げて見た



「うお!!!た、たまげた…片手で持ちよるんか!!」


「頭ぁ!!娘さんの飛行船が戻って来やしたぜ!!」


「がはは…予定通りやな…商人達が乗っとる筈やからちっとは賑やかになるわ!」


「ほれ僧侶!!いつまでも落ち込んどったらアカンで?」




その飛行船は器用にも船尾楼の端に着地した


中からケバケバしい装備を身に着けた女が降りて来る


彼女が海賊王の娘だと直ぐに分かった




「はろはろ~アレ?僧侶元気無いねぇ~…隣に居るのがあんたの探してた人ね?」



続いて盗賊と商人が飛び出して来る



「騎士!!!無事か!!?」


「なん…とか…ゲホッゲホッ」


「喉がやられてるのか…」


「やぁ!!良かった…心配して居たんだよ」


「それにしても大変だったな」


「ハハ僧侶は大分目が腫れてるね」


「そら無理も無ぇだろ!」


「皆と…少し話…がした…い」


「そうだね…ご馳走でも食べながら話そう!…体は大丈夫そうかな?」


「うお!!おいおい…お前手と足はどうした?」


「手と足はもう壊死しとったから切り取ったわ…放っておくと広がるけな」


「何ぃ!!切り取ったって…おいマジか!!」


「わいの義手と義足があるけぇ不自由はせん筈や」


「ん~む…良いのか悪いのか…」


「僧侶は大分落ち込んどるがな~」


「まぁまず美味しいご馳走でも食べよう」




バーベキュー


商人の美味しい物と言えば大抵バーベキューだ


肉に海鮮…色んな食材を焼いて酒を飲む…そうしている内に話も自然と進む



「喉に効く薬だよ…薬剤師が作ってくれた…飲んで見て」


「ゴクリ…」


「それからスライムに体の毒を抜いてもらおう」


「じっとしててね?」


「あとご馳走と一緒にハチミツ酒も仕入れてきたんだ…これも喉に良いらしい」



ハチミツ酒を見て僧侶も飲みたいのかモジモジしている



「僧侶!お前も飲め!!悪いことは忘れろ!!」


「グビグビ…プハァ!!」



グラスを一気に開ける…その時ジャラリと鎖が床に落ちた



「んん?なんだぁ?僧侶お前…騎士と鎖で繋いでるのか?」


「わたしはもう騎士のそばを絶対離れないもん」


「鎖で繋ぐのはやりすぎな気がするがな…てか邪魔にるだろう」


「いいの!!」


「ハハ…まぁ良いじゃ無いか…ところでお腹も膨れたところで騎士に今までの事を教えてもらいたい」


「まだ喉の調子が悪いんじゃないのか?」


「ゆっくりでいいさ…まぁまず僕達の事から話そうか…魔王城の後からで良いかな」



そう言って商人は騎士を見失った魔王城から今までの出来事を話してくれた


何度かすれ違いが起きていた事も理解できた



「…という訳さ…そしてやっと騎士を見つけた訳だよ」


「エルフの娘は海葬されたと聞いたが本当なのか?」



騎士は魔王城の地下でエルフの娘に起こった惨劇を語った


その話を聞いた商人は眉をひそめる



「そうかキマイラにされたって言うのか」


「なんてこった…魔王城に地下があったとはな…」


「もう一つ気が付いた…事がある」


「ん?何かな?」


「信じられない…かもしれないけ…ど…きっとこの世界は…幻だ」


「幻?」


「魔王が仕組んだ幻…魔王の予定通りにループする世界」


「ハッ!!もしかして予言の書の事か!?」


「何の事だか分からんが俺達は幻なのか?」


「僕達自体が幻?…まてよ…そういえば古文書には200年前より以前の事は良く書かれている」


「どうしてそれ以降の記述が一切無いんだろう…もしかして今は本当はまだ200年前なのか?」


「言ってる事がさっぱりわかんねぇぞ」


「騎士はこれからどうすれば良いと思う?」


「魔女…を探す」


「やっぱりそう来るか」


「ねぇねぇあのねぇ~?私見たの~」


「見た?って?」


「武闘会で闘った魔法剣士さん…瞳が青かったの~」


「なんだって!?」


「無口で瞳が透き通った青色だったよ~魔女の愛しき人だと思う~ヒック」


「そりゃ気が付かなかったな」


「ハハハ…最初から君達のすぐ近くに居た訳か」


「どうする?探す相手が2人になったぞ」


「こうしよう…エルフの森の上なら飛行船で飛べる。エルフの森経由で魔女の塔まで行こう」


「全員飛行船に乗れるか?」


「いや…行くのは騎士と僧侶と女海賊だけさ…僕達は魔法剣士の行き先を探ろう」


「んあ?わたし?」


「そうだよ女海賊…君は飛行船を上手く動かせるじゃないか」


「ちょちょ…私はその魔法剣士に用事があんだけどさ…私の方が先に仲間だった訳さ」


「行き先が分からないと君も困るよね?それは僕達が情報集める」


「んぁぁぁ…ほんじゃ次何処で落ち合えば良いの?」


「中立の国かな…一番情報が集まる」


「まぁしょうがないかぁ…アイツ見つけたらとっちめてやんないと気が済まない」


「よし決まりだね?」




翌日


早速飛行船で移動する事になった


女海賊はボロ雑巾のような騎士の恰好が気に入らなかった様で


出発前に装備を一式用意してくれた



「えらい格好やな…でかい両手剣が目立ち過ぎや」


「ハハハ完全に黒騎士って感じだね」


「革装備の色を塗り直しただけだけどね…やっぱ海賊は恰好から入んないとダメ」


「ねぇねぇ私は捕らわれの姫に見えるかなぁ~」


「なんで姫が良いのか意味分かんないんだけど…」


「お前らぁ!!無駄口叩いてないでさっさと行けぇ!!」


「はいはい…じゃぁパパ行ってくるね~」


「おう気を付けてな~」


「てかそのくそデカイ剣乗せて…飛行船飛べるんかな…」


「置いて…行こう…か?」


「あんたそれ無いと良い所何も無くなるじゃん…まぁ良いや…要らん荷物降ろして行くからサッサと乗って」


「騎士ぃ…こっちだよぉ~」



僧侶に案内されるまま飛行船に乗った


心配していた重量オーバーは荷物を降ろしてなんとか飛行船は飛ぶことが出来た


むしろ重量ギリギリの方が飛行船が安定して良い風に乗れるらしく女海賊は満足げだった




「……」


「ねぇ何考えてるの?」


「すべてが幻だなんて…信じられないなって…」


「わたしの想いも幻なのかなぁ?」


「少し思い出したんだ…この光景も夢で見たことがある」


「え!?わたしたちどうなるの?」


「予言の通りになる…」


「予言って?」


「魔王の予言…そして元に戻る」


「ねぇ…だっこして」



僕が僧侶の願う未来を口に出して言わないから不安になったんだね


すべてが幻だなんて…そんな話聞きたくないよね



「ベタベタしてんじゃねぇ!!私が居るの忘れないでよ!!ったく!!」


「…てかあの馬鹿なんで勝手に居なくなんのさ!!」




森の上空


飛行船は良い風に乗れて順調に進んで居た



「どう?めっちゃ早いでしょ!?」


「どれくらいで着くの~?」


「2日で森の町付近まで行ける筈!森の外れに降ろすからさ…あんた達2人で魔女を探して来て」


「え~女海賊さんはどうするの?」


「わたしは飛行船が盗まれないように森の上空で旋回してるさ」


「迷子にならないかなぁ~?」


「煙玉と閃光玉を渡しておくよ…魔女を連れてきたらソレを使って連絡して!」


「どうやって使うのかなぁ~?」


「紐みたいな所に火を付ければ良いさ」


「火魔法!」チリチリ…



もくもくもくもく…


煙玉は猛烈に煙を吐き出した



「ちょちょちょ…こんな所で使うなって!!ゲフゲフ!!」


「オッケ~使い方わかったぁ~ウフフ」


「あんたさぁ!!なんでそんな天然馬鹿なん?」


「私っておバカさんかなぁ?」


「まぁ良いや…ちっと元気出て来たみたいだしね」


「うん!騎士と一緒だと元気出るぅ~」


「ちっ!!アイツ見つけたら絶対とっちめてやる…ぐぬぬぬ」


「ねぇねぇ…魔法剣士さんとは何か有ったの?」


「まぁ色々ね…付き合い長いのさ…てか私等ドワーフは勇者を守るのが宿命なんだよ」


「へぇ~…」


「そんな私等置いて勝手にどっか出て行っちゃった訳…」


「どうして出て行ったんだろうね?」




2日後


飛行船はほぼ予定通り森の町付近まで到着した


フワフワ ドッスン



「着いたよ!こっからちょい東に行けば森の町だよ」


「うん!わかった~ウフフ」


「わたしは上空で待つから魔女を連れてきたら合図して!」


「は~い!!行こ!!騎士ぃ」


「フフ惚れ惚れする黒騎士っぷりだね」


「だめぇ~騎士はわたしのもの~」


「ハイハイ…取る気なんか無いからサッサと行って!」


「僧侶…行こう」


「は~い!!」


「わたし待つのキライだから早くしてね!」





森の町


久しぶりに来たと言うか…やっと元に戻ったと言うか…


街道を2人で歩きながら村人が話す噂話が聞こえて来た



(偽勇者が逃げてるらしいよ?)


(物騒だねぇ…)


(何か悪いことでもしたのか?)


(さぁ?兵隊が沢山捜索に来てる)



「ねぇねぇ…偽勇者ってさぁ」


「昔の僕達の事だ…多分宿屋に馬が繋がれてる」


「馬?…初めて乗ったあの黒くて大きなお馬さんの事?」


「丁度良かった…馬に乗って行こう」


「ウフフ~騎士の喉良くなってきてるね~」


「僧侶と薬剤師のお陰だよ」


「毎日癒してあげるね~ウフフ」




宿屋


ヒヒ~ン ブルルル


宿屋の前にある馬宿にあの時の馬が繋がれて居た



「あ!!お馬さんが沢山居るぅ~」


「王国からの追っ手の様だね…丁度誰も居ない…僕達の馬に乗って行こう」


「ねぇねぇ覚えてる?わたし達この宿屋で結ばれたの~」


「そうだったね…」


「わたし騎士の赤ちゃん生みたいよぅ…」


「うん…」


「ねぇ…全部…幻なの?わたしの気持ちも幻なの?」


「どうかな…ずっと一緒に居よう」


「うん…」



僧侶の小さな体が愛おしく思った


彼女が何かに耐えて居るのも分かった


気の利いた言葉が言えなくてごめんよ…




遺跡の森


2人を乗せた馬はその時魔女と別れた森を目指して居た


しかし王国からの追っ手が森を捜索している




「馬に乗った怪しい2人が来ます!!」


「止めて確かめろ!」


「おい!!そこの2人!!止まれ!!」



パカパカ ブルル~


馬の手綱を引き足を止める



「お前達!何処から来た?顔を見せろ!」…衛兵達は騎士が乗る馬を取り囲む


「怪しい!!馬から下りろ!!」


「邪魔をするな」


「なにぃ!!」…衛兵はスラリと武器を抜き威嚇しようとする



僧侶は静かに精霊の加護を祈る


騎士は構わず馬の足を進めた…パカパカ パカパカ



「止まれ!!」


「止まれと言っている!!」


「構わん!!馬から引きずり降ろせ!!」


「このぉ!!」



切り掛かって来た衛兵は精霊の加護により吹き飛ばされた



「なぬ?」


「何だ?吹き飛ばされた…つつつ」


「衛兵!!全員集まれぇ!!」



パカパカ パカパカ


騎士はゆっくり馬を進める…



(ねぇ覚えてる?あの中に闘士が居るよ…)…小声で耳打ちをする僧侶


(分かってる…)


(多分僕が君を連れ出したと思ってるんだ)


(うん…どうするの?)


(戦う気は無いよ…魔女を探してサッサと引きあげる)


(そうだね…魔女どこだろう?)


(追憶の森へ行って見よう)



「弓を構え!!」


「止まらんと撃つぞ!?」


「邪魔をするな」


「ぐぬぬ…構わん!!馬を射抜け!!」



合図と同時に衛兵達が一斉に矢を放った…しかし精霊の加護によりすべて外れる



「あ、当たりません…」


「馬にも当てられんのかぁ!!貸せ!!」


(少し脅かす)



騎士は背負って居た巨人の剣を片手で持ち上げ一振り…ブン!!


分厚い鉄板がその振動でうなりを挙げる



「あわわわわ…あんなでかい武器を片手で…」


「邪魔をするなと言った筈だ」



そう言って近くに合った大木を一振りで切り落とす


グラグラ ドッスーーン!!



「かかか片手で大木を切り落とした…ひぃぃぃ」


「お、お前は何者だ!!?」…衛兵達は明らかにたじろいて居る


「黒騎士だ…」


「魔王の手先だな?」


「フフフ…クックック…」


「な、何が可笑しい」


「怪我をしたくなければ邪魔をするな」



そう言い残し馬をひるがえす


騎士はその場を走り去った…




追憶の森


魔女の塔の瓦礫から少し離れた所にその森はある



「衛兵さん達は追って来ないみたいだね~?」


「追って来られないんだよ…戦う為の兵装でも無かった様だし」


「そっかぁ…」


「僧侶はあの時魔女に連れて来られた場所を覚えて居るかな?」


「う~ん…多分ここで合ってるカモー」



♪ラ--ララ--♪ラー



「あ!!魔女の歌だぁ!」


「本当だ…もう少し右手か…」


「居た居たぁ!!魔女~迎えに来たよ~」


「おろろ?その声は僧侶かいのう?わらわを迎えに来たのかえ?」


「良かったぁ…魔女無事だったんだねウフフ」


「お主は騎士かいの?無事だった様じゃな」


「地獄を見て来たよ」


「ほうか…もう僧侶を離してはいかんぞ?」


「うん!!もう騎士と離れないから」


「ところでじゃが…わらわの愛しき人は見つかったかの?」


「うん!!見つけた~」


「おぉぉ…では一緒に行かねばならんな…ここは危ない様じゃで」


「馬にもう一人乗れるかなぁ?」


「わらわの心配はせんで良い…兵隊が乗ってきた馬が居るでのぅ…すこし待って居れ」


「それって兵隊さんの命を吸ったのかなぁ?」


「聞き分けが無うてな…わらわを捕まえようとするで50年ほど若さをもろうたわい」


「早く此処を離れよう…」


「そうじゃな…ちと待って居れ」



10分後…



「すご~い!魔女はお馬さんに乗れるんだぁ~」


「わらわの生まれは古き王族じゃ…乗馬は小さき頃よりたしなんでおる」


「ついて来い…」


「騎士は少々人が変わったかのぅ」


「でも騎士は騎士なの~」


「甘さが無うなった様じゃな」


「追っ手が来る前にこのまま森沿いにエルフの森まで走る…」


「その容姿は黒騎士にしか見えん…他人に恐怖を与えるのは良くないぞよ?」


「この格好はね~女海賊のセンスなの~海賊はまず格好からなんだって~」


「ハテ?女海賊とは誰じゃったか?」


「そっか!!魔女は会った事無かったね…海賊王の娘さんだよ」


「ふむ…わらわの愛しき人と共に逃げた片わらじゃな?」


「多分そうだよ…会えばいっぱいお話聞けるよ」


「それは楽しみじゃ…早う行くぞよ」




エルフの森のはずれ


本当なら此処に来るまでの間に飛行船と合流出来る筈だったが未だに合流出来て居ない



「上に飛行船見える~?」


「いや…見えない」


「何処行っちゃったかなぁ…どうしよう…煙球と閃光球使う?」


「ちょっと待って…あ!!見えた」


「使っちゃうよ?」


「待って!!他の気球も見える」


「本当だ…」


「あれは…追われてるな」


「飛行船からは私達の居場所分かって居ないよね?」


「そうだね…仕方ない煙玉を使おうか…」


「おっけー!!火魔法!」チリチリ



もくもくもくもく



「よし!来てる」


「他の気球も付いて来るね」


「高度下げて来ないな…どうするつもりだろう…」


「なにか落とした様じゃぞ?」


「煙玉だ…追われてこっちに降りられないのか…探しに行こう!!」





森の中


飛行船から落ちて来た煙玉は近くに落下した



「見つけたよ~~ビンの中に手紙が有る~」


「何て書いてある?」



”王国の気球に見つかった”


”砂漠の町まで自力で来い”


”酒場で待つ”



「気球がこっちに近付いて来とるが?」


「早くこの場所を離れよう…これは直に面倒が起きる」


「そうじゃな…わらわの後について参れ…エルフの森の道を知っておる」


「騎士の持ち物のエルフのオーブもわたしが持ってるよ~ウフフ」


「馬で行くと森を抜けるまでどのくらい掛かるかな?」


「10日は掛からんと思うがのぅ」


「食べ物が無いカモ~」


「木の実はいくらでも有るから心配せんでも良い」


「ウフフ~わたしエルフになろっかな~」


「では騎士とあまりベタベタせん所から始めねばならんな」


「ええええ!!」


「エルフは余程の事が無い限り肌を合わせようとはせぬ…主とは縁遠いと思うがのぅ」




森に入った騎士たちを追う形で数日は気球が上空を飛び回って居た


しかしエルフを恐れてなのか降りて来る事は無かった


一方騎士たちは何事も無く馬を進める事が出来てどうにか気球を振り切れた





エルフの森


「森の中央にエルフの里があるのじゃが…寄って行くかえ?」


「食べ物とかもらえるかなぁ?」


「それは期待せん方が良いな…」


「ん~今は寄り道しない方が良いかなぁ~?」


「砂漠の町へ抜けるなら森の奥へは入らず川沿いを行った方が早よう抜けられるが?」


「早く森を抜けよう…今はエルフ達に会わせる顔が無い」


「エルフの娘の事じゃったらとうに伝えて居るぞよ?」


「あぁ…それだけじゃ無いんだ」


「どういう事じゃ?…なぜ会うのを避けるのじゃ?」


「深淵の音だよ…エルフ達に恐怖を与えてしまう…」


「言っている事が分からんのぅ」


「ねぇねぇ…この世界は幻という事と関係あるお話~?」


「む!!?騎士…お主も気が付いたのかえ?」


「魔女も知っているのか?」


「魔王は死ぬ間際に人間に呪いを掛け滅んだのは知っておる…何の呪いかは知らんが…」


「この世界は幻だと気が付いた…世界は200年前から何度も同じ繰り返しをしている」


「ふむ…お主もそう感じたか…それがいわゆる次元の交差なのじゃ」


「何度も夢で見ている…ただ覚えていないだけ」


「それを夢幻と言うのじゃ…覚えておけ」


「夢幻…夢幻の世界…」





川沿い


エルフの里へは向かわず川沿いの平坦な場所を旅する


森の中と比較して日の光が射すから暖かく魚を獲って食べる事も出来た


森を歩くよりも馬の負担が少ない分進行も早い



「そなたらは一時も離れんのじゃな」


「わたしと騎士は鎖で繋いでるの~ウフフ」


「のう騎士や…わらわは少し思い出した事があるのじゃが…」


「何かな?」



わらわは光の国の姫じゃった…


世界が魔王に滅ぼされようとしておった200年前


どこからか預言者が現れたのじゃ


その預言者は異世界から勇者が現れると言い残し


数日後に亡くなったと聞いておる


わらわはその言葉を信じ、わらわの塔…光の塔で祈った


ほどなくして予言の通り…勇者が舞い降りた



「今思えば…その預言者は何故勇者が現れると知っておったのじゃろう?」


「この世界が夢幻じゃったとしてどの時点から夢幻が始まっとるのじゃろう?」


「どの時点?」


「うむ…200年前よりもっと昔から繰り返しては居らんかという可能性も有るのじゃ」


「それは知る術が無いよ」


「そうじゃな…」





騎士達は木の洞に寝床を作り体を休めていた


僧侶は騎士の懐に抱かれ夜の森で耳を澄ませる


葉のこすれる音…しずくの音…虫の這う音…遠くに聞こえるウルフの遠吠え…


そこは音に溢れ…生命の息吹を感じる事が出来る



「森の中って色んな音がするね」


「君の心臓の音も聞こえるよ」


「なんかエルフの娘が精霊樹に生まれ変わりたいって言ってたの分かる気がする」


「そうだね…」


「ねぇ…こんな事聞くのすごくいやらしいんだけど…」


「んん?」


「エルフの娘と…何か関係あったの?」


「無いよ…彼女とはそう言うのじゃない」


「変な事聞いてごめんね」


「ただ…恋とか愛とかじゃなくて通じる物が有ったのは認める」


「うん分かってる…」


「それはきっとこの世界の真理なんだ…だから彼女を救わなければならない」


「救う?」


「キマイラにされて戦争の道具にされてる…森へ還さないといけない」


「分かった…私も手伝う」


「ありがとう…」


「いいの…」


「ところで僧侶?僕の貝殻を持ってないかい?」


「あるよ?どうするの?」


「ちょっと確認したい…」



貝殻を耳に当てる



「何か聞こえる?」


「やっぱり聞こえない…どうして…」


「ほえ?」


「僕の音が聞こえない…深淵の音が消えている」


「ねぇねぇ深淵の音って何~?」


「いや…何でも無いんだ…気にしなくて良いよ」


「ずる~い…教えてよぅ」


「まぁ…なんていうか…嫌な音なんだ…上手く説明できない」


「そっか…魔女は寝たかなぁ?」


「どうだろう?向こうの洞で寝息は聞こえるね」


「だっこ」


「良いよおいで」



2人は命の息吹に溶け込んだ…




深夜


騎士は森の音を聞きながら浅い眠りに誘われて居た


ふと意識を失いかけたその時…近付く何かの足音を感じた



「ハッ…」


「んがががすぴ~~んがががすぴ~」



僧侶は気持ちよさそうに熟睡している



(何か居る…)



その足音はこちらを察知したのかその場で止まった様だ



「僧侶…起きて」…軽く揺さぶる


「うふ~ん…もうだめぇ…」


「寝ぼけてないで…早く起きて」


「何事じゃ?」…魔女が声を聞いて起きた様だ


「何か来る…いや…すぐそこに居る」


「どこじゃ?」…木の洞から魔女が這い出す


「赤い目がこっちを伺ってる…」


「見えんのぅ…」


「魔女!洞の中に入ってて!」


「わらわには何も見えんが…」


「この音は…」



ゴゴゴゴゴゴ



「トロールだ…」


「動かん方が良いか?」


「うん…向こうも耳を澄ませてる…僕達を観察してる」


「むにゃむにゃ…」…僧侶は気持ちよさそうにまだ寝て居る


「襲っては来ん様じゃな…」


「しぃぃぃぃ…」



ドスーン ドスーン


ゆっくりと足跡は遠ざかって行く様だ



「去って行く…」


「トロールは森の主じゃ…襲って来んでよかったのぅ」


「……」



---何かおかしい---


---もしかして深淵の音を聞き分けてるのか?---





チュンチュン バサバサ


鳥の鳴き声と羽音が朝を伝える


遅くまで起きていた騎士はいつの間に眠りについて居た



「ふぁ~あ…よく寝たぁ~」…僧侶は昨夜の出来事を知らず呑気に背伸びした


「すぅ…すぅ…」


(まだ寝てるのかぁ~どうしよっかなぁウフフ)


(もう一回だっこしよっかなぁ…)


(でも寝てるの起こすのも悪いかぁ…アレ?)


(こんな大きな石…昨日有ったかなぁ?)


(アレレ~沢山ある~)



チュン チュン



(お!?小鳥さんが石の上から覗いてるウフフ)


「う~ん…ハッ!!」…騎士は急に目を覚ました


「おっは~♪」


「これは…」


「ほえ?」


「トロールに囲まれてる…」


「え?え?どこ~?」


「この大きな石…これはトロールだ」


「小鳥さんしか居ないよ~ウフフ」



チュン チュン



「ま、まぁ…襲う気は無かったみたいだ…」


「寝ぼけてるの~?ねぇ…もう一回一緒にねよっか…」


「魔女を起こして!もう出発しよう」


「えええええ…まだ早いよ?もう一回だっこしようよぉ」


「早く砂漠の町へ行かないと女海賊がうるさいよ?」


「ぶぅ…」




森の端


「なんだか暖かくなってきた~ウフフ」


「エルフには会わず森を抜けられそうじゃの」


「火を使わなきゃエルフの森も危険じゃないんだね~魔女の照明魔法のお陰かも~」


「風下だったのもあるかな」


「もうすぐ砂漠の町だよね?はやく体洗いたいよぅ…」


「そなたらは体洗うときも鎖は外さんのか?」


「うふふのふ~秘密~」


「ヤレヤレじゃな」


「もう直ぐ森を抜けそうだ…少し馬を走らせようか」


「速歩で良いか?」


「そうだね…僧侶落ちない様に掴まってて」


「は~い!」



パカラッ パカラッ


3人は無事に森を抜けた…


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