17.救出

砂浜


僧侶は子ドラゴンに何処だか分からない砂浜に降ろされた


子ドラゴンはそのまま飛び立ち何処かへ飛んで行ってしまった


方向音痴な僧侶は途方に暮れる



「困ったなぁ…こんな所に降ろされてどうしよう」


「ここは何処なんだろう…」


「砂浜沿いに行けば何処かに着くかなぁ」


「え~っと…迷った時は…」


「1:水の確保 2:食料の確保 3:体力温存 だったっけ…」


「もうすぐ日が暮れちゃうなぁ」


「海辺は寒くなりそうだから~林を探さないと…」






柔らかい草を集めて寝床を作った



「よし!これで寝床はヨシと…次は火を起こさなきゃ」


「火魔法!」


「ふ~ふ~ふ~」…集めた薪に火が点いた


「騎士って一人でこんな事してたのかなぁ」


「罠張っておこ~っと」


「罠魔法!罠魔法!罠魔法!」…植物のツタで周囲を囲った


「よし!っと…寂しいなぁ」


「焚き木は足りるかなぁ…お腹空いてきたなぁ…」



その時林の向こうから誰かの声が聞こえた



「明かりが見えるぞ」


「!!?」---まずいかも---


「しっ…」


「どかーん!!!!」


「うお!!!僧侶か?」


「その声は盗賊さん?」


「おいおい探したぜ…囚人!!こっちだ」


「良かった~~ふぇ~ん」


「良かったはいいが…どかーん!!は無ぇだろ」


「ど~ん!!の方が良かった?」


「ま、まぁ…僧侶にしちゃ上出来だなヌハハ」


「クックック寝床まで作ってある」


「もう燃やしちまえ!港町はすぐソコだ…こんな所で野営してるこっちが恥ずかしい」


「え!?そうなの~?」


「この林の先だ…あんまり遅いから探しに来たんだよ」


「えへへ~」


「えへへじゃねぇ!早く来い!」




港町の宿屋


「僧侶見つけて来たぜ…すぐそこの林で野営してやがった」


「大変だったね…ご馳走用意してるよ」


「わ~い!食べていいの~?ウフフ」


「ったく世話がやける…」


「今日は疲れただろうから話は明日にしよう」


「そうだな」


「は~い…もぐもぐ」


「薬剤師!後で例のやつおねがい」


「わかったわ…」




食事の後…


「ぷはぁ~美味しかったぁぁ」


「満足した?」


「うん!!」


「じゃぁこっちに来て?」


「え?何するの~?」


「あなたの髪の毛伸びっぱなしでしょ?」


「そういえば3年くらい手入れしてないな~」


「少し色を変えるのと髪の毛を揃えてあげる」


「色?」


「そう…これからあなたは昔の自分に会う事になるって商人に聞いたわ」


「あ…」


「面倒にはなりたくないでしょう?…だから色を少し変えるの」


「髪の色もお薬で変わるの~?」


「簡単な薬で変わるわ…少し時間掛かるけどね」


「お腹いっぱいになったら眠たくなってきたなぁ…ふぁ~あ」


「目をつぶってて良いわ?」


「うん…そうする~むにゃ」




翌日


「おっは~♪」


「うお!!金髪か!!」


「うふふのふ~今日からエルフになるの~♪」


「エルフ狩りに合わん様にな?」


「さて揃ったね…今後について話すよ」


「おう!!」


「まず僧侶…君は武闘会に出てもらう…知ってるよね?」


「やっぱりそうだと思った~ウフフ」


「武闘会参加登録の為に身分証明を偽装する必要がある…2週間は港町に居てもらう事になるかな」


「オッケ~♪」


「僕と薬剤師と盗賊はその間ちょっと探したい物があるんだ」


「何を探すんだ?」


「ドラゴンの話だと予言の書という物が始まりの国にあるらしい」


「なんだそれ?」


「どうやら僕が読んでいた古文書の続きらしいんだ…複製された物が各王国にある」


「城に有るのか?」


「城の書物庫だよ…盗賊と女盗賊で忍び込んで欲しい」


「ふむ…武器屋と防具屋のフリだな?」


「察しが良いね…その通りだよ」


「私と囚人はお留守番で良いの~?」


「君達はしばらくお休みだ…自由にしていて構わない」


「今日行くのか?」


「そうだね…馬車で行って2日かな」




馬車


その馬車は始まりの国と港町を往来する定期便だった



「じゃぁ行ってらっしゃ~い!!」


「おう!エルフ狩りだけは注意しろよ!」



馬車を動かす馭者は慣れた様子で馬に鞭を入れた


ヒヒ~ン ブルル ガタゴトガタゴト



「良いのか?僧侶を自由にして…」


「ハハ良いんだよ…港町で目立つように行動してもらった方が良い」


「なんでよ?」


「僧侶は武闘会に出るから王国にマークされるんだ…僕らとは別の方が良いんだよ」


「ふむ…囚人はそれを知ってるのか?」


「囚人からの提案だよ…上手くやるさ」


「ヌハハ抜かり無いな…ところで予言の書の事だが…」


「気になるかい?」


「あぁ…お前も気になってるんだろ?」


「王国は予言の書に記されている予言を回避する為に軍事力に力を入れているらしい」


「何!?」


「ただ他国を凌駕する為じゃないかもしれないんだ…気になるだろう?」


「そんな話聞いたこと無いぞ?」


「多分機密事項だろうね…ただ僕は真実が知りたい」


「そんな重要機密が簡単に盗めると思うか?」


「解読する前の原本の写しなら割と沢山出回ってるってさ」


「じゃぁ解読にまた時間が掛かるな」


「ハハハその通りだよ…僕はもう本を読むくらいしか君達の役に立てないからね」


「心臓は悪化してるのか?」


「僕はもう薬剤師無しでは生きていけないよ」




始まりの国


この国は冒険者が初めに訪れる国として広く知られている


若い冒険者が集い近隣の村を襲撃するゴブリンなどの魔物退治の拠点になっている


馬車に乗って訪れた商人と盗賊…薬剤師は熟練の冒険者に位置する


だから他の冒険者とは視点が違いその行動も活動する場所も一線を課す



「さあ!付いたぜ!フードは深く被れな?」


「分かって居るさ…薬剤師も顔を隠してね」


「フフ隠密行動なのね?」


「まず防具屋に行こう」


「んむ…女盗賊に会うのは久しぶりだな」


「ハハ気になるのかい?」


「薬漬けになってなけりゃ良いが…」


「防具屋は何処かな?宿屋の近くらしいけど」


「あそこじゃねぇか?」




防具屋


他の冒険者を横目に盗賊は店主の前に真っ直ぐ進んだ…



「いらっしゃいま…せ」


「よう!変わってないな商売はどうだ?」


「来月の武闘会のおかげで良く売れています」…周囲の眼を気にしている


「そりゃ良かった」


「装備品をお求めでしたら奥の部屋に…」


「そうか…じゃぁ奥の部屋から見させてもらおう」



案内されるまま奥の部屋に入る


女盗賊は周囲を気にしながら小声で言った



(来るなら来るって先に言ってよ!!)


(まずかったか?)


(衛兵に少し疑われ出してる…何処に監視があるか分からないのよ)


(悪かったな…今晩宿屋に来られるか?)


(分かったわ…配達で行くから待ってて)


(何か買っていった方が良いか?)


(当たり前でしょ!)



「ゴホン!じゃぁこの皮鎧を頼む!」


「かしこまりました…サイズを合わせて配達致します…」


「ええと…後払いで良いか?今持ち合わせ無くてよぅ」


「配達時にお支払い頂ければ…」


「じゃぁ頼むわ」





宿屋


日が落ちて暗くなってから皮鎧を持参した女盗賊が宿屋を訪れた


コンコン



「装備品をお届けに参りました…」


「鍵は開いているから入ってくれぇ」



ガチャリ バタン



「やぁ!女盗賊!久しぶりだねぇ」


「事前に連絡くらいして欲しいわ」


「ハハいつも感謝しているよ」


「今回は私を迎えに来たのかしら?それともまた何かやらかす気?」


「両方だよ」


「危険な仕事じゃないでしょうね?」


「結論から言うよ…武闘会の後に君は僕達と一緒に来てもらう…それと」


「それと?」


「最後の隠密だよ…城の書物庫から『予言の書』という物を盗んできて欲しい…盗賊と一緒にね」


「書物庫は衛兵宿舎の反対側ね…入るのは簡単…でも時間が掛かりそう」


「書物庫で『予言の書』を探すのは俺がやってやる…どのくらい時間が作れる?」


「武器と防具の交換で大体30分ね…それ以上は無理」


「次に城へ交換に入るのはいつになるんだい?」


「10日後」


「そうか…じゃぁ盗賊は10日間防具屋で働いておいた方が良さそうだね」


「なぬ!!?」


「フフ怪しまれないようにするんだったらその方がいいわね」


「良いじゃないかハハハ…どうせ10日間はヒマさ」


「お手伝いという事で良いかしら?」


「ん~む…仕方があるまい」


「僕と薬剤師はその間情報でも集めておくよ」




翌日防具屋


「おいおい…これ全部手直しするのか?」


「その装備品を直して衛兵宿舎の壊れた装備品と交換するのよ」


「防具屋は結構大変だな」


「その大変な仕事を私にやらせてたって訳よ」


「武器屋の方が良かったかもな」


「武器屋はもっと大変」


「うへぇ…」


「早くしないと食事に間に合わないわよ!」


「お前もヤレよ」


「私は店番よフフ」





10日後…


始まりの国の衛兵達は規律が厳しくそう簡単に城へ入る事が出来ない


2人は予定通り衛兵宿舎の壊れた装備品を交換する為に荷車に物資を乗せて城へ向かう



「城門をくぐったら書物庫まで行って!左手にある建物よ…見つからないように」


「分かった…書物庫には誰も居ないよな?」


「普段は人が入ることは滅多に無いわ」


「他に注意する事は?」


「もし衛兵に見つかっても騒ぎは起こさないで…私が何とかするから」


「わかった」




城門


「止まれ!ここは始まりの国王様の城である」


「武器と防具の交換に来ました」


「もうそんな時期か…むむ?もう一人は誰だ?」


「見習いです…人手が足りないので来月から配達を任せようかと」


「ん~む…武闘会の前では仕方がないか」


「入ってもよろしいでしょうか?」


「防具屋の店主…今度食事でもでどうか?」


「はい!喜んでお受けいたします」---あなたは下心見え見えなのよ---


「衛兵!門を開けよ!」


「ハッ!!」


「ハ~イ!!」



衛兵達は鉄の落とし門を開く


盗賊は衛兵時代の若い僧侶を横目に荷車を引いて城門を潜った



「では失礼します」


「どうも…」---随分ガキンチョだわな---



門を潜り終えた所で女盗賊は小声で促す



(今よ!!)


(分かった…上手く時間稼いでくれ)


(早く行って…)





書物庫


ここは重要な物がある訳では無いから衛兵の見張りは無い



(まず鍵開けか…)カチャカチャ カチン


(楽勝、楽勝…)



難なく扉を解錠し書物庫に入った


そこには大量の書物が棚に収められており整然と並んで居た



(うお!!こりゃまずい…書物が多すぎる)


(予言の書って言うぐらいだからそれなりに風格のある書物か?)


(まいったな…書物の色だけでも分かっていれば探しやすいのによぅ…)


(原本の写しとか言ってたな…まてよ?)


(解読する必要があるって事は俺は読めない書物だな)


(背表紙で読めない奴を探せば良いか…あれ?無いぞ?)



書棚を一つ一つ周り予言の書を探す


しかしそれらしい書物は見当たらない



(おかしい…やっぱり無い)


(ん?まてよ?あれは地図か…)


(まぁ見たことのある普通の地図だが…地名が読めんな)


(まさかこれか?…矢印と謎の文字)


(ちぃ…時間が無い!この地図がきっとそうだろう…)


(俺の知らない文字がびっしり書かれてる…)


(まぁ違ったら夜にでももう一回来るか…)



盗賊はその地図を懐に隠し書物庫を後にした




衛兵宿舎前


装備品類の交換を終えた女盗賊は衛兵隊長に最後の挨拶をしていた



「はい…では武闘会の後に又交換に参ります」


「ご苦労であった!まっすぐ帰られよ」


「え、えぇ…」


「んん?どうした?」


「いえ…忘れ物は無いかと思い直しております」---遅い---


「あぁ何か見つけたら防具屋まで届けさせる。心配しなくて良い」


「はい…よろしくお願いします」


「まだ何かあるのか?」


「いえ…一緒に来た見習いが何処に行ったのかと思いまして…」


「なに?もう一人来ていたのか…」



向こうの方で…



「ねぇねぇ防具屋さんの見習いさんはここで何してるの~」


「どかーん!!」


「わお!!ウフフ~ばっかみた~い…でも面白~い」


「驚かそうと思ったんだが…」


「おい!衛兵を小馬鹿にするな!衛兵!お前もしっかり見張っていろ!」


「は~い!!」


「すみません見習いが失礼しました…ただいま連れて返ります」


「うむ…気を付けてな」


「ありがとう御座います隊長様」





街道


「まったくヒヤヒヤしたわ?上手くいった?」


「ん~む予言の書らしき書物は無かったが…見たことの無い文字が書いてある地図を見つけた」


「見せてもらって良い?」


「構わんがお前に読めるか?」


「う~ん…確かに読めないわね」


「もう同じ手で書物庫に入るのは無理だな」


「そうね…私も大分目を付けられてる」


「まぁ…まずこの地図を商人に見てもらうだな」


「私は防具屋に戻るからあなたは宿屋に行って」


「おう!夜は宿屋に来いよ?」


「フフ行けたら行くわ」




宿屋


「予言の書かどうか分からんが謎の地図を持ってきたぜ」


「待ってたよ…見せて」


「俺には読めん文字が書いてある」


「いや僕にも読めないんだけど…でも待てよ?」


「何か分かるか?」


「×印の位置が…これは辺境の村辺りかな?」


「んむ…その辺りだ」


「各王国の場所には沢山文字が書いてあるね…何だろう?」


「王国に起きる惨事が書いてあったりしてなヌハハ」


「エルフの森は特に文字が多いね」


「こりゃエルフの文字か?」


「それは無いよ…エルフは書物を残さない…オーブを使って知識を残すんだ」


「そりゃ知らなんだ」


「この文字…魔女なら読めたりするかもしれないなぁ」


「お前の持ってる古文書の文字と違うのか?」


「全然違うね…さっぱり分からないよハハハ」


「これが予言の書だと良いな」


「そうだね…まぁ信じよう」





翌日


「じゃぁ盗賊は港町まで僧侶と囚人を迎えに行ってくれるかな?」


「うむ…お前は予言の書の解読か?」


「そうしたい所だけどちょっとね…」


「む?まだ何か考えてるのか?」


「違うんだよ…薬剤師の飼ってるスライムが分裂しそうなんだ」


「なぬ?増えるのか?」


「僕も見ておきたいと思ってね」


「ヌハハ勝手にしろ」


「新たな命の誕生の瞬間だよ?馬鹿にしちゃいけない」


「まぁ俺は興味ないな」


「免疫がそのまま遺伝するか…変異するか…興味深いよ」


「あ~分からん分からん…港町まで行ってくる…じゃぁな!」




港町の宿屋


「よう!戻ってきたぜ?…暇そうだな?」


「馬鹿にしているのか?お前が戻って来たと言う事は迎えに来たのだな?」


「まぁそうだ…僧侶はどうした?」


「教会に行っている」


「そうか…武闘会の参加証はもらえたか?」


「あと1週間掛かる」


「なぬ!?えらく遅いじゃ無えか…」


「塩不足の影響で羊皮紙も不足してるらしい」


「そんなところにも影響出てるのか…原皮の保存が出来んってか…」


「そのようだ…だが武闘会には間に合う」


「しょうがねぇ待つか…」


「私も飲み仲間が欲しかった所だ…一人で酒場に行っても虚しいだけだからな」


「ヌハハ酔えんもんな?」


「しかしまぁ物価が上がっちまって旨い物もそうそう食えんくなった…」


「私は食事に興味は無いぞ」


「悪い…嫌味言ったみたいになったな」


「ふん!!」


「どうせ暇なんだろ?シカでも狩りに行か無えか?売ればちっとは金になる」


「一人で行って来い」


「一人じゃ運ぶの大変なんだ…シカの生き血は全部やるからよ」


「ふむ…まだ試したことが無かったか…」


「おーし!決まりだ!日が暮れる前に一匹狩るぞ!」



こうして盗賊と囚人、僧侶はそれぞれ1週間過ごす事になる




1週間後


武闘会の参加証を無事入手し3人は馬車にて始まりの国へ向かう



「お~い!!早く乗れぇ!!」


「……」…僧侶は元気がない


「どうした?腹でも痛てぇのか?」


「教会で司祭様に言われたことがあるの…運命を受け入れなさいだって」


「なんだ?運命って…」


「わかんな~い…私の運命って何かなぁ?」


「さぁな?良いから早く乗れ!騎士を助けに行くぞ」


「うん…でもこわいの」


「大丈夫だ!」


「また同じ場面に出くわして…違う事が起こるのがこわいよぅ」


「良く分からんが…それを超えればやっと前に進みだす…その筈だろ?」


「うん…でもこわいよぅ…わたしが消えてしまいそうで」


「なるほど…」


「違う事が起きた時…わたしが消える気がしてこわいの」


「運命を受け入れろって事だな」


「うん…」


「おい全員乗ったから馬車を出して良いぜ?」



馬車を動かす馭者は黙って鞭を振るい馬を歩かせ始めた



「さてぇ…シカ狩りで稼いだ金で酒を買って来てんだ…僧侶!酒でも飲めば気分晴れるかも知れんぞ?」


「飲むぅ~」


「おう飲め飲め…馭者の分もあるぞぉ」


「ええ!?いやそんな…」


「馬のケツばっか見てたら飽きるだろ…飲んで楽しく行くぞ」


「ハハ…」


「ふむ…酒を飲みながら馬車に揺られるのも悪くない…私も頂くぞ」


「シカ肉も有んのよ…干し肉だがまぁツマミだ」


「食べるぅ~モグ」


「食って飲んで寝りゃ不安もぶっ飛ぶ…な?」


「楽し~い…ウフフ」


「お前はそれで良いんだ…さて俺も飲む!!」




始まりの国の宿屋


「やぁ!遅かったね」


「塩不足で羊皮紙も不足してるんだとよ…武闘会の参加証も発行が遅れた」


「ハハハそんな所まで影響が出てるんだ」


「スライムは無事に分裂したか?」


「え!?分裂?なになに?」…僧侶は興味が有る様だ


「すごい事が分かったよ…スライムは分裂して片方は変異するんだ」


「え?え?え?」


「変異というか…進化になるのかな?」


「まぁ無事に増えた訳だな?」


「見せて見せて~ウフフ」


「ほら!2匹」…薬剤師は両手にスライムを乗せて見せた


「小さくなってる~かわいい~」


「毒をあげないと大きくならないのよ」


「分裂を繰り返すといつか知能の高いスライムが生まれるかもね」


「ねぇねぇどうやって見分けるの~?」


「わたしもどっちがどっちか分からなくなった」


「わたしもほし~い」




翌日


「もうすぐ武闘会だ…ドラゴンには足枷で繋がれた騎士だけ助けて欲しいと言って置いた」


「わたしは何をすれば良いのかなぁ?」


「君は足枷に繋がれた騎士に回復魔法を掛けて欲しい」


「え!?回復魔法?」


「それが一番重要なんだ」


「牢の中で捕えられている間は自分が正気では無くなる…憎悪が膨れ上がる」囚人が話しに割り込んだ


「そういう事なんだ…救えるのは僧侶…君しか居ない」


「うん!わかった…目いっぱい癒してあげる」


「はっきり言うと今の騎士は祈りの指輪で看守の力を吸って手に負えないくらいの力を持ってる筈」


「うん…」僧侶の顔が曇る


「正気に戻してあげないとドラゴンだって殺されかねない」


「ドラゴンを倒すとかそんなに強くなるもんなんか?」


「かつての魔王もそうやって力を得たのさ」


「魔王になりかかってるってか…」


「そう言い変えても良いかも知れないね」


「騎士を救出した後はどうするつもりよ?」


「ドラゴンは海賊船まで騎士と僧侶を運んでくれる筈…後で海賊船で落ち会おう」


「やっと騎士に会える~」


「僕達は観客席かな…混乱に乗じてさっさと始まりの国を離れよう」


「そりゃ先に馬車を借りといた方が良さそうだ」


「そうだね…女盗賊も同行するから話を合わせておいて貰うと助かる」


「分かった…」





武闘会2日前の監獄塔


隊長は国王の指示で幽閉されている騎士の居る監獄塔へ訪れた


ツカツカツカ…


その足音で誰が来たのか分かる



「……」



隊長は騎士の顔を見るなり何も言わず見下ろした


その眼を見つめ返すと眼を逸らされた



「今日は尋問で来た訳ではない…お前に伝える事が有って来た」


「お前の言う通り…武闘会の2日前に選ばれた勇者が来た」


「これで意味は分かるな?」


「国王はお前を試して居るのだ」


「お前は私に結局何も話さなかったが…何故来ることを知っている?」


「ぐっぐっぐっぐ」


「衛兵に内通者が居るとも思えん…お前は本当は何者だ?」


「お前の望み通り…選ばれた勇者と闘う事も決まった」


「選ばれた勇者に何か伝言でもするつもりか?」


「ぐっぐっぐっぐ」


「やはり何も語らんか…」


「正直に言ってやろう…私はお前が恐ろしい…その恐怖にムチを振るい酔いしれた」


「だが同時にお前をどうしても失いたく無いとも思った」


「だから…お前の望みが叶い何か起こるならばどうか…生き延びろ」


「私はその行く末を見守ってやる…話は以上だ」



隊長はそう言って背中を向けた



「最後に…ムチを振るって済まなかった」


「それと同じ痛みを想像して快楽に溺れた私を許して欲しい」


「こうやって言葉に出してお前に言うのは…屈辱だ」


「これが私への罰…そして懺悔」



隊長が背を向けた理由が分かった


顔を見せられない程の屈辱


誰にも言う事の出来ない恥ずかしい部分を本人の前で告白する事が


ケジメの付け方だった…



---生き延びる---


---そして復讐してやる---


---その時が来る---






武闘会当日


あの時と同じ空は曇天模様


立場が変わって僕は檻の中…



(ドラゴンはどこだ?)


(僧侶達は何処に居る?)


(観客席の何処かに居るのか?)


(もう記憶がおぼろだ…)


(監獄で過ごした時間が長すぎた…)



ガチャン ギギー


審判に扮した隊長が檻を開いた



「出ろ!!次はお前の番だ!!」






闘技場


「さぁいよいよ選手が出て参りました」


「正統派剣士と正統派僧侶の対決はAブロック…なぜか僧侶の装備はこん棒です…どうなるのでしょうか?」


「魔法剣士と聖戦士の対決はBブロック…聖と魔の魔法対決!!魔法剣士は今回の注目選手です!」


「続いて勇者とレンジャーの対決はCブロック…噂の勇者の実力はいかに!!」


「そして盗賊と謎の囚人の対決はDブロック…囚人は重い足かせを付けての対戦となります」


「少し天気が悪くなって来ましたが決勝までは持つでしょう!」



歓声に混じって色々聞こえて来る…


魔法剣士さまあああ!!好き~~~


あいつが勇者?えらく軽装じゃねえか…


うぉぉ囚人が出て来たぞー…えらく雰囲気あるな…


あの女聖戦士はかなりの美人らしいぞ?



その時…頭の中でピリリと軽い頭痛を感じた


この感じは経験がある…音だ…あの音が聞こえる


何かが共鳴する音…何かが交わる音



「おい!お前は向こうだ!」



何も説明されて居なかった


司会の話す言葉も耳に入って来ない


言われるがままその壇上へ向かう





闘技場Dブロック


対戦相手は向こう側で準備運動をしていた


何もかもがスローモーションに見えて興味が無かった



(懐かしい…あの時のままだ)


「お前はこれを使え!!」


(鉄槌…)


「両者!!闘技場へ上がれ!!」


(対戦相手は誰だ?)


「ぐあっはー!!どっかで見たと思えば…まだ囚人やってんのかぁ?」


「!!?」---あいつは---


「今度こそギッタギタのボッコボコにしてやんよ!」


「うががががが」---怒りが溢れて来る---


「こっちぁ即効性の毒ナイフだ…一発で決めてやんよ」


「ヴォオオオオ」---収まらない---


「お~恐えぇ恐えぇ…負け犬にはお仕置きが必要だな」



「3…2…1…始め!!!」



「ひゃっほ~う」…相手は始めの合図を待たずいきなり襲い掛かって来た…グサ!!


「ぐあっは~即効性の毒だぁ!!」


「どうだぁ?苦しいか~?…ん?動けるの…か?」


「ヴォオオオオ」


騎士は鉄槌を振りかぶる事無く渾身の力を込めて相手へ振るった


鉄槌は空間に穴を開けたかのように爆発音を発した…ドカーーーン!


「ぐはぁぁぁぁ」


相手は鉄槌を防御しようとしたが全く意味が無い


そのまま地面へ叩きつけられ破裂した


審判は驚きのあまり声が出ない


騎士は怒りのあまり我を失い攻撃を止めようとしなかった



「し、勝負あり!!」



慌てて静止した審判の声は騎士に届かなかった



「え、衛兵!!止めろ!!」


「は、はい!!」


「ヴォオオオオ」…騎士は狂った様にその肉塊を叩き潰す


「押さえろぉ~!!ぐあぁぁ」


「もっとだ!!押さえつけろぉ!!」



その後数十人の衛兵が駆けつけ必死に取り押さえようとしたが怪我人が増えるばかり


あまりに凄惨な現場を見た観客たちは絶句した



あの囚人ヤバいぞ…狂ってる


やっぱ魔物なんじゃ無いか?


見ろ!攻撃が止んだぞ…


対戦相手グチャグチャだな…


アレで手当て間に合うんかな?


どうせ魔法で元通りなんじゃ無えか?



試合が終わり再び檻に戻る囚人の姿を見て会場は落ち着きを取り戻す


その注意は別の闘技場へと移って行った






騎士は自分の力に戸惑って居た


指輪の力でいつの間に誰かの力を吸い取って居た事に気付いて居ないのだ


ただ怒りで我を忘れ何を起こしたのか理解出来ない



「ハァ…ハァ…」



---自分が自分では無いみたいだ---


---次は昔の自分と戦う事になる---


---自分を保てるか?---


---今は偶然銀のアクセサリーが鳴って正気を取り戻した---


---これが無いと又何を起こすか分からない---


---これが憎悪なのか?---


---自分の中に住む魔王か?---



「うがぁ‥‥」



---頭が割れる様に痛い---


---又あの耳鳴りが聞こえる---



ボエーーーーー



---何処から聞こえるんだ?---


---上か?---



ボエーーーーー




闘技場


「準決勝の組み合わせを発表します」


「正統派剣士 対 怒涛の魔法剣士」


「そして期待の勇者 対 謎の囚人」


「少し小雨がパラついて来ましたが問題ないでしょう!!」


「次の試合は試合終了の早かった勇者vs囚人から行います」



ボエーーーーー



おいさっきから何だこの音は?


空から聞こえて来て居る様な…


雲の上に何か有るのか?


それよりさっきの囚人…凄かったな?


こりゃ面白い試合になりそうだ





闘技場中央


ガシャン!! ギギー


檻の扉が開き騎士はゆっくりと闘技場の中央へ進む


向こうにはまだ若かった頃の自分がこちらを見ている事が分かった



「いよいよ暴れん坊の囚人が出て来ました…対戦は如何に!!」



騎士はこれから起こる事を知っている


大きく息を吸い込み正気を保って居られる様に心を落ち着かせた



「グガガガ…グァ…プシャー」



対峙する自分を見てあまりに小さく弱々しく見えた



(勇者下がれ!!)…そう言ったつもりが上手く声が出ない


「何!?」


「それではこれより準決勝を始める」


(近づくと死ぬぞ)


「黙れ囚人!!両者位置に付いて…」


(来るな!!)


「い…いくぞ!!」



勇者は剣を抜いて身構えた…



「3…2…1…始め!!!」



一陣の風が吹き抜け静寂…



「両者にらみ合ったまま動き無し…互いの動きを見ているのでしょうか?」


「来ないならこっちから行くぞ!」…勇者はハヤテのごとく切りかかって来た


その動きはスローモーションの様に見えて簡単にはじき返す事が出来た…ガツン!


「っつぅ!!」…たじろぐ勇者


(やめろ!!)


軽く押しのけるつもりで振るった鉄槌は勇者を跳ね除けた


「ぐあああああ」勇者は後方に大きく吹き飛ばされる


(下がれ!!)---上だ!!来てる---


「何をしているバケモノ!!お前の望みを忘れたのか!」


「え?!」


「勇者!!何を躊躇している!早くこのバケモノと戦え!」


「くっ…えーい!!」…再び切りかかって来る勇者


騎士はその時上空を旋回しているドラゴンを気にしていた


勇者の剣はザクリと騎士の腹部を捕らえる


(うぐぅ…仕方ない…こう言えば止まるか?魔王は居ない!!)


勇者の剣戟は止まらない…その攻撃を避けながら続ける


(今ドラゴンが来る!!近づけば殺されるぞ!!)


「何?なんだって?」…勇者は息を整えながらこちらを向き直す


「手を休めるな勇者!!戸惑っている暇は無いぞ!!」


勇者を焚きつける隊長の声に応答したのか膝を沈め次の動作に入ろうとしていた


(下がれぇぇぇ!!)



振るった鉄槌は一瞬で勇者を捕らえ遠くへ跳ね飛ばした



「ぐあ…くぅぅぅ」…勇者は強烈な一発を食らい身動きが取れないでいる



ギャオーース!!


その時巨大なドラゴンが宙を横切った



「ド、ドラゴン?」


勇者は目の前を横切ったドラゴンに驚いて居た


「し…試合どころじゃなくなったな」


(迎えに来た…筈だ)


「何?」


(そうだ…ここで指輪を返すんだ)


「どういう事だ」


「ヴォォエー」騎士は指輪を吐き出した…コロン


「指輪?」


(魔女に返せ…魔女の塔に居る!)…吐き出した指輪を放り投げる


「マジョ?おい!どういう事だ」


(北の森だ!北へ行け!!)


「モリ?…モリって何だ?おい!」


(僧侶!!何処だぁぁ!!)



ギャオーース


巨大なドラゴンが咆哮をあげながら急降下してくる


大混乱となった闘技場だったがその場に居た衛兵達は弓を取り出し応戦する構えを見せていた


空中に放たれる無数の矢と魔法


それらを掻い潜り炎を吐き散らしながら巨大なドラゴンが地上へ降り立った



ドスーーーン!!



巨大な的に衛兵が放つ矢が降り注ぐ…ドラゴンはそれを嫌がったのか衛兵に向けて炎を吐く



ボボボボボボボボ ゴゥ!!



そのドラゴンが吐くブレスを盾で一身に受けながら防御する金髪の女聖戦士が気になった


「私がおとりになる~」


「何処に行く?!」


「勇者の所まで~援護してね~」


「ドラゴンさんこっちこっち~」


「そっちじゃないよぅ」


その女聖戦士は上手くドラゴンを誘導している様だ


騎士は茫然として立ちすくんで居た


何故ならこの光景は何度も見ているから…



---思い出した---


---この光景は何度も見ている---


---これは魔王が掛けた呪いだ---


---この世界は幻だ---


---ループするように造られている---




ギャオーース バクッ ゴクリ



---ドラゴンの腹に収まり---


---眼を覚ます先はいつも違う---


---そんな幻の世界に僕達は生きている---





---夢---


「回復魔法!あ~もう飽きた~~」


「うぅぅ…」


「あ!目が覚めそうウフフ」僧侶は眼を無理やり開けて見た


「んん?」クルクルした目と合った


「…強制的に目を開けるのは止めてくれないかい?」


「やったぁ!!起きた~~~ウフフ」


「生きてるな…」


「私のおかげかも~ギッタギタのボッコボコだったよ~かっこわる~い」


「その言い回しも止めてくれないかい?」


「ほら勇者ならさ~チョイチョイってさウフフ」


「いたたた」起き上がろうとしたが骨が軋む…


「あれれ~回復魔法足りなかったかな~まいっか~」


「あの後どうなったのかな?」


「え~その話なんか退屈~ちょっと隊長呼んでくるね~」


「え、あ、うん」(どうも会話にならないな)


「じゃね~」…と言って僧侶は部屋を出て行った


(ここに居るって事は何とかなったって事か…)


(ゆっくり寝て居る場合じゃ無いような気もする)



カツカツと近づくあの人の足音…



(なんて言われるだろうか…)



ガチャリと扉が開いた


「おはよう勇者!もう大丈夫なようだな。立てるか?」


「大丈夫さ…ててて」


「大した回復力だな…あれほど重傷でも半日で回復するとは…僧侶の甲斐があったかな?」


「そんなに重傷だったかな?」


「肋骨は全部骨折、内臓破裂、普通なら手遅れだ。フフ相当頑丈に出来てるらしい」


「隊長~わたし横になっても良いですか~?ふぁ~あ」


「寝ずの介抱ご苦労だった。ゆっくり休め」


「ふぁ~い失礼しまむにゃ…」



僧侶が部屋を出て直ぐに鍵を閉められた…ガチャリ



「んん?どうして鍵を?」


「シッ」


「まぁ座れ」…と言って僕の口をその手で塞ぐ


「んむぐぐ」


(大きな声は出すな…昨日の事を少し聞きたい)


(あ、あぁ…)


(私はドラゴン襲撃で町の守備に出たから闘技場で起きた事を見ていない)


(囚人がドラゴンに食われたのは本当か?詳しく話せ)


(え…僕の目の前で一飲みにされたよ)


(何かやり取りは無かったか?)


(やり取りか…僕は囚人が何を言ってたのかはさっぱり分からなかったよ)


(他には何か無いか?)


(そうだ…途中で女聖戦士が僕を助けに来た…その後どうなったのかは分からない)




---違う…僧侶が僕を助けに来た---




---夢---


「ふぁあ~~あ」


「スピースピー」…僧侶は隣で幸せそうに寝て居る


(おはよう…声を掛けると起こしちゃうかな…先に着替えておこう)


騎士は静かに着替え始めた


その時窓の向こうに何かが見えた…


(あれ?なんだあれ?)


(気球だ!!)


「ふにゃーーー」僧侶が目を覚ました


「あ!おはよう」


「うふふ~おはよ~」満面の笑み


「大丈夫かい?僧侶昨日はすごかったね」


「うふふ~」


「だっこ好きなんだね」


「うん♪」


「ねぇ!わたしどうだった?」


「最高だったよ」


「わたしのこと好き?」


「大好きだよ」


「私も騎士が大好き」


「そろそろ着替えなよ」


「は~い」



明るいと恥ずかしいのか僧侶はシーツの中で着替えている



「あれ見て!!」


「なに~?あ!!気球?乗ってみた~い」


「今日行ってみよう」


「わ~い」


「魔女起きてるかな…」


「起こしに行こっか?」


「頼むよ」



---魔女…そうだ魔女に指輪を返さないといけない---




---夢---


「う、ううん…ハッ!?ここは?」騎士は眼を覚まし飛び起きた


「起きたか…えらく強い睡眠薬だったようじゃの」


「ふぇ~ん…捕まっちゃったよぅ」


「みんなエルフに捕まったか…つつつ頭がクラクラする」膝に力が入らない…


「薬が切れるまでおとなしくしておれ…怪我をするでな」


「二人とも大丈夫かい?怪我はないかい?」


「僧侶のおかげで怪我はしておらん…しかし…」


「うん?」


「僧侶の詠唱の速さは関心するのぅ…すべての魔法が無詠唱で発動しておる…」


「シクシク…ウフフ~」顔がにやけた…人に褒められると顔に出る様だ


「あぁ…才能かな」


「わたし達どうなるかなぁ~?」


「どうもなりゃ~せん…エルフは殺生を好まんでの」


「そうだと良いけれど…」


「人間よりも賢く気高い生き物じゃからの…こちらが手を出さぬと分かれば話は通じる筈じゃ」


「騎士はどうして捕まったの~?」


「僕は不意に矢を受けて…振り返ったらエルフが居た。何か言われたけど気が遠くなって覚えてない」


「武器持って行ってなかったもんね」


「うん…迂闊だった」


「それが良かったのかも知れん…武器を抜いたら蜂の巣じゃったろう」


「20人くらいのエルフに囲まれてたの」


「そうだったのか…全然気が付けなかった」


「エルフさんに理由を説明したら許してくれるかな~?」


「さぁそれはどうじゃろう…しばらくは閉じ込められるかもわからんな」


「この牢は閉じ込めておくにしては造りがしっかりしてないような…」


「逃げてもすぐつかまるじゃろうて…ここはエルフの森のど真ん中じゃ」


「走って逃げても出るのに何週間もかかる…か」


「殺す気はないじゃろうからここに居たほうが良いと思うがな…」


「魔女はエルフの事をよく知ってるんだね~どうしてかな~?」


「エルフはかつて魔王を共に滅ぼした仲間じゃよ…人間の仲間であるかは別として」


「そんな歴史があったんだ」


「エルフの寿命は200年程かのぅ…400年じゃったか…まだ生きて居るやもしれん」


「魔女も200歳以上だよね~?でも見えな~いウフフ」


「わらわは219歳じゃ…長生きじゃのぅフフ」


「話し方だけ直せば今の若い子と全然変わらないかな」


「話し方がおかしいのはそなたらの方じゃろう?わらわは普通にしゃべっておる」


「自分の事を『わらわ』とは言わないよ~」


「わらわは王族の生まれじゃ…今はもう無いがの…」


「王族…」



ヒタヒタと足音を殺すように誰かが近づいて来る


長い金髪の髪…透き通るような白い肌…控えめに尖った耳


それはまるで思い描いていた女神の様なエルフだった…



「起きたようね…長老が呼んでいる」


「あ…さっきのエルフ…綺麗」


「人間から見ればエルフはみんなそういう風に見えるのよ…言われて嫌な気はしないけれど…」


振り返ってなびくその美しい髪の毛はサラサラとゆっくり宙を舞う


「ここから出ても良いのじゃろうか?」…魔女はノソリと立ち上がった


「さぁ早く出て。変なマネはしないように」


「あぁ…ありがとう」


「しっかり狙ってて!」…彼女は後方で待機する男性のエルフにそう言った


「よいしょっと」…僧侶も魔女の後を続く


「あなた達が変な事を起こさないように弓が狙っているのを忘れないで…」


「あぁ何もしないよ」


「では後ろを付いてきて」



---エルフの娘…そうだ僕は彼女を森に返さなければならない---




---夢---


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「ううううん…」


僧侶は騎士の眼を無理やり開いた


「フーーーー…」


「強制的に目を開けるの止めてくれないか…それから目に息を吹きかけるのもやめて欲しい」


「ウフフ~起きた~」


「お!?起きたか…すごい回復力だな。まだ半日だぞ」


「あぁ…どうなったのか記憶に無い」


「まぁ何とかなった。今は休んでろ」


「あぁ…このままで言いかい?ひざ枕が気持ち良いよ」


「良いよ~ウフフ」


「商隊から4人傭兵が居なくなった。どうやらずっとお前を付け狙ってたようだな」


「そうか…迷惑をかけたね」


「トロールを引っ張ってくるとは…あいつら襲撃に慣れていやがる」


「もう戻っては来ないだろうね」


「そうだな…トロール3体ぶつけて無事に済んだとは思わんだろう」


「乗ってた馬車は?」


「荷物積み替えて置いてきた。馬は無事だ」


「軽微で済んで良かった」


「うむ。本体にぶつけられてたら今頃大変だったな…そういえば」


「ん?」


「お前の武器…グレートソードの方が向いてるかも知れん」


「あぁ初めて持ったけど僕もそう思った」


「今までの武器だと腕力が余ってるから勿体無い」


「そうだねしばらく使ってみるよ」


「ねぇわたし今日からこっちの馬車で良いかなぁ~?」


「どうしたの?」


「商人が1人でブツブツ言っててさぁ~遊んでくれなくなったの」


「はは~ん何か考えてるな?」


「僧侶は商人の護衛だからしっかり仕事頑張って」


「騎士と一緒に寝たいなぁ…」


「それは又今度…」


「ぶぅ…」



---君はいつも隣に居た…君に会いたい---



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る