16.滅びの兆し

1ヵ月後_海賊船


その後商人達は海賊王に合流し作戦遂行の為の準備をしていた


海賊達は素行の悪い荒くれものばかりだったが海賊王とその娘の言い付けだけは確実に守って居た



「この義手と義足すげぇな…」盗賊は海賊王の持つ謎の装置に目が行った


「それはなぁ…機械の国で作った特注品や…力の魔石と風の魔石が入っとる」


「どんな効果だ?」


「義手の方は力の魔石でな?重い物でも持てるようになるんや」


「ほぅ…」


「義足の方は風の魔石や…すばやく動けるんや」


「でもなんでこんなに沢山あんのよ…」


「わいの趣味や…海賊王たるものかっこ良くなくてはイカン」


「元がかっこ悪いのはどうする?」


「なんやとぅ!!?」


「まぁまぁまぁまぁ…パパ落ち着いて」


「うはぁ…恐えぇ恐えぇ」



海賊王の娘…女海賊はその父の影響を強く受けてど派手な振る舞いをする少女だった


ひと際目を引くその素行は海賊の長になるには十分な素質があった




船長室


「じゃぁ良いかな?…海賊船は終わりの国の裏航路で待機」


「わかっとるわ…民を避難させれば良いんやな?」


「うん…行き先はこの裏航路を通って辺境の村に降ろせば良い」


「辺境の村に全部移せるんか?」


「大丈夫だ…十分な広さと最低限の食料も自給できる」


「怪我人も運んでえーか?」


「辺境の村には薬草が大量にある筈だ…よほど足りる」


「それで…終わりの国の地下墓地への横穴は完成したのかな?」


「大丈夫や!!教会の裏から斜めに地下墓地まで掘った…柵を上げればわんさか出てきよるで」


「よし!最初は俺と囚人が柵を上げに行く」


「そうだね…騒ぎが起きた後は女海賊がゾンビを導いて…良いかい?」


「わたしに不可能は無いよ!!」


「ドラゴンの解放は囚人と盗賊の2人でお願い」


「わかっている」


「僧侶と薬剤師は僕と一緒に怪我人の処置だ」


「は~い」


「女海賊は最後に囚人と盗賊が脱出するまで教会付近で待機してて欲しい」


「はいはい分かってるって!!わたしに不可能は無いって言ってるじゃん!!」


「頼もしいね…じゃぁ行こうか…」


「……」…僧侶は少し気になって居た



---わたしたちがやっていることは正しいことなのかな?---


---この先どうなっちゃうんだろう---





終わりの国


盗賊と囚人は密かに終わりの国へ入国した


体格の良い2人が揃ってフードで顔を隠し足早に街を抜けるその姿は


これから起こる惨事を予感させる怪しさを持って居た



(囚人!顔を隠しておけ!お前はこの国じゃ有名すぎる)


(余計な世話だ…早く行くぞ)


(おい!慌てるな)


(クックック…無様な国王の姿が目に浮かぶ)


(そんなに酷い仕打ちを受けたのか?)


(家族を全員な…教会はこっちだ…先に家族に会いたい)


(わかった…手短に済ませろ)





教会


囚人はある墓石の前で立ち止まりそこで胸に手を当てた


盗賊はその墓石に記された名を読み…囚人の生い立ちを察する



(そうか…子供が居たのか)


(この日の為に苦難の道を歩んできた…涙が出ないのが悲しい)


(死者だとバカにしてきて済まなかった…お前の心はまだ人間のままだ)


(この下に眠る私の家族がゾンビとして蘇らない事を切に願う)


(あぁ今回で決着付けるぞ…悪いがそろそろ時間だ)


(分かった…行こう)


(教会の裏だったな…あの林の中か?)


(恐らくそうだろう…待て!!…上空でドラゴンが旋回してるな)


(ん??高いな…あんな所から見えるんか?)


(見られて居てはモタモタ出来んな…急ごう!)





林の中の洞窟


ヴヴヴヴ ヴヴヴヴ


洞窟の奥からゾンビの唸り声が聞こえて来る…


盗賊は入り口をふさぐ柵を取り除き中へ入った




「おっし!!ゾンビを誘ってくる!」


「お前はムリをするな…後で解錠の役がある」


「分かってる!だが俺の脚力もバカにはならんぞ?」


「クックック…まぁ良い好きにしろ」



数分後盗賊は洞窟から出て来る



「うはぁ…大量だぜ!!100は居るぞ」


「このまま洞窟を出ろ」



2人は街道の方に向かって走った


洞窟からは続々とゾンビが這い出し辺りを彷徨う





街道


そこでは普段通りの日常が有った


露店で買い物をする客…愛を語る恋人たち…これから起こる惨事を誰も予測はしていなかった



(そろそろ騒ぎ立てるか)


(よかろう)



「助けてくれええええゾンビの大群が出たぁぁぁぁ!!」


「早く逃げろおおおおぉぉぉ」


「すごい大群だぁぁぁぁぁ!!」


「海に向かって逃げろおおおぉぉぉ」



(なんだ?ゾンビだって?)


(どこだどこだ?)


(うわああぁぁ教会からゾンビがぁぁ!!)


(に、逃げろおぉぉ!!)



「よし!上手く行った…次は城だ!!」


「付いて来い!こっちだ」





城門


そこではまだ街の異変に気付いて居ない衛兵達が居た



「止まれ~い!ここは終わりの国王様の城である…」


「たたた大変だ!!町にゾンビの大群が現れた…100体以上居る!!」


「!!?な、なんだと?」


「一般民が襲われてる…なんとかしてくれ!!」


「衛兵!!隊長に報告しろぉ!!」


「ハッ!」


「おい!!ここからでも見える…ゾンビが100体じゃきかねぇ…早くしてくれぇ」


「どれ…うお!!…こりゃ大変だ」


「早く城門を空けてくれぇ!!みんなゾンビにやられちまう!!」


「わ、わかった…」



衛兵達は慌てて城門を開いた



「衛兵!!衛兵!!助けてくれぇぇ!!町で大量のゾンビが暴れてるんだ!!」





数分後…


城で待機していた衛兵達が続々と城門に集まり出した



「武器を持って町の守備につけぇ!!」


「ハッ!!」


「手の空いてる者は大砲を一基1番塔から下ろせ!!」


「ハッ!!」



突然の出来事で指揮系統に混乱が見られる


衛兵達は何が起こったか分からないまま各々が武器を持ちゾロゾロと城を後にする




「よし!1番塔のやつから行くぞ」


「おいこのまま行けるんか?」


「今がチャンスだ付いて来い…途中で衛兵の兜をかぶって行く」


「ぬはは慎重じゃねぇか」


「面倒は避ける…これをかぶれ!」



囚人は衛兵の詰め所に放置してあった兜を取り盗賊に渡した


城の構造を熟知して居ないと直ぐに衛兵に見つかってしまうが囚人は抜け道を知って居た





1番塔


盗賊達は衛兵のフリをして塔を警備する者に言う



「隊長からこの1番塔の大砲を一基降ろせと指示があった」


「何!?町はそんなに大変な状況なのか?」


「ゾンビの大群が100体以上は居る!!」


「100体だと!?」…そこに居た衛兵同士顔を見合わせる


「もっと居るかも知れない…ここは俺達に任せて応援に行った方が良い」


「し、しかし…」


「このままだとお前の家族もやられるぞ」


「くぅ!!!大砲の下ろし方は分かるか?」


「分かっている…魔法師はどうしてる?」


「魔法師は宿舎で休憩中だ…呼んだ方がいいか?」


「いや…まだ呼ばなくて良い…大砲を降ろした後で私達が呼びに行く」


「わかった…後は頼む!!」



その場に居た衛兵達は事態が急を要する事を察知しゾンビ討伐へ向かった



「盗賊!お前は上に上がって大砲の施錠を開けろ…俺はここで大砲を降ろす」


「まかせろ!」


「リミットは大砲が下に降りきるまでと思え…降ろし始めるぞ」



そう言って囚人はガラガラと近くに合った鎖を引っ張り始めた


その鎖に連動して塔の最上部にある大砲がゆっくりと下がり始める



「早く行けぇ!!」


「うはぁ…こりゃ難易度高けぇな…行って来る!!」





1番塔の上


「おおぅ町が良く見える…大混乱だな」


「こうしちゃ居られねぇ…早く解錠しないとな」


「ぬぁ!!鍵が6つも有るのか…間に合うか?」


「今出してやるからよカワイ子ちゃん…親ドラゴンが迎えに来てるぜ?」



盗賊は神業ともいえる解錠術で次々鍵を開けて行く



1番塔の下


「ふぅ…ギリギリ間に合ったな…鍵が6つあるなんて聞いてないぜ」


「子ドラゴンを引きずり出すぞ」


「お、おう…」


「よし!いい子だ」



大砲の後部にある装填部からドラゴンの尻尾を掴み引きずり出した


子ドラゴンが弱っているかどうかは見分けが付かなかったが


上空で旋回するドラゴンの咆哮で目が覚めたのかその体を動かし始めた



「上に親ドラゴンが迎えに来てる…適当に城の中で暴れて良いぞ!」


「次の塔に行く…来い」


「俺達に攻撃すんなよ?他の子ドラゴンが助けられなくなるぞ?」


「急げ!!こっちだ」




一方…街の方では


ヴヴヴヴ ヴヴヴヴ


何処から湧いて来るか分からないゾンビの大群が人々に襲い掛かる


武器を持つ衛兵達は民を守る為必死に戦って居た



「数が多すぎる…応援を呼んでくれぇ」


「船だ!!船が来てる!!船に逃げろ~!!」


「くそう倒してもキリが…うわ!!こんな時にドラゴンまで…」



ギャオース


巨大なドラゴンが宙を舞う


その混乱に乗じて海賊達が船へ避難を促す



「海賊が助けに来たぁ!!一般民は海賊船に乗れぇ!!」


「たたた助けてくれぇ…」



逃げ惑う人々は海へ向かってなだれ込み始めた



(海賊船が助けに来てるらしい…船に向かって走れぇ)


(ド、ドラゴンも沢山来てるぅ)


(王国の大砲はどうなってる!?)


(家がぁ家が燃えるぅ~)


(早く海へ逃げろぉぉぉ!!)





終わりの国_城内



ゴゥ ボボボボボボ ドカーーーン!



「おっとぉ…大砲がブレス打ち始めたぜ?」


「魔法師に感づかれたな…あと2つ」


「次はあの塔だな?はぁはぁ」


「魔法師だけヤレるか?」


「俺を誰だと思ってる…隠密のプロだ」


「よし!5番塔の下は私が守ってやる…盗賊だけで上の大砲を処理しろ」



その時次々と解放されるドラゴンを不審に思った衛兵達が駆けつけて来た



「見つけたぞぉ!!あそこだ!!」


「盗賊!早く行け!!」


「5分で片付ける…持ちこたえてくれ」…盗賊は塔の上に上がり始めた


「ここは通さん!」


「お、お前は!!?」


「元終わりの国衛兵隊長だ…顔に見覚えがあるだろう」


「この騒ぎ…すべてお前が仕組んだのか!?」


「借りを返して貰いに来ただけだ」


「全員弓を持てぇ!!」


「クックック…賢い選択だ…」」…囚人は落ちていた盾を拾い上げ構えた


「盾持ちか…構わん!撃てぇ!!」



合図と共に一斉に囚人に向かい矢が放たれた


続々と集まって来る他の衛兵も加わり囚人は十字砲火を食らった形になった


何本もの矢が囚人を貫きハリネズミの様になっても尚立ち続ける



「クックック…それだけか?」


「なにぃ!!まだ立ってるだと?」


「私は死なん…いや私は不死身だ…お前らでは倒せん」


「もっと撃てぇ!!」



ギャオース バッサ バッサ ドッスーン


巨大なドラゴンが間に入る



「うお!!ドラゴンが…」


「逃げんとブレスが来るぞ?」


「散開!!散開!!」



ゴゥ! ボボボボボボボ


ドラゴンの吐くブレスは衛兵達を丸ごと火に包む



「うがぁぁぁぁ…衛生兵!!衛生兵!!」


「建物の影に!!」



囚人と盗賊はドラゴンに守られる形で5番目の大砲を下まで降ろした



「つつつ…火傷しちまったぜ…」


「手は無事か?」


「あぁ手だけは無事だ…魔法師が2人居て反撃された」


「子ドラゴンを引きずり出すぞ」


「お前はハリネズミみたいだな…よくそれで生きてる」


「無駄口を叩くな…あと1つだ」


「俺達の避難は間に合うか?」


「さぁな?なるようになる」


「早くしないと船に乗り遅れるな…急ごう!!」





6番塔


その下には衛兵が陣を張り構えていた



「この大砲だけは死守しろ!!」


「ハッ!!」


「来たな!!」


「あの2人に間違いありません」


「大砲を放て!!」



ゴゥ ボボボボボボ


盗賊達に向かって大砲からブレスが放たれた



「どわっ!ブレスか!!」…物陰に隠れる


「むぅ最後の大砲には近づけんな…」


「ちぃ…ここまでか…」


「待て…考えがある…来い!!」


「逃げたぞ!!」


「追うな!!今はこの大砲を守る事が優先だ」


「しかしあの先には姫君が…」


「んむむ…姫君は精鋭兵がお守りしている筈だ…」


「くぅ…」




姫の部屋


そこは城から少し隔離された塔だった


部屋の外にも塔の下にも精鋭兵と呼ばれる戦士がそこを守っている


姫はその部屋の中で今起こっている惨状を見下ろし落ち着かない様子で居た



ゴトリ…


姫の部屋に繋がる隠し通路の石が動く…



「ハッ!!」


「姫…お助けに参った」


「あなたは元衛兵隊長様…よくぞご無事で」


「今は囚人だ…囚人と呼んでくれ」


「なぜ秘密の裏口から?」


「この国はもう終わりだ…私の理解者である姫だけは助けてやる」


「ついにお父様の悪行が払われるのですね?」


「未練は無いか?」


「一般民が心配に御座います」


「その心配は要らん…船に避難を始めている」


「船に?」


「そうだ…すべての一般民を収容できる船を用意している」


「私はどうすれば良いのでしょう?」


「囚われたドラゴンを解放している…付いて来られるか?」


「はい…やっと解放されるのですね?」


「あと1匹だ」


「姫には捕らわれたフリをしてもらいたい…少々手荒になるが…」


「終わりの国の業は謹んでお受けします…」


「業を受けるのは姫では無い…姫の父君だ」


「……」姫の眼から涙がこぼれる


「心配するな…民が生きてる以上この国はまだ復興が出来る」


「行きますわ…私にも復興のお手伝いをさせて下さい」


「ようし!!姫の命預かった!!」


「行くぞ…裏口から出ろ」




6番塔


そこでは迫りくるドラゴンを相手に衛兵達は決死の戦いが繰り広げられていた


大砲から放たれるブレス…衛兵が射る矢の雨…攻城戦で用いる巨大な強弓


それらを用い飛び回るドラゴンを寄せ付けないで居た



「ドラゴンは弓に弱い!!休まず撃てぇ!!」


「隊長!!例の2人が姫君を!!」


「何ぃぃぃ!!?」



盗賊は姫を後ろ手に捕まえダガーを首元に突きつけていた



「大砲を明け渡してもらおう」


「ハッ…お前は元衛兵隊長…さては裏口から姫君を…なんと卑怯な」


「クックックその通りだ」


「くぅ…抜かった」


「えらく出世したな旧友よ」


「黙れぇ!!このままだとこの国は滅ぶぞ!!」


「もう遅い…ドラゴンとゾンビの怒りはもう収まらん」


「お前こそ不死者の癖に…」


「そうだ…この国は不死者の怒りを買っている…お前も同様にな」


「お前の家族を殺したのは…国王の指示だ」


「え!?」…姫は驚愕した…知らなかったのだ


「もう失った者は戻らない…お前への信頼ももう戻らない」


「姫をどうするつもりだ!?」


「人質以外に何に見える?」


「大砲を渡さないと殺すぞ!?」…盗賊はダガーを握り直した


「お前達にそれが出来るか?姫を育てたのはお前だろう!!」


「……」囚人は遠くを見る


盗賊はそれを察したのか行動に出た…


「俺はこんな女に未練は無ぇ!」



ブスリと言う音と共に鮮血が滴り落ちる



「きゃあぁぁぁ…痛いぃ」…姫は身をのけぞらせる


「姫ぇ!!!」


「ま、待て…分かった…衛兵!!大砲から離れろぉ!!」


「さっさとどいてりゃ良いんだよクソが…」---くぁぁ痛てぇぇ---


「……」---姫を刺すフリで自分を刺したか---



盗賊は姫を掴まえたまま片手で解錠を始める



「ようし!!最後のドラゴンだ」---ちぃ出血が多い---


「引きずりだすぞ」ズルズル


「お、お前達…なんと卑怯な」


「クックックお前に言われたくないがな」


「大砲無しでドラゴンと戦う事を考えた方が良いぜ?」


「姫を放せ!!」


「残念だが今放すと俺達の命が危ない…あばよ!」




ギャオース ドッスーン!!


ドラゴンが助太刀に入った



「ドラゴンとやり合ってな!!」


「逃げるのか!!」


「クックック精々頑張るんだな」


「くそぅ!!卑怯者めぇ!!」


「行くぞ!!」


「衛兵を振り切ったら姫は自分の足で付いて来い!」


「は、はい…」


「傷は痛むか?」


「かすり傷です…あなたは?」


「ちぃと刺しすぎた…力が入りすぎちまった…これヤベえぞ俺…」



こうして6匹の子ドラゴンは解放され終わりの国は成す術を失った


地上では無数のゾンビが徘徊し上空ではドラゴンが飛び回る


まさに地獄絵図となった…




海賊船


海賊王と商人は海からドラゴンの救出劇を眺めていた



「ドラゴンが7匹…上手くいったみたいだ」


「この世の終わりの様な光景やな…」


「後は女海賊が盗賊と囚人を無事確保してくれれば良い…」


「まだ避難民の収容は終わってないで?」


「ドラゴンのお陰で避難は慌てなくて済みそうだ」


「ほんまかいな…町の中は地獄とちゃうんか?」


「それにしても僧侶の回復魔法は凄いな…」


「そうやな…」


「正直驚いた…あんなに回復魔法が回せるとは…」


「魔力が良く持つなぁ?あんなん見た事無いわ…」


「あんなに回して…まだ魔力が持つのが不思議だよ」


「勇者並みの魔力かえ?」




---僕は大きな勘違いをしているかもしれない---


---本当に世界を救えるのは心も癒せる彼女なのかもしれない---




終わりの国の教会


城から脱出した盗賊達は手筈通り教会へ向かって居た



「くそぅ…目が霞んできやがる」


「女海賊が教会付近に居る筈だ…もう少し辛抱しろ」


「分かってはいるが…血が足りねぇ」


「商人はいつもそういう具合なんだがな…」


「こりゃきついわ…」



そこへ林の奥から女海賊が戻って来た



「よ~し!!柵から全部ゾンビ出たね?」


「あっしらもそろそろ逃げた方が良いっすね」


「略奪した銀製品全部積んだ?」


「ウヒヒ手当り次第積みやしたぜ」


「わたしが最初に気に入った奴選ぶかんね?」


「分かって居やすとも」


「お!!盗賊と囚人が来てんね…飛行船の準備するよ!!」



「いよーう…ちっと俺ヤバいわ…悪いが助けてくれ」


「ちょ…どうしたのさ…血だらけじゃん!」


「女海賊!盗賊の手当てを出来るか?」


「私がやります!」


「誰さ!?この女」


「終わりの国の姫だ…俺の理解者だ」


「まぁ良いや!!早く飛行船に乗って!!」


「包帯はありませんか?」


「この傷は包帯じゃ止まらん…火薬で焼いてくれ」


「は…はいー」




飛行船


「この飛行船凄いね!!」


「ケッ!!俺達の飛行船を勝手に使いやがって…」


「商人が使って良いってさ」


「お前こんなギリギリまで略奪やってたんか?」


「あんた達が空けた地下墓地の柵以外に他に何個もあるんだよ」


「1つだけじゃなかったんか…」


「1つだけじゃ一気にゾンビ出すのはムリ!!わたしのお陰なんだから」


「それにしちゃ…この銀製品の山はなんだ?」


「アハ?戦利品!戦利品!」


「抜け目ねぇな…」


「ドラゴンはわたし達をガン無視してんね?」


「恐くねぇのか?」


「わたしの美貌を無視してるのが気に入らない!!キィィィ」


「あのな…なんつーかさすが海賊王の娘だ」


「てかあんた早く血ぃ止めてよ…私の飛行船汚さないで貰って良い?」


「うるせぇ!!止まんねぇんだ」




海賊船


フワフワ ドッスン


女海賊は無理矢理船尾楼の上に飛行船を着陸させた



「おぉ!!我が自慢の娘!!戻ったか!!」


「もう!!パパ面倒くさい!!盗賊が重傷なの…僧侶はどこ?」


「僧侶は他の船や」


「早く手当てしないと…失血死すんよ?」


「わたしの血を使ってください!!」


「うお!!終わりの国の姫やないか…」


「そんなに出血してるのかい?」


「……」盗賊は既に気を失っている


「意識が無いな…薬剤師!!来て!!」


「うん!!分かってる…薄めた塩水を用意して!!」


「盗賊…大丈夫だよね?」


「早く血を入れてあげないと…傷口はどこ?」


「左腕だ…太い血管を傷付けてしまった様だ」


「針と糸を持って来て…それから姫から皮袋1つ分の血を抜いて」


「手伝おうか?」


「お願い…他に血を抜いても良い人を探してきて…皮袋10個は必要」


「野郎どもぉ~!!アタシに抜いて欲しい奴は並べぇ~」


「うおぉぉぉ抜いてくれぇぇ」


「特別サービスだよ!!パンツ脱ぎな!!」




翌日


終わりの国の戦いは夜通し続いて居た


街は燃え上がりモウモウと煙を上げている



「一般民の避難は全部終わったで…」


「よし…この船が最後かな?」


「そうや!!」


「ドラゴンは昼夜問わず終わりの国を攻撃してるね…」


「籠城戦やからドラゴンでも攻め切らんのかも分からんな…でも塩が無いなら長いことは持たんやろ…」


「僕がやっていることが恐くなってきたよ」


「そうやなぁ…ほんまに魔王の仕業としか思えんわ…地獄や」


「あそこで戦っている衛兵達を思うと心が痛い」


「もっと平和的に解決できたら良かったんやがなぁ…」



---いつもの心臓の痛みとは違う---


---僕が犯した罪の痛みだ---


---苦しい---



「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「おぉすまねぇな僧侶」


「い~の~ウフフ」


「商人の言ってた意味が分かったわ…僧侶の回復魔法を貰うと正義感が沸く」


「本当に~?うふふのふ~ウレシイなぁ~もっと言ってぇ~♪」


「そんなに魔法使って魔力は尽きねぇのか?」


「わかんな~い…でもお腹は減る~」


「食ったもんが魔力になってんのかヌハハ」


「すまない…僕にも回復魔法を貰えるかな…」


「は~い!回復魔法!」


「おい大丈夫か?」


「違うんだ…体調が悪いわけじゃないけど…どうも心が痛む」


「んむ…そうだな」



終わりの国が滅んでいく様を見て何も感じない者は居ない


ドラゴンの吐く炎の下に生身の誰かが居るのだから…




3日後


「そろそろ動くかぁ!!」


「盗賊!もう立てるようになったのかい?」


「まぁな?」


「盗賊も見ておいた方が良い…国が滅ぶ様を」


「見たく無ぇよ」


「軍事力で繁栄を極めた国も3日で滅ぶ」


「一人も生きてはおるまい」


「これは人間が招いている人災だよ…まだキマイラもゴーレムも居る」


「人間が持つ兵器にしちゃぁ部が大きすぎだな」


「僕はゴーレムが一番恐いよ」


「数百を超える巨人兵団か…考えたく無いぜ」



ギャオース


大型のドラゴンが咆哮をあげながら船首に着地した


ドッス~ン ザバァァァァ



「うおぉ!!船が傾くやないかぁ!!」


「慌てなくて良いよ…襲っては来ない」


「そうやない!!わいの船を壊すなっちゅう話や」


「まぁまぁ…あそこしか着陸出来そうな場所も無いし仕方無いさ」


「ドラゴンはおまんと取引に来たんやな?」


「どうかな?…さぁドラゴン!!取引きに応じてくれるのかな?」



”我らは人間と取引はせぬ”



「僕の目的を話しておこう!人間が造るキマイラとゴーレムを止めさせる」



”下等な人間の言葉にしては良く言う”



「キマイラやゴーレム相手ではドラゴンでも只では済まないだろう?」



ドラゴンは横を向きその眼を商人に向けた…注目している動作だ



「世界を救いたいんだ…協力して欲しい」



”汝が王となるのか?”



「王?ハハハハ僕はもう世間では魔王さ」



”かつての魔王も始めは小さき力しか持っておらぬ”



「魔王を知っているのかい?」



”我は1000年を生きる時の証人なり”



「では今変わろうとする時代に少し汲みする気は無いか?」



”汝は何を望む?”



「まず始まりの国で囚われの身になっている仲間を救いたい…」



”何故その仲間にこだわる”



「今祈りの指輪を持っているのは彼だからだ」



”祈りの指輪がまだ存在するか…”



「フフ協力する気になったかい?」



”良いだろう…但し…祈りの指輪は破壊すると約束せよ”



「わかった…事が済んだら破壊する」




ドラゴンはそのまま海賊船の船首に鎮座したまま羽を休めた


かなり前掲姿勢となって居るが海賊王はそれを誇らしげに船を進め始めた



「うっはっは~ドラゴンを載せた海賊なんざ他に居らんわぁ」


「パパ!わたしは飛行船で空から行くね」


「空からわいの勇士を眺めるんか?」


「え?…あ…うん!そうそう…アハハ」


「うっはっは~そうやろそうやろ」



「じゃぁ作戦通り一般民を辺境の村に降ろしたら中立の国の海域でもう一度落ち合おう」


「わかっとる…終わりの国の姫はどうするんや?」


「私も辺境の村でお手伝いを…」


「それが良い…子供達が沢山居るぞ」


「僕達は途中で分かれて始まりの国へ向かう…武闘会まであと2ヶ月だからね」


「私も行く~」


「もちろんだよ…君が居ないとこの作戦は失敗する」


「とりあえずしばらくは船旅だな?」


「そうだね…海図で言うとこの辺でドラゴンの背に乗って僕達は分かれよう」


「そこまでは2週間って所やな」


「それまではゆっくりしようじゃないか」




1週間後…


「商人と薬剤師はドラゴンに付きっ切りだね~」


「そうだな…良い先生になってるんじゃないか?」


「ドラゴンさんっておとなしいんだね~」


「ドラゴンは賢いから無暗に襲ったりはせんらしいわ」


「神話で聞くドラゴンとは違うんだね~」


「どんな神話だ?」


「ほら?私みたいな姫を捕まえて閉じ込めるとか~」


「僧侶みたいな姫かは知らんが理由があるんだろ…」


「あ!!!薬剤師がドラゴンにスライム乗せてる~ウフフ面白そ~う♪」



僧侶は船主に鎮座するドラゴンの下へ行った



「ねぇねぇ何してるの~?ウフフ」


「ドラゴンの毒を吸ってあげてるの…高齢で毒の耐性が弱くなってるって」


「高齢だったんだ…へぇ~」


「ドラゴンの寿命は約1000年でもう1000歳を超えてるみたい」


「ドラゴンは寿命で死ぬ間際に子孫を産むんだってさ」


「へぇ~それで6匹の子ドラゴンが居るんだぁ~」


「間際と言ってももう10年以上前に生まれたそうだけどね」


「どれどれ私にも見せて~…あれ?目が濁ってる?」


「もう目は微かにしか見えてないらしい…もうすぐ寿命だよ」


「良く見ると傷だらけだぁ…回復魔法してあげよっか?」


「そうだね…それが良い」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」



”汝は浄化の力を持って居るな”



「へ?」


「そうなんだよ…この子は魔力も尽きることが無い」



”その力…役に立つかも知れぬ…事が済んだら命の泉へ向かえ”



「え!?どういう事かな?」



”命の泉の中にある命の源から憎悪が流れ出して数百年”


”人間はその水を飲み現在に至る”



「え!!?やっぱり僕の考えが正しかったのか…」



”浄化には命の源を回復させる必要がある”



「じゃぁ突き刺さった魔槍を抜かないと…」



”魔槍は普通の人間では抜く事が出来ぬ”



「抜く事が出来たとしてその後の手順を教えて欲しい」



”銀を使い穴を埋め浄化の力で命の源を復元させる”



「浄化の回復魔法が必要って事は…命の源は憎悪で満たされてる?」



”汝は人間にしては賢いと言うべきか”




2週間後…


「僕と薬剤師はドラゴンに2人で乗るよ」


「え~私達は~?」


「後で子ドラゴンが飛んでくるから僧侶と盗賊と囚人は一人ずつ乗って」


「子ドラゴンは話通じるのか?」


「さぁ?なんとかなるでしょ?」


「おいおいマジかよ…」


「冗談だよハハハ港町の宿屋で落ち合おう…じゃぁ先に行くね」



そう言うなりドラゴンは大きな羽を広げ一振りで大空に舞う


あっという間に商人と薬剤師を乗せて飛び立ってしまった



「どわぁ!!行っちまった…しかしスゲェな…」


「大丈夫かなぁ…」



その後数時間待っても子ドラゴンは来なかった



「おそいな~本当に来るのかなぁ…」僧侶は落ち着かない様子だ


「ん~むもう日が暮れる…今日は来んかもしれんな」


「お~い!!そろそろ進路変えるけの~!!」


「大丈夫かな~」


「まぁ仕方ないな…まだ1ヶ月半有る…慌てないで待とう」


「商人は何か考えが有りそうだな…先行して準備しているのだろう」


「あいつの考えてる事は良くわからん…酒でも飲んでくつろぐぞ…僧侶!付き合え」


「なんかなぁ…落ち着かないなぁ…」


「酒飲みゃちっとは落ち着くから…てか一人で飲んでもつまらん訳よ」


「わかったぁ…」




翌日


「ねぇねぇ今どこら辺?」


「港町から遠ざかってるね…大丈夫かなぁ?」


「ん~む飛行船の方が確実だったかもしれんな」


「女海賊が乗り回している」


「あんのアバズレ…親の教育が悪い!」


「う~はっくしょ~ん!!」



「おい!!見ろ!!なんだありゃ?」


「んん?ありゃ機械の国の船やな…ちぃと遠いでよう見えんわい」


「望遠鏡あるか!?」


「でかいのはわいのや…お前はこの小さいのを使え」


「チッ…」


「どれどれ…」


「うお!クラーケンに襲われていやがる」


「まてまてドラゴンもおるで?」


「おい!!甲板の上に乗ってる奴は何だ?何撃ってる?」


「巨人や…あれがゴーレムちゅうやつか?」


「ちぃ望遠鏡が小さくてよく見えん!」


「巨人が手に大砲を持っとる…クラーケン1匹とドラゴン6匹相手にしとるわ…」


「巨人は1体しか見えねぇな」


「そうやな1体しか居らんな…あの大砲火吹いとるで?」


「でかいイカ焼きが出来そうだな…うわぁすげぇクラーケンが船持ち上げやがった」


「がははは巨人が海に落ちよったわ」


「あの船相当硬いな…普通ならへし折れてるぞ」


「鉄の塊や…中に閉じこもりゃぁ亀みたいなもんやな」


「ドラゴンじゃ攻略できそうに無いな」


「そうやな…クラーケンでも無理やろ」



ドラゴンは戦闘が終えたのか海賊王の船に近付いて来た



「来たぁぁぁ~子ドラゴンさんがこっちに来たぁぁぁ~♪」


「機械の国の船は諦めたか?」


「アレ~なんか様子がヘンだなぁ~」


「巨人に大分やられた様だな…僧侶!近づいたら回復魔法してやってくれ!」


「わかった~」


「クラーケンはまだ機械の国の船に抱きついとるで…今の内に離れとかな…」



ギャース バッサ バッサ ドサ


子ドラゴンは船首に着地した



「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」


「子ドラゴンは傷だらけやな…」


「囚人!!子ドラゴンが来たぞ!!行けるか?」


「乗れば良いのか?」


「先に乗ってくれぇ!!俺は次に乗る!!」


「話通じるかなぁ?」


「ギャース」


「ダメそうだ…まぁなんとかなるだろ!!囚人!!行ってくれぇ!!」


「先に行く」



ギャース バッサ バッサ


囚人を乗せた子ドラゴンは飛び立った



「僧侶は子ドラゴン回復して最後に来てくれ」


「なんか怖いよぅ…わたし馬にも乗れないの~」


「掴まって居れば何とかなる!!」


「ええええ~大丈夫かなぁ…困ったなぁ…」



盗賊も子ドラゴンに乗って飛び去ってしまった




「最後の子ドラゴンさん回復魔法!」


「ギャース」


「ここここわいよぅ…どうすればいいの?」



なかなか背に乗らない僧侶を見兼ねたのか


子ドラゴンはその後ろ足で僧侶を掴み飛び立った



「お?捕まえられた?あれ?捕らわれた姫の感じかも~ウフフ」


「ねぇねぇ子ドラゴンさん今から何処行くの~?」


「ギャース」


「うわぁぁぁ!!早~い!!」


「ねぇねぇ皆に追いついてくれるかなぁ?回復魔法してあげるからさぁ」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」



ギャース バッサ バッサ


子ドラゴンは調子が良くなったのか空高く舞い上がった


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