15.手掛かり

中立の国のとある倉庫


そこでは囚人と商人が新型の気球を組み立てようとしていた



「材料が入ったぞ」


「よし!じゃぁこの図面の通り組み立てて欲しい」


「あぁぁぁぁ…商人立ったらダメ~ェ…」


「ハハ少しくらい平気さ」


「こでれ最後だな?」


「そうさ…これで完成だよ」


「商人!!座ってて~~」


「じゃぁ僕は古文書の解読に専念するかな…また凄い事を発見したんだ」


「今度はなに~ウフフでもわたしには理解できないかなぁ~」


「見てよこれ…祈りの指輪っていう項」


「えーっと?他人から魔力を吸う?…そんな感じの絵だね~」


「その後だよ…他人から命を吸うとも書いてある」


「へぇ~魔女の指輪の事かなぁ?」


「この指輪は他人からあらゆる力を吸えるらしい…製法はエルフの秘伝だってさ」


「じゃぁエルフの長老とかが知ってるかもね~」


「古代の魔術師達はこの指輪で魔物達から魔力を吸ってたみたいだ」


「ねぇ商人?少し休憩すれば~?」


「大丈夫だよ」


「もうわたしよりずっと体重軽いよ~?」


「やる気が出てる最中なんだ…回復魔法してくれれば良いよ」


「回復魔法!」



そこに現れたのはど派手な格好をした女海賊


商人達は海賊王の元に戻った女海賊と一緒に行動していた



「はぁ~い♪」


「女海賊か丁度良い所に来た…手伝え」


「わたしは忙しいの!!」


「あ!!ねぇねぇ~女海賊~眼帯変えたの~?」


「パパが変えろってうるさくってさぁ…わたしはハート型が良かったのに」


「キャプテンって感じ~ウフフ似合ってるかも~」


「やぁ女海賊!調子はどうだい?」


「中立の国の外の海域はもうわたし達の物だよ…海路の封鎖は完璧!!」


「順調だねハハハ通った商船は全部奪って良いよ…民間船は通してあげてね」


「海路の物流を止めてしまって良かったのかい?」


「良いよ…どうせ王国は僕に泣きついて来る…そこで君のパパ海賊王が運搬役になれば良いのさ」


「バレないかな?」


「気球で襲撃する君達と船の海賊王が繋がってるとは考えにくいんじゃないかな?」


「気球はまだ有る?」


「買い占めた気球が大量にあるよ…全部持っていくかい?」


「帆付きなら全部貰う」


「じゃぁ囚人を少し手伝った方が良いかなハハ」



「おい!!女海賊!!手伝って行け…」


「ダメダメェ~わたしはこれから弓矢の仕入れに行くの!!」


「帆付き気球と弓矢はセットになってる…手伝え!」…囚人は女海賊の手を掴んだ


「間違った煙玉と閃光玉だった」


「それもセットだ」…囚人は無理矢理女海賊を引っ張る


「ちょちょちょ…ちょっとぉぉぉ~」




翌日


「じゃぁ気球全部貰うね!!」


「フン!!お前が作った分はお前の物だ」


「アレ?奥にある変な形の気球は?」


「アレは僕達の気球だよ…砂漠の砂嵐でも飛べるように改造してるんだ」


「超かっこいい!!もう一つ作って?わたしも欲しい」


「作戦が全部済んだら君にあげるよ」


「キタコレ!!聞いたよ!!約束だかんね!?」


「約束してあげるよ」


「おい!むさくるしい奴らを早く連れて行け」



むさ苦しい奴らとは女海賊の手下どもの事だ


彼女を慕い集まった海賊共である



「野郎共ぉ~~気球に乗り込めぇ~~!!」…元気よく指示を出す女海賊


「おう!!」



彼女は手下共を率い海では無く空を自由に活動する空飛ぶ海賊となっていた



「さぁ僕達は商人ギルドに戻ろう!」


「は~い」


「商人背中に乗れ…」


「いつもすまないね囚人…」





商人ギルド


ブルルルル ヒヒ~ン


「あっ!!あの馬は!!盗賊さんが帰ってきてる~」


「お!!?」


「よう!!待ってたぜ?どこ行ってたんだよ」


「盗賊!!やっと帰ってきたか」


「しかし商人…お前痩せたな?体は大丈夫なのか?」


「大丈夫さ」


「ねぇ盗賊さん?騎士はどうだった?」


「あぁ良い男だった…最高の弟子だ」


「うわぁ~ん…わたしも会いたいよ~ぅ」泣き出す僧侶


「まぁまぁ…中に入って話そう」


「そうだね今日はもう商人ギルドを閉めよう」


「商人はベットに運ぶぞ?良いのか?」


「あぁそうして」




商人の部屋


商人が横になるベッドを囲むようにして盗賊は辺境の村での出来事を話した



「ほんで今辺境の村は子供達だけで生活している」


「うぇ~ん…」


「まぁそんなに泣くな…騎士はドラゴンの耐性があるから簡単には死なん」


「ドラゴンの耐性は生きている内は驚く程の回復力を持つ…銀で心臓を貫かない限り死ぬことは無い」


「騎士のしぶとさはソコから来てたんだね…予定通りといえば予定通りかぁ」


「それだけじゃ無ぇぞ?生き抜く技をしこたま叩き込んだ」


「ほんで商人!お前の情報収集はどうだ?」


「あぁ結論から言うと騎士はまだ見つかっていない」



何から話そうかな…女盗賊から行くか


彼女は始まりの国の防具屋に扮して情報収集してくれている


防具の交換で城に入った時に間違ったフリをして牢屋に行ったそうだ


火傷を負った囚人はもう居なかったらしい


変わりに城の詳細見取り図を作ってくれた


あと最近では衛兵の間で奇病が流行っているとの事


ある日突然衰弱するんだって



「それ知ってる~」


「お!?そういえば君も始まりの国の衛兵だったね」


「牢屋の他に監獄塔というのが有ってね…そこの看守になると病気になるとか」


「え?監獄塔!?女盗賊が書いてくれた見取り図でいうと何処になる?」


「本当は王族が使う塔なんだけど…姫が居ないから監獄として使ってるの~ここだよ」


「それは一般人では分からない情報だね」


「それでね~衛兵の皆は看守になりたがらないんだ~呪いだとかの噂もあったよ」


「ふ~む…なんか気になるなぁ」


「おお!!そういえば大事な話を忘れてた…」


「なんだい?」


「腕の良い薬剤師の噂を聞いた…漁師村に居るらしい」


「薬剤師が何の関係が?」


「お前の心臓に効く薬が作れるかもしれん…難病を治したとかいう話だ」


「僕は大丈夫だよ」


「もう立つ事もままならないんじゃないのか?」


「う~ん…」


「高速船を使えば7日~10日で行ける…一度行って見よう」


「賛成~商人は少しお休みが必要」


「新しい気球を使えばもう少し早く行けるのではないか?」


「新しい気球って何だ?」


「砂漠の砂嵐でも飛べる気球を作ったんだ…そうだね…テスト飛行で行ってみようか」


「お~そりゃすげぇ」


「囚人!明日から僕の変わりに商談をやってもらえるかな?」


「構わん」


「囚人でもやれるのか?」


「ハハハ盗賊より良い仕事をするよ…今はみんな囚人の事を闇商人だと思ってるよ」


「ほぅ…良い影武者が出来たな」




翌日


「じゃぁ囚人!作戦通りよろしく」


「わかっている…早く行け」


「この気球…球皮がえらく小さくて細長い…飛べるのか?」


「これは熱だけで浮くんじゃないんだ…船の帆の原理と同じで飛ぶんだよ」


「言ってる意味が分からん」


「風の力を帆で受けて浮く方向に力を作用させるんだ」


「操作方法は?」


「前の気球とそんなに変わらないよ…帆の操作も帆船と変わらない」


「まぁ動かして覚えるが早そうだな」


「ごーごーしゅっぱ~つ!!」


「い、いくぞ?」



盗賊は新型の気球を動かし始めた


今までの気球と違い前進するとグングン高度を上げる



「ハハやっぱり教わるより慣れろだね…操作上手いじゃ無いか」


「お、おう!」


「旋回の仕方も船の操作と殆ど同じさ…なかなか良いだろう?」





飛行船


ビュゥゥゥゥ バサバサ


風に乗りヨットの様に自在に空を駆け巡るその気球は気球と呼ぶのにふさわしくない


それは空飛ぶ船と形容する方が合って居る…飛行船と名付けた



「こりゃすげぇ!!めちゃくちゃ早えぇ!!」


「今までの気球は大きな球皮が進む速さを殺していたんだよ」


「なるほど…高度上げれば上げるほど速度が出るな…縦帆もあるから風上にも進める訳か」


「この技術は機械の国の気球より上だと思う」


「空中で止まれるか?」


「それは出来ない…少しづつ高度が下がる」


「ふむ…大体出来る事がわかった」


「後は慣れだねハァハァ…少し…横になる」


「おい!大丈夫か?空気が薄いか?」


「平気さ…横になれば多分良い」



風向きに対して帆の角度を決めて安定に推進させるには慣れが必要だ


盗賊はその点勘があり上手く操舵する事が出来た



「よし!安定飛行に入った」


「手伝わなくて大丈夫~?」


「もう手は要らん…ところで商人」


「ん?」


「本物の勇者の行方はどうなった?海賊王の娘は?」


「あぁ海賊王の娘は無事だよ…今は女海賊で名が通ってる」


「勇者はどうなってる?」


「しばらく海賊王の所に居たらしい…でも何も言わず去ったってさ」


「そうか…魔女には報告できんな」


「そうだね…でも女海賊が仲間になった…あの子は勝機を見る才能がある」


「勝機?」


「魔王城に行った時も罠だと察知していの一番で本物の勇者と一緒に逃げたんだって~」


「ふむ魔女が言ってた事と合致するな…女海賊は本物の勇者だと知っているのか?」


「いや本人は気付いていない…けど勘で察知してるかもね」


「勘だと!?」


「そうなんだよ勘が鋭い子だよ」





翌日


商人は飛行船の中で常に書物を読みブツブツと独り言をつぶやく



「何をそんなに熱心に勉強しているんだ?」


「古文書の解読さ…過去の伝説ばかりだよ」


「伝説に興味があるとはお前らしくないな」


「なかなかに馬鹿にできないよ?」


「どんな事が書いてある?」


「魔王が倒されたそのずっと昔の話さ」




第1の時代


エルフが世界を支配していた


エルフは祈りの指輪を用いその時代を築け上げた


しかしその祈りの指輪を封印しようとする者が現れた・・・後に魔王と呼ばれる


第2の時代


魔王はエルフから指輪を取り上げ指輪の乱用を禁止した


ところが魔王が持つ祈りの指輪を人間が盗み


人間は祈りの指輪の製法を復活させ時代を支配しようとした・・ここまでは割りと平和な時代


第3の時代


魔王は怒り狂ったが祈りの指輪を持つ人間に対して苦戦していた


魔王は人間は水が無いと生きていけない性質を逆手に取り


命の泉から湧き出る水を汚染する事で人間達は徐々に弱体していった


その後人間は滅ぶ寸前まで行ったが


突如、勇者を名乗る者が現れ魔王は倒された…これが200年前



「祈りの指輪を巡る争いだな」


「最後に走り書きで水が汚染されてる以上必ず人間は滅びるとある」


「続きは無いのか?」


「魔王が倒されて以降の記述が無い…誰が書いたのかは不明」


「なるほど…全部解読出来そうか?」


「まだ半分だよ」


「そうか…解読も大変だな」




漁師村上空


「漁師村が見えて来たぞ!」


「すご~く早かったね~ウフフ」


「これだけ早いと旅がラクだな」


「盗賊?陸に降りる場合は広い場所に下りて」


「大丈夫だ!!空中で静止するように帆を操作すれば良いんだろ?」


「ハハさすが飲み込みが早い」


「まかせろ!!降りるぞ!!」



フワフワ ドッスン




漁師村


そこは中立の国がある大陸から遥か南方に位置する大陸の一角にある


周辺には漁港がいくつか有りそれぞれの場所で小さな集落が形成されてた


しかしその殆どに人が生活している形跡が無い


盗賊は煙突から煙が立ち上る集落の近くに飛行船を降ろした



「ここが漁師村?」


「地図は確認した…間違い無い」


「しかしなんだか寂しい村だな…本当に薬剤師居るのか心配になって来た」


「わたし先に行って聞いてくるね~」


「おう!俺は商人背負って後から行く」


「迷子になったら宿屋でね~」


「俺達は先に宿屋に入る」


「オッケ~♪ウフフ」


「さぁ…商人俺の背中に乗れ…よっこらせと!!」


「すまないね…」




広場


僧侶は恐らく村の中心であろう広場で探し人の聞き込みをしている



「ねぇねぇ~すみませ~ん…薬剤師さんを探しているのですが…」


「あんた何処から来なすった?悪いことは言わん…早く村を立ち去れ」


「え~困ったなぁ…何かあったんですか~?」


「1年程前にな…疫病が流行って村人はみんな亡くなってしもうた…」


「薬剤師さんはどうしてるのかなぁ?」


「村外れで薬の研究をしておる…魔物を捕らえてな」


「え!?魔物を??」


「なんでも疫病は魔物から移るという話だ…近づかん方が良いぞ」


「た、大変…商人に病気が移っちゃう…」




宿屋


「お、おう!僧侶早かったじゃねぇか」


「あのね~疫病が流行ってるからね~商人に移らないか心配で戻ってきたの~」


「今も疫病が?」


「分からないけど…薬剤師さんが飼ってる魔物から移るかもしれないって」


「魔物を飼ってるだと?」


「近づかない方が良いカモ~」


「無駄足だったかな?」


「おいおい…そりゃ無えぜ」


「もし行くなら精霊の加護の祈りをしておいた方が良いと思うんだ~」


「加護の祈りは疫病も跳ね返すかな?」


「試した事ないけど守れるカモ~」


「ハハハ君は割りと賢いね…そうしよう」


「じゃぁ商人を背負って一緒に行動するか」


「うん…」


「付いたばかりで悪いが商人!背中に乗れ」


「わたしはお祈りしておくね~」




薬剤師の家


立ち入り禁止の看板が立て掛けてある



「ここだな…立ち入り禁止となってるが」


「行ってみよう…」



プギャー


粘菌のような魔物が姿を現した



「うお!!何だ?」


「誰か来たの!!?あ!!ここは立ち入り禁止です!」


「立ち入り禁止って…お前も立ち入ってるだろうが」


「わたしは病気に掛からないから…」


「まぁよく分からんが腕の良い薬剤師を訪ねに来た…お前か?」


「腕が良いかは分かりませんが…一応薬剤師です」


「この商人は心臓に病気を持ってる…良い薬を作ってもらいたい」


「え!?あの…困ります」


「作れないのか?」


「今わたしは他の病気の薬を研究してる所でして…」


「頼む!見てやってくれ…もう死にそうなんだ」


「少し顔を!!?これは低酸素症…」


「そりゃ何だ?」


「あの…ここは魔物の病気が移るかもしれないので…」


「宿屋なら良いか?待ってる…」


「分かりました…後で行きます」


「すまねぇ恩に着る」




宿屋


待つ事30分ほど…直ぐに薬剤師が尋ねに来た


コンコン!



「わたしです」


「おぉ!待ってた…入ってくれ」


「失礼します…」ガチャリ


「来てくれてありがと~ウフフ」


「ベットで横になっている方ですね…すこし見せてください」


「あぁ…ありがとう」



薬剤師は商人の心臓の音や呼吸の音を聞いて軽く触診をした



「大分心臓に負担が掛かっています…この病気は治す事ができません」


「心臓に耳を当てて分かるのか?」


「心臓の音に雑音が混ざってます…穴が空いているのかと…」


「ハハそれは承知さ」


「数年の命と言われてもう数年経っているんだ…なんとか出来ないか?」


「症状を和らげる薬なら作る事ができます」


「それで良いよ…僕は今死にたくないんだ」


「その保障は出来ません」


「問題ないよ」


「ただ…副作用がキツイです」


「どんな副作用なんだい?」


「血液の性質を変える薬ですが…出血した時に血が止まり難くなります」


「出血しなければ良いんでしょ?」


「体の中の出血は分からないので今よりも貧血気味になるのは間違いないです」


「じゃぁ増血剤も一緒に…」


「それだと血の性質を変えて心臓の負担を和らげる意味が無くなります」


「数年の命はどのくらい伸びそうかな?」


「何とも言えません…数年と言っても1年の人も居れば10年の人も居ますので」


「ハハハ気休めでも楽になるなら良いよ」


「分かりました…明日持ってきますので安静にして待ってて下さい」


「ありがとう」





翌日


約束通り薬剤師は薬を持って来た



「持ってきました…1週間分です」


「なぬ!!?1週間分しか無いのか?」


「この薬はすぐに痛んでしまうので1週間分しか出せません」


「まいったな…」


「まぁ良いよ…飲ませておくれ」


「30分程で効き目が出てきます」


「なぁ薬剤師…俺達に付いて来てくれないか?」


「そうだね~その方が商人も安心~」


「いえ…あの…わたしは疫病の薬を研究してる所でして…」


「その疫病の話を少し聞かせてくれないかな?」


「構いませんが何かの役にでも立つのでしょうか?」


「たしか辺境の村でも魔物を媒体とした疫病が流行ったらしいんだ…そうだろ盗賊?」


「あぁ俺は見てないが…そうらしい」


「ではお話します」



薬剤師は漂流していた勇者を救いその後疫病の特効薬をその勇者の血清から作った話を語った



「ちょちょっと待って!!君が言う火傷を負った人は勇者の証を持っていたんだね?」


「はい間違いありません…始まりの国の港町まで看護をしました」


「これは…とんだ所から情報が入ってきたね」


「え!?」


「騎士に間違いないな」


「それでその火傷を負った人から血清を作って疫病を治したんだね?」


「はい…でも量が少なくて」


「ドラゴンの耐性だ…毒の耐性が出来る」


「え?え?どういう事ですか?ドラゴンの涙を服用していたのですか?」


「そうだよ…騎士はドラゴンの耐性がある」


「それでつじつまが合う免疫だけ血清に出来たんだ…」


「よし!これで決まったな・・俺達はその火傷を負った人を探しているんだ」


「わたしの婚約者なの…」


「薬剤師さん…君と僕達の目的が一致してる…付いて来て欲しい」


「でも家に捕まえてる魔物をどうにかしないと…」


「それは俺が後で処分してやる」


「魔物の体液が付着すると病気に掛かります」


「それは大丈夫さ…ねぇ僧侶?」


「うん…」




薬剤師の家


その後盗賊達は薬剤師の家に捕らえていた魔物を一掃した


大半の魔物は変異したネズミ等の小動物だった


疫病は動物を介して別の病気に変異する研究をしていた様だ



「じゃぁ旅の準備をしてきて…薬を作る道具も全部飛行船に乗せて」


「はい…でも一つお願いが…無害な魔物を一匹連れて行って良いでしょうか?」


「無害なら問題ないよ…あ!あとあんまり大きいのは無理かな」


「いえ大きさは手のひらに乗ります…スライムと言うんです」


「スライム?古代の魔物だね…僕も見て見たいな」


「良かった…魔物は知能が無い訳じゃなく教えられてないだけなんです」


「へぇ?」


「教えてあげれば良い子に育ちます」


「君はどうやら僕達の良い仲間になれそうだ…スライム王国でも作ろう」





飛行船


「じゃぁ出発するぞー!!」


「すごい!!こんな乗り物初めて」


「僕が造ったんだ…ここでバーベキューだって出来るんだ」


「なんか商人元気でてきたね~ウフフ」


「うん…元気になったらお腹が空いてきた」


「おぉ!!じゃぁ今日は飛行船でバーベキューだ…干し肉しかないが…」


「水で戻せば~?」


「ハハハ良いね…そういえばスライムは何を食べるのかな?」


「この子は毒を食べて体に蓄えるんです」


「ほぅ…毒を?」


「体内で毒の免疫を作るのでそれを利用出来ないか研究をしていました」


「すごいね」


「でもスライムには血液が無いので人間に効果のある血清は作れないんです」


「良くわかんな~い…わたしバカかなぁ?」


「俺も何言ってるかさっぱりだヌハハ」


「ま、まぁバーベキューしよう」



飛行船の中に魔石を使った小さな炉が有る


そこに網を置き小さいながらも簡単なバーベキューが出来た


ジュゥゥゥゥ…



「頂きま~パク」


「まぁまぁ美味しいね」


「薬剤師!?何やってるんだ?」


「スライムに毒をあげてます…このお肉にも微妙に毒が入ってます」


「肉にも毒が?」


「どんな食べ物にも少しだけ毒が入っててスライムはその毒だけ食べます」


「その肉はそのあとどうするんだ?」


「わたしが食べる…」


「おぇ…」


「ハハハ良いじゃないか毒の一切入ってない肉だよ」


「ねぇ~私も食べてみたいなぁ…どんな味がするんだろ~」


「味は無くなります」


「味は毒だってか!?」


「なるほど…そうかもしれないね」



バーベキューで軽く歓談をしながら薬剤師は海葬されたエルフの娘の話をした


薬剤師にとってそれは聞いた話だったが商人達にはそれが重要な情報だった



「そうか…その女性は海葬されたのか」


「ひっく…ひっく…」僧侶はショックを受けたのか泣きじゃくっている


「言葉もねぇな」


「お知り合いでしたか?」


「仲間だったんだよ」


「エルフの娘がかわいそう~うぇ~ん」


「火傷を負った人はその女性の身に付けてた銀のアクセサリーを大事にしてました」


「一緒に買いに行ったのに…」


「でもどうして騎士は火傷を負ったんだろう?」


「全身骨折もしていました」


「キマイラしか考えられんだろう」


「しかしどこに居たんだ?魔王島には何も無かった…」


「謎だね」


「あの~…キマイラとは何でしょう?」


「話すと長いんだけど…遺伝子操作された魔物?って所かな」


「遺伝子操作!!…例の疫病も普通の病気と違って人工の病気じゃないかと疑っていました!」


「なるほど…君の考えは正しいよ」


「という事は…」薬剤師はブツブツ一人で難しい言葉をつぶやき始めた


「薬剤師は商人に似てるなヌハハ」





中立の国の商人ギルド


ここは陸と海の貿易中心地


海では海賊達が海路封鎖を行ったせいで物流が停滞し貿易が大混乱となり商人ギルドに人が押しかける状況となっていた



「囚人!戻ったよ」


「早かったな…往復で10日程か」


「あの飛行船はめちゃくちゃ早かったぞ」


「私が組み立てたからだ」


「例の作戦は順調かい?」


「この通り物流が停滞して大混乱中だ」


「王国の動きは?」


「思惑通り闇商人と取引したがっている…どうする?」


「よし!食料だけ流通させる…ただし…塩だけは流通させない」


「買い占めて良いんだな?」


「良い…これで王国は戦争を出来ない…」


「クックックお前のやり方は本当に闇商人だな…いや魔王か」


「まだまだこれからだよ」


「僕達は例の秘密基地の方に行っておくから後で囚人も来てよ」


「こちらの用件が済んだら向かう」


「じゃぁ…」





秘密基地


そこは港に有るとある倉庫の一角にある


飛行船の組み立てが近くで出来る事もありいつの間にか秘密基地として使って居た



「情報が揃ったね多分こういう事だ…」



騎士は始まりの国の監獄塔に幽閉されている


魔女の指輪で看守の力を吸いながら生き長らえてるんだ


でも僕達5人だけで1000人近い衛兵を潜り抜けるのは無理がある


やっぱりドラゴンを先に仲間にする必要があるかな




「まぁ…その通りだな」


「心配だよ~う」


「きっと大丈夫さ…僧侶は未来を知っている」


「これからどうするんだ?」


「砂漠の砂嵐を飛び越えてドラゴンの棲家に行って…取引をする」


「終わりの国のドラゴンの子を解放するんだな?…被害が大きすぎないか?」


「もうほとんどの商船は僕の手にある…海賊王に裏航路で待機させる」


「全部避難させるつもりか?」


「そうだよ」


「出来るのか?」


「出来るのか?じゃなくてやるんだよ」



やり方は終わりの国の地下墓地のゾンビを全部解放する


衛兵達はゾンビを相手にしなくてはならない


混乱に乗じて僕達は城の内部からドラゴンの子を解放する


城の内部は囚人が熟知している筈さ


ドラゴンの子を解放したら市民を全部船に乗せる


これは海賊王達がやるんだ・・話は付けてある



「やっと復讐の時が来た…」…囚人がボソリと漏らした


「今回は囚人と盗賊が肝だよ」


「俺が?」


「子ドラゴンの解放は盗賊の鍵開けに掛かってる」


「ほう…俺の専門分野か」


「そうだよ子ドラゴンの入ってる大砲には鍵が掛かってるのさ」


「ほんでいつ動くんだ?」


「中立の国での取引がひと段落したらドラゴンの棲家に行く」


「そこは命の泉という場所さ…親ドラゴンはそこを守っているんだ」





数日後


「ねぇ…塩が無いとどうして戦争ができないの~?」


「おう!それはだな…保存食が作れないからだ」


「保存食?」


「普通の食べ物は塩が無いとすぐに腐ってしまう…1週間もすれば兵隊は食べるのもが無くなる」


「へ~」


「その他にもな…戦いで血を流すと動けなくなる…塩水を与えないとしばらくは動けん」


「そんなに大事な物だったんだぁ~」


「塩が無いと逃げる敵も1週間で追えなくなる…いや往復を考えると3日しか動けん」


「でもさぁ…塩って海で沢山捕れるよね?」


「まぁ作る手間と時間が掛かるんだ…それをみんな商人が押さえちまってる訳よ」


「ふ~ん…」


「塩が無いと食い物だけじゃ無くて他にも色々困るんだ…魔石が作れなくなったりとかな?」


「大事な物なんだね」



商人と囚人が揃って秘密基地に戻って来た



「よし!取引が終わった!明日ドラゴンの棲家に向かおう!」


「お!?行くかぁ?」


「商人ギルドは他の者に任せて良いのだな?」


「塩だけは流通させないように徹底させて」


「わかった…他の者に言い聞かせておく」





翌日_飛行船


「よ~し荷物全部積んだぞ」


「商人!お前は一人で歩けるようになったのか?」…と囚人


「薬剤師の薬のおかげで随分楽になったよ…食欲もあるんだ」


「食欲があるのは良い事だ…」


「ハハハ囚人には関係の無い話か…血は足りているかい?」


「闇取引では生き血も手に入る」


「血を売って金貨を稼ぐ人もいるからね」



「おい!!早くのれぇ!!出発するぞぉ~」


「どれくらいかかるの~?」


「地図によると歩けば2ヶ月だ…この飛行船なら10日も掛らんかもしれん」


「砂漠を歩くのは大変だよ…僕はムリだ」


「おーし全員乗ったな?まぁくつろいで居てくれぇ」



フワフワ フワフワ




上空で…


薬剤師がスライムを体の上に乗せて気持ちよさそうに寛いでいた


「薬剤師は何してるの~?」


「これはね?スライムがわたしの体に入った毒だけ食べられるか実験してるの」


「なんか気持ち良さそ~うウフフ」


「全身舐め回されてる感じよ…」


「わたしもやって欲し~い」


「うんやっぱり…反応が消えてる」


「???」


「すごい事を発見したかも知れない」


「どうしたんだい?」…商人が興味深々でのぞき込む


「スライム…この子はどんな毒でも直せる事を発見したみたい」


「僕にもやってもらえるかな?」


「多分…大丈夫」


「どうすれば良い?」


「少し横になって…ハイご飯でちゅよ~」…そう言ってスライムを商人のお腹に乗せる


「うはは冷たい…そしてくすぐったいな」


「そのままじっとしててね」



スライムは商人の体を舐め回した



「なんか体がすごい楽になった気がする」


「多分商人は心臓の機能が低下した事で腎臓の機能も低下してて体の毒を排泄しにくくなってるの」


「体に溜まった毒を全部食べてくれた?」


「これはすごい発見だわ!!スライムと人間は共存出来る!!」


「ハハ…でも毒を一杯ため込んでて危ないよね?」


「そうね…スライムは毒を中和する抗体を自分で持って居るけれど…どうにかしてそれを使えるようにしたい」


「始まりの国もきっとそういう研究をやって居るんだろうなぁ…」


「ねぇねぇ私もお腹にスライム乗せたぁ~い!」


「じゃぁ次は僧侶…じっとしててね?」


「ウフフ…スライムと仲良しな私達ってさぁ~本当に魔王軍みたいだね~」


「う~ん…スライムを率いる魔王軍ってなんかイメージ違うなぁ…」


「だはは違い無え」




砂嵐地帯


ビュゥゥゥゥ バサバサバサ


地面から立ち昇る竜巻が砂嵐となって何本も空中に連なっている


巻き上げられた砂は辺りを砂色に染め視界はとても悪い



「こりゃ巻き込まれたら終わりだな…」


「地面から空まで渦が繋がってるぅ~」


「地上から見ると砂嵐だけど砂の海みたいだね…うごめいてる」


「この竜巻の間を縫って行けば良いんだな?」


「そうだよ…抜けると高い山がそびえ立ってる筈さ」


「ハンター達はここを通ってドラゴンを狩りに行くのか?」


「いや…砂漠の町から北上して山の尾根沿いに行くと聞いてる…砂漠を超えるのは難しいらしい」


「その命の泉って場所は分かってるのか?」


「一番高い山の頂らしい…行って見れば分かるはず」


「いきなり山頂に降りるのか?」


「ハハハ盗賊ならできるだろう?」


「ドラゴンに襲われたらどうする?」


「その時はその時だよ」


「クックック命がいくつあっても足りんな」





山頂


「見えて来た…た、高けぇ…まだ高度上げるのか」


「はぁはぁ…さすがに息苦しいね」


「商人!ゆっくり深く呼吸をしてね…息を乱さないで」


「僕はやっぱり背負ってもらわないといけない様だ」


「それは気にするな」


「ねぇねぇもしドラゴンさんが居たらどうするの~?」


「僧侶は精霊の加護の祈りをしてて欲しい」


「わかった~」


「アレだ!あそこに泉が見える…山頂ってか山の麓だな」


「ここまで来たら同じ様な物さ」


「よし!!じゃぁ直接命の泉の前に下りるぞ」



フワフワ ドッスン


飛行船を命の泉から流れる川の少し下流に降ろした


当たりは静寂に包まれている…そして山を見下ろすと下には雲海が広がって居た




「静かだな…」


「ドラゴンの気配は無い様だ…」


「商人背中に乗れ」


「先頭は囚人にお願い…僧侶と薬剤師は後から付いてきて」


「行くぞ」


「命の泉って言うのに草木も生えてないんだね~」


「ここは標高が高すぎる…高山植物すら生えんのじゃ無いか?」


「よく足元を見てごらん」


「苔だぁ…すごく小さな花が咲いてる~かわいい~♪」


「古文書にはその苔に癒しの効果があると書いていた…さわってごらん」


「やわらかくて気持ち良い~ウフフ」


「僕は少し確かめたい事があるんだ…命の泉まで行ってくれるかな?」


「泉のある場所だな?こっちだ」


「音が…なんだこの感覚…耳が詰まった様な…俺達の足音しか聞こえない」


「下界とは隔離された場所の様だ」


「いやそうでもないよ…微かに水の音がする」





命の泉


サラサラ…


泉から小さな川が下流へ落ちて行く清らかな音


その音以外は静寂に包まれ誰もが空間を意識するようになる



「ここが命の泉?」…あまりの静寂に耐えられなかった盗賊が言葉を発した


「何か見えないかい?」


「湖の真ん中に何か突き立ってるぅ~」


「やっぱり古文書の内容は本当だったんだ…」


「なんだアレは?」


「多分魔王が突き立てた魔槍だよ…ロンギヌスと言うらしい…囚人!!あの魔槍を抜けるかな?」



囚人は黙ってその魔槍に近寄りそれを引き抜こうとした



「な~んだ…この泉って浅いね?ウフフ」


「おい僧侶!体濡らすと後でしんどくなるぞ?」


「囚人!!抜けそうかい?」


「フン!フンッ!フーンッ!だめだ…私の力では引き抜けん」


「俺もやってみっか?」


「いや…これは力で抜けるとかそういう物では無さそうだ」


「そうか…仕方が無いね」


「あの魔槍がどうかしたのか?」


「古文書では魔王は命の泉を汚して人間を弱体化させたとある…」


「伝説の話だろ?」


「ひょっとして僕達の飲む水はこの魔槍のせいですべて汚れているのかも知れない…とか思ってね」



ギャオーーース!!


その時背後からドラゴンの咆哮が聞こえた



「うお!!ドラゴンが戻って来た!!」


「待て!!水場の方が都合が良い…集まれ!!」


「僧侶…精霊の加護を頼むね」


「は~い。オッケ~」



ドラゴンは一直線にこちらへ向かいその大きな翼を広げ


バッサ バッサと旋風を巻き起こしながら目の前に着地した


ドッス~~ン!!



「で、でけぇ…」…たじろぐ盗賊


「ドラゴンと取引をしに来た!!助けになって欲しい!!」



ゴウ! ボボボボボボボボボボ


ドラゴンはその口から灼熱の炎を躊躇いなく吐いた



「どわ!!いきなりブレスか」


「大丈夫さ…精霊の加護に守られている」



”精霊の加護を持つ人間か”


”人間よ我は下等な生物とは取引などしない”


”命の泉が汚れる…立ち去れ”



「6匹のドラゴンの子を解放すると言ってもかい?」



ドラゴンはその首を横に向けた…それはその眼で良く獲物を見る為だ



「終わりの国でドラゴンの子が捕らえられてるのは知っている…それを解放する」


”人間は信用出来ん…立ち去れ”


「ならこうしよう…僕達がドラゴンの子を解放する様を見ていてくれ」


「話はその後にしよう…ただ…少し協力してもらわないと解放できないかもしれない」


「解放したドラゴンの子を導いて欲しい…必ず助ける」


”話は終わりか?ならば立ち去れ”



ドラゴンは侵入者が立ち去るのを黙って見ていた




飛行船


一行はドラゴンとの会話の後すぐに飛行船に乗り帰路についた



「おい!良いのか?取引が成立したとは思えんが…」


「フフならどうして僕達は自由に飛行船で帰れる?」


「お!?…そういやそうだな」


「ドラゴンは僕達を殺す事なんて簡単な筈さ」


「商人!あったまい~~ウフフ」


「ドラゴンは何も言わないけど了解したんだよ…僕達の行動を遠くで見てる」


「次はどうする?」


「海賊王と接触する…いよいよドラゴンの子を解放する最後の調整だ」



商人はその後の事も十分考えて居る様だった


その眼はギラ付き…残り少ない命を使って何かを成そうとする眼…



「ねぇねぇ商人?命の泉に突き立ってた魔槍…なんか気になるなぁ…」


「君もそう思うかい?僕もなんだ」


「あの魔槍は抜かないといけない気がするの~」


「水を汚して人間を弱体化さてたってどういう事なんだろう」


「もしもわたしが命の泉だったらね~あんなの刺さってたら痛いと思うんだ~」


「痛みか…」


「痛みは憎悪に似た感情を産む…それが流れ出てるのかもしれんな」


「その水を長い年月僕達は飲み続けてるのかな…」


「かもしれんな…」



---僕の勘は結構当たるんだ---


---アレは抜かなきゃいけない---


---直感でそう思う---

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