13.辺境の村

辺境の村周辺


盗賊は一人で旅をしていた


その時天候は悪く土砂降り…険しい山林では安全に雨を凌ぐ場所も乏しく


焚火で体を温めないと体力を著しく消耗してしまう



「あぁぁぁ腹減ったな…確かこの辺りの筈なんだが…」



雨に打たれて体力を消耗するのは連れている馬も同様だった



「どっか洞穴か何か無えかな…」


「おい!誰かくるぞ!」…木陰から声がする


「おいおい山賊のお出ましかぁ!?」


「どしゃぶりの中こんな田舎に来るのは誰だ!!」…現れたのは明らかに子供2人


「ようよう威勢が良いじゃねぇか!?辺境の村を探してるんだ…知ってるだろ?」


「村に何の用事だ!?」


「ほう…近い様だな?腹が減っている…案内してくれんか?」


「質問に答えてない!!」


「用心深いな?人を探してんのよ…悪さをするつもりは無い」


「こいつは兵隊じゃなさそうだ…どうする?」その子供達はヒソヒソ相談している様だが…


「まる聞こえだぞバ~カ」


「バカって言われたぞ!」


「だからまる聞こえだって~の」


「多分兵隊じゃない…連れて行こう」



盗賊はその子供達の後を付いて行った




辺境の村


人里離れた山奥にその村はある


盗賊が村に入るなり目に付いたのはボロ着を着た子供達がそこら中で倒れている事だった



「な、なんだこりゃ…病人ばっかりじゃねぇか」


「病気が流行ってるんだ…早く村を出た方が良いよ」


「病気?お前達は無事なのか?」


「多分僕達も病気に掛かってる…症状が軽いだけだよ」


「なんでそんな事になってんのよ…」


「だいぶん前にどこかの兵隊達が得たいの知れない魔物を連れて来てその魔物が病気の元になってたんだと思う」


「そんならさっさと倒せば良いだろ」


「倒したよ…でも病気が蔓延したんだ」


「その兵隊達はどこからやってくる?」


「わからない…薬だといって謎の液体を置いていく」


「俺は兵隊達が病気を持ち込んでると思ってる…もう村に入れる気は無い」…もう一人の子供が声を荒らげた


「なぜ兵隊が犯人だと思う?」


「病人の血液を採取して持っていく…絶対何かの実験だ」


「……」…盗賊は言葉を失った



こりゃどっかの王国が細菌兵器の研究やってんな…


人体実験を強行して居やがる…クソったれが!



「ところでこの村には宿屋は無いよ?」


「まいったな…腹が減ってしょうがな無え」


「その…病気が流行ってから働き手が居なくなっちゃって…」


「お前らが収穫すれば良いだろう!…ってお前ら子供か」


「子供じゃない!!今は村を守る戦士だ」


「話の出来る大人は居ないのか?」


「大人はみんな薬を飲まないで…寝てる」


「死んだのか?」


「……」2人はうつ向いている


「よし!俺について来い!あと元気な奴を集めて来い!」




掘っ立て小屋


盗賊は有り合わせの材料で食事を作った



「よ~し!並べぇ!!ご馳走だぞ!!」


「おおおおおぉぉぉ久しぶりのご馳走だ!!」



うめぇ!!


待てよ!小さい子から順番だ


どうやって作るんだ?


見て見て!よく勉強して!



「よ~し!これで全員か?30人ぐらいか…」(おかしいな…騎士らしいのが居ない)


「これで全員なんか?」


「お兄ちゃんが具合悪くて寝てるよ」


「そのお兄ちゃんはどうしたんだ?」


「魔物と闘って怪我をしたんだ…それ以来具合が悪いって」


「どこに居る?」


「村の教会で横になってる」


「呼んで来い!…俺が手当てしてやる」


「でも歩けないみたい…」


「そうか…おい!お前ら!!ご馳走残したらタダじゃ済まんからなぁ!!」


「おおおおぉぉぉ全部食うぞぉぉぉ!!」


「おい少年!教会に案内しろ!」




一人の少年に案内され教会に向かう




教会


その教会はそこそこ堅牢な作りをしていてこの村では恐らく学校の役割をしていると思われる


子供達の物がそこらに散らかって居り…その奥のベッドに一人青年が横になって居た



「ここだよ」


「そうか…お前は戻ってご馳走食っとけ!」


「うん!」…少年は走り去った


「おい!お前…大丈夫か!?」(間違いない騎士だ)


「んあ?…はぁはぁ」


(こりゃひでぇ…一人で村を守ってたのか?)


「あ、あんたは誰だい?」


「まぁ…通りすがりの者だ…怪我してる奴が居ると聞いてちっと見に来たんだ」


「そうかい…見ての通りさ…何か手当てが出来るのかな?」


「包帯も何も無いが…薬草をちっと貼るぐらいはな?」


「ありがとう…」


「今薬も飲ませてやる」(ドラゴンの涙だ)


「いや…薬は他の子供達に…」


「お前が死んだら誰が村を守るんだ!?」


「ただの豆だ…ちっと精が付くぐらいのな?…体力が無いと傷も治らんぞ」


「ハハ豆か…頂くよ」…そういって口に入れた


「まぁおまじないだと思え」


「いや…僕は多分もうすぐ死ぬ…村の子供達をおねが…あれ?」


「あぁしばらくは面倒みてやるよ」


「なんだか痛みが引いていく気がする…」


「そりゃ良かった…しばらく休め」


「痛みが無いと良く寝られそうだ…よ」…騎士は気絶するかのように眠りについた




---よっし!とりあえずコレで俺の仕事は終わりだ---




翌日


「おおぅ今日は快晴だ」


「おはようございます!!先生!!」



勝手に雨宿りしていた掘っ立て小屋の外に子供達が待って居た



「ぬあ!!先生!?」


「はい!!先生!!ご馳走の作り方を教えてください!!」


「なぬ!?いや俺は忙しくてな」


「あれを見てください!!みんな先生を待っています」


「んあ?どこだ?」


「まず…火の起こし方を…」


「なんだありゃ?木を叩いてんのか?…まさかお前ら火の起こし方も知らんのか?」


「みんな元気になりました…たぶん皆お腹が空いていたから…」


「ぬはは…腹が張ったら元気が出てきたか」


「はい!!今度は僕たちがご馳走を作ります!!」


「ん~む…」(仕方が無い付き合うか)


「おねがいします!!」


「あ~分かった分かった…火の起こし方はだなぁ…」



盗賊は子供達に火の起こし方を教えた


幸い火打石は余分に持って居たから分けて与えた



「よし!!明日から狩りの仕方と料理を教えてやる…日の出前に来るように!!」


「はい!!」


「僕も混ぜてもらって良いかな?」…若い騎士が気まずそうに現れた


「お!?体の具合はどうだ?」


「死ぬかと思ったけど…なんか一晩ぐっすり寝たら調子良くなっちゃって…ハハ」


「腹は減ってないか?」


「ぺこぺこだよ」


「おう!そりゃ丁度良い!お前らぁ!!火を起こせぇ!!ご馳走作るぞ!!」


「うおおおおぉぉぉ」


「野菜取ってくる~」




盗賊は子供達に野菜と芋の煮込みスープの作り方を教えた


それを皆で食べながらまだ若い騎士と話す



「この村には何の用事で?」


「あぁもう用事は済んだ」


「見ての通りこの村には大人が居ないんだ」


「そのようだな…お前一人で面倒見てたのか?」


「僕が狩りしてこないと食べる物がね…」


「その傷は何にやられたのよ?随分深い爪痕だったが…」


「熊…放置しておくと危ないからね」


「ぶっ…熊と闘うのは無茶だろう…」


「でも襲ってきたから仕方が無いさ」


「この辺りは獣も多い訳か…」


「家畜もみんな病気にやられてしまってね…危険だけど狩りで肉を手に入れないとやっていけないよ」


「そうか…明日皆で狩りに行こう!夜はバーベキューだ」


「ハハ良いね子供たちが喜ぶ」





「そうだ!大物は狙わなくて良い。ウサギ、鳥、猪で十分」


「あぁ!!また逃げられた…」


「どんだけ気付かれないで近付けるかってのが重要だ」


「わかったぁ…もう少しゆっくり近づく」



「釣りの方はどうだ?」


「餌の食い逃げが…」


「そりゃ餌のつけ方だな…こうすれば食い逃げされ難い」


「おお」



「よう!お前は弓は使えんのか?」


「僕は弓を使えるほど器用じゃないんだ」


「やってみろ!」


「こ、こうかな?」


「呼吸を整えて…獲物の前方上を狙え」



ギリリ ミシミシ



「バカ…弓を引きすぎだ!半分の力で良い」(やっぱり体力バカは変わらんな)


「難しいね…」





夜_焚火


盗賊は狩って来た動物の解体の仕方を子供達に教え


その夜は新鮮な肉でバーベキューをした



「ぷはぁ…久しぶりに肉食ったぁ」


「まだスープが余ってるわよ~」


「おかわりおかわりぃ!!」



子供達はお腹が膨れて満足そうにはしゃいでいた



「この村が子供達だけでやっていけるまでこの村に居てほしい」


「ううむ…お前は武術の経験はあるのか?」


「教えてもらった事は無い…自己流だよ」


「立ち回りやってみるか?」


「え!?」


「木の棒でチャンバラだ」


「で、できるかな?」


「ちょっとした運動だ…木の棒を持て」


「わかったよ…」



木の棒を持って向かい合う2人を見て子供達が集まって来る



「おぉ!お兄と先生がチャンバラやるみたいだ」


「お兄!!がんばってぇ~」



「いくぞ?」


「こ…来い!」



盗賊は軽く踏み込みけん制攻撃を掛けた


そのいくつかは防がれたが隙を付いて攻撃が当たる…バシッ



「いたっ!!」


「全然ダメだな…足裁きがべた足だ」


「べた足?」


「よし!お前が立ち回り上達するまでは村に居てやる」


「おーみんな聞いたかい!?」


「すげぇ!僕達にも教えて!」


「お前らはこいつから教われ!こいつより強くなるまではダメだ」


「おい!みんな聞いたか!?練習するそ!!」


「俺はちぃと厳しいぞ?今度はお前が掛かって来い」


「ようし!!行くぞ!!」




数日後


「はぁはぁ…」


「こらぁ!!畑仕事サボるなぁ!!これも訓練の内だ!!」


「わ、わかってる」


「お~~~い!!お兄ぃ~~~」


「ん!?」


「はぁはぁ…」


「どうした?」


「始めて見る兵隊が大勢来てる!!お兄ぃを探してる」


「どこよ?」


「村の入り口だよ」


「あれは中立の国の兵隊だな…」(勇者選びか?)


「今行くよ…師匠も一緒に来て」


「いや…俺は遠くで見てる…俺の事は言うな」


「わかったよ…じゃぁ行って来る」


「……」(勇者の選定は中立の国がやっているのか)




少し後


「どうだ?奴らは帰ったか?」


「あぁ帰った…師匠はどうして隠れるの?」


「んあ…事情があってな…隠居中の身だ」


「師匠は本当は何者なのかな?」


「ええと…俺は元衛兵隊長だ…終わりの国のな?」


「元衛兵隊長ならなおさら堂々と…」


「俺の顔は兵隊には知れ渡ってる…面倒は御免だ」


「そっか…政治絡みの事もあるんだね」


「ところで用事は何だった?」


「いや…何でも…」


「勇者の案内だな?」


「ええ!!!?どうして分かる…の?」


「俺の耳は地獄耳だ」


「勇者候補の一人になってるから親御の了解を得て置けと…」


「親御は居るのか?」(なるほど普通の親御は了解しないな)


「居ない」


「そうか」(我が子を死地へ向かわす訳が無い)


「勇者って魔王を倒す為に闘うんだよね?」


「さぁな?そうとも限らん」


「あの兵隊達は又返事を聞きに来ると言ってた」


「どうするんだ?」


「子供達がはやし立ててる…」


「勇者にはなりたくないのか?」


「いや…どうして僕なのか分からない…魔法も弓も扱えないのに」


「誰かを救う気持ちだけで良いとは思うがな」


「誰か…か」


「おい!!畑仕事残ってるぞ!!休憩は終わりだ!!」


「う、うん」


「次は種植えるのを手伝え!!」


「わかった!!」




数週間後


カン カン コン


立ち回りは毎日続けられた



「大分板についてきたな…次は足裁きを教えてやる」


「はい!!」


「まずは走りこみだな」


「え?」


「短い距離を全力で往復だ…3メートルから行こう」


「3メートルを全力!?2歩か3歩で…」


「そうだ…出来るだけ早く往復するんだ」



その訓練は簡単な様に見えて継続が非常に大変だ


あっという間に俊敏さが無くなりボロが出る



「ダメだ遅すぎる!!」


「はぁはぁ…」


「呼吸は一気に吸って腹に溜めろ…もう一回!!」



子供達もその訓練を遠くから眺め真似をしていた





数か月後…


「ヌハハ生傷が耐えんな」


「ハァハァ…もう剥ける足の裏の皮が無いよ…」


「次は土砂を運ぶぞ」


「土砂…」


「この村の全周に土砂を積んで柵を立てる…安全の為だ」


「僕一人で?」


「そうだ…柵を立てておけば村を守る場所は一箇所で良い」


「土砂を積む理由は?」


「かっこいいからに決まってるだろ!」


「そんな理由で…」


「冗談だ…本当に何かに攻められる場合は柵なんかじゃ全然ダメなんだ」


「土砂積んだり穴掘って塹壕作ったりして爆弾とか矢を避ける訳よ」


「この村でもそういう準備が必要に思う?」


「準備しておかないと山賊が来たらあっという間に全員殺されるぞ?」


「そっか…村を守る為なんだね…」


「おっし!!ほんじゃ裏の山から土砂を運ぶぞ」


「人力でしかも車輪無しで引きずる…感じだよね?」


「ヌハハ察しが良いな…足腰と持久力の強化だ」


「なかなかハードだ…」


「動いた後はしっかり肉食わしてやっから楽しみにしてろ」




半年後


子供達は自主的に建物を建てられように成長していた



「お~いそっち引っ張ってくれ~」


「こう?」


「そうそう!これで見張り台になる」


「私も登りた~い!!みせてみせて~」



少し離れた所で盗賊達はそれを見ていた



「この村の子供たちは良く協力し合うな」


「半年前とは見違える程元気になったね」


「狩りも大分上手くなって食事に困ることは無くなった…」


「魔物が来なければ割りと上手くやっていけそうだよ」


「どんな魔物が来る?」


「粘菌のような魔物だよ…最近は来ないけど…」


「聞いたことが無いな」


「毒か病気を持ってるんだ」


「昔話ではスライムという魔物が居たらしいが…」


「それかも知れないね」


「良い事を教えてやる…魔物は階段を上がれない事が多い」


「え?」


「次は村の周りに堀を作ろう…階段に出来れば尚良い」


「あたたた…そう来るか」


「もちろんお前一人でだヌフフ」





ある日…


「此処ん所作業ばっかりだからたまには立ち回りやるか?」


「よし!!今度こそ!!」


「お~お兄ぃ!頑張れ!」



久しぶりに木の棒を使って立ち回りをやる事になった



「いくよ!!」


「来い!!」



若い騎士は整地作業で基礎的な筋力が向上していた


以前とは別人のように踏み込みが鋭い


カン カン コン!



「そうだ!!…そうやって間合いを詰める」


「行ける!!」



感覚を掴んだのか連続で攻撃を繰り出す


カン カン コン!



「良い!!自分の間合いから離すな」


「おぉぉすげぇぇぇ」


「お兄ぃかっこいい~~」


「よし!明日から立ち回りも毎日やって行こう」


「穴掘りの後に?」


「当たり前だ…疲れている時の方が練習になる」


「なんか目に見えて上達しているのが分かるとやる気が出て来るなぁ…」




その時大慌てで子供の一人が駆け寄って来た



「お~~い!!大変だ~~」


「ん?どうしたぁ!?」


「荷物が届いてる…先生宛てに」


「なんだと!?見せろ」



その後ろから荷物の配達人と思われる男がやってきた



「盗賊さん宛てに商人ギルドから届け物です」


「おぉぉ!!えらい沢山持ってきたな」


「手紙も預かってます…どうぞ」



手紙の封を切る



”やぁ盗賊、元気にしているかな?


”君が騎士の師匠になる事は僧侶から聞いたよ


”どうやらこれも予定通りらしい


”こっちは順調に情報を集めている


”辺境の村で役に立ちそうな物を送るから


”有効に使って欲しい


”帰りを待っている




「荷物は何よ!?」


「武器と防具類…塩にコショウ…薬と食料…全部大量にあります」


「そりゃすげぇな…お~いお前らぁ今日は今までに無いご馳走が食えるぞ!!」


「うおぉぉぉぉ」


「おい!配達人!今から手紙を書くから商人ギルドに届けてやってくれ」


「わかりました」



盗賊は返事の手紙を書いた



”商人へ


”辺境の村で掴んだ情報を送る


”勇者の選定は中立の国がやっている


”始まりの国は細菌兵器の開発もやっている


”細菌兵器に効く薬の開発も終わっているようだ


”ここ最近は魔物の数が減っている


”帰るのはもう少し掛かりそうだ


”僧侶へ


”騎士には親御が居ない


”騎士は非常に良い奴だ


”村の子供たちの為に一人で闘っている


”まだ例の伝言は伝えていない




「まぁこんなもんか…配達人!よろしく頼む」





8ヵ月後


子供達は模擬戦に使う武器を木の棒では無く実践に近い武器で練習をするまで成長していた


カーン カーン キーン



「おお!子供達もいっぱしの戦士になってきたな」


「お~い実戦用の武器使うと危無えぞ?」


「まだまだぁ!!」



危なげな模擬戦を見ながら盗賊は次の課題を考える



「自主的にやったにしちゃ上出来だ!…だが怪我しない程度にやれな?」


「これで魔物も怖くない!」


「その意気だヌハハ」



子供達が模擬戦をしている中整地作業に追われて居た若い騎士が戻ってきた



「師匠!村の全周に堀と階段作るの終わりました!ハァハァ…」


「そうか!じゃぁ次の事を教えてやる」


「次?」


「お前の腕力と速さはもう十分だ…次は技だ…必殺技を教えてやる」


「必殺技…」


「来い!立ち回りをやる!全力で力任せにやってみろ」


「はい!行きます」


「お前とガチ勝負やると怪我しそうだから木の棒でやるな?…来い」


「行くぞぉ!!」



一気に詰め寄り強烈な連撃を繰り出す


ガン! ガン! ゴン!



「おっとっと待て待て…俺じゃお前の腕力には叶わん…見てろもう一回来い」


「全力で行く!」



再度強烈な連撃を繰り出そうとした瞬間…


盗賊は若い騎士の脇をすり抜け背後に回りピタリと木の棒を首に当てた



「ハッ!!!!!消えた…」…若い騎士は何が起こったのか分からない


「残念だがお前の首はもう無い」


「う、うしろに…」


「これはなぁ…アサルトスタイルと言う」


「どうして目の前から消える?」


「目の盲点に入って背後に回るんだ…盲点は意外とあちこちにある」


「どうやってやるの?」


「1対1で対峙すると剣の先や柄の動きに目が行くだろう?…その時ここが見えない」



盗賊は盲点から攻撃を仕掛けた…ボカッ



「いだっ!!」


「俺の目を見ている時は…ここが見えない」…ボカッ


「あたっ!!」


「相手の視線の死角に入り続けて背後に回る」



一瞬のスキを突き背後に回る



「え?え?…どうしてそこから背後に回れる?」


「やってみろ」



こうして盗賊はアサルトスタイルの立ち回りを若い騎士に教え始めた…


それからは模擬戦を通じて実戦的な訓練が1ヶ月ほど続く



「そうだ!それで良い…お前は正攻法よりもそっちの方が向いているな」


「アサルトスタイルは盲点さえ分かれば色んな派生が出来るね」


「そうだな…上下左右どこに回っても良いな…足裁きが重要だ」


「こんな所で3メートル往復の練習が役に立つなんて…」


「お前の脚力なら背後に回るのは1歩で済む…だがな…これは人間にしか通用しない」


「魔物を相手にする勇者の技じゃないねハハ」


「それがアサルトスタイルと言われる由縁だ…暗殺者が使う技だから忌み嫌われる」



模擬戦で訓練をしている最中一人の少年が騒ぎだした



「お~~い!!大変だぁ!!」


「あいついつも大変だ大変だって…オオカミ少年になるぞ」


「ハハ…どうしたんだい?」


「はぁはぁ…また兵隊が来た…多分勇者の件だと思う」


「今行く…」


「俺は隠れて様子を見ておく…行って来い!」


「わかった…」




村の外れで…


若い騎士は訪ねて来た大勢の兵隊に囲まれて居た



「今回は長いな…」


「お!?」


「兵隊と1対1やんのか?」


「こりゃ面白そうだ…近くまで行くか」



盗賊はその戦いが良く見えそうな場所に移動した



「では試合を始める…両者礼!!」


「お手柔らかに」…若い騎士は軽く礼をした


「本気で行くぞ!」…その兵隊は礼をして直ぐに切りかかる



キーン!!


若い騎士は冷静だった…その剣撃は簡単に防がれる


続けて兵隊は連撃を繰り返す


カーン キーン キーン カーン


「防戦一方か?」


…そう嘲ろうとした次の瞬間脇を抜かれる


「消えた!?」


兵隊は振り返ろうとしたが既に首元に若い騎士の剣がピタリと突きつけられていた


「な…何!!」


それは実力に圧倒的な差がある証拠だった


兵隊は若い騎士に一撃も当てる事無くあっさりと背後に回られ首を獲られる…


「それまで!!」…上位の兵隊が静止を掛けた


「いつの間に背後に…」


「これで決まりの様だな…新しい勇者は君に決定だ!」


「いや…あの…他の勇者候補は?」


「何度も言わせないで欲しい。両親の理解を得られなかったり、模擬戦で勝てなかったり…」


「僕には両親が居ないから了解も何も…」


「尚のこと都合が良い。十分な強さも持っている様だし申し分無い」


「お兄ぃ~すげえぇぇぇ!!お兄ぃが勇者だ!!」


「待って!!僕は辺境の村を守らないと…」


「村は僕達で守るよ…お兄ぃは安心して魔王退治に行って!」


「…という事だ。これが勇者の証だ。それと支度金として金貨1袋もある」


「すげええぇぇぇ金貨1袋って一生暮らせる…」


「なんか強引だなぁ…」


「勇者に選ばれたからには1年以内に各王国のどこかに近況を報告に行く義務がある」


「そんな一方的な事言われても…」…若い騎士は戸惑っている


「義務を放棄した場合は重罪で監獄行きになる事を忘れるな」


「ええ!?重罪?」


「近況の報告は衛兵もしくは門番でも構わない…とにかく生存情報だけは伝える様に」


「はあ…」


「では我々はこれにて帰還する…新しい勇者よ…精進せよ」



そう言い残し兵隊達は足早に去って行く


若い騎士の言い分は聞く耳を持たなかった様だ


一方で子供達は村の兄貴分が勇者に選ばれて喜んで居た


若い騎士は不満ながらも勇者に選ばれた事を受け入れざるを得なかった




それから盗賊は辺境の村が自立していく為の事を子供達に教えて行く



「よし!お前らみんな集まれ!これから金の稼ぎ方を教えてやる!」


「は~い!!」


「裏山に咲く…この葉っぱだ…これはいやし草と言ってな…集めて売れば金になる」


「へぇ~…」


「それからこれは毒消し草…これは気付け草…まんげつ草…つきみ草…全部薬草だ」


「いっぱいあるんだね」


「みんなで特徴を絵に描いておけ!…あとで俺が薬草の効果を書いてやる」


「はい先生!!」


「それから薬草を採るのは葉っぱだけにして根っこは残せ…又生えてくる」


「薬草ってそんなにお金になるんですか?」


「砂漠では薬草は高級品だ…上手に育てて売れば金持ちになれるぞ」


「おおおぉぉぉ!!」


「闇商人という奴に売れば全部買い取ってくれるぞ…あとで売り方も教えてやる」


「みなぎってきたぁぁぁぁ!!」




若い騎士には旅に役立つ知識を教えた



「お前には旅の仕方を教えてやる」


「うん…」


「なんだ元気が無いな」


「ねぇ師匠…どうして僕が勇者になんか選ばれたのかな?」


「それは運命だ…心配するな…お前を助ける仲間が必ず現れる」


「仲間?」


「俺にもお前に似た仲間が居たが…行方が分からなくなった」


「探さなくて良いの?」


「他の仲間が必死に探している…必ず見つかる筈…」


「僕は…勇者になる自信がないな」


「自信は俺も無い…だが仲間である以上必ず助ける気構えだ」


「気構えかぁ…」


「だからお前は前を向いて生きる気構えを持て…絶対に途中で投げ出すな」


「わかった!!ありがとう…師匠」



馬との付き合い方も教えた



「馬の気持ちが分かってきたよ」


「旅では体温をいかに維持するかだ…馬も同じだ」


「僕の最初の仲間は馬かもね」


「ぬはは馬は人間並みに賢いぞ?食事、寝床、休憩…それから友情だな」


「馬との友情?ハハ」


「笑い事ではない!!馬はお前を最後まで守ってくれるぞ」


「馬に守られるねぇ…」


「そうだ…そういえばお前に伝えておかなければならない事がある」


「え?何?」


「お前を愛し守ろうとする者からの伝言だ…」


「何の話?」


『わたしを置いていかないで』


「馬の気持ちかな?…なんだか良く分からないな…」


「まぁいずれこの言葉の意味が分かるときが来る…絶対に忘れるな」


「ふ~ん…僕を愛し守ろうとする…神様かな?…誰だろう?」


「深く考えるな…でも忘れんなよ?」


「わかったよ…心に止めておく」




盗賊は知り得る知識を子供達に教え


この辺境の村に来てそろそろ1年という節目に古巣へ帰る事を決断する



「師匠…今までありがとう」


「ぶわぁぁ…先生…帰って来るよね?」


「おいおい…湿っぽいのは勘弁してくれぇ」


「村の子供達はみんな師匠の事を父親として見てたんだよ」


「お前らはもう一端の戦士だ!!戦士が泣くんじゃねぇ!!」


「みんな!!これは最後の別れじゃないよ…笑って見送りしよう!」


「ぉぅ…グスン」


「んあぁ!!声が小さい!!腹から声を出せ!!」


「うおおぉぉぉう!!また来てね~~!!」


「薬草たっぷり集めて置けよ?買取に来るからよ!?」


「師匠はこれから何処に向かうの?」


「まぁ古巣に戻る…やる事があるのよ」


「また会えるよね?」


「あぁ…必ず会える…約束してやる」


「僕たちにも約束してくれる?」


「もちろんだ!!」


「うおおおおぉぉ!!いってらっしゃーい!!」


「じゃぁな…土産楽しみに待ってろ!!」



盗賊は馬に乗り辺境の村を後にした



---まいったな子供が出来ちまった---


---居心地が良いもんだからツイ長居しちまったわ---


---でもまぁ教える事は全部教えた---


---これで余程の事があっても騎士は必ず乗り越える---


---そうだ必ずアイツなら生きる---


---必ずだ---

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