11.城への潜入

港町


気球を船に乗せいつも通り桟橋に降りた



「おい!?何か様子が変だぞ?」


「本当だね…衛兵が慌しいね」


「顔隠しておいた方が良いかな~?」


「そうだね…」



4人はそのまま衛兵をやり過ごそうとしたが…



「おい!お前達!顔を見せろ!旅商人か?」


「どうしたんですか?」…商人はフードを下ろし顔を晒した


「男か…違うな…他のやつも顔を見せろ!」



3人はフードを下ろし顔を晒した



「む…違うな…通って良いぞ!」


「誰か探しているんですか?」


「魔女狩りだ!始まりの国に魔女が現れて逃げている」


「え!!?」…僧侶が思わず声をあげた


「んん!!?どうした?顔色が変わったぞ?」…その衛兵は不審な顔をして僧侶を見る


「お、おなかが…生まれるぅぅぅ」


「ぶっ…」盗賊は吹き出した


「おい!!何が生まれるんだ!!」


「す、すいません…生まれそうなんで少し宿屋で休憩を…」




宿屋


「ぶはははは…あそこで生まれるは無いだろ…くっくっく」


「新手の回避技だね…笑いを抑えるのが辛かったよ」


「…で?何が生まれるんだ?」


「たまご~ウフフ」


「だははははは…馬鹿バカしすぎる」



人段落した後…



「ところで魔女が逃げているという事だが…」


「情報がそれだけじゃ何とも動けないね」


「港町にも捜索がきているという事は行方が分かっていないと見るか…」


「だろうねぇ…」


「あのね?私の知ってる過去の話なんだけどね~」


「話して」


「魔女騒動があったとき沢山の兵隊さんが死んじゃうの~」


「それで?」


「それで兵隊さんが不足したからわたしが始まりの国の衛兵に召集されたの~」


「魔女が何処に行ったとかは分からないかな?」


「それは知らない~でもね?魔女の塔が壊されるのは知ってる~」


「それだね…」


「騎士との待ち合わせ場所が無くなっちゃうね~どうしよ~?」


「ハッ!!だあぁぁぁぁぁ!!しまったぁぁぁぁぁ!!…」



商人は急に大声を挙げ一人でブツブツ何か考え出した



「どうした??」


「ブツブツた~いむ!!ウフフ」


「僕達はミスをしてる…」


「え?」


「魔王城に待ち合わせの場所について書置きを残してしまった…」


「おいおいまさか…」


「書置きが渡った先は…きっと始まりの国だ」


「王国にとっての内通者の待ち合わせ場所を消すつもり…か?」


「王国からみると僕達は色んな事を邪魔をする内通者に見えてる…」


「まじかよ…」


「今回の幽霊船の件もそうだ…内通者…あるいは魔王軍がやっている様に見えてる」


「わたしたちってさぁ~魔王軍なの?」


「魔王城に不可解な書置きが残ってればそういう風にしか見えない…現に囚人の姿も見られてる」


「切っても切っても死なない不死者か…クックック」


「この流れをどうやって変える?」


「黙って見ててもきっと魔女の塔は壊される」


「魔女の塔はそんなに簡単に壊せる物なのか?」


「すご~~~く大きい塔だよ~~始まりの国のお城より立派~ウフフ」


「キマイラだ…キマイラで破壊するに違いない」


「魔女を探さないと~」


「そうだね…盗賊!!薬の売人にもう少し情報を聞き出せないかな?」


「おう!!聞いてきてやる…薬はたっぷり有る!」




表街道



「いらっしゃ…」


「儲かってっか?」


売人は小声で答えた


(今はマズイ…衛兵がこっちを見てる)


(おぉ…ほんじゃちっと芝居打つか?)


(下手に話しかけないで…)



「このアクセサリーは誰が作ってるんだ?」


「私が家で作って居ます」



衛兵は怪し気にこちらを伺っている



「作ってる所を見せてほしいんだが…」


「見せるのは作る所だけで良いでしょうか?」


「ヌハハ他に見せる物があれば見たいな」


「お高いですよ?」



衛兵は見下すような目に変わった



「家には誰か居るのかい?」


「私一人なのでご心配なさらず…」


「じゃぁ少し見せてもらいたい」


「先払いで…」


「しゃぁ無えなぁ…」ジャラリ



衛兵は見て見ぬふりをした


この国では売春は合法だからだ




売人の家


離れに有る掘っ立て小屋だ


売人に連れられ盗賊は家の中へ入った



「薬が不足してて衛兵が張り付いて居るのよ…」


「お前は薬をやらんのか?」


「薬は止めた」


「正解だ」


「闇商人が言う言葉かしら?」


「薬を欲しがっているのは主に衛兵だろう?」


「どうしてそれを?」


「いらん詮索はするな…今日は協力して貰いたくて来た」


「私を信用していいの?」斜に構えた目で言う


「終わったら薬を一箱やる…5年は楽して過ごせる金になる」


「そんなに危ない仕事は御免よ」


「信用しろ…いざとなったら守ってやる」


「……」疑う様な目


「しかし殺風景な部屋だな…男は居ないのか?」


「お金が溜まったら中立の国で商売するつもりよ」


「ヌハハ丁度良い…仕度して宿屋に来い」


「信用して良いの?」


「心配するな取って食ったりはしねぇ」




宿屋


「連れてきたぜ」


「やぁ…」


「はろ~ウフフ」


「信用出来る奴だろうな?」…囚人は疑り深い


「信用できるかは置いておいて腕は確かだ」


「どうも…」


「世間じゃ売人って事になってるが…女盗賊だ隠密を専門にしてる」


「これはどういう関係?どうして終わりの国の元衛兵隊長が?」


「そこらへんの詮索は無しだ…女盗賊への報酬は先に払う。あそこの木箱の薬全部持っていって良い」


「こ、こんなに…」


「さて…その辺に掛けてくれ…ゆっくり話がしたい」


「何が知りたいの?」


「始まりの国の情勢、最近の噂、知っている事全部だ」


「フフフどこから話して良いか…質問に答える形で良いかしら?」



情報の聞き出しが始まった


特に最近の魔女の噂は参考になる情報ばかりだ



「魔女が複数人居るってどういう事よ!?」


「目撃情報がバラバラで少女から中年女まで魔女の仲間が数人いるらしいわ」


「んーむ…」


「共通するのは瞳の色が赤いのが特長だそうよ」


「魔女の瞳はウサギみたいな赤だったよ~」


「なるほど…それで衛兵は赤い瞳の女性を魔女狩りと称して追ってる訳か」


「始まりの国では相当数の衛兵が高位魔法で焼かれたみたい」


「次の質問だがキマイラは知っているか?」


「キマイラ?」


「質問を変える…最近大型の戦車の様な物が王国に運ばれた話は聞いてないか?」


「2ヶ月程前に大きな物を運んでるのは見たわ」


「始まりの国ではそれを何処に保管するか分かるか?」


「潜入しないと分からないわね」


「出来るか?」


「それは無茶…第一何処に置くかの目星も無いわ…危険すぎる」


「それ私知ってるかも~ウフフ」僧侶が話しに割り込んで来る


「何!?」


「衛兵宿舎の裏に大きな武器庫があってね~大砲とかみんなそこに置いてるの~」


「この子は城の関係者か何かなの?」


「まぁそんな所だ…」


「それにしても衛兵宿舎の近くじゃぁ…どちらにしても手が出せない」


「私が潜入してやる」囚人が名乗り出た


「どうやって!?」


「簡単だ…私一人で正面から城に入る」


「ハハハハその作戦面白いね…囚人!別室で僕と作戦を話そう」




別室で…


「正面から城に入る作戦気に入った!」


「私は終わりの国衛兵隊長で顔が通ってる…だから城には入れるだろう」


「うん」


「城内で武器庫まで走って中を確認して騒ぎを起こす」


「ワクワクするね」


「衛兵に捕まって牢屋行きだろう…次に死んだフリをする…どうせ私の心臓は止まっている」


「ハハハハ」


「死んだ囚人はどうなるかというと…」


「墓地に埋葬されて無事帰還する…完璧だね…面白い」




元の部屋で…


「戻ったよ…囚人が始まりの国の城に潜入する作戦で決まったよ」


「大丈夫か?」


「問題ない」


「……」女盗賊は不審げにしている


「女盗賊!始まりの国の墓地の場所は分かるかな?」


「墓地?…分かるけどどうして?」


「墓地の管理人に成りすませられるかな?」


「いや…それは簡単だけど」


「じゃぁ決まりだ…みんなで墓地の管理人をやる」


「ウフフ~なんかおもしろそ~う」


「ついでに魔女の近況情報も探れるな」


「始まりの国までは気球を使えば1日くらいかな?」


「女盗賊!気球を隠しておける場所は無いか?」


「始まりの国の少し北の森なら人目には付かないわ…魔女捜索隊に見つかる可能性は…」


「いや…この際堂々と町の近くに置こう」


「ふむ…確かにその方が変に怪しまれないな」


「私は案内すれば良いのかしら?」


「そうだな…僧侶の面倒も見てくれると助かる」


「ねぇねぇどういうこと~?」


「お前毎晩シクシク泣いてるだろ…俺ら声掛けにくい訳よ」


「フフフ今日は一緒に寝ましょ」





翌日


一行は早々に気球で始まりの国へ飛ぶ


「ようし!出発すんぞ!!乗れ乗れぇ!!」


「オッケ~♪ウフフ」


「女盗賊!薬はどうした?」


「あの薬は私が帰ってからの財産にするわ」


「空き巣に入られないのを祈るんだなヌハハ」


「私にはあなた達の秘密を教えてもらえないのかしら?」


「まぁ付いてくりゃ直に分かる」


「今裏切られて情報を流されるのが怖いって事かしら?」


「怖くはねぇが…お前もフードで顔は隠しておいた方が良い事は確かだ」




気球は予定より早く1日足らずで始まりの国へ到着する



「始まりの国が見えてきたよ~すごく早いね~」


「陸地の上だと普通の気球より早いのが良くわかるな」


「1日かかる予定だったのに日が落ちる頃には付きそうだね」


「そうだな…高度下げ始める」


「まぁ人目に付きにくいし丁度良かった」


「それなら墓地に直接降りましょう」


「良いね」




墓地


フワフワ ドッスン


「結局誰にも見つからず到着したな」


「都合が良い!墓地に隠しておこう」


「急いで球皮をたたむ!囚人も手伝ってくれ!」


「私をコキ使うつもりか?」


「まぁそう言うない」



盗賊と囚人は急いで球皮を畳み始めた



「ねぇねぇよく見て~新しいお墓がいっぱ~い」


「そうか…魔女騒動で亡くなった人はみんなここに埋葬されてるのか」


「ん~でも魔女がこんなに沢山の人を殺しちゃうのってなぁ~本当かなぁ?」


「そういえば…そうだね…何か引っかかるね」


「ようし!!畳み終わったぞ!!とりあえず宿屋行くか!!」





宿屋


「いらっしゃいませ旅のお方…今夜は休んで行かれますか?」


「おう!!5人だ…」


「失礼ですがお顔を拝見させてもらってよろしいでしょうか?」



一同はフードを下ろし顔を見せた



「ほっ…物騒な事に危険な魔法を使う魔女達が居るそうですので…」


「そんなにひどかったのかな?」…商人が口を開く


「それはもう…閃光と爆音とが轟きましたわ」


「へぇ…」


「3分程で納まりましたがお城の城壁は穴だらけ…兵隊さんも沢山亡くなりました」


「3分!!?」


「もう城壁は復旧したのですが穴の開いた城壁から魔女が逃走したそうです…怖いですねぇ」


「ハハ…そうですね…部屋に案内してもらって良いかな?」


「あら失礼しました…こちらになります」


「ありがとう」




部屋


「面白い話を聞いてしまったね…」


「だな?」


「キマイラが暴れだした隙に魔女が逃げたと考えるのが正解だな」


「一連の騒動を魔女のせいにして隠蔽してるね」


「だとすると魔女の塔をどうやって破壊するんだ?」


「もしキマイラが数匹居るとしたら?」


「なるほど…」


「でも王国が魔女を追う理由が良くわからないね」


「魔女がキマちゃんを暴れさせたのかもね~ウフフ」


「魔女はそんな事できるのかい?」


「ほら~エルフの娘ってさぁ~魔女にはなついていたじゃない?」


「ハッ!!キマイラは元はエルフか…なるほど辻褄が合う」


「まぁこれで魔女が大量に兵隊を殺した訳じゃないって線が強いな」


「囚人!明日城の内部の調査をよろしく頼むよ」


「まかせろ」




翌日


囚人は堂々と城門の前へ訪れた


「止まれ!ここは始まりの国王様の城である」


「終わりの国の衛兵隊長が来たと伝えろ」


「身分の無い物を通す事は出来…ああああ!!もしや!!」


「早くしろ」


「衛兵!!み、見張っておけぇ!!」



門番は慌てて報告に行く


そこに居た衛兵も若干たじろき気味で言う



「お、終わりの国の衛兵隊長がなぜ直々に…」


「お前は私を知っているのか?」


「い、いえ…噂でしか」


「ほう…どんな噂だ?」


「世界一の戦士…」



門番は大声を出し戻って来た



「衛兵!!門を開けろおぉぉ!!」


「ハ、ハイ!!」



衛兵は鉄の落とし門を開いた


ガラガラガラ ガシャーーーン!!


その奥では他の衛兵達が集まり始めていた


その中で位の高い精鋭兵が代表で前に出る



「始まりの国の衛兵隊長は魔女捜索に出ている故私が城内を案内する」


「ほう?会って見たかったのだが…」


「まず何用で始まりの国へ訪れたのかお聞かせ願おう」


「まぁ…そういきるな」


「変な真似はゆるさん!!」


「クックックたかが一人に衛兵20人程か…なかなかに用心深い」


「衛兵!!周囲を囲め!!」


「ハッ!!」


「右手にあるのが衛兵宿舎か?」


「そうだ!!何かあったら宿舎から300人は出てくる!!」


「クックック手負いが300人出てきて役に立つのか?」


「何!!!!?貴様なぜそれを…」


「奥にあるのが武器庫だな?」


「待て!!動くな!!終わりの国の衛兵体長がこの国に何の用事だと聞いて居る!!」


「和平を結びに来たと言えばもう少し態度が改まるのか?」


「貴様…それならば書状の一つでも先に渡せば済むだろうに…」


「フフフ残念ながらそういう用事では無い…」囚人は武器庫に向かい歩き出した


「勝手な事をするな!!止まれ」


「クックック…馬鹿バカしくて相手して居れん」


「衛兵!!取り押さえろ!!」


「気が早いな…もう少し落ち付かんと偉くはなれんぞ?」囚人は言うなり剣を抜いた


「ぬ、抜いた!!構わ~ん切れえぇぇぇぇ!!」



毎度の事ながら世界随一とうたわれた囚人の剣技に敵う者は居ない


更に不死の体を持つ為少々斬撃を食らっても怯みもしない



「つ、強い…」


「ななななんと…切られても物ともせんとは…」


「武器庫へ行かせてもらう!!」…隙を付いて囚人は走り出した


「だめだぁ!!!!衛兵~~出会え出会ええええぇぇ」




武器庫


そこには火薬や砲弾…軍事用の様々な毒


あらゆる兵器が保管される場所…の筈が大規模な爆発でも有ったのか散らかり放題だった



「待てぇぇぇ!!」


「雑魚がうるさい…放せ!!」



追いすがる衛兵を振り切りながら奥へ足を進める



「あいつを止めろおぉぉぉ!!」


「うおぉぉぉぉぉ」



囚人は走りながら武器庫の中に有るだろうソレを探す



(武器庫の中に血の臭い)


(間違いない…ここで戦闘している)


(広いな…あそこの角か?)


(有った!!戦車1基)


(アレだ…)



「待てえぇぇぇ!!それに触るなぁぁ」


「お前はこれが何か知っているのか?」


「貴様ぁ!!それが目的でここに来たのだな!?」


「この戦車…いやキマイラは何匹居る!!?答えろ!!」


「だまれ!!衛兵!!取り押さえろ!!殺しても構わん!!」



そこは武器庫の一番奥…袋小路だった


続々と集まる衛兵の中に魔法を使う者も加わり始めた



(これ以上は身が持たんな…)


(仕方が無い…捕まっておくか)



「かかれぇぇ!!」



囚人は魔法で焼かれてしまう前に衛兵に掴まった


その後引きずられ牢屋へ行く事になる…




牢屋


最も重罪人が入れられる独房に入った


囚人はそこで死んだ振りをしている



(死んだフリするのもなかなかに苦痛だ)


(見た感じ囚人は10名程か)



看守が話す会話が聞こえて来る



「例の囚人もキマイラの事を知っていた様です」


「そうか…尋問出来そうか?」


「いえ…恐らくもう死んでいます」


「まぁ良い…仕方がない…墓地へ運んでおけ」


「それにしてもこの新入り…ひどいですな」


「舌を噛み切らん様にくつわをはめておけ」


「はぁ…しかし」


「食事はしっかり与えろ…重要な参考人だ…手当ても怠るな」


「ハッ」



看守と話して居たその女が牢の前に現れた


牢の鍵を開け一緒に居た看守が囚人の心臓音を確かめる



「やはり死んでいます…」


「引きずり出せ…新入りと交代だ」


「ハッ…」



看守は無造作に囚人の足を引っ張り放り投げる


ズルズル ドサーーー



---もう少し丁寧に扱って貰いたいものだ---



「私はもう少しここに居る。お前はその死体を早く外へ出せ。ヘドが出そうだ」


「ハッ!!10分で戻ります!くれぐれも他の囚人には近づかないで下さい」


「なぜだ?」


「隊長にもしもの事があったら他の衛兵に袋叩きに合います」


「フフ馬鹿にするな!そこらの男には負けん」



囚人は死んだ振りをしながらその隊長と呼ばれる女の顔を見た



(こいつが海賊王の娘か)


(なかなかに勝気な娘だ)


(気に入った…覚えておくぞ)




墓地


死体埋葬用の穴を掘るのはかなりの重労働だ


だから簡単に穴掘り要員として雇って貰えた



「毎日人が亡くなってるんだね~」


「火傷を負った遺体ばかりだな…そして亡くなってから随分経ってる」


「たぶん一気に遺体を出せないから分けて持ってきてるんじゃないかな?」


「それにしても穴掘り忙しい…てかちゃんと穴掘ってるの俺だけじゃ無ぇか?」


「まぁまぁ…僕はそもそも動けないから…」


「埋葬は盗賊さんお仕事~そして私はお祈りがお仕事~」


「無駄口はここまで…また次の遺体が来たわ」



兵隊が荷車に遺体を数体乗せて運んで来た



「穴掘りご苦労!!今度の遺体は墓標無しだ…まとめて埋葬を頼む」


「は~い」


「ほ~フードで顔は見えんが良い返事だねぇ」


「おい!!早くしろよ!こっちは疲れてるんだよ!!」


「あぁ…運ぶの手伝うわ」


「兵隊さんよ!!後は俺達でやっておくから戻っていいぞ」


「おぅ!すまんな~司祭には良く言っておく」


「僧侶!この遺体は傷だらけだ…埋葬する前に回復魔法掛けてやってくれ」


「ほ~い!!回復魔法!」


「兵隊は行ったか?」


「まだ…もう少し…」



僧侶は囚人の眼を無理やり開いた


ギロリと囚人の眼が動く



「ウフフ~目が動いてる~」


「よし!もう良いよ!」


「立てるか?囚人」


「問題ない…」…と言いムクリと起き上がる



その時遠くで声がした


「あわわわわわ…死体が蘇った…あわわわわわ」


「ままま魔女達が死体を操っている…あわわわ」


「え!?え!?違うの~~!!」…僧侶は声のする方に駆け寄った


「たたたた助けてくれぇぇぇぇ」


「まずい!誰かに見られたね」


「そうだな…面倒が起きそうだ」


「気球が近い…ここは逃げよう!」


「宿屋はそのまんまにすんのか?」


「仕方ないよね…直ぐに衛兵が来てしまう」


「しゃぁ無え…行くか!!」





気球


ゴゴゴゴゴゴー


魔石の出力を最大にして一気に球皮を膨らませる



「早く乗れぇ!!」


「オッケーみんな乗ったよぉ~ウフフ」


「人に見られる前にここを離れよう…とりあえず北に行くのが目に付きにくいかな?」


「そうね!城を迂回して北に向かえば大丈夫だと思う」



…とは言う物の誰の目にも付かないという訳には行かない


特に夜間は魔石から出る炎の光が良く見えてしまう


その光に照らされた気球は


それを見ていた者にとって不思議な何かに見えていた



「おーし!ここまで来ればもう安心だ」


「さて囚人…城での3日間…何があったか教えて」


「やはり商人の読み通りキマイラが暴れた様だ…」



キマイラは恐らくもう一体居る


武器庫の奥で戦車を一基見た…たぶんその中だ


暴れた原因は分からないが武器庫の中は相当破壊されていた


衛兵の被害も相当だろう…半数は火傷を負っている


特に気になったのは牢屋には鍵が掛かっていない


出るためには衛兵宿舎の中を通る必要があるからだろう


囚人は衛兵宿舎の地下を自由に動くことが出来るが


足かせを付けてる一部の囚人は恐らく階段を上がることが出来ない


俺が思うに…魔女は足かせ無しで捕まっていて


キマイラが暴れた隙に簡単に脱出が出来たと考える



「ハハ鍵無しの牢屋か」


「そりゃ牢屋とは言わんな」


「鍵無しにしたのは隊長だって聞いたことあるよ~ウフフ」


「ほぅ…その理由は知っているか?」


「囚人をわざと泳がせる?…だっけなぁ…良くわかんな~い」


「泳がせる…ね…つまり魔女をわざと逃がした可能性もある訳か…」


「その場合隊長の狙いは何だと思う?」


「う~ん…少し考えさせて欲しい」




林の中の洞窟


「よし…ここなら見つかるまい」


「ここの林の雰囲気懐かしいなぁ…あの時は騎士と一緒に冒険したなぁ…」


「そうか…この辺りは騎士と一緒に来たことがあるのか」


「騎士は今頃何してるかなぁ~?心配だなぁ…」



突然商人が閃いた



「そうか!!」


「ん!!?どうした?」


「僧侶!!もう一度君と騎士との事を話して欲しい」


「えっとぉ~武闘会の時にドラゴンに襲われて…」



僧侶は騎士との出会いからこの林を通って森の町へ行った事を話した



「ちょ、ちょっと待って…魔女に初めて会った時はお婆さんだったんだね?」


「そうだよ~…指輪を使って命を吸うって言ってた~」


「という事は魔女はその時まで死なないで生きている…つまり」


「つまり?」


「今慌てて探さなくても魔女は無事って事だ」


「そうだね~…でもどうしてお婆ちゃんだったのかなぁ?」


「指輪が無いと若さを保てないんだっけ?…あ!!!!」


「なになになになに?」


「女盗賊!!魔女の目撃証言は?」


「情報がバラバラで少女から中年女で瞳の色が共通して赤色ね」


「魔女は1人だ…年を取っている…だから証言がバラバラだ」


「なるほど」


「じゃぁ指輪は何処に行った?」


「愛しの人の為じゃないと絶対外さないって言ってたよ~」


「そこが分からない…魔王城で一体何があったんだ?」





就寝


眠りに着けない女盗賊が小声で話す



「ねぇ僧侶?もう寝た?」


「むにゃ~まだかろうじて起きてるょ」


「あなた達って一体何者なの?闇商人一味?」


「ん~闇商人一味っていうのは半分正解~」


「半分?」


「本当は魔王を倒すための勇者一味が正解なんだけど…魔王が居ないの~」


「からかってる?」


「からかってなんかないよ~ウフフそれとね~本物の勇者もまだ見つけてないの~」


「フフおかしな話」


「勇者も魔王も居ないのに…わたしたち何やってるんだろうね~」



突然商人が飛び起きた



「ソレだ!!」


「びびびびびっくりしたぁ~もう!!」


「今の世界に魔王は居ない…でも200年前には確かに居る」


「え?え?」


「本物の勇者は魔女の指輪で200年前に戻って魔王を倒す…そういうシナリオだ」


「へ?」


「魔女はこれから必ず本物の勇者と出逢う…本物の勇者が探し求めてるのは魔女が持つ指輪だ」


「ねぇ騎士の事忘れてない~?」


「魔女は君達に始めて会うまで本物の勇者には会って居ないよね?」


「うん…そう言ってた」


「魔王城で何かあって魔女は指輪を騎士に預けた…それなら辻褄が合う」


「え…」


「今指輪を持っているのは多分騎士だ…そして」


「もしかして…」


「君が言う武闘会でドラゴンに食われる囚人は多分騎士だ…指輪を持っている」


「そんな…イヤ…」


「僕達はドラゴンと一緒に騎士を救うんだよ」


「そんなのいや…それまで待てない~騎士がかわいそう」


「囚人を起こしてくれ!!」



「呼んだか?私は眠らないと何度言えば分かる」



「始まりの国の牢屋には騎士は本当に居なかったのかい?」


「俺が見たかぎり牢屋の中に騎士らしき人物は見ていない」


「そうか…結局行方不明か…」


「ひどい火傷を負った囚人も居たが騎士かどうかは分からん」


「火傷?…もしかするとその人かも知れないな」


「城の中は火傷を負った者ばかりだ…囚人達も例外ではない」


「ふぇ~ん…騎士がかわいそう~」


「まだ決まった訳じゃないよ…」


「ねぇ囚人さん!もう一回お城に入れないの~?」


「私は顔が割れてしまっている…いくら死なんとはいえ一人で数百人の衛兵を振り切るのは無理だ」


「囚人の言う通りだよ…もう死んだ振りも通用しないね」


「あああぁぁおなかがムズムズして来たぁ~」


「居ても立っても居られないのは分かるよ…でもここは慎重に行こう」


「その火傷を負った囚人が騎士だと分かっていれば無茶のし甲斐もあるが…」


「そうだね…情報が足りない」


「どうすれば良いかなぁ~?」


「僕に考えがある!女盗賊に協力してもらいたい!」


「え!!?私に何が出来ると?」


「まだ付き合って短いけど君はもう僕達の仲間だ…君なら出来る事がある」


「それは?」


「君の情報収集能力は非常に高い…」


「まぁ…諜報専門なだけよ」


「始まりの国の町で武器屋か防具屋に成りすまして情報を集めて欲しい」


「武器屋か防具屋?…それは出来るけどどうして?」


「武器や防具の交換の為に月に何回か城内に入れると思う」


「その手が!!でも資金が無いわ」


「それは僕に任せて…質の良い物を送るようにする」


「フフフ面白そうね」


「仲間であるからには全力で支援するのを約束するよ」


「連絡はどうやって?」


「配達人に手紙を渡してくれれば良い」


「あなた達はこれからどうするの?」


「まず魔女を探さないといけない…事情が聞きたいんだ…その後は中立の国で情報を集める」


「ねぇ一つ質問して良いかしら?」


「なんだい?」


「本物の闇商人はあたなね?」


「ハハハそうさ…でも今は違う…勇者を捜し求める魔王一味?ハハ」


「ぷっ…見えないわねフフフ…わかったわ協力してあげる」


「君はこれから僕達と別れて武器屋か防具屋に成りすまして…必ず物資を送ってあげる」




翌日


早朝…女盗賊は身支度をし始まりの国へ戻ろうとして居た



「そうか歩いて戻るか…寂しくなるな」


「私は歩きの方が性に合ってる…あなた達の無事を祈ってるわ」


「じゃぁ女盗賊よろしく頼むよ…これ資金の足しにして」ドサリ


「こんなにくれるの?金貨一袋…十分すぎるわね」


「無駄遣いすんじゃねぇぞ?」


「わかってるわよ」


「女盗賊さんまたね~騎士の居場所が分かったら直ぐに教えてね?」


「分かったわ…衛兵達に取り付くのは得意なの…火傷を負った囚人の事も調べてあげる」


「ようし!!俺らは魔女の塔へ向かうか」


「距離的に2日くらいかな?」


「多分そんなもんだ…馬で行くより大分早えぇ筈」


「じゃぁ女盗賊!!またな?しくじるなよ?」


「また…」



そう言って女盗賊は林を南へ歩く


4人を乗せた気球は北へ…


魔女の塔を目指す…

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