9.機械の国

気球


魔王島を出発して数日…海の上を彷徨って居た


海図は有るものの目標物が目視出来ない為遭難に近い状態にあった



「だめだ…現在位置が分からなくなった」


「商人の容態がだんだん悪くなってきたよ~ぅ…」


「まだ陸地は見えねぇのか!?」


「遠くにかすかに見える気がするが一向に近づかんな」


「風が強すぎる…高度を下げよう」


「これは幽霊船どころか陸地にたどり着くか危ういな」


「やっぱり気球で海上を飛ぶのは船旅より危険だ…風の流され具合がさっぱり分からん」


「ハァハァ…まぁなんとかなるさ…ハハ」


「ねぇ…もし気球の調子が悪くなったらどうなるのかなぁ…」


「祈れ…」


「息止める練習したほうが良いかなぁ…」


「アホか!ムダだ」


「羅針盤は無いのか?」


「船と一緒に沈んだ…太陽と星しか目印が無い」


「食料は残りどれくらいだ?」


「食料は十分だが水と塩が足りない…特に商人には塩が必要だ」


「どうして商人に塩が必要なの~?」


「普通の水だと心臓に負担が大きい…だから薄めた塩水を飲ませる」


「ハァハァ…」




しばらく後


「あそこに見えるのって船じゃない!?」


「おぉ!!こりゃ助かった」


「海賊船じゃないと良いね」


「いや海賊の旗が見えんな…多分商船だ」


「乗せてもらえるかなぁ」


「乗せてもらえんでも水と塩が調達出来れば良い」


「船に近づける~?」


「船の方が早いからワンチャンスだな…気球に弓を撃たれんと良いが」


「もし撃たれたら船を奪えば良い」


「そんなに上手くいくとは思わんが…」


「あ!船に乗ってる人がこっちに気がついた!なんか慌ただしい感じ~」


「そりゃそうだろう…海賊と思われてるに違い無え」


「白旗出すぞ!」



そのまま高度を下げて近づく



「お~~~~~い!!助けてくれぇ!!」


「どうした~~!!」


「船が沈んで遭難したんだ~~!!気球を引っ張ってくれぇ~~!!」


「ロープを垂らせ~~!!」


「投げるぞ~~!!」ポイ シュルシュル


「よ~し!掴まえた~!!」


「この船はどこに行くんだ~?」


「機械の国へ向かってる!!良いのか~?」


「頼む~!!ひとまず陸に上がりたい~!!」


「あと3日で着く!!」


「もう一つ頼みがある~!!水と塩を少し分けて欲しい~!!」


「構わ~ん!!一人降りてこ~い!!」


「今行く!!」


「どうやって行くの~?」


「ロープを伝って行く…俺一人で良い」



そう言って盗賊は一人スルスルとロープを伝って居りて行った


スルスルスル スタッ



「船長!助かった…恩に着る」


「この海域は風が強いで気球じゃ一生陸に辿り付けんぞ」


「あぁそのようだ」


「ところで気球には何人乗ってるんだ?」


「4人だ…そのうち1人が病人だ」


「ロープを手繰って気球を寄せておきな…水と塩を持ってきてやる」


「ありがてぇ…」



気球を手繰り寄せた後に水と塩を頂いた


盗賊はロープをいとも簡単に伝って気球へ戻る



「さぁ商人!薄い塩水だ飲め…それと痛み止めももらって来た」


「ありがとう」


「心臓痛いの~?」


「痛いのは心臓じゃなく頭の方だろ…血が少なくて常時酸欠状態だ」


「あぁ…これで少し横になれば大分良くなると思う」


「囚人の体よりめんどくさい体なんだね~ウフフ」


「ハハハそうかも知れないね」


「しかし機械の国とは…えらく遠くへ流されたな」


「そうだね…船を調達しないとね」


「機械の国にはコネクションが無いのがな…」


「うん困ったね」


「まぁ着いてから考えよう」



一行は商船に引っ張られ無事に機械の国へ入る事が出来た




機械の国


ここは古の文明の跡地で今では失われてしまった技術を発掘する事で発展した国だ


機械と呼ばれる鉄のカラクリを多く使用しそれは街の至る所に見る事が出来る


街を警備するのは衛兵では無く鉄のカラクリ…鉄器兵が治安を維持する



「うわあぁぁ~すご~~~い!!大きな船がい~っぱい!!」


「機械の国の船はほとんど鉄で出来てるんだよ」


「え!?あの船全部鉄で出来てるの~?どうして沈まないの~?」


「さぁね?詳しくは分からない」


「でもさ~帆が無いのにどうやって進むのかなぁ~?」


「魔石を使ってスクリューという物を回して動いているらしい」


「めちゃくちゃ遅いがな…」


「帆が無い分風の影響無しで確実に進むみたい…遅いけど」


「まぁ俺は帆船の方が便利だと思う…重労働だけガマンすりゃな?」


「ねぇねぇあの大きな船動かすのに何人くらい必要なのかな~?」


「あぁソレ…多分一人で動かせるよ」


「なぬ!!どういう事よ?」


「帆の操作とかロープ引っ張る重労働とか無いんだよ…まぁ気球の操作みたいなものだね」


「マジか…魔石をちょろっと触るだけってか?」


「まぁ…聞いた話だけどね…ちょっと中身は見て見たいよ」


「さて…関心するのは良いが…これからどうする?」


「おう!!とりあえず宿行って作戦寝るだな…此処ん所ロクに寝て無いんだしよ」


「おっけ~宿屋にいこ~~」



宿屋


「このお部屋は私と商人が使うんだね?」


「おう…俺らは向かいの部屋だ」


「久しぶりのふかふかのベット~♪…でも騎士が居ない」


「とりあえずごちそうでも食ってゆっくり休め」


「なんかね~食欲出ないの~先に休むね~」


「じゃぁ俺たちだけで食うか!!」


「私は酒場で飲んでくる…この体では飯なぞ食えん…夜に戻る」


「おいおい待てよ…俺も酒場には行きたい訳よ」


「私にお前が食事終わるまで待てと言うのか?」


「ほんな堅い事言うな…肉食ったらすぐ行くからよ」


「水場で体の汚れを落として来る…それまでに食事を済ませろ」


「おう!速攻食うわ」


「ではな?」そう言って囚人は部屋を後にした


「じゃぁ俺もちゃっちゃと食って来るわ」


「分かった…僕は休むから又明日」




翌日


「昨日の晩に囚人と相談したんだが…今後の事だ」


「どうするの~?」


「機械の国はコネクションが無いから金の調達が難しい」


「うん」


「だから船を借りる事が出来ない」


「え~~」


「今日俺と囚人の2人で中立の国まで民間船で行く。そして中立の国で商船を調達して戻ってくる」


「どれくらい掛かるの~?」


「片道2週間って所だ。往復で1ヶ月は掛かる。その間商人と僧侶は機械の国で静養していて欲しい」


「……」僧侶はうつ向いた


「騎士が心配な気持ちはわかる。だが船が無いとどうにもならない。それから商人には静養が必要だ」


「僧侶すまない…君の気持は分かる」


「ううん…良いの…騎士と魔女とエルフの娘の3人ならきっと大丈夫」


「僕ももう少し良くなったらここで情報収集するよ」


「お前は寝てろ」


「でも気になる事がいくつかあるんだ」


「闇商人であることはくれぐれもばれない様に頼む」


「わかってるよ…」





船着場


中立の国行きの商船が準備を終えて待機していた



「じゃぁ気をつけて」


「おう!お前も体を休めておけ」


「出来るだけ早く帰ってきてね~…」


「あぁ判ってる!!僧侶もあんまり心配するな」


「うん…」


「囚人!行くぞ!早く乗れぇ!」


「その言葉…そのまま返す」


「じゃぁな!!僧侶!孤独死すんなよ?ぬはは」


「わたしはかわいそうなウサギさん…なんてね~」


「船が出るぞ…早く乗れ」


「おっとっとぉ!!」盗賊は商船に飛び乗った



---みんな離ればれになって行く…さみしぃよぅ---



「僧侶?この先に教会があるんだ」


「本当に?わたしみんなの無事をお祈りしてくる~」


「行っておいで…僕は宿屋で休んでるよ」


「は~い」



---わたしの愛する人が無事でありますように---




2ヶ月後


商人と僧侶はその間宿屋に滞在し続けた


商人の体調は回復し彼なりの情報収集を出来るようになった


僧侶は教会へ通い簡単なお手伝いをして宿屋代の足しになるお金を少しだけ稼いでいた



「すまねぇ遅くなっちまった!!」


「おぉ!盗賊!船は手に入ったかい?」


「あぁ!小さい船だが高速な船だ!気球も乗せられる」


「それは良かった」


「体の調子はどうだ!?」


「十分な休養が取れたよ。情報収集もまぁまぁかな」


「ところで僧侶はどこよ?」


「毎日教会に行ってるよ。司祭に気に入られた様だね」


「そうか!後で迎えに行こう!」


「そうだねきっと喜ぶ」


「ところで商人!中立の国では闇商人が居なくなって大騒ぎだったぞ」


「だろうね」


「密売の物流がストップして王国がしびれ切らしてやがる」


「逆に言うとそれはチャンスだね…だけど今は騎士達の行方が先かな」


「そうだ!魔女の噂を聞いた」


「へぇ…どんな?」


「始まりの国に魔王軍の魔女が現れたっていう噂だ」


「魔王軍?…ハハ」


「魔女の可能性が高い…魔王軍など居ない」


「よし!作戦実行と行こう!始まりの国の港町に戻ってまず幽霊船を探そう」


「よしきた!!明日早速出航すんぞ」


「身支度しておくよ…それと僧侶も迎えに行ってあげて」


「おう!!」




教会


孤児院の代わりにもなっている教会


子供達に囲まれ僧侶は寂しさを紛らわせていた



「ハッ!!盗賊さん…」駆け寄る僧侶


「よう!迎えに来たぜ」


「も~う!!遅~い!!」


「すまねぇ…色々あってな」


「それでいつ探しに行くの?今日?明日?」


「まぁ慌てんな…明日出航する。行き先は始まりの国の港町だ。そこに戻ってもう一度幽霊船を探す」


「行く行く行く行く今すぐ準備する~」


「よし!…ここにはしばらく戻って来れんぞ?挨拶はして行かなくて良いのか?


「あ!司祭様に別れのご挨拶してくる~」


「待ってるから行って来い」



僧侶は走って司祭の所へ向かう



「聞いていたよ。大事な人を探しに行くのだね?」


「はい!今までお世話になりました~」


「ホッホッホ毎日の祈りが通じると良いねぇ…」


「はい!祈りで心が少し救われました」


「それで良い…祈りの心を忘れてはいけないよ?」


「また会いに来るね~」


「困ったことがあったら又来なさい…」



走る僧侶の姿を見て司祭は微笑んだ



「早く行こおぉ~~!!ウフフ」


「おう!もう良いのか?帰りに買い物行くぞ!」


「わ~い♪」




宿屋



「よし!集まったね。明日出発する前に僕が調べた事を教えておくよ」


「は~い」


「まず…海賊の事だ」



今まで海賊は始まりの国と癒着してると思ってたけどどうやら違うみたいだ


海賊王は2人の娘が居てそのうち一人は始まりの国の衛兵隊長


もう一人は…選ばれた勇者達の仲間の一人になっていたみたいだ…女戦士としてね


海賊王が何を考えているかというと…多分僕達と同じ様に王国を探ってる


つまり仲間になりうる



「そりゃすげぇ…」


「続けるよ…」



前魔王城に行ったときに4人分の黒焦げの亡骸を覚えてるかい?


あの中に女性の遺体は無い…ひょっとしたら海賊王の娘は騎士達と接触しているかもしれない


僕の作戦はまず幽霊船を探して奪う…もちろん騎士達の行方も捜す


次に幽霊船で海賊王と接触して取引がしたい


僕が持っている情報と引き換えに同志になる



「幽霊船を奪うって…4人でか?」


「ハハ…囚人の力を甘く見てるぞ?」


「……」


「幽霊船に囚人を1人降ろせば多分…1人で殲滅できる筈」


「なぬ?」


「出来るよね?囚人」


「俺は銀の武器で心臓を貫かれない限り死ぬことは無い」


「という事さ…」


「うはは…銀の武器なんて普通持ってねぇな」


「まだその先の作戦も考えてる…その時が来たら言うよ」


「ねぇその作戦ってさぁ~寝ながら考えたの~?」


「ぶっ…ハハハまぁそうだよ」


「明日は何時に出発するの~?」


「日の出前だ…もう必要な物は積んである」


「あぁ…はやく騎士に会いたいなぁ~」


「きっと見つかるさ」




翌朝


盗賊が調達して来た船は三角帆のスループ船だった


最も高速なこの船は積める荷が少なく長期航海には向かない


しかし少人数で帆走が出来る良さが有る



「え~~小さい~~!!」


「そりゃ機械の国の船と比べると小さいがな…一応気球を乗せられるんだぞ?」


「この船の速さは1、2位を争う速さの船なんだよ?」


「その通り!!始まりの国の港町までは10日で行ける…普通は倍かかる」


「へ~そういえば他の船に比べて帆が大きくて変わってるね~」


「その分僧侶にも働いてもらわんとイカン」


「え!!?」


「帆の折り畳みは後で教えてやる」


「わたしは乙女なのに~?」


「4人しか乗ってないんだから働いて貰わんと困る!」


「ショボン」


「操舵は商人頼む」


「じゃぁ出発するよ」


「ねぇ~わたしが舵取りやって良い?」


「ダメだ!碇上げるの手伝え!」


「ええええええ…」



わざわざ体の小さい僧侶に手伝わせるのは盗賊なりの配慮だ


それで色々な事を紛らわせる事が出来る


そして僧侶にも体力をつけさせる為だった




スループ船


帆走が安定すれば少し舵を修正するだけでこの船は高速で海を走る


意外と手間は掛からないから快適に航海する事が出来る



「それでね~?わたしは4箇所の教会の巡礼が終わったから精霊の加護を受けられるの~」


「なんだそりゃ?」


「うふふのふ~」


「ふむ…まずやってみろ」


「いくよ~精霊の加護!」



僧侶の衣服がフワリと持ち上がり何かの力が働いている様に見える



「わたしに近寄ってみて~ウフフ」


「こうか?おわっ…ととと」盗賊は何かに弾き飛ばされた


「多分わたしに触れないと思うの~」


「ハハそれはすごいね」


「魔法は効くのか?」


「司祭様が言ってたけど魔法も弾くんだって~」


「そりゃすげぇな」


「でもね~祈り続けていないとすぐに終わっちゃうんだ~」


「精霊の加護を受けられるのは君だけかい?」


「わたしが触れている人だけかな?右手と左手だったら2人かな?」


「それは使い方によっては凄い便利だね」


「ウフフ~わたしが騎士を守ってあげるんだ~」


「ヌハハそれは良い…いつでも手を繋いでおけ」


「うん」




数日後


「なんだって!?それは本当か?」


「ゴーレムと名付けられてる」


「それは神話に出てくる石の魔物だな」


「まぁ…あやかって居るんだろうね」


「お前はゴーレムを見たのか?」


「いや見てない。ただの酒場の噂だよ。でも想像は付く」


「どこで作ってるかは分からないのか?」


「それは分からない…だから海賊王と接触したい」


「3つの王国がそれぞれ武器を持ってる訳か」


「機械の国のゴーレムの中身は多分…トロールだ」


「だろうな…でもトロールは太陽の光で石になって動かんくなる」


「機械で覆って太陽の光が当たらないようにでもしてるんじゃないかな」


「ロボットが聞いて呆れるな」


「ハハそうだね…」と言いながら眉をひそめた


「どうした?」


「いや…ドラゴンやエルフと違って…トロールは捕らえられてる数が断然多い…」


「数百を超える3メートル越えのロボット兵団だってか?」


「機械の国の大型船を見ただろう?全部運ぶつもりじゃないとあんなの作らない」


「ふむ…確かにそうだ」


「この流れはもう止まらんかも知れんな…」囚人が口を挟む


「騎士と魔女がカギだと思う…時間を操れる」


「魔女がカギなのは判るが…なんで騎士まで?」


「分からないのかい?…いろんな事を導いてるのは多分…騎士だよ」


「なんだかんだ皆騎士の旅に巻き込まれてる」


「わたしも忘れないでね~ウフフ」


「あぁ…本当の導き手は君なのかも知れないね」




小舟


漂流している質の良い小舟を見つけた


「お~い!!みんな来てくれぇ!!あれを見ろぉ!!」


「小船!?遭難したんだな?誰か居ないかな?」


「人は乗ってないな…丁度良い!引き上げて使おう」



ロープを引っかけて甲板に引き上げた



「何か乗ってたかい?」


「いや何も…ん?…短刀があるな」


「見せて…あれ?柄の文様に見覚えが…何だったかなぁ?」


「ねぇどうしたのぉ?」


「引き上げた小舟に短刀が乗ってたんだ」


「見せて見せて~ウフフ何かな何かな~~」


「まぁ他には何も無い様だ…」


「アレ~この短刀…隊長が持ってた短刀にそっくり~」


「隊長?…始まりの国の衛兵隊長かい?」


「そうだよ~ウフフ」


「なるほど…盗賊!この海域の座標わかるかい?」


「おう!ちょっとまて海図に描いてやる!」


「ちょっと小船を見せて…縦帆一本で漂流か…初心者じゃないな」


「まさかと思うが…海賊王の娘か?」


「多分そうだと思うよ…ここら辺で誰かに拾われた感じかな…」


「この辺りは商船の往来が多い場所だ」


「よし!この短刀は僧侶が持っておいて」


「は~い」

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