8.魔王島

高速船


「この船すごーく早いね~ウフフ」


「船底は頑丈で浅い…その他に重たいものは一切乗ってない」


「そうだ…だが船底が浅い分嵐が来たら転覆しやすい」


「転覆する前に気球で~」


「嵐にならなければ良いが…」


「今要る海域はどういう場所かな?」


「商船の航路からは完全に外れている…どこに岩礁があるか分からんから普通は来ない場所だ」


「陸地が見えないから真っ直ぐ進んでいるかもあやしいね…」


「おい!囚人!本当にこの方角で良いんだろうな?」


「さぁな?陸地が見えるまで真っ直ぐ進め」




数日後


「お~い!!陸地が見えた!!左前方」


「んん??今は海図で言うと何処なんだ?もう現在地も分からん」


「座礁してる船も見える!!」


「沈没船には近づくな…岩礁地帯だ」


「どうすりゃ良い!?」


「陸地沿いを行け」


「おい!こんな陸沿いを航海してて良いのか?座礁するぞ?」


「フフこの海域の沖は遠くまで浅い。岩礁だらけでそっちの方が危ない」


「おまけに霧が深くて前が見えねぇ」


「これは裏航路を知らないと航行できないね…」


「普通はこんな陸沿いを航行しないんだが…」


「あそこに見えてる陸地はどこなんだろう」


「地図には乗っていない島だ」


「結構大きい島だね」


「かつてはドワーフが住んでいた島らしい…行った事は無い」


「ココだったのか…聞いたことがある」


「ドワーフは機械の国の先祖…だっけか?」


「正確にはドワーフ達が古の機械を掘り起こして開拓したのさ…でも人間達に追いやられた」


「ねぇねぇ…ドワーフってあんまり見ないよね?」


「そうだね…開拓民だから色んな所を回ってるらしい」


「海賊王はガチのドワーフだと聞いたがな?」


「あまり会いたくは無いよ…海賊の親玉なんだから」




そのまた数日後


「この島を抜けたら進路を変える…そこから天候が悪くなる」


「不思議な島だな…」


「なんだ?何か見えるか?…霧が深すぎて良く見えんが」


「いや雰囲気というか…音が変なんだ」


「音?波の音しか聞こえん」


「だから変なんだ」


「何訳のわからねぇ事言ってんだ!!」


「あの島には上陸出来ないかな?」


「座礁したくなければ真っ直ぐ行け」


「騎士?どういう風に変なのかな?」


「ん~なんていうか…島なんか無い様な…」


「ハハハ見えてるじゃないか…体当たりでもしてみるかい?」


「まぁまた今度にしろ…今は魔王島が先決だ」


「そうだね…帰りに同じ所を戻るなら寄って見よう」


「話に割り込むが…魔法には幻影魔法というのが有ってのぅ…」


「んん?まぼろしか何か?」


「そうじゃ…無い物を有る様に見せたりする魔術じゃ」


「なるほど…じゃぁ魔王島への航路を隠す目的でその魔術を使ったのが残ってる…と言うのも考えられそうだね」


「うむ…じゃが誰がその様な魔法を使ったのか…という謎は残るのぅ」


「魔女はその魔法を使えるの?」


「忘れてしもうた…昔は使えたんじゃがのぅ」


「どちらにせよこの島はある意味目印なのだ…近寄らず真っ直ぐ行け」




逆風


ビュゥゥゥゥ


「帆を畳まなくて良いのか!?えらく船が傾いちまうんだが…」


「畳んだらだめだ…海流に流される」


「騎士!!帆下駄が折れないように反対側からロープで引っ張れ!!」


「ええええ!!?」


「帆先が海に浸かったら一気にバランス崩すんだ…あんま傾き過ぎると帆が先に浸かっちまう」


「わかったよ…」


「命綱つけてりゃお前なら行ける!!」


「罠魔法!」シュルリと植物のツタが騎士を掴まえた


「おおおお!やるじゃねぇか」


「ツタを伝って行って~なんてね~ウフフ」


「結局僕がやらないと…」


「俺はお前の反対側で調整する役だ…まぁ2人で何とかするぞ」


「じゃぁ先に出るね」


「おう!!俺は反対側だ…海に落ちんな?」




またまた数日後


ビュゥゥゥゥ


「何日この風が続くんだ?」


「あと2~3日で着くはずだ」


「ねぇ!!大変!!商人の具合が悪いの」


「なにぃ!!ここにきてまた心臓か…」


「薬は持ってきてないの~?」


「商人はもう全部飲んだのか?」


「え!?」


「チッ!!アイツ今まで薬でごまかしていやがったな?」


「無理してたんだ」


「今回ばっかりは商人の命は無いかもしれん…休息出来る場所が無ぇ」


「え~~~困るぅ~」




居室のベッド


「ねぇ大丈夫~?」


「へ、平気さ…少し横になれば…」


「どうして欲しい~?」


「ト、トランプでもやろうか」



ドタドタと騎士が走り込んで来た



「大変だあぁぁぁ!!幽霊船が向かって来るうぅ!!」


「距離は?」


「正面!!もう直ぐニアミスする!!早く来て!!」


「ハハ休んでいられないねぇ…」


「起きても平気なの~?」


「平気さ…ハハ」


「ほら肩を貸してあげる…本当は騎士専用なんだけど特別だからね」


「わるいね…」




甲板


「どわぁぁぁ…こりゃギリギリ交差だ!!幽霊船をよく見ておけ!!」



ボエーーーーー



「ん、なんじゃ?…耳鳴りが」


「向こうの甲板には誰も乗って居ない!!もうすぐ交差する!!」



ボエーーーーー



「何だ?この音?」


「みんな伏せて!!!!!」



ボエーーーーー



「な、なんだぁ!!」


「砲台がこっち向いてる!!」



ボエーーーーー



「伏せろおおおぉぉ!!」


「交差!!!!!!」



ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!!


ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!!



船が交差する瞬間幽霊船の艦砲から一斉に大砲が発射された


全ての砲弾が命中し幽霊船はそのまま遠ざかって行った




「うほーーーーー俺ぁ生きてる…生きてんぞ!!」


「み、みんな生きてるかあぁぁ!?」


「気球に集~~~合!!!集まれぇぇぇ!!」


「商人!肩につかまってぇ~」


「ハァハァ…ゼェゼェ」


「エルフの娘や…手を離すでないぞ?」


「クックックうわっはっは」


「おい囚人…大丈夫か?」


「あいつらどこまでもおちょくってくれる…」


「船の損傷は分かるかぁ!!?」


「甲板と胴体に穴が多数!!深刻な水漏れは無さそうだよ!」


「寝室と積荷室が逝った程度だな?」


「よ、よし…まだ行けるね」


「今日から仲良く気球で寝泊りだ…あと2日位で着く」


「商人は気球の中で横になって~~」




気球の籠


「幽霊船とすれ違ってしまったが…どうする?」


「船の火力が違い過ぎて幽霊船を追ったとして何も出来ないと思うな」


「このまま進むしかあるまい…あの船に何を乗せてたのかは気になる所だが…」


「魔王島まであとどれくらいかな?」


「2日は掛からん筈だ…霧が晴れればすぐそこに有る」


「くそう!!追いつけなかったか…ハァハァ」


「まだ諦めるには早えぇ」


「そうだね…早く行って探さないと」



…と言ってはみたけれど


現実的に考えて勇者一行は既に魔王島で下船した筈…


幽霊船が引き返すと言う事は…もう暗殺されている可能性が高い


だとすると幽霊船に乗って居るのはその中の裏切った誰か…


でも僕達はまだ魔王島に何が有るのか見ていない


やっぱり進むしかない…




破壊された甲板


「魔女様…居室に残って居た荷物をまとめて気球の方に入れて置きました…」


「ふむ…エルフの娘か…大したものは無かったで放っておいて良かったんじゃがな」


「魔女様はここで何を?」


「ちと考え事じゃ…幽霊船とすれ違ごうた時に次元の調和音が鳴って居ったのが気になってのぅ」


「私も気になりました…あの感覚は一体…」


「あの時点で次元の分岐が有ったんじゃと思う…」


「分岐?」


「昔の合戦場なぞでたまに有るのじゃ…誰ぞが次元を超えて過去を塗り替える…その分岐点で次元の共鳴が起きる」


「ではあの瞬間を誰かが変えた可能性が有る…そう言いたいのですか?」


「瞬間なのか…その場所なのか分からぬ…恐らく魔王島とはそう言う場所なのじゃろう」


「私…騎士の考えが良く分かるんです」


「次元の調和音と何か関係するのかえ?」


「いえ…分かると言うか…始めから知って居る様な感覚」


「ほう?如何に?」


「何度もこの場面を経験している様な感覚…」


「それじゃ…その次元が何処かで交わっとる」


「理解しました…」


「やはり主は賢いのぅ…わらわの眼を見て見よ」


「はい…」


「わらわを感じてみぃ…」


「え?」


「何か分からぬか?主はエルフで感覚が鋭いじゃろう?」


「同じ…何かを感じます」


「ふむ…やはり同じ宿命を持って居るやも知れんのぅ…」


「宿命?」


「それを考えて居ったのじゃ…答えが見えぬ」


「魔女様は愛しい人と会う為に生きて来たのでは無いですか?」


「そうじゃ…じゃがのぅ…何の為に…という部分がどうにも腑に落ちんのじゃ」


「ただ会いたい…それだけではダメなのですか?」


「では主に問う…主は何の為に生きて居る?」


「え?…」


「誰かに出会う為では無いか?」


「誰か…」


「その次に…何の為に…この部分を良く考えてみる事じゃ」


「分かりました…」


「わらわはもうちっと考えて居るで主は気球に戻っても良いぞ」


「はい…足元をお気を付けて…」




船の墓場


「霧が晴れた…」


「な、なんじゃこりゃぁ…船の墓場…か?」


「過去の勇者達の船だ…沈没船には近づくな」


「ゴクリ」(不安になってきた)


「見えてきたぞ…魔王島だ…中央にあるのが魔王城だ」


「あれが…」


「ねぇ…何か変~」僧侶がなにか異変に気付いた


「ん?どうした?」


「船が右に傾いてる気がするの~」


「騎士!!船底見て来い!!」


「分かった」




数分後


「だめだぁ!!右舷側が寝室まで水が浸かってる!!」


「ギリギリまで行って後は気球しか無いな」


「気球の準備を始めるよ」


「いや…気球の準備は俺がやる。お前は上陸用のボートを気球の前まで引っ張って来い!」


「行って来る!!」



甲板でひっくり返って居たボートを引きずり出した



「ボートは3人しか乗れない…往復しないと…」


「いや商人はもう動けん…俺と商人は気球に残る…それなら2往復だ」


「分かった…最初は僕と魔女とエルフの娘で行く」


「ふむ」


「その後僧侶と囚人を迎えに来る。これで良いね?」


「は~い」


「気球は船の船尾にロープで結んでおく。必ず戻って来いよ」


「分かってる」


「わたしもちゃんと迎えにきてね~ウフフ」


「あぁ…ちゃんと迎えに来るよ」



ガコン!!ギギギギギギー



「座礁したな…ここまでだ…後はボートで行け」


「魔女とエルフの娘は準備良いかい?」


「早よう行くぞ…愛しい人の危機じゃ」


「魔女様…」


「よし!行こう!ボートに乗って…」


「気をつけてね~」手を振る僧侶


「多分すぐ迎えに来れるよ」



バキバキ!!メキメキ!!



「あ!!船が割れる…」


「おい!早く行け!沈没する!」


「フン!フン!フン!フン!」ボートのオールを全力で漕いだ


「くっそぅロープが間に合わねぇ!!僧侶!植物のツタで繋いでくれ!」


「罠魔法!罠魔法!罠魔法!」シュルシュル


「だめだ!!もう沈没する!!気球を上げる!!」



フワフワ フワフワ



「あ~~風が強いぃぃ」


「こりゃ植物のツタじゃ持たんかも知れんな…」




ボート


「あぁ船が沈む…」


「船と気球を繋ぐロープも切れておるのぅ…」


「風が止むまでこっちには来れそうにないかな」


「わらわ達だけで行くしか無さそうじゃのぅ…急がんと間に合わんぞよ」


「そうだね…僕達だけで勇者の後を追おう」


「心配じゃ…愛しき人が助けを求めておると思うと…」


「気になってる事が…その…2日前に幽霊船とすれ違っている…」


「分かっておる…アレは愛しき人を魔王島に下ろして帰る船に違いない」


「2日僕達が遅れてる…」


「早よう行かねば…」


「よし!着いた!行こう!」



ボートは小さな入り江に到着した




魔王島


小さな島の小高い丘に巨大とは言えない城がポツンと立って居る


その島は小さな入り江の他は断崖絶壁で囲まれて居た


「気球はまだ見えるな…留まってくれる事を祈る!」


「向こうにもわらわ達が見えてる筈じゃ…行くぞよ」


「想像してた魔王島と違うな…」


「どんな想像をして居ったのじゃろうか…」


「もっと禍々しい悪魔の城を想像してたよ…なんというか…寂しい島だ」


「何か来る!!」エルフの娘は弓を身構えた



プギャーーー



「な、なんだこいつは!?見た事ない魔物だ!!」


エルフの娘は弓で矢を射った


「グギャ…」その魔物は朽ち果てた


「エルフの娘!矢の数に注意して!みんな僕の後に!」



異形の魔物は躊躇いも無く次々と襲い掛かって来る


騎士が振るう両手剣…エルフの娘が放つ矢…魔女の魔法を駆使して魔王城へ向かった



「ハァハァ…皆大丈夫かい?」


「フゥ…フゥ…」


エルフの娘の運動量は騎士のそれを超えていた


異形の魔物は何故かエルフの娘を狙うからだ


「もうすぐそこじゃ」


「この魔物達はいったい何?」


「胎児の様じゃのぅ」


「こんな大きな胎児がどうやって生まれるんだろう…」


「早く階段を上がって!!あの魔物は段差を超えられない」


「こっちだ!!この階段を上がろう」


3人は階段を駆け上がった…




魔王城


小振りな廃城だ…城壁はツタが生い茂った後枯れていた



「ついに着いたのぅ…扉が開いておる!!」


「待って!エルフの娘!回復魔法は出来るかい?」


「回復魔法!」


「よし!行ける!矢が尽きたら回復に回って欲しい…行けるかい?」


「……」彼女は軽くうなずいた


「魔女!待って…流行る気は分かるけど僕より前には出ないで…庇い切れない」


「早よう行くぞよ」魔女はソワソワしている


「行こう!!」



魔王城の扉を潜った…



「誰も居ない…」辺りを見回す…


「魔物も居らん…愛しき人は!?」


「こげ臭い匂いが…」


「どこじゃ?」


「右手の奥の部屋!!」


「どこじゃ…どこじゃ?」魔女は彷徨う


「はぅ…こ、これは…」


「まさかそんな…」



そこには4人分の黒焦げの亡骸が横たわって居た


戦闘をした跡なのか…所持していた武器類も床に転がっている


勇者一行の特徴ともほぼ合致する



「ううううぅぅぅぅ…誰じゃ…誰がやったのじゃ…」


「探してくる!!」


「魔女様…」


「わらわはもう愛しき人に会えんのか?」


「無い!!何も無い!!どうなってる!?罠か!!」


「あぅあぅ…愛しき人はどれじゃ!?」


「……」(見分けが付かない)


「そうじゃ…これは夢じゃ…」



夢に違いない


そうじゃおかしいじゃろう…


愛しき人が居らなんだらどうやって200年遡るのじゃ?


歴史が消滅してしまうじゃろう…


この次元が存在せんくなってしまうじゃろう



「また会えると約束したのは嘘じゃったんか?ううぅぅぅ」魔女が泣いている…


「夢じゃ…そうじゃ夢に違いない…夢じゃ…これは夢じゃ…ほれ騎士…早よう起こせ」


「魔女…帰ろう」


「嫌じゃ…わらわはもう愛しき人と離れん」


「魔女様…次元の分岐…」


「ハッ!!それじゃ!!」


「騎士!!これを持て!!この指輪を持って3日前を思い出すのじゃ」


「何をする?」


「わらわの命を3日分吸うのじゃ…わらわは諦め切れん」


「わらわは一人で愛しき人を救いに行く…お願いじゃ…わらわは愛しき人を救わねばならぬ」


「この指輪は魔女の命…」


「構わん!!わらわは愛しき人と共に逝くのじゃ…」


「分かった…」


「こっちへ来い…指輪を握り3日前を思い出せ…それだけで良い」


「3日前といえば…」



スゥ…



「魔女様?」


「き…消えた」




3日前


その場所で…


カーン カーン キーン


そこでは選ばれた勇者と仲間の戦士が死闘を繰り広げていた


「行かせるか!!」


「邪魔をするな!」


「始めからそのつもりだったのか!!」


「それが任務だ!」


「皆お前を信じてたぞ!考え直せ!」


「食らえ!!」戦士の剣戟は勇者を捕らえた


「ぐぁ…回復魔法!」



スゥ…



「どわぁ…な、なんだ!?」


「新手か!?」


「愛しき人は何処におる?」


「な、なんでも良い!!味方なら手を貸してくれ!!」


「させるかぁ!!」


「っつう」


「賢者は何処じゃ?」


「賢者は女戦士と先に逃げた!!お前は味方なのか!!?」


「賢者を殺せ!!」


「だまれぇ!!裏切者めぇ!!」勇者は戦士を切りつけた


「クゥ…」


「わらわは愛しき人を助けに来たのじゃ…」


「よし!!ここは俺が足止めする!!誰だか知らんが助けに行ってやってくれぇ!!」


「すまぬ…わらわは愛しき人の所へ行かねばならぬ…」


「待てぇ!!」


「お前の相手は俺だ!!」



その時…勇者の体を何本かの矢が貫いた



「ぐはぁ…だ、誰だ…」


「そこまでだ…選ばれた勇者!」



再度勇者を数本の矢が襲う…シュン!!グサリ!!



「があぁぁぁ…」


「悪く思うな…」ズブズブ…



戦士はその剣で勇者の心臓を突きさした…



「け、賢者を…守れ…」…勇者はその場で膝を付いた


「そこの女を捕まえろ!」


「承知!!」


「何をするのじゃ…わらわの邪魔をするでない!!」魔女は抵抗する


「助かった…賢者と女戦士を逃がしてしまった…追えばまだ間に合う」


「このぉ!!抵抗するな!!」


「離すのじゃ…離さんと…」


「大人しくしろぉ!!」


「爆炎地獄!」



チュドーーーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


その魔法は灼熱で骨をも溶かす炎の魔法


その場にいた4人は一瞬にして燃え上がった…




小さな入り江


ザザー 小さな波が浜辺の足跡を消す…


「ハァハァ…愛しき人は…どこじゃ?」


「ハッ!!あ、足跡がまだ残って居る…」


「あれはボート…2人乗って居るな?」


「間に合わなんだが…まだ生きておる…そうじゃ生きておる…まだ続きが有るのじゃ」


「愛しき人よ…どうか生き延びておくれ」



魔女はその場で座り込んだ



「あそこに誰かいるぞ!」


「捕まえろ!!」


「お前!!ここで何をしている!?」


「この女…選ばれた勇者達と違うぞ?」


「お前は誰だ!?」


「わらわは人を待っておる」


「こんなところで人を!?」


「捕らえろ!!」


「これ!何をする」


「騒ぐな!おとなしくしろ!」


「わらわは人を待っておるだけじゃ…」


「すまん!!」ゴン!…と頸部を強打された


「はうぅ…」魔女は気を失った…




一方騎士とエルフの娘は…


「やっぱり何も無い…エルフの娘…何か見つけたかい?」


「何も…」


「感じるものは何も無い?」


「ここに魔王は居ない」


「外に出よう…僕から離れないで」



魔王城の外



「やっぱりあの異形の魔物は階段を登れない様だね…ここは安全だ」


「どうして下の方ばかりに魔物が…」


「魔女はどうなったかな…あ!!?…まてよ?」


「おかしいな…」


「2日前の幽霊船…」


「今、魔女が戻って来ないという事は捕まってあの船の中か?」


「そうかもしれない…」


「ぐあああぁ…しまったぁぁぁ…気球に戻ろう!」


「待って!!あそこの森の中…小屋が見える…何か聞こえる」


「本当だ行ってみよう!」




森の小屋


そこには小さな畑と最低限生活できる物が揃っていた


住んで居るのは1人か…2人か…


「エルフの娘…離れないでね」


「分かってる…」


「この小屋は誰かが住んでる形跡がある…あやしい」


「遠くで叫び声が聞こえる」


「本当かい?どっちの方向?」


「多分…地下」


「地下?なんだ?この音」


「助けを求めてる」彼女の顔が青ざめている…何か感じているんだ


「中に入るよ…」



扉を開けて小屋の中を見回す



「誰も居ない…アレ?地下に降りる階段は無いぞ?」


「こっち…」小刻みに震えている


「裏の井戸か…はしごがある…降りてみよう」




井戸


梯子を下りた先は空洞になって居て通路が続いて居た


「エルフの娘?泣いてる?どうした?」


「エルフの仲間の魂が沢山…生まれ変われないで…彷徨って…」


「大丈夫かい?」


「たすけてって…叫んでる」大粒の涙が零れ落ちている


「引き返すかい?」


「ダメ…助けないと」


「進むよ…」



僕は通路の奥へ進んだ


そこで見たのは大きなガラス容器に入った何か…


異形の生物の欠片…


それがいくつも並んで居た



「これは…何だこれは…」僕にも感じる…憎悪に満ちた…命…


「うううううぅぅぅぅ…許せない…」


「この液体に入っているのは…魔物か?こんなに沢山」


「エルフの血と肉で…キマイラを作ってる…ううううぅぅ」


「キマイラ?」


「全部壊す!!」



ガチャーーーン!! ザバーーーー


彼女は持って居た弓でガラス容器を強く打ち付けた


中に入って居た液体と…異形の生物の欠片が飛び出す


「お、おい…」


ガチャーーーン!! ザバーーーー


ガチャーーーン!! ザバーーーー


ガチャーーーン!! ザバーーーー


ガチャーーーン!! ザバーーーー


狂った様にガラス容器を壊す彼女に声を掛けられなかった…


「ハァハァ…どうしてこんな事ができるの!?」


「憎い…人間が憎い…」


涙でクシャクシャになった彼女の表情は…悲しみで満ちていた


…とその時天井から鉄の柵が突如降りて来た



ガラガラ!!ガシャーン!!



彼女と分断された形になった


「まずい!!エルフの娘!!」


「え!!?」



ゴスン!



「はぅ…」何者かが彼女の首を強く打ち付け…その場で崩れ落ちた


僕は駆け寄ろうとしたが鉄の柵に阻まれて行くことが出来ない…


その向こうで何かの器具を持った男が姿を現した…


「こんな所に居たのか…」


「誰だお前は!!この鉄の柵を上げろ!!」


「フハハハそれは私の命が危ない…言って居る事がおかしいだろう…」


「エルフの娘を離せ!!」


「逃げた2人の内1人がエルフだったとは…丁度良い材料になりそうだ…」


「なんだと!?」


「早く逃げた方が良いぞ?フハハハ」



プギャー バクバク


異形の生物がうごめいている



「な、なんだ?魔物が共食いしてる…のか?」


「そのキマイラ達は魔物を食って進化しながら成獣になる…逃げないと痛い目をみるぞ?」


「お前は魔王なのか…?」


「フハハハ私はただの生物研究者だ…魔王なぞ居ないハハハ」


「キマイラを造ってどうするつもりだ!!?」


「戦争の道具意外に目的があると思うか?」


「エルフを戦争の道具に使っているのか!!?」


「エルフも魔物の一種だ…魔物を道具にして何が悪い?」


「こ、このぉ!!」ガキーン! ガキーン!



両手剣で鉄の柵を打ち破ろうとしたがビクともしない



「このエルフを使って又新たな研究が出きる…今度こそキマイラを完成させる…」


「ここを!!あけろおおおお!!」ガキーン! ガキーン!


「ほれ?早く逃げんとそのキマイラに食われるぞ?フハハハ」



ヴオォォォォォォ バクバク


異形の生物は共食いをしながらどんどんその姿を変えていく



「こいつ…もうこんなに大きく」


「そのキマイラは不良品だ…成獣になっても寿命が3分しかない…だがドラゴンを遥かに凌ぐ」


「くそぉ!!エルフの娘を返せ!!」


「フハハハ何を馬鹿な事を…貴重な材料を無駄にする訳が無いだろう」


「何をするつもりだ!!」


「知りたいか?…私の成果を知りたいか?」



そのキマイラは決定的な弱点がある


進化が早すぎて寿命が数分しかない


エルフの血で寿命を延ばそうとしたが


長寿の秘訣は血ではなく心臓にある事が分かった


さらにエルフの脳核と骨髄を基礎とする事で


今よりも高い知能を持つ事も期待している



「このエルフは新たなキマイラを造る材料になるのだよフハハハ」


「狂ってる…」


「さぁ…不良品のキマイラが成獣になるぞ?首が3つ揃えば完成だ」


「何!?で、でかい…」


「今の内に元来た井戸を上がって逃げろ…フハハハ」


「こ、このぉ!!」


両手剣を振り抜きキマイラの首を落とした ザクリ!


「やるつもりか…ふむ…面白い臨床実験だ…精々頑張りたまえ」


「首が…生えて来る…」


「生え揃う前にバラバラにしてやる!!」


首…手足…尻尾…切り落とせる物は全部切り落とす!!


ザクン! ザクン! ザクン! ザクン!


「キマイラの進化の早さと肉体のダメージ…どっちが早いかな?」


「うおおおぉぉお」


騎士は狂った様に両手剣を振り回す


しかしそれも虚しくキマイラはその姿をどんどん変えながら成長していく


「フハハハ進化の方が早いな…」


「ヴオォォォォォォ…ガルルルルルル」


「そのキマイラは知能を持たない…目にした物すべてを食らい尽くす…3分間耐えてみろハハハハハ」



動き始めたキマイラは目の前に居る騎士を認識し襲い始めた


その動きは次第に早く…重く…鋭く…獲物を捕らえる


騎士は何度もその攻撃を防ぎ…反撃し


血みどろの切り合いを続けていた


しかしキマイラの吐いた炎で事態は一転する



ボボボボボボボボボ



「ブレス!!」(これはマズイ)


「フハハハ私は避難しておこう…研究の続きがあるからな…まぁ頑張りたまえ」


「これでも食らえ!!」騎士はキマイラの首を切り落とそうとしたその時…



チュドーーーーーーン


激しい閃光と共に一閃の光が爆発した



「ぐああああああぁぁぁぁ!!」


「目が…」(マズイやられる)


「ヴオォォォォォォ…」…キマイラは咆哮と共に激しい炎を吐き始めた


「うぐ…」(皮膚の感覚が無い)


「ががが…」(ダメだ死ぬ)


騎士は至近距離から燃え盛る炎のブレスに包まれた



吸い込んだ息は高温で肺が焼かれるのが分かった


皮膚は既に感覚が無い


でも意識はハッキリしてる…


まだやれる…まだいける…


そう思いながらキマイラの尻尾でしごく叩きつけられた




鉄柵の向こう


エルフの娘はテーブルの上に載せられ気を失って居た



さぁ研究の続きだ…


まず心臓を…


血液は残らず


脳幹と骨髄を


次に移植…



まるで料理をする様に彼女のその部分をあらわにし


別の容器へ移し替えていた


僕はその一部始終をキマイラに撃ち扱かれながら見ていた


僕は無力だった…


そして僕の中で何かが生まれた…


それは憎悪…




気球


ヒュゥゥゥゥゥ…


盗賊達が乗る気球では逆風で流されてしまわない様にするのに手一杯だった


「ねぇもっと高度下げられないの~?」


「やってる!今の位置を維持するのが目一杯だ!」


「飛び降りるには高すぎるな」


「うぅぅ…この風は止まないのかな?」


「風向きが変わる凪ぎが来りゃちっと止むとは思うがな」


「騎士達見えなくなっちゃったよぅ…」


「あの3人なら大丈夫だ!!この場合先に行くのが正解だ」


「そうだね…風が止むのを待って僕らも直接魔王城へ向かおう」


「お前は寝てろ」


「霧がまた出て来なければ良いんだがな」


「違いねぇ…」




数時間後


ソヨソヨ


「風が止んだよ~」


「わーってる!!このまま直接魔王城の前に下りるぞ!」


「大丈夫かなぁ…」僧侶はソワソワしている


「しかし意外と見た事無ぇ魔物が居るんだな?下見て見ろ…」


「アレに構うなよ?分裂して更に厄介な事になるのだ」


「何て言う魔物なんだい?」


「知らん…異形の胎児と言えば良いか?」



気球は魔物達の上を飛び越え直接魔王城の前にゆっくりと降りた


フワフワ ドッスン



「先に出る!!」と言って囚人は飛び出した


「ぼ、僕も行くよ…」


「お前は寝てろ」


「わたしが肩を貸してあげる~」僧侶はそう言って商人に肩を貸した


「ありがとう」


「ぬぁぁ分かった分かった!俺が背負うから僧侶は囚人の後に付いていけ」


「は~い」




魔王城


シーン…


「静かだ…」


「扉開いてるよ~」


「囚人!先頭行ってくれ!」


「入るぞ?離れるなよ!?」


「誰も居ないね~」



囚人は中に入るなり驚いて居た



「バカな…」


「どうした?」


「おかしい…ここでキマイラを育てて居る筈…」


「キマイラ?」


「な、何も無い…どういう事だこれは…」


「そりゃこっちの台詞だ…しかし何も無ぇな?」


「ねぇ!!あれ!!」


「うぉ!黒焦げの亡骸が…4体」


「騎士のグレートソードとエルフの娘のシルバーボウが無い」


「うむ確かに…散乱している装備はどれも騎士達の物では無いな…」


「悪りぃ商人…すこし壁にもたれててくれ」


「心配だなぁ~」


「囚人と僧侶も周辺を探してみてくれ」


「は~い」



盗賊は走り回り城の中を探索し始めた




「何も無え…魔物も居ねえ…どうなってる!?」


「騎士達どこ~?」


「まさかキマイラはもう完成しているのか?」


「お、おかしいね?まさか魔王のまやかしだったりハハ」


「そんな筈は無い…確かに昔ここでエルフの血を使ってキマイラを育てて居たのだ」


「魔王城の外もよく探してみんぞ!!」


「そうだね…」




魔王城前


すっかり日は落ちて辺りは暗くなっている


城門横の壁に具合の悪い商人を持たれ掛けさせ


僧侶は商人の介抱をしていた



「僧侶…僕の為にすまないね…」


「いいの~気にしないで~」


「本当に不便な心臓だよ…肝心な時に動けない」


「介抱は慣れてるの~」


「それにしても盗賊と囚人遅いね」


「風が出てきた~気球をロープで良く縛っておかないと…」


「そうだね飛ばされると厄介だね」


「ねぇ…わたし気になってる事があるの…」


「なにかな?」


「ううん何でもない…気のせいだと思う」


「お~い!!」


「あ!!盗賊さんが帰ってきた~見つかった~?」


「ハァハァ…ダメだ…どこにもいねぇ」


「魔王城の下の方はどうなってるの~?」


「ちょっとした森になってる…見たことない魔物がわんさか居る」


「あそこに見える小屋には行ってみた~?」


「あぁ…行ってみたが誰もいねぇ…囚人は帰って来てないのか?」


「まだ~」


「もう日が落ちて探索は厳しいね」


「今日はここで野営だな…どうやら下に居る魔物は階段を上がれない様だからこの場所が安全だ」


「焚火する~?」


「そうだな…ちっと薪集めてくっからその辺の石拾って暖炉でも作っといてくれ」


「わかったぁ~」





焚火


メラメラ パチ


小さくても焚火の明かりが有るとそこに営みを感じる


盗賊は干し肉を火に炙って柔らかくして商人に食べさせていた



「あ…囚人が帰って来たみたいだよ?」


「おぉ囚人!どうだった!?」


「海辺を探してみたが誰も居ない…だがこの杖を見つけた」


「あ!!それ魔女の杖!!どうして海辺に?」


「さぁな…他に沢山の足跡もあった」


「何か辻褄が合わないな…」


「この島には俺たちしか居ない様に思う…神隠しにあったようだ…」


「神隠しぃぃぃ!!」


「んん!!?どうしたの急にそんな大きな声で…」


「魔女は神隠しができるの…」


「ハッ!!そういう事か!!」


「んん?」


「これは…かも知れないという話だけど…」



1:騎士達がここに来た時にはもう誰も居なかった


2:4体の黒焦げの亡骸を見て勇者を救うのが遅かったと考えた


3:魔女が神隠しを使って3日分過去に戻った


4:3日前に海辺で争った後…捕らえられた


5:その後幽霊船に乗せられ連れ去られた



「魔女は自分の命も吸えるのかなぁ?」


「さぁ…それは本人じゃないと分からないなぁ」


「わたしが気になってた事はね…幽霊船とすれ違った時変な耳鳴りが聞こえたの…」


「そういえばそうだな…」


「何かの合図だったのかも知れないって…」


「明日もう一日この島を探して見つからなかったら幽霊船を探すか」


「そうだね…」



そして4人は何も無いこの島で一晩を明かした




翌日


明るくなり始めた早朝から騎士たちの捜索を始めた


日が傾き始め何の手掛かりも無いからやる気も無くなって来た



「やっぱり誰一人居無え!」


「幽霊船かなぁ?」


「その可能性が高そうだね…」


「それほど大きく無いこの島で隠れる所などそうあるまい…」


「心配だなぁ…」


「よし!書置きを残して幽霊船を追いかけよう」


「書置き?」


「まだこの島に居るとしても次落ち合う場所だけ書置きで残す」


「落ち合う場所ねぇ…」


「良い場所知ってるよ~ウフフ」


「どこかな?」


「魔女の塔」


「ふむ…良いね」


「じゃぁわたしが書くね~」




”騎士へ


”魔女の塔で待ってる



「よし!日が暮れる前にここを出発しよう」


「僕は少し気球で横になる…心臓が苦しい」


「お~し!!決まったなら即行動だ!!ほら!!乗ったぁ!!」



こうして気球に乗る4人は帰路につく


幽霊船を目指して…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る