6.終わりの国

終わりの国


この国は独特の文化がある


建造物の殆どは木造で竜の鱗を模した様な屋根瓦


そして複雑な紋様の装飾を施し他の国には類を見ない要塞都市を形成している



「お~い!見えてきたぞ~!」


「本当だ…あれ?でも様子が変じゃないか?」


「!!戦争…か?」…商人は慌てて望遠鏡を覗いた


「空に向かって何か撃ってる…すげぇ数だぞ?」


「城の上空にドラゴンかな?…何か飛んでる」


「魔王軍と戦争してるのは本当だったのか…」


「近づくのは危ないな…ここでしばらく様子を見よう」



「上空で回ってるドラゴンは1匹みたいだね」


「それにしても城から何を撃ってるんだ?」


「上空のドラゴンは攻めきれない様だね」


「対空砲火ってやつか?…にしてもすげぇ…どんだけ弾あるのよ?」


「陸の方はどうなってるんだろう」


「見えねぇな…もうすこし近づくか」



「対空砲火が止んだな」


「ドラゴンは退却したみたいだね…陸で戦闘は無かった感じ…かな?」


「どうする!?商人!」


「予定外だね…」


「入港できるんだろうか?」


「すこし様子を見てから入港してみよう」




船着場


ガコン!ギシギシ


船の船体が桟橋に当たった…



「よっし!!停船した」


「みんな船で待ってて。下船許可をもらってくる」


「なんかさ~さっきまでドラゴン来てたのにあんまり慌ててないね~」


「そうだね…なんか変な雰囲気だね」


「ううむ…なんか話が違うな…戦争慣れってやつか?」



盗賊は首を傾げながらロープを波戸場の杭に括り付けた



「エルフの娘!ちょっとおいで」…騎士はエルフの娘を手で拱く


「……」


「はい!これ金貨!これで好きな物を買うと良い。ここは銀製品が沢山あるらしいよ」ジャラリ


「わたしもちょ~~~~だ~~い」


「後であげるよ。エルフは銀を好むって聞いたことがあってね…魔女はエルフから離れないでね」


「わたしも銀製品ほしいほしいほしいほしいほしい~~」


「分かってるって」



商人は桟橋を走って戻って来た



「お~い許可が出たからみんな降りて良いよ」


「おう!」


「僕と盗賊は積荷を降ろして取引先に持っていくから4人は先に宿屋に行ってて」


「分かった…買い物しながら宿屋に行くよ」


「早くいこ~~う!!」…僧侶は走り出した




街道


石畳の続く街道…その両脇に風情のある建物が連なる



「ドラゴンのせいかな?人がまばらだ」


「でも露店はやってるみたい~ウフフ」


「遠くに行かないように買い物をして来て良いよ」


「わらわとエルフの娘も少し見てくるぞよ」


「うん。後をついていくよ」



住人が話す言葉が聞こえて来た



(もう何日目だ?毎回避難するのウンザリだよ)


(さすが王国の大砲はドラゴンも寄せ付けんな)


(でも不吉だねぇゾンビも出るし)


(地下墓地のゾンビが手に負えないらしいぞ)



へぇ…地下にゾンビも出るんだ…色々ありそうだなこの国は…


そう思いながら買い物ではしゃぐ僧侶の後を追った



「わたしこれに決めた~~♪銀のロザリオ~」


「エルフの娘や…気に入った物を買っても良いんじゃぞ?」


「……」エルフの娘は虚ろな目をしながら街道を眺めていた


「仕方無いのぅ…これ騎士や…エルフの娘に合う物を探すのじゃ」


「え?僕が?」


「私も探してあげる~ウフフ」


「困ったな…」


「ねぇねぇ~この銀の装飾の弓はどうかなぁ~」


「ほぅ…珍しい物を見つけたのぅ」


「でもちょっと高いカモ~」


「値段は気にしなくても良いよ‥あ…良いネックレスを見つけた」


「どれ~?」


「ほらこれさ…エルフの娘?着けて見て」


「……」そのネックレスを彼女の首に回す


「ほらピッタリだ!」


「良い買い物をしたのぅ」


「僧侶はもう買い物は終わったのかい?」


「まだああああああああ」


「フフもう少し見て行こうか」



エルフの娘に買った銀のネックレスは揺らすと小さな音が出る


銀同士がぶつかる澄んだ軽い音


彼女はすぐに気付いて胸元で鳴らしていた…




宿屋


「ようこそ旅人のお方。休んで行かれますか?」


「あぁ2人部屋を3つ頼むよ」


「承知いたしました」


「それにしても戦争中なのにみんな普通にお店開いてるんだね」


「はい困っておりまして…一週間ほどまえから毎日ドラゴンが飛来するようになったんです」


「一週間?…」


「ですがまだ被害は出ておりません」


「え!?じゃぁドラゴンは何をしに?」


「終わりの国の砲撃が激しくて近づけないのでは無いでしょうか」


「はぁ…ここは安全なのかな?」


「王国からは建屋内に入っていれば安全だと聞かされています」


「情報ありがとう」(何かおかしいな…)


「お部屋はどこ~?」


「こちらになります…この部屋は勇者様ご一行が使われていた部屋ですよ」


「え!!!!!勇者がこの宿屋に?」


「はい…1ヶ月前までここに泊まっておられました」


「その勇者の事を詳しく聞かせてくれんか?」魔女が慌てて店主に詰め寄る


「どこに旅立たれたかは聞いておりません」


「勇者一行の特徴とか知っている限り教えておくれ」



大柄で無口な勇者様


おしゃべりな女戦士様


中背で無口な賢者様


真面目そうな戦士様



「青い目をした者はおらんかったかの?」


「はいよく覚えていますよ。賢者様が澄み切った青い目をしておりました」


「おおおぉぉぉ間違いない…わらわの愛しの人じゃ…」


「賢者?」


「他人からの呼び名などどうでも良いのじゃ…わらわの愛しの人に変わりは無い」


「その方がどうか致しましたか?」


「もっと良く聞かせておくれ…」


「その賢者様はまだ若い青年でいつもその窓際で空を眺めていました」


「こ、この窓か?おおぅ…温もりは残っておらんか…」


「そういえば!記念に絵師に描いて頂いた絵がございます…こちらです」


「!!この青年じゃな?わらわには分かる」


「その通りでございます…お知り合いでしたか?」


「こ、この部屋はわらわに使わせておくれ」


「魔女とエルフの娘はこの部屋で良いね…」


「店主や…忙しい所済まぬがその賢者様の話をもっと教えてくれぬか?」


「わたしがお店の番をしててあげるよ~」僧侶は気を利かした


「あぁ…かまいませんよ。好青年でしたのでよく覚えています」



やっと魔女の探す人の足跡に辿り着いた


魔女は店主の話に聞き入り涙を浮かべている


ただ会いたい…


その想いは消える事無く200年以上魔女を生かす力となっている


同じ事が僕に出来るだろうか…





商人と盗賊が荷下ろしから戻って来て合流した



「魔女があそこの窓から離れなくなったみた~い」


「へぇ~そうなんだ。ここに勇者一行が居たなんてね」


「みてごらんエルフの娘の格好」


「うん。良いねシルバーボウに銀のアクセサリー」


「銀には浄化の作用があるというが本当か?」


「さぁね?でも銀の装飾のロングボウなんて珍しいね」


「私のもみて~ウフフ銀のロザリオ~」


「そういえばゾンビが出るとかいう噂も聞いたな」


「もしかすると銀の装備が役に立つかもね」


「あぁぁ疲れた!!今日は早寝するぞ!!」


「明日からもう少し情報集めてみるよ…勇者の行き先も気になるし」


「俺らの部屋は向こうだな?俺ぁ先に寝るからよ…こっちはまぁ適当に過ごしてろ」


「じゃぁ僕も寝るかな…盗賊!酒瓶は持って行かなくて良いのかい?」


「おぉ忘れる所だった」


「じゃぁ部屋の方に戻るね…情報集めるのは明日からだ」


「おやすみ~~」僧侶は手を振って見送った


「僧侶?僕達も部屋に戻ろうか」


「そだね?今日はゆっくり抱っこして寝られそうウフフ」


「じゃぁ魔女とエルフの娘?僕達も戻るから…」



そう言って部屋を出た…





翌日


窓際で外を見ていた魔女は何かに気付いた様だ



「よく見てみぃ…窓から見えるのは空だけじゃなく城も見えるじゃろぅ」


「本当だ…城に突き出している6本の塔が良く見える」


「どれ見せてみろ…ん?塔の天辺にあるのは大砲か?」


「良く見えないな」



その時慌ただしく宿屋の店主が走って来た



「ドラゴンがまた来たらしいよ!宿屋から出ないでおくれ!」


「え?ちょっと僕にも外を見せて!」


「どこだ?」


「雲の上だ…切れ目からチラチラ見える」



ギャオース


遠くでドラゴンの咆哮が聞こえた



「うわ!大きいな…」


「あれは僕が見た奴に似てる…」


「親ドラゴンに違いないね」


「おい!見ろ!対空砲火が始まるぞ」



6本の塔から炎の塊が空へ向けて放たれた


その炎の塊は上空で破裂しまるで花火の様に飛び散った



「おいおいありゃ大砲じゃねぇぞ!魔法か何かだ!」


「読めた…」商人は顎に手を置き難しそうな顔で一言…


「あれは魔法ではないのぅ…ブレスじゃ」


「ドラゴンのブレスを大砲から撃ってるのか?」



盗賊は窓に張り付き発射される炎の塊を注視している



「みんな聞いて欲しい…これは多分の話だけど…あの大砲の中には子ドラゴンが入ってると思う」


「ドラゴンは魔法に反応して反射的にブレスを吐くんだ…それを利用してると思う」


「ドラゴンさんかわいそ~う」


「親ドラゴンが攻撃できないのはきっとその為さ…子を人質にされてる」


「どうする?」


「昨日すこし聞いた話しだとここの地下墓地と地下監獄が繋がっているらしい」


「それで?」


「監獄は城へと繋がっている筈…真実を確かめたい」


「おいおい…城に潜入するのはいくらなんでも危なすぎる!」


「分かっているよ…だから全員で…」


「私は行く!!」エルフの娘が口を開いた


「エルフの娘?」


「エルフの娘は感じておるのじゃよ…ドラゴンもエルフも元の素性は同じ」


「よし!今日行ってみよう」


「ごめんよ…ドラゴンの件については真相が知りたい…僕にも責任があると思う」


「失敗すると追われるぞ?」


「僕もエルフの娘を見て少し変わったみたいだ…それまでは魔物の一種くらいに軽く見てた」


「……」エルフの娘は背中越しに商人の言葉を聞く


「ドラゴンもエルフもトロールも…みんな心があるんだね」


「そうじゃ…生けとし生けるもの皆心があり通ずる事が出きる…人間だけは例外もあるがのぅ」


「分かった…とりあえず合法で地下墓地に入る方法を探すぞ」


「それなら冒険者ギルドだ…多分魔物討伐のクエストとか発注している筈」


「なら話が早え…行くか!!」




冒険者ギルド


ここは腕に自信の有る者が集い仲間を探しクエストを受注する場所


出会いと別れの場でもある



「ここは冒険者ギルドです。仕事をお探しですか?」


「地下墓地のゾンビ討伐とか募集していないですか?」


「え?地下墓地ですか?大変危険な仕事になりますが…」


「仕事あるんですね?」


「は、はいゾンビを掃討するのですが成功した人はおりません」


「ところでそのゾンビは何処から来たんだ?」


「随分前から地下墓地の死者が動き出すという事がありまして…今では手を付けられない位の数が居るそうです」


「ゾンビは何か悪さを?」


「たまに這い出してきて町中を荒らすのです」


「わかったよ」


「1ヶ月程前にも勇者様一行が地下墓地に入ったようですが掃討はできませんでした」


「ほう…面白い」


「地下墓地入り口には鉄の柵がありますので見張りにこの手紙を渡してください」


「その入り口は何処に有るのかな?」


「町外れに大きな鉄の柵で覆われた階段がありますので行けば分かるかと」


「ありがとう!行ってみるよ」



地下墓地入り口


そこはゾンビが出てこない様に厳重に鉄柵で覆われている


話によると這い出して来たゾンビは感染症を起こし他の動物へ伝染するらしい



「おい!ここは立ち入り禁止だぞ!」


「この手紙を…」冒険者ギルドで渡された手紙を見せた


「お前達…本当にゾンビ掃討に行くのか?」


「まぁ腕試しだよ」


「死なん様にな?これ以上武器持ったゾンビが増えちゃ敵わん…ほれ!これは柵から出るときの鍵だ」


「がんばるよ…」鍵を受け取った


「鉄柵は2重になってる。一枚目は俺が開ける。2枚目はその鍵で開けろ」


「分かった」


「じゃぁ開けるぞ?」…見張りはそう言って1枚目の鉄柵を開けた…ギギギギギギ




地下墓地


地下なだけ有って湿った空気が漂う


通路の脇には開いた棺が並び…恐らくそこに入って居たであろう骸は何処かに行った様だ



「僕が先頭を行く。僧侶は僕の後ろに付いてきて」


「は~い」


「盗賊は商人と魔女とエルフの娘を守る形で後方に」


「わらわは照明魔法で明かりの担当じゃな…照明魔法!」


「助かる…」



ヴヴヴヴ ヴヴヴヴ


何処からかうめき声が聞こえて来る



「何か聞こえるな…うへぇ…見ろ!死体が動いてる」


「やってみる!」騎士は走り込みゾンビを真っ二つに切った…ザクン!!


「ハハ真っ二つか…マテマテ!…まだ動いてんぞ?」


「え~~どうして動いてるの~~?」


「他にも居るぞ!気をつけろ!」


「ハァ!!」騎士はゾンビを見つけ次第切りかかった…ザクン!!


「ど、どうなってる!?」


「ダメだ…手足首全部切り落としても向かってくる!!」…たじろく


「どいておれ…火炎魔法!」…火炎がゾンビを包む


「全然効いていない…まだ動いてる!僧侶!何か手は無いか?」


「ぎ、銀のロザリオ~!!」僧侶はロザリオを掲げた


「ヴヴヴヴ ヴヴヴヴ」ゾンビは歩みを止めない


「あれ~~?何も起こらない~どうしてかなぁ…」


「回復魔法をゾンビにやってみてくれ」


「は~い回復魔法!」


「だ、だめだ普通に傷口が塞がっていく」


「クソッ!僕が囮になって居る内に走り抜けて!!」


「抜けても後ろから追って来るんじゃ無ぇか?」


「ゾンビは足が遅いからきっと行ける」


「そうじゃな…それが救いじゃのぅ…」


「次の奴は様子が違うぞ!」


「あれは…囚人か?囚人服を着てる」


「いやゾンビに変わりは無い!来るぞ!」


「ガガガガァ!」…そのゾンビは武器を振り回す


カーン キーン 騎士は斬撃を跳ね返し反撃した…ザクリ


「こりゃダメだな…真っ二つになっても向かってきやがる…」


「これはもしかして…」


「なんだ商人!何か知ってるのか!?」


「ドラゴンの涙の副作用…」


「あれは万能薬じゃねぇのか?」


「生きてる人には万能薬…死んでる人にも生体活動が起きるのかもしれない」


「ど、どうすれば良い!?」


「心臓を浄化するしか思い浮かばない」


「エルフの娘!頼む!銀の矢で心臓を!」


エルフの娘は言われたまま弓を引き絞り矢を放った


その矢はゾンビの心臓を貫く


「ガガガガガ…」


「だめか?」


「いや…ゆっくり倒れて行く」



ドタリ!!ゾンビは硬直しその場に倒れた



「倒したのかな?」


「僧侶や…祈りを捧げておやり…死しても尚生かされ続けておる…さぞ苦しかろう」



”生きとし生けるものの悩み苦しみがなくなりますように


”生きとし生けるものに悟りの光が現れますように



「ここのゾンビはどうやら人為的に造られてるみたいだね…色々分かって来たぞ…」


「先に進もう」




奥へ続く通路


右から…左から…次々とゾンビが迫りくる


「みんな大丈夫かい?ハァハァ…」


「ちぃと引っ掻かれた…つつ」


「回復魔法!」


「おうサンキュ」


「ちょっと数が多すぎる…」


「向こうに見える鉄の柵は監獄に繋がっていそうだ…盗賊!見てきて」


「ありゃ鍵が向こうから掛けてる…開錠は難儀だぞ?」


「やってみて…」


「ちぃと時間かかるが…」カチャカチャ…盗賊は解錠を試みた



「ゾンビが追いかけてくるよ~」


「エルフの娘!銀の矢を2本貸してくれ」


「どうする気?」…と言って銀の矢を手渡す


「僧侶!みんなを守ってくれ!僕だけでゾンビを食い止める」


「何をする気じゃ?」


「もう矢が残り少ない…僕が接近で心臓を突いてくる」


「あわわ…ゾンビがいっぱい来るぅぅ」


「タァ!」騎士は一人でゾンビの群れへ突っ込んで行った



要領はダガー2本持つのと一緒…


狙いは心臓…ゾンビの動きは遅い…脇をすり抜けながら確実に1体づつ…


騎士は銀の矢をゾンビの心臓に突き刺し迫りくるゾンビを倒して行った



「盗賊!まだか?」…商人は盗賊を急かす


「焦るな!もう少し…」


「罠魔法!罠魔法!罠魔法!」僧侶は植物のツタを操りゾンビの動きを止めた


「助かる!」


「えへへ…わたし役に立ってるぅぅ」


「逆手側からも迫っておるぞよ?用心せい!!」


「くそぅ…きりが無い」



ガチャン


鉄柵の錠が開いた音…



「開いた!!早くこっちへ来い!!階段を上がれ!」


「みんな先に上がって…僕が最後まで引き留める!!」


「騎士ぃぃ!!早くぅぅ」




地下監獄


階段を上がった先は牢が並ぶ地下監獄…


恐らく最深部の牢の付近だと思われる



「ふぅ助かった…ゾンビは階段を上がれないみたいだね」


「そうだな…でもここが安全かは分からんぞ」


「ここは監獄なんだろうけど…おかしいな…看守が見当たらない」


「ほんなん俺ら見つかったら只じゃ済まん!居なくて幸運だ」



グガガガ…



「何か聞こえた…静かに!」


「こっちにもゾンビが居るのかもね…」


「数が少なければなんとかなる…何処から聞こえたんだろう」辺りを見回す


「グガガ…誰か…要るのか?」


「ゾンビじゃない?どこだ??どこにいる?」


「グガガガ…お前たちは誰だ?」


「おい見ろ!あそこの檻の中だ!」



その檻へ近づいた



「おい囚人!この監獄が城へ繋がっているか知ってるか?」盗賊は小声でその囚人に聞いた


「お前たちは誰だ?ググググガ…」


「答えろ!」


「フフお前たち…ここがどんな場所か知らないようだな…」


「ここは監獄だ!それ以外の何でもない!」


「クックック悪い事は言わん…戻ってゾンビの掃除でもしてろ」


「答える気は無いようだな…行くぞ!」


「ちょっと待ってくれ…この囚人…似てる」


「似てる?」


「ドラゴンに食われた囚人…かもしれない」


「なに!?…という事は俺たちはこの囚人を助けるって筋書きか?」


「いや…分からない…教えて欲しい。囚人はどうしてここに?」


「クックック俺は裏切り者の元衛兵隊長だ…グァ…ガガガガ」


「終わりの国の衛兵隊長?」(退役した衛兵隊長?)


「なら話は早い…この監獄の構造を全部知っている筈だ…答えろ」


「残念だがこの監獄は城へは繋がっていない…早く戻った方が身の為だ」


「商人…ということらしい…どうする?」


「よし取引だ…この監獄がどんな場所か教えてくれたら監獄から出してあげる」


「フハハ無駄だ…監獄から出たところで俺はもう死んでいる」


「死んでいる?」


「ここに来る間に見てきただろう」


「ゾンビ…つまりここはゾンビを生む施設…なのか?」


「察しが良いな」


「ドラゴンの涙を囚人に投薬して実験をやっているな?」


「クックック…お前は…さては闇商人だな?」


「だったら何だ」


「クックック…ウハハハ…こんな…こんなガキだったとは」ドン!!囚人は拳を床に叩きつけた


「そうさ僕が闇商人さ…闇で流れている物は皆僕が流した…それがどうかしたかい?」


「話してやろう…お前の罪の重さを思い知らせてやる」



お前が闇で運んだ物は全部戦争の為の道具になっている


終わりの国の大砲の中身はドラゴンだ


そしてドラゴンの涙も量産され死者や囚人を実験台にして兵隊を作ろうとしている


なぜ終わりの国が軍備を増強するのか…実は魔王軍に対する為ではない


始まりの国ではエルフを使ってとんでもない化け物を作ろうとしているのだ


それに対する軍備増強だ


俺はその事実を知り止めさせようとしたが裏切り者として監獄に入れられた


始まりの国と終わりの国は何十年も冷戦状態だ


恐らく始まりの国は魔王軍と偽り魔物をこの国へ送り込んでいる


すべて…お前が運んだ物のせいだ…お前が世界の秩序を破壊したんだ



「……」呆然とする商人


騎士は口を開いた


「信じられない…なら勇者は一体何と戦う?」


「クックック選ばれた勇者は本物の勇者を探す為の道具だ」


「じゃぁ本物の勇者は…」


「王族が恐れるのは絶対的なカリスマを持つ勇者だ…本物の勇者を探し暗殺するのが目的」


「魔王は?」


「そんなもの居ない…魔王城へ行けば分かる」


「さぁ闇商人…お前の罪をどうやって償う!?」


「罪…僕は罪人…」


「クックック己が罪の重さを知ったか…くたばれ外道め…ペッ」唾を商人に向けて吐きかけた


「盗賊!牢屋の鍵を開けてくれ…これは取引の条件だ」


「分かった…ちっと待ってろ」カチャカチャ



ギャオーース ドドーン


遠くでドラゴンの咆哮が聞こえた



「グガガガ…始まったな」


「ドラゴンがまた…」


「そこの窓から外を見てみろ」


「あれは…大砲の中にいるドラゴンに…魔法使いが魔法を掛けている…」


「わらわにも見せよ…なるほど…低級魔法をドラゴンブレスに変換しとるんか」


「ドラゴンを助けようとは思わない事だ…この国の人間全部の命が無くなる…もう手遅れだ」



ガチャリ ギーー



「解錠したぞ?どうする?」


「作戦変更する。囚人を連れて帰る」


「無駄だ…直に俺は心が無くなりゾンビとなる」


「それまで聞きたい事が沢山ある。罪を償いたい」


「お前の命が千あっても足りん…失った命は帰って来ん」


「頼む…」



プルプルと震える商人の手から…決意を感じた


それから商人は口数が減った…




地下墓地入り口


地下から戻って来た一行を見て見張りが駆け寄って来る



「おう!お前ら無事だったか!今開けてやる」


「ゾンビの掃討は無理だった…数が多すぎたよ」


「やっぱりそうか」


「でもゾンビの弱点を見つけた。銀の武器で心臓を貫けば倒せる様だよ」


「何!?本当か!?そりゃすごい発見だな」


「他の冒険者にも教えてあげると良い」


「そうだな…それより早く避難した方が良い…ドラゴンが飛び回っている」


「ありがとう!気をつけて戻るよ」




宿屋


体に染みついたゾンビの死臭を水場で落とし装備品類もすべて洗浄した


衣類を着替えてやっと落ち着きを取り戻す



「あの囚人さん大丈夫かな~寝てる時に襲ってきたりしないかな~」


「囚人の部屋は商人と盗賊の部屋だよ。鍵を掛けておけば取り合えず大丈夫」


「騎士ぃ~わたしを守ってええ~ウフフ」僧侶は騎士に抱き着いた


「ま、まだ時間早いよ…」


「ねぇ~だっこ~」…と言いながら衣服を脱ぎ始める


「毎日してるじゃないか」


「愛してるって聞きたいな~~ウフフ」


「それも毎日言って…」



ゴホン!!ゲフゲフ!!


いつの間に盗賊が入り口に立って居る



「取り込み中すまんが…こっちに来い」


「ああああ!!見られた…」僧侶は慌ててシーツに隠れた


「あ、あぁ今行くよ」




魔女の部屋


そこで商人と魔女が話し合って居た



「ふむ…とすると勇者一行は幽霊船を探しに行った訳か」


「騎士を連れてきたぞ…僧侶は取り込み中だ」


「あぁ勇者一行の行き先が分かった」


「今言ってた幽霊船かの?」


「囚人の所に1ヶ月前に来たらしい」


「魔王城へは普通の船や気球では行けない所にあるそうだよ」


「それが幽霊船と何の関係が?」


「裏航路だ。幽霊船は裏航路を使って魔王城まで航海する」


「え?」



つまりこういうことだよ


海賊船はエルフを運搬して運よくクラーケンに襲われなければ


幽霊船にエルフを積み替える


幽霊船は裏航路を使って捕まえたエルフを魔王城まで運ぶ


魔王城ではエルフを使ってとんでもない化け物を造ってる



「それが魔王の正体…なのかい?」


「さぁね…それは分からない」


「エルフを助けて化け物を造るのを止めさせよう!」


「その前に…勇者達は何も知らず幽霊船を探して魔王城を目指してる」


「まず勇者達と合流するのが先だね」


「グガガ…勇者は暗殺される…早く探せ」


「僕が思うに…戦争を終わらせれるのは勇者しか居ないんじゃないかと思う」


「戦争を?」


「戦争こそが魔王の正体かもしれない」


「戦争を止めることが魔王を倒すに等しいって事かな?なにか引っかかる…」


「うんそうだね…でもこの事は勇者に早く伝えないといけない」


「でもどうして勇者達は囚人の話を聞きに来たんだろう?」


「それは囚人がもっと昔の選ばれた勇者の仲間だったからさ」


「え!!?」


「囚人がその当時の選ばれた勇者を暗殺し衛兵隊長の地位についた」


「グガガ…その通りだ…だが本物の勇者は居なかった」


「今の勇者一行の賢者はわらわの愛しき人に間違いない…」


「早く行かないと間に合わないな」


「明日の朝早くに幽霊船を探しに出よう」




僕の部屋


騎士と僧侶は体を休める為ベッドで横になって居た



「はぁぁ…こうしてると落ち着く」


「まだ昼間だよ?」


「このまま抱っこして寝ていようよぉ…」


「明日出港するから少し買い物もしておかないとさ…」


「明日もう出発かぁ…」


「ちょっと忙しいね」


「ほら?裸のままじゃ外出歩けないよ?」


「わかった~」


僧侶はシーツの中でモゾモゾ衣服を着始めた


「ここの教会にも寄って行きたかったなぁ~」


「日が暮れるまでまだ間に合う…行こうか?」


「わ~い」


「じゃぁみんなに教会へ行くと伝えてくる」


「うん!先に外で待ってるね」




教会


ゴーン ゴーン ゴーン


夕暮れの鐘が鳴っている



「生けとし生きるのもみな神の子。わが教会にどんな御用かな?」


「お祈りに来ました」


「どうぞお入りください…」



2人で教会の中に入った



「ねぇ騎士?全部の事が終わったらで良いんだけどさぁ…」


「え?あ…うん…いいよ」


「え?」


「だから…いいよ」


「本当に?」


「あぁ…約束する」


「ウフフ」



”私が幸せでありますように


”私の悩み苦しみがなくなりますように


”私の願いごとが叶えられますように


”私に悟りの光が現れますように




ゴーン ゴーン ゴーン


その鐘は誓いの鐘だった…





ぐががががが…すぴーーー


僧侶は気持ち良さそうに寝て居る


僕は寝付けないから少し夜の音を聞こうと思って外に出た



(夜は音が良く聞こえる)


(地面の下から苦しみのうなり声)


(6本の突き出た塔からは絶望に震える息遣い)


(そして僕と同じ様にどこかで耳を済ませてる君も感じる)


(エルフの娘…君が何を想うか僕も分かるよ)


(どうにかして救ってあげたい…)


(ただこの世界は…色々な事が複雑に絡み合って)


(そんな簡単に救うなんてことが出来ない)



リーン…



(銀を弾く音…)


(この音は…不思議と心が収まる)


(浄化の音…)


(これが君の答えなんだね?)


(思えばゾンビだって銀の力で浄化される)


(銀には浄化の力がある…)



リーン…




翌日_商船


手早く荷を積みこんで乗船した



「よっし!!始まりの国へ出航だ」


「海賊の海図では幽霊船の場所は始まりの国の沖にある」


「まず始まりの国の港町だな?」


「勇者一行に追いつきそうかい?」


「さぁね?でも普通の船の1.5倍は早く行ける筈」


「そんなに早いんだ」


「商船は新鮮な物を出きるだけ早く運ぶのも売りの一つなんだ」


「この船はスクーナーと言ってな?逆風でも進路変えないでスイスイ行ける訳よ」


「へぇ?」


「ただ帆操出来るのが俺とお前しか居ないからちっと忙しいぞ?」


「体力仕事はまぁ…僕だろうね」


「アテにするわ…とりあえず碇上げるの手伝え!!」


「わかった!!」


「ほんじゃ出港!!いざ港町へ!!」


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