5.中立の国

中立の国


巨大な港を持つその国は海の向こう側の文化と交流する玄関口だった


多くの商船が停泊し…その中には海賊船も含まれる


陸側からも魔物を寄せ付けない様に城塞となっており


その中に暮らす人々は安全に暮らす事が出来た



「おい!見えてきたぞ」


「潮の香りがする」


「そうだな…あそこは陸と海の貿易の中心だ…食事も美味いぞ?」


「おぉ!それは僧侶も喜ぶ」


「まずは商人ギルドで荷物を降ろさないとな」


「例の荷物は?」


「アレは俺が後で直接輸送船まで持っていく。お前達は先に宿屋で休め」


「ふかふかのベットで久しぶりにゆっくり横になりたいよ」


「まぁそうも言ってられんがな…海賊船が停船してればすぐに仕事だ」


「海賊船も港に停船するんだ」


「中立の国では一切の戦闘を禁じられてるから入港できる」


「じゃぁ割と安全か」


「表向きはな?」


「どういう事?」


「裏では謀略の嵐だ…エルフ、ドラゴン、トロールの密売、裏切り、暗殺何でも有りだ」


「トロールまで密売を…」


「だが魔物達を捕まえて何をやっているのかは分かっていない」


「そんなこと今まで知らなかった」


「商人はその秘密を探ろうとしている…他言するなよ?」


「分かってる」




商人ギルド


「商隊に加わった傭兵はご苦労!!日が暮れる前に給金を貰って解散してくれ!!」


「わ~いお小遣い貰った~ウフフ」


「意外と良い儲けになるね」


「お疲れ様!無事に荷物運び終えてホッとしたよ。今日は宿屋でゆっくり休むと良いよ」


「そうさせてもらう」


「僕はこれから情報収集さ。動きがあったら連絡する」


「分かった」


「今の選ばれた勇者の行方も情報集めて見る」


「わらわも連れて行って貰えんか?愛しき人を思うと休んではおれんのじゃ」


「それは僕もありがたい。護衛にもなるしね」


「じゃぁ…宿屋で待ってるよ」




宿屋


「あ~~~~疲れた~~~~」


「ずっと馬車に揺られているのも苦痛だね」


「騎士と2人で居るのもすごく久しぶりな感じ~ウフフ」


「そうだったね…今日はゆっくり休もう」


「わたしね~商隊にいる間ずっと考えてた事があるの~」


「なんだい?」


「この世界はね、元の世界の4~5年前?でしょ?」


「実感無いけどね…」


「元の私たちもこの世界にいる筈だから…会ってみたいな~なんてね」


「そうだね…何か変わるのかも知れないね」


「でも何となく会う事も出来ないのかなとか…」


「僕は昔自分に会った事は無いから、何をしても会えないのかもしれない」


「うん…そう考えると何かを変える為に会いに行きたくなっちゃう」


「今起こってる事全部が過去の事だったなんて…なんか信じられないな」


「うん」


「僕の目的は魔王を探して倒す事だったけど…見失ってしまいそうだよ」


「本物の勇者も探さないとね」


「だから僧侶にはずっと付いてきて欲しい…見失わないように」


「うん。付いていくよ」


「よし!明日のことは明日考えよう」


「は~い」




窓際で…


「ねぇねぇ何してるの?」


「街の音を聞いてるんだ…あと匂いもね」


「何か聞こえるの?」


「ガヤガヤ騒がしい音…匂いも色々な匂いが混ざっててよく分からないよ」


「わたしも一緒に聴いてて良い?ウフフ」


「良いよ…こっちにおいで」


「音で大体何が有るか分かる?」


「よく分かるよ…でもね?騒がしくて風の音とか聞こえなくなるんだ」


「だからエルフは人間の町が嫌いなのかなぁ?」


「そうかもね…ホラあちこちで言い争いの声が聞こえる」


「本当だ~あっちで揉め事…こっちで揉め事」


「エルフは僕達人間よりも耳が良いから揉め事ばかり聞こえるのはウンザリなんじゃないかな?」


「エルフを見習わないとね~」


「そうだね」




数日後


ドンドンと扉を叩く音


「おい!居るか?」


「盗賊かい?今カギ開けるよ」


ガチャリ


「何か情報入手したのかな?」


「あぁ海賊船が入港した。今晩作戦を実行する」


「エルフの娘と勇者の行方は?」


「海賊船は2~3日停船するからその間に積み込まれる筈だ。勇者の情報はまだだ」


「そうか…まずエルフの娘を助けたいな」


「わかってる。だから僧侶にも少し協力してもらう」


「え!?どうやって?」


「魔女と僧侶2人で酒場で働いて貰う」


「どういう事~?」


「海賊が酒盛りを始めたら睡眠薬を盛ってほしいんだ…海賊船に戻るまでの時間を稼いで欲しい」


「それは魔女と僧侶が危なくないかい?」


「大丈夫だ!そこは抜かり無いから安心しろ」


「なんかワクワクしてきた~ウフフ」


「僧侶…絶対お酒は飲んだらダメだよ」


「えええええええ?つまんな~~~~い」


「君はね…お酒を飲むと裸になる悪いクセがあるんだ」


「ま、まぁ何とかなる!僧侶は今から一緒に酒場に行くぞ」


「……」(なんか心配だなぁ…)


「騎士は夜になったら酒場に来てくれ。それまでは待機だ」


「わかった」


「ワクテカ ワクテカ♪」僧侶はノリノリだった…




酒場


「いらっしゃいませー」


「席、空いてるかな?」


「カウンターで良いかい?」


「あぁ…」


「今日はお店一杯で悪いね…何飲むんだい?」


「マスターに任せるよ」


「じゃぁエール酒で…今日は待ち合わせか何かかい?」


「まぁそんな所だよ」



奥から声が聞こえて来た



(おう!ねーちゃん可愛いなぁウハハ)


(可愛い~?可愛い~?もっと言って~~ウフフ)


(おらぁ海の男だぜぇぇガハハ)


(これ!さわるでない)


(うぉ~べっぴんやなぁ~~今晩どうや?ガハハ)



盗賊が遅れてやってきた



「よう!待ったか?」


「今来た所だよ」


「あの2人上手くやってるな」


「……」(大丈夫かな…)


「直に海賊の頭がやってくる…入ってきたらすれ違って店を出るぞ」


「分かった」



聞き耳を立てる



(いいじゃねぇかぁ~すこし触らせろよ)


(だめ~~トランプで勝ったら触らせてあ・げ・る)


(うおおおおおおおお燃えてきたあああああ)


(でも勝負するのはこっちの子ね~~ウフフ)




海賊の頭らしき人物が酒場に入って来た


「いらっしゃいませー」


「よう!久しぶりだな!」


(来た!行くぞ)…盗賊は騎士に耳打ちした


「マスターお代はここに置いておくよ」ジャラ


「まいど!!」


「悪いな…通るぜ?」…盗賊は海賊の頭から何かをスった


「あ、すいません。通ります」


「またのお越しを~」



そのまま酒場を後にする



「上手く行ったな?フフ船長室の鍵だ」


「さすが…」


「このまま船着場まで行くぞ…付いて来い」



(夜の闇に紛れて走る)


(耳を澄ませる事が多くなったせいか…)


(暗闇で見えなくても不思議と何があるか分かる)


(夜目が利くというのは耳が利くのと同位なのかな?)




海賊船


その船は中型のキャラック船だった


海賊旗は見えない様に隠してあるから他の商船と大した変わりは無い



(見張りは2人だ…近づいて片付ける…来い!)


練習した隠密で接近し一気に片づける…ゴスン!!ゴスン!!


声を発する事無く2人の見張りは崩れ落ちた…


(海賊船に乗れ!)


(誰も居ない様だね)


(俺は船長室で海図を盗んでくる。お前は積荷の状況を見てきてくれ)


(10分後に後方のデッキに来い)


(わかった)



今日はいつもより感覚が研ぎ澄まされている感じがする


次の行動を考える余裕もある…こんなに冷静になれているのは多分


僕は本気になっている…




積荷室


そこには木箱が無数に積まれて居た


(よし誰も居ない)


(何の荷物なのか…)


(エルフの娘はどこだ?)


(まてよ…震えた息遣いが聞こえる)


(はぁ…はぁ…)


(居る!どこだ?)


(あの檻の中か?)


(だ、だれか居るのか?)…か細い声で彼女は言った


(エルフの娘!!)…僕は駆け寄った


(た、助けに来てくれたのか?)


(心配した…怪我は無いか?)


(うぅぅぅうぅぅぅう…こ、こわかった)


(今、助けてやる)


(たすけ…て…うぅぅぅぅ)…大粒の涙を零している



ガチャガチャ



(鍵が掛かってる)


(ここから…出して…お願い)


(鍵を探してくる)


(い、行かないで…置いて行かないで…お願い)


(落ち着いて…手を握って)…彼女の手を握った


(怖かったょぅ…)


(……)…気高いエルフが怯えてる


(私を置いて行かないで…)…ブルブルと震えている


(必ず助けに戻る!)


(イヤ!お願い!!助けて…)




後方デッキ


(遅いぞ!騎士)


(エルフの娘を見つけたんだ)


(そうか…)


(檻の鍵が無い…船長室の鍵と一緒になってないか?)


(いや…鍵は一つしか無い)


(鍵を探さないと…)


(仕方が無え…俺が開錠してみる)


(頼むよ…行こう!こっちだ)




積荷室


(シクシク…シクシク…)


(エルフの娘!迎えに来たよ)


「キシャー!!フー!!フー!!」…エルフの娘は盗賊の顔を見るなり奇声を上げた


(落ち着け!!盗賊は味方だ)


(はぁ…はぁ…)


(大丈夫だ…手を握って)


(無理も無え…この子は俺の顔を見ているからな)


(助けて…)…手を握り返す力も無い様だ


(盗賊!開錠を頼む)


(待ってろ…)盗賊はロックピックを取り出し解錠を試みた


(エルフの娘…このクロークを羽織って)


(僧侶達が上手く時間を稼いでくれてると良いが…)


(どうしてそんなに焦っているんだい?)


(船長室の鍵を酒場に居る船長のポケットに戻さないといけねぇ訳よ)


(そうか…)


(くそ!中々開かねぇ…)カチャカチャ


(エルフの娘?立てそうかい?)


(無理だ…抵抗出来ない様に薬を打たれてる…お前が背負っていけ)


(……)陵辱の限りだった訳か


(よし!開いた)ガチャン!


(エルフの娘…おいで)…彼女を背中に乗せた



(少し作戦を変更する!!海賊船に火を付ける)


(わかった…)---エルフの娘が居なくなったのを偽装か---


(そこら辺の荷物に火を点けろ)…盗賊は持って居た油を撒き火を点けた


(エルフの娘…しっかりつかまってて)…背中で震えているのが分かる


(ぅぅぅぅ…)ブルブル


(目を瞑ってて良い)---火が苦手だったか---


(よし!行くぞ!…お前はそのまま宿屋に行け!俺は酒場に戻る)


(わかった…ありがとう)




裏街道


闇に紛れて走る…


「エルフの娘…寒くないかい?」


「……」


「早く宿屋に帰って暖まろう」


「……」


「もう大丈夫だよ」


「……」



(なんて細い体なんだ…)


(掴まる腕から怯えた心が伝わってくる)


(気高いエルフが背中にしがみついている)


(申し訳なくて言葉に出来ない)



海の生ぬるい風が吹き抜けて行った…




酒場


バタン!!勢いよく扉が開く


「いらっしゃ…」


「た、大変だ!!港が燃えている!!」



(わたひ可愛い~ウフフ~みんなもうねちゃうの~~ひっく)


(ぐがががががーぐがががががが…むにゃ)


(もう勝負はやめたいんじゃが…)


(まだだぁぁ!!まださわってない!!)



「ど、どうされました?」


「み、港で船が燃えてるんだ!!ここに居る人たちの船じゃないのか?」


「なんだとぉ!!おい!!お前らぁ起きろ!!」


「早く消火に行かないと大変な事になる!」


「お前らぁ起きんかぁ!!」…海賊の頭は寝て居る者共に蹴りを入れている


「俺ぁ人集めてくる…マスターも人を集めてくれ!」


「おぅ悪いな…お前らぁ行くぞ!!」


「そこの女2人も一緒に来てくれ!!」


「は~い…ひっく」


「ではいくかのぅ…」


盗賊は2人に耳打ちした


(2人は宿屋に戻ってくれ)


そう言って海賊達を引き連れ船の消火に向かった…




宿屋


コンコンと扉をノックする音


「誰だい?」


「わたひ~ウフフ」


「今開ける…」カチャリ


「飲んじゃった~ふぁ~~むにゃ…」僧侶は部屋に入るなり横になった


「早く入って…」


「おぉエルフの娘を助けてきたのか…良かったのぅ」


「……」エルフの娘は震えている


「魔女…今日はエルフの娘と一緒に居てやって欲しい」


「魔女様…うぅぅぅぅぅ」


「そうか辱めを受けたんじゃの?…おいで…もう大丈夫じゃ」


「うぅぅぅぅぅ…」エルフの娘は大粒の涙を零した


「何も言わんで良い…良い子じゃ…戻って来れて良かったのぅ」


「それじゃぁ僕と僧侶は向こうの部屋に行くよ」


「ぐががが…すぴー…ぐががが…すぴー」…僧侶は呑気なもんだ…


「よっこらせっと…エルフの娘の着替えは後で持ってくるよ」


「着替えは部屋の外に置いておいておくれ…今日はもうドアのノックはせんようにな」


「わかった…じゃぁ魔女…頼むね」



---僕が傍に居ない事の方が彼女の自尊心を守る術だと思った---


---そう…エルフは気高い生き物だから---


---人間に弱い所なんか見せたくない筈なんだ---


---これは僕が君に出来る会話の一つ---


---君を尊重する---




翌日


トントン…静かに扉をノックした


「僕だよ…空けてもらって良いかい?」


カチャリと解錠する音…


「魔女…エルフの娘はどうだい?」


「大分落ちついたがの…しばらくはショックが抜けんじゃろぅ」


「うん…エルフの娘…何か欲しいものは無いかい?」


「……」


「極度の人間嫌いになってしもうた様じゃ…そっとしておいておやり」


「エルフは確か清潔な物しか身に付けなかったよね?新しい着る物を買ってくるよ」


「そうじゃのぅ…木の芽や果物も採ってきておくれ…森への感謝も忘れるな?」


「感謝ってどうすれば良いのかな?」


「沢山取りすぎてはイカン…少しづつ摘めば良い」


「わかった…夕方には戻るからゆっくりしてて」




すこし外れの森


「僧侶!ちゃんと付いて来てる?」


「ちゃんと後ろにいるよ~ウフフ」


「木の実見つけたら教えてね」


「なかなか見つからないね~」


「木の芽は結構あるんだけどね」


「エルフってさ~お肉とか食べないのかなぁ?」


「少しは食べるらしいけど生きた肉だけっていう話だよ」


「そうなんだ~…そういえば気球にいる間も何も食べてなかったね」


「あ!アレはリンゴかな?」


「おお~やっと見つかったね」


「よし!一個だけ持って帰ろう」


「リンゴさんに感謝しないとね~」


「じゃぁ…次は着替えを見に行こう」


「わたしが選ぶ~~♪」


「植物製の清潔なやつを選んでね」


「え?どうして?」


「エルフは匂いとか気にするらしい」


「匂い?」


「うん染料の匂いとかも嗅ぎ分けるから無色が良いかな」


「なんかめんどくさいね~」


「でもソレがエルフの自尊心にもなってると思う」


「そっか~繊細なんだねエルフって」


「人間よりもずっと賢くて繊細なんだってさ」


「ねぇ…わたしっておバカさんかなぁ?」


「どうして?」


「昨日海賊さんに『お前バカか?』って何回も言われたの~」


「ええと…まぁ大丈夫だよ」


「ねぇ…今言葉に詰まってない?」


「つ、詰まってないよ」


「なんか詰まってる~でもまぁいっか~ウフフ」




宿屋_魔女の部屋


「戻ったよ」


「早かったのぅ」


「ほら…着替えと食事を持ってきたよ」


「私も入って良い~?ウフフ」


「僕は向こうの部屋に行ってるから…じゃあね」



---少しは元気出るかな---




街道


石造りの道…石造りの建物…そして見上げるような石造りの城


この街道は城へ向かって続く道…その両脇に店が立ち並ぶ


「中立の国はお店が多いね」


「見て歩くのたっのし~~~いウフフ」


「なるほど商売の中心地かぁ…」


「お城の隣にある建物は何かなぁ?」


「図書館らしいよ」


「へぇ~興味無いカモ~」


「ハハそう言うと思ったよ」


「船着場には色んな形のお船があるんだね」


「そうだね…どれが海賊船か見分けが付かないね」


「ねぇねぇこれだけ沢山の石ってさぁどこから持ってくるのかなぁ?」


「石?…建物の事かい?」


「うん」


「ん~人が運ぶんじゃなくて船で運ぶんじゃないかな?」


「船で運ぶのか~ちょっと納得~ウフフ」


「ほら砂漠の町は石造りの建物は無かったよね?…きっと船で運べないからだよ」


「船ってすごいね~」


「そうだね…色んな物を運ぶんだろうね」



そう…人も荷物も…夢とか希望とか…そういう物全部運ぶんだと思うよ




数日後酒場


「よう!騎士!!探したぜ?」


「あぁ盗賊か」


「2人でお楽しみ中悪いんだが邪魔するぜ」


「ウフフ~みんなで楽しく飲もう~なんてね~」


「おう!マスター一杯頼む」


「それで何か分かった事が?」


「いやな?例の海図の事なんだが…あまり期待した航路は無かったようだ」


「期待した?」


「あぁ…商人は裏航路があると読んでたみたいだが」


「ん~よくわかんないな」


「始まりの国と海賊の癒着は前から分かってたんだが積荷の運搬先がよく分からん訳よ」


「それで裏航路があると?」


「海図に描いてたのは普通の航路と幽霊船の出現場所しか無かった」


「幽霊船ねぇ…」


「まぁ海賊も幽霊船には関わりたくないんだろう」


「それでこれからの予定は?」


「おぉそうだ…勇者の情報も少し入った」


「おぉ!!」


「3ヶ月前までここに居たらしい…終わりの国へ向かったそうだ」


「なんか近づいてるね~魔女に報告しなきゃ…ウフフ」


「5日後に商船が終わりの国に出航するからみんなでそれに乗る」


「商人の目的は?」


「この間のドラゴンが何の為に運ばれたのか調査したいらしい」


「そうか…みんな利害が一致してる訳か」


「でもエルフの娘はどうするの~?」


「本当は森へ返してあげたいけど…一人で帰すのは危険だなぁ」


「しばらくは同行するのが安全ではあるんだが…」


「魔女に相談してみるよ」


「それが良い」


「終わりの国ってどんな所~?」


「要塞都市だ…ここよりは住みにくい」


「確か魔王軍と戦争中だとか?」


「うむ…魔物の襲撃をよく受けているらしいが目の当りにした事は無い」


「危なくないの~?」


「今まで何度も行ってるが危険な目には会ってないな」


「ドラゴンの子がどうなっているか…か」



(ドラゴンの子もエルフの娘と同じ様に怯えていた…)




宿屋


「おおおおおぉぉ…それはまことか?愛しき人に近づいておる…」


「5日後に船で終わりの国へ向かう」


「……」エルフの娘はうつむいている


「それでエルフの娘…本当は君を森へ帰してあげたいんだけど」


「……」


「君を一人にはしたくないんだ…その…しばらくは一緒に来てもらえないか?」


「私からもおねが~い」


「もう君を危ない目には会わせたくない…一緒の方が安全だし」


「……」


「必ず森へ返してあげる…これは約束だ」


「私は…」


「うん…」


「魔女様の愛の行方を確かめる…」


「やったぁ♪」


「おぉありがとう!!」


「エルフの娘や…わらわの為に本当にすまんのぅ…」


「人間の愛が…本当はどんな物なのか確かめたい」


「そうだ!!すぐ近くに小さな森があるんだ…明日少し外に出てみないか?」


「……」エルフの娘は窓の向こうを眺めた


「いこ~いこ~明日良い天気になると良いね~ウフフ」




翌日_小さな森


鳥達がさえずり仲間を呼んで居た


「ねぇ見て見て~森の中に居るエルフの娘ってさ~すごく綺麗~」


「そうだね」


「天使みたいだね…でもなんかもの悲しそう」


「森の声を聞いているのじゃよ…鳥や蜜蜂達は噂を運んでくるでのぅ…」


「わたしも聞いてみたいな~」


「耳を澄ませば聞こえてくるぞよ?」


「なんて言ってるの~?」


「何か騒いでおるな…わらわにはそれくらいの事しか分からん」


「すご~い鳥たちがエルフの娘を囲んでる~」


「鳥達もエルフの娘の心を知っている様だよ…あれは励ましているんだ」


「その様じゃのぅ…」


「ねぇ~帰りにさぁ…道沿いの教会に寄っていってみようよ~」


「あぁ良いよ…行ってみようか」



---エルフの娘は空気を使って会話をしてこなくなった---


---心を閉ざしてしまったかな---




教会


何処にでもある教会だった


僧侶は教会に所縁が有る…なぜならそこで生まれ育ったからだ



「生けとし生きるのもみな神の子。わが教会にどんな御用かな?」


「司祭様…お祈りに来ました~」



”私が幸せでありますように


”私の悩み苦しみがなくなりますように


”私の願いごとが叶えられますように


”私に悟りの光が現れますように




”私の親しい人々が幸せでありますように


”私の親しい人々の悩み苦しみがなくなりますように


”私の親しい人々の願いごとが叶えられますように


”私の親しい人々に悟りの光が現れますように




”生きとし生けるものが幸せでありますように


”生きとし生けるものの悩み苦しみがなくなりますように


”生きとし生けるものの願いごとが叶えられますように


”生きとし生けるものに悟りの光が現れますように



「慈悲の祈りは心を癒す力。迷える者は祈りを捧げ心を癒して行くと良い」


「その癒しこそ諸々の罪を清め祓う術であると心得よ」


「は~い」


「……」エルフの娘は黙って祈りを見守っていた




宿屋


「んん??テーブルに一厘の花が活けてあるが・・」


「エルフの娘が活けたんか?」


「違う…」


「誰が活けてくれたのかのぅ?」


「……」エルフの娘は花を見つめた


「この花の花言葉は『いたわり』じゃ」


「騎士がそれほど気が利くとは思えんが…まぁ誰でも良いが気が利くのぅ…」


「……」エルフの娘は黙ってその花を食べ始めた…


「むむ!!それを食するのかえ?」


「……」ただ食している…


魔女はこう思った


この花の送り主は恐らく騎士じゃろう


大事に持つのは自尊心に傷が付く故に食する…なんとも奥ゆかしい


これもエルフの表現の一つじゃな…愛を自分の中に受け入れたのじゃ




数日後商船


その商船はスクーナーと呼ばれる高速船だった


浅瀬を航海出来る為沿岸部の商船に用いられることが多い


「わ~いお船だぁ♪」


「さぁ乗った乗ったぁ!!」


「この船は僕達以外は乗ってないからくつろいでもらって良いよ」


「エルフの娘…大丈夫かい?魔女から手を離さないでね」


「……」言われた通り魔女から離れないでいる


「あと5分で出発するよ」


「盗賊!?もし海賊船に襲われたらどうなる?」


「ハッハそれは心配ない。海賊船よりもこの船は早い」


「そうだよ。まぁその分甲板も狭いし荷物も少ないんだけどね」


「ねぇ?終わりの国まではどれくらいで着くの~?」


「7日くらいかな。まぁゆっくりしてもらって良いよ」


「あ!気球も積んでるんだ…小さいけど…」


「まぁね…逃げ道はいつも用意する様にしてるんだ」


「逃げ道って…」


「万が一だよハハ心配しなくても良い」


「さぁ!!碇を上げるぞ!!」


「出発!!しんこ~~う!!」




商船1日目


「ん??何だこれ?」


「んん?そりゃ貝殻だ」


「それは分かってる…いつの間に僕の荷物に入ってるんだろう…」


「耳に当ててみろ…海の音が聞こえるぞ」


「海の音?」


耳に当てて聞いてみた


確かに遠くから海の深淵が聞こえる気がする


なんだこの感じ…


海じゃ無いな…空間の向こう側が聞こえる感じだ


分かった…これは耳を澄ませて聞いてくれっていうメッセージだ


エルフの娘を目で追った…ソッポを向いてる


このメッセージにどう答えれば良いんだろう…



商船2日目


「おい騎士!!また貝殻の音聴いてるのか?」


「あ…あぁ…どうして海の音が聞こえるのか考えてたんだ」


「ぬははお前は馬鹿か?海の音がするってのは迷信だ…そりゃ貝殻の中に響く自分の音だ」


「自分の音?」


「貝殻から連想するのは海だろ?だから海の音と言われてる」


「そうだったんだ…」


「暇ならたまには船の操作を手伝え!」


「あ…うん」


「俺の他に働けるのはお前しか居ないんだ!」


「わかったよ」


(自分の音か…そうか…深淵から連想するのは恐怖だ…)


(僕からはそういう音が出ているのか…)


(エルフの娘に恐怖を与えてしまってるんだ)


(どうすれば音を変えれるんだろう…)




商船3日目


「…という事だよ」


「じゃぁ今まで運んだ物を組み立てたとすると?」


「始まりの国は巨大な拘束具、終わりの国は大砲、機械の国は恐らくロボット」


「戦争の為…かな?魔王軍との」


「それが少し変なんだ…終わりの国は魔王軍と戦争中と言われているけど」


「けど?」


「それを見たという人が極端に少ない…というか居ない」


「勇者達が食い止めているとか?」


「その勇者達も帰ってきた人が居ない…おかしいと思わないかい?」


「確かに…」


「だから僕は本当はどうなのか知りたいんだ」


「魔王城に行けば分かる…か」


「でもその前に知りたいのがドラゴンの事だよ。確かにドラゴンは終わりの国へ送られてる」


「謎ばかりだね」


「同じ様に捕えられたエルフ達もどうなってるのかが分からない」


「エルフ達は始まりの国に送られてるんだっけ?」


「全部を把握してる訳じゃないけど…多分そうだと思う」



「ねぇねぇ!!船の下に何か居る~~!!」


「なぬ!?」


「え!?何だろう…」



「おいおいおいおいおい…くそデカイ影が下に居るぞ!!」


「クラーケン!!これはまずいかも…」


「俺ぁ気球の準備をしてくる!!」


「慌てんでもよい…エルフの娘が落ちついておる」


「海賊船は良くクラーケンに襲われてるって…もしかして…」


「船の下を行ったり来たりしてる~~」


「この船を襲う気は…無い…のか?」


「魔女の言う通り少し様子を見よう」



確かに…感覚の鋭いエルフの娘は落ち着いてる



「ふぅぅぅ去っていった…これはやっぱり…」…商人はブツブツ独り言を始めた


「あ~また始まった~ブツブツた~いむ!ウフフ」


「まぁ何も無くてよかったな…ヒヤッとしたぜ」


「エルフの娘すごいな…クラーケンの心も読めるのかい?」


「……」…ソッポを向いている


「エルフの娘だけでは無くクラーケンもエルフの心を読んでると思うがのぅ」


「そうか!!だから始まりの国は自国の船じゃなく海賊船で運搬しているんだ!!」


「商人!うるさいから向こうで考え事してくれ!」


「わ、わかった。すこし考えてくる」


「ハハ…なんかいつもの雰囲気だねアハハ」




「エルフの娘や…また黄昏ておるのか?…今日は満月が綺麗じゃのぅ」


「慈悲の祈りは心を癒す力じゃ。満月に祈るのもよかろう」


「祈りは魔法にも通じておる。そなたにも魔法の才はあるはずじゃ」


「まだエルフにしては若いじゃろうが、癒しの祈りくらいは出来るじゃろうて」


「主は心に傷を負ってしまったじゃろうが…主を心配し想う者も居るのじゃぞ?」


「主なら既に分かって居ると思うが…どうか心が癒えると良いのぅ」



心を洗ってくれるかのような波の音が


優しく船を包んで居た…


ザザー ザザー






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