3.エルフの森

気球1日目


ヒュゥゥゥ ギシギシ


気球の球皮から吊り下げられた籠の部分は風に揺られてギシギシ音が出る


4人乗りの籠で広くはない…でも足を延ばせるから意外と快適に飛べる



「地図によると下にある森は南北にずっと繋がってるらしい」


「ん~~~森しかみえな~い」


「この森に分断されて東の始まりの国と西側とが国境になってる」


「エルフは古来よりこの森を支配しとるが…人間に友好ではないぞ」


「国境付近ではいざこざが絶えないらしいね」


「エルフって見たことないな~~」


「耳が長くて容姿は端麗じゃ…人間は一方的にエルフに恋をするのじゃが…」


「寿命の差が大抵切ない結果になるでエルフは人間を遠ざけて居るのじゃ」


「へぇ~美人さんなんだ~」


「今日は暖かいから少し高度を上げよう…」



ビリビリ パラパラパラ…僧侶は何かの紙をちぎりばら撒いた



「僧侶?何してるんだい?」


「え?うん隊長の指令書をやぶって捨てたの…」


「??どうして?」


「うん…もういいの」


「まだ2つ指令が残ってたんじゃなかったっけ?」


「ほら…もう帰れないしさ~」


「良いのかい?」


「うん」にっこり笑った


「でも何が書いてあったのかは気になるな」


「教えてほしい~?」


「ちょっと知りたい」


「……」


「嫌なら良いよ…」


「あの指令にはね…勇者の事が書いてあったの」


「勇者?僕の事かな?」


「ううん」


「どういう事だろう?」


「選ばれた勇者と…本物の勇者の事」


「んん???」


「本物の勇者を探せっていうのが指令6」


「本物の勇者?…どういう事かな?」


「王国で選ばれた勇者の本当の目的は…本物の勇者を魔王の所に導く役目なんだって」


「やっぱりそうだったんだね…師匠も同じ様な事を言ってた」


「その本物の勇者がわらわの愛しの人に違いない」


「そうかもしれないね」


「あぁ…愛しきわらわの勇者よ…今助けにゆくぞ」


「それからね?」


「うん」


「選ばれた勇者が真実を知った時…指令7…暗殺」


「え?真実?」


「それは魔王の城に行ったとき分かるって…」


「でもね?わたし暗殺なんてできない…」


「暗殺…でもどうして暗殺なんか」


「わかんない…指令が完了したら帰還しろって書いてあった」


「僧侶…ありがとう。すべて話してくれて」


「ううん。ごめんね隠してて」


「とにかく前に進んで見よう…もう帰れないんだし…ね?」


「5年経てば帰れると言っておろうが」


「だっこ」僧侶は騎士に抱き着いた


「また始まったかの…ヤレヤレ」



---囚人の事が少し分かってきた---


---彼は選ばれた勇者だった---


---何かを知って暗殺されそうになった---


---でも生き残り囚人として過ごした---


---指輪を持ってたという事は---


---これから必ず会う筈だ---




気球3日目


「ねぇ!騎士!何かおかしいの~来て~」


「どうした?」


「なんかね?気球の高さが低くなってるみた~い」


「あれ?本当だ。どうしたんだろう」異常が無いか見回る…


「何の騒ぎじゃ?もうすぐ日が暮れるぞよ?」


「ああああ!?あれは…球皮に小さい穴が開いてる…まずいな」


「え~~~このまま落ちちゃうの?」


「ちょっと魔石の出力を上げて見る!」



ボボボボボボボ…炎の魔石は最大出力で火炎を出した



「やっぱり少しづつ下がっていくみた~い」


「少しだけ降りて修理しよう!ここからじゃ直せない」


「森の夕暮れは早いぞよ?」


「丁度気球を下ろせそうな広い場所があった…あそこに降ろす」


「僧侶と魔女は周囲を警戒してて…魔物が襲ってくるかもしれない」


「うんわかった~」


「僧侶…離れるでないぞ?」


「着地するよ!!」



フワフワ ドッスン



「ちょっと球皮の状態を見て来る」騎士は籠から降りた…



球皮を手繰り寄せて穴の状態を見る



「だめだ…いくつも穴が開いてて糸が足りない…補修したパッチが剥がれて何処か行っちゃったんだ…」


「わたしたちエルフに食べられちゃうかな~?」


「エルフは人を食ったりはせぬ…」


「仕方ない…今日はここで野営して明日の朝糸に代わる物を探そう」


「もう真っ暗だよ~ぅこわいよ~う」


「照明魔法!」魔女の手のひらに明るい光が現れた…


「おぉ…魔女…ちゃんと魔法使えるんだ」


「忘れてしまった魔法を少しずつ思い出しておる」


「よし!気球の周りで炎の円陣を作ろう…夜行動物が襲ってこないように」


「わかった~」


「僕は焚き木を集めてくる…僧侶と魔女は火を起こして」


「火魔法!」ゴゴゴゴ…大きな火炎が周囲を焼く


「私もぉ!!火魔法」プスプス…一瞬で火が消えた


「そなたは魔法使いではあるまい無理はせんで良い」


「ピーンと来たぞ!!茨の植物なら上手に使える!罠魔法!」…茨が寄せ集まり壁の様になった


「うむ…それで良い」


「ウフフ~わたしも役にたってるぅ~♪」



ガウルルル…



「きゃぁ!!ななな…なんか来たぁ!!」


「ウルフかの?」


「か、囲まれてるよぅ」


「これ!罠魔法を休むでない…周囲を囲めば簡単には近づけんじゃろう」


「罠魔法!罠魔法!罠魔法!」


僧侶の操る茨はウルフの群れを捕らえ身動きを封じた…


「一気に焼くぞよ?火炎魔法!」ゴゴゴゴゴ


「ギャワン!キャンキャン!」


「す、すご~い」


ウルフの群れは逃げ出した


「よ~し追い払ったね」


「ううむ…」…魔女は何かに感づいた様だ


「騎士遅いな~~どこに行ったんだろ~」


「僧侶…離れるでない囲まれておる」


「え?」



シュン! ストン!


一本の矢が籠に突き刺さった



「動くな!」


「あ!!騎士が捕まえられてる…」



シュン! ストン!



「動くなと言っている!人間がこの森に何をしに来た!」


「え?あ…」


(エルフ20人は居りそうじゃな…)


「あの…その…気球が落ちてしまって…」


「動物達が怯えている!なぜ火を付けた!」


「すまんのぅ…悪気は無かったんじゃ」


「騎士は?騎士は大丈夫?」ソワソワする僧侶


「寝てもらっただけだ!死んではいない!」


「わらわ達をどうするつもりかいのぅ?」


「全員出て来い!」



木の陰…木の上…土の中から一斉にエルフ達が飛び出して来た



「あわわわわわ…」


「連れて行く!人間達を捕らえろ!」


(ここは従った方がよい…おとなしくしておれ)


「いや!いた!いた~い」僧侶はエルフ達に捕まえられた


「手柔らかにたのむぞよ」


「暴れるな人間!いくぞ!」


「ふぇ~ん…」




牢屋


…といっても只の木の籠だった


格子の隙間から出ようと思えばいつでも出られるし…そもそも鍵も掛って居ない



「う、ううん…ハッ!?ここは?」騎士は眼を覚まし飛び起きた


「起きたか…えらく強い睡眠薬だったようじゃの」


「ふぇ~ん…捕まっちゃったよぅ」


「みんなエルフに捕まったか…つつつ頭がクラクラする」膝に力が入らない…


「薬が切れるまでおとなしくしておれ…怪我をするでな」


「二人とも大丈夫かい?怪我はないかい?」


「僧侶のおかげで怪我はしておらん…しかし…」


「うん?」


「僧侶の詠唱の速さは関心するのぅ…すべての魔法が無詠唱で発動しておる…」


「シクシク…ウフフ~」顔がにやけた…人に褒められると顔に出る様だ


「あぁ…才能かな」


「わたし達どうなるかなぁ~?」


「どうもなりゃ~せん…エルフは殺生を好まんでの」


「そうだと良いけれど…」


「人間よりも賢く気高い生き物じゃからの…こちらが手を出さぬと分かれば話は通じる筈じゃ」


「騎士はどうして捕まったの~?」


「僕は不意に矢を受けて…振り返ったらエルフが居た。何か言われたけど気が遠くなって覚えてない」


「武器持って行ってなかったもんね」


「うん…迂闊だった」


「それが良かったのかも知れん…武器を抜いたら蜂の巣じゃったろう」


「20人くらいのエルフに囲まれてたの」


「そうだったのか…全然気が付けなかった」


「エルフさんに理由を説明したら許してくれるかな~?」


「さぁそれはどうじゃろう…しばらくは閉じ込められるかもわからんな」


「この牢は閉じ込めておくにしては造りがしっかりしてないような…」


「逃げてもすぐつかまるじゃろうて…ここはエルフの森のど真ん中じゃ」


「走って逃げても出るのに何週間もかかる…か」


「殺す気はないじゃろうからここに居たほうが良いと思うがな…」


「魔女はエルフの事をよく知ってるんだね~どうしてかな~?」


「エルフはかつて魔王を共に滅ぼした仲間じゃよ…人間の仲間であるかは別として」


「そんな歴史があったんだ」


「エルフの寿命は200年程かのぅ…400年じゃったか…まだ生きて居るやもしれん」


「魔女も200歳以上だよね~?でも見えな~いウフフ」


「わらわは219歳じゃ…長生きじゃのぅフフ」


「話し方だけ直せば今の若い子と全然変わらないかな」


「話し方がおかしいのはそなたらの方じゃろう?わらわは普通にしゃべっておる」


「自分の事を『わらわ』とは言わないよ~」


「わらわは王族の生まれじゃ…今はもう無いがの…」


「王族…」



ヒタヒタと足音を殺すように誰かが近づいて来る


長い金髪の髪…透き通るような白い肌…控えめに尖った耳


それはまるで思い描いていた女神の様なエルフだった…



「起きたようね…長老が呼んでいる」


「あ…さっきのエルフ…綺麗」


「人間から見ればエルフはみんなそういう風に見えるのよ…言われて嫌な気はしないけれど…」


振り返ってなびくその美しい髪の毛はサラサラとゆっくり宙を舞う


「ここから出ても良いのじゃろうか?」…魔女はノソリと立ち上がった


「さぁ早く出て。変なマネはしないように」


「あぁ…ありがとう」


「しっかり狙ってて!」…彼女は後方で待機する男性のエルフにそう言った


「よいしょっと」…僧侶も魔女の後を続く


「あなた達が変な事を起こさないように弓が狙っているのを忘れないで…」


「あぁ何もしないよ」


「では後ろを付いてきて」



エルフを間近に見るのは初めてだった


その仕草や雰囲気から敵意が無いのが伝わって来る…なんだこの感覚…




エルフの里


そこは樹木に多い囲まれた別の世界の様だった


見る物すべて初めて見る…建物…明かり…空気…すべてが夢の世界の様に…



「ここがエルフの里…」


「夜の筈なのに明る~いウフフ」


「草木を少しづつ光らせておるんじゃ…エルフは火を嫌うでのぅ」


「すごく幻想的…この風景を見るとわたし達人間が住む町は…」


「汚れている」…エルフは一言そう言った


「草木や花は心を持っておる…そして命を運ぶ。われら人間はそれを少し軽んじておるな」


「……」何も言わないがエルフはちゃんと話を聞いて居るのが分かった


雰囲気で分かる…


その仕草で魔女の言った言葉を肯定している…そうだよと…




長老の家


何の飾り気も無い小屋と表現するべきか


長老と聞いてどんなすごいエルフなのかと思ったが


エルフの文化では自然と調和してこそ長老と名乗れる…そんな気がした



「長老様…森の奥深くに入った人間3名を連れて参りました」


「おぉその声はエルフの娘だな?早く入れ」


「旅人の方…手荒なまねをして済まなかった。気球が落ちてしまったのだろう?」


「はい…騒がせてしまってすいません…」


「森の浅いところでは人間達がエルフ狩りをやっていてな…小競り合いが絶えんのだ」


「はぁ…僕たちはそんなつもりでは…」


「分かってはいるが…他の者に示しが付かんのも理解してくれ」


「それで…僕たちはこれからどういう処遇に?」

 

「ふぇ~ん」


「これ泣くでない…黙っておれ」


「んん!!?」


その長老は魔女の発した言葉に反応したのか突然ベッドから体を持ち上げた


「エルフの娘や…手を貸しておくれ」


「はい。しかし長老様…起き上がるとお体に…」


「かまわん…もう目も見えん…鼻も利かんが…人間を少し触ってみたい」


「では私がお手伝いを…」



エルフの娘の補助を得ながら長老は魔女をその手で触り始めた



「くすぐったいのぅ…やめて欲しいんじゃが…」


「これは驚いた…わし古い友の様だ…魔女…わしを覚えては居らぬか?」


「やはり…共に闘った仲間であったようじゃな…老いたのぅ」


「久しぶりだな魔女よ…あの時のままだな」


「何故じゃろうか…再会して心が切ないわ」


「まだアヤツを待ち続けているのか?」


「うむ…愛しき人を待ち続けておる」


「悲しき定め…これエルフの娘!早よう縄を解け!」


「は…はい!」エルフの娘は手早く縄を解き始めた…


「ありがとう」


「良かった~」


「ふぅ…自由になったわい」


「わしは既に目が見えん…魔女よ…もう少し触らせておくれ」


「気持ち悪いのじゃが…」


「本当にあの時のままだ…時の番人となって愛しき人を待つのはどうか?つらいか?」


「愛しい限り…かつての廃墟も今では花畑へと変わったぞよ?…毎日わらわが植えたでのぅ」


「その深い愛は…人間の成せる所だ…そして今どうしてエルフの森へ?」


「わらわの愛しき勇者は今この時代に生まれておる…」


「詳しく話しを聞かせてもらえんか?」



そう言って魔女と長老の2人は互いの事に付いてそれぞれ想いを話し始めた


人間達の歴史…エルフが持つ葛藤


寿命の差が生む愛のすれ違い…受け入れがたい別れ…


そんな話を聞きながらどうしてエルフと人間が結ばれないのか理解出来た気がする



「ふむ…」


「愛を求め彷徨う…人間の真理…またしかし魔王の呪いに囚われたのも人間」


「魔王の呪い?」


「200年前、魔王が滅ぶ間際に呪いをかけていった」


「そうじゃ…わらわの愛はその呪いに阻まれておるのじゃ」


「そなたが愛しき人に会う事こそ呪いを振り払う術であると信じておるか?」


「わらわはただひたすらに愛しい人に会いたい…」


「なんと悲しく愛おしい」


「…そなたは若さは要らぬか?」


「わしはエルフの定命をまっとうする…それが定め」


「わらわ達人間は愛を知る定め…わらわは未だ愛の結末を知らぬ」


「ふむ…それを阻む魔王の呪いを払いに行くのだな」


「人間よ…難しい話は分からんと思うが…これから起こる真実を確かめ愛を取り戻せ…」



---魔女と長老の会話は良く理解できなかった---


---でも魔女の過ごした200年の重みは理解できた---


---『人間は愛を知る定め』この言葉の意味する所はどこにあるのか---


---僕にはまだ想像できない---



「人間よ…」


「は、はい」


「勇者を探す旅の最中足を止めて済まなかった」


「いえ…そんな」


「勇者の定めは魔王と戦う定め…魔女と共に勇者を探し呪いを払うのだ」


「はい…」


「定めからは逃れられん…勇者が居る以上必ず魔王も居る」


「え??」(魔王は居る?)


「魔女を勇者へ導いておくれ…そして再びここに来るが良い」



「これエルフの娘よ…」


「はい長老様」


「旅人を森から出るまで見送りに行って来なさい」


「はい…」


「それから人間よ…このエルフのオーブを持って行かれよ」


「そのオーブにはエルフの心が記されている」


「これから未来にエルフに会うことが有れば聴かせてやると良い」


「きっと心が通うであろう」


「ありがとうございます」


「今晩はここで休んでおゆき…」


「お世話になります」


「最後に魔女や…あの歌を聴かせてはくれんか」


「そういえば主が作った歌じゃったな?」


「うむ…愛の歌…その歌には深い意味がある」


「仕方ないのぅ…改めて歌うのは恥ずかしいのじゃが…」



「♪ラ--ララ--♪ラー」


その歌はエルフと人間の切ない愛の歌だった


もしかすると長老の心を歌にしたのかも知れないと思った…儚く…切ない歌




長老の家を後にしたのちにエルフの里を少し案内してもらった


「すごいな…こんなに壮麗なエルフの里があったなんて」


「お空の上から全然見えなかったのにね~」


「エルフの里は外からは見えん様に特殊な結界に守られておるんじゃよ」


「耳を澄ませてみて?…木が擦れる音…水の音…色んな音に囲まれてる」


「森の声よ…」…エルフの娘が少し心を開き始めたように感じた


「穏やかだね」


「人間のくせに森の声に耳を傾けるなんて…」


「我ら人間も元はエルフの様に森の声を聞いておったんじゃが…忘れてしまった様じゃの」


「お腹の音しか聞こえない~」…僧侶のお腹からグゥという虫が鳴った


「今日は我慢するんじゃ…エルフの里にはご馳走は無いのでな」


「シーーーーッ…」


「……」


「……」


「……」


「音で近くに何があるか分かるんだね…近くに水が湧いてる」


「そうよ…」ニコリとエルフの娘が少し微笑んだ


「そこは水浴びしても良い場所なのかな?」


「案内するわ…あなた達の臭いにウンザリしてた所」


「えええ?そんなに臭うかなぁ?」僧侶は自分の匂いを嗅いだ…クンクン


「人間は汚れていてとても臭い」


「食事が出来ないならせめて汗を流そう」




森の水場


サラサラと綺麗な水が湧き里の外へ流れ出て行ってる


夜なのに薄っすら光る木々のお陰で暗いという事は無い



「じゃぁ僧侶と魔女はこっちで…僕は向こうで水浴びするよ」


「ハーイ♪」


「これ僧侶!騒ぐでない」


「終わったら先に戻って良いよ」


そう言って僕は少し陰になる場所で水浴びを始めた


ジャブジャブと体の汚れを落として居る時に遠くでエルフの娘が見張って居る事に気付いた


(あんな遠くで見張ってるのか…)


(耳を済ませば何か聞こえるかな?)


(う~ん…聞こえる訳無いか)


(でも何か気付いた感じはあるな…)


(あれ?なんだこれ…)


(草の小船??)


(そうかエルフの娘だな…エルフは言葉以外にこうやって意思疎通するのか)


(よし…)


水面を叩いて軽くパチャパチャと音を立てて見た


(パチャパチャ)…遠くで水面を叩く音


(フフ返して来た…これはどうだ?)


水中に沈む石をゴツンと蹴とばしてみた


(ゴツン)…遠くで返事する音


(フフ…気高くて賢く…そして奥ゆかしい…か)


(わかるよ…ちゃんと見てくれているんだね)


(あんなに遠くからじゃないと自己表現しないんだね)


(これが…エルフの会話)


(僕はどうやって答えれば良いのかな…)




エルフの娘が住む家


そこは長老の家の様に質素で樹木と同化した綺麗な部屋だった


「ふぅ…戻って来たよ…スッキリした…あれ?僧侶は?」


「先に寝たぞよ…主は帰ってくるのが遅かったのぅ」


「フフ…ちょっとね」チラリとエルフの娘を見た


「……」エルフの娘は反応無し


「わらわもそろそろ横になる」


「僕はもう少し森の声を聞いてから横になるよ」


「何か聞こえるか?」


「色々とね…会話が出来るんだ」


「ほぅ?森と会話とな?」


「そうだよね?エルフの娘?」


「……」エルフの娘は反応無し…これは肯定しているという事だ


「それは良い事じゃ…沢山会話すると良い」


「じゃぁ行ってくる」


「あまり遅くならん様にな?」


「わかってるよ…遠くには行かないよ」


「迷わない様に私が見張っておく」


「あぁ…なにもかも…ありがとう」



そう言って僕はその家を出て散策する事にした


ずっと後ろの方で僕の行動を見てる


それが君達エルフのやり方


人間との距離の置き方


大丈夫…僕も分かって居るから



---エルフとは仲良くやって行ける気がした---




翌朝_気球


エルフから貰った絹糸で穴の開いた球皮を修理した



「よし!球皮を膨らませる!」


魔石の力でどんどん球皮が膨らんで行く


「良かったぁ…直ったっぽいね~ウフフ」


「さて?…エルフの娘は途中まで同行してくれるんだね?」


「長老からそう言い使っているわ…森の切れ目まで行ったら降ろして貰えれば良い」


「そこからは歩いて戻るのかい?」


「森は庭の様な物だから…」


「そっか…何から何までありがとう」


「気にしないで…私もこの乗り物に乗って見たかった」


「お空から下をみたらスゴイんだよ~ウフフ」


「よーし!!じゃぁ行こうか!」


「うむ…愛しき人を探しに行くぞよ」


「はい乗った乗ったぁ!!」


「じゃぁ私も…」


「しゅっぱーつ!!」


「西へ!!」


「乗ったね?魔石の出力上げるよ?落ちない様に気を付けて」



フワフワ フワフワ


どんどん高度が上がって来た…


4人乗りの籠は少し狭いけれど…4人揃っていると


まるで心の隙間が埋まった様な充実した気分になった




気球4日目


「森を上から見るのは初めてかい?」


「何もかもが小さくて…驚いた…これが私達の森…」


「私も初めは同じ事思ったよ~ウフフ」


「君はエルフの中でも若い方なのかい?」


「私はまだエルフの里の中では若くて経験が少ない…だから長老にこんな機会を貰った」


「気になる気になる~何歳なのぉ?」


「まだ22年だ…人間とほとんど変わらない」


「まだ若いエルフをよくエルフ狩りがある危険な所へ行かせたもんだね…」


「馬鹿にするな…これでも弓の腕は仲間の中で上手な方なんだ」


「へぇ~~すご~い」


「4連撃ちとか?」


「それはエルフの弓使いなら誰でも出来る」


「そうなんだ」


「私の場合はロングボウを使ったピンホールショットを4連で撃つ」


「なるほど…それで昨日は毒の回りの速い内腿に毒矢を撃たれた訳だ」


「フフ…」


「ねぇねぇあの雲を見て?」


「ん?」


「なんか天気が悪くなりそう~」


「ここから西に行く場合は天気が変わりやすいから少し高度を上げた方が良いと思う」


「わかった」



魔石の出力を上げて高度を上げた




上空の高い所


「なんかさぁ…騎士とエルフの娘が急に仲良くなった気がする~」


「そうかの?昨日と変わらんが?」


「視線がね…」


「それは良い事じゃぞ?エルフは言葉以外に目や仕草で会話をするんじゃ」


「そうなんだ~私も入りたいな~」


「あまり気にせんで良いと思うがの」


「ねぇねぇ私も目でお話するのま~ぜ~て~」


「ん?…よし怒った目やってみて」


「こう?」ぐぬぬ


「そうそう…じゃぁ次…悲しい目は?」


「はう…」うるる


「よし次は難しいよ…こんにちはの目」


「え?え?…こうかな?」にまー


「ハハまぁ良いじゃないかな…その目でエルフの娘に挨拶してごらん」


「…」にまー


「クスッ」…エルフの娘は少し微笑んだ


「ねぇねぇなんか笑ってるんだけど~~」


「でも通じてるよ?」


「じゃぁこれは?」へろ~


「お腹が空いてるようね」


「すご~~~~い!!あたり~~!!」


「よし!食事にしよう!」


「は~い!!」



気球5日目


雨を避けて雲海の上に居る


高度が高いから気温は寒いがびしょ濡れになるよりはかなりマシだ



「……」エルフの娘は雲海を眺めていた


「何を黄昏ておるのじゃ?」


「魔女様…私はこの雲の海を始めて見ました…」


「うむ…われら地上に住まう生き物は皆…この雲の海の下に営みを設けておる」


「同じ地上で住まうもの同士何故争うのでしょう?」


「わらわが生まれた200年前の世界ではそのもっと昔の話があっての」


「はい」


「魔王が居なかった時代では地上で住まう物同士の争いは無かったそうじゃ」


「そうですか…」


「今では魔王は滅びておるのに地上では争いがたえぬ…」


「その理由を考えていました…やはり魔王は復活しているのでは無いかと…」


「長老は定めの話をしておったな…」


「はい」


「この時代に勇者が要る以上…魔王は滅びたとは言い切れんのかもしれんな…真実はわからん」


「……」


「しかし…人のなんたる小さなことか」


「はい…いくら弓の名手になったとしても…それは小さい事のように感じます」


「でもその小さき力が定めを導く力になる事がある事を忘れるでないぞ」


「エルフは森で営む定め…」




気球6日目


「なんだか暖かくなってきた~ウフフ」


「もうすぐ森の端に付く…」


「うん高度をもう下げ始めてる」


「良い風に乗れたのか分からんが意外と早く到着しそうじゃな」


「そろそろエルフの娘を安全に降ろせる場所を探そうか…エルフの娘?案内して」


「わかった…あそこの狭間に降りられるか?」


「エルフの娘ってさぁ~魔女と話しするときは良い子なんだよね~」


「うるさい!」


「ハハそういえばそうだね…話し方が全然違う」


「エルフは気高い生き物じゃからのぅ…仕方がなかろう」


「エルフの娘を降ろしたらすぐ気球を上昇させるから今のうちにお礼を言っておかないと…」


「うん」


「森の案内ありがとう」


「ありがと~う。いろんなお話聞けてよかった~ウフフ」


「いや…こ、こちらこそ。良い経験させてもらった」


「ほれ何と言うんじゃ?」


「ありが…とう…」エルフの娘は少し眼を背けた…照れているのが分かる


「そうじゃ!!それが争いを無くす一歩目じゃ」


「ハハ」


「ウフフ」


「フフ…」


なんだろう…人間とエルフの間に…小さな笑顔があって…なにか通じてる…


「よし!高度を下げるのはここまでで良い…飛び降りられるから」


「そうかい?」


「あとはここから半日も西へ行けば砂漠の町だ。みんな気をつけて!」


「うん。エルフの娘も気をつけて」


「また会おうね~~」


「じゃぁ高度上げ始めるよ」


「縁が在ったら又会おう!!」…と言ってエルフの娘は籠を飛び降りた


「あ~あ行っちゃった…折角お友達になれたと思ったのに…」


「きっと又会えるよ…」


と言ったその時…心の中で誰かが僕を呼んだ



!!!!!!!!!


!! 危ない !!


!!!!!!!!!




数分前



「おいアレをみろよ」


「気球が下りてくるぜ」


「町に辿り着く前に燃料切れか?」


「物資ごっそり頂いちまおう」



「チッなかなか降りてこねぇな」


「降りる場所探してるんじゃねぇか?」


「おい!見つかるなよ!」


「気球が降りたら囲め…弓の準備しておけ」



ピョン!! シュタッ!!



(シッ)


(静かにしろ!)


(おぉすげぇ~エルフが飛び降りて来たぜ?)


(ありゃ高く売れるぞ)


(おぃ気球飛んでっちまうんだが)


(まぁ良い…エルフだけでも捕まえちまおう)


(みんな居るか?)


(行くぞ!!)



ガサガサ ガサガサ




上昇する気球


「まずい!!エルフの娘!!危ない!!逃げろおお」


「え!!?」エルフの娘は辺りを見回した


「おっと逃がさねぇぞ!」山賊はエルフの娘を掴まえた


「は、離せえぇ」


「お前等ぁ!!俺と一緒に網かけろ!!」


「くぅぅ」エルフの娘は必死に抵抗している


「ひゅひゅー大成功かぁ~」


「縄もってこい縄ぁ!」


「おい!気球に乗ってる奴なんか騒いでんぞ?」


「放っとけ!」


「お前ら!触るな!」


「おいおい暴れんなよ。もうお前は捕まってんだ大人しくしろ!」


「ウヒヒヒ薬打っちまうぞ?」


「おぅ早く打て暴れてしょうがねぇ」


「や、やめろお!」


「おい!見ろよ気球から1人落ちたぞ!」



ドサーーー!!



「あの高さから落ちちゃ只じゃ済まんだろう…馬鹿だな」


「ハァハァ…くぅ」エルフの娘は力が出せない…


「わっぱ掛けろわっぱ!」


「おい!こいつは上玉だぜ?」


「んーーーんーー」エルフの娘は口を縄で塞がれた


「おい担ぐぞ!手を貸せ」


「ンフッンフッ」エルフの娘は必死に抵抗して居るがもう力が出ない


「すげぇこりゃかなり若いエルフだ」


「お前傷つけんなよ?」


「お、おい!落ちてきた奴動いてんぞ」


「ずらかるぞ!!早く来い」



山賊達はこの手の拉致に手慣れていた


あっという間にエルフの娘を動けなくして連れ去った




上空では…


「エルフの娘!!危ない!!逃げろおお」


「え!?ど、どうしたの?」


「僧侶!気球の高度を下げてくれ!」


「う、うん」


僧侶は慌てて球皮の熱を抜いた…徐々に高度が下がる


「くそ!間に合わない!」


「そんなに早く動かないよ~」


「飛び降りる!砂漠の町の宿屋で待っててくれ!」


「え?あ…だめ!!まだ高いよぅ~」


「飛ぶ!!」


後の事は考えなかった…何故なら僕の体は少々の事が有っても大丈夫な事を知って居たから


「あああ!待って~…」


「言われた通りにするのじゃ…ここは危ない」


「騎士ぃぃぃぃぃ」



無情にも気球は風に乗ってどんどん西へ流れて行く




落下…


大丈夫!!イケる!!しっかり踏ん張れ!!


ドサーーーー


「がはぁ」…落下の衝撃でどこかの骨が折れる音がした


(ぐぅ…間に合うか…)


「お、おい!落ちてきた奴動いてんぞ」


(足が思うように動かない!!折れたか?)


「ずらかるぞ!!早く来い」


「待て!!」…くそう!!右足が変な方向に曲がってる…


騎士は足を引きずりながらエルフの娘を追った


「おい!あいつ追いかけてくるぞ」


「……」エルフの娘は既に意識を失っている


「アレを使え!」


「アレっすか!」山賊の一人は煙玉を使った



モクモクモクモク



「なんだ?くそ前が…見えない…」


「よし!こっちに来い!」


「待てええぇぇ!!くそう」


「撒いたか?」


「ウヒヒヒあさっての方向に走っていったぜ・・」


「どこ行った!?」


「くそう!!エルフの娘…」


「うおおおおおぉぉぉ…どこだぁぁぁぁ!!?」


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