2.森の町

林道


始まりの国から北へ伸びる道を避けて勇者と僧侶の2人は林道を進んで居た


その方が人目に付きにくいからだ


食料を殆ど持って居ない2人には林を行った方が飢えずに済む


今はまだ日が在って明るいが…少しづつ暗くなり始めて居た



(馬が疲れてきた様だ…少し速度落とすか)


(日が暮れる前に寝床を探さないとなぁ…野宿になるかな…どうしよう…)


「ぐう…すぴーーーー」


(余程疲れていたのかな…)


ぐぅぅぅ…空腹で腹の虫が鳴いた


(朝から何も食べてないな)…カバンの中を手で探った


(乾し肉とパンだけか…2人だと今日の分しか無い)


「ううぅぅん…たいちょー…むにゃ」


(紐で縛られてると下手に動けない…う~ん…)



サラサラと流れる川の音が聞こえて来る



(川が近い…よし魚が取れる…今晩の寝床はそこにしよう)




川辺



やわらかい土の上に僧侶を横にし…勇者は魚を獲って居た



「ふぁあ~~あ~んんんんあれ~?ここどこだろ~」


「お!起きたかい…よっし!!捕れた」


「なんかチョッと暗いかも~ここはどこ~?」


「あぁもうすぐ日が落ちる…今日はここで野宿だよ」


「ふ~ん今何してる感じ~?」


「魚捕ってる」


「なんか楽しそ~う私もやろっかな~ウフフ」


「日が暮れる前に火を起こそう…手伝って」


「何すればいいの?」


「火魔法とか使えないかな?」


「オッケーやってみる」


「そこの枯葉に火を付けてみて」


「できるかな~?火魔法!」…とても小さな炎が一瞬光った


「お!十分!フーーーフーーーー」…少しづつ炎が大きくなって行く


「私天才かも~ウフフ」


「僕は魔法が使えないから火を起こすのにいつも苦労するんだ」


「火魔法はじめて使った~ウフフ」


「コレでよしっと…ちょっと木を集めてくるから暖まってて」


「オッケー」



勇者は付近に落ちている倒木を帯剣で細かくして薪を作って居た



「こんなもんかな…これだけ有れば一晩持つ筈…」


「あれ?僧侶何処行ったかな…お~い」



パチャパチャと水しぶきの音



「お~い僧侶~…あ!」


「あ!だめええええ!来ないで~~~見ないで~~」


「ごごごめん…あっちで待ってる」


(そうか…暗くなる前に水浴びしておかないと入れなくなるもんな)


(大人しく魚でも焼いておこう…)




数分後…


「戻ったよ~あ~サッパリした~」


「おかえり」


「さっきは見たでしょ~~へんた~い」


「いやそんなつもりは無かったんだ…此処に居なかったから心配でさ…」


「あれ~?コレって寝床になるの~?それとも馬の餌?」


「やわらかい草でベットの変わりだよ…明日の朝には馬の餌にもなる」


「すご~いウフフ~なんか頭良いね~」


「そろそろ焼けたかな?」焼き魚の香ばしい匂いがしてきた


「良い匂い~お腹空いてきたかも~ウフフ」


「焼き魚と乾し肉とパンだ…木の実もある」


「ごちそうだぁ~いただきま~す」パクパク モグモグ


「今日は沢山食べて明日に備えよう」


「なんふぁ…すふぉく楽ふぃ~ウフフ」


「じゃぁ僕も頂きます」





川の近くは意外とシカなどの動物が水を飲みに来る


焚火の明かりがあると近付いては来ないが…そういう動物が落ち着いて居るのは安全な証拠だ


「この薪は全部使って良いから気付いた時に入れてね」


「寝てたら気付けないよ?」


「まぁ気付いた時で良いさ」


「ねぇ勇者ってさ~…あ!!思い出した~指令に続きがあったんだ~」


「ん?」


「指令はねぇ~全部で7つあるんだ~ウフフ」


「あぁ聞かせてくれるかな?」


「だめぇ~~それは秘密なの~私が順番に指示する~」


「分かったよ…」


「指令5…身分を詐称する事…ってどういう事かなぁ…」


「あぁ隊長が勇者である事を隠せって言ってたな」


「なんでかなぁ?勇者って名乗るとやっぱり面倒が起きる?」


「ん~どうかな…でもわざわざ名乗る必要もないかな」


「じゃぁ名乗る必要が有る時は何って名乗るの~?」


「それは適当に…」


「よし!!私が決めてあげる~そうだなぁ…」



ヒヒ~ン ブルル 馬が話しに加わりたさそうにしている



「そうだ!馬に乗ってるから騎士にしよう!かっこい~~どう?気に入った?」


「あ、あぁ…まぁそれで良いよ」


「私は姫で良いかな~?ねぇ」


「ぃあ…君は僧侶で良いよ」


「なんかズル~い面白くない~~…あれ?ポケットに何か入ってる~なんだろ~」


「んん?」


「あ!!忘れてた~コレ騎士の持ち物…指輪と豆かな?ハイ…」


「これは…囚人の指輪と…なんだこれ?」匂いを嗅いでみた


「うわ~犬みた~い」


「豆では無さそうだ…でもありがとう僕が持っておくよ」


「その指輪ってどうしたの?大事そうに握り締めてたよ?」


「あの囚人が僕によこした物だよ…僕にもどうして渡されたかよく分からない」


「へ~そうなんだ~でもさぁ~なんかその話退屈~他の話にしよ~よぅ」


「…」(話が噛み合わないけれど…この子のペースはキライじゃないかな)


「例えばさ~明日何食べるとかさ~夢のある話をね…」


(なんだか僕も楽しい…ずっと一人だったから)




騎士と僧侶は林道をひたすら北に


馬に乗ったり…歩いたり…狩りをしたり


そんな旅を続けながら5日程経過した



馬に揺られながら僧侶はダダをこねていた


「もう飽きた飽きた飽きた飽きた飽きた飽きた飽きたあああああ」


「……」


「あとどれくらい?」


「さっきから3分くらいしか経ってないよ」


「また野宿かなぁ…暗くなって来たよぅ」


「もうすぐ付くよ」


「もうチョッとさー元気が出る気の利いた言葉が欲しいな~」


「よし…今日はごちそうをお腹いっぱい食べよう!」


「たべるううううううううううううう」


「あったかいベットで一緒に寝よう」


「ねるうううううううううううううう…う???一緒に?」


「ははは掛かったな…だんだん君の扱い方が分かってきたぞ」


「ギッタギタのボッコボコにするよ?…ウフフ」


「あのね…あ!!林の隙間に光が見えた」


「え!!わーい!どこどこ~?見えな~い」


「ちょちょ…縄で縛ってるんだからあんまり騒がないで…」


「きたああああああああ!!みえたあああああああ!!」




森の町


ここにはかつて光の国という場所だったらしい


隕石が飛来して一夜にして滅んだ伝説が伝えられている


残された遺跡の傍らで営みを続けた人達が集まり


後に森の町と呼ばれるようになった


木材が豊富で肥沃な土地である事もありこの地へ定住を望む者も少なくない



2人は一頭の馬を引き連れて辿り着いた



「まず宿屋を探そう…ってお~い!待って」


僧侶は走り出した…


「まいったなぁ…どこ行っちゃったんだろう」


「こっちこっち~!!」


「ちょっと待ってよ、はぐれちゃうだろ~」




宿屋


騎士は馬宿に馬を預けた後に宿屋へ入った


「いらっしゃいませ森の町の宿屋へようこそ」


「ねぇねぇ今人違いされちゃった~ウフフわたし何処にでも居る顔かな~?」


「部屋は取れたかい?」


「オッケーお勘定は騎士が担当ね~ウフフ」


「分かったよ」


「あら騎士さん?お久しぶりのご来店ですね」


「え?…人違いじゃ?…」


「アレレ~?騎士はここに来た事あるの~?」


「いや…」


「お二人の事は良く憶えていますよ。その節は色々とお世話になりました」


「あの…」


「今ではあの娘も大きくなりまして隣の酒場で働いています」


(ややこしくなりそうだからここは話を合わせよう)僧侶の耳元でささやく


(オッケー)


「お二人はあの時からお変わりは無いようですね」


「あ…はい…ハハハ」(何の勘違いだろう?)


「4~5年ぶりになりますかねぇ…あの後大規模な魔女狩りがありましてね」


「魔女…」


「2年ほど前に例の塔を王国が跡形も無く破壊して行かれました」


「あ…あ~そうですか」


「また明日にでも見に行ってみるのも良いですね」


(ねぇ早く~)


「あら失礼しました。話が長くなってしまいましたね。お部屋までご案内します」


そう言って宿屋の女将は奥の部屋へと案内を始めた


(あのおばちゃんボケてるのかなぁ)


(…そうかもね)


「こちらへどうぞ」…ガチャリと扉を開いた


「こちらのお部屋になります。お食事はどうされますか?」


「ごちそうが食べた~いウフフ」


「分かりました。のちほど沢山ごちそうをお持ちしますね」


「わ~い。ひさしぶり~ぃ」


「ではごゆっくりおくつろぎ下さい」


「じゃ少し休もうか」



宿屋の女将は部屋を後にした…ガチャリ…バタン



「ええと…」


「な~に~?」ボヨンボヨンとベッドの上で跳ねる僧侶


「これってどういう風に寝るの?」


「私がベットで~…アレ?」


「ちゃんとベット2つ用意してって言った?」


「ちゃんと言ったよ~ベットをダブルでお願いしますって~」


「いや…あのねダブルの意味分かってる?」


「ふたつ?」


「ん~~~こうしよう…今から部屋を変えてもらおう」


「ん~なんか…めんどくさ~い。もうくつろいでる~」


「わ、わかったよ。くつろごう」


(この子の頭はどうなって居るんだろう…本当に一緒に寝るつもりなんだろうか?)




夕食


「ぷは~お腹いっぱ~い。美味しかった~ウフフ」


「この後ちょっと隣の酒場に行こうかと」


「お酒飲むの~?」


「町にきたらまず情報収集するのは基本だよ」


「なんか堅苦しい~面白くないな~。…お酒飲むならいこっかな~」


「ま、まぁ…お酒を飲んでも良いよ」


「わーい。いこいこー」


「っとその前に…一応護身用でナイフだけ持っていこうハイ」


「どうして?」


「酒場では酔っ払いに絡まれる事もあるんだ」


「へー」


「かわいい娘を連れてると特に注意が必要なんだ」


「あれ~~?私のこと遠まわしにかわいいって言ってるのかな~?ウフフ」


「まぁ君の場合は別の意味で注意が必要なんだけれど…」


「別の意味ってな~に?」


「まぁ良いじゃないかハハ早く行こう」


「ハ~イ」




酒場


「いらっしゃいませー」


「お二人様ですか?こちらのカウンター席が空いています。どうぞ」


「ありがとう」


「お飲み物はいかがされますか?」


「ハチミツ酒あるかな?」


「はい。お連れ様は?」


「わわわたくしもおおおなじ物を…」


(硬くならなくて良いよ)


(なんかキンチョーするもん)


「かしこまりました」



隣で酔いつぶれていた酔っ払いが急に叫び出した


「てやんで~いムニャんだとべらんめい…ムニャ」


「あわわ失礼しました。酔っ払い!そろそろ帰ってくれ」


そこへ若い娘がハチミツ酒を持って来た



「お待たせしました…どうぞ」


「じゃぁ乾杯しようか」


「かんぱ~い」


「乾杯!」グラス同士がチンと音を立てて響く


「おいしい!!ウフフ」


「おぉ美味しいね」


「酒場のマスター…で良いのかな?…このハチミツ酒はここで造ってるのかな?」


「はいそうです。すこし北にある遺跡の森に沢山花が咲くのでハチミツが良く取れるんですよ」


「どうして沢山花が咲くんだろう?」


「わたしお花畑で生まれたの~ウフフ~おかわり~」


「何でもその遺跡は200年前はお城だったらしくて異世界から勇者が光臨したという伝説があるんです」


「だから尋ねに来た旅人達が花を添えて行ったのが沢山花が咲く由縁と言われてるんです」


「へぇ~知らなかった」


「その後その遺跡には魔女が住み着いて…」…とその時お店の若い娘が話を遮った


「マスター!!その話は聞きたくないです」


「あぁスマンスマン」


「ねぇ騎士も一緒に飲もうよ~うぃ」


「わかったわかったほら!かんぱ~い」


「かんぱ~うぃ」



座っているカウンター席の背後にごろつきの様な男が立った



「よう!にーちゃん!かわいいねーちゃん連れてるじゃねぇか」


「……」(毎度の事だけどやっぱりこうなるか…)


「俺にもちょっと…お!?」


「なんだ?」


「お前…どこかで…あれ!?そのねーちゃんも…」


「僕はお前を知らないぞ」


「ねぇわたしかわいい?ひっく」


「いや!間違いねぇ何年か前に世話になってる」


(またか?)


「ほらこの町で神隠しの事件があった頃だ…あれは…」


「ハチミツ酒お~か~わ~り~」


「お、おぃこのねーちゃん大丈夫か?」


「ねぇわたひかわいい?うふふふふふ~」


「ちょっと飲みすぎだぞ僧侶…」


「い~の~今日の出会ひにかんぱいしよ~ひっく…かんぱ~~~ひっく」


「お…おぅ…こりゃ荒れてんのか?」


「ヤレヤレ」


「ハチミチュちゅおいひ~」グビグビと一気に飲み干す僧侶…


「マスターお勘定ここに置いて行くよ。彼の分もこれで足りると思う」ジャラリと金貨


「分かりました。又のお越しをお待ちしております」


「おい!もう帰っちまうのかよ…あの時は世話になったよ。ありがとよ」


「僧侶そろそろ帰ろう」


「うぃメッタメタのポッコポコにすんぞヒック…」


「わかったわかった…」


「かわいいのかかわいくねぇのかはっきり…ヒック」


「お騒がせしてすいませんでした…」


「ありがとうございました~」


「だっこー…ひっく」


「はいはい…おんぶで良いかい?」僧侶を背負った…軽いな…


「うぇ~ん…」


「どうした?大丈夫か?」


「ひっく…うぇ~ん…ひっく」


「今度は泣き上戸か…」(まいったなこりゃ)


「わたしやっていけるかなぁ…え~ん」


「うん大丈夫だよ。すごく助かってるよ」


「もう帰れないのかなぁ?…シクシク」


「大丈夫だよ僕が付いてるよ…ほら今日はもう休もう」


「もっとだっこして…」


「はいはい…」(世話の焼けると言うか…)



今日は何も考えないで帰って休むか…


明日の事は明日考えよう…




数日前…始まりの国衛兵隊宿舎では


逃亡した偽勇者の捜索で手掛かりを発見していた…



ドンドンと慌ただしく宿舎の扉を叩く音



「どうした?なにか見つけたか?」


「休憩中申し訳ありません…伝書鳩が戻って来ました」


「そうか!なんて書いてある」


「北の林道に野営の跡を見つけた様です」


「よし!読み通りだ。馬運搬用の馬車を2つ用意しておいてくれ。」


「わかりました」


「俺は隊長に許可をもらってくる。人駆も集められるか?」


「やってみます」




隊長の部屋


「隊長!居ますでしょうか?」


「誰だ?」


「精鋭兵です」


「少し待て。着替えている最中だ」


室内でゴソゴソと着替える音がする…


「よし!入れ」


ガチャリと扉を開く


「……」精鋭兵は唾をのみ込んだ


「どうした?」…と言いながらその短い髪を整えている


「た、隊長…その格好は…」


「私も女だ、礼席ではこういう格好をする事もある…おかしいか?」


「いえ…お美しいです…髪を短くして居るのが勿体無い…」


「フフ…ところで用は何だ?」


「ハッ…偽勇者捜索の外出許可を頂きに来ました」


「ふむ…進展はあったのか?」


「北の林道にて野営跡を発見しました。偽勇者の可能性が高いと判断します」


「ふむ…」


「人目に付かず国を出るには北に向かうのが良い方法かとも思います」


「…分かった」(なかなかやる)


「捜索を自分に直接指揮させて下さい」


「よし!やってみろ」(試してみるか)


「では早速出発します。失礼しました」


(さてお前に捕まえられるか?僧侶は意外に優秀なのだぞ?フフフ…)




森の街宿屋


チュンチュンと鳥が夜明けの歌を歌う


「ふぁあ~~あ~んんんん!!!!!!!あれ?」僧侶は自らの異変に気が付いた


(モシカシテ)


(ドウシヨウ)


(モウイッカイネテミヨウ)


(スヤスヤ…パチクリ)


「ふぁあ~~あ~んんんん」背筋を伸ばす…ノビーーーー


(ヤッパリ)


(ハダカ)


騎士はその隣でまだ夢の中…


「むにゃむにゃ…」


(コレハ)


(ヤッテシマッタ)


隣で寝て居る騎士に気付かれない様に衣服を身に着けた…


(ドウシテハダカナノカ…)


(キオクガ…ナイ…)


寝て居る騎士の眼を指で開いてみた


「んんん…」


「……」


「強制的に目を開けるの…やめてくれないか…」


「お、ぉはょぅ」


「早いね…大丈夫かい?君…昨日はすごかったよ」


「ええ!?そ、そう?」


「だっこ好きなんだね」


「え?」(オワッタ)


「さて起きようかな」ムクリと起き上がる


「ちょちょ…ちょっと散歩にいってくる~」


「いいよ。すぐ帰ってきてね」



僧侶は部屋を飛び出し宿屋の周りを散歩した



(どういう顔すれば良いかな)


(いつも通りで良いのかな)


(なんて話しかけよう)


(きらわれてないかな)


(なんか帰りにくいな)


(どうしよう)



そんな事を考えながら30分ほどうろついた…




宿屋の部屋



ガチャリ バタン!



「おかえり~朝食が来てるよ一緒に食べよう」


「うん」


「ほら…あ!おいしそう」


「うん」


「早く食べなよ」…騎士は美味しそうに食べている


「どうしたの?体大丈夫かい?」


「うん」


「やっぱり始めて飲んだの?」


「うん…!?ううん」


「これからは程々にしようね」


「ねぇ!わたしどうだったの?」


「どうだったって…」


「ほら…良かったとか悪かったとか…」


「ん~~まぁ良かったよ…まぁ初めて飲んだなら仕方ないよね」


「そっか…」(ヤッテシマッタ)


「君の事が良く分かったよハハ」


「嫌いになってない?」


「そんなこと無いよ…また一緒に逝こう」


「え?あ…うん…でも良く覚えてないの…」顔が火照る


「今度はゆっくりね」


「私…早かったの?」


「ちょっとね…」


「わかった…がんばる」


「まぁ…がんばる物でも無いけんだけれど…」


「よし!ごちそうさま。早く食べなよ…今日はちょっと北の遺跡を見に行ってみたい」


「あ、うん分かった~」(でもなんか安心した)


「出かける準備しておくね」


「は~い」




宿屋のカウンター


「昨晩はお楽しみでしたね。もう出発されますか?」


「あ…あのーー何か聞こえてたのかなぁ?」


「それはもう大きな声で…オホホホ」


「あぁすみません…お騒がせしまして…」


「いえいえお気になさらず…それで今日はどちらへ?」


「はい。今日は北の遺跡に行ってみようかと…」


「それは良いですね。歩いて30分程で行けますよ…あらご存知でしたわね…おほほほ」


「今日の分のお勘定と…馬を少し預かってて下さい」ジャラリと金貨


「お預かりいたします。お気をつけて行ってらっしゃいませ」




遺跡の森


崩れた石造りの遺跡を癒すかの様に木が生い茂る


観光名所になって居るのか奥へ続く道は平たんで歩きやすい



「ねぇ…手をつないでも良い~?」


「あ、あぁ良いよ。どうしたんだい?」


「なんとなく手を繋ぎたい感じ~ウフフ」


「見たことの無い石造が沢山あるね…」


「そうだね~ココって何だったんだろーね~」


「この林道は良い香りがする…花の香りかな?」


「あ!向こうにお花畑がある~早くいこ~」…と言って手を引っ張る


「うわ!?スゴイ…一面の花だ」


「わ~いウフフ~」僧侶は掛けだした


「あんまり遠くには行かないで」


「すご~~い!ど~ん」大の字で寝転んだ


「花を荒らすなよ?」


「騎士もおいでよ~大の字になって横になってみよ~よ~ウフフ」


「よっこら」騎士も並んで大の字になった…




鳥が鳴く声…羽ばたく音…


蝶がひらめき…次の花へと…また次へ


それはまるでこの世界のことわりの様に思えた



---なんだか時間を忘れるね---


---そうだね~ウフフ~---


---手を繋いでも良い?---


---良いよ---


---なんかすごく幸せな感じ---


---心が満たされる感じ---



遠くから誰かの歌声が聞こえて来た…


♪ラ--ララ--♪ラー


「あれ?泣いてるのかい?泣き虫だなぁ」


「どうして涙が出るんだろ?悲しくないのに」


「さてと…」


「私ずっとココに居た~い」


「ダメだよ…僕達は行かなきゃ…おいで」


「ねぇ、あそこの瓦礫は何だろ~う」


「あれが元々は魔女の塔だったのかな?」


「シィィィィ…何か聞こえる」


♪ラ--ララ--♪ラー


「誰かの歌声だよ…誰だろう?」



ノソノソと三角帽子を被った老婆が近づいて来た



「旅人の方かね?」


「あ、はい」


「花を踏まないでおくれ…花も生きて居るでのぅ…」


「あ!!すいません」


「わらわは目が見えにくくなってのぅ…もっと近くに来てくれんか?」


「僧侶?花を踏まない様においで…」


「うん…」


「おおおおおおおおおおおぅ」


「え?何?」


「やっと返しに来寄ったか…早くアレをわらわに返しておくれ」


「え?アレって…」


「わらわはあの指輪が無いと生きて行けぬ…約束通り返しておくれや」


「ゆ、指輪?」(約束?)


「そうじゃ…わらわは主らを待っておったのじゃ」


「まさか…コレ…かな?」



そうだあの時言われた言葉…


---「マ・ジョ・・ニ・・カエセ」---


---「・・モリ・・ヘ・・・ユケ」---


思い返せば繋がる…



「そう!それじゃ…それは愛しの人に会う為の物…早く返しておくれ」


「あなたは…魔女?」


「いかにも…その指輪が無いとわらわは若さを保もてぬ…」


「わかったよ…ハイ」


「付いておいで…ここは危ない」


「危ないって…何が?」


「こっちじゃ…」



魔女は更に森の奥へ進んだ…




追憶の森


「ここなら安心じゃ…さて始めるぞよ」


「始めるって何の話?」


「そなたらから少しだけ若さを貰う約束じゃ…忘れたのか?」


「約束って何のことだか…」


「なに…心配せんでも良い…少しだけ若さを貰うだけじゃ」


「わたしお婆ちゃんになっちゃうの~?」


「いや…それは…」


「心配せんでも良いと言っておろう…早よう手を繋げ…はぐれるぞえ?」


騎士は僧侶の手を掴んだ…


「ウフフ」


「目を閉じるのじゃ…」


「ちょっと…説明を…」


「すぐ終わるから…早よう閉じろ」



静寂…



「ええと…もう目を開けても良いのかな?」


「……」


「私も開けて良い?」ゆっくり目を開く…


「あれ?…」


「あれ~~~~~?お婆ちゃん?」


「…どこに行った?」


「消えちゃった~なんでだろーーウフフ」


「何だったんだ?」


「わたしお婆ちゃんになってない?」


「いや…変わって無い」


「魔女のまぼろしかな~タヌキに化かされた?なんてね~」


「ま、まぁ…そろそろ戻ろう」


「うん。又来ようね」


「ええと…森の町はあっちの方角かな?」


「何処から来たのか分からなくなっちゃったね」


「大丈夫…方角はわかる…手を放さないでね」



2人は方角だけをアテに帰路についた




森の町


バカラッ バカラッ パカパカ ブルル


慌ただしく始まりの国の衛兵達を乗せた馬車が森の町を訪れた…


「どうどう…」ヒヒ~ン ブルル 軍馬が粗ぶって居る


「衛兵!どうだ?見つけたか?」


「ハッ!宿屋に若い男女が昨夜宿泊したとの事です。あの馬を見てください」


「ウム軍馬だな…偽勇者に間違いない」


「来た甲斐がありました!」


「よし!でかした。今は何処にいる?」


「今朝がた北の遺跡の森に向かったようです。まだ戻って来ていません」


「ソコに何があるか聞き込みはしたか?」


「昔は塔があったようですが2年前に崩されています。今は何もありません」


「噂に聞く魔女の塔だな」


「はい…最近老婆が付近をうろついているとの事です」


「ふむ…よし!2名は遺跡の森へ向かってくれ」


「はっ」


「見付けても手を出すな!必ず町に戻ってくる」


「残りの者は宿屋周辺で潜伏して待機!馬に接触するのに合わせて捕える」


「分かりました!」


「よし作戦開始!」(必ず捕らえてやる)



その後…何時まで経っても若い男女は戻る事無く


遺跡の森の大規模調査を行った物の2人は忽然と姿を消した…


唯一の手掛かりは三角帽子を被った婦人…


その婦人は愛しき人を待つと言うだけで


頑としてその場を離れる事は無く…只歌うのみであった…




一方…騎士と僧侶は何の苦労も無く森の町へ帰って来る



宿屋の前…閉店


「ルンルン…あれれ~?何かおかしいなぁ…」辺りを見回す…


「馬が居ない…どこか移動したのかな…」


「綱を繋ぎ忘れた~なんてね~ウフフ」


「宿屋も閉めてる…まいったなぁ…」


「じゃぁ買い物でも行こうよぉ~」


「あぁそうだね。少し時間を潰そう」


「わ~い。何処いく何処いく~?」


「そうだな…まず君の装備品を買いに行こう」


「行く行くううううううウフフ」



2人は店の有る方へ歩き出した…



防具屋


扉を開けるとカランコロンと鈴が鳴る…


「いらっしゃいませ」


「…」(なんかちがう)


「何をお探しですか?」


「女性用の軽くておしゃれな装備ないかな?」


「!?お?そんなのあるの?」


「失礼ですがそちらの方は…」


「あぁ僧侶なので鎧じゃ無い方が良いです」


「ではピッタリのおしゃれなローブがございます」


「試着させて下さい…良いよね?」


「うん!わくわくしてる感じ~ウフフ」


「ではこちらで…」



僧侶は試着を始めた…



数分後…


「これに決めた~ウフフ」


「お?見せて?」


「ジャーン♪」


「おぉ良いね…可愛いよ」


「ウフフ~もっと言って~~♪」


「それフードかぶるとどんな感じ?」


「ほい!」スッポリフードに収まる


「良いね…偽装の任務完了かな」


「買い物楽し~い」


「あと店主!急所だけカバーするインナーも付けておいて」


「分かりました」


「これ着て行っても良い?」


「もちろん。今まで着てたやつはここで引き取って貰う」


「インナーの装着も忘れないで下さい」


「は~い。付けて来るね」


「代金はここに置くよ」ジャラリ


「ところで旅の方…最近この町では神隠しがあるのでお気をつけください」


「え?神隠し?」


「お連れ様が神隠しに会わぬ様しっかりと手を握ってあげるとよろしいかと」


「あ、あぁ忠告ありがとう」(神隠しねぇ)


「お・ま・た・せ~♪ウフフ」


「うん。じゃぁ行こう」




武器屋


カーン カンカン 鉄を打つ音


「らっしゃーい」


「この子に杖を買ってあげたいんだけどあるかな?」


「え~~~?杖?わたしお婆ちゃんじゃないよ~ぅ」


「出来るだけ短いやつで…」


「じゃぁこれでどうよ?」


「お?ちっちゃくてかわゆ~い♪」


「この杖にはどんな効果が?」


「それはまどろみの杖と言って眠りを誘う効果がある。買って行くか?」


「僧侶どうする?」


「うん!コレで良い~」


「まいど!!ちなみにそれは突いて使えば護身にもなるぜ!」


「良いね!お代はここに置くよ」ジャラ


「じゃぁ次にいこ~」


「おぉぅちょっと待った。神隠しが流行ってるから手を繋いでやんな!」


「え!?」(またか…)


「店主さん気が利く~~~う」僧侶は騎士の手を掴んで引っ張った


「ちょちょちょ…」




中心街


いくつもの露店で賑わう街道…ここが森の町の中心地だ


2人は手を繋ぎ歩いている


「ルンルン♪あ!?人が集まってる~なんだろ~」


「本当だ…行ってみよう」



2人は人だかりを分けて何が有るのか確かめに来た



「どなたかウチの娘を知りませんか?」


「肌が白くて髪の長い娘です!どこかで見ませんでしたか?」


「もう2日も家に帰って来てないんです…どなたか…どなたか」



「あれ?あのおばさん宿屋のおばさんじゃない?」


「本当だ!どういう訳か聞いてくる」



街の住民が寄り集まり噂をしている


(また神隠しか?)


(今回は子供だってさ)


(2人居なくなったらしいよ)


(もう1人の子供は?)


(あの悪がきだってよ)


(もう十分大人じゃねぇか)



騎士は集まる人をかき分け宿屋の叔母さんの所へ向かった



「すいません…ちょっと通して下さい」


「!!旅人様…肌が白くて髪の長い娘を見ませんでしたか?」


「あ、いや…」(馬の事聞ける雰囲気じゃないな)


「旅人様…どうかお助け下さい…1人娘なんです…うぅ」


「す、すいません…見て…無いです」



一人の青年が声を荒らげ言った



「俺が見つけてくる!!あの塔の魔女がさらったに決まってる!!」



(塔の魔女は何か悪い事したことあるか?)


(いや聞いた事が無い)


(花の世話をしている良い魔女だぞ)


(でも魔女なら何か知ってるかも)


(どうせただの家出だろ)



何か話を聞ける状況では無かったから騎士は引き下がった…




宿屋前_閉店


行き場を失った騎士と僧侶の2人は首を傾げていた…


「う~ん…もしかして…」


「どうしたの~?なんか考え事~?」


「なんかありえない話なんだけどさ…」


「う~ん多分ね~私と同じ考えかも~」


「…言ってみて」


「ここはね~…多分4~5年前だと思うの~ウフフ」


「僕も同じ考えだ」


「もういっかい遺跡の森に行こう!!」


「そだね!!いこう!!」




遺跡の森



「あ!!誰か居る!!」


「どこ~?あれれ?さっきの青年じゃない?ウフフ」


「やべ…誰か来た…」青年は逃げようとした


「君も宿屋の娘を探しに来たのかい?」


「か、関係無いだろ!」


「私たち、お花畑に行くんだ~一緒に来る?」


「どうせ行く方向は同じだし一緒に行こう」


「俺は別に怖かった訳じゃないからな」


「ハハまぁ…行く方向が同じなだけさ…僕達は魔女に用事があってね」


「ふん!!まぁ良いや…付いて行ってやる」



3人は奥へ進んだ…




花の咲く広場


そこには大きな塔がまだ健在な状態で立って居た


「これは…」目を疑った


「わお~大きいぃ~~」


「魔女の塔だ…」


「まだ壊れてないね~おっかしいな~」


「僧侶…これでハッキリした」(過去に戻っている)


「うん」


「魔女を探そう!!」


「多分あそこの塔だ!行こう」


「おい!待て」


「ん?どうして~?」


「魔女に…消されるぞ」


「君は何か知ってるな?」


「俺と宿屋の娘と悪がきの3人は昔から仲良しで、よくここで遊んだんだ」


「ある日兵隊がやってきて魔女に何か頼みごとをしてた」


「物陰に隠れて見てたら…見たんだ…塔の魔女に消される所を…」


「ただ姿を消したんじゃない…その後魔女が若返った…命を吸ってるんだよ」


「だから森の町の神隠しの犯人は魔女に間違いない…若返る為に」


「でも大人は誰も信じなかった」


「そうか分かった…僕達が魔女を止めに行くよ」


「私たちは魔女の知り合いなの~ウフフ」


「!!なんだって!?お前達は塔の魔女の仲間なのか?」


「心配しなくて大丈夫だよ…塔に行くけど君も来るかい?」


「信じて良いんだな?」


「よし!いこ~」



魔女の塔


見た事の無い石で作られた堅牢な塔だった


随所に細工が施されている…恐らくルーン文字が刻まれて居るのだろう



「近くで見るとスゴイ文化財じゃないか…こんな建物見た事が無い」


「上の方から声が聞こえるよ?」


「やっぱり行方不明の2人は此処に来ていた様だね」


「どうするの?」


「盗み聞きするのは気が引けるけど…少し様子を見よう」


「しぃぃぃぃぃ…」



耳を澄ますと会話が良く聞こえる…



「魔女さんお願いします!」


「お願いだ!僕は罪を犯してしまった…ここから逃げ出したい」


「わらわは愛しき人を待って居るだけじゃ…何の魔法も使えんよ」


「このまま逃げてもきっと捕まってしまう」


「捕まって罪を償えばよかろう…」


「でも僕達は見たんだ!魔女が人を消す所を!…姿を消すだけで良いんだ」


「何度言ってもムダじゃ…わらわは人を消すことなぞ出来ぬ」


「消すのがダメなら…他に…何か助かる方法はないのか?」


「私は彼を愛しているの!このままだと一緒に居られなくなる…」


「僕達は愛し合っているんだ!2人で逃げる方法を教えてくれ…お願いだ」


「自ら犯した罪からは逃れらんぞ?…償えば未来は来る」



その時青年は一人階段を駆け上がって行った



「あ!!青年…」


「お前!!僕を探しに来たのか?」


「ほぅ…これは見ものじゃのぅ」


「宿屋の娘!悪がき!…皆心配してるぞ」


「僕を心配する奴なんか1人も居ない!!」


「ど、どんな事があっても…俺は…俺はお前を裏切ったりしない!!俺が心配している!」


「……」


「帰ろう!帰って罪を償おう」


「だめなんだ…僕は…人を殺してしまった」


「ばかやろう!!」ボカッ…拳で殴った音


「悪がき!!」


「お前は自分のやったことから逃げるのか!?」


「……」


「俺は逃げない!本当は…俺は…宿屋の娘の事が好きだ!」


「え!!?」


「でも宿屋の娘はお前の事を愛している…だから!!」


「悪がき…俺はお前の事を絶対守ってやる!!」


「切ない話じゃのぅ…さぁ子供達…お家にお帰り」


「わらわが一つだけおまじないを掛けてやろう…愛を知るおまじないじゃ」


「皆が心配しておるじゃろうから早く帰っておやり」


「……」


「さぁ…帰ろう…お前達は俺が守る!!」




盗み聞きしている下の階では…


(なかなかやるね…あの青年)


(私達出番無かったね)


(まぁ良かったじゃないか)


(そうだね…でも何か魔女と会いにくくなっちゃったね)


(もう少し待とうか…)



「そこに隠れて居るのは初めからバレて居るぞよ?」


「何用じゃ?顔をみせい」


「あらら…バレてたか…」


「じゃぁ上に上がろっかぁ」…2人は階段を上がった





魔女の部屋


三角帽子を被った女が待ち構えていた


「主らは誰じゃ?なぜわらわを尋ねに来た?」


「あれ?…随分若いな…」


「コッソリしててごめんなさ~い…アレ~お婆ちゃんはどこ~?」


「僧侶違うよ…この人があの魔女だよ…」


「ええ!!?魔女さん?なの?」


「わらわは愛しき人を待っておる…用が無いなら帰っておくれ」


「えーとその…僕達2人は未来から来た」


「……」魔女の赤い瞳がこちらを見る


「帰る方法を知りたいんだ…」


「何のことかね?…わらわは愛しき人を待って居るだけなのじゃが」


「指輪の秘密を知っていると言ったらどうする?」


「……」魔女の目つきが変わった…


「魔女さん。私たちは未来の魔女さんに会ったの~お婆ちゃんだったけど…」


「未来ではわらわはまだ愛しき人には会っておらんのか?」


「まだ会えていなかった…」


「いつの時代から来たのじゃ?」


「5年ほど未来…かな?」


「こっちへ来て…詳しく話を聞かせておくれ…色々辻褄が合わん点もあるでのぅ…」


「辻褄?」


「主らに言うても分からん話じゃ…次元の話なぞ理解出来ぬじゃろう?」


「何の事だか…」


「ハーブ茶を出すで椅子に掛けて待って居れ…」



お茶を入れる魔女の姿に少し違和感を感じた


ノソノソと動いて分かり難いけど…なんだろう?…残像が見える


存在に連続性が無いと言うか…この世の人じゃ無い様な…これが魔術なのか?



「さて…ゆっくり話が聞けるのぅ…未来の話を聞かせておくれ」



僕が経験してきた事をすべて話した…




30分後…


「ふむふむ…そなたらの言っている事に偽りは無さそうじゃ…」


「帰る方法は?」


「それは簡単じゃ…5年経てば帰れる…じゃが他に方法は無い」


「いやそれは…」(帰れない…)


「未来のわらわに若さを吸われたのじゃ」


「わらわはそうやって時の彼方より命を繋いでおる…愛しき人に会うために…」


「……」


「どのくらい昔なんだろ~?」


「200年ほど待っておる…あぁ待ち遠しい…愛しき人よ」


「その愛しき人というのは…一体誰?」


「今この世に生まれておる筈じゃ…必ず会えると約束をしたのじゃ」


「じゃがそなたらの話では…この指輪は囚人の手にあったのじゃろう?」


「なぜじゃ?なぜ囚人の手に指輪が渡ったのじゃ?」


「指輪が無ければわらわは生きては行けぬ…」


「5年後そなたらに会った時にもまだ…愛しき人には会って居らぬのじゃろう?」


「さぁ…そこらへんは分からない…ただ」


「未来の魔女は僕が指輪を返しに来ることを待っていた…なぜだと思う?」


「わらわは愛しき人の為意外に指輪は手放さなぬ」


「そうか…多分…愛しき人に会った後なのかも知れない…これから何か起きる」


「うぉぉぉぉおぉぉぉおおっぉ…行かねば…」


「愛しき人がすぐ近くに…でなければ指輪を預かっている筈がない」


「じゃが何処に行けば良いか分からぬ…主らに付いて行くぞよ」


「え?…それで良いのかな?」


「他に思いつかんのじゃが…」


「僕は今、魔王を倒すために旅をしている…それでも付いてくるか?」


「魔王じゃと?…魔王はもう居らん」


「わらわの愛しき人が200年前に魔王を滅ぼしたのじゃ」


「ええと…どういう事かな?」



その時世界は魔王によって滅ぼされようとしておった


ある日異世界より勇者達が舞い降りた


わらわと勇者達は共に戦い魔王を滅ぼした


その後わらわ達は恋に落ち永遠を誓った


世界に平和が訪れわらわと勇者は幸せに暮らす筈じゃったが


時の王は勇者を退けわらわは塔に幽閉された


必ず又会えると約束したが…


わらわは勇者から聞いて居った…200年未来から来たと


じゃから待ち続けておる…また会う時まで



「また会えると信じ毎日花を植えた…愛しき人を想いながら…」


「200年は長い…ただ又会いたい…その想い一心で待っておった」


「愛しき人に何か起こるならば…助けに行かねばならぬ…愛しているのじゃ」


「わらわは愛しき人を探さねばならん…これは導き」



「うぇっ…うぇっ…ヒーン」僧侶が泣き出した…


「あの花は魔女が1人で?」


「騎士ぃ…一緒に探しに行ってあげようよ~ひっく」


「話がなごうなったのぅ…もうすぐ日が落ちてしまうが…」


「じゃぁ行こうか」


「いこ~~ウフフ」


「ここにはしばらく戻れないけど…大丈夫かい?」


「愛しき人との思い出の場所じゃで名残は惜しいが…帰って来れん訳でもあるまい」


「あと数年でこの塔も壊されてしまうんだけどね…」


「未来を変えられるかどうか分からんが…愛しき人に会う為なら仕方ないのぅ」


「ねぇ魔女~あの歌聞かせて~?」


「エルフに伝わる愛の歌じゃ…主も歌うか?」


「教えて教えて~」


「ふむ…では花畑を歩きながらでも歌うとしよう…」



帰り道…お花畑は夕日に照らされて光って居た


黄昏時とはこの事だと思った


魔女が歌う愛の歌は…黄昏に心を切なくさせる


ただ会いたい…


その想いはこのお花畑の様に新しい世界を作る力となっている


愛は深い…




森の街宿屋



「日が暮れちゃったね~ウフフ」


「あぁ又あの宿屋にお世話にならないとね」


「お店開いてるみた~い」


「わらわはどこでも良いぞ」



騎士は宿屋の扉を開けて入った…カランコロン



「いらっしゃいませ旅の御方…ハッもしや!」


「え?また何か?」


「家出娘を迎えに行ってくれた方ですか?…青年から話は聞いています」


「はぁ…僕達は何もしていないんだけどね」


「大変ご迷惑をおかけいたしました…お代は要りませんので今日は泊まって行って下さい」


「わ~い♪ごちそうごちそ~う」


「こちらのご夫人…あら魔女様でしたか?」


「い、いやいや違うよ…」


「オホホ失礼しました…魔女様にしては御2方共若すぎますものねオホホ」


「……」


「それで娘さんは大丈夫でしたか?」


「はい。娘と青年と悪がきの3人で教会の方に行ったようですわ」


「それは良かった」


「何でも喧嘩した相手が死んだフリしてたのが教会でバレタとか何とか…」


「そうですか…何事も無くて良かったですね」


「いえいえ大変お世話になりました」


「早く~~~はらぺこぺこぺこぺこ~~」


「あぁ今日は2人部屋を2つお願いします。ベットはダブルで」


「わかりました。お部屋の準備が出来るまで広間の方で先にお食事をお済ませ下さい」


「は~い」




広間


「ぷはぁおいしかった~~マンプク」


「この宿屋の料理は本当に美味しいね…ハチミツのおかげかもね」


「…それはわらわのおかげでもあるぞよ?」


「魔女は森の町がハチミツの産地になってる事知ってるんだ」


「ミツバチは色々な噂を運んでくるもんでな」


「魔女はミツバチと話せるんだ~すご~い」


「ミツバチは愛を運ぶとも言われておるんじゃ」


「愛…かぁ」僧侶はウットリしている



「お食事はお済みでしょうか?お部屋の準備が出来ましたのでご案内いたします」


「あぁ頼むよ」


「ではご案内致しますのでご一緒に…」



宿屋のおばさんに部屋まで案内された



「こちらの2部屋になります。今日はごゆっくりとお休み下さい。では失礼します」


「じゃぁ…僕はこっちの部屋で」


「じゃまた明日ね~」手を振る僧侶


「ではの~」



2人部屋


「ええと…」


「うふふ~」


「…で…君はなんでこっちの部屋な…の?」


「どうして?」


「いあ…だって部屋2つ用意したんだけど…」


「だから?」


「え、あ…まぁ良いんだけどさ」


「今日は不思議な1日だったね~ウフフ~」


「そうだね…でももう後戻りできない事も分かった」


「本当にこの世界は4~5年前なのか良くわからないね~ウフフ」


「うん…実感が無い…これからどうしたら良いのか…」


「……」


「……」


「ねぇ…昨日の事なんだけど…」


「ん?なに?」


「……」


「なんだっけ?」


「わたし昨日の夜の事ぜんぜん覚えて無くって…」


「…無くって?」


「…その…記憶に残るようにもう一回…してほしいの」


「へ?」


「だっこ」


「だっこ??いや…まぁ良いけど」


「ちょっと恥ずかしいけど…」僧侶は衣服を脱ぎ始めた


「!!?え…ちょ」


「だっこして寝るの~!」


「いや、あ、う、うん…いいのかい?」


「今日はがんばるもん」僧侶は騎士に抱き付きキスをした


「いやがんばるって…むぐぐ」


「ちゅううううう」


「んむん…ぷは…ほ、ほんとにいいのかい?」


「うん…ちゃんと記憶に残る様に…」



その夜2人は初めて愛を交換した…




早朝


チュンチュンと鳥が夜明けの歌を歌う


僧侶の目覚めは良かった…夢じゃないか確認する為何度か2度寝してみた


「やっぱり…夢じゃない」


隣で騎士が寝て居る


「すぅ…すぅ…」


(ユメジャナイ)


(キノウトチガッテ)


(ミタサレテルカンジ)


(ココロガオチツイテルカンジ)


(ホカニナニモイラナイカンジ)


(モウカエレナクテモ)


(ソンナコトドウデモ)


(ヨクナッタ)


(ナンカシアワセ)


(モウナニモイラナイヨ)


(ズットコノママデイイヨ)


(ズットツナガッテイタイヨ)



そんな愛を満喫しながら再び眠りについた…





チュンチュン


「ふぁあ~~あ」…先に起きたのは騎士の方だった


「スピースピー」…僧侶は幸せそうに寝て居る


(おはよう…声を掛けると起こしちゃうかな…先に着替えておこう)


騎士は静かに着替え始めた


その時窓の向こうに何かが見えた…


(あれ?なんだあれ?)


(気球だ!!)


「ふにゃーーー」僧侶が目を覚ました


「あ!おはよう」


「うふふ~おはよ~」満面の笑み


「大丈夫かい?僧侶昨日はすごかったね」


「うふふ~」


「だっこ好きなんだね」


「うん♪」(昨日と同じ会話)


「ねぇ!わたしどうだった?」


「最高だったよ」


「わたしのこと好き?」


「大好きだよ」


「私も騎士が大好き」(どんどん満たされていく)


「そろそろ着替えなよ」


「は~い」



明るいと恥ずかしいのか僧侶はシーツの中で着替えている



「あれ見て!!」


「なに~?あ!!気球?乗ってみた~い」


「今日行ってみよう」


「わ~い」


「魔女起きてるかな…」


「起こしに行こっか?」


「頼むよ」




宿屋出入口


「昨晩はお楽しみにでしたね。本日はもう出発されますか?」


「はい…お代は本当に良いんですか?」


「もちろんです。汚したシーツもお気になさらないでください」


「ちょちょちょ…」僧侶は慌てている


「……」ジロリと魔女の白い目


「店主さん外に見える気球は?…」


「あの気球ははるか西にある砂漠の町へ行く為に貸し出している物ですよ」


「砂漠の町はここから大分遠かったと思うけど」


「ですがすぐ西のエルフの森は危険ですので気球で越えるのが一番安全らしいです」


「そうなんですか…気球はどうやって借りれば?」


「町外れに貸出所があるので詳しくはそちらで聞くと良いかと」


「ねぇ…はやくぅぅぅ」


「あぁぁごめん…店主さん情報ありがとう」


「いえいえ又のお越しをお待ちしております。今後とも仲良くなさって下さい」


「は~い…ウフフ」


「……」ジロリ


「じゃぁ行こうか」




街道


「騎士ぃ~手ぇ~~」


「そなたらは仲が良いのぅ…わらわと愛しの人を思い出すわ」


「ま、まぁね」


「ウフフ~」


「僧侶は騎士からピッタリ離れんのぅ…目に痛いわ」


「この先で魔女の装備も整えて行こう」


「わらわはこの格好で良いが?」


「あからさまに魔女っぽい格好はまずいかな…」


「私が選んであげる~ウフフ~たっのしみ~~」


「まぁ…そこのお店だよ」



3人は防具屋に入った…



「おまたせ~コーディネートはこーでねーと!なんてね~ウフフ」


「この格好で愛しの人に見つけてもらえるかのぅ…」


「割と普通になったかな…護身用の装備も良いかな?」


「わらわに護身用は必要ないが?…危険が迫れば若さを吸えば良い」


「そっか…」(魔王を倒した事があったんだっけ)


「あまり吸いすぎると子供になってしまうがな…」


「それは困るなハハ」



(待てよ…魔王がもう居ないとしたら…僕は一体何と戦うんだ?)


(どうして勇者に選ばれたんだろう?)




気球貸出所


ここにある気球は4人くらいが乗れる大きさの気球の様だ


「よう!気球を借りに着たのか?」


「はい…気球は始めてでも操作出来るものなのかな?」


「ああ簡単だ。魔石を少し調整するだけだ。急には動かんから大丈夫」


「借りるのは金貨でどれくらい?」


「ちーっと高いぜ…金貨一袋だ」


「うわ…全財産分だ…」(高すぎる)


「でも安心しな!砂漠の街で気球を返却したら気球の代金は帰って来る…つまり移動代だけって事だ」


「あぁそれなら大丈夫だ…ところで」


「この気球に…今の勇者が乗った事があるか知らないかい?」


「ムム!!」魔女が反応した


「ん~はっきり覚えてないが…勇者らしき4人組みが借りていった事はあるなぁ…」


「それはどれくらい前?…」


「半年か…もうすこし前かって所だな…まぁ金持ちじゃ無いと借りられないから…乗れる人は限られるしな」


「その4人組が向かった先について何か知らないかい?」


「砂漠の町の後のことは知らねぇ…向こうは商人ギルドが情報牛耳ってるからソコで聞くと良いかもな」


「その勇者の特徴はなにか覚えておらんか?」


「おおぅ御嬢ちゃん…勇者様に会ってみてぇのかい?」


「質問に答えてないぞよ?」


「御嬢ちゃんよ…どっかのお姫様みてぇな口ぶりだなハハ…残念だが主だった特徴は覚えてねぇな」


「他には覚えておらんか?」


「すまねぇ…無口な勇者だったもんだからほとんど会話してねぇんだ」


「無口か…」


「よう!それで気球は借りていくか?」


「砂漠の町までの日数は?」


「7日って所だな」


「必要な物を揃えてまた来る」




1時間後


騎士は物資の積み込みをしていた…


「これで良し…っと」


「おぅ随分荷物積み込んだじゃねぇか…こりゃ気球の旅も快適だなハハ」


「お~中はお部屋になってるんだね~ウフフ~」


「火事だけは気をつけてくれ…たまに事故があってな」


「僧侶も気球は始めてかい?」


「うん見た事はあったけど~王国が禁止してから見なくなったかな~ウフフ」


「何の事だ~?」


「あ、いやこっちの話だよ」


「2年くらい前かな~急に気球が禁止になったの~」


「便利なのにどうしてだろうね?」


「わからな~いウフフでもわたしたちには関係ないね~」


「おい!操作方法わかるか?…ここをこうすると火が出てだな…」


「あぁ…見せて…簡単だね」


「魔石のエネルギーを使っておるのか…」


「代えの魔石はこっちのカゴに入ってる…それから向こうに着いたら気球貸出所にコレを渡してくれ」パサ


「これは?」


「代金返済額と必要な物資リストだ…まぁお前達には関係ない。無くすなよ」


「わかった」


「早くいこ~よ~ねぇねぇ」


「そら!!早く乗った乗った~」


「じゃぁ火で空気の温度上げて上昇だね?」


「おうよ!まぁ教わるより慣れろだ…そんな難しく無いから上手くやれ」



騎士は魔石を操作して気球を上昇させた フワフワ



「わぁ!!浮いた浮いたぁウフフ」


「じゃぁ気をつけて行って来な!!」


「ありがとう!」


「おっとそうだ!途中の森には降りないようにな!エルフに見つかると危ないからよ」


「分かったよ」



フワフワ フワフワ



「おおおおおおおおおぅすご~い」


「わらわの花畑が見えるのぅ…しばしの別れじゃ」


「わぁぁぁこんな風になってたんだぁ~ウフフ」


「いろんな物がどんどん小さくなって行く」


「人間は小さいのぉ」


「本当だね…私もあんな風にすご~く小さい一人なんだね…」


「……」



僕は何処へ行くんだろう…


何を成せば良いんだろう…


魔王は一体どこにいる?



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