「魔王は一体どこにいる」

ジョンG

1.始まりの国

ここはかつて栄えた魔法の国の一角


今ではその面影も無く冒険者が初めに訪れる国として


腕試しの猛者共が集い今武闘会が始まろうとしていた



始まりの国



その時…一人の勇者が訪れた


勇者は城門の前に立ち塞がる門番へ軽く一礼をした…



「止まれーい!!これより先は身分の無い物を通す事は出来ん!」


「何か身分を示す物はあるか?」


門番は手荷物をのぞき込み不審げにしていた


「怪しい物では御座いません。これを…」


懐から紋章の描かれた証を取り出し手渡す


「んん?これは勇者の証…しばし待たれよ…衛兵!!見張って置け!!」


小柄な衛兵と大柄な衛兵の2人が駆け寄って来る


「こんな貧乏臭い格好してるのが勇者か?」


「人は見かけに寄らないっていうけどね~ウフフ」


小柄な衛兵は特徴のあるコロコロした笑い声をした少女だった…続けて言う


「あまり失礼の無い様にした方が良いかも~」


「ううむ…軽装に帯剣だけで勇者には見えんのだが…」


「おい!よく顔を見せろ!フードを下ろせ!」


「あ…失礼しました」


深く被っていたフードを降ろしその顔を晒す


「なぬ?…女か?いや…背格好は男の様だな…肩幅もそこそこに…」


「あれ~?割と良いかも~ウフフ」


「これで勇者なら女子は放って置かないね…なんてね~」


「ぐぬぬ…こんなヤサ男に何が出来ると言うか!!」



そんなやりとりをして数分後…門番は足早に戻って来た



「衛兵!客人を通せ!失礼は無かっただろうな?」


「ハッ!!」


大柄な衛兵は急に態度を改め姿勢を正した


門番は先ほどとは違った態度で言う


「ささっ勇者殿付いて参られよ…衛兵から失礼はありませんでしたでしょうか?」


「いえ問題ありません…衛兵の仕事をしっかりこなして居ましたよ」


「いやはや失礼をお詫びします」



勇者は門番の後を付き甲冑を纏った大柄な者の前へと連れられた



「隊長!お連れ致しました!」


「ご苦労…門番は戻って元の任へ付け」


「あい分かりました…失礼します」


足早に去る門番の態度から規律の厳しさが伺え…勇者は少し笑みをこぼした


「これはこれは…勇者殿」


「私は始まりの国衛兵隊長である…よくぞこの国へ参った」


「国王様は謁見の間に居られる…これより私が城内を案内する」


「…が…その前に…持ち物を預からせて頂く」


帯剣と手荷物を覗き込むその者からフワリと女性の香りがした


「精鋭兵!勇者殿の持ち物を保管しておけ!」


「では勇者殿…参りましょう…付いて参られよ」



周囲のザワツキが聞こえる


おい見ろ!あれが選ばれた勇者らしいぞ


マジか…ちょっと俺にも見せろ



「静まれぇ!!道を開けよ!!」


隊長と呼ばれるその者の一括で規律が正された…




謁見の間



「執政殿!勇者殿をお連れしました」


「国王様…観えた様です」


「うむ…通せ」


「勇者殿…国王様の面前へ…隊長は外で待て」


「ハッ!!」


正す間もなく国王が諫める


「よい…隊長も同席せよ」


「ハッ!!」


「さて勇者よ…近こう寄れ…」


「はい…」注目のまなざしを受けながら前へ進んだ


「よくぞ始まりの国へ参られた…勇者の所存は聞いておる…ゆっくり休んで行くが良い」


「はい…本日始まりの国王様に謁見に来たのには訳があります」


「ほう?申せ…」


「終わりの国の事でございます」


「やはりその事か…」周囲の空気が変わったのが分かった…


「旅の道中噂を聞きまして…かの国は魔王軍に3日で飲まれたとの事」


「ほう…3日とな?かような軍国がのぅ…」


顎に蓄えた髭を整えながら驚いた素振りは無い…


「終わりの国との国交が途絶えてもう長いが…飲まれたとはのぅ…」


「はい…魔王軍は軍力を増強しさらに伸びつつある様です…噂に過ぎませんが…」


「気になるので終わりの国へ出向こうと考えております」


「ふむ…それは良い考えだ」


「いよいよ勇者が旅立つという訳か…国を挙げて支援せねばならんなハハ…」


「出来る限りの支援は約束しよう…執政!良きに謀らえ…勇者の扱いは分かっておるな?」


「かしこまりました…」


その落ち着いたやり取りに何か不自然を感じた


「して…勇者よ」


「そなたが勇者に選ばれて2年だったか…成果を聞かせよ」


「はい…」


「辺境の村より選出されて最初の1年は武術の訓練をしておりました」


「師匠は退役した終わりの国衛兵隊長だと聞いています」


「訓練を終えた後、師匠は故郷へ帰ると申していました」


「その後の消息は聞いておりません」


「残りの1年は、武術の実践と仲間を探す為に放浪に出ておりますが…未だ仲間は得ておりませぬ」


「放浪の折に終わりの国の噂を聞きここに参った訳で御座います」


「ふむ…ではまだ成果は出て居らん様だな…まぁいたしかたない」


「隊長よ!」


「ハッ!!」


「確か近く武闘会があったな?」


「はい…明日に御座います…お忘れで?」


首を傾げながら返す言葉に少しトゲが有るのを感じた


「ふむ…そうだったか」


「勇者よ我が国の武闘会で腕を試してみてはどうか?」


「良き仲間が見つかるやもしれん」


空気が変わった…隊長の兜からわずかに見える口元に笑みが見えた


「隊長!勇者の世話人に任命する…武闘会にて成果を挙げさせよ…例の者を出しても構わん」


「執政!勇者に武器と金貨を与えよ…勇者には我が城での全行動を許可する」


「さて…後に魔王軍対策本会議を開く…執政は各官僚を招集し待て」


「勇者よ…後は隊長に従い武闘会で成果を出すのだ…期待しているぞ?フフフ…」


「いや…あ、あの…ありがとう御座います」


「武闘会にて名声を上げ、良き仲間を獲得するが良い」


「だが案ずるな…勇者に選任された実績からすれば武闘会は容易い筈じゃ」


「はぁ…」勇者は心の中でつぶやく…まいったな…


「では下がって良いぞ…」国王はその場を諫め勇者は謁見の間を後にした…




隊長の居室



その部屋は堅牢な石造りで家具類は綺麗に整頓されていた


使っている者の性格が伺える…甲冑に身を包んでは居るが中身は女性だと直ぐに分かった


隊長は兜を脱ぎ…短髪の髪を少し整えた


「やっぱり女だったんだね…兜越しじゃ分かりにくい」


「何かおかしいか?」


「いや…まぁ声でそうなのかなとは思って居たさ」


「フン!!国王の前ではガチガチだったクセに生意気な事を言う」


「王族と会話なんて…なれる訳無いじゃないか」


「フフ…さて?どうする?勇者…殿…」嫌味混じりにこちらを覗き込む


「なんか嫌味っぽいなぁ…君」


「私はまだお前を勇者とは認めて無い…でも勇者の面倒を任された…これはどういう状況か分かるか?」


「僕の面倒を見るのはイヤかい?」


隊長の尖ったまなざしを感じた…仕方なく対応しているのが分かる


「まぁでも…国王様の命令なら仕方ないね…」少し嫌味を含めて返してみた


「フン!失礼致しました勇者殿!!明日は武闘会ですがこれから如何致しましょう!!?」


きびすを返すその背中にフワリと良い匂いが漂う…清潔にして居るのも分かった


「ハハ普通に話してよ…僕より10歳くらい上って感じかな?」


「何が言いたい?…」振り返りながらにらみつけられた…


…とその時…コンコンと扉をノックする音…


「誰だ?」


「勇者殿の荷物と執政からの預かり物を届けに参りました」


「入れ…」ガチャリと扉が開く


「こちらになります…それから隊長殿へ執政殿からの書状を預かって来ています…」


荷物を持って来たその男はどうやら何かを探っている目でこちらを見ていた


「ご苦労!下がってよい…それから要らぬ噂は立てぬ様にしろ」


「ハッ…ハイ!!」と言って荷物を置き去る


「フフ…私は衛兵の中では人気がある様でな?直ぐに要らぬ噂が出るのだ…さて国王から何を頂いたのやら…開けて見ろ」


「そうだね…ええと…ロングソードと金貨…あと僕の荷物か…」


「汎用武器と金貨一袋…気前の良い話だ…フフ」


「装備は自分で買えって事だろうね」


「執政は勇者の扱いを分かっているらしい…適当に金を用意してさっさと旅立てという事だな」


「まぁそれでもありがたいよ」


「さてどうする?」


「武闘会の事を少し聞きたい…正直自信が無いんだ」


「武闘会は近隣の猛者達が…そうだな…50人程集う」


「トーナメントで8人選出するまでは規定の装備にて行う」


「8人が揃った後の装備は自前で構わない…ここからが本番だ」


「最後まで勝ち残れば金貨と従士の称号…それから名誉を得る」


「因みに私は既に従士だ…武闘会には審判として参加する」


「勝ち抜き戦ということは体力勝負か…」


「フフ楽しみだな…」彼女はこちらの顔を伺い口元に笑みをこぼした


「自前の装備で闘う場合死ぬ事もあるから気をつける事だ」


「装備が心もとないな」


「そのようだ…流石に裸同然の装備で出る者は居ない」


「よし!防具屋に案内して欲しい…行こう!」




防具屋


その防具屋は仕立てで忙しそうにしていた


中から店主らしき女性が現れた…そして何処かで会ったの事ある感覚を受け少し気になった


「いらっしゃいま…あら隊長様…先日はどうも…」


「あぁ変わりは無い様だな…商売はどうだ?」


「明日の武闘会のおかげで飛ぶように売れています…」微笑むその顔が作り笑いに見えた


「フフ…それは良かった」


「ところで今日は何の御用事で?…ご同伴の方はどなたで?」


「僕はゆ…」名乗ろうとした矢先に言葉を被せられた…


「客人の装備を見繕いに来たんだ…見てやってくれないか?」


そして耳元で彼女が呟く…面倒を起こすな…おとなしくしてろと…


それを聞いて察した…勇者を名乗るといけないという事を…


店主が言う…「分かりました…予算はどのくらいでしょう?」


「この袋にある分でお願いします…」ドサリと金貨の入った袋を差し出した


「ではサイズを測りますので上着を脱いでください」


言われたまま上着を脱いだ時視線が気になった…


「…お、お前その体…」


「顔に反してすごい体付きしてますね…着やせするんですね…そして傷だらけ」


「ハハまぁ…旅が長かったので…」


「この店にあるのはプレートメイルが一番良い防具ですがどうしましょう?」


「重い装備は長旅に向かないんだ…軽いのでお願い」


「では急所だけスケールにして後はレザーにしましょう」


「それで良いよ」


「突き攻撃にはご用心下さい…守備力が足りませんので…では、少しお待ちください」


「そんな装備で良いのか?武闘会はそんなに甘くないぞ」


「う~ん重い装備はどうも合わなくてね…それから1対1なら軽装の方が有利かな」


「フフ…言う」


「丁度良いサイズが有りました…試着してみてください」



それはスケールを組み紐で纏め良質の革でこしらえた防具だった


身に着けた感触もそう悪くない



「お?なかなか良いね。あと…目立たないように羽織る物ないかな?」


「デザートクロークが割りと地味になります」


「それで良いよ…ありがとう…」ジャラリと適当に金貨をテーブルに置いた


「金貨が多い様です」


「お釣りはいいよ…この防具気に入ったから…」


「気前は良いが装備が貧乏臭いのは変わらんな…フフ」


「ではありがとう御座いました…隊長様ごきげんよう」


店主に怪しい点は見当たらなかったが最後まで視線が気になった


観察する様な目…どこかおかしい所が有ったのだろうか…




街道


2人で街道沿いの露店を少し見回りだんだんと地理が分かって来た


「さぁ次はどうする?」


「まだ始まりの国には来たばかりなんだ…何処に何があるのか知りたいな」


「宿屋はすぐそこだ…」


「この街道沿いに店が並んでいて中心街になっている」


「丘の上に見えるのが教会…その奥にあるのが墓地」


「武闘場は城の方に向かって見える石造りのあの建物だ」


「昔は魔術学校だったようだが改修して武闘場にしたそうだ」


「斜面が多くて見通しが悪いね」


「悪い事ばかりでは無い…川から水を引いて水車を動かせる」


「へぇ…そういえば水車が多いね…これで麦を製粉してるのかな?」


「始まりの国はライ麦の産地だ…少し離れると一面のライ麦畑…此処に来るまでに見て居ないか?」


「…ふーん…城から突き出た2本の塔…アレは何?」


沈黙…何か聞いてはいけない質問だった様だ…


「ハハ秘密だったかな?」


「王族や要人の為の塔だ…一般人は入れない」


彼女から何か悲しげな空気が伝わって来た…その塔を見上げ何を想ったのだろう…




広場


冒険者なのか…物売りなのか…行き交う人と何回もすれ違う様な場所…


「賑わってるなぁ…明日の武闘会のせいかな?」


「フフその様だ…自分の装備と見比べて見ろ」


「いやあ…僕は地味だね」


「初めよりはマシになったがな」


「あれ?…」


「どうした?」


「同じ人に何回もすれ違ってる気がする…」


「フフお前も気が付いたか…スリが多いから気をつけろ」


「…まぁ気のせいかな」


「私から離れるなよ?…お前に何か合ったら私が責任を取る事になる」


「わかったよ…そろそろ戻ろうか」


「城へ戻ったら食事を用意してやる」


「良かった…丁度お腹が空いてたんだ…」


「フフ長旅で良い物は食べていないか?」


「うん…パンで良いから少しお腹に入れたいよ」


「まぁ期待はするな…最近は食料が不足気味でな」


「どこも一緒だね…」


何でも無い会話だったけれど…何故かこの人と運命的な何かを感じた


ただ2人で買い物をしただけなのにどうして刹那を感じたのだろうか…




城門


「隊長がお戻りだ!!門を開けよ」


ガラガラを音を立て鉄の落とし門が降りて来た


隊長は「ご苦労!」と一言発し…2人の衛兵の前で立ち止まった


「そういえばお前達も明日武闘会に出るんだったな」


「ハッ!!がんばります!」


「ハ~イ!!アレレ~?」


「こちらの客人も出るそうだ…精進せよ」


「よろしくお願いします!!」フードを下ろし顔を見せてみた


2人の衛兵は声を揃えて驚いた様だ


「では通るぞ?」


勇者は隊長に連れられ城へ歩いて行った



「ぐぬぬあのヤサ男…」


「ねぇねぇ割と良い装備に変わってたみたいだよ~?」


「年は俺よりいくばくか下に見えるが…」


「なに~?張り合うつもり~?止めたほうが良いと思うな~」


大柄な衛兵とは対照的に小柄な衛兵は明らかに場違いな小柄な少女


気になって少し振り返りその子を見た


おかしいな…彼女も何処かで会って居る気がする…どうしてそう思うのだろう…




武闘会場当日


勇者が武闘会に参加する噂はあっという間に広がった様だ


そこら中で口々に誰が勇者なのか噂をしている


どんな奴か知ってるか?


多分あいつだ


ほらあのデカい奴


あっちも強そうだぞ?


女だっていう噂もあるぞ?


なに?今回の勇者は女か?


おい見ろ!あの檻に入ってるのは何だ?


魔物だという噂もあるんだが…


おい司会の声が聞こえないだろう!!静かにしろ!!



王族の皆様が参列しておられます盛大な拍手をお願いします


パチパチと拍手が始まり…次第に会場全体が興奮に包まれて行く


では選手の皆さんは抽選札を受け取り控え室にお戻りください


ルールを説明します


抽選番号1~12はAブロック13~24はBブロック25~36はCブロック残りはDブロック


ブロック毎に各上位3名を選出しABCDブロック代表の12名から再度上位三名を選出します


その後敗者復活戦を行います


尚、敗者復活戦のルールは後ほど説明します…


司会の説明に飽きたのか会場は再び誰が勇者なのかという噂で盛り上がっていた…




控え室


そこは大広間


これから戦う選手が一堂に顔を見合わせ対戦相手が誰なのか探りを入れ合って居る


勇者は目立つことなく隅の方で抽選札を広げた



「34番かぁ…えーとCブロックかな」


「あ!いたいた…闘士こっちだよ」


「あのヤサ男めぇ!!」


「ええと?誰だったっけ?」


「忘れたとは言わさんぞ…」筋肉ムキムキのその体を見せつけて来た


「その声は城門の所に居た衛兵2人だね?」


「あったりー…」ピョンピョン跳ねたその子は戦うにしてはあまりに小柄だ


「君も戦うのかい?」


「わたし僧侶なのぉ~ウフフ」


「俺は拳闘士だ!!」


「ハハ…まぁ良いか…」


「抽選札は何番だったのぉ~?」僧侶は勇者の抽選札を覗き込んだ


「なんか勝ち上がるまで当たらないみたいだね?ざんね~ん…ウフフ」


「ヤサ男には負けんからな!!」ブンブンと腕を振り回しやる気はマンマンの様だ


「ん~良いのか悪いのか…勝ち残ると死人が出るとか脅されたからなぁ」


「隊長だな?死人が出たのは隊長が優勝した時だ」


「そうだね~最近は死んだ人居ないみた~いウフフ」


「そうなんだ…」


「だが手加減はせん!」…振り回す腕は確かに重そうだ…


「おちつけー…あ!隊長!」


「なぬ!!」…ピタリと止まる


「なんてね~ばっかみた~いウフフ」


「僧侶…頼むって…」


「でも皆強そうだね~剣士さんいっぱ~いウフフ」



そんな顔合わせをしている背後から審判の衣装を纏った隊長がツカツカと音を立てながら近づいて来た



「試合の前に各自使用する武器を選んでおくように!!」


「武器庫で選んだら会場前に集合…そこで身体検査を行う」


一つ疑問に思った…


「そういえば魔法を使いそうな選手は居ないなぁ…」


「そうだね~…始まりの国じゃ珍しいから~ウフフ」


「魔法なぞ必要ない!力こそすべて!」…そうだね…その腕で殴られたくは無いよと思った…


遮るように…「馬鹿共!!早く行かないと武器がなくなるぞ!」


「ええ!?」


「あれえ~?置いてかれちゃった~?ズル~イ」


「僧侶行くぞ!ヤサ男に構ってる暇はないぞ!」


どうやら使用する武器を選ぶのは先着順だった様だ…完全に出遅れたみたいだ


勇者は一番最後にゆっくりと武器を選びに行った




会場前


我先にと各々が手にした武器を試し振りしている


小柄な僧侶が選んだ武器は明らかに長くて重すぎるバルディッシュ


大柄な闘士が選んだのは長柄武器のパルチザン


どちらも一撃で命を刈り取るだけの威力はありそうだ


僧侶はバルディッシュを抱えながら言った


「これ当たったら首取れちゃうカモ~」


「これは訓練用だ…当たっても死なん」


「ダメだよそんな武器じゃ当てられないから…」と思いながら勇者は口をつむんだ


闘士は勇者が選んだ武器を見ながら言った


「ヌハハ似合ってるぞ」


「え?…それって農具じゃないの?ウフフ」


「ワラを柔らかくする農具だ…なんてなヌハハ」


「でも農具みたいなの持ってる人多いよ~なんでかなぁ~?」


「1対1で戦うならこん棒が一番有利なのさ…」と嚙み殺した



そこに審判が現れ


「では各ブロック1回戦を始める…対戦表を確認して外に出ろ!」


「Aブロック1番、2番…出ろ!!」


「お!俺だ!!行って来る!」…抽選札1番を引いた闘士はパルチザンを振り回しながら闘技場へ向かった…


「がんばってね~」…手を振る僧侶


「ところでさ~あなた名前は?」クルリと振り返り真っ直ぐに目を合わせられた


「僕は勇者だ」


「へー本当に勇者なんだ…なんか変なの~」


「変?」ええと…変なのか?…言葉を失う


「何か魔法とか使えるの?」


「それが…勇者なのに魔法は全然使えないんだ」


「じゃぁ偽者だね~ウフフ」


「いや…まぁ自分でもどうして勇者に選ばれたか良く分からないんだよ」


「でもね~この雰囲気…会場は勇者を期待してるっぽいね~でも関係ないか~ウフフ」


「どこまで通用するか分からないけど…がんばってみるよ」


「なんか勇者らしくな~い…本当に強いの~?」


「ん~どうかなぁ…隊長と同じくらいかな?…わからないよ」


「へーそれなら凄く強いかも~って…アレ?」



会話が聞こえていたであろう周囲の者から冷たい視線が集まる



「なんか皆に見られてる感じ~」



傭兵なのか…ゴロツキなのか…野郎共と表現すれば良いか…そんな者共が集まり始めた


「ほぉーお前が噂の勇者か?」


「農具似合ってるじゃねぇかアハハ」


「よぅ!かわいい姉ちゃん連れてるじゃねぇか」


「勇者はモテルってか~?アー?」


まいったな…やっぱり勇者とは名乗らない方が良さそうだ…そう思いながら少し下がった


…その時小柄な青年剣士が割り込んで来た


「待て!ここで問題を起こすな」…その剣士は堂々としていた


「お?剣士さんなんかかっこい~ウフフ」


「なんだとコラ!!チビ剣士がえーかっこすんなや」


「勝負は闘技場で付けようじゃないか!」


「ほぉー言うじゃねぇかボッコボコのギッタギタにしてやんよ」


「勇者もなんか言ってやんなよ~」…小声で僧侶が耳元でささやく


「いえ…あの…その…すいません」…頭を下げた


「ガハハこんなへっぴりが勇者な訳ねーわ!なぁ?」


「このちび剣士が勇者か~?ちょいとチビすぎやしねぇか~?アアー?」


「うるさい!背の高さは強さには関係ない!」


耳元で僧侶が続ける「ああ…でも私と同じくらいの身長かも…」



そんなやりとりをしている中…闘技場の方では一回戦が終わった



「次2回戦目準備しろAブロック3番、4番」…と審判



一回戦を終えた闘士が足を引きずりながら戻って来る


僧侶が駆け寄り…「おかえり~どうだった?」


「お、おう…余裕で勝ったぞ」…どうみても強打を食らった跡がある


「なんかそんな風に見えない~かっこわる~い」


「んむ…少し休ませてくれ」


「くそ!薬草が効きやしねぇ…あばらが折れたか…」


「回復魔法してあげよっか?」


「すまねぇ…それはルール違反になる」


「そっか~ざんね~ん」


「少し休めば良くなるからお前は自分の事考えろ」


「は~い」


「ガチンコ勝負だと最後までもたんかもしれんな」


確かに…やはり勝ち抜き戦は体力を如何に残すかがカギになると思った



「次!!3回戦準備しろ!!」…と審判



「私だ!じゃ行って来るね」…巨大なバルディッシュを引きずりながら走っていく僧侶


「おうよ相棒!!がんばれ」


「よし!僕も僧侶の戦いぶりを見てくるかな」


あのバルディッシュをどう使うのか少し気になる…なにか考えがあるのだろうか?




闘技場Bブロック


ここはABCDの4ブロックが同時に試合をしている


そのうちBブロックが僧侶の戦う場所…対戦相手は剣と盾を持った戦士…一般的なスタイルだ



「さて…どうやって戦うんだろう…」ワクワクして来た


「それでは試合を開始します!3・2・1・始め!!」


開始早々に僧侶は何かの魔法を使った様だ…恐らく守備力を上げる魔法…


なるほど魔法で装備の薄さをカバーして居るんだな…


次に…なんだアレは?…植物を操って居るのか?


そうか!!植物で相手の動きを封じる訳か


スゴイな…相手の戦士は身動きが取れて居ない…これじゃ一方的にやられる


ふむふむ…魔法を使う相手には注意しないといけないなぁ…


あれ?


でもどうした?


早くそのバルディッシュで止めを刺せば良いのに…


んん?…これはもしかして…


僧侶はバルディッシュを振り回せないのでは無いか?


勇者の思った通り僧侶はバルディッシュを持ち上げる事が出来て居ない


「ぬあぁ何だコレ…武器の選定が悪すぎる…」…思わず声に出てしまった


「あぁぁマズイな…戦士が植物を振り払った…これは勢いで突きを食らうぞ…」


そう…


どんな良い装備をしていても会心の突きを食らえば状況がひっくり返る…



「それまで!!判定により戦士の勝ちとする」…審判が試合を止めた


「えーまだ闘えるのにい~」


「今の突きで怪我をしたいのか?君に反撃する術は無いと判断した」


「よっし!儲けた!!」…戦士は高々と剣を掲げた


まぁ…もう少し試合を見たかったけれど…妥当な判断かな


訓練用の武器とは言えまともに改心の突きを食らえば命に係わるだろうし


さて…そろそろ僕の番だ…会場の前で待機しておくか…




会場前


試合を終えた選手と順々に入れ替わりが進んで行く


勇者は呼ばれるのを待って居た…そこに僧侶が戻って来る



「あ~あ負けちゃった~もう!!まーいっかーウフフ」


「お前もう少し武器を考えろ」…と闘士


「バルディッシュは振り回して使う武器じゃないよ」


「え~そうなんだ~どうやって使うの?」


「そんなことも知らなかったのか」


「あの場合は突いて使うと良い…短く持って相手に合わせて突く」


「えーでも危ないじゃない?死んじゃうよ?先っぽ尖ってるし」


「そ…そうだね…まぁ突く素振りがあったら審判は止めなかったと思うよ」


「バルディッシュは絶対当てられる時にだけ振って使うんだ」


「分かったー憶えとくーでも重くて使えないや~」


「ヤレヤレ」…と言いながら闘士はホッとした様子だ



そこに審判に扮したあの女隊長が歩み寄って来た



「5回戦準備しろ…Cブロック33番、34番」


「勇者…お前の番だ!行け…手並みを見せてもらおう」


「はい!」…相手は誰だろう?今の今まで対戦相手の事を気にして居なかった…




闘技場Cブロック


そこには巨大なハンマーを持った大男が待ち構えていた


「グハハ農具相手とは今日は運が良い」


「ハンマーねぇ…」まともに食らいたくは無いよ…


「それでは試合を開始する…両者位置について…始め!」


合図と同時にピリッとした空気…さてどう来る?良く見ろ…良く見ろ…


「かかってこいやぁぁぁ当たれば一発じゃけんのー」…大男は突進してくる


ドスーン!!


ドスーン!!


大男のハンマーは空を切り地面を打ち付ける


よし!見える…と思ったその時…予想外の攻撃


「逃がさんぞぉ!!」


「くぁ…蹴りか」…バランスを崩して膝を付いた


しまった!!出足が遅れる…


「これで終わりぃぃ」


勇者はかろうじて身をかわした


「おのれちょこまかと!!」


ふぅ…ハンマーの振りが遅くて助かった


さて…次は僕の番だ…行くぞ!!


次の瞬間勇者はハヤテのごとく大男の脇をすり抜け背後に回った


「脇が甘いよ!」…言い終わる前に勇者のこん棒は大男の後頭部を揺らした


それを見ていた者は何が起こったか分かって居ない


ほんの一瞬で距離を詰め背後に回った事を目で追えていないのだ


会場は一瞬静まり返った…



「勝負アリ!!」…審判に扮した女隊長は呟く


初戦で手の内は見れんか…しかしあの動き…それは勇者が使う技では無いぞ?



会場がザワツキ始める


あいつ何やったんだ?


俺の金返せー


おいおいマジかぁ!!


こうして勇者の初戦が終えた…




会場前


僧侶と闘士が帰りを待って居てくれた


「おかえり~一発だったね~かっこいい~ウフフ」


「ふん相手が弱かったんだろ」


「でも農具がかっこわる~い」


「…いやこれはこん棒と言ってね…基本中の基本の武器なんだよ」


「へ~そうなんだ…でもだっさ~い」



「7回戦目準備しろ…Aブロックの勝者2名」



勝ち抜き戦は試合が進むほど休む間もなく次の試合に出なければならない


僕の場合はそれほど消耗して居ないから良いけれど…闘士は厳しそうだ…



「くそう!もう次の試合か…いてて」…そう言って立ち上がる


「闘士がんばってね~」


「おうよ!ちょっくら勝って来るわ」


足を引きずるその姿は既に負けている様に思った…


「この試合の場合はこん棒が一番有利だと思うんだけど…勝てるかな?闘士…」


「勇者はなんか余裕そうだね~なんか退屈~」


「ま…まぁね運が良かったかなハハ」


遠くからあの女隊長からの視線を感じる…僕を気にしてるのかな…


会場の外でどよめきが上がった…



おおおおおすごいのが居るぞ!!


なんだあいつは!!


動きが尋常じゃ無いぞ!!なんでそこから届くんだ?



「何か盛り上がってるね」…外が気になった


「あ~闘士負けちゃったみた~い」


「8回戦目準備しろ…」


「僕は9回戦目かな…この次か」


「あ!闘士戻ってきた~大丈夫~?」


「負けた…うぅぅ」


「うわ!ひどく打たれた様だね…全身アザだらけじゃないか」


「くそぅ!こん棒をあなどってた!」


「えーパルチザンの方がかっこ良いのにね~なんでだろー」


「訓練用じゃなかったら仕留めてた筈なんだチクショウ!」


「パルチザンもバルディッシュよりは重くないけど突き主体の武器」


「一発で仕留めれないと懐に入られてこん棒の打撃を食らう」


「あ~あわき腹痛そ~う。えい!ウフフー」


「ぐああぁぁ!!あだだだだ」


「回復してあげるね!!回復魔法!」…優しい光がうっすら溶け込んだ


「ええ!?治癒魔法が使えるんだ…」


「私は僧侶だよ?ウフフ」


「おおぅ痛みが引いて行く…サンキュー」


「そんな魔法が使えるのはなんかズルいなぁ…」


「自分には効果があんまり無いのぉ~」


「へぇ?そういう魔法なのか…」



「次9回戦目の準備をしろ…」



「あ…僕だ…行かなきゃ」



こうして勇者は順調に勝ち進みトーナメント8名に選ばれた


司会は闘技場の中央で勝ち残った選手を紹介し始めた



「それではトーナメント本戦に残った8名を紹介します」


「1番…小柄な割に堅調な戦いぶりの剣士!!」


「2番…今回のダークホースとなるど派手な戦い振りな魔法剣士!!」


「3番…まだ実力は未知数…期待の勇者!!…見るからに軽装なんですがどうなんですかねぇ」


「ここからは敗者復活組!!4番…卑怯な戦いぶりの盗賊!!」


「5番…防御魔法に回復魔法!植物も自在に操る特殊な戦いぶりの僧侶!!」


「6番…異国の甲冑を身にまとった女聖戦士!!金色の長髪がエルフを思わせますねぇ…」


「7番…敗者復活ではありますが今回の優勝候補のレンジャー…多彩な戦い方が魅力です」


「そして最後は特別シード枠として出場した謎の囚人!!」


「ええと…この囚人は話によりますと重い足枷を軽々と投げる程の怪力だという噂です…楽しみですねぇ」


「では…試合は同時進行で行いますので各選手は組み合わせを確認して準備をして下さい」




控え室


そこでは今から戦う者同士が同室していた


互いに少しだけ会話を交わす異様な雰囲気…


敗者となってしまった巨漢の闘士が僧侶に駆け寄る


「お前が敗者復活とは・・よし!俺の分もガンバレ相棒!!」


「なんか武器をこん棒に変えてから良い感じーウフフ」


「怪我はしない様にな?」


「私は小さい剣士さんと相手だから…痛くしないでね~」


「や…やりにくいなぁ…お互い正々堂々がんばりましょう」


「まだ言ってんのか?ギッタギタのボッコボコにしてやんよ」…ガラの悪い盗賊が割入った


「アレレ?何処かで聞いたセリフだなぁ…あ!盗賊さんだったんだーウフフ」


「みんな気が立ってるんだよ…まぁ焦るなって」レンジャーが口を開いた


「なんか一人足りないねー」


「んん?囚人のことかい?」


「囚人なんだー気持ちわる~い」


「只者じゃないと思うよ…なんてね~」と聖戦士


「装備品無しで試合やるのかなー?」


「お前も軽装だから変わらんと思うがな…魔法でも使うんだろ」


「全員ギッタギタのボッコボコにしてやんよ」



そんな会話を耳にしながら何か嫌な予感がよぎる


なんだろう…この感覚


背筋が凍ると言うか…身がすくむと言うか…僕は何かに怯えているのか?


何か起こる気がする…



そこへ審判が現れる


「闘技場へ出ろ!!」


「剣士 僧侶はAブロック」


「魔法剣士 聖戦士はBブロック」


「勇者 レンジャーはCブロック」


「盗賊はDブロック…相手はあの囚人」



ゆっくりと闘技場へと進んだ




闘技場


「さぁいよいよ選手が出て参りました」


「正統派剣士と正統派僧侶の対決はAブロック…なぜか僧侶の装備はこん棒です…どうなるのでしょうか?」


「魔法剣士と聖戦士の対決はBブロック…聖と魔の魔法対決!!魔法剣士は今回の注目選手です!」


「続いて勇者とレンジャーの対決はCブロック…噂の勇者の実力はいかに!!」


「そして盗賊と謎の囚人の対決はDブロック…囚人は重い足かせを付けての対戦となります」


「少し天気が悪くなって来ましたが決勝までは持つでしょう!」



歓声に混じって色々聞こえて来る…


魔法剣士さまあああ!!好き~~~


あいつが勇者?えらく軽装じゃねえか…


うぉぉ囚人が出て来たぞー…えらく雰囲気あるな…


あの女聖戦士はかなりの美人らしいぞ?



その時…頭の中でピリリと軽い頭痛を感じた


さっきからなんだろうな…緊張している訳でも無いのに…


そう思いながら闘技場の壇上へ上がった




闘技場Cブロック


「さて本番…」スラリとロングソードを抜いて構える


「手加減は抜きだ…」レンジャーはそう言って弓に矢をつがえ始めた


「弓か…どう来る?」距離…足の位置…目線を見る


審判が手を上げた


「それでは試合を開始する…3…2…1…始め!!」


一気に詰め寄る


「撃たせるか!!」


次の瞬間レンジャーの放った2本の矢が肩に当たった


「ぐぁ!!2本同時撃ちか…くっそ!!もう次の矢をつがえて…」


そう思う間もなく再度矢が襲い掛かる


「ちぃぃぃ…払い落すのに手一杯か…」


足が止まった隙を見てレンジャーは懐に飛び込んで来た


「隙アリ!!」


キーン!!…かろうじて剣戟を防ぐ


「なっ!!早い…」


「フフ良く防いだな!まだまだこれからだ!」


鳴り渡る剣戟音…でもこの距離は僕の方に分がある


「防戦一方かい?」レンジャーの攻撃は止まらない


「さて反撃だ…」と思ったその時足がもつれて膝を付いた


「え?」


「フフ効いてきたかな?肩に矢を受けたよね?そいつはタダの矢じゃない」


勇者は猛烈な眠気に襲われた


「くそっ!!」一気に飛び込み一撃を入れる


「手ごたえ!!そっちもあんまり動くと出血するぞ」


レンジャーは距離を取り再度弓をつがえ始めた


「さすがに接近戦じゃ分が悪い…ゆっくり料理させて貰う」


ええい眼が開かない…


「もう外さないよ…」そう言って放ったレンジャーの矢は勇者の腹部に深く突き刺さった


「うがぁっ…お…お陰で目が覚めた」


「フフそんなよろよろになって良く言う…次で終わりだ」…弓を引き絞る


「撃たせるか!!」


放った矢を払いのけながら一気に詰め寄り弓の弦を切った


「これでもう弓は撃てない…追いつめたぞ」


「言ったよね?その矢は普通の矢じゃ無いって…君はどんどん動けなくなる」


「その前に決着が付けば良い!!」振り払った剣戟はレンジャーを捕らえた


「くぅぅ…回復魔法!」


「なっ…魔法まで使えるのか…厄介だね」


足が重い…感覚が遠くなって行く…


「又眠気が来たかな?」


勇者は無言で目を閉じた


勝負がついたと思ったその時…レンジャーの目の前から勇者がスルリと脇を抜け首元に剣を突きつけた


それは一瞬の出来事…まるで時間を止めた様に…


「な!…その動き!!アサルトスタイル…お…お前は勇者じゃないのか?」


首に当てられた剣が皮膚を裂き血がしたたり落ちる


勇者「さあね?…眠い…止めないと切り落としてしまうぞ?」


「勝負有り!!勝者は勇者!」



会場がどよめいた


うおぉぉ何だあの技は!!


見たか今の…あれは暗殺者が使う技だ


勇者じゃないってか?


レンジャーは優勝候補だったよな?


どうせ正攻法じゃ勝てないんだろう


弓も正攻法とは言えんのだが…



「おいお前達!!勝負は付いたのだから一旦控室に戻って休め」


「なんか勇者が寝てるんだけど…」


「お前が背負って行くのだ…早く行け!!」


「ええと…どっちが勝ったのか分からないね…これだと」


「2度も言わせるな!控室に戻れ!!」


「はいはい…」




控え室


レンジャーは背負った勇者を下ろして横たえた


「ううん…」


「やぁ勇者…眠気は覚めたかな?」


「なんとか…そっちこそ傷は大丈夫かい?」


「回復魔法があるからもう全快だよ」


「それにしても勇者の斬撃は痛かったよ…さすが前衛って所かな」


「弓の2連撃ちは凄いね…どうやるのかな?」


「弓使いはあれ位みんな練習するもんだよ」


「エルフは4連撃ちとか普通にやるそうだ」


「そうなんだ…どちらにしても僕には合わないかなハハ」


「ところでさっきのアサルトスタイル…勇者らしく無いじゃないか」


「師匠に教わった技だよ…僕には正統派よりも亜流が合っているらしい」


「師匠はどこ出身になるのかな?」


「終わりの国出身だって聞いてる」


「終わりの国か…良い噂は聞かないね…魔王軍に狙われてるとか」


「まだ落とされた事を知らないのか…時間の問題かな…」言いかけて飲み込んだ


「どうした?黙りこくって?あ~そうか矢の傷が痛むのかな?フフ」


「いや矢の傷はもう大丈夫だよ」


「でも直撃しただろ?見せてみろ」


「あれ?もう傷が塞がりかけてるじゃないか…そうか回復魔法を持ってるんだな」


「いや魔法は使えない」


「なんだって!?勇者じゃないのか?勇者は魔王に対抗出来るだけの魔法を…」


「本当に使えないんだ…でも傷の治りは驚くほど早い」


「回復魔法が常時掛かってるみたいなもんかね?にしても魔法を使えない勇者で魔王を倒せるのかな…」


「さぁね?…あ!!Aブロックの試合が終わった」


「剣士の勝ち…順当かな」


「そういえばDブロックの盗賊は何処に行ったかな?」


「そういえばそうだね…勝ってればここに居る筈だけど」


「次の僕の相手は…謎の囚人…かな?」


「囚人は…檻の中に戻って居るな…様子は変わって無い」



そこへ戦いの終えた小さな剣士と僧侶が戻って来た



「…ぃあ…だから触ってません」


「さわりました~!!へんた~い」


「試合中の事ですから仕方が無い時も…」


「ほら!さわったの認めてるし」


「や…やりにくいなぁ…」


「あれ?闘士は何処いったんだろう~?隊長も居ないなぁ…ま~いっか~」


「なんか剣士はボコボコな割りに僧侶は無傷な感じが…」


「え…えぇ…こんなにやりにくい試合は始めてでした」


「僧侶お疲れ様…残念だったね」


「この剣士小さいクセに私にまたがって来るんだよ~!ちょ~へんた~い」


「ぃあ…だからアレは仕方がなく…」


「それからこのこん棒弱~い…鉄鎧に全然効かないの」


「アハハ…それはそうだろうねぇ」


「触るな近寄るなったらうるさいの何の…そのクセこん棒で叩いてくるわで…」


「僕が押さえつけなかったら勝負が付きませんでした」


「ぶっ…寝技で勝ったのかハハ」



突如入り口の扉がドン!と音を立て勢い良く開いた



「あ!隊長だー」


「僧侶!盗賊に回復魔法を掛け続けろ!応急処置はしてある」


そう言ってグッタリとしたガラの悪い盗賊が運び込まれた


「あーぁギッタギタのボッコボコにされたみた~い」


「僧侶!黙って回復魔法に専念しろ!死ぬぞ」


「おっけ~!!回復魔法!」


「うわ…これやられ方酷く無いかい?どうしてこんな風に…」


「おい勇者!次の相手は狂ってるぞ」


そう言った闘士の顔が強張っている


「え?そんなに?」


「盗賊は囚人の鉄槌をしっかり防御したんだ…でも意味が無かった1発で終わった」


「審判が止めに入っても攻撃を止めずこの有様だ」


「お前達が試合している間…総動員で囚人を抑えたんだ」


「何十人も怪我をした…まったくあんな怪物を武闘会に出すなんてどうにかしてる!!隊長」


「国王様の謀らいだ…武闘会が面白くなっただろう?フフ」



ドーーーン!!



「え!?この音は?」


「魔法の炸裂音だね…例の魔法剣士だよきっと」


「勇者よ…恐らく決勝はその魔法剣士と当たる事になるだろう…見ておいた方が良いと思うが?」


「あぁ…そうだね」


「むむ…静かになったな?勝負がついた様だ」


「おおおぉ…聖戦士は防御したまま動かない…立ったままだ…」


「なるほど審判に止められた訳か…」


「魔法剣士が戻ってくる!」


「立ったまま気絶でもして居るのかな?…にしても凄いな…」



ボエーーーーー



「ん?何か言ったか?…空耳か?」


「何か天気が悪くなってきたね~すこし雨がパラついてる…」



ボエーーーーー



「また…遠くで何か聞こえる」


「何も聞こえなかったよ~気のせいと思う~」


「僧侶!回復魔法を休めるな!」


「は~い…回復魔法!」




闘技場


「準決勝の組み合わせを発表します」


「正統派剣士 対 怒涛の魔法剣士」


「そして期待の勇者 対 謎の囚人」


「少し小雨がパラついて来ましたが問題ないでしょう!!」


「次の試合は試合終了の早かった勇者vs囚人から行います」



ボエーーーーー



おいさっきから何だこの音は?


空から聞こえて来て居る様な…


雲の上に何か有るのか?


それよりさっきの囚人…凄かったな?


こりゃ面白い試合になりそうだ




闘技場中央


空は曇天模様…小雨がパラつく


時折遠くからこだまする様な何かの音が聞こえる


「なんだろう…この胸騒ぎは…」


審判が近寄って来た


「勇者は対戦相手が来るまでここで待て」


「あ…その声は隊長かい?」


「間近で見させて貰う…勇者を見せてみろフフ」


「僕の対戦相手の囚人…何も聞かされて居ないけど何か訳ありなんだね?」


「教えてやろう…お前と対戦するのが奴の願いだ…今はそれだけしか言えん」


「僕と対戦?どうしてそうなる事が分かって居たんだろう?」


「さぁな?戦って見れば分かるだろう…さぁ対面だ…楽しみにして居るぞ?」



ズルズルと足枷を引きずりながらその囚人はゆっくりと近づいて来た



「いよいよ暴れん坊の囚人が出て来ました…対戦は如何に!!」


「グガガガガ…グァ…」


(なんだ?…魔物?…違うな人間だ…)


(全身焼かれている…のか?…なんてむごい…)


(そうか喉もやられて声が出せないのか…)


(足かせの付いてる足も腐ってる…あれじゃ動けない)


(背丈は僕と同じくらい…恰幅は良い)



近付いて来るその囚人に狂気を感じる…体が勝手に危険を察知してる


たじろく勇者に向けてその囚人は口を開いた



「…ユ…ウ…シャ…ヴヴヴ…ガ…レ」


「何!?」(何か言ってる?)


「それではこれより準決勝を始める」


「ガガガ…シ…ヌ…ウゲエエエ」


「黙れ囚人!!両者位置に付いて…」


「ギ…ギク………ナ」


「い…いくぞ!!」スラリと剣を抜き構える


「3…2…1…始め!!!」



一陣の風が吹き抜け静寂…



「両者にらみ合ったまま動き無し…互いの動きを見ているのでしょうか?」


(どうする?来ないのか?)


「来ないならこっちから行くぞ!」間合いを詰め初めの一撃を狙った


その一撃はガツンという音と共に簡単に弾かれた


「っつぅ!!」(あんな大きな鉄槌を片手で操るのか…しかも早い…)


「ヤ…メ……ロ」


囚人の振るった戦槌はありえないスピードで勇者を襲う


勇者はロングソードで防御を試みたがその攻撃はあまりにも重く体ごと吹き飛ばされた


「ぐあああああ」(危なかった…ロングソードなんかじゃ受け止められない)


「ガガガ・・・サ・・ガレ」


(これは攻撃のスキを与えてはダメだ…一気に行かないと…)そう思いながら足が動かない…


「何をしているバケモノ!!お前の望みを忘れたのか!」


「え?!」(どういう事だ?望み?これが?)


「勇者!!何を躊躇している!早くこのバケモノと戦え!」


「くっ」(そうは言っても体が恐怖しているんだ…)


「えーい!!」走り込み斬撃…手ごたえあり!!


「ヴヴヴヴヴヴヴォォォ…マオウ…ハ…イナ…イ」


「何?なんだって?」(魔王は居ない?)


「グガガガ…エバ…コ…ロサ…レル」


「手を休めるな勇者!!戸惑っている暇は無いぞ!!」


「ガァァァァァァ」囚人の振るう戦槌は振り上げる事無く一瞬で勇者を捕らえる



ドコーーーーーーーーン!!



「ぐあ…」(こんなの避けられない…)


「くぅぅぅ…」(まずい…あばらが何本か折れた…)


「ガガガ…シュー…サ…ガレ」


(下がれ?だと?)



ギャオーース!!


その時巨大なドラゴンが宙を横切った


あまりに突然の出来事で会場は騒然となった



何だアレは!上を見ろ!!


ド…ドラゴン?


魔物がーーー魔物が出たぞーーー


に…逃げろ~~


ぎゃあああああ


たすけて~~



突然のドラゴンの飛来で大混乱となった


なぜならドラゴンは誰の眼からも見てドラゴンなのは明らかで


それがすぐ目の前で飛び回って居るのだから



「ままままま魔物が現れた…のでししし試合は中止しまーーーー」…司会はそのまま何処かへ走り去った


その中で唯一正気を保って居たのが審判に扮した女隊長…彼女はその場で指揮を取り始めた


「慌てるな!!精鋭兵!!国王様をお守りしろ」


「衛兵!!中央に集合しろ!」


「闘士!来い!!お前が衛兵数人集って市民を避難させろ」


「僧侶!雲の上を良く見ておけ!ドラゴンが何匹いるか数えろ」


「は~い」


「ドラゴンはまだ上を旋回しているな!衛兵まだかー!!」


「ハァハァ遅くなりました」


「よし!弓をありったけ持って来い」


「ハッ」


「はぁはぁ負傷者多数で数が集まりません!」


「くそぅ!!お前は城に戻って援軍を呼んで来い!全部出せ」


「ハッ」


「闘える者は中央に集まれ!!」


女隊長はある程度こうなる事は予測していた様だ


衛兵達の指揮を取りながらも勇者と囚人の行く末を待って居る




一方勇者と囚人の所では…


「し…試合どころじゃなくなったな」


「ガギ…ム…カエ…ニ…キタ」


「何?どういう事だ」


「ヴォォエー」囚人は何かを吐き出した


「指輪?」


「グハ…マジョ…ニ…カエセ」…そう言って指輪を放り投げた


「マジョ?おい!どういう事だ」


「モリ…ヘ…ユケ」


「モリ?…モリって何だ?おい!」


「ヴヴヴヴヴウヴォォォー」



ギャオーース


巨大なドラゴンが咆哮をあげながら急降下してくる



「隊長~!!ドラゴンが降りてくる~…です」


「僧侶!!ドラゴンは数えたか?」


「ええと…6匹小さいのが雲の中で回ってる~…ます」


「勇者がまだあんな所に…」(勇者どうする?…これからどうなる?)



弓を取りに行って居た衛兵が息を切らしながら戻って来る



「ハァハァ弓を持って来ました」


「弓を使える物は装備しろ!」(ちぃぃ…弓で誘き出せるか?いや無理だ)


「誰か魔法でドラゴンを誘き出せないか?!」(ドラゴンに魔法は禁じ手だが)



その声を聞いて居た魔法剣士が反応した



「爆炎魔法!」ゴゥ チュドーーン …その魔法は空中で破裂する


「ドラゴンを誘え」(こいつ…魔法剣士のクセに高位魔法か)


「火炎魔法!雷撃魔法!炸裂魔法!」


それはまるで花火のように次々と空中へ撃ちだされた


「ギャオーース」


「よし!気付いた」


「以後魔法を使えるものは支援魔法に徹底!」


「ドラゴンに魔法は絶対撃つな!反射でブレスが来るぞ!」


「大変!!小さいの6匹は町の方に降りて行くみたい~…です」


「ちぃ…まずい」(ドラゴンどもなかなかにやる…私達を分断するつもりだな?)


「衛兵!!良く聞け!私と義勇兵達は町の防衛に向かう」(ようし…誘いに乗ってやろう)


「あの巨大なドラゴンはここに居る衛兵達で何とかしろ!!」(ここは勇者達に任せる)


「恐らく城からの援軍はここに向かっている筈だ」


「援軍が着いてドラゴンの様子を見ながら後に町の援護に来い」


「指揮は闘士にやらせろ!!」


「闘士!!戻って来い!!」


「しっかり稼げよ衛兵ども!!」


「よし!猛者共!!町を守る!付いて来い!!」


「うおぉぉぉぉぉ」




いよいよ巨大なドラゴンが降りて来る



「きたああああああ…口が光ってるううううう」


「ブレーース!!よけろおおお」


ドラゴンの口から炎が吐き出された…それを女聖戦士が盾で防御している


「私がおとりになる~」


「そんな事が出来るのか?何処に行くつもりだ!!」


「勇者の所まで~援護してね~」…そう言って走り出した


「お、おい…」



ドラゴンは旋回しながら獲物を探している様だ



「うわわわわわ…こっちに降りてくる…」あまりに巨大な為衛兵達は慌てふためく


「ここは隠れる物が無い!!散開しろおおおお」


「ドラゴンさんこっちこっち~」聖戦士はドラゴンを引き付けようとしている



ドッスーーーーン


聖戦士がドラゴンの目に付いたのかそこへ向かって地面へ降りてきた



「で…でかいいい」衛兵達はたじろく


「弓を構えええええ…撃てえええええええ」



合図とともに一斉に矢が放たれた…しかしその殆どは硬い鱗に弾かれている


巨大なドラゴンはゆっくりと勇者の方へ近づく


勇者は驚きのあまり身動きが取れない…声も出なかった


そこへ女聖戦士が割入った



「助けに来たよ」


「助けにって…これどうすれば…」


「ヴヴヴヴヴウヴォォォー…ド…ゴン…ウリ…」


「回復魔法!」


「え!?」…回復させたのは僕じゃ無く囚人?どういう事だ?


「勇者下がって~」



ギャオオオオオオーーーース!!


ドラゴンは咆哮をあげながら首を振り周りを見渡す



「うわ…」


(人間よ…愚かなり…)その時ドラゴンの目から涙が一粒落ちた


(頭の中で声が…ドラゴンの声…なのか?)


(誰に話している?僕か?囚人か?)




一方衛兵達は隊列を組み弓の一斉射撃を試みる


「撃てえええええええ」


いくつかの矢は硬い鱗の隙間からドラゴンに刺さった


それが鬱陶しいのかドラゴンは熱いブレスを吐いて返した



「ブレーーーーーーーース!!下がれええ」


そのブレスは隊列に直撃し衛兵達を焼いた


衛兵を指揮していた闘士は愕然とした


「圧倒的じゃないか…だめだ…一端引けええええ」



それを見た勇者は動き出す


「ド…ドラゴン!やめろ!!」持って居たロングソードをその後ろ足に突き立てる


「勇者!!早く下がって~~」そう言った女聖戦士を跳ね除けドラゴンの後ろ足が動いた



ドスーーーン!!



「ぐああああ」バキバキ…骨が砕ける音がした


(ダメだ潰される)


「あ!ダメ~~このぉ~やめ…」女聖戦士は持って居た槌でドラゴンの後ろ足を叩き始めた


「ぐうぅ」…息も出来ない


勇者は手に持って居た囚人の指輪を落とした


(指輪…そういう事か…)


(力が抜けた?殺すつもりは無いのか?くそう!気が遠くなる…)


「ヴヴヴヴヴウヴォォォー」



ドラゴンは咆哮をあげる囚人を一飲みにした


大きくその翼を広げる…そして女聖戦士を後ろ足で鷲掴みにして翼を一振り


一気に宙へ舞い上がった




ブレスで焼かれた衛兵達の所では…


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!回復魔法!回復魔法!追いつかないよ~~」


「見ろ!ドラゴンが飛んだ…勇者は!?倒れてるのか?…聖戦士もやられたか…」


そこへ城からの援軍が到着


「おお来たか援軍!!負傷者の治療を頼む!」


「ドラゴンが町の方へ飛んでいく様だな」


「まずい!動ける者は町へ!!いそげぇ」


「闘士!お前が指揮るなたわけええええええ」


「状況は!?」


「ハイ!小型ドラゴン6匹が町を襲撃している様です…隊長は町の防衛に行っています」


「以後ここの指揮は精鋭兵が取る…闘技場は負傷者の臨時回復ベースとする」


「衛生兵は散開して処置に当たれ…残りは町の守備に行くのだ!」


「わたしちょっと倒れてる勇者の所に行って来るね~」


「出来るだけ早く回復させて戦闘に復帰させてくれ」


「は~い!!」…そう言って僧侶は勇者の所へ向かった



「勇者~大丈夫~?」


「まだ死んでないみたい~回復魔法!」


「ん?何か持ってる…指輪と豆??…なんだろ~」


「まぁいっか~一応預かっとくね」


「う~ん…回復魔法続けないとまずいかなぁ…なんかペチャンコだなぁ…回復魔法!」




その日…合計7匹のドラゴンに襲われた始まりの国は


自由に飛び回るドラゴンになすすべも無く


ただ追い払うのに精一杯だった


ドラゴンの吐く炎によって建物は炎上したが


幸い小雨が降って居た事もあり大きく延焼する事は無かった


ドラゴンによる襲撃はあっという間の出来事だったが


幸運にも死者は少数で済んだ


そして翌日…




隊長の部屋


僧侶は勇者を寝ずに介抱していた


「回復魔法!あ~もう飽きた~~」


「うぅぅ…」


「あ!目が覚めそうウフフ」僧侶は勇者の眼を無理やり開けて見た


「んん?」クルクルした目と合った


「…強制的に目を開けるのは止めてくれないかい?」


「やったぁ!!起きた~~~ウフフ」


「生きてるな…」


「私のおかげかも~ギッタギタのボッコボコだったよ~かっこわる~い」


「その言い回しも止めてくれないかい?」


「ほら勇者ならさ~チョイチョイってさウフフ」


「いたたた」起き上がろうとしたが骨が軋む…


「あれれ~回復魔法足りなかったかな~まいっか~」


「あの後どうなったのかな?」


「え~その話なんか退屈~ちょっと隊長呼んでくるね~」


「え、あ、うん」(どうも会話にならないな)


「じゃね~」…と言って僧侶は部屋を出て行った


(ここに居るって事は何とかなったって事か…)


(ゆっくり寝て居る場合じゃ無いような気もする)



カツカツと近づくあの人の足音…



(なんて言われるだろうか…)



ガチャリと扉が開いた


「おはよう勇者!もう大丈夫なようだな。立てるか?」


「大丈夫さ…ててて」


「大した回復力だな…あれほど重傷でも半日で回復するとは…僧侶の甲斐があったかな?」


「そんなに重傷だったかな?」


「肋骨は全部骨折、内臓破裂、普通なら手遅れだ。フフ相当頑丈に出来てるらしい」


「隊長~わたし横になっても良いですか~?ふぁ~あ」


「寝ずの介抱ご苦労だった。ゆっくり休め」


「ふぁ~い失礼しまむにゃ…」



僧侶が部屋を出て直ぐに鍵を閉められた…ガチャリ



「んん?どうして鍵を?」


「シッ」


「まぁ座れ」…と言って僕の口をその手で塞ぐ


「んむぐぐ」


(大きな声は出すな…昨日の事を少し聞きたい)


(あ、あぁ…)


(私はドラゴン襲撃で町の守備に出たから闘技場で起きた事を見ていない)


(囚人がドラゴンに食われたのは本当か?詳しく話せ)


(え…僕の目の前で一飲みにされたよ)


(何かやり取りは無かったか?)


(やり取りか…僕は囚人が何を言ってたのかはさっぱり分からなかったよ)


(他には何か無いか?)


(そうだ…途中で女聖戦士が僕を助けに来た…その後どうなったのかは分からない)


(聖戦士もドラゴンに生け捕りにされたそうだ)


(聖戦士は「勇者下がって」ってしきりに言ってたかな)


(それだけか?)


(僕がドラゴンに踏みつけられたとき助けようとしてくれた?…かな)


(その聖戦士について少し調べたんだが…出身はこの国らしいがその記録が全然無い)


(あれほど実力があれば少しは名が残る筈…しかも女だ)


(ん~聖戦士とは何もやり取りは無かったよ)


(それから…終わりの国が3日で飲まれたと言ったな?ドラゴンが関わっていれば無理な話では無い)


(それと聖戦士とどんな関わりが?)


(ドラゴンを導く内通者の可能性がある)


(へぇ~そんな風には見えなかったけどね)


(そうだ…囚人の話に戻るけど…囚人は僕と戦う気が無かった様に思う)


(それは無い…囚人本人が勇者と戦うのを望んでいた…それが無ければとっくに処刑されて…)


(ん?何か言葉に詰まっているね)


(…いらない詮索はするな)


(それともう一つ…囚人から一つだけ聞き取れた言葉がある…)


(言ってみろ)


(マオウハイナイ…これはどういう意味かな?)


(…)


(どうして黙る?あの囚人はいったい誰だ?)


(…)


(何か都合が悪いのかい?)


(…)


(今日お前はこの国を出ろ。北に5日程行けば森の町がある。ひとまずそこに行って後を考えろ)


(お前に馬と従士を一人付けてやる…そうだな…僧侶が良い。助けになる筈だ)


(準備が出来たら人目に付かないように国を出ろ。…それから勇者である事は隠せ)


(話が一方的だよ…ちゃんと説明してく…)


(言うことを聞け…最後に一つ教えてやろう…絶対に他言はするな)


(あの囚人は…3年前に亡くなったとされる”先代の勇者”だ)


(え?…)


(これ以上は聞くな)


(シッ!!)



部屋に近付く誰かの足音…トントン



「隊長!居られますか?」


「あ、あぁ…どうした?」


「国王様がお呼びです」


「あぁ分かった…着替えたら行く」


「では失礼します」


「ちょっと待て…お前は誰だ?」


「精鋭兵ですが何か?」


「僧侶を呼んで来い…勇者の具合が悪い」


「それから馬を2頭城門外に用意してくれないか…後で町の様子を見に行きたい」


「衛兵に預けてくれ」


「かしこまりました」


「よろしく頼む」



遠ざかる足音…



(勇者!国を出る準備をしろ!荷物はあそこにまとめて置いてある)


(あ、うん…分かった)


(この兜は擬装用だ…これで衛兵にしか見えない)


(それから書状を書いてやる…僧侶が来たらこれを渡すんだ)



スラスラと何かを書き込んで居る



(なんか…この国の内側にいろいろ起きて居るのかな?)


(まぁそんな所だ…お前に対する接し方でなんとなく想像は付かんか?)


(う~ん…君はどうして僕に親切にしてくれているのかな?)


(私は勇者を守る宿命を持って居る…これで答えになるか?)


(分かり難いなぁ…僕が先代の勇者の二の舞にならない様にしてくれている…という理解で良い?)


(好きに理解しろ)


(まぁ良いや…なんか君の事が好きになって来たよ)


(それはどうも…さて書状が書き終わった…僧侶宛てだからお前は読むなよ?)


(野暮な事を聞くね…ハハ)


(よし…国王を待たせると立場が悪くなる…私はこれで行く)


(うん…いろいろありがとう)


(では!うまくやれ)



そう言って彼女は部屋を後にした…




数分後…トントンと扉を叩く音


「隊長~入りま~ふぁ~あ」あくびをしながら僧侶は入って来た


(早く入って!!)彼女を近くに引き寄せる


「え?なに?だめ!…あん…ちょっと…へんた~~~い!むぐぐ」ガブリと手を噛みつかれた


(いだ!!静かに)


「なによ!勇者元気じゃない!もう~変な事すると大声だすよ?」


(ちょっと落ち着いて)抵抗する彼女の腕をつかむ


「へんた~~~~むぐぐ」口を塞いだ


「んむむむ…うむむむ」


(落ち着いて聞いてくれ!隊長から書状を預かってる…まずはソレを呼んで)


(ンムムわかったから離して~もう)


(そこのテーブルの上にある)


(これ?…どうして小声なの??なんかワクワクする~)


(良いから早くソレを)


(どれどれ…)書状の封を開けそれを読み始める



数分後…



(…何か読むの遅くないか?)


(なんか難しい事いっぱい書いてある~~でも大体分かった~)


(でも困ったな~私何も準備してな~い…でもいっか~勇者に後で買ってもらお~ウフフ)


(大丈夫かい?)


(任せて~わたしこういうの得意~そしてワクワクする~)


(よし!じゃぁ行こう)


(オッケー私の言うこと聞いてね~ウフフ)


(わかった)


(指令1…勇者を偽装する…偽装って何のことかな~?)


(コレかな?この兜で変装するって事だよ)


(お?準備良いね~ウフフなんかスゴクたのし~い)


(良いから早く行こう!)


(指令2…衛兵に見つからないように城門まで行く…付いて来て~)



部屋を出た



(ちょっとまってね~ウフフ)いかにも怪しい感じで周囲を確認している…


(オッケー付いて来てね)


(…すごい怪しく見えるんだけど…普通に歩いた方が良いじゃないか?)


(大丈夫~ウフフ)


(あ!衛兵が来た…どうしよう)



アタフタしている彼女は明らかに怪しい



「おい!何してる!!」


(は、はい!)


「どうした?何で小声なんだ?」


(いえコッソリしてる所です)


それはまずいだろ…心の中でそう思った


(そ、そうか隊長の機嫌が悪いのか)


(静かにしておいた方が良いかも~)


(わ、わかった。後ろの奴もコッソリ歩けよ。隊長の機嫌を損ねたら又掃除をやらされる)


ホッ…何とかなりそうだ…


(では…音を立てない様に行くのだ)


(じゃ…いこ~)やっぱり彼女の動きはどうも何か勘違いしてる…


(普通に歩かないかい?遅すぎる気が…)


(だって~見つかっちゃうよ?)


(ぃあ…すごく目立つと思う…あからさまにコッソリ歩くのはやっぱりおかしい)


(もうすぐもうすぐ~ウフフ)


なんだろうなこの子のペース…仕方が無いから付き合うか…


勇者と僧侶は隠れながら城を後にした



城門付近の物陰


(よし!ここなら大丈夫~楽しかったね~)


(こっちは冷や汗をかいたよ)


(あ!見て見て~昨日の剣士さんと魔法剣士さん…レンジャーさんも居るよ~)


(本当だ…彼等も無事だったんだ)


(ちょっと隠れて見てよっか~ウフフ)




城門


「止まれ!ここは始まりの国王様の城である」


「身分の無い物を通す事は出来ん」


「何か身分を示す物はあるか?」


「国王様の伝令から招待状を預かりました…これを」


「ふむ…しばし待たれよ」


「衛兵!見張っておけ」


「ハッ」


「あれ?衛兵さんは…昨日一緒に戦った闘士?かな?」


「よくぞ見破った…あの時の事は忘れんぞ」


「あはは…ごめん…わき腹はもう大丈夫ですか?」


「んむちょっと痛むがな」


「昨日は散々でしたね…衛兵は休み無しかぁ…大変だ」


「昨日の戦い…剣士も魔法剣士もレンジャーも見事な戦いだった」


「君も良く弓隊を指揮してたじゃないか」


「衛兵にしておくのは勿体無いですね」


「ヌハハそうだろうそうだろう!お前は見る目がある」



門番が小走りに戻って来た



「衛兵~い!!その3名を通せ!急ぎで国王様が会いたいそうだ」


「ハッ」


「通って良いぞ。昨日の戦いを国王様へ存分に報告して来い!」


「ありがとう。そうさせてもらうよ」


「では!」


剣士と魔法剣士…レンジャーの3人は揃って礼をした


「では剣士殿一行付いて参られよ」


門番に連れられ城内へ消えていく




城門付近の物陰


(みんな王様に呼ばれたみたいだね~なんだろね~関係ないか~ウフフ)


(次の指令は?)


(指令3は衛兵に昇格の内示)


(闘士は精鋭兵に昇格するみた~いウフフ私もうれし~い)


(ハハ良かったじゃないか)


(ここで待ってて~合図したら来てねウフフ…じゃ行ってくる~)


そう言って怪しげに城門へ近づく


「…お前…何やってるんだ?」


(えへへ~コッソリしてる~)


「どうした?手ぶらじゃ衛兵は務まらんぞ?」


(じゃぁコッソリ教えてあげるウフフ~)


(隊長からの伝令!闘士を精鋭兵に任命する!辞令を受け取りに来い!だってさ~)


「おおおおおおおおおおおおおおおお」


(昇格おめでとー隊長は王様の所かな~?行ってみると言いかも~ウフフ)


「おぉそれをわざわざコッソリ伝えに来てくれたのか!」


(大抜擢だもんね~私もうれし~いウフフ)


「よ、よし!俺は隊長の所に行ってくる。武器を預かってくれ…」


(あれ~こん棒に変えたの~?にあわな~い)


「相棒!ちょっとここは任せた!行ってくる」


(ちょ…アレ?ナンカ…)


「ん?」


(ちょっと待って)僧侶は闘士に抱き着いた


「な、なんだ?急に」


(おめでとうのダッコ)


「なんだよ気持ち悪い…おい…泣いているのか?」


(ううん…うれしくてチョッと涙が出た~)


「うれし涙でそんなに涙が出る物なのか?今生の分かれじゃあるまいし」


(なんでもないの…ごめんね闘士…)


「まぁ後でゆっくり話そう…俺はちょっと行って来る」


(うん!!じゃぁね…又ね)手を振る僧侶



物陰から隠れて見ていた勇者に僧侶は合図を送った



(…僧侶も何か感じてるか…もう戻れないかもしれないって)


(よし!誰も居ない…今の内だ)


そのまま城門の外へ出た


(僧侶…平気かい?)


(なんかね…涙が止まらないの~おかしいな~)


(城門はどうやって閉めるんだい?)


(そこのレバーを回す~)


(こうか?)



レバーを回すと鎖で落とし門が作動する仕組みだ


勇者は急いで城門を閉じた…ガラガラガラ…ガチャーン



(なんか…僧侶元気なくなったな)


(死んじゃうかも~なんてね~)


(次の指令は?)


(指令4…馬に乗って北に走る…簡単な地図も書いてあるから案内出来るよ)


(よし!あそこに2頭居る。行こう!)


ヒヒ~ン ブルル 予定通り2頭の馬が用意されていた


(ん~この指令は難しいかも~)


(え?どうして)


(私馬に乗ったことな~い。それからちょっと怖い感じ~いけるかなぁ?)


(そうか…仕方が無い…僕の後ろに乗って)


(え~~~怖いかも~でもやってみる~)


(2人とも軽装で良かった。多分2人乗りでも行けると思う…この馬は軍馬だから)


(オッケー…どうすれば言いの?)


(とう!!)勇者は馬に飛び乗った


(お?かっこいい~なんてね~)


(手を貸して)


(こう?)


(よっこらせ…っとほら乗れた)


(おぉぉぅ…たかいたか~~いウフフお姫様みた~い)


(しっかりつかまって!)



手綱を引く…どうやら素直なタイプの馬な様だ



(よしよし…なみあしで良いから負担掛らない様に森へ行こう)


(お…お?おお!おお!!お~たのし~いウフフ)


「よしここまで来れば…普通に会話して問題無さそうかな…」


「ちょっと動かないで?」


「何してる?」グイグイと縄で引っ張られる


「オッケー私と勇者を縄で縛っておいた~これで落ちないよ~」


「ハハそれは良い」


「なんか揺れると眠くなる~むにゃ」


「そうか昨夜は寝てないんだっけ…少し寝ると良い」


「ちょっとダッコしたい感じ~」


「あぁしっかりつかまって…そのまま目を瞑れば良いさ」


「ふにゃーーぐぅ…すぅ…」


「よし…ひとまず北へ」



2人を乗せた軍馬は人知れず林の中へ消えて行った


今冒険が始まった…



少し前…


国王の謁見の間では女隊長が国王の下に居た


「入ります!」


「うむ近こうよれ」


「執政!人を払え」


「かしこまりました」


執政は女隊長を横目に不気味な笑みをこぼしている


(ちぃ…あの男…嫌な目で私を見る)そう思いながら国王に近付く


「して隊長…勇者の容体はどうだ?」


「命の危険はありません。驚異的な回復を見せています」


「まだ目は覚まさぬか?」


「あの重傷ではもう少し掛かるかと…」


「事情を聞けるまで城からは出さぬ様にしろ」


「はっ」


「囚人…いや先代の勇者と現在の勇者に接点はあるのか?」


「情報がありません」


「どうも選ばれた勇者達は問題の種になっておる様だな」


「それはどういう意味で?」


「ドラゴンの件と勇者の件…お前はどう思う?」


「ドラゴンを呼ぶ内通者が居るのではと…」


「やはりそう思うか…ドラゴンは賢い…理由なしに国を攻める訳が無い」


「この国には理由が無いとおっしゃりたいのですか?」


「フハハ言うな…」


「またアレをお使いになる気で?」


「場合によってはの話だ…暴走を止める手段が無い内は使う気は無い」


「終わりの国が飲まれたという噂が本当だとすると…ドラゴンが関与しているかと思います」


「分かっている…それは後の会議にて議論しよう」


「ハッ!!」


「して…先日の被害状況を申せ」


「死者5名 行方不明者2名 運よく軽微に収まっています」


「死者と行方不明者の身元は?」


「死者は盗賊1名 衛兵3名 市民1名」


「行方不明者は 聖戦士と囚人」


「囚人は現場で見たもの全員がドラゴンに捕食されたと申しております」


「聖戦士はドラゴンに連れ去られたとか…」


「町の状況は?」


「火事はすぐに消し止め被害は軽微です」


「ふむ…やはりドラゴンは勇者を狙っておるな…」


「…先代の」


「みなまで言うな…いづれにせよ今後の事を考えねばならん」


「聖戦士の身元だけは不明な所が多く…」


「ほう…」


「出身はこの国だそうですが記録が一切ありません」


「聖戦士の戦い振りは見ておったが…この国の出身とはのう」


「はい…今までその名すら聞いたことがありません」


「手がかりは何も無いのか?」


「盾と槌が残っていましたが終わりの国で作られた物の様です」


「…確か勇者の師匠は終わりの国の元衛兵隊長だと言っておったな?」


「はい」


「終わりの国の元衛兵隊長は数年前ここで処刑された筈だが…つじつまが合わん」


「嘘を申している様には見えませんでしたが…」


「不振な点が多いのぅ…やはり勇者を野放しには出来んな」


(やはりそう来るか…野放しに出来んのはお前の方だ)唇をかみしめた


「終わりの国への密偵を出さねばならんか…」



そこへ執政が口を挟む



「国王様…話の途中失礼ですが…例の3名が謁見に参りました」


「よい。丁度終わった所だ。通せ」


「隊長は私の横へ来い」


「ハッ」


「3名は国王様の面前へ」



剣士を先頭に3名が謁見の間へ入って来た



「書状を受け取り謁見に参りました」


「よい。硬くなるな。表をあげろ」


「ありがたきお言葉」


「よくぞ参られた。先日のそなたらの働き振りは良く聞いておる」


「被害が軽微に済んだのも、そなたらの力添えがあっての事であろう」


「執政!謝礼金を用意しておけ」


「かしこまりました」


「本日早々にそなたらに参上してもらったのには訳があってのう…」


「いかなる御用で?」


「先日のドラゴン襲撃の際最も現場近く居たそなたらに、何か気づいた事が無かったかを問いたい」


「何でも良いから不振に思った事は無いか?」


「不振に?…か」3人が顔を見合わせる


「ドラゴンの鳴き声はずいぶん前から聞こえていました…ボエーーーという鳴き声」


「あれは鳴き声だったのか」


「ふむ…魔法剣士は?」


「………」


「国王様からの質問である!!答えろ!!」女隊長が一喝した


「…まぁ良い…誰もが何かに気付ける訳でも無かろうしのう」


「…アレは鳴き声なんかじゃない」…魔法剣士は口を開いた


「ほう…では何と」


「次元が調和する時の干渉音」


「次元の調和とな?…もう少し分かりやすく説明して貰えぬか?」


「2つの異なる世界が合わさって1つになる…その干渉音…」


「ううむ…この者には別途宮廷魔術師に話を聞いてもらう様に計らおう」


「フフ…」女隊長は軽く笑みをこぼしこう思った…


最も重要な証言だろうにそれに気付かぬお前は無能だ


しかしあの魔法剣士…何者なのか…よし!!



女隊長は国王の耳元でささやく


(国王様…策が御座います)


(申せ)


(こやつらを終わりの国への密偵に使うのは如何でしょう?)


(あと1名…私の衛兵隊の中から従士を付け監視の役をさせます)


(よかろう…)



国王は3名に向かって声を発する


「あれほどの騒ぎの中、なかなか不振に気付ける物では無いなハハ…気にしなくて良い」


「して3名…そなたらは相当に腕が立つと聞いておる」


「そこでわしからの願い事なのだが…終わりの国への密偵を頼みたい…もちろん謝礼は十分用意する」


「終わりの国とは連絡が途絶えて久しい。密書を届けてもらいたいのだが…やってもらえんか?」


「そういう大事な役目を私達に任せて良いのでしょうか?」


「今は、軍備の増強と安定を謀りたいのだ。少数精鋭が望ましいと考える」


「それは願っても無い話だが…魔法剣士…お前は良いのか?」


「……」


「まぁ連れて行こう!良いよな?剣士?」


「僕は構わないけど…もう一人くらい仲間が欲しいなぁ」


「精鋭兵!!来い!!」女隊長が一人の精鋭兵を呼んだ


「ハッ」


「おぉ丁度良い。精鋭兵…名を申せ」


「ハッ戦士と申します」


「話は聞こえておったな?」


「ハッ」


「では戦士!!お前を剣士達一行の従士に任命する。これより精鋭兵の任を解く」


「さて4名…やってくれるな?」


「わ…わかりました」


「では剣士達一行の旅立ちを全力で支援する事を約束する」


「執政!!良きに謀らえ!!丁重にな」


「かしこまりました」


「4名!下がってよいぞ」


謁見の間を後にしようとする戦士に女隊長は声を掛けた


「戦士!!旅立つ前に私の所へ尋ねに来い!従士の任務を説明する」


「わかりました」


「一人で来るのだぞ?大事な話もある」


「承知…」


「ではあの3人に付いてとりあえず歓談でもして来い」




魔王軍対策本会議


…とは言う物の


関係官僚たちの共通認識では魔王は既に居ないというのが定説だった


魔王の名を借りた何者かが各地で起こす小規模なテロ対策だったのだが


先日のドラゴン襲来を経て認識が一気に変わった


何者かがドラゴンを引率していると…


保守派と強硬派の意見が分かれる中結局何も決まらない…そんな会議の最中一報が入る



「隊長は謁見の間に居られるでしょうか?」


「うむ…ただ今会議中である…どうしたそんなに慌てて?」


「勇者の姿が見当たりません!」


「なぬ!城内は探したのか?」


「はい!どこにも見当たりません」


「執政殿!!執政殿ぉ!!」



ガチャリと扉が開く



「なんの騒ぎだ?会議中であるぞ」


「勇者の姿が見当たらないとの事!城内は捜索済みだそうです」


「少し待て」…そう言って執政は国王へ報告に行く


「国王様、隊長殿…取り込み中失礼しますが…勇者の姿が見当たらないと衛兵より報告が…」


「なんと!!それはまことか?手負いだった筈だが」


「私の部屋で朝までは横になっておりました…」(ちぃぃぃ…思ったより気が付くのが早い)


「その衛兵を通せ」


「かしこまりました」


「会議はこれにて中断だ…関係各員ひとまず現状維持の方針で行くのだ」



官僚たちは不満げに部屋を後にする



「衛兵!入って報告せよ」


「失礼します…隊長の部屋より勇者の姿が無くなったとの報告を受けました」


「メイドが食事を運びに行った際に、居なくなったのに気付いたのが1時間程前。荷物も無くなっています」


「その後城内と町を捜索していますが、未だに見つかっておりません」


「勇者は手負いだ…遠くへは行けまい」


「ええと…その…馬が1頭居なくなっています」


「なにぃ!!」(1頭だと?)


「馬が外に出る為には城門を通らなければならんが門番は何をしてた?」


「それは分かりません…」


「あと…その…」


「申せ」


「1人…衛兵が居なくなりました」


「誰だ!!」(芝居が通じるか)


「僧侶です…衛兵の中で人気の有った小柄な女衛兵です」


「その僧侶が勇者を連れ出したと言うか?」


「国王さま…それなら馬2頭居なくなる筈です」


「勇者が僧侶を連れ出したと言うか?…動機がよく分からんな」


「僧侶の荷物はどうなってる!!」(フフ上手く行きそうだ)


「僧侶の所持品はすべて宿舎に残っています」


「連れ去られた線が強いかと…」(フフフ)


「つ、連れ去られただって…あの偽勇者め」精鋭兵に昇格したばかりの闘士が思わず発した


「ほう…丁度良い!新任精鋭兵に良い任務が出来たな」


「よし精鋭兵!!勇者及び僧侶の捜索はお前が指揮を取れ」(さてお前に行き先が読めるか?フフフ)


「承知しました!!必ずや連れ戻して参ります!!失礼します」


「衛兵!人駆を集めろ…20名だ!!」


「はぃぃ」


「さて隊長よ…わしは少し休む。お前は自分の任務へ戻れ」


「ハッ」


「例の件…抜かるなよ?」


「承知しております!では!!」


女隊長は足早にその場を後にした


またあのバケモノを動かすと言うのか…眠らせておけば良い物を…


…そのバケモノとはドラゴンをも一瞬で焼き殺す力を持つ存在


世界を焼き尽くす力を持つ存在…この世に生まれてはいけない生物


女隊長は怒りを奥歯で噛みしめながら…それが眠って居る場所へ向かった




城門前


そこでは精鋭兵が衛兵を率いて偽勇者捜索隊を編成していた


「馬の準備はまだか!?」


「6頭しか許可されませんでした」


「んむ?これは馬の蹄の跡か?おい衛兵!!誰か分からんか?」


「…分かりません…争った跡の可能性もあります」


「ここで争うと人目に付くだろう…まてよ…人目か」(このまま北に行けば人目には付かんな)


「そうですね…」


「ようし!2名は乗馬して北にある森の街まで行って捜索しろ」


「ハッ」


「もう2名も乗馬し西の国境まで捜索」


「は」


「次の2名も乗馬して南の港町へ向かって捜索しろ」


「ういさ」


「10名は徒歩で城周辺と町の捜索に当たれ…すこし離れの林も含めて捜索だ」


「ハイッ」


「残りの者は馬と馬車を調達してきてくれ」


「乗馬組みは伝書鳩を忘れるな!!手がかりを見つけたら早々に飛ばせ!」


「では散開!!」



その様子を女隊長は遠くから眺めていた


フフ上手く逃げろよ勇者…縁が在ったら又会おう…




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