第18話 あばら家

『港町』


ここは光の国シン・リーンの領地に当たりセントラルとは違い魔法が認められている


港町と言うだけ有って本来はセントラルと同様に商船が出入りするシン・リーンの貿易港だ


しかし世界が闇に落ちた今この町は活気がなくなり静まり返って居た



ガコン! ギシギシ



「一応桟橋に付けては見たが…誰も来んな…どうする?」


「いや…衛兵らしいのが気付いてこちらに来る様だ」


「ありゃ衛兵じゃ無えぞ?」


「ふむ…衛兵の恰好をしているが恐らく魔術師だな」


「あ!!見て!!あそこの光…光の魔法でレイスを焼き殺しているんだ」


「そりゃ頼もしいな…だが一般市民は見当たらんな」


「魔術師が居るとなると魔方陣での安全地帯も期待出来るね」


「…やっぱこっちの方はレイスの被害があまり出て居ないようだな」


「セントラルが異常だったんだよ…魔物に攻め立てられていた直後だったし…」


「私はあの魔術師と話をして来る…少し待っていてくれ」


「おう!俺は下船する準備だ」



アサシンは一人船を降り魔術師の下へ行った


確かにこの闇の中そこそこ大きな船が来たのは怪しかっただろう


でも直ぐに事情を理解したのかその魔術師は怪しむ素振りも無く周囲の警戒に戻った




「下船許可が出た…私は商人と一緒に物資調達に出たいのだが盗賊はどうしたい?」


「確か丘の上に教会があった筈だ…ちとそこまで行ってくる」


「一人で行くのか?」


「女盗賊を背負って行く…蘇生魔法があるなら生き返らせる」


「……」


「魔術書によると蘇生魔法は…」


「うるせぇ…こいつは俺の女だ…他の奴の指図は受けねぇ」


「私はどうしよう?」


「盗賊と一緒に行動してくれないか?人を背負った状態ではレイスと戦えまい」


「娘と子供たちは留守番だ…まぁ船の中なら安全だろ」


「決まりだな?情報屋…このミスリルダガーを持って行け…対レイス用だ」ポイ


「無理に宿をとるより船の方が安全だ…集合は半日後に船…良いか?」


「分かった…物資を仕入れて置く」


「お~い!!娘達!!ちっと外に出るから子供達頼んだぞぉ!!」



そう言って盗賊は女盗賊を背負い船を降りた





『街道』


本来なら露店商で賑わって居る筈の街道は誰一人外に出て居ない


静まり返った街道は逆に幽霊でも出そうな不気味な街道になっていた


シーン…



「こりゃ物資調達は期待出来ねぇな…」


「丘の上の教会までどのくらいかしら?」


「すぐソコだ…もう見えてる」


「本当に蘇生出来ると思っているの?」


「出来る事を最後までやるだけだ…バカにすんな」


「この闇の世界は亡くなった人も傷んで行かない様ね」


「それが最後の望みだ…普通なら1日経たずに腐って行きやがる」


「あなたのやっている事は見ていてなんか心が痛い…でも何か美しい」


「そりゃありがとよ…只まぁ哀れな男の末路だ…恥ずかしくて見せられん」


「彼女がうらやましい…そんなに愛されて」


「悪りぃな…俺は恥ずかしい」


「そんな事言って良いの?…彼女聞いているわ?」


「あぁそうだったな…やべぇな…もう知らないって怒り出す…」


「ウフフ…」


「着いたぞ…こりゃ参ったな…死体だらけじゃねぇか」


「死体では無いみたい…」


「あぁそうだったか…生きたまま死んだって奴か…」


「埋葬が出来なくて放置されて居るのね…蘇生出来るならこんな風には…」


「言うな…それでも良いんだ…行くぞ」



教会の脇に並べられて居たのは恐らくレイスに魂を狩られたであろう人々だった


まだ血色が良く息もしている…只二度と目を覚ます事は無い


魔術師の多いこの国ではそういう状態になった人々の家族等へちゃんと理解させているのであろう


生きたまま埋める訳にも行かず処置に困って居るのだ




『丘の上の教会』


そこはレイスによって家族の魂を狩られてしまった人をどうにか蘇生させたい思いで


盗賊と同じ様に教会へ来た人が集って居た


数人の魔術師がその人達へ事態の説明をしている


その様子を見て盗賊は顔を曇らせた



「済まねぇ…ここに僧侶は居無いか?」


「はい…どのようなご用件でしょうか?」



法衣を纏ったその者は他の魔術師とは違う雰囲気が有る



「もう死んで5日程経ってるんだが…蘇生魔法で生き返らせられないか?」


「こちらのご婦人ですね?」


「そうだ…頼む!!」


「蘇生魔法は魂が肉体から離れてしまった後では遅いのです」


「魂が何処に行ったのかは分からん…だがレイスに狩られた訳じゃ無え…それでもダメか?」


「……」


「こいつの心は俺の中にある!!俺が抱いておくから…どうにかしてくれ」


「それは生きているという事です…蘇生魔法の必要はありません」


「生きて…居る…だと?」


「体は亡くなってしまいましたが…その心は別の体を通して生きているのです」


「なら元に戻してくれ…俺の半分をこいつにヤル」


「その様な魔法は有りません…ですが祝福をすることは出来ます」


「祝福するとどうなる?」


「心の結合を祝福します」


「どういう事だか分からん」


「心の結合は永遠…それを祝福するのです」


「…結婚」…情報屋はポツリと一言こぼした


「俗世ではそういう言い方をしますね」


「違う…そうじゃない…」


「盗賊!!否定しちゃダメ…彼女は聞いているのよ?」


「…悪りぃ…俺は祝福されたいのか?…お前はどうしたいんだ…いや違う知ってる」


「お前ならこう言う…そんなの分かってるでしょ?」


「待て…俺はお前なのか?」


「…どうされますか?」


「ちょっと待て…回復魔法で傷付いた体を癒すくらいは出来ないのか?」


「死者に回復魔法を掛けても蘇る事は在りませんが?」


「頼む…それでも試してくれ」


「では…回復魔法!」ボワー



優しい光が女盗賊の体に染み入る


それでも冷たくなった体がもう一度温まる事は無い



「祝福の立会人はあなたでよろしいですか?」


「はい…祝福します」…情報屋は祝福した


「分かりました…」



主があなたを祝福しあなたの魂を守られますように


主が御顔をあなたに照らしあなたの魂を恵まれますように


主が御顔をあなたに向けあなたの魂に平安を与えられますように



「あなた達の永遠を祝福します」



盗賊はその僧侶と情報屋に祝福された


それは心の中に居る女盗賊との関係を祝福する意味を持つ


盗賊は自分の中に女盗賊の心が生きている事を自分で認めたのだから



---どうしてこうなった?---





『海が見えるあばら家』


盗賊は自問自答を繰り返す…それは心の中に居る彼女がどうしたいのか聞く行為だ


何処に行きたいのか?どうなりたいのか?何が見たいのか?


全部…不思議と心の中で答えが返って来る


そして辿り着いたのは海が見えるあばら家…



「ここは?」


「昔使ってた俺達の隠れ家だ…様子を見に来たがまだ使えそうだ」ガサガサ


「良い場所ね…」


「女盗賊…帰って来たぞ」ヨッコラ セト



盗賊は女盗賊をベッドに横にさせた


彼女は静かに眠って居る



「彼女をどうするの?」


「教会の外で野ざらしには出来ねぇからしばらくここに居させてやるんだよ」


「埋葬しないんだ」


「落ち着いたら海が見える一等地に埋葬してやるよ…娘と子供達もここで生活できるようにする」


「それは良い考えね」


「只な?ここで泥棒稼業は稼ぎが少ねぇんだ…金持ちが居ねぇ」


「商人にでも転職したら?」


「その言い方…女盗賊にそっくりだよ…まぁそういう生き方も有りっちゃ有りだ」


「さて…ちぃとその辺片づけて必要な物盗んでくる…お前は女盗賊と一緒にここに居てくれ」


「分かったわ…家の中は少し掃除しておく」


「安全な場所じゃぁ無ぇからレイスには注意してくれ…じゃ行ってくるな」ダダッ


「いってらっしゃい…」



---2人はこういう風に生活していたんだ---


---殺風景な小さなあばら家で---


---その当時の2人の関係が伺える---


---貧しい生活を2人で生きて来た---


---盗賊は稼ぎの無い泥棒---


---女盗賊は体を売って金を稼ぎ---


---2人は微妙な関係のまま過ごした---


---そんな生活の匂いがした---



情報屋はベッドで静かに眠る女盗賊へ語り掛ける



「ここに戻って来たかったのね…」


「家族と一緒にここで過ごしたかった…」


「それを彼が叶えようとして居る…」


「こんなに温かい気持ちになれるなんて…なんだか不思議」


「私も少しお手伝いさせて貰う…あなたの家族を少し支えてみようと思う」



静かに眠る女盗賊の顔は満たされた表情をしていた





『数時間後』


ガタゴト ガタゴト


あばら家まで続く坂道を盗賊は一人で馬車を引きながら戻って来た



「あら?お帰りなさい…随分沢山盗んできたのね?」


「おぅ…ちょいと馬車を引くの手伝ってくれ…クソおめぇ」


「押せば良い?」グイ



情報屋は馬車を後ろから押し手助けをする



「空き家が沢山あってな…資材はこれで困らん」


「これって馬車よね?馬で引いて来れば良かったのに」


「逃げたか死んだか…どこにも居なかったんだ」


「馬車は何処に置くの?」


「あばら家の横で良い…こいつも寝床になれるからな」


「あぁ…家族全員連れて来ては寝床が足りなくなるわね…」


「片づけは後にして一旦船に戻るぞ」


「戻る前に女盗賊に会って行って?」


「んぁ?何かあったのか?」


「部屋を片付けていたら多分彼女の昔の洋服が出て来てね…着替えさせてあげたの」


「おぉそりゃ良い!!着てた物が汚れっぱなしだったな…ふんっ!!」ヨッコラ セト



盗賊は最後の力を振り絞りあばら家の横に馬車を停車させた



「お疲れ様…一人で馬車引っ張るなんて大変だったでしょう?」


「まぁな…さてと…ちぃとアイツに会って来るわ」タッタッタ





『部屋』


散らかって居た部屋は情報屋が綺麗に片付け


眠る女盗賊も見違えるほど綺麗にされていた



「おぉ…綺麗になったじゃねぇか」


「……」…女盗賊は今にも目を覚ましそうだ


「顔色も良くなったな」


「白粉と口紅をちょっとね」


「ありがとな…俺にはこんな事出来ねぇ」


「その胸につけてるネックレスは?」


「こりゃ俺がこいつにやった虹のしずくって言うレアアイテムだ…幸せを呼ぶ物らしい」


「本当に幸せを呼ぶのね」


「ヌハハそうだと良い…だがこの着替えはちょっとなぁ…」


「あら?気に入らなかった?」


「まぁちっと曰く有りでよう…他の男からの貢ぎ物だったのよ」


「彼女はモテたのね」


「まぁ済んだ話だからもう良いか…」


「着替えさえる?」


「古い話だ…そのままで構わん…他に良い服も無いのだろう?」


「そうね…今着ているのが一番上等な服だったわ」


「さて…船に戻るぞ…鍵掛けるから先に出ろ」


「うん」


「じゃぁ子供達連れて来るまでちぃと待ってろ…すぐ賑やかになる…行ってくんな?」




まるでまだ生きているかの様に女盗賊に接する盗賊のその言葉の中に


情報屋は本当に彼女の心が息付いている事を感じた


この人は…人を幸せにする力を持っている


傍に居たいと感じた…





『キャラック船』


船からはあばら家が見えなかった


恐らく海の側からは町から少し離れているあばら家に目を向ける事も無いだろう


盗賊はそんな隠れた場所を家族が住まう場所に選んだ



「戻ったぞぉ!!」


「お帰り~~お土産は?」


「すげぇ土産がある」


「アレ?お姉ぇは?」


「まだ秘密だ」


「土産って何さ!!手ぶらじゃん」



娘達は盗賊の土産を楽しみにして居た様で4人集まり出した




「見てからの楽しみだ…ところでアサシンは帰ってるか?」


「船長室で地図眺めてる…それより土産早くヨコセよ!!」


「分かってる!!お前等!!船降りるぞ…身支度しろ」


「え!?マジマジマジ?」


「子供達も全員身支度させろ…10分でヤレ」



うおぉぉぉぉぉみなぎってキターーー


船の中で退屈していた娘達4人は船を降りられると聞き一気に動き出す


子供達を馬車に乗せ下船する準備をし始めた


ドタバタ ドタバタ





『船長室』


そこではアサシンと商人が地図を眺めながら今後の相談をしていた



「戻ったぜ…物資の買い付け済んだのか?」


「あぁ十分では無いが30日程度の食料は確保した…そっちは用事済んだのか?」


「まぁな…で…昔使ってたあばら家を子供達が住めるようにしてきた」


「ほう…船から降ろすのか?…良い案だ」


「馬車に荷物積んでこれから出て行く」


「…お前はどうするつもりだ?」


「商人にちょいと頼みたいことが合ってな…あばら家を魔方陣で安全に守ることが出来たなら一旦船に戻って来る」


「盛り塩で魔方陣を作るなら直ぐに風化してしまう…得策では無い」


「これだ…」ガチャリ


「それは?…ゾンビ退治用の銀の杭か?」


「そうだ…これを地面に打って魔方陣に出来るならあばら家は安全になる」


「なるほど試してみる価値ありだな」


「お前も来るか?」


「私は荷物の到着を待っている必要がある…お前達だけで行ってこい」


「そうか…みんなでバーベキューしたかったんだがな」


「肉はあるのか?」


「盗んできた食い物がある…荷物受け取ったらお前も来い」


「場所が分からんな」


「情報屋!!お前はあばら家の場所を覚えているな?後でアサシン連れて来い」


「分かったわ…おいしいごちそうも楽しみにしておくわ」


「じゃ…船に積んでる酒も持って行くぜ?もうこの船には必要無いだろうしな」


「もう魔方陣が上手く行く前提なのだな…」


「やってダメなら戻って来る…簡単だろ?」


「確かに…」


「おっし!ほんじゃ商人!!仕事だ…来い」




『馬車』


娘達4人は既に子供達を馬車に詰め込み準備万端だった


持って行く物は着替えの少しと隠し持っている宝石だけだったからだ



「よっし全員乗ったな!?」


「いえ~~~い!!」


「ワイワイ…キャッキャ」


「これからお前たちの新しい家に行く!!その名はユートピア」


「ゆーとぴあああああ!!」



娘達のテンションはアゲアゲだ



「出発!!」パシン ヒヒ~ン



盗賊は馬の尻にムチを打ち馬車を走らせた



「ハハハ良いのかい?こんなに期待させて…」


「お前の魔方陣次第だ…失敗はゆるさん」


「ハードル上げないでおくれよ」


「塩の代わりに銀の杭…俺にしちゃナイスアイデアだろぅ?」


「まぁ退魔作用のある物なら何でも良いみたいだから…多分上手く行くね」


「どんだけ大きく作れるもんなんだ?」


「正確に測量出来れば大きさに制限は無いらしい…杭の数と質量次第かな」


「測量か…糸は10メートルくらいしか持ってないな」


「20メートル四方で作れば良いかな…十分でしょ」


「この銀の杭で数は足りるか?」


「…今計算してる…もっと入手出来るの?」


「出来るっちゃ出来るが…あまり盗んで足が付くのもイカン」


「ハハハ…全部盗んで来たんだ?」


「俺ぁドロボーだ…それしか能が無ぇ」


「今はね…物価がものすごく上がっているんだ…今盗んだ物はとても貴重だと思うよ」


「こんな杭でもか?」


「この杭も武器になるよね?そのうち必ず価値が上がる」


「なら盗むなら今の内か…盗ろうと思えばまだ盗れるのよ」


「まぁほどほどに?」


「てか結構空き家が多くてな…確かに盗むなら今の内だな…」


「略奪はゲスのやる事だったんじゃ?」


「略奪じゃ無ぇ…有効活用だ」


「ふむ…それなら書物も有った方が良いかな…子供達に読ませないと」


「おぉ!!そんな物も活用できるか…後で盗んで来るわ」


「捕まらないようにね?」



泥棒家族の何気ない会話だ


そんな会話を聞きながら子供達は成長していく


盗賊もそんな風に育った孤児だった


今度は娘達4人が母親役になる


彼女達もそうやって又大人になって行く




『あばら家』


到着して早々に盗賊と商人は退魔の魔方陣を設置し始めた



もうちょっと右…そうソコ!!


次で最後…向こうの木の根元あたり


この辺か?


糸をちゃんと引っ張って…そうそうそう


あと2歩右…ソコソコソコ



「これで井戸も範囲に入ってるか?」


「多分イケてる」


「結構広いな…しかし…効果が出ているのか分からん」


「上を見て」


「お?…空か?ここだけ光が届くのか?」


「驚いたね…退魔の魔方陣は工夫すれば闇を祓えるという事だ…どういう理屈なんだろう」


「なんだか分からんが最高のユートピアになったじゃねぇか」


「僕は余ってる杭を使ってもう少し範囲を広げておくよ」


「足りんくなったら又盗んで来るから言ってくれ」


「うん…」


「おーい!!子供達!!馬車から出て来て良いぞーー!!」


「わーい!!」ゾロゾロ



娘達4人と子供達は一斉に馬車を飛び出した



「うぉぉぉぉーーー」ドタバタ


「向こうの馬車に家財道具が入ってる!!好きな物出して好きな所に置けぇ!!」


「みんなあんまり遠くには行かないで!!」



新しい家が嬉しかったのか子供達ははしゃぎまわって居た


あばら家は狭かったが娘達4人と子供達が寝る分にはなんとか収まる


新しい生活が始まったのだ




『庭』


家財道具を一通りあばら家に運び入れひと段落したところで商人はバーベキューを始める


ベッドで横たわる女盗賊を囲みながら子供達は満足げに肉を食べていた


ジュージュー



「やっぱりバーベキューは最高だね」パク モグ


「もうちっと旨い肉だと良かったんだがな」ガブガブ


「お姉ぇにも持って行くね」


「そうしてやってくれぇ」



家族揃って庭でバーベキュー


女盗賊はそういう雰囲気が大好きで酒瓶を持ち回る女性だった


今はその役を娘達がこなしている



「ほれジジイ!!酒!!」


「おう!気が利くな!?」


「本当ココ良い場所だね?海も見えるし…良い風も吹く」


「女盗賊のお気に入りの場所だったんだ…こっから海眺めて向こう側に行きたいとか言ってたのよ」


「どうして此処を離れたの?」


「ここは俺が金を稼げなくてな…アイツが体売って金稼ぐ感じになっちまってよ」


「あぁ…そうだったのか」


「まぁ本人もそういうのは嫌いじゃ無かった様なんだがどうも俺は自分が稼げないのが嫌でな」


「なんか僕も責任感じるなぁ…」


「んん?」


「母さんが体売ったお金で僕達を養って居た事がさ…」


「まぁ済んだ話だからもう考えんな」


「うん…」


「アイツはな?子供産めない体だったのよ…だからお前等の事が可愛くて仕方なかったんだ」


「なんか分かるよ…盗賊と距離置いてたのもソレが原因だよね」


「この話はもう終わりだ!折角の美味い酒が台無しになっちまう」


「そうだね…でも一つ教えてあげる」


「んん?」


「母さんはね…どんな時も盗賊をアテにしてたよ…きっとあの人なら大丈夫ってさ」


「そんなん分かってる…俺がハッキリ立場表明しなかっただけだ」


「そっか…大人の付き合いだね」


「俺はアイツに比べりゃ子供だったけどな?」


「さて今日は飲もうか!!」


「だな?」グビグビ



盗賊は気を紛らわせたいのか酒瓶を一気に飲み干した



「アサシン達遅いね」


「噂をしてればその内来るんじゃねぇか?」


「そういえば情報屋の事なんだけどさ」


「なんだ?」


「情報屋になったいきさつ…どうやら本気でホムンクルスを探しているらしいんだよ」


「あの話は冗談では無いってか?」


「聞いた話の受け売りなんだけど…ちょっと気になってね」


「なんで又お人形さんなんか欲しいんだ?」


「魂の器になってるとか…」


「ほう…てことは女盗賊の魂を入れれば動き出すって算段か?…それなら俺も関わらせろ」


「それが出来るかどうか分からないけど…彼女が言うには精霊の魂を入れる器になるらしい」


「…なるほどアサシンがあのネーちゃんを連れまわしてる理由がそれだな?」


「多分ね」


「でもそれじゃぁ情報屋がお人形さんを欲しがる理由の説明になって無ぇぞ」


「彼女の本当の職業は考古学者なんだよ」


「おう!そりゃ聞いてるぜ?お前等と話が合うのもソレが理由だろ?」


「精霊起源説が専門なんだってさ…彼女はすごい詳しいよ」


「俺にゃあんまり興味のない話だな」


「あ!!噂をしてれば何とやら…」



情報屋がアサシンを連れてあばら家に訪れた



「…これはどういう事だ?なぜ光が差す?」


「あら!!すごく良くなったじゃない」


「僕もビックリだよ…さぁさぁ2人ともそこに掛けて一緒に食べよう」


「じゃぁお言葉に甘えて…ウフフ」モグ


「…分かったぞ…これは魔女の塔と同じ環境だ」


「へぇ~~そうなんだ…僕も行ってみたいな」


「食事が終わったら気球で向かう」


「おいおい…今日くらいゆっくりして行けば良いじゃねぇか」


「そういう訳にも行かないのだ…港町の状況から推測してシャ・バクダの状況はもっと悪いと推測している」


「僕もそう思うよ…最悪全滅してる」


「シャ・バクダには銀も魔法も無い…戦う手段が無いうえに自給できる食料も乏しい」


「水も無いね」


「物流が商隊に依存しているのが致命的だ…逃げ場が何処にもないのだ」


「ちぃぃ…今から酒飲もうと思ってたのによ」


「酒なら気球の中でも飲めるでは無いか」


「この小さな家では子供たちが寝たら私達が横になる場所なんか無さそう…」


「だから馬車を用意したんだが…しゃーねぇ行くか」


「魔方陣が上手く行って此処は安全そうだから娘たちに任せてしまって良さそうだね」


「おい!娘ぇ!!今日からお前が女盗賊の代わりをヤレ…みんなの母さん役だ…出来るな?」


「またどっか行くの?」


「大丈夫だ…用が済んだらすぐ帰って来る」


「誰か来たらどうすんのさ?」


「お前が判断しろ…このミスリルダガーを渡しておく…何かあったらコレで子供たちを守れ」ポイ


「魔物と私が戦うの?マジで言ってる?」


「大丈夫だ…女盗賊はそうやってお前たちを守って来たんだ…今度はお前の番だ」


「何かあっても家の中に逃げれば魔物は追って来ないよ」


「食い物は納屋の中に入れてある…上手い事節約して食え」


「…分かったよ…お姉はどうするの?あのままベッドで寝かせておくの?」


「直ぐに帰って来る!それまで誰にも触らせるな」


「まぁ良いか…その方が子供達にも良さそうだし」


「それから俺の持ち金を預けておく…少しづつ使うんだぞ?いいな?」


「ちょ…帰って来ない気マンマンじゃん!」


「俺がアイツを放置したままにしておくと思うか?」


「……」


「用が済んだら必ず戻る…此処は俺が帰って来る場所だ」


「分かった…お姉ぇにいろいろ教えてもらったからなんとかなるさ」


「おっと!ちょい待て…知らん男を家に連れ込むのだけはヤメロ…俺が帰れなくなる」


「ちょ…そんな訳無いじゃん」


「アイツとはそれが原因で揉めたんだ…もうやめてくれ」


「お姉ぇは仕事なんだからしょうがなかったんじゃないの!?」


「ああああもう良い!兎に角だ…子供達はしっかり守れ…いいな?」


「分かってるってうっせーな」


「ウフフ家族って良いわね…うらやましい」


「じゃ食ったら行くぞ!!」ガブガブ




商人は今の会話で盗賊がこの場所を後にした理由を察した


女盗賊が違う男をあばら家に連れ込み体を売って居た事を止めさせたかったんだ


盗賊にとってもこのあばら家は特別な場所だった筈


2人が何年も生活した思い出のある場所に違った形で帰って来た…切なさが込み上げて来る

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