第15話 落ちる空

『セントラル外れ』


剣士達が乗る気球が来る数時間前の事…


セントラル沖では多数の軍船がその大砲を陸の方へ向け一斉射撃を行って居た


砲弾は下水から次々と出て来るラットマンや陸に上がったクラーケンに向けられ殲滅して行く


しかし実際は貧民街も含めた艦砲射撃による対象区域の面制圧だったのだ


その目的は貴族達にとって邪魔な存在となって居る白狼の盗賊団の潜伏先を一掃する事…その他にも


セントラルの治安を悪化させるならず者の温床を無くす事…そして再開発をする為の更地化…


政治的な理由がいくつも重なり魔物を倒すという大義名分の下砲弾による面制圧が強行されたのだ


そんな政治的な理由は衛兵達に知らされる筈もない


現場に居る衛兵達は必死に魔物を倒し…まだ生きている人を見つけては救助をしていた




「こっちだ!!まだ居たぞ」


「こいつで最後か?」


「分からん…こいつは俺がやる!!お前は後方に戻って衛生兵の支援を要請してくれ」


「まだ瓦礫の下に人が…」


「ギャーース」ダダダ



ラットマンは知能が低く生きている限り命有る者を食らおうと襲い掛かって来る



「こっちだ!!ごるぁ!!」グサ


「この!!このっ!!このーーー!!」グサ グサ グサ


「グググググ…」ドタリ



完全に動かなくなるまでラットマンは切り刻まれる


這いずり回って余計な被害が出てしまうからだ



「よし…やったな?瓦礫に埋もれている人を!!」


「こっちは俺に任せろ!!早く応援の要請を…火災が回ると助けられなくなる」


「わ、わかった…待ってろ」


「誰かぁぁぁ!!動ける者は居ないかぁぁぁ!!…そこの少年!!何をしている?動けないのか?」


「ハァハァ…」



1人瓦礫を運び続けている少年は…心臓に病気を抱えた少年だった



「…ここにも埋もれている人が居るのか?」


「母さんを…助けないとハァハァ」


「くそぅ!!船団の奴ら所構わず大砲ぶっぱなしやがって…」


「母さん!!母さん!!」


「あうう…他の子ども達は無事?」


「先に避難したよ」


「そう…良かった…あなたも避難なさい?」


「意識があるんだな?よし…もうじき衛生兵が来るからそれまで辛抱してくれ」


「母さん…体の方は無事?」


「瓦礫が重たくて動かせないの…息をするのがやっと」


「む!!誰か居る!!おーいそこの人ぉぉ!!」



通り掛かったのは瓦礫を漁るゴロツキ共だ



「ちぃ…こんな時に略奪に回ってる輩だな…あいつらはアテに出来ん」


「海の方から衛兵達がこっちに向かってきてる…母さん!!助かるよ」


「おぉぉ応援が来たか…少年!君はまだ動けるな?あっちの衛兵に合図を送ってくれ」


「おーーい!!こっちー」


「今から瓦礫をどかすから体に障る様だったら声を出してくれ…ふん!!」



衛兵達は数人で協力して瓦礫を動かしその女性を救い出した


後から到着した衛生兵に応急処置をしてもらい一命を取り留める


しかしその後もラットマンやリザードマンの数が増えて行き町は混乱状態に陥ってしまった


少年は混乱の中荷車にその女性を乗せ中央で避難する人込みの中へ消えて行った





『キャラック船』


時を同じくして盗賊とアサシンが乗るキャラック船がセントラル沖に戻って来ていた


まだ夜明け前で灯台の明かりを頼りにしながら航海していたが


浅い海域に居る筈のないクラーケンが船の下をしきりに動いて居るのは既に気付いて居り


セントラルで何か起きようとして居るのは感じていた



ドーン ドーン ドーン ドーン



「また大砲ぶっ放してんな…軍船は何隻入ってんだ?」


「光の具合からして10隻以上は来て居そうだな」


「こんなんじゃ入船出来んぞ…どうするアサシン」


「何か起ころうとしている…手を拱いて見ている訳にいくまい」


「ドンパチやってる中を突っ切ろうってのか?」


「他に何か良い考えはあるか?」


「東に半日ほど行った先に小さな漁村がある…そこに停船させてだな…」


「それでは遅い…事は今起ころうとしているのだ」


「くぁぁぁ死にに行くようなもんだぜ…ったく…クラーケンもうじゃうじゃ居るんだぜ?」


「クラーケンは理由無しに船を襲う事は無いのだ」


「俺らを襲う理由が無いってか?ミスリル武器たんまり積んでんだろ…その割に戦えるのは俺ら2人だけだ」


「ミスリル武器がダメならとっくの昔に襲われていておかしくない」


「…そういやそうだな」


「むしろ守られていると考えて良いかもしれんぞ」


「マジかよ…」


「さて…あの動乱…魔王復活の前兆と見て良いと思うが…お前はどう思う?」


「お前のおとぎ話にゃ付き合ってらんねぇよ」


「今ミスリルの武器を持って私たちがそこに行こうとしている…役者が揃ってきているとは思わんか?」


「役者?」


「そうだ」


「誰の事だよ…ミスリル武器なんか誰でも使えるだろ…まさかお前が勇者にでもなる気か?」


「可能性はある」


「またまた…どーーーーもお前の話にゃ決定打が無い…」


「もしも魔王が復活してしまうというのであれば勇者もまたどこかに居る筈だ」


「本当…お前は頭が逝っちゃってるよ…女盗賊の言った通りだわ…」


「まぁ馬鹿にするな…直に誰が勇者なのか分かる」


「勇者?…まてよ…俺は夢で勇者に会ったことがあるな…」


「お前も夢を見るのか?」


「でかい大剣を背中に…誰だ?」


「なっ!!なぜそれを知っている!!」


「うぉ!!なんだよいきなり」


「シャ・バクダの遺跡に残されていたのは大剣を携えた戦士像…それがかつての勇者だと魔女に教わった」


「俺が言ってるのは俺が見た只の夢だ…偶然だろ」


「私も同じ夢を見ているのだ…偶然にしてはおかしくないか?やはり私たちは皆夢幻を見ている」


「夢幻が何だってんだ」


「夢幻は精霊が見ている夢だったとする…では何故みんな同じ夢を見る?」


「何言ってるかさっぱりわかんねぇよ」


「精霊は夢を見せて私たちに何か伝えようとしているのではないか?」


「あぁぁあ始まった…その話は後で良い!桟橋まで直進するぞ…良いんだな?」


「あぁ…頼む」




『桟橋』


船は軍船に静止される訳でもなくすんなりと桟橋に付ける事が出来た


それどころか軍船のいくつかはクラーケンに襲われた様で転覆し掛かって居る船もある


海岸の方では軍船から出て来たであろう小舟がいくつも乗り捨てられ


兵隊が上陸して戦って居る事も想像出来た


ガコン! ギシギシ



「よっし接弦!!碇降ろせえぇぇぇ!!」


「えっさほいさ」


「野郎共!!武器持って下船しろ!!許可取ってる場合じゃねぇからそのまま中央まで走れ!!」


「あいさー」


「アサシン!!衛兵が来るぞ…どうする?」


「この惨事の中私達をどうするという事もあるまい」


「…だな…にしてもどうなってんだこりゃ…陸でのたうち回ってんのはクラーケンか?」


「魔物の襲撃が市内まで及んでいる様だ…ラットマンとリザードマン…」


「おい!上を見ろ…ドラゴンまで来てんぞ」


「全体の状況が見えないな…私達も一旦中央まで行こう」


「俺達の店が心配だぜ…火の手が上がってるじゃねぇか」


「これを持って行け」ポイ


「ミスリル武器の試し切りか」パス


「無くすなよ?」


「おい!衛兵が来たぞ」



混乱の最中入船してきたキャラック船が何なのか衛兵は当然確認に来る


至極当たり前の事だが今は事情が違う



「おい!!お前等!!武器を持っているな?」


「この状況で武器の所持は許可願いたい」


「今は人手が足りん!!戦える者は魔物退治の要請をする」


「何に攻め入られてるんだ?」


「外郭の一部からリザードマンとゴブリンが入ってきているのだ…そちらに行ってもらえると助かる」


「内郭はどうなっている?」


「市民がそこに避難している。内郭壁の上には弓部隊が展開していてまだ無事だ」


「あんたペラペラそんな事しゃべって良いのか?」


「もうそんな事を言ってる状況ではない…はやく応援に行ってくれぇ」


「よし!行こう!このまま貧民街を突っ切って一旦中央に出る」


「おい!ついでに店の前を通って行こう」


「そのつもりだ…行くぞ」





『貧民街』


そこに到着した時には既に夜が明け明るくなっていた


砲弾の直撃を受け貧民街の建屋がほぼ全壊しているのが良く分かった




「こりゃ芳しくねぇな…瓦礫の山じゃねぇか」


「位置的に軍船がクラーケンに撃った砲弾がここに着弾した?…ううむ何か変だ」


「クラーケンが此処を通ったんじゃ無えのか?誤爆で飛んで来た砲弾じゃこんな風にならんぞ」


「確かに…民の避難は済んでるみたいだな」


「ラットマンの屍が多い…下水から出てきたか」


「…となると下水は使えないと見るか」


「どうする?」


「高い所で全体が見たい」


「貴族居住区だな?」


「いつもの屋根伝いルートで行こう」


「ちぃ…隠密用の道具を置いて来ちまった」


「何に使うつもりだ?」


「どうせ最後の行先は法王庁だろうよ…貴族居住区から行くとなると壁を登る必要がある」


「私を誰だと思っているのだ?」


「ヌハハ…そうだな正面から行くか」


「まずは状況把握だ…その後に行きたい先の兵士に成り変われば何処へでも行ける」


「強行突破か…こりゃ覚悟決めんとな」




『中央広場』


堅牢な建屋のある内郭の方へ避難出来ない者は中央の広場へ集まり


そこにある建屋からはみ出すように人でごった返していた


ここでもゾンビ等の魔物が暴れた形跡が有り安全だとは言い切れない



ガヤガヤ ガヤガヤ


出兵してた兵隊さん戻ってきたみたい


これで魔物も引き返すと良い


外がどうなってるか誰か知らねぇか?


外郭に大砲運ばれてるよ



避難してきている者は口々に噂を伝える



「いつにもまして人がごった返してんな」


「どうやら外郭側に軍隊が戻って来ている様だ…何が有ったと言うか…」


「俺らは向こうの大陸行っちまってたから何も分からんな?」


「なんでこれほど魔物に攻め立てられてんのよ?」


「恐らく第一皇子の派兵が失敗したのだろう…逆に攻められるきっかけを与えてしまったと見る」


「盗賊ギルドの方で情報貰えないのか?」


「そうしたい所だが…私が顔を出すといろいろマズイ事も有るのだ」


「政治絡みか?」


「そうだ…伝令を使って指示を出した方が収まりが良い」


「俺が伝令役行って来るか?」


「お前も顔を出すのはマズイ…特に女狐のお銀とは顔を合わせるな」


「あいつか…どうも俺の事根に持ってんな?」


「お前と私の妹が組んで居るのが気に入らんのだ…貴族経由で圧力を掛けられてしまうぞ?」


「あいつのやりそうなこった…クソガキが!」


「さて…屋根に上がるぞ?」


「おう!!いつも通りな?」





『屋根の上』


魔物を避けて屋根の上に登って居る者も少なくは無い


衛兵に注意されない現状身軽な者達は好んで屋根に逃れていた



「こりゃ俺ら目立たんで良いわ」


「一応フードは深く被って居ろ…盗賊ギルドの者が目を光らせて居そうだ」


「そうだな?…てか武器持ってんなら戦えって話なんだが…」


「戦うより身内を逃すのが優先だろう…お前だってそう動く筈」


「まぁそうだな…」


「じゃぁ俺らと同じく状況見てる訳か…」


「多分そうだ」



ガチャン!!



「どわっ!!危無ぇ!!」


「ベアトラップが仕掛けて有るのか…これは自由に移動出来んな」


「こんなもん設置してある場所さえ分かれば逆に利用出来るんだ…逃げやすくなる」


「私達の逃走経路に仕掛けてある訳だな?」


「ヌハハ毎回同じ経路使う訳無いわな…まぁちっとトラップ探しながら行くか」


「うむ…怪我をするなよ?」


「こんなもん踏む訳無いだろう…草で隠れている訳でもあるめえし…設置が見え見えなんだよ」


「おい待て!!」


「んん?」


「アレを見ろ」



アサシンが指を指したのは城門の方角だった



「城のゲートブリッジが開いている?…アレの事か?」


「いや…その上だ」


「んんん?誰か居るな…弓を撃ってんのか?」


「あそこで何か起こっている」


「あんなところまで魔物が行くとは思えんが」


「外郭側でもなにか起こりそうだ」



ドーーーーーン ドーーーーーン



「うほーー大砲かよ!」


「外でも何か始まった…急ぐぞ」


「どっちに?」


「城に決まっている…来い」ダダッ





『貴族居住区』


中央の方からは城が見えていたがこの貴族居住区は城に近い為死角が多い


城門にあたるゲートブリッジに近くはなったがその上に居る者達を見通せる角度では無かった



「ちぃぃ城の様子が此処からでは見えん…何が起こって居るのか…」


「おい!!やべぇ!!ドラゴンが降下してきてんぞ」


「なにぃ!?」


「真上だ…ありゃ8匹同時に来んぞ」


「衛兵は気付いて居ないな…外郭攻めは囮だ…城の中核をドラゴンで一点攻めするつもりだ」


「城の裏手も様子がおかしいぜ?見ろ…なんだありゃ」


「あちらには陸に上がったクラーケンが居たな…まさかクラーケンも城を目指しているのか?」



バコーーン!!



「うぉ!!触手が塔をへし折りやがった…こりゃマジもんでヤバいぞ」


「ドラゴンが速い…」


「来る!!!伏せろ!!!」



ギャオーーーース! 


ゴゥ ボボボボボボボボ



「うぉ!!ブレス吐きやがった」


「…8匹のドラゴンが背にエルフを…アレは噂に聞くドラゴンライダーだ」



8匹のドラゴンは次々と降下しながらブレスを吐き城壁を焼く


そこに待機していた兵隊達を焼いて居るのだ


四方八方から降り注ぐ激しい炎に兵隊達は成す術もない



「あ…圧倒的じゃねぇか…城の駐留兵が一瞬でやられていく」


「こ、これは…滅ぶ」



アサシンはその光景を目の当たりにして呆然としていた


あまりに一瞬にして人間の軍隊を無効化しているのだから…



「おい!何ボケっとしてんだ!!又来るぞ」グイ



盗賊に腕を掴まれてもアサシンはその光景から目を離せないで立ちすくむ



「伏せろ!!」グイ


「空が…」



ギャオーーーース! バッサ バッサ


ドラゴンがその直ぐ横を横切った


背に乗るハイエルフが弓矢をつがえながら狙いを定める


アサシンはそのハイエルフと目が合っても尚動けないで立ちすくむ


ハイエルフは矢を放つことなくドラゴンと共に再び上空へ舞い上がる


それは一瞬の出来事で…


一人の人間とドラゴンライダーの圧倒的な力の差を感じ


アサシンは只それに見入り足が動か無くなった



「うぁっ!!あぶねぇ!!」


「……」


「突っ立ってねぇでこっちに来い」


「ドラゴンライダーと目が合った…」


「だから何だってんだ!!上に行くんだろ?行くぞ!!」



その時青く広がって居た空に異常な現象が起きた


まるで青い空が落ちて来るかのように一気に空が黒く暗転する…



「な、なんだ?空が落ちる?だと?」


「…これは古文書にある100日の闇」


「なんだぁぁぁぁ!?いきなり夜だとぉぉぉ」


「間に合わなかった…」ガクリ



アサシンはその場で膝を落とす…


盗賊は一瞬にして闇に覆われた世界に驚き慌てる


だが盗賊はこんな時にでも生き残るために逃げ道を探す様な強さを持って居る



「おい!行くんだろ?ドラゴンが城に取り付いた…現場を見なきゃ戻れん」


「あ…あぁ…すまない」


「こりゃ変装してる暇なんか無さそうだな」


「……」スラーン チャキ



アサシンはミスリルの武器を抜き戦闘態勢になった



「どうした?」


「悪霊が来る」


「レイスってやつか?」スラリ チャキ



盗賊もアサシンに習ってミスリルダガーを抜いた



「100日の闇が…」アサシンは小さく呟き覇気が無い


「おい!!しっかりしてくれぇお前はギルマスだろうが…行って良いんだな?」


「悪い…古文書の通りだったから動転した」


「これが魔王復活なのか?」


「いや…ここは狭間の深い所だ…黄泉と繋がっている」


「三途の川の手前って事だな?」


「黄泉の一番奥に深淵があるらしい…魔王はそこに居る」


「ほう…そっから這い出て来る前にぶっ倒せば良い訳だな?」


「まぁ…そうなる」


「ほんじゃ行くぞ!お前が勇者になるんだろ?」


「ドラゴンライダーを目の当たりにして自分の小ささを思い知った」


「はぁ?どうしたんだよ大ぼら吹きのお前が言うセリフじゃねぇな」


「正直…力の差がありすぎて絶望している」


「今頃気付いたんか?おれぁ始めから絶望してんだよ!もう乗っちまった船だ諦めろ」


「…取り乱した…行くぞ」


「それで良い…ここまで来たんだ…行く所まで行って真相を確かめる…だろ?」


「あぁ…すまんな…急ごう」




『ゲートブリッジ』


城へ続く城門の関所だ…既に橋は降ろされ門を潜れる状態だ


ここを守って居る筈の兵隊はドラゴンのブレスを食らい全滅状態だった


まだ生きている兵隊は倒れている者を引きずり城壁の陰に隠れようとして居る



ゴーン ゴーン ドカーン!!



「戦闘音がヤバイな…ドラゴンに乗ってるエルフの中に魔法使う奴も混ざってんぞ?」


「空からの急襲で弓兵が全滅…もう手も足も出んな」


「外郭に居る軍隊が戻って来りゃもうちっと戦える気はするがな?」


「しかし恐ろしい火力だ…」


「このまま走って抜けられそうだ…あそこの倒れてる兵隊の装備かっぱらって行くか?」


「うむ…自由に動くならその方が良い…」


「もたもたしてっと下から兵隊上がってくんぞ」


「そうだな?兵隊の兜だけは忘れずに被って行くのだ」


「わーってる!!」



2人は倒れている兵隊の装備を身に付け兵隊に成りすました



「おっし行くか!」


「急ごう」


「はぐれたら船に戻るで良いな?」


「それで良い…状況からしてミスリル武器を配らなければセントラルは全滅する」


「レイスか…」


「セントラルの兵隊がレイスを対処出来るとは思えん」


「いや…そうとも言い切れんぞ?中にはエルフ狩りの専門をやって居た奴も居る筈だ」


「狭間での戦い方もある程度知っている者が居ると?…」


「そういうこった…侮れない奴も中には居る訳だ」


「今の状況が狭間の奥だと知っている者…エルフ…待てよ?」


「どうした?」


「エルフはレイスを対処する術を持っていない…つまりもう直ぐこの戦闘は終わる」


「銀の矢くらい持ってんだろ…ってマテ…レイスはエルフの敵か?魔物側じゃねぇのか?」


「レイスは命有る者の敵という位置…死霊だ…魂を刈り取る」


「って事は個体数の少ないエルフは引いた方が良いな」


「そういう事になる…そしてドラゴンはさらに少ない」


「あのドラゴンがレイスごときにやられるとは思えんが」


「違う…魂を奪われる…生きたまま死ぬのだ」


「生きたまま死ぬ…もしかしてお前が言う精霊はそうやって夢幻とやらに行ったのか?」


「分からんがそういう考え方も有りかもしれん」


「こりゃ生きたまま死ぬ奴がどんだけ出ちまうか…」


「どうにか出来るか分からんが急ぐぞ」


「だな?」




『園庭』


ドラゴンの急襲によって駐留の兵隊達は大打撃を受けていた


ブレスを避けるため一時的に兵舎などの建屋に入り立て直しを図って居る


そのお陰で城の目の前にある園庭まで兵隊に止められる事も無く辿り着いた



「見ろ…やはり法王庁の礼拝堂にドラゴンが集まっている」


「あんなところに突撃しろってのか?」


「無理だな…しかしドラゴンに乗っていたエルフが見当たらん」


「どうせ中に入って行ってるんだろ?」


「ドラゴンが1匹足りん…城の方か?」



その時城の方でドラゴンがブレスを吐く音がした


ゴゥ ボボボボボボボ



「やっぱ1匹城に行ってんな…暴れ出したぞ?どうする?」


「法王庁は後にして先に城へ回ろう」


「妥当だ!!行くぞ!!」



2人は7匹もドラゴンが集まって居る法王庁へ突撃する気にはさすがにならなかった


少しでも事情を把握する為手薄であろう城を目指す



「おい!!あんな所に黒い戦車置いてあるぞ…なんで使わねぇんだよアホ兵隊共が!」


「待て…足枷の付いたダークエルフが這って…なんでこんな所にダークエルフが居るんだ?」


「どうする?助けるのか?」


「これはダークエルフの救出劇なのか?…いや…そんな…まさか」


「足枷って事は捕虜だな…あ!!まずいレイスが行った」


「今は下手に接触しない方が良い…迂回して城の方へ向かう」


「おいおい…ダークエルフが暴れ始めたぞ?」


「構うな!!」


「うぉ!!レイスの野郎鎌で魂を引っこ抜きやがった…あれが魂の形か」


「見とれている場合では無い!行くぞ…城の方に人の気配がある」



シュン シュン シュン シュン


城に取り付いて居るドラゴンを追い払うかのように矢が放たれ始めた



「おぉ!!やっぱ城の方じゃ兵隊が抵抗してっぞ」


「あちらは精鋭の中の精鋭だ…どうにかして城を守って居るのだ」


「しかし…倒れてる兵隊は死んでるのか魂抜かれたのか見分け付かんな」


「後ろ!!」



シュン シュン シュン シュン


2人の後方からもドラゴンに向けて矢が放たれる



「いつの間に…下から上がってきた兵隊達だな…こりゃ混戦になる」


「ギャーーース」



ゴゥ ボボボボボボ


ドラゴンは炎を撒き散らしながら宙を舞う



「ブレーーース!!散開!!散開!!」



ようやく兵隊達がまとまり始めドラゴンに反撃の矢を降らし始めた


戦闘慣れをしている兵隊はドラゴンのブレスを避ける為に散開し


盾を構える者…弓を撃つ者…それぞれの役割をこなして行き徐々に陣形を作り始めて行った





『王城前』


そこでは近衛兵と思われる者がレイスと対峙していた


その近衛兵は恐らく精鋭中の精鋭でレイスが振り回す鎌を巧みに避けながら戦っている


しかし近衛兵の攻撃は虚しく空を切る


そこに助太刀に入る様に盗賊がレイスを切りつけた



「ンギャーーーーー」



レイスはミスリルダガーに切りつけられ散り散りになって消えて行く



「そんな武器じゃこいつは倒せんぜ?」


「助かる!!」


「ここはどうなってる?」


「お前達は誰だ?なぜ簡単にこの魔物を倒せる?」


「先に質問してるのは俺だ!どうなってんだ?」


「援軍が来たのだな?国王がダークエルフの裏切りによって崩御された…第一皇子に至急戻られよと伝令を頼みたい」


「武器庫に銀製の武器は無いのか?」


「その武器は銀製だというのだな…情報感謝する」


「ドラゴンは何をしに此処へ?」


「国王の亡骸を確認して何処かへ去った…外で何が起こっているのかこちらが聞きたい」


「俺達も混乱の真っただ中な訳よ…同じだ」


「我々は王女以下王室を守るため此処を離れる訳に行かない…伝令と援軍の要請を頼む」


「分かったよ…最後に…あとどれくらい戦力残っている?」


「精鋭が200名ほど」


「全員に銀製の武器を持たせると良い」


「わかった」


「そうだ第二皇子はどうした?」


「法王様の下でお隠れだと思われる…こちらへは来ていない」


「ふむ…盗賊!!ここには用が無い様だ…戻ろう」


「お前達!所属は?」


「アサシン…どうする?」


「フフこの状況で所属なぞ意味の無い話だ」


「だな?俺ら無所属なのよ」


「賊なのか?」


「まぁ…白狼が来た…それで良いだろ」


「何ぃ!!」


「じゃぁな?どっかで会ったら酒でも飲もうぜ!?」


「行くぞ!!」



持ち場を離れられないその近衛兵は2人の背中を見送った


酒でも飲もうぜ…その一言に白狼達の人柄が見えて妙にスッキリした…悪人では無いと…





『法王庁の礼拝堂』


そこでは既に兵隊達がドラゴンを弓で追い払った後で


安心したのも束の間…足元から湧いて来るレイスに苦戦していた



「ンギャアアーーー」


「こいつ!!どうやって倒すんだ?」



レイスには物理攻撃のすべてが効かない…それを知らない兵隊達は無力だった



「ダメだ無理だ…逃げろぉ!!」



逃げ惑う兵隊達を尻目に盗賊とアサシンの2人はレイスを鮮やかに倒して行く



「ンギャアアアーーー」シュゥゥゥゥ


「レイスに苦戦している様だな…ふぅ」


「た…助かった…」


「銀製の武器を持て!!銀で倒せる!!」


「そうだったのか…」


「ドラゴンは何処行ったんだ?」


「上で旋回している」


「こちらを見ているな?奴らは何を探しているというのだ」


「礼拝堂の中はどうなってる?」


「一部隊強引に突入して行ったが代わりに中からエルフが出てきてそのままドラゴンに乗って飛び去った」


「全滅か?」


「内部の状況はよく分からん…部隊長も中に押入って…俺達は突入指示が無いと入れない」


「指示待ちの状況か…とにかく銀製の武器を集めてレイスの討伐に専念しろ」


「お前たちは近衛か?」


「そうだ!!国王陛下崩御されたし!外に出ている第一皇子は至急帰還せよ…伝令してこい!」



アサシンはあっさりと嘘を言う



「国王陛下崩御…そんな事に…」


「軍隊も一旦戻した方が良いが…そこは皇子が判断すべき所」


「外からでもドラゴン襲撃は見えてんだろ」


「見えていても軍隊では指示待ちが起きてそれほど早くは動けん…さて」


「俺らも突入すっか?」


「エルフが退散した今なら入れそうだな」


「行くぜ?」




『礼拝堂内部』


激しい戦闘が有ったのか焼け焦げた異臭が漂って居た…硫黄と硝煙の匂いが鼻を突く…


中に突入した兵隊は全員壁に張り付けの状態で身動きが取れないで居た



「ぅぅぅ…」


「おい!生きているか」パン パン


「急所は外れているが止血しないとマズイ」


「えらくでかい矢だな…これじゃ槍と変わらん」


「ハイエルフが使う矢だ」


「全員このクソでかい矢で壁に張り付けか…おい!!生きてっか?」


「外の兵隊に応援を呼んでもらってくれ」


「わかった…ちょい待ってろ」タッタッタ



盗賊が応援を呼びに行ってる間にアサシンはその状況を調べる



---弓でこれほど爆発跡が残るか?おかしいな---


---ドラゴンが入った形跡は無い…魔法の跡だろうか---


---む…礼拝堂の下にはもう一つフロアがありそうだ---


---どうも…魔王が復活した雰囲気は無い---


---裏の方にも出入口があるのか…開きっぱなしだな---



「戻ったぞ…衛生兵がもう少しで来るそうだ」


「その兵隊の矢はまだ抜かん方がよかろう」


「だな?悪いがもうちょい待ってくれな?」


「ぅぅぅ…はぁはぁ…」


「下にもう一つフロアがありそうだ」


「てかよ?こんだけ荒れてるのに死体が少なくねぇか?」


「壁を良く見てみろ…」


「黒いヘドロか?なんだありゃ?」



礼拝堂の壁面にはどす黒い血の様な物が飛び散った跡が残って居た


ここが神聖な礼拝堂だとはとても思えない様な状況だ



「恐らく何かの魔物との戦闘跡だろう…下の層へ確かめに行くぞ」


「おう!!」




『礼拝堂下層』


中央に祭壇が有りその手前には法王庁の教徒と思われる死体が散乱している


その教徒の様相は明らかに死刑執行人の装束が身に付けられており頭部までスッポリ装具を被って居た



「こりゃまた何が有ったのか想像つかんな…」


「見ろ…法王の法衣だ…こいつが法王だ」


「死んでんな…頭部が…こりゃ破裂したんか?」


「頭部だけじゃない全身破裂だ…血が黒い…どういう事なのか…」


「ここも爆発跡が沢山あるな…何かの実験跡なんか?」


「…どうも気分が悪い…なんだこの感覚」


「通路の奥の部屋…死臭がひでぇぞ…おえっ」


「カタコンベ…その通路の下は恐らくカタコンベだろう」


「うわぁ…見たくねぇな…どうせ拷問器具だらけなんだろ」


「鍵がかかっている」ガチャガチャ


「開けるか?」


「いや…今は良い…鍵が掛かっているという事は今回の騒動に恐らく関係していない」


「そうだなエルフがわざわざ鍵掛けるとは思えんな」


「法王が変死している以外におかしな事は何か気付かないか?」


「魔王が復活したにしちゃ静かすぎる」


「エルフはここで何をしたと思う?」


「法王を殺すとしたらエルフは弓を使うよな?あのクソでかい矢が刺さって無ぇ…もう死んでたんじゃ無えか?」


「エルフがはるか遠くの森からどうしてこんな所まで攻め立てて来るのか?」


「確かに…わざわざここまで来るのはやっぱおかしい」


「エルフの秘宝は祈りの指輪だと聞く」


「何だそれ」


「エルフから秘宝を奪ってここまで持って帰って来た…魔物が大群で攻め入る理由が出来る」


「俺達が海の向こうに行っている間にそんな事になってたってか?」


「情報が足りない…盗賊ギルドに行くぞ」


「おい焦るな…お前は顔を出せんとか言ってただろう…その祈りの指輪ってやつは何処に行ったんだ?」


「ドラゴンはまだ上空で旋回しているな?…という事はまだ手に入れていない」


「う~む…ここに指輪が有った前提で考えてもなぁ…やっぱ情報足りんか」


「魔王の手に渡ってしまったと考えるのが普通だが…どうも魔王の気配も感じない」


「空が落ちたのは普通なら魔王の仕業と考えると思うがな」


「いや何か違う…ほかに手掛かりは無いか?」


「裏口があったよな?そっちから出てみっか」


「うむ…」





『裏口の外』


ここでも戦闘が有ったのか足元に血痕が残っていた


その血痕を辿ってみたが他の兵隊の死体も多く直ぐに辿れなくなった



「うおっとぅ!!こんな所に法王庁の兵隊の死体が…じゃまだな」


「2体…弓でのヘッドショットだ」


「こりゃエルフの矢じゃねぇ…なんでこんなところで流れ矢に当たってんだ?」


「流れ矢がヘッドショットにはならん…どこから撃たれたか」


「向こうの屋根上だな…しかしあんな遠くから狙えるか?」


「ひとまず行ってみよう」タッタッタ



2人は建屋の屋根上に上がった



「よっ…よっ…」ピョン ピョン


「この屋根に上がるのは素人には無理だな」ピョン ピョン


「うはぁ…中央広場がえらい事になっとる…暗くて見にくいが」


「ここはゲートブリッジの上だ…はっ!!そういう事か…」


「俺らが中央の屋根上から見た人影だな?そういや弓使ってたな」


「ドラゴンが来る前にそいつらが礼拝堂に入っていたという事だ」


「なるほどそいつらが法王ぶっ殺して逃げた線が出てきた訳か」


「私の先を行く者がまた現れた…」


「やっぱ侮れん奴はどっかに要るもんだ…それより中央の混乱収めないとお前の妹が危ないぜ?」


「そうだな…レイスを対処出来んのでは収まらん…まず目の前の問題解決か」


「ここは別れるぞ…俺は下水通って船まで戻る…ほんでミスリル武器配りながら中央に行く」


「分かった…私は屋根伝いで先に中央へ行っておく」


「無理すんなよ?合流の目安は1時間後だ…そうだな屋根に上がった建屋周辺だ」


「よし!後でな?」ピョン タッタッタ




『下水に降りる蓋』


その蓋は完全には開かない様に何か細工をしてあった



「ぬぁぁぁ!!何か挟まって開か無ぇじゃねぇか!!クソがぁ!!」


「くっそ!こんな隙間じゃ入れ無え…」


「何が挟まってんのよ?」



盗賊は蓋の裏側を覗き込んだ


そこに血痕が残って居る事に気付いた



「んん?まだ新しい血痕だと?」


「誰かこん中入って行ったんか?」


「分かった!ヒンジの部分にナイフ突っ込んでいやがる…届くか…んむむむ」



盗賊は隙間から手を突っ込みそのナイフを抜いた


グイグイ スポ!



「おっし!!抜けた…ナイフってか短刀だな…こいつは貰っとくか」


「これで下水に降りられる」



下水へ降りる為に梯子に足を掛けたその時…


ツルッ…



「どわぁぁ!!あっぶ!!」


「なんだ血でベタベタじゃ無ぇか…こりゃ相当出血してんな」


「どうやら先越した奴はここ使って逃げたで間違いなさそうだ」


「この場所知ってるとなると女海賊当たりなんだが…」


「あいつらシン・リーン行ったんじゃ無かったのか?」


「セントラルにわざわざ戻って来るとか考えにくいな…」


「…となると女盗賊か…しかし一人で来るとは思えん」


「まぁ良いや…今考えても意味無え…とりあえずミスリル武器配んねぇと…」




『下水』


盗賊は常に蝋燭を携帯している…それは泥棒には必須の道具だからだ


蝋燭の明かりを頼りに何度も通った下水を海の方に向かって進んだ


その途中でラットマンが倒れている死体を共食いをしているお陰で戦闘をせずに進むことが出来た


カーン キーン



「む…誰か居るな…」



衛兵の一人がそこでラットマンと戦って居た


そのラットマンは一回り大きく素早い



「死ねぇ!!」ブン グサ


「ギャーース」ドタリ


「ふぅぅぅ…」



ラットマンを倒し肩を撫で降ろすその脇を通る



「おっとー通るぜー」


「お前!!何処へ行く?海側は黒い魔物が出て来て危険だ!!」


「レイスの事か?」


「レイスと言うのか?奴らは普通の武器では倒せない」


「それで逃げ帰って来てるんだな?」


「撤退戦だ」


「一人でか?」


「仲間が気を失って動かなくなってしまったのだ…俺が上部に報告に戻らねば…」


「悪いが此処を戻っても状況は同じだぞ?」


「お前…その格好は駐留兵の者だな?上はどうなってる?」


「大混乱中だ…俺は今からレイスを倒せる武器を取りに行く所だ…お前も来るか?」


「それは本当か!?」


「見て見ろ…」スラーン


「刀身が鋼では無いのだな…」


「特殊な銀の武器だ…これならレイスを簡単に倒せる」


「どこにある!?」


「桟橋に停船しているキャラック船だ」


「一隻だけ船があったがあれは海賊船だと聞いて居るぞ?」


「ヌハハそんな自己紹介した覚えは無いがな」


「お前…その話振りからすると駐留兵では無いな?」


「まぁ落ち着け…俺は生き残る提案をしてんだ…レイスを倒せる武器が無いとこの状況は相当ヤバイ」


「確かにそうだ…よし!今は信用しておく…その武器はどの位ある?」


「100か200か…正確な数なんぞ分からん」


「一刻も早くこの状況をどうにかしたい…案内してくれ」


「ふぅ…話の分かる衛兵で良かったわ…付いて来い」


「お前は先刻ここを通った者の仲間か?」


「知らんな…他にも不審者が居るという事か?」


「4人組の賊が走り去って行った…一人は怪我をしていた様だが」


「なるほど…」---4人?俺ら以外に動きの良い奴が居る訳か---


「背格好からして白狼の盗賊団」


「んな訳ねぇだろ…」



---待てよ?剣士と女海賊…女盗賊も加えりゃあと一人で4人か---


---やっぱあいつ等が法王をぶっ殺して下水を逃げたと考えりゃ辻褄も合う---


---あと一人…もしかして女狐と組んでんのか?---


---こりゃ用心しとかんと嵌められちまいそうだ---



「先刻と言ったな?どれくらい前だ?」


「1時間くらいか…お前…何か知っていそうだな」


「まてまて俺は関係無ぇ…俺を信用してくれ!!今は魔物を何とかしたい」


「同意だ…お前が悪人だったとしてももう顔を覚えたぞ?」


「へいへい…わたしゃー悪人じゃございやせん」


「見ろ!!前方にレイスらしき影」


「おっし!!この武器の性能を見てろ」ダダ



盗賊はミスリルダガーでレイスを切り裂きいとも簡単に倒した



「おおおおぉ…倒せる」


「だろ?これがありゃどうにか民を守れる」


「急ぐぞ!!一人でも多く民を守るんだ!!」



盗賊は衛兵とは立場が違うが…こういう心意気を持った衛兵が居る事に嬉しさを感じた


誰かを守る…その為に武器を持って戦う…その最前線に居るのが衛兵だ





『キャラック船』


船は来た時のまま静かに停船していた


それもその筈…大混乱に陥った状況で誰も船に何かしようと思う者など居ないのだ



ドタドタ



「武器は後方の船長室に入れてある…鍵は開けておくから他の衛兵にも配ってくれ」


「この船はお前の船なのか?」


「俺の物ではないが俺達の物と言った方が良いか…」


「やはりお前は海賊だな?」


「待て待て…今はそういうのは無しで頼む…そして良く見て見ろ…戦略兵器は何も乗って無い」


「確かに…大砲類は無いな」


「おっし俺は持てるだけ武器抱えて中央方面に向かう」


「お前は名を何と言う?」


「名乗る名なんかねぇよ」


「武器の譲与感謝する…身元が分からんと謝礼が出来んぞ?」


「謝礼なんかいらねぇよ…じゃぁな!!気合入れて戦え!!」


「おい!!聞いているのか?」


「だから謝礼なんか要らねぇ!民を守るぞ!急げ!!」ダダ


「……」



---あの後ろ姿---


---走り方---


---身のこなし---


---間違いない---


---白狼の盗賊団---

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