第12話 星の観測所

『星の観測所』


あれから1カ月経った…この場所も盗賊ギルドのアジトとして移設が終わり


女戦士は目立ってしまわない様にひっそりと過ごしていた


盗賊ギルドの活動は主に貴族間の勢力争いで必要悪となる部分を請け負う


その大半が麻薬と趣向品の密売と娼婦達の斡旋…孤児の身請けだ


女海賊はそれらが上手く機能しているか気球を使って各地の巡視をしていた




「戻ったな?様子はどうだ?」


「ハズレ町の方に兵隊が逃れて来てるっぽい…薬も女も足りて無いわ」


「うむ…やはり戦線が南に下がった様だな」


「どうすんの?又近くの村に女の人探しに行くん?」


「それは若い衆に任せる…お前はそういうのに関わるな」


「なんかさぁ…なんで盗賊が娼婦の女達とか孤児達囲ってたのか分かって来たわ」


「それも生き方なのだ…盗賊はアレでかなり優秀で女達を不憫にさせない様にしている」


「なんだろな…盗賊と女盗賊の間に行き場のない愛みたいなのが有ってさ…なんか悲しいね」


「その言い知れない物を扱うのが盗賊ギルドだ…お前も大人になれ」


「まぁ良いや…シャ・バクダの方はどうなってるん?」


「うむ…こちらも情報が入ってきた…セントラルに軍船が多数入港しているそうだ」


「どっから?」


「西方の土の国フィン・イッシュ」


「おぉぉ軍国と同盟か…」


「察するに第2皇子が外交で連合大隊を組もうとしているな」


「剣士たちの情報とか何も無いの?」


「白い魔物の噂はあるが…それだけだ」


「あぁぁ…もうすぐ1か月だけど死んじゃったかも知れないと思うとやるせない」


「…それが戦争だ…あの二人はエルフだから戦いは避けられなかったのだ」


「なんかイライラする!紛らわせに明るい内に遺跡調査行ってくる!」


「アダマンタイトか…まだ諦めて居ないのか?」


「小さい欠片を探してんだけどさぁ…砂に埋もれててなかなか見つかんないのさ」


「この間持って帰ってきた奴ではダメなのか?」


「色んな大きさで試したいんだよ」


「まぁ遺跡は魔物が出ないから迷子にならん様にだけ気を付けろ」


「分かってるって…じゃ行ってくる!!」スタ




---行き場のない想い抱えてんの私も同じだよ---


---アイツ居なくなって思い知ったさ---


---私のもう片っ方になってたんだ---


---年下なのに…私よりちっこいのに---


---なんだろな…ずっとアイツの事考えてる---


---くっそイライラする---




女海賊と入れ違いに盗賊ギルドの若い衆の一人が駆けつけて来た



「マスター代理!」


「どうした?」


「コブラ酒と赤ワインの注文が入りました…グラスは2つ」


「どこの宿屋だ?」


「シャ・バクダに入ってすぐの所の宿屋です」


「む…アサシンが帰ってきたか?」


「分かりません…兵隊の恰好をしているそうです」


「変だな…事前に何も聞いて居ないのだが…暗号が漏れた可能性があるな」


「どうしましょう?」


「私が直接行く…一応逃走用にラクダを馬宿に付けておいてくれ」


「承知」


「着替えたら直ぐに向かう」



女戦士は女性にしては背が高くその風体が目立ちやすい


素顔を晒すと直ぐに覚えられてしまうからわざわざ男装をして傭兵の振りをする必要があった




『宿屋』


ワイワイ ガヤガヤ


商隊が盛んに出入りしているせいで宿屋も人でごった返していた


昼間の内は建屋の中に入って居た方が涼しいと言うのも有る



「いらっしゃいま…」キョロ



店主は女戦士の顔を見るなり周囲を警戒し始めた



「どこの部屋だ?」


「奥の大部屋に居座っています」


「2人だと聞いたが大部屋を使っていると?」


「ええ…いつの間に大部屋に籠ってしまいまして…追い出そうとしたんですが中から例の注文を…」


「どんな奴だ?」


「わかりません」


「お前は鼻が利くだろう…本当に2人なんだろうな?」


「敗残兵なのかあまりに血生臭くてその…2人なのかどうかも分からないのです」


「私の逃走経路を確保しておけ…酒を持って中に入る」


「かしこまりました…酒とグラスは用意しております」


「場合によっては死人が出るから衛兵の足止めも頼む」


「承知して居ります…」


「…この部屋だな?」


「はい…」



トントントン



「ご注文をお届けに参りました…」


「……」


(返事がありませんな…)


「扉を開けてもらえませんか?」



ガチャリ


錠が開き扉がゆっくりと開く…



「お酒をお持ちいたしま…女エルフ!!生きていたか!!剣士はどうした!?」


「剣士が死にそう…もう魔法の触媒が無いの」


「……」



剣士は傷だらけで意識を失ったままベッドで横になっていた


チアノーゼなのか肌の色が黒く変色している



「待ち合わせは星の観測所だと言った筈だ…ここがどれほど危ないか…まぁ良い…それは後だ!」


「触媒を…」ヨロヨロ


「お前も怪我をしているのか…おい!!店主!!事態が変わった…魔法の触媒を入手して来い!」


「何がご入用で?」


「水とミネラル…それから薬草も」


「ミネラルも薬草もこの辺りでは中々…」


「セントラルから商隊が来てる…なんとか探せ」


「わかりました…急いで探してきます」タッタッタ


「ここよりもエルフの森の方が安全だっただろうに…」


「私はもうエルフの森へは帰れないの…ここにしか来るところが無かった」


「…そうか…禁じられていた魔法を使ったか」


「剣士の心臓が止まってしまいそう…」


「失血がひどいな」


「傷口からもう出てくる血が無いの」


「人間の技ではな輸血という手法がある…女エルフ!お前の血を剣士に半分移すぞ」


「私の血を!?」


「すこし待っていろ…準備してくる」



女戦士は器具を調達する為近くの療養所へ走った


数分して器具を抱えて戻って来る



「女エルフ!お前も剣士の隣で横になって腕を剣士の首に回せ…」


「こう?」


「少し痛むぞ?」チク


「っ…」


「この管を通ってお前の血が剣士の中に入る」


「はぁはぁ…うげぇ」オェ


「苦しんでる?」


「他人の血が体の中に入るのだ…多少の反応はある」


「剣士の傷跡から血が染み出て…」


「お前の血だ…止血は私がやるからそのまま横になっていろ」


「ええい…大きな血管が損傷しているか…これは圧迫するしか無いな」ギュゥ



女戦士は出血の酷い個所を包帯で縛り上げる



「やはり回復魔法で傷口を塞がんとお前の血も無駄になりそうだ…」


「私はまだ…大丈夫…」


「ダメだ…血を抜きすぎる前に終わるぞ?お前が倒れたら元も子もない」スポ


「もっと止血しないと…」


「圧迫を手伝ってくれ…腹部の止血はなかなか止まらんのだ」


「分かった…」フラ


「お前もフラフラだな?」


「戦場ではみんなこんな風よ?…私は手足がまだ欠損していないだけ軽い方なの」


「確かに…」



ガチャリ



「ミネラルありました…先にこれだけ」…店主が急いで戻って来た


「おお!待っていた…女エルフ!まだ動けるな?魔法の触媒だ…回復魔法で処置を頼む」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」ボワー



剣士の傷口から染み出て来る出血が収まって行く



「自分にも掛けておけ」


「回復魔法!」ボワー


「よし!これでひとまず死ぬ事は無いな?エルフは精力を付けるのに何を食らう?」


「木の根…マンドラの根よ」


「そんな物は砂漠には無いな…サボテンの根でどうだ?」


「食べた事無い」


「まぁ良い…後で採ってきてやる!食ってみろ」


「店主!伝令を頼む…アジトに居る女海賊に深夜気球で迎えに来いと伝えてくれ」


「分かりました…私から一つ提案がございますが…よろしいでしょうか?」


「何だ?」


「コブラ酒は精力増強でエルフにも効き目があるかと…」


「おお!それは良い…丁度持って来ているでは無いか…女エルフ!聞いたな?」


「私が…飲むの?」


「そうだ…お前が飲んで精をつけて剣士に血を移す」


「分かった…飲んでみるわ」


「それでは私は薬草の調達と伝令に行きますので…これにて」…店主は部屋を後にする



剣士への治療はその後も続く…


全身に受けた矢傷は無数にあり数度の回復魔法ではすべての傷を塞げなかったからだ


女エルフはコブラ酒を少しづつ飲みながら回復魔法を続ける


そこで分かって来たのはどうやらエルフはアルコールに耐性が有り酔いにくいと言う事だった


血行が良くなるという効果は人間と同じく…結果的に精力増強に繋がった


剣士の傷を一通り回復させた後に女戦士は森の中での出来事を女エルフに尋ねた



「…なるほど魔物達は祈りの指輪で魔王を復活させられるのを恐れているのだな?」


「魔物達とひとくくりにされてしまうのも少し違う…オークやミノタウロスはやっぱりエルフの敵なの」


「エルフからすると背後を襲われてしまう訳か…」


「そう…だからエルフは森を出てまで攻める事は無い…でもドラゴンは違って目的も少し違う」


「ダークエルフに指輪を破壊されてしまっては困ると言う事だな」


「とにかく指輪を奪い返せばそこで一旦終わる筈」


「ううむ…どうあれ人間側からすると魔物に攻め立てられている様にしか見えん」


「誰も魔王の復活なんて望んでいないのにこんな風になってしまった」


「そして…指輪は今どこに?」


「森の中央で一番深い所…何層にも森が積み上がって居て迷いの森と呼ばれているの」


「断崖の下だな?」


「そんな所まで人間が入って来て居るなんて思わなかった」


「森の中でのゲリラ戦ではドラゴンライダーも攻め入り難かろう」


「このままではもう直ぐ森の南部に出てしまう」


「まずいな…戦争が森の中だけでは納まりそうも無い」


「これ以上エルフは南進出来ないから…多分セントラルまで逃げられる」


「先回り出来ない事も無いが…その後どうするかだな…」


「私はもっと被害が拡大すると思う…」


「ん?エルフはセントラルまで攻める事は無いのだろう?」


「海からも魔物が来てしまうから…」


「何?まさかクラーケンが…陸に上がるのか?」


「わからないけれどドラゴンはクラーケンも恐れているの…ドラゴンよりもずっと大きい…」


「海と言えばクラーケンだけでは無いな…スキュラにヒュドラ…もしかするとリヴァイアサンまで…」


「そうなってしまうと大惨事は避けられない」


「何とかして指輪を奪い返せんものか…」


「良い手が思いつかない…」


「盗むと言ってもセントラルに入られてしまっては簡単では無いか…ううむ…」



セントラルの軍隊を相手に数人で何とか出来る事では無かった


仮に盗む計画を立てたとして貴族達への根回しや事前の情報収集が必須で相当の時間を要する筈だ


2人の知恵では妙案を絞り出せない…只行く末を見るくらいしか手立てが無かった



深夜…


暗闇に紛れて女海賊が連絡通り宿屋に来る



ガチャリ



(お姉ぇ!来たよ!)


(来たな?運ぶのを手伝え!)


(おぉぉぉぉ!!剣士と女エルフ!!無事でよかったぁぁぁ)ギュゥゥ



女海賊は剣士の姿を見るなり強く抱きしめた



(息はしてんな…なんで寝てる?どっか怪我してんの?)


(話は後だ…昏睡している…運ぶぞ)


(重っも…女エルフは剣士を背負ってきたの?)


(私が背負うから先導お願い)


(おっけ!こっち…暗いから気を付けて)


(しばらく見ないうちに剣士は一回り大きくなったな)


(剣士はまだ成長期…成体になるともっと大きくなる)


(あんたさぁ細っそい体してんのに力持ちだよね?)


(エルフはそういうものだ…女でも人間の男と変わらん)


(へぇ…そんな重いのが空中でクルクルしてんだ?)


(ドワーフの男はもっと重くて硬いんだがな)


(パパの事?アレは別格っしょ?多分石か鉄で出来てるよ)


(お前もあと数年もすれば私と同じ様な体格になる筈だぞ?)


(そしたら女エルフに勝てるかな?)


(張り合うのは止めて置け…どちらが強いかなぞどうでも良い話だ)


(私も涼しい顔して剣士を運びたいさ)


(そう見えてるだけよ?あなたの方が表情豊かで羨ましい)


(やっぱ剣士を私に背負わせて?)


(大丈夫?)ヨッコラ


(ふぬぬ!!重っも!!)ヨタヨタ


(フフ…まぁ良い訓練だ…誰かに見つかると厄介だから急ぐぞ)



---お姉ぇ違うよ---


---私は気持ちで負けたく無いんだ---


---女エルフは重たい剣士を背負って来たのさ---


---私はその気持ちに負けたく無いんだよ---


---何回でも往復してやんよ!!---





『星の観測所』


剣士をベッドに横にさせるまで女海賊が終始背負って運んだ


背中に感じる温かみが歯を食いしばる彼女に力を与えた…ぜってぇ負けねぇ!!


女海賊は生まれて初めて献身的に他人を看護した


血で汚れた衣服を脱がせ体を綺麗に拭きその傷跡を一つ一つ確認する


そうする事で心の中のモヤモヤが少しづつ晴れて行くから…安心して行くから…



「お前はいつからそんな事が出来るようになったのだ?」


「ん?分かんない…」


「やっと落ち着いたのだ…少し休んだらどうだ?」


「あんま眠たくないのさ…てか剣士の具合見てちっとヌクヌクし過ぎてたのを反省してる」


「フフ…反省か…」


「私より年下なのさ…ほんで私よりちっこい…でもこんなボロボロになってさ」


「小さい?お前と変わらんが…」


「あれ?前に比べた時は私の方が背が高かったけどね」


「直に追い抜かれる…エルフは成長期に一気に大きくなるらしいぞ?」


「マジか…」


「まぁ眠たくないのは良いがあまり構い過ぎて剣士の負担にならん様にな?」


「分かってるさ…ちっと汚れ落としただけだよ…臭くなっちゃうから」


「今女エルフが水浴びに行ってるのだがお前も行って来い…随分血で汚れている」


「え…水浴び苦手なんだよなぁ…砂で擦れば汚れ落ちるし」


「血の汚れは砂じゃ落ちんだろう…女エルフと胸の大きさの比較をして来いとでも言えば行く気になるか?」


「お!?そういやちゃんと比較して無いな」


「ギルドの若い衆が目を覚ます前に早く行って来い」


「おけおけ!ちっと行って来るわ」



女海賊は胸の大きさを比較するつもりで水浴び場に行ったが


女エルフも剣士と同じ様に無数の傷跡が体中に残って居て言葉を失った


表情から分からなかっただけで彼女も又瀕死の状態で剣士を背負って逃げて来たのが分かったからだ


女海賊は黙ってその傷跡に薬草をあてがい言う



「あんたなんで自分に回復魔法掛けないの?」


「え?それは…回復魔法は自分にはあまり効果が無いの…剣士に癒して貰わないとダメなの」


「そっか…今は私が処置してあげる」


「ありがとう…でもコブラ酒を飲んでから大分調子が良い」


「傷跡残っちゃうから…私手先器用でこういうの結構得意なのさ」


「じゃぁお願い…」


「ありがとね…剣士連れ帰って来てくれて…」


「え?」


「私さ…多分アイツの事好きなんだ…あんたに負けない様に頑張る」


「負けるって…そう言うのじゃないけれど…」


「違うんだ…行動であんたに負けちゃってるのさ…こんな傷だらけになってもアイツ守ってくれて…」


「ありがとう…」…涙が出た…悔し涙だった…


「そんな風に言われてなんか照れてしまう…」


「ほらこっちの傷も…」…涙を流してしまった事がバレない様に取り繕う



2人が水浴びを終える頃には空が薄っすら明るくなり始めて居た


部屋では女戦士が窓の外を眺めている



「んん?2人揃って戻って来たか…休んで良いぞ?」


「ちっと日が登っちゃう前に試したい事あんだけど」


「お前は落ち着かんな…寝ろ」


「アダマンタイトの実験がさぁどうしても上手く行かないんだ」


「魔女からやめておけと言われているのだ…あきらめろ」


「だから試したいんだよ…女エルフ?あんたもうどんな魔法使っても良いんだよね?」


「どんなと言っても…使える魔法は少ししか無い」


「照明魔法使える?」


「剣士が持ってる魔方陣のペンダントがあれば使えるかもしれない」


「それ必要ない」


「え?どうして?魔方陣が無いと光の魔法は使えないのよ?」


「良いから!ちょっとこっち来て?…ここで使ってみて」


「魔方陣が無いと…」


「良いから唱えてみて!?」


「照明魔法!」ピカー



女エルフの手の平に明るい光が現れた



「え!?どうして…」…女エルフは首を傾げる


「キタコレ!!!やっぱこれが原因だ!!」


「何なんだ?どうした?」


「シャ・バクダ遺跡の周辺ってさぁ…オアシスいっぱいあるじゃん?」


「話を変えるな…意味が分からん」


「ぃぁだからさぁ…気球で上からオアシスの位置を見たらさぁ…光の魔方陣と一致してんの」


「なに!?」


「魔女からもらったこの魔術書見て?…光の魔方陣の形…交点がオアシスと一致してんのさ」バサ


「巨大な魔方陣という事なの?」


「そういう事になる…今の照明魔法で証明できた」


「…これはアサシンも知らない事実だぞ…シャ・バクダは封印されているという事なのか?」


「えっと…」



魔女の塔はアダマンタイトで出来て居たよね?だからあそこは狭間の奥にあるんだ


でも魔女の塔の近くだけは空があったよね?それは魔方陣で無理やり狭間を遠ざけていると思う


シャ・バクダ遺跡にはちょいちょいアダマンタイトがある…だから本当は狭間の中になる筈なんだ


でも空はあるし魔物も出ない…なんでか?


それはオアシスで作られた巨大な魔方陣の中で無理やり狭間を遠ざけられたから…


魔術書にさぁ…光の魔方陣で退魔の方法が書いてあるんだよね…多分コレ



「だとすると何故封印してある?時間の流れも殆ど一緒だが?」


「それは分かんない…」


「アサシンが居ない間に勝手に調べる訳にもいかんな…」


「でもさぁアダマンタイトの実験が上手く行かないのは魔方陣の中に居るからだと思うんだよね」


「お前は何の実験をしようとしているのだ?」


「狭間をコントロールする…狭間の奥に入れば人間からは見えなくなると思うんだ…つまり消える」


「そんな事が本当に出来るのか?」


「エルフの森を人間が見つけられないのは狭間の奥にあるからよ?」


「そゆ事」


「もしそれが出来るなら祈りの指輪を取り返すチャンスが出来るかもしれないわ…」


「ん?何々?何の話?ちょっと私の分かんない話しないでくれる?」


「お前は天才だ…アサシンが見込むだけの事はある」


「指輪を取り返すって何さ!?教えてよ」


「夜明けに気球でオアシスの外側で安全な場所へ行って試してみよう」


「ねぇちょっと聞いてんの?」





『夢』



「やっと少し落ち着いて話が出来るね…青い瞳の勇者」


「……」---君は誰?---


「君の事が知りたいんだ」


「……」---僕は誰だ?---


「ハハまず僕達の事から話した方がよさそうだね…どこから話そうかな」


「僕から話す…僕はもともと選ばれた勇者として魔王を倒す旅に出たんだ」



---話が頭に入って来ない---


---今僕は何をして居るんだ?---


---どうして此処に居る?---



「…という訳さ…ややこしいでしょ?」


「そんな中僕はこの世界が幻だという事に気が付いたんだ」


「君はどう思ってる?この世界を…」


「分からない…僕は昔の記憶が無い…ただ心の中なのか誰かの声は聞こえる」


「精霊の声なのかな?どんな風に聞こえるのかな?」


「耳を澄ませると何処からか声がする…心の中なのかも知れない…その声に導かれるんだ」


「導きねぇ…」



僕はいつの間にか…気が付いたら旅をしていた


その昔の記憶は無い


その声に導かれていつの間にかここに居る…



---僕の口から出る言葉が---


---僕の意思とは関係なく口から出て行く---


---これは夢なのか?---



「よく分からないな…君は本当に勇者なのかい?」


「今もその声は今ハッキリと聞こえる…」---ぼくは勇者?---



”目を覚まして…”


”起きないなぁ…”


”置いていく?”


”あ!動いた!!”




『朝』


その声に意識を集中した


夢はすぐにおぼろとなり何の夢だったのか思い出せない


君の匂いだけ覚えてる…その匂いのする方へ…君は誰だ?君を見たい…



「起きたぁぁぁ!!…ってあんたその目!!マジか!!お姉ぇ!!ヤバイ来て!!」


「ちょちょ…髪の毛引っ張んないで」



耳の裏…うなじの匂い…剣士はそれを嗅ぐために女海賊の首を引き寄せた



「ど、どうしたん?いきなり抱き付かれて困っちゃうんだけど…」


「おえっ…」ウップ


「なんだ耳元で吐くんかい!!」


「目を覚ました?気分はどう?」


「はぁはぁ…」---胸が焼け付く---



混乱していた…これも夢なのか?


いや違う…君の匂いは本物だ…そう思ったらだんだんと記憶が蘇って来た


口の中に何か流し込まれた…酒…これはコブラ酒の味


長いサラサラの金髪…君は女エルフ


赤毛に機械式のゴーグル…君が女海賊だね?君を見たかった…



「ちょちょちょ!!髪の毛引っ張んなって!!」


「お姉ぇ!!ちょい来て!!剣士の目がヤバイ」


「んん?少し待て…今サボテンの根を洗って居る所だ」


「アサシンが探してた青い目だよ!あんたエルフじゃなかったの?」


「まぁ騒ぐな…まだ起きたばかりだ…腹が減っているだろう?コレを食べるんだ」


「起きたばっかでそれ食う方が無理だって」


「旨くは無いかもしれんが精が付く…女エルフはすぐに良くなった」


「剣士は何日も昏睡していたから食べるのはゆっくりで…」


「まぁそうだな…声は出せるか?」


「あ…うぅぅ…此処は…何処?」


「おぉ!!話せるじゃん!!」


「森の声が聞こえない…砂漠なのか…な?」


「星の観測所さ…女エルフがあんた背負って森から出たんだよ」


「あぁ…思い出して来た…オークと戦ったんだった」


「そう…その後失血で気を失ったまま何日も…」


「そうか…記憶が混同してて少し混乱してる」


「混同?」


「夢だよ…多分さっきまで夢を見てた…もう思い出せない…オエッ!!」ウップ


「んん?吐き気がするか?血が足り無さそうだな?しばらくは無理せん方が良い」


「私の血が足りなかった?」


「なぬ!!ちょ!!どういう事さ!!?まさか輸血したの?」


「失血がひどくて死ぬ寸前だったのだ…女エルフが居なければ死んでいたぞ」


「僕の体に女エルフの血が…流れている?」


「そうだな…全部入れ替わったかもしれんなハハ」


「ハハじゃねぇ!!…なんかイライラすんだけど」


「嫉妬は見苦しいぞ?エルフにドワーフの血を入れるよりマシな方法だ」


「女エルフ!!血ぃ貸しな!!ドワーフの血と混ぜるとどうなるか実験する」


「実験?フフ…また変な事を言う…いつも通りか」


「私の血は死ぬほど余ってんのさ…あんたに輸血する前に試すんだ」


「下手に他種族の血を入れるとショック死してしまうぞ?止めて置け」


「ぐぬぬ…」---悔しい---


「君のその可笑しな所は居心地が良い…」…剣士が口を開いた


「どゆ意味?」


「帰って来た気分で落ち着くよ」


「何言ってんのさ!あんたちゃんと戻るって言ってたじゃん!てか戻って来るのおせーんだよ!!」


「ごめんよ…どうすれば機嫌を直してくれるかな?」


「別に機嫌悪くないさ」


「僕目が見えるようになったんだ…もっと君の顔が見たい」


「はぁ!?見てんじゃん!!」


「言い方が悪かった…君の美貌がもっと見たい」


「そんなら最初からそう言えって!!なんかポーズする?」…明らかに嬉しそうだ


「近くで見たい…」


「おっし!!ドアップで良いぞ!!」



女海賊は謎のポーズをとりながら剣士にその美貌を披露した


女戦士はあきれ顔で言う



「ヤレヤレ…女エルフ…馬鹿が移るから構うな…軽食を作るから手伝ってくれ」


「料理はやったことが無くて…」


「木の実を割って簡単なスープを作るだけだ」


「それなら私にも…」


「剣士の事は妹に任せておけば機嫌を損なわせないで済むから構うなよ?」


「フフその様ね…」


「済まんな面倒を掛けてしまって…」




女海賊は今まで剣士を構う事が出来なかった悔しさも有ったのか


剣士の言われるがままその美貌を披露し恥部まですべて曝け出しても恥ずかしさは無かった


逆に剣士の求める事を満たしてあげられる嬉しさもあり…嗅ぎたい匂いを存分に嗅がせ


献身的にサボテンの根を食べさせ…木の実のスープを口へ運び…背中合わせで横になる


そうする事で彼女が募らせていたモヤモヤした気持ちも晴れて行った





『数時間後』


女海賊は夜中寝て居なかった事から背中合わせで横になったら剣士と一緒に寝てしまった


いつもはグダグダと寝て居るのだが先に起きたのは珍しく女海賊の方だ


何故ならアダマンタイトの実験をする予定が有ったからだ



「やっべ!!寝ちゃたよ…」キョロ


「ぐぅ…すぅ…」zzz 剣士は寝て居る


「お姉ぇも椅子に掛けたままうたた寝か…女エルフは何処行っちゃったかな?」


「ううん…」ノビー


「お?あんたも起きた?」


「うん…凄く気分が良い」


「サボテンの根を食ったからかな?」


「そうかもね…」


「まだなんか食う?」


「なんか君優しくなったね?どうしたの?」


「変わって無いよ」


「いつもならお腹減ってるの君の方だよ…僕が食べ物探しに行く役なんだけど…」


「ここん所あんま食って無くてさ…そしたらお腹減らなくなったさ」


「随分痩せた気がするなぁ」


「あんた前は見えて無いじゃん」


「そんなの触れば分かるよ…ほら?」ナデナデ


「ちょちょ!あんま変な所触んないで」


「変?お腹が?」


「あんまその辺触られるとアソコ濡れて来ちゃうんだって」


「へぇ?見たいな」


「馬鹿!お姉ぇが直ぐそこに居んのに見せられる訳無いじゃん」


「そうか…じゃぁまた今度」


「そんな何回も見せないって!!何言ってんだよ」


「残念…」


「あと他に何か見たい物ある?私の体以外で…」


「う~ん…オアシス?」


「オアシスは後で見せられるけど…あんた動けるん?」


「ちょっと立ってみる…」ヨロ


「おっととと…転ばない様に…」


「ちょっとフラフラするけど…一応立てそうだ」


「やっぱ血が足りないんだね…私の血…入れてみる?」


「僕がそれで死んでも良いの?」


「う…やっぱ実験してからじゃ無いとダメだね」


「飲む分には良いのかな?」


「お!?そういやエルフは生きた肉を食うね…ちっと飲んでみる?」


「これも実験?」


「そうだよ実験さ…後で回復魔法で傷塞いでね」


「触媒持って無いけど…」


「あるある」


「なんか生き血を吸うのって抵抗あるんだけど…君の血だと思うと飲める気がするの不思議だな」


「なんかそれ聞けてめっちゃ癒されるんだけど…むふふ」


「そうかい?」


「じゃぁちょい太もも内側から…」


「腕の方が良いじゃない」


「片手で上手い事切れないじゃん…内ももの所なら両手で上手に切れるさ」スパ


「痛った!!」タラー



剣士は女海賊の太ももから流れる血液を口に含み飲み込んだ


血液は高栄養の液体だ…特に女海賊は健康体で剣士に不足していた栄養を十分含んだ血が流れていた


女海賊は自分の血を剣士に飲まれている事に満足し剣士は抵抗なくそれを飲む



「どう?飲めそう?」


「回復魔法!」ボワー


「あれ?もう終わり?」


「あんまり沢山は飲めないよ…もうお腹一杯だ」


「ワイン飲んでるみたいなもんか…グラス2杯くらいでお腹いっぱいになるね」


「うん…結構飲んだと思う…君は気分悪くない?」


「全然?…味はどんな?」


「美味しい訳じゃ無いけど…抵抗なく喉を通って行く」


「ちょい変な反応出ないか調べたいから何か有ったら教えて」


「なんだろう…吸血鬼ってこんな気分なのかな?」


「んん?何言ってるか良く分かんないんだけど」


「充実した感じさ…君を凄い感じる」


「私色に染まってく?」


「ありがとね…君の元気が僕に移ったみたいだ…もうフラフラしない」


「これお姉ぇには秘密にしといて…こんな事してんのバレたら又尻ぶっ叩かれそう」


「ハハそうだね…良く考えたらかなりおかしい事してる」


「ちっとお姉ぇ起こして来るわ…オアシス見に行くぞ!!」




女戦士は椅子に掛けたまま静かに眠っていたが寄って来る女海賊の気配に気付き目を覚ました




「ううん…眠ってしまったか…」


「あ!!お姉ぇ起きた?」


「うむ…剣士の様子はどうだ?」


「もう立てるっぽい…オアシス見に行きたいって言うからさ…今から行こうと思うんだ」


「それは良いがお前は衣服がはだけ過ぎだ…若い衆に見られて恥ずかしくないのか?」


「ヤベ…剣士が色々見たいって言うからさ」ゴソゴソ


「お前の勝手だが品を損なうような真似はよせ」


「分かってんよ!アイツ今まで女の体見た事無かったんだよ…調子に乗って見せちゃっただけさ」


「どうもお前はそこら辺の恥ずかしさが分からん様だな」


「良いじゃん別に!減るもんじゃないし…」


「お前を見られて私も恥ずかしい思いをすると理解出来んか?姉妹でそっくりなのだぞ?」


「あ…ごめ…」


「フン!もうあまり見せびらかすな」


「分かった分かった…ほんで女エルフ何処行ったんかな?」


「上の階で望遠鏡を覗いている筈だ」


「おけおけ!ちっと呼んで来るわ…直ぐ行くから行く準備出来たら気球ん所来て」


「分かった…例の実験…期待して居るぞ?」


「バッチコイ!!自信ある!!」




『気球』


4人は早々に準備して気球でオアシス群の上空を飛んだ


剣士は初めて自分の眼で見るその光景に驚きその景色に見入っていた



「ほら!やっぱり光の魔方陣と一致してるっしょ?」


「やはり何かあるな…中心に遺跡が位置する…間違いなく何かを封印しているな」


「アサシンがもう一つの入り口を探していた理由だよきっと」


「なかなかその入り口が見つけられなかったのも合点がいく…狭間に隠れて居た訳だ」


「そだね?探せば他にも有りそうだよ」


「こんな事が出来るのは…魔女くらいのものか」


「魔女の婆ちゃん何か隠してそうだね」


「いや…魔女だけではない…アサシンも何か隠しているぞ?」


「アサシンは核心的な事はなかなか教えてくんないんだよなぁ…」


「それはお前の口が軽いからだ…言う事も聞かんしな」


「ちゃんと言いつけ守ってんじゃん?」


「アダマンタイトの件はどう説明する?」


「むむ!…それはアレよ…てか私に魔術書を渡した魔女の婆ちゃんが悪い」


「そういうのもお見通しだと思うの…魔女様が言っているのは気を付けなさいという事」…と女エルフ


「そうだよソレそれ!!」


「魔術書を全部読みなさいという事も謎を解くヒントだと思う」


「託されたという事か?」


「謎ねぇ…なんだろ?」


「魔術書は全部読んだのか?」


「無理無理!!相当好きじゃないと読んでも理解不能」


「私も内容が知りたい」


「ほんなん自分で読めって!!てかまさか私に読ませる訳?」


「魔女とはそういう約束だったな?」


「あなたが言ってた退魔の方法とかも教えて欲しい」


「エルフに頼まれごとをされるのは誉れだぞ?信頼されている証だ」


「教えて欲しい?ニャハハ私が教えてやんよ!!ニャハハハ」…どうやら女エルフより勝っている事が嬉しい様だ


「お前は女エルフからもう少し品性を学べ…」


「品性ってどうやって学ぶん?」


「ヤレヤレ…そろそろオアシスの外側だ…向こうの砂丘の上に降りろ」


「ちょい話逸らさないでよ…私も女エルフみたいになりたいさ」


「だったらいちいち文句言わないで言う事を聞く所からだ」


「ちゃんと教えてよ」


「ええいうるさい!早く気球を降ろせ!」


「なんかなぁ…」



渋々言う事を聞いて気球の高度を下げ始める


女海賊はその2人と比較してまだ若い…もう少し経験が必要だった





『砂丘』


サラサラ サラサラ


砂丘では比較的風が強くその起伏は毎日姿を変えていく


森とは全く違ったその光景に剣士は驚いていた



「…これが砂漠」


「想像していた砂漠と違う?」


「全然違う…僕が感じていた世界と今見ている世界が全然違う…」


「どんな風に?」


「言葉で言い表し難い…目を閉じるといつもの世界…目を開くと違う世界…このギャップに戸惑う」


「お~い!!実験やるぞぉぉ!!こっちぃぃぃ」


「剣士?女海賊が呼んでる…行こ?」グイ


「ハイハイ集まってぇ!!」


「さて…見ものだな」


「行くよ?まず小さいアダマンタイトから…磁石を引っ付けて右に90°回す…」サー


「うわ!!空が落ちる!!」


「…驚いたな」


「ここは狭間の奥…スゴイ」


「ちょっと範囲を調べたい…アダマンタイト持ってて?ホイ」ポイ


「ん?どこに行く?…」


「お!?ここまで範囲があるかぁ…次は」タッタッタ


「範囲の外に出ると空が見えるのだな?」


「そだよ?魔女の塔と同じ…で次はアダマンタイトの磁石を反対に回す…」サー


「空が…浮かぶ?」


「やっぱ私の理論で合ってた!!多分範囲はアダマンタイトの重さに比例する…あと時間の流れもかな」


「時間の流れもコントロール出来るのか?」


「ほら魔女の塔って時間がゆっくり流れてたじゃん?」


「なるほど…」


「重たいアダマンタイトで狭間にしたらそこは時間の流れが遅いと思うんだ…つまり」


「高速で移動が可能になりそうだ」


「お!?正解!!もし気球に重たいアダマンタイト乗せれたら一瞬で移動出来る筈」


「古代魔法には一瞬で行きたい場所に行く魔法があったそうだ…実在した訳か」


「小さいアダマンタイトでもちょっとは効果あると思うんだよね」


「まだ時間はたっぷりある…検証しろ」


「おっけ!!剣士と女エルフはさぁ…気球でゆっくりしてて良いから観察してて」


「うん…狭間の外側から見てる」




『気球』


剣士と女エルフの2人は砂漠に降り注ぐ暑い日光を避ける為気球の中に戻った


そこで剣士は耳を澄ませている



「…どうして目を閉じているの?」


「こっちの方が落ち着くんだ」


「あなたが感じていた世界の事を教えて?」



僕が感じていた世界はもっと狭くて賑やかだった


風の音…砂の音…すぐ近くに感じる沢山の命


でも目を開けて見ると風は見えないし砂もほとんど動いていない


近くに感じていた命は見つけられない…全然違っていたんだ


僕が感じていたよりもずっと向こう側まで世界があったのは


それはまるで未来を見ている様に感じる


…なんていうか…夢を見ているみたいだ



「夢?」


「…でも現実なんだ…ずっと向こう側で起こっている事も全部現実…」


「ずっと向こう側と言うのは?」


「僕が感じられる距離よりも向こう側…そこでも色んな物が動いてる…そんな風に思って居なかったんだよ」


「理解出来た気がする…あなたの世界はとても小さかったのね?」


「うん…ずっと向こうで誰かが死ぬ所が見えて…近づいて見たらやっぱり死んでて…そんな事があちこちで起きてる」


「人間達との戦いの事を言っているのね…」…人間達との戦争がトラウマになって居るのを察した


「そうやって見える物全部夢みたいだよ…でも現実…未来を見てしまったみたいに…近付いたらそうなってる」


「あなたの夢は思い出せたの?」


「少しだけね…この砂漠も多分夢の中で見た…今も夢の中に居るみたいな感覚…」


「見えてる物が夢に感じる…私にはその感じが分からない…」


「遠くで起こっている事が現実だったように…夢で見た事も現実の様な気がする…僕には同じに感じる」


「あなた…それが真実だと思う?それが真実を見る目?」


「わからないよ…だから目を閉じて落ち着かせているんだ」




---僕は見える事に混乱している---


---遠くで起きている事は近付いてもやっぱりそうなってる---


---それは未来を見てしまった感覚---


---そして夢も同じ様に近付けばそうなってる気がする---


---夢を思い出すのが怖くなって来た---




「女海賊たちは何をしているのかしら?消えたり…現れたり…」


「ん?僕にはずっとあの辺でウロウロしている様に感じるよ?」


「え?あなた…目を閉じているから?」


「もう帰って来るみたいだ」



実験が終わったのか女海賊はダッシュで駆けよって来る


砂に足を取られながら真っ直ぐ一生懸命走る姿はなんだか可愛い



「お~い!!どんくらい時間経った?」タッタッタ


「…30分くらいかな?」


「私らは半日くらい実験してたんだけど…」


「そんなに?」


「やっぱ思った通りだ!!お姉ぇ!!これヤバイ発見だ…世界が変わる」


「なるほどな…魔女が言うように手を出してはいけない物だと良く分かった」


「いーじゃんいーじゃん!?…で女エルフさぁ…私らどんな風に見えてた?」


「消えたり…現れたり」


「おぉ!!エルフでも消えて見えるって事はやっぱ時間の流れが原因だ!!」


「どうして?」



多分さぁ今の現実世界って一番時間の流れが早い場所だよ


狭間の奥は時間の流れが遅くてそのもっと奥は止まるくらい遅い


狭間の奥に入ると時間に置いて行かれて


現実世界からは見えなくなってしまう…つまり消える



「それを使えば指輪を奪い返せる?」


「絶対イケる…自信ある!」


「どうやって?」…剣士が話しに割り込んで来た


「この一番小さいアダマンタイトなら自分だけ狭間に入れる…これ使えばいつでも姿を消せるのさ」


「危険だが良い作戦だ」


「狭間に入っちゃうと自分も向こう側が見えなくなるけど…剣士なら多分行ける」


「え?」


「あんたは目が見えなくても目が見えてるから…アレ?変な事言ったな…」


「感じる事は出来ると?」


「ソレそれ!!あんたなら指輪奪って戻って来れる」


「すごい…私ドワーフに負けを認める」


「…あのね…ドワーフって強調しないでくれる?イラっとするから」


「ごめんなさい」


「まぁ先ずは剣士の体力回復が先だ…その後その作戦で行けるか?剣士…」


「分かった…マザーエルフ…いや母さんが命を懸けて守ろうとした指輪…必ず取り返す」


「よし!良い気構えだ!!とりあえず帰ってバーベキューでもするか」


「おぉぉぉ良いねぇ!!帰ろ帰ろ…暑すぎなんだよ此処」





『バーベキュー』


ジュゥゥ 


夕方…星の観測所の建屋で日陰になっている場所で肉を焼く


盗賊ギルドの若い衆も集まり3人の美女を囲んで酒を飲みながらの軽い歓談となった


女エルフは人間の男達に中々溶け込めず居る



「ほら!あんたも気取ってないで食えよ…山賊焼きってんだホイ」ポイ


「私は…」


「生の川魚よりよっぽど旨いよ?」モグモグ


「人間はこうやって精を付けるんだ…一回食べてみたらどうだ?」


「…」パク 女エルフは一口その肉を食べてみた


「剣士はまだ横になっているのか?」


「呼んで来れば良いの?」


「いや…無理に連れ回すな…剣士にも肉を持って行ってやってくれ」


「おっとぉ!!剣士はさぁ…こういう骨付きの肉が好きなんだぁホイ」ポイ


「剣士に持って行くのは女海賊の方が良いのでは?」


「私今肉を焼く係なのさ…終わったら私も行くから先に行っといて」


「分かったわ…」



女エルフは言われた通り骨付きの肉とお酒を持って建屋の中に入った


剣士は一人ベッドで横たわり目を閉じて居る



「剣士?起きてる?食事持ってきたの」


「うん…ありがとう」


「体調はどう?」


「大丈夫だよ…あのサボテンの根だっけ?あれ良いね」


「フフ美味しくは無いけどね」


「君は肉を食べてみた?」


「少しだけね」


「僕は焼いた肉がちょっと苦手かな…でも慣れないといけないと思って食べてる」


「慣れる?」


「人間のやり方を少しでも真似てみないと人間の世界では仲間に入れないんだよ…」


「私も慣れないといけないのかな?」



僕は小さい頃にね…自分は母さんと同じウルフだって信じ込んでいたんだ


ある時森の中に迷った人間が来たことがあってね


その人は僕を抱き上げて連れて帰ろうとしたんだ


びっくりしたよ


まさかウルフを怖がらないで抱き上げるなんて思わなかった


その時母さんが教えてくれた


僕は人間と同じ姿をしているんだって



「一人で生きていくなら人間にならなきゃいけないって言ったんだ」


「私はエルフの姿をしている…それでも人間の真似をしなければいけない?」


「僕はその差が良く分からなかった…目を閉じればエルフも人間もウルフも同じ…でも目で見ると全然違うね」


「私たちは見た目で差別や偏見を持つのね」


「うん…少し生き方が違うだけなのに…見た目が違うだけでもう平等じゃない…だから人間に合わせる必要がある」


「私はどうやって合わせて行けば良いのだろう…」


「君は綺麗過ぎるんだと思うよ…もっと汚れてだらしなくして居れば人間に対等に扱って貰えるんだ」


「女海賊が私に対する行動はそのせい?」


「どうかな?君を凄く意識してるよね?そんな所が可愛いとも思うけど」


「もっと一緒に同じ事をすれば関係も良くなると思う?」


「うん…同じ物を食べて…飲んで…汚れて…寝て…人間はそうやって仲間を確認するんだ」


「人間の仲間か…私も半分は人間だと思うと合わせなければいけないのね」


「悪いのは全部見える事が原因な気がする…目を閉じればみんな同じなのに…見えるだけでそうじゃなくなる」


「どうしてだろう?自分と違う所を否定してしまうのかな?…」


「見た目が凄く分かりやすいよね…目を閉じればみんな同じなのに…」


「それで目を閉じて居たの?」


「それだけじゃ無いけど…」



想像してた世界とあまりに違い過ぎて…


空間が透けて見えるのが落ち着かないんだ…0と1の世界が…



剣士はこの時…青い瞳が持つ特別な力にまだ気付いて居なかった


それは世界を構成する最小単位…0と1を任意に操る力…空間を操る力だ


その力こそ勇者だけが持つ力だ…そしてその力を欲する者が魔王である


それはまだ誰も知らない事だった…

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