第11話 白い魔物

『気球』


4人は川辺に隠してある気球の事が心配で急いでそこに戻った


しかしあれからまだ夜も明けて居らずあの時のまま…何事も無く無事にそこに有った



「ふぅ…やはりそれほど時間は経って居無いか…気球は無事だな?」


「こっちの世界じゃ半日も時間経ってないっしょ?あぁぁ!!気球に魚入れっぱだった」


「日が昇る前にここを離れるぞ…食事はその後だ」


「おっけ!私は球皮傷んで無いか見て来るから剣士は炉に火を起こしといて!」


「おっけ!火炎魔法!」メラ パチ


「ついでに魚も焼いといてよ!」


「おっけ!火炎魔法!」チリチリ


「…なんかムカ付くんだけど…触媒無駄遣いしないでくれる?」


「おっけ!」


「ちょ!!私の真似止めて!!」


「もう飛べるな?木に縛ってあるロープも外すぞ?」


「ほら女エルフも早く乗って!!もう上がっちゃうよ?」



剣士が魔法を使って炉に火を入れたお陰で球皮への熱の入りが早かった


準備に手間取る事無く気球は高度を上げだす…フワフワ



「ふむ手際良い…火起こしの早さがそのまま飛ぶまでの時間短縮になった様だ」


「お姉ぇ!行き先どうする?戦場に直行?」


「そうだな…エルフの森南部までは1日以上は掛かるな?その間に千里眼で目標を定めよう」


「よっし!!風に乗る!!剣士…縦帆開くのお願い!2つとも展開して」



ここからシャ・バクダ方面へ飛ぶには偏西風と逆行する事になる


しかしこの気球は帆の角度次第で逆風でも30度の角度で進行が可能だ


エルフの森南部へ行くには丁度良い角度だった


ビョーーーーウ バサバサ



「さて…この広大な森の中にいる対象をどうやって探すかだ…何か目標物は見えんのか?」


「森の中を歩いている」


「それでは探せんな」


「お姉ぇ!女エルフが森の地図を描いてくれてる…見て!?」


「…荒すぎるが…この南北に走る線は何だ?」


「それは断崖…そこから東は低地になっていて飛び降りることも戻る事も出来ない所」


「ふむ…私が人間の立場なら断崖を背にして野営を張るな」


「ほんじゃ断崖のこっち側なら気球で行っても安全だね」


「一旦断崖を目指して人間側の陣の張り具合を見るか…」



千里眼でその目を見ている剣士に何か変化が有った様だ



「沢山の人が集まっている…20人くらい」


「耳が長い?」


「…長い人も居るけれど…少し違う格好のひとも居る」


「違う格好?…なんだろう?」


「布の様な物を渡された…これが文字なのかな?何かの模様が沢山見える」


「エルフは文字を使わない…それは人間ね」


「周りの人が弓を構え始めた」


「ふむ…どうやら何か交渉を始めているな…当然の流れだが」


「弓を構えているのはエルフ?人間?」


「耳が長いからエルフだ…」


「なるほど…人間側が交渉を持ちかけたな?ドラゴンは見えるか?」


「今は見えない」


「私がエルフなら交渉を有利に進める為に隠し玉のドラゴンライダーを見せるな」…と女戦士


「私が人間だったら捕虜を見せる…どっちが有利?」…女海賊はそれに逆張る


「…人間が有利よ…エルフは同族を見捨てないから」…女エルフには願望が含まれている


「いや…この場合エルフ有利だ…伝説が本当ならばドラゴンライダーで数万の兵は壊滅する」


「マジか…ほんじゃ捕虜を盾にする」


「人間側はそれしか生き残る術が無い…だから交渉へ持って行こうとして居るのだ」


「交渉が終わったのかな?…布切れを渡した人が遠くなって行く」


「察するに人間側が和平の条件を伝令に来たのだ…動きがあるとするなら明日以降だろう」


「僕はこのまま目を見ておくね?」


「そうしてくれ…動きがあるなら教えるんだ」


「うん…」



剣士はそのまま千里眼で見る目を通じて居場所の特定をしようとしたが


目立った動きも無くなかなか特定出来ないでいた


しかし元の世界で見る目の動きは狭間の中から見る動きよりも自分の感覚に合っていたから


どんどん見える物が何なのか分かって来る様になって来て情報量が多くなる


エルフ達の顔…その表情から関係性が想像出来た


それは他のエルフから母の様に慕われる存在でエルフ達の中で中心的な位置に居る


剣士にとって本当の母が見ている世界は


まるで今自分が生まれたかのような錯覚を起こさせ剣士の心に深く入り込んで来る


母と一体になった瞬間だった




夜…


気球は順調に森の中の断崖を目指して進んでいた


しかし薄靄の掛かった森は月明かりで薄く光りその全容が見通しにくく断崖を見つけるには至っていない




「あとどれくらいで断崖だ?」


「夜明け前には着く筈だけどね…野営していればもう火が見えててもおかしくないよ」


「靄が掛かっていて見えんな」


「もう少し高度下げようか?」


「そうしてくれ」



高度を下げると気球も靄の中に入り夜空が見えなくなる


明るく光る月だけが方角を示す道しるべだ



「どう?」


「靄が濃い」


「女エルフ!?断崖の高さってどんくらいあんの?あんまり高度下げると正面からぶつかっちゃうよね?」


「300メートルくらい」


「高っか…聞いてて良かった」


「それ程の高さなら目視出来る筈…まだ先か?」


「森で覆われていて分かりにくいと思う…100メートルを超える木も沢山あるから」


「聞いたことがあるな…木の上に木が生えているらしい」



ワオーーーーーン アオーーーーーーン



「遠吠え…剣士!?何言ってるか分かる?」


「侵入者…」


「ん?こんな所でか?今は断崖の下の筈だ…戦隊の展開を読み違ったか?」


「高度上げないと断崖にぶつかるよ…」


「やってるって!!お姉ぇちゃんと前見てて!!少し旋回しながら上げる」


「ちぃ…靄が濃い」


「…この土の匂い」クンクン


「トロールね」


「上にトロール!!」


「上だと!?うわ!!」



ヒューーーー


上空から土砂と一緒にトロールが降って来た…ドシーーーン!



「…落ちて行った」


「あぶぶ…断崖すぐソコじゃん!!やっぱ暗い所で高度下げるの無いわ…」


「急いで高度上げろ」


「やってるって!!」


「見て!!断崖の淵」


「なるほど…トロールの足をすくって谷底に落としてる訳か」


「こっちに気付いた様子は無さそうね」


「まさか断崖の下から気球が上がって来るとは思わんだろう…」


「ちょい断崖から距離離すよ」


「野営跡が見えるな…という事はここは最後尾だ!断崖沿いに北へ進路を変えろ」


「アイアイサー!!」



気球は断崖から弓の届かない安全距離を保ったまま北へ進路を変える



「見えたぞ…断崖から少し森に入った所にちょとした拠点を作っている…あれが本隊だ」


「見せて見せて?…んんん?攻城塔が沢山あんね」


「トロール回避の為に木の上が寝床になっているのだろう…長期戦の構えなのだが…」


「あの攻城塔は弓が怖くて近づけないなぁ…くそデカイ弓も設置してんじゃん」


「射程外の高さを維持しろ…おそらく徒歩で1日程前方が最前線だ」


「こんな場所に拠点構えてさぁ…補給どうすんだろ?」


「ドラゴンさえ居なければ気球で問題ないな…しかし今は満足に補給出来ん状況…だから交渉なのだ」


「それにしても良くこんな拠点作ったね…堀も柵もあるし」


「人海戦術の成せる業だ…」


「これさぁ…私たちの所にドラゴン来たらどうすんの?」


「こっちにはエルフが居る…襲って来ん事を願え」


「下!!」


「んん?行軍してるな…夜明け前だというのに」


「やっぱ暗いからこっちの気球には気付いてないっぽいね」


「うむ…しかし何故これほどの数で夜行軍をして居るのだ?」


「前方に光が沢山見えてきたよ」


「多い…包囲しているのか?…いや違うなトロールを焼いているな」


「燃えているのはトロール?」


「そうだ…トロールは火で炙ると動きが鈍くなる」


「良い目印!トロールの向かう先に行く!」


「待て!!場所は把握した…夜明けまで高度を上げて様子を見る…向こうに発見されてしまっては動きにくくなる」


「おっけ!」


「剣士!千里眼を頼むぞ?ピンポイントで対象に接触したい…出来るだけ詳細に頼む」



気球は弓が届かない安全高度まで離れ人間側の部隊展開状況を把握する


いくつもの分隊に分かれ多方面から攻め入る布陣に指揮系が優秀である事が伺えた



「…東と南の方にもドラゴンが飛んでる…やっぱり旋回してるだけ」


「ちぃ…随分広範囲で分かれてるな…的が絞れん」


「やっぱりドラゴンは全部で8匹だね」…ここでも機械式望遠ゴーグルが役に立った


「剣士!どこら辺なのかまだ分からんか?」


「目印になるものが何も無いよ」


「まだ人間と会話しているのだな?」


「うん…何かを待ってる…」


「むぅ…どの部隊と接触しているのだ?」


「もう少し高度下げよっか?…」


「あ!!あれは馬か?馬車が何台も来てる」


「夜行軍の部隊か!!東の方角だ…引き返せ!!」


「おっけ!高度下げながら行く」


「馬車の中から…傷付いたエルフが沢山出てくる」


「なるほど…捕虜の交換だな」


「…歩き始めた」


「行き先をよく見ておけ?捕虜交換後に救出に動く」


「馬車の方に向かってる…ん?黒いエルフ…ダークエルフとすれ違った」


「え!!?ダークエルフと交換?」


「振り返った…ドラゴンが1匹見える」


「見つけたぁぁぁぁ!!あそこ!!あのドラゴンだけ1匹」


「交渉中だ…高度下げて様子を伺う!!」


「はっ!!倒れた…」


「なにぃ!!?」


「ナイフが胸に刺さってる…血が溢れて…ダークエルフにやられた」プルプル



剣士はその目を見て小刻みに震えていた



「ああぁぁ…マザーエルフ様!」


「ドラゴンが火を吹き始めた!!やっぱあそこ!!」


「逃げて!!逃げて!!早く!!うぁぁぁぁぁ」



剣士はその目を見て感情的になり始めた



「ええい!弓のギリギリ射程外まで下げて近づけ!!」


「やってる!!」


「こちらを見つけたな!?女エルフ!!弓で応射しろ!!」


「分かった!」ギリリ シュン



女エルフは弓を射かけて来る人間達を次々と仕留めて行く



「お姉ぇ!!これ以上高度下げられない…危険すぎる」


「とにかくあの倒れているハイエルフを追え!!」


「こんな高さじゃ降りらんないよ?」


「…」ダダダ


「剣士!!何をする!!」


「ちょ…ロープ使って降りる気?」


「おい!待て!!早まるな!!」


「助けに行く!今行かないと間に合わない」ピョン シュルシュル



剣士は静止を聞かずロープを持ってそのまま飛び降りて行った



「あ!!剣士…私も援護に行く」


「むぅ…仕方あるまい…矢を多めに持って行け!」


「ありがとう」ピョン シュルシュル



女エルフも続いてロープを伝って剣士の後を追う



「どうするどうするどうする…」…女海賊は状況がどんどん変わって行く事に慌てていた


「女エルフ!最後の集合場所は星の観測所だ!!」


「分かったわ!!」



そう言い残して女エルフは飛び去った



シュンシュン ストスト!!


地上から射かけられた矢が船体に刺さる音がした




「ヤバ!!矢が届いてんじゃん…離脱!!」


「届かん距離で上手くコントロールしろ!!私も援護で弓を撃つ!!」ギリリ シュン




女海賊は一人で気球を上手く走らせ女戦士は倒れたハイエルフへ追いすがる部隊の進撃を弓矢で足止めする


矢を十分乗せて居たお陰で上空からの援護は上手く働いた





『前線第一部隊』


剣士と女エルフが気球から降下する前夜の事


人間が率いる最前線の部隊の中では和平交渉に向けて捕虜交換の準備が進められていた



「…エルフはこちらの要求を呑むという事だな?」


「条件付きですが…」


「こちらが出せる条件だろうな?」


「全捕虜に加えてダークエルフとの交換で指輪を持つハイエルフがこちらに来るようです」


「ハイエルフが捕虜になるのか…厄介だな」


「その様で…」


「貴族の連中がハイエルフに魅了されるのは目に見えている…しかしこちらも厳しい状況」


「これ以上の損耗は士気を下げてしまいます…」


「捕虜の移送は間に合うな?」


「馬車を使えば明日の朝には前線入り出来ます」


「問題はダークエルフの方だが…」


「ダークエルフ含む法王庁の部隊はたった二個中隊で我々の左前方に位置します」


「分かっている…漁夫の利を得ようと最前線より前に出ている事もな…小賢しい」


「何故かトロールの襲撃を受けていないのも怪しいですね」


「ダークエルフを査問で捕らえられるか?大将からの書状は私が後で何とかする」


「法王庁が言う事聞くでしょうか?」


「法王庁は和平交渉の件は知らぬ筈…勝手に動かれるのも困るのだ」


「大将からの書状では無く第一皇子からの書状という事になりませぬか?」


「私に虚偽文書を書けと言うのか?」


「交渉が上手く行けば第一皇子の株も上がりましょう…しいては大将及び部隊長も…」


「軍法会議ものだが早期決着の為にはやむを得んか…」


「急ぎで私がダークエルフを捕らえて参ります」


「よし!!特使!!本部へ戻って大将に和平成立を先行して報告して来い」


「ハッ!!」


「精鋭兵!書状は直ぐに書く…必ずダークエルフを捕らえてこい」


「ハッ!!」




人間側の軍隊の中では作戦行動を別にする法王庁の部隊が目障りに映っていた


とりわけその中で暗躍するダークエルフの存在は不気味で信用出来ない存在だ


あからさまに漁夫の利を得ようとして居るのが見え見えなのだ


軍隊最高位に位置する第一皇子からの偽の書状で首尾よくダークエルフは査問の為一時拘束された


それでも不敵に薄ら笑いを浮かべ大人しく従う…そして牢に入った




翌朝…和平交渉の為捕虜となったエルフ達に加え拘束されたダークエルフも交渉の場へ連れられた


人間側の部隊はその交渉を後方から見守り不測の事態に備えて待機していた


設置された移動用攻城塔は戦線の目安になって居たが監視塔の役割も兼ねている



「ドラゴンは上を尚旋回中!戦闘の意思は無い模様…ん?未確認の気球1機がさらに上空を飛んでいます!」


「行き先は分かるか?」


「旋回してこちらへ回頭しています…左後方から接近中!」


「後方の本隊は視認できるか?」


「狼煙は見えますが隊の展開状況は確認できません」


「前方の交渉状況を報告しろ!」


「特使が敵方エルフと3匹と対峙…捕虜交換の最中です…上空のドラゴンは低空で威嚇しています」


「部隊の展開状況は?」


「弓兵隊配置完了!歩兵隊は包囲網を展開中!」


「未確認の気球!!さらに接近!!弓兵隊が警告射撃を始めました」


「回避する様子は!?」


「ありません!!応射して来てます!!」


「むぅ…法王庁の気球か?それとも第2皇子の別働隊か?」


「捕虜交換開始!!女型のハイエルフが一人でこちらに来ます!!」


「よし!!順調だな?」


「自軍捕虜解放!!ゆっくり2匹のエルフの方へ向かいます…あ!!女型ハイエルフが倒れました!!」


「なにぃ!!」


「ドラゴンが戦闘態勢!!背中にエルフを乗せています!!ドラゴンライダーです!!」


「くそう!!謀られた…エルフめぇぇぇ全隊戦闘態勢!!」


「女型ハイエルフ…倒れたまま動きません」


「捕らえろ!!盾にして撤退戦に移行する!!」


「ドラゴンがブレスを吐き始めました!!弓隊一斉射撃開始…未確認の気球から何か降りてきます!!」


「撃ち落とせ!!弓隊!!女型ハイエルフが逃げる前に足を撃て!!」



合図と同時に方々から銅鑼が鳴り始め一斉に弓の射撃が始まった


それはエルフの耳の攪乱と部隊への作戦連絡を兼ねていた


シュンシュンシュンシュン!!


一斉放たれた矢は倒れている女型のハイエルフを襲う



「女型ハイエルフ動きます!!東方向…弓ヒット!!転倒」


「東か…トロール用のベアトラップに追い込め!!ん?気球から降下してきているのは…飛んだ?」


「白いウルフ1匹と女型エルフ弓タイプ!!自軍の前方に降下します」


「ええい!エルフ勢は気球も使うか…アレを打ち落とせぇ!!」


「各部隊…戦闘開始した模様!!開戦の合図が出ています!」



上空でブレスを吐き始めたドラゴンは遠方からでも良く見える


その様子を見た他の部隊もその異常を察知し各地で戦闘開始の狼煙を上げた


森に火が放たれ自軍に有利な状況を作り始めて行く


人間側は森を燃やす事で魔物の行動を制限していたのだ



「ええい!…女型ハイエルフはまだ捕らえられんか?」


「歩兵隊でベアトラップ地帯に追い込んでいます!」


「弓隊の射撃が薄くなってきたな…」


「ドラゴンライダーです…アレに乗っているハイエルフの弓が正確すぎる!!」


「それにあの未確認の気球からも弓隊を狙い撃ちにされて前に出られない様です」


「ベアトラップの向こう側は第2部隊が展開している筈だ…粘って合流する」


「報告!報告!女型ハイエルフがベアトラップに掛かりました!」


「ようし!!でかした!!」


「新敵発見!!ケンタウロス槍タイプ4体…後方です」


「むぅ…弓隊の被害状況は?」


「半数が怪我を負って今後退中です」


「歩兵隊で女型ハイエルフ捕獲に動け!弓隊と盾隊は後方のケンタウロスに当たれ!」


「歩兵隊!!前進!!」


「降下した白いのと女型エルフは何処へ行った?」


「見失いました…いえ!!横!!すぐそこ居ます!!回避!!回避!!」


「精鋭兵隊!!迎え撃て!!」


「白いのを狙い打てぇ!!」



森の中での剣士の動きは人間達の目には異常に映る


木々の間を高速で飛び回り掴まった木の幹で向きを変え縦横無尽に飛ぶ姿はまさに白狼の剣士


襲い来る矢の嵐は剣士にとって避けるのはそう難しくない事だった



「早い…おのれぇ…ちょこまかと…」


「なんだあの白いウルフは…木から木を飛び移つ…ぐぁ!!」シュン グサ!


「女型エルフの矢が木の陰から飛んできます!!退避して下さい!!」


「目標を女型エルフに変更!!撃てぇ!!」



司令塔になっていたこの攻城塔は剣士と女エルフに挟まれた形になっていた


背後の木陰から撃って来る女エルフに目標が変わり弓の射撃はそちらへ向く


シュンシュン!



「外しましたぁ!!あ!!白いのが炎を出しています…ブレス!?」


「な…なにぃ!?ウルフでは無いのか?」


「小型ブレスを吐きます…あの魔物は報告にありません!!新型の何かです!!」


「ブレス来るぞぉぉ!!散開!!散開!!」



剣士が放った炎は小振りながらも的確に攻城楼を燃やした


次々放たれる炎であっという間に燃え盛る



「攻城塔!!燃えます…消化急いで!!」


「くそぅ…叩いて消せ!!」パン パン


「白いのはベアトラップ方面に移動…うわぁぁぁ女型エルフが狙って…ぎゃぁぁぁ」シュン グサ


「たった2匹に翻弄されるか…」


「ゆ…弓隊が後退しています…ケンタウロスを倒せていま…せん」


「全隊!!ベアトラップ方面に後退する!!第2部隊と合流する…続けぇ!!」




最前線を支えていた第1部隊はこれで攻城塔を失い徒歩でのゲリラ戦に移行する


第2部隊と合流し女型のハイエルフを挟み撃ちにして捕らえる作戦だ


負傷者が続出する中行軍速度はどんどん低下し精鋭部隊として力を出せなくなっていった




ゴォォォォォ


「なんだアレは…竜巻か?」


「徒歩だとしっかり確認できませんが竜巻魔法のトルネードと思われます」


「あの女型ハイエルフはメイジ型だったという事か」


「トルネード3つ見えます」



チュドーーン ゴゴゴゴ



「火柱に変わりました!!高位魔法のボルケーノです!!」


「先行している歩兵隊は見えんか?」


「ちょっと待ってください…木の隙間の煙が切れれば…」


「歩兵隊が敗走して戻ってくる様です…やられたか」


「見えました!!女型ハイエルフは依然ベアトラップに掛かっています…あ!!」


「どうした!?」


「膝から下を切り落としました…這って逃げています!第2部隊方面」


「ようし!!…まだ包囲している状況だ!逃がさん…」


「上空のドラゴンは後れを取っている弓隊と戦闘中の模様」


「精鋭兵!!ベアトラップはまだ在る筈だな?」


「2重に置いています…このまま進めばもう一度掛かります」


「一気に捕獲する!前進!!」


「女型ハイエルフ目視!!前方…追いつけます!!」


「捕獲して第2部隊に合流するぞ!!後れを取るな!!」


「見えた!!走るぞ!!んん?しめた…またベアトラップに掛かった…確保!確保!」



指輪を持つハイエルフを追い詰めた人間の精鋭部隊はすぐ目と鼻の先まで迫る


魔法で散らされてしまわない様に盾を構えながら慎重に包囲し始めた


そこへあの白い魔物…白狼の剣士がその剣に炎を纏わせ切り込んで来た


一振り一振りが炎を散らしその炎で硬い鎧を身に付けている兵隊の中身を焼く



「ぎゃぁぁ…白い奴」メラメラ


「白い新型は燃える武器を所持!!アレは人型です…頭部がウルフ?」


「ウェアウルフか!!ええぃ邪魔をするな」


「精鋭部隊!!盾を構えろ…はぁはぁ」


「ブレスに注意しろぉ!!…ぐぁ!!」シュン グサ


「後ろから弓…女型エルフかぁ!!」


「…精鋭兵…指揮を変われ…まか…せ…た」ドタリ


「くそぅ…指揮官をピンポイントで狙ってくるとは…出来る」


「白い新型の動きが止まりました!!何か来ます!!」


「盾で守備!!そのまま前進しろぉ!!」



ガガーン!! ビリビリ!!


落雷が落ち周囲にその電撃が伝わる…部隊の動きが一斉に止まった



「な…落雷だと!?」


「分かりました!!白い新型はメイジ型です!!今のは雷魔法…うゎぁぁ」ボウ メラ



白狼の剣士は攻撃の手を休めない


高速で移動しながらその左手で次から次へと魔法を連射し始める



「火炎魔法…むむむ色々やる…全隊!!新型に構わず強硬突破!!女型ハイエルフの確保優先!!」


「ダメです!…遅い…女型ハイエルフはもう一つの足も切り落として逃げています…東方向」


「お前は走れるか?」


「なんと…か」


「良し…まだ見える!この先は崖だったな?」


「う…上にドラゴン接近!!」


「万事休す…全隊!!ブレスに備えろぉぉぉ」



ギャオーーース ゴゥ ボボボボボボボ


ドラゴンが吐く炎は広範囲で兵隊を炎で包む



「ぐはぁ…圧倒的ではないか」


「第2部隊が上手く捕獲するのを願うしか…」


「全隊…各自小隊に分かれて第2部隊に合流せよ…第1部隊は指揮系統壊滅」



最前線に位置する第1部隊で展開した戦闘は白い魔物の出現により攪乱され作戦行動不能に陥った


加えてドラゴンライダーの加勢により指輪を持つ女型のハイエルフを逃してしまう


その現場での戦いは弓矢の十字砲火に加え魔法の乱打とドラゴンのブレスにより熾烈を極める


戦いの中心に居たのが剣士と女エルフ…この2人で大軍を寄せ付けないで居たのだ




『第2部隊』


ドーン ドーン



「第1部隊方面で激しい爆発が続いています…こちらの方に移動中と思われます」


「ううむ…こちらは崖を背にして退路が無い」


「南方面に未確認の気球が旋回しています」


「上空のドラゴン2匹は何処に行った?その気球はドラゴンに襲われんのか?」


「敵の観測用気球でしょうか?」


「部隊の展開状況が筒抜けという訳か…撤退せねばならん」


「ドラゴンは現在第1部隊方面へ向かった我が隊の斥候隊上空と思われます」


「よし…斥候隊を囮に我が隊は崖沿いを南へ回る!!全隊移動開始!!」


「第1部隊方面より敗走兵が来ています」


「衛生兵!!保護して状況を聞き出せ!!」


「我が隊の弓兵隊が北方向に弓を撃っています!!」


「何に襲われているのか確認急げ!!」


「ん?足の無いハイエルフ…が森を這って出てきます」


「なに!!もしかすると捕虜交換のハイエルフかもしれん!!」


「4つ足で割と速いスピードで東方面に移動中…我が隊の弓がそこそこ当たっている模様」


「恐るべき生命力だなハイエルフは…ここから確保に向かえそうか?」


「東は崖で行き止まりです…飛び降りなければ間に合います」


「騎兵隊なら追い付けるな!?足の無いハイエルフの確保に向かえ!!その他は南に移動を継続!!」


「報告!!森の切れ目周辺に小爆発!!」



ドーン ドーン



「出てきました!!白い魔物と女型エルフ…爆発の正体は白い魔物です!!」


「こちらに来るか?」


「いえ…足の無いハイエルフ方面へ向かってます」


「こちらの騎兵隊はハイエルフまで接触どれくらいだ?」


「あと30秒ほど…森から小隊がいくつか出てきます…やはりハイエルフを追っている様です」


「やはりそのハイエルフがキーマンの様だな…ドラゴンは何処行った?」


「あぁぁ…ドラゴンもハイエルフ方面へ…2匹です」


「私も目視する…どこだ?」


「白い魔物の吐くブレスで友軍が近づけない様です…このままでは騎兵隊も…うぁ!!」シュン グサ


「なにぃ!!ドラゴンライダーからの弓はあんな所から届くのか…」


「部隊長…ここは危ないです隠れてください」


「構わん!!盾に隠れて見る」


「ハイエルフは崖に到着しました…ドラゴンは友軍と戦闘開始!!」


「よし…騎兵隊がハイエルフを取り囲んだな?」



ピカッ チュドーーーン



「ハイエルフ!!爆発!!」


「魔法か…騎兵隊はどうなった!?観測できるか!?」


「騎兵隊消失…」


「なんという事だ…高位魔法か…これでは勝てん!!全隊!!南の本隊への合流を急ぐ!!」


「ハイエルフの生存確認!!崖を飛び降ります…」


「我々は敵を知らなさ過ぎた…魔物がこれほどまで強力になっているとは…」


「友軍…森の中へ撤退しています!…あ!!白い魔物に女型エルフが乗りました」


「ん?アレは何なのだ?ウルフなのか?…どうするつもりだ?」


「崖の方へ…」


「まさか飛ぶ…だと?」


「崖を走って…え?下に走ってる」


「もう観測は良い!急いで本体と合流して撤退戦だ…魔物の個体戦力が高すぎる」



ドラゴンライダーの機動力と戦闘力は想像を超えていた


森の中だから広範囲のブレスで焼かれるのは軽微に済んだが背に乗るエルフの弓矢が正確で少しづつ戦力を削がれる


上空をドラゴンライダーに完全に抑えられて状況で人間の軍隊は撤退をして行くしか無かった





『森の下層』


ここは断崖から降りた最も森の深い所


木の上に木が生え空を見通せないぐらい木が生い茂る


剣士は断崖を飛び降り生い茂る木をクッションにしながら最下層まで辿り着いた


シュタタ シュタタ ズザザー



(剣士!!無事?)


(大丈夫…あっちだ)シュタタ


(ここまでは人間も追って来ない様ね…)


(あの木の横)シュタタ



巨大な樹木の幹にもたれ掛かる様にして傷付いたハイエルフが倒れていた


体には無数の矢が刺さり失った両足から出て来る血液ももう無い…見るからに瀕死の状態だった



(ぅぅぅ…はぁはぁ)


(回復魔法!回復魔法!回復魔法!)ボワー


(マザーエルフ様…)



女エルフはそのマザーエルフの痛ましい姿を見て立ちすくんだ



(あ…あなた達はハーフエルフですね?私はもう助かりません…この指輪を持ってハッ!!)


(回復魔法!回復魔法!回復魔法!)ボワー


(坊や…その目は坊や?…こちらを向きなさい)


(……)剣士はマザーエルフの顔を見上げた



両足を失っても尚剣士よりも大きい


体格が全然違うそのハイエルフを見上げて母を感じた



(早く…この指輪を使ってあなたの瞳を望みなさい…私の命が尽きてしまう前に)


(今助ける!回復魔法!)ボワー


(言う事を聞きなさい!私の心臓が止まってしまう前に…)


(剣士!!言う事を聞いて!!先に瞳を望んで!!)


(…この指輪で)



ハイエルフの大きくて長い指からその指輪を預かった



(早く…命が尽きてしまう前…に…)


(僕の瞳を!!)…指輪を握りその瞳を望んだ



その瞬間目の前が開けた


金髪の長い髪…長い耳…白い肌…そして安堵の表情で見下ろして来るそのハイエルフは少し微笑んだ



(剣士!?…あなた…瞳が青い)…女エルフはその瞳を見て驚く


(本当に…間に合って良かった…あなたは特別な子)


(見える…母さん…だね?)


(その指輪を使って夢幻から精霊を解放しなさい…これはあなたにしか出来ません)


(どうして僕の瞳を奪ったの?どうして白狼に預けたの)


(光の無い世界で生きたあなたは真実を見る眼が養われた筈です…夢幻の中で真実を探しなさい)


(夢幻?真実?)


(ごめんなさいね…あなたを捨てるつもりはありませんでした…でも仕方のなかった事)


(……)


(正しい心を持ち…真実を見る眼を養う為にはエルフの森から出る以外に無かったのです)


(母さん…僕はもう失いたくない)


(エルフの魂は森の一部になるからいつでも会えますよ?ゴホゴホ…)


(マザーエルフ様…心臓の音が…)


(最後に一目坊やの顔が見れて良かった…大きくなり…ました…ね)ナデ



大きな手が一瞬頬に触れ…その手はそのまま力尽きて落ちた



(ぁぁぁ…母さん…又大事な人を亡くしてしまった…)ギュゥ



剣士は2度目の母の死を悲しく思いその亡骸を強く抱きしめた


それを邪魔するかの様に黒い影が忍び寄る



ダダダッ ドン!! シュタッ



(うぁ!!)ズザザ


(悪いがこの指輪は頂く!!痛い目を見たくなければ手を引け!!)



そこに現れたのは黒い肌をしたダークエルフ…剣士と同じ銀髪だった



(お前は!!母さんの心臓にナイフを…)


(ダークエルフがその指輪を使って何をする気!?)ギリリ



女エルフは弓矢の狙いを定めている



(おっと…同族殺しはお前もダークエルフになるぞ?いいのか?)


(答えなさい!!)


(ふっ…ハイエルフは祈りの指輪の使い方を間違ってんだよ…これは破壊しなければならない)


(その為に戦争を扇動したのはあなたね!?)


(ハイエルフが黙って指輪を差し出せばこうはならなかったんだ!自業自得だ)


(うぅぅぅぅ…)スラーン チャキ



剣士は母の命を奪ったそのダークエルフが許せなかった


そして瞳を取り戻した剣士はその時何かに覚醒を始めて行く


その目に見えたのは0と1の世界…空間を操る力が目覚め始める



(やる気か?)


(火炎魔法!)ゴゥ ボボボボ



(おっとあぶねぇ…お前らに構って…うぉ!!」ザク



剣士は空間を瞬時に移動してダークエルフの懐から剣戟を浴びせた


かろうじて交わすダークエルフの目からはその動きを目で追えない



(この動き…お前!犬神だな?)タジ


(このぉ!!)ブン ザク


(つうぅぅ…分が悪いか…)シュタタ



隙を見てダークエルフは逃げ始める



(逃がさない!)ピョン シュタタ



ピーーーーーーーー!!



(笛!?剣士!!気を付けて!!)



次の瞬間無数の矢が剣士に向かって放たれる



(いつの間に囲まれてる…ウルフの遠吠えは軍の侵入だったって事?)


(うぁぁぁぁ!!)シュン! ザク!



剣士は空間を瞬時に移動して距離を詰める



(ぐぁ…)ボトリ


(スゴイ…あの距離から片手を切り落とした…)


(グルルルル…こっちの手じゃない!!)


(ダメ!!剣士…弓が狙ってる)



シュンシュンシュンシュン!! グサグサ!!


放たれた矢は剣士を捉えた


怯む間もなく剣士はダークエルフに追いすがる



(グルルルル…ガウルルル!!)シュタタ


(下がって剣士!!…あぁぁぁ矢が当たってる)


(ガルル)ピョン クルクル シュタ


(敵が多すぎる!!剣士ダメ!!ハァハァ…我を失ってる)



剣士は冷静さを失っていた


音を聞き矢を避ける行動が出来なくなっていたのだ


放たれた矢は剣士を捉え始め徐々に体力を失って行く


ここでも又白い魔物として暴れる事となる




一方断崖の下で秘密裏に部隊を展開して居たのはセントラル第2皇子が率いる特殊部隊だった


始めからダークエルフが指輪を奪い断崖に降りる作戦でそこに待機していたのだ




「ダークエルフ戻ってきます!負傷している模様!!」


「衛生兵!保護して後方部隊まで下がれ」


「敵は2匹!!メイジ型と弓型!!押し通って来ます」


「メイジ型に集中して撃て!!」



シュンシュンシュンシュン!!



「ヒット!!怯みません!!自己回復しながら押し通って来ます」


「単騎で特攻か…信じられんな…歩兵で止めろ!!」


「魔法を連射して来ます!!回避!!回避!!」



ドーン ドーン パーン



「前衛部隊全滅!!ダークエルフ捕まりました!!あ!!足を切り落とされて転倒」


「ええい!!ダークエルフの保護最優先!!弓隊!!集中砲火」


「歩兵が対象を確保!!…ああ!!なんだ!?ダークエルフの手足が生えてきた…え?」


「なに!?何が起こっている?」


「歩兵が何故か手足を負傷…ダークエルフ逃げ帰ってきます…どうなってるんだ?」


「観測主!!正確に報告しろぉ」


「は…はい!!メイジ型は魔法連射で前衛は近寄れません!!被害甚大!!」


「弓だ!!ハチの巣にしろぉ!!」


「後方でウルフの群れが現れた模様!!混戦になります!!」


「弓隊はメイジ型に集中砲火続けろ!!」


「ヒット!!メイジ型が止まりました…あ!!弓型がメイジ型を引っ張って行きます」


「よし!下がったな?今の内に後方のウルフへ向かい撤退戦に移行する」


「敵2匹は木の陰に隠れました!!視認できません」


「そっちはもう良い!!矢を何十発も受けて無事で居るものか!!後方へ移動!!」




『木陰』


女エルフは矢を受けて傷付いた剣士を引きずり木陰に隠れた



(あぁぁどうしよう…血が止まらない!剣士!剣士!?)


(ガルル)…剣士は既に正気を失っている


(動かないで…精霊よお許しください)


(回復魔法!回復魔法!回復魔法!)ボワー


(あぁぁ血が止まらない…急所に当たってる…そうだ!!魔女様が私にも出来ると…)


(魔方陣のペンダント…これを下に置いて)


(蘇生魔法!)ポワ


(回復魔法!回復魔法!回復魔法!)ボワー


(矢を抜かないと…)



剣士は急所に矢を受け瀕死の状態だった


女エルフは剣士を生かそうと懸命に知り得る魔法を駆使して治癒した


その様子を目にしたドラゴンライダーが寄って来る



ギャオース バッサ バッサ



(ドラゴンライダー!!)


(指輪は無事か!?)


(ダークエルフに奪われました!…まだ近くに居るはず)


(トロールが動ける夕刻までここで待機しろ!我々は南進する!)


(私たちは?)


(森の声を聞いて集結しろ!指輪を奪い返す!)



ギャオース バッサ バッサ


ドラゴンライダーはダークエルフを見失わない様に直ぐに飛び立って行った



(剣士…あなたは怒りで心がどこかへ行ってしまった)


(目を閉じて瞑想で私に重なって…連れ返してあげる)


(ここに居るから重なって…)



エルフ達は傷を癒す為に木陰で瞑想をするのは普通の事だ


これで森と同化して体を癒しながら森の声を聞く





『気球』


一方女海賊と女戦士が乗る気球では剣士と女エルフが降下した後に乱戦に巻き込まれていた


球皮に矢が当たり高度を上げられない…安全高度を維持できなくなっていた



「だめだぁ…高度上がんない」


「一旦離れて直すしかないな…」


「こんな所で降りたら木に引っかかっちゃうよ」


「崖を北に沿って行け…森が切れていた筈だ」


「エルフの森にちょー近いじゃん!大丈夫かなぁ…」


「祈れ…それにしても剣士たちを見失ってしまったのが…」


「どうせドンパチの真下なんじゃないの?」


「これほど激しいともう近寄れんな…まさか竜巻が出るとは思っても居なかった」


「球皮が破れるかと思ったよ」


「見ろ…またドラゴンがブレスを吐き始めたぞ」


「ドラゴンに乗ったエルフもヤバイね」


「うむ…制空権を完全に制されていては人間側に勝ち目がないな…引くしかない」


「下から矢を撃ちすぎでさぁ…それを拾われて使われてるの分かってないのかなぁ」


「現場は必死なのだろう…相手の補給の事など考える暇も無い」


「矢が切れればドラゴンライダーも攻め切れないのにね」


「私はこれからが本番だと見る…トロールを前面に出してゴブリンの歩兵隊…そしてケンタウロス」


「うへぇ…」


「ドラゴンライダーからのピンポイント射撃ではまだ決定的に数を減らせていないのだが…」


「ん?それって人間側は立て直して来るって事?」


「戦争は最後に歩兵の数で勝つのだ…両者どれだけ相手の歩兵を減らせるかだな」


「数じゃ人間の方が圧倒的に多いね…長引くって事か…」


「うむ…気球を直したら一旦シャ・バクダまで引き返すぞ」


「剣士たちは置いていくの?」


「私たちは何も出来ん!仕方あるまい」


「なんか…こんなお別れの仕方したくなかったな…あいつまだ私より体ちっこいのに…」


「無事に帰って来る事を祈れ…私たちには他にやる事がある」


「ぬぁぁムカムカする!!しょうがないなぁ…」


「砂漠方面に敗走兵が沢山出るぞ…物資補給で商隊も溢れる事になる」


「盗賊ギルドも黙って見ているだけでは済まなくなりそうだ」


「徴兵で戦場に出なければいけなくなる可能性もある…やる事が山積みだ」


「ちょ!剣士と敵になるとか私絶対無理!!」


「では目立った事はせん事だな…この気球をセントラルに目を付けられてしまえば強制徴用間違いない」


「マジか…そんなんなっちゃうか」


「早い所球皮を直して撤収するぞ…あそこに一旦降ろせ」




その後エルフの森南部で侵略を進める人間軍と衝突した魔物達は


山岳地域からのミノタウロス、オーク、ハーピー


砂漠地域からのリザードマンが加わり勢力を増し


人間軍を押し返す形で南進を進める


魔物達の大反撃が始まったのである


その只中に白い魔物を操る女型のエルフも居た…

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