第7話 単独行動

『荒野』


ハズレ町を出て直ぐに日が落ちて真っ暗になった


松明もランタンも持って居なかったから足元を照らす明かりが無い


女海賊が捕まえていたサソリが夜になると少し光るからそれを明かりの代わりにした



「てかさ…あんたら暗くても見えるかも知れんけど私何も見えないんだよね」


「もう少し馬車の中に月の明かりを入れるとサソリがもっと光る筈よ」


「ちょい剣士!馬車の幌を半分くらい開いて来てよ」


「あ…うん…」



剣士は女海賊の言われるがまま幌を開いて月明かりを馬車に入れた



「おけおけ!!メッチャ光るわ…あんま幌開くと砂入って来るからそれぐらいで良い」


「君は蝋燭も油も持って居ないのにどうしてサソリなんかカバンに入れてるのかな?」


「うっさいな…サソリをペットにしようと思ったのさ」


「アハ…ペット?」


「あんたも私のペットだけど問題ある?」


「僕は光らないけどね…」


「ところで…どうすっかなぁ…このまま真っ暗な荒野走ってて良いのかな?」


「馬に牧草と水をあげる約束してるから何処かで休憩しないと…」


「もうちょい東寄りに進路変えて森との境界辺り走ろうか…荒野のど真ん中で止まるより良いよね?」


「魔物に襲われやすいけど…」


「てか木材も何も無いから焚火も出来ないじゃん」


「そうだね…食料もどうにかしないと君が又機嫌を損ねる」


「ちょ…何その言い方」



アオーーーーーン



「デザートウルフが遠くで様子伺ってる」


「あんたが居りゃ大丈夫っしょ?」


「友達では無いよ」


「私には襲って来ない筈」


「女エルフ…そういう事か…だから距離を保ってるのか」


「それはある意味守られてると思って良さそうだね」


「追っ手を気にしてるのかい?」


「一応ね…相手は盗賊ギルドだから謎の情報網持ってたりするのさ」


「まぁここまで離れればいっかぁ…ちょいもう一回さっきの魔法見せて?」


「女エルフ?足の具合は?」


「随分ラクだけど動かせない…」


「薬草乗せてるけど骨が露出してるのはどうにもなんないね…」


「行くよ?回復魔法!」ボワー


「ぁ…」


「いちいちエロい声出すなって」


「触られてはいけない所を触られている様で…声が出てしまう…」


「もう一回…回復魔法!」ボワー


「くぅ…」


「ちょ…あんたさぁ…魔法使えるの私知ってたカモ…私の夢ん中出てくるのやっぱあんただよね?」


「夢?」


「…って何メルヘンな事言ってんだ私…」


「回復魔法!」ボワー


「んんんんん…どうも何回も見てる気がするんだよなぁ」


「魔法が使えるのは才能のある限られた人だけよ?」


「あんたは使えんの?」


「ハーフエルフは純血のハイエルフから魔法を使うことを禁止されているの」


「そんな事は聞いてないよ…使えるか使えないか」


「エルフはみんな使える…でも使うとエルフの森から追放される」


「他にどんな魔法があるか知ってる?」


「沢山…火の魔法とか…風の魔法とか…」


「シャ・バクダまで3日は掛かるからさ…剣士!全部教えてもらいなよ」


「出来るかな?」


「私の勘は超当たる…ってかあんた本当は魔法使いなのさ…夢で見た」


「ハハ夢?」


「まぁ魔法の話は置いといて…女エルフ?あんた相当ヤられたね?」


「……」


「アソコ見せてみな?あちこちアザだらけじゃん」


「……」


「どうせ剣士は目が見えてないから…ハイ足開いて」



女エルフは顔を背けながら女海賊に恥部を晒す



「やっぱりね…あんた良くこんなんで我慢してたね?刃物か何か突っ込まれたん?」


「剣士!こっちも回復魔法…足もヤバイけどこっちもヤバイ」


「回復魔法!」


「ぁぅぅ」


「あんたさぁ…涼しい顔してるケド本当は瀕死だったんだね…」


「人間達から見たらエルフはみんなそう見えるの…」




『翌日』


一行は一先ず森の境界まで走りそこで休息を取った


荒野と違って草が生えて居たから馬の餌には困らなかった


ブルル~ ガフガフ



「ふぁ~あ…おはよう…馬の機嫌は?」


「2頭とも良い」


「そりゃ結構!…てか焚火に当たったまま寝ると暖かいけど乾燥が酷いな…」


「君は乾燥なんか気にするんだ…」


「んあ?嫌味?肌乾燥するとボロボロ皮むけてそれが臭くなるのさ…私自分が臭いの嫌なんだよ」


「水は一杯積んで有るよ」


「うん…ちっと水分補給する」


「もうすぐ日の出だから出発しようと思って居たけど…」


「あんま急がんでも良いんじゃね?あんた果物とか匂いで探せないの?」


「あぁ食料の調達か…匂いで分かるから直ぐに採ってきてあげる」


「おけおけ…ちょい私女エルフの着る物作っとくわ…流石にいつまでも裸にしとくのはマズイ」


「僕の毛皮じゃ足りなかった?」


「毛皮は良いけど裸がチラチラ見えんだよ…あんなんじゃ何処にも連れて歩けない」


「材料あるのかな?」


「馬車の幌を少し切って軽く縫い合わせるだけさ…どうせ夜になったら幌が邪魔だし」


「そう…森で何か良い物見つけたら持ってくる」


「はいはい!早く行ったぁ!!」



剣士は森の奥までは入らず直ぐに戻って来た


鳥達に果物のある場所を聞いてすぐにそれを見つけたからだ


その他にも木の実やキノコなどの食材を何度も持って帰って来てあっという間に数日分の食料は確保出来た



「なんだ速攻食材集まったじゃん…あんた森だと最強だね」


「全部鳥達が教えてくれたんだ…女エルフの事を気にしてるんだよ」


「ほーん…ちっと女エルフの着替え作るのもうちょい掛かるから出発の準備しといて」


「うん…馬車に馬を繋いで来る」


「女エルフは馬の所に居るみたいだけどもう歩けるん?」


「足の傷は塞がったよ」


「傷は足だけじゃ無いからあんま無理させない方が良いんだけど…」


「お腹の方?そんなに酷かったかな?」


「涼しい顔してるけどアソコの中色々やられてて痛い筈なのさ」


「そうだったんだ…もうミネラル使い切っちゃったよ」


「シャ・バクダまで行けば多分買えるからそれまで安静にしといた方が良い」


「分かった…呼んで来る」




その後2頭の馬を馬車に繋ぎ早々に北へ向かい出発する


商隊が走るルートは随所に馬を休憩させる場所が設けてあるが


盗賊ギルドの連中と鉢合わせになりたく無いから森との境界をこのまま北上する事にした


リスクになるのはゴブリンやオークなどのエルフと敵対関係にある魔物の襲撃だ


魔物の発見が遅れてしまわない様に森からは少し距離を取って走る


ガタゴト ガタゴト




「ふむ…馬車の幌で作ったチュニックだけど…まぁまぁの出来だね…」


「ありがとう…」


「これ幌の無くなった所はこのまま?」


「んぁぁ…昼間はそこから日が射してやっぱ暑いな…」


「ヤシの木が有ったら葉の部分を取って来ようか?」


「そだね…てかマテ…ヤシの実の方がが欲しい」


「ハハもし有ったら一緒に採って来るよ…代わりにりんご要るかい?」


「要る要る!お腹減ってたんだ」シャクシャク モグ


「妖精とウルフ、ドワーフにエルフ…全員魔物じゃん…何だろね?このパーティー」モグモグ


「剣士はウルフというよりも私と同じハーフエルフよ」


「やっぱそうなん?」


「ほら?私の耳も小さい」


「本当だ…でもちょっと尖ってるね」


「妖精から剣士の話を聞いたの…ウルフに育てられたって」


「そういや詳しく聞いたことなかったっけな」


「目の無いハーフエルフの事…私知ってる」


「え!?マジで?」…と剣士


「…あんたさぁ!私の真似やめて」


「知ってるって…どういう事かな?」


「私がまだ小さい頃…」



目の無いハーフエルフの赤ん坊が森から追放される儀式があったの


その子はエルフの特徴が一つも無かった


人間との間で生まれたハーフエルフはみんな耳が小さい


だからエルフの森では下級エルフと言われていじめられる


特にエルフの特徴を一つも持っていなかったその子は


まだ赤ん坊なのに森の外へ追放された


私はその追放の儀式の時にその子を見たことがある


そして目の中に瞳が無かった



「剣士の顔を見て思い出した…あの時の子かもしれないって」


「言われてみると女みたいな顔立ちだもんねぇ…エルフだったら納得」


「それはどれくらい昔の話?」


「私はまだ24年目…その時6年目くらいだから18年前?」


「ええ!?あんた18歳なの?私と1つ違うだけか…なんか男にしちゃ随分華奢だよね」


「体が小さいのはまだ成長しきっていないから…まだこれから大きくなる筈」


「そっか…ドワーフも30歳くらいまで成長すんだよね…同じか」


「僕は18歳なのか…」


「女エルフ?あんたはなんで人間に捕まったのさ?」


「ハイエルフは森を出る事は殆どなくて外の見回りはハーフエルフの役割なの…それでエルフ狩りに会ってしまった」


「あんたの他にも捕まっているエルフはいっぱい居るらしいね」


「人間の数は私たちエルフよりもずっと多くて逃げる時に罠にかかってしまう」


「ふむ…人間は悪い事ばっかりするなぁ…」


「人間さえいなければ不幸なハーフエルフも生まれないのに…」


「むむ…ピーンと来たぞ!?お腹の中に子供が出来ちゃってるかもね…」


「……」


「なるほど理解できた…エルフの森でハーフエルフが迫害される理由」


「エルフは同族を殺めてはいけない掟」


「だから追放という方法しか取れないんだね」


「もしお腹の中に子供が出来ていたら私はその子を愛せるか自信が無い」


「ごめん…もうその話は聞きたくない」…剣士は話を遮った


「ごめんなさい」


「あ…ごめ…剣士の事話してるみたいになっちゃったね」


「僕の母さんはここに居る」


「白い毛皮…」


「ずっと僕を愛してくれている…それで良い」




この時女海賊はエルフ達が人間を嫌う理由を理解した


ハーフエルフが不遇な立場に置かれて居て人間に食い物にされている現状を変えていくのは難しい事だと悟った


何故ならエルフ達の容姿は誰の目からも美しく…特に人間はその欲望を抑えられないから


そう言う人間を今まで沢山見て来たから…





『単独行動1日目』


馬車の馭者は妖精に任せて問題無かった…魔物の索敵は剣士が匂いを嗅いで探す


単独で馬車を走らせていても意外と何も起きない


剣士と女海賊…そして女エルフの3人は馬車の中でお互いの情報を交換し合う



「火炎魔法の触媒は硫黄と松脂」


「両方とも爆弾の材料だよ…持ってる」


「電撃魔法は銅の欠片」


「銅貨でいけるね」


「罠魔法は植物の種と水」


「種…鳥の餌でいけるんかな?」


「これらはエレメンタルの力を借りる代わりに支払う対価」


「はぁ?何のこっちゃ?」



妖精も話に加わり出す



「物質の無いあの世では高価な物なんだよ?こう言えば分かるかな?」


「エルフが使う魔法は古にエレメンタルと交わした契約に沿って行うの」


「なんかよくわかんないけど…隕石とかも落とせるん?」


「それは大魔法の一種…人間の魔女達が研究しているものね…」


「そっか…200年以上前にシャ・バクダが滅んだのは隕石だってアサシンが言ってたからさ」


「アサシン?」


「女海賊の飼い主だよ…人間だけどね」


「あなた…人間に協力しているのね?」ジロリ


「協力ってか…ドワーフの教えはちゃんと守ってるさ」


「ドワーフの教え…勇者の保護ね?」


「どこに居るのか分かんないんだけどさぁ…アサシンが勇者を探してるから便乗してるって感じかな」


「私たち魔物の敵は人間…の筈」


「人間も悪い奴ばっかりじゃ無いよ?あんたも半分人間じゃん?」


「私は…私にも人間の血が…」女エルフのトーンが下がって行く


「かくいう私もドワーフと人間のハーフなんだけどね」


「あなたもハーフ…そうだったのね」


「見て分かるじゃん?純血の女ドワーフってもっとごっつい体してるから」


「見た事無いわ」


「私もハイエルフ見た事無いなぁ…なんか違うの?」


「ハイエルフはもっと大きい…身長が2メートル超えてるの」


「私等どっちかって言うと人間なのかもね…パパが言ってたさ…複雑な心を持っているのが人間だって」


「私の心は人間…なの?」


「犬猿の仲のドワーフとエルフがこうやってお話出来るのも人間の心があるからかもね?」


「ドワーフとこんなに話が出来るなんて…」


「あんたん所のハイエルフは話が通じると思う?」


「……」


「やっぱそういう事だよね」




女海賊は鞄の中に入っていた魔法の触媒になるであろう材料をかき集め剣士に魔法を試させる



「火炎魔法!」ボワ


「風魔法!」ビュゥゥ


「電撃魔法!」ビビビ


「剣士!!それを左手でやって?…私の夢ん中だと右手に剣、左手で魔法使ってる」


「こう?火炎魔法!」ボワ


「そうそう!そんな感じでソレを剣に塗る」


「塗る?こうかな?」…左手の平で燃えている炎を持っている剣に移してみた


「ちょーかっけぇ!!それで火炎切り…待て待てここでやらないで」


「炎はやめて!馬が怯えてる」…女エルフはそれを諫める


「あんたにこんな才能があったとは…ヤバイ濡れる」


「僕も驚いてる」


「私が教えられるのはエレメンタルの基本魔法だけよ…高位魔法の触媒は何が必要なのか私は知らない…」


「ひょっとしてさぁ…あんた勇者じゃね?」


「え…僕が!?」


「それは違うと思う…勇者は人間の筈よ?…あなたは間違いなくハーフエルフ…匂いで分かる」


「匂いなんかすっかなぁ?」クンクン


「後10年もすればその差が分かって来る…あなたは人間の様に老いないから」


「どっちでも良いよ…僕は僕だ」


「瞑想を教えてあげる…これはエルフにしか出来ない事なの」


「瞑想?」


「エルフは睡眠の代わりに瞑想をするの」


「あんたちゃんと寝てんじゃん?」


「誘導してあげる…魂を感じて付いてきて?」


「魂を感じる?」


「目を閉じて?…私を感じて見て?」



---そう…重なって一つになるの---


---ほら他の魂も重なってきた---


---考えると瞑想が覚めてしまうから---


---そのまま感じるだけ---



剣士と女エルフは静かに瞑想をする…


呼吸はゆっくりと静かに…それはまるで止まっているかのように見える


ピクリとも体を動かすことなく置物の様にそのまま動かなくなった




『半日後』


ガタゴト ガタゴト


馬車は何事も無く北進し続ける…一人残された女海賊は機嫌が悪かった



「もう!!何なのさあの2人は!!おい妖精!私の相手しろ」プン


「ケラケラアハハ」


「何が可笑しいのよ!もう半日も息もしないであのまんま…私も連れてけってんだ」


「エルフには普通の事だよ…瞑想で体を癒すんだよ」


「これ魔物に襲われたらどうすんだよ!!私武器持って無いんだけど!!」


「大丈夫だよ…瞑想してても危険な時は他の魂が教えてくれるんだ…直ぐに目を覚ますよ」


「本当!イライラすんなぁ…まぁでもこれで剣士はハーフエルフって事が確定か…」


「瞑想の方が寝るよりずっと良いんだよ?」


「私にも出来る?」


「ドワーフは瞑想じゃなくて宝石とか金属で癒されるんじゃないの?」


「お!?あんた分かってるねぇ…金属とか機械大好き!見てると飽きない」


「今身に着けてる金属糸の服は?」


「最高!!ぐっすり寝れる」


「それと同じだよ」


「納得…でも2人でなんかイチャイチャしてる感じが腹立つ」イライラ


「君のその短気な所はやっぱりドワーフなんだね」


「はぁ!?ほったらかしにされて怒るの当たり前なんだよ!!」


「あ!!瞑想から覚めた」


「…」パチリ



2人は同時に瞑想から覚めた



「おい!!なんで起きるタイミングも一緒なのさ!!腹立つんだけど」


「どう?」


「一つになった」


「それで良いの」


「はぁぁぁ?一つになった?何エロい事言ってんの?あんた達何してたのよ」


「あ…ごめん女海賊…どれくらい瞑想してたの?」


「半日!!あんたら2人で一つになったとか何してたって聞いてんだよ!!」プン


「違うの…虫や草木、動物たちの魂と一つになるの」


「虫!?なんだ…てっきりあんたら2人で一つになってるのかと思ったじゃん…」


「ドワーフの嫉妬は怖いよぉぉ」ヒラヒラ パタパタ


「うるさい!バカ妖精!!羽ムシルぞ」


「私の言った通りでしょう?あなたはハーフエルフ」


「目も耳も鼻も必要ない…この感じが…瞑想か…」


「そう…それがハーフエルフだと言う証拠よ」



女海賊はモヤモヤした気持ちが収まらなかった


ハーフエルフ同士の特殊な繋がりだと理解はしていたが


たった数日前に知り合った女に剣士を奪われた様な気がしたからだ


でも彼女は単純だった


夜中剣士が勝手に背中を温めてくれた事ですっかり機嫌を直した


それが彼女の特殊な繋がりだったから…




『単独行動2日目』


ここまで一度も魔物の襲撃には会って居なかったけれど


もしも襲われた場合に戦うための武器は剣士が持つロングソードしか無い


女海賊はハズレ町で慌てて宿屋を飛び出した時に荷物の全部を置きっぱなしにして来ていたのだ



「おっし!出来た!!」


「何を作ったの?」


「これフレイルっていう武器…石をブンブン振り回してぶっ叩くのさ」


「君は戦えるの?」


「クロスボウ置いて来ちゃったからさ…あんた一人で戦わせる訳にもいかないなと思ったんだよ」


「爆弾は?」


「あと1個しかない…材料は全部あんたにあげた」


「そうか…魔法は大事に使わないとね…」


「銅貨は一杯有るから電撃魔法ならバンバン撃って良いよ」


「うん…」


「女エルフも何か武器有った方が良いんだけど…どうすっかな…」


「彼女にはナイフを持たせてあるよ」


「足が不自由なのにナイフで戦わせる訳に行かないじゃん…弓矢作る材料なんか無いし…」


「スリングで投石なら少しは援護出来るかも知れない…」


「お!?イイね!…それなら革ひもだけで作れるわ」



その後女海賊は身に着けていた革のベルトを加工して割と上等なスリングを作った


投石する石のつぶては何処でも手に入る


戦う準備をした甲斐も有って魔物が来ても剣士が電撃魔法で魔物の動きを止め


女エルフがスリングで投石するだけで簡単に追い払う事が出来るようになった



「おけおけ!!アイツ等もう追って来ないわ」…女海賊は装備していた望遠ゴーグルで観測する役だった


「やっぱり投石だけだと倒す事は出来ないみたいだね」


「まぁ良いじゃん追い払うだけでさ…てかあんな遠くなのに倒せてないの良く分かるね?」


「リザードマンが何かギャァギャァ言ってるのが聞こえるんだよ」


「ほーん…あんたらリザードマンとは話し出来ないの?」


「何言ってるか分からない…多分違う言葉なんだと思う」


「リザードマンは森とは違う場所で独自の文化を持って居るの…だから私達の言葉とは違う」


「魔物が使う言葉って謎いな…」


「オークも違う言葉を使うのよ?話が通じないから敵対になってしまって居るの」


「なるほどね…じゃぁ言葉が通じるエルフと人間はなんで敵対になるんだろね?」


「それは…」


「う~む…やっぱアサシンが言ってる事は正しいかも知んないなぁ…」


「どういう事?」


「憎悪が原因だってさ…まぁ早い話魔王の影響なのさ」


「魔王の影響…」


「さてぇ!!魔物追い払ったし…ちっとアロエパックでもやろ…剣士!!アロエの皮剥いて!」



剣士は女海賊の機嫌を損ねない様に食材としてヤシの実やアロエを採って来ていた


女海賊はそのアロエに目を付けて乾燥した肌を潤そうとしている



「はぁぁぁ気持ち良いぃぃぃ」グター


「アロエをこんな風に使うの勿体ないな…」


「うっさいな…終わったらアンタが全部食えば良いのさ」


「ええ!?砂が混ざってザラザラだよ…それに君…ベタベタして気持ち悪く無いの?」


「乾燥してカサカサになるよかよっぽど気持ち良いさ」


「まぁ良いや…」


「商隊に居るより全然こっちのがラクだなぁ…」


「自由に出来るからね…でも全然他の馬車とすれ違わないね」


「こんな所危なくて普通は単独馬車で移動なんか出来ないよ」


「ドラゴンがまた来たりして」


「ドラゴンはエルフの味方よ?…又ってどういう事?」


「前に商隊が一回ドラゴンに襲われかけたんだ」


「エルフを捕らえていない限りドラゴンは襲って来ない筈…あ!」


「もしかして僕を見に来た?」


「そうだと思う」


「おーーーそう言う事か…なるほど辻褄が合うね」


「ドラゴンはその後何処へ向かったのか分かる?」


「トアル町の東の方向」


「森の最南部ね…鳥達の噂と合致してる」


「ん?何かあんの?」


「人間達の大部隊が森の魔物を一掃しながら北上してるらしいの」


「法王庁の兵隊達もその一部かな?…シャ・バクダに着いたらお姉ぇに聞いてみよう」


「お姉さん?その人もドワーフ?」


「今は盗賊ギルドマスターを代行してんだ」


「アサシンの代わりの人って君のお姉さん?」


「そだよ…私のお姉ぇ」


「君のお姉さんか…困った人じゃ無きゃ良いな…」


「ちょ!!それどういう意味さ!!」


「いや…君一人で僕は結構一杯一杯だよ…2人になると手に負えないなと思って…」


「あのね!!あんたは私のペット!お姉ぇのペットじゃ無いからお姉ぇはどうでも良いんだって!」


「ええと…いつからそんな風になったんだっけ?」


「何言ってんのさ!始めからだよ…てか夢の中でも私のペットで今も私のペット」


「ハハ…そうかい」




『単独行動3日目』


目的地へは今日中に到着する筈だった


目標物が何も無くて現在地が分からないから森の境界を離れて商隊が通る荒野の方へ戻り始める


到着を見込んで3人はその後の事を話して居た



「…そう!気球を貰ったらエルフの森を飛び越えて東の光の国シン・リーンに行く」


「女エルフは途中で降ろしてあげても良いけどどうする?」


「…剣士の目を治す為…か」


「千里眼っていう魔法があるんだってさ」


「知ってる…でもそれは遠くにある物を見通す魔法」


(目は治らなくても良い…ただ見たいだけ)


(君たちの顔も世の中のすべても全部…僕が勝手に想像して心に描いてる)


(夢でよく見る人が誰なのかも何もかも思い出せない)


(それは見えないから…僕が勝手に想像してる物だから)


(夢の中でも魂は同じ筈よ?)


(夢の中でそれを感じられるほど機転が利かないんだ)


(いつも自分が誰だったか夢の中では覚えていない)


(あなた…夢幻に捕らわれている)


(夢幻?)


(エルフは夢を見ないの…寝むる代わりに瞑想をするから)


(瞑想の間は自我を保てる…夢は自我がどこかにいってしまう…どうしてだろう?)


(それはあなたの夢では無いから)



森の言葉を使って会話する2人に対して女海賊は苛立ちを吐露する



「おい!!ちょっとさぁ!!私の分かんない言葉で会話しないでくれる?」


「ごめん…難しい言葉だったから」


「…でどうすんの?女エルフ?」


「剣士の見る夢に興味が出てきた…精霊の見ている夢かもしれない」


「はぁ?なんで急に精霊とか言い出す訳?ひょっとして昔話のやつ?」


「その昔話がどういうのかは知らないけれど…200年前に精霊が夢幻に閉じ込められたお話」


「うんそれそれ…アサシンがしきりにその話をしてた…それって本当なんかなぁ?」


「エルフの森には精霊樹があるの…」



精霊樹は祈りによって純血のエルフを生むの


でも200年前から精霊樹はエルフを生まなくなった


それは魂が居なくなってしまったから


このままではあと100年もすればハイエルフは絶滅してしまう


だからハイエルフ達は精霊の魂が再び戻る事をずっと祈ってるの


ではどうして精霊の魂が居なくなってしまったのか?


それは200年前の大破壊の時


魔王が倒される間際に精霊の魂を夢幻に閉じ込めてしまったから…




「剣士が見る夢はもしかすると精霊が見ている夢なのかもしれないと思ったの」


「アサシンが言ってる事とまったく同じ…散々聞かされたんだ」


「精霊の魂はあなた達が見る夢の中に居るのかもしれない」


「僕は寝るといつも夢を見ている気がする…でもどうしても思い出せない」


「とにかく!!女エルフは一緒に行くって事ね?」


「足手まといにはならないようにする」


「ねぇねぇ…エルフってさぁ結構おしゃべりだよね?」


「あなた達が人間では無いから話せるだけ…人間相手にお話しする事なんて無いの」


「あのね…昨日も言ったけどあんたも半分人間なのさ…その偏見はエルフの傲慢だよ?とだけ忠告しとく」


「…覚えておくわ」




荒野に戻ると商隊が移動する馬車の車輪の痕が道の様になっていて迷う事は無い


その続いた道の先に中程度のオアシスとそこに生える木々…そして人が作った建物が連なって居るのが見えた




「見えてきた!あそこのオアシスがシャ・バクダの町」


「人間はこんな所に住んでいるんだ…」


「そっかあんた森から出た事無いんだね…えっと」ゴソゴソ


「女エルフ!あんたはこれ被って?馬車の幌でこさえたニカーブっていう被り物さ」


「あんたの顔は美形過ぎてすぐにエルフだってバレる…目の部分だけ見える様になってるから」


「こう?…」ゴソゴソ


「おけおけ…毛皮もちゃんと羽織ってあんま肌を露出させない様に」


「分かった…」


「剣士はそのまんまで良いかな…一応私の用心棒っぽく振舞ってよ」


「おっけ!」


「私の真似すんのやめてよ…ほんで今日はひとまず宿屋に入る」


「なんでか知りたい?フフフフフフフフ」


「別に…普通の事だと思うんだけど…」


「聞けよ!!盗賊ギルドのアジトは沢山あって今どこにあるか私も知らないのさ」


「向こうからコンタクトしてくるのを待つの!どうだ!!凄いだろ」


「……」


「何か言えよ!!」


「クスクスケラケラアハハ」


「何笑ってんだよ!!」


「君のドヤ顔を見てると笑えて来ちゃうんだ」


「はぁ?あんた舐めてんの?」


「羽ムシルぞ!!」…剣士が女海賊の言いそうな言葉を被せる


「うん!!そうだ!!…ておい!」


「ウフフ」…その様子を見て女エルフも笑みをこぼす


「…あんた達さぁ…私をバカにしてんね?分かった!こっちにも考えがある」


「その機械式望遠ゴーグル良いね?」…剣士は突然女海賊を褒めだした


「お!!あんた分かってんねぇ!これってさぁ…ん?…マテあんた見えてないじゃん!!」


「アハハ」


「ムッカ!!やっぱ馬鹿にしてんな!!」


「そんな君が好きだよ」


「ん?…なんちゅった?もっかい言ってみ?」


「そんな君が…」


「君が?…」ワクワク




女海賊はとても分かりやすい


怒らせてしまってもいつまでも引っ張らない性格だ


ペットの筈の剣士の方が実は女海賊を上手くコントロールしているのに彼女自身は気付かず


剣士の周りでいつも騒ぎ立て賑やかになる


そんな彼女の事を面白く思い少しづつ好きになって行った

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