第6話 ハズレ町
『魔女の部屋』
魔女は椅子に腰かけハーブ茶を飲んでいた
まだ魔女と会話をしていない女エルフは話しかける
「魔女様?私は人間の住まう所にこのような場所がある事を知りませんでした」
「ここはエルフの森と同じ狭間の奥ですね?」
「こことエルフの森は繋がっているのですか?」
「時間の流れ方が少し違うので直接行き来することは出来ません…狭間の深さが違う…これで分かりますか?」
「狭間の奥は私たち魔物の一族しか居ないと思っていました」
「ここ以外にも同じ空間はあるのですよ?精神と時の門と呼ばれていて魔術師達はそこで修行をするのです」
「人間の見方が変わりました…賢い人も居るのだと」
「人間はあなた達エルフよりもずっと弱くて寿命も短い…賢く生きるには工夫が必要なのです」
「魔女様の他に同じ様な人は居るのですか?」
「私の知る限りでは恐らく居ないでしょう…しかし時代を紡ぐ者はすでに現れています」
「もしかして…」
「そう…あなた達がその役を担っているのです」
「ここに来る時に赤い目の少女を見ました…あの少女は?」
「あなた達と同じく次の時代を紡ぐ者の一人…命を大事にするのですよ?」
「はい…」
「…あなたのその足」
「怪我をして動かなくなってしまいました…でも大丈夫!剣士に治してもらったから」
「その足は骨が死んでしまっていますね…このままでは治る事は無いでしょう」
「そんな…」
「でも大丈夫…私が蘇生魔法を掛けてあげましょう」
「それは大魔法の一つ」
「エルフも光の魔法は使うことが出来るのですよ?ほら…この魔方陣の上に足を置いて…」
「はい…」ソロリ
「蘇生魔法!」ポワ
「あまり変わった感じはしません…」
「ここに居る間は時間がゆっくり流れています…元の世界に戻った時に変化に気付くでしょう」
「ありがとうございます」
「回復魔法を忘れず掛けるのですよ?」
「…ハーフエルフの私は魔法を使う事を禁じられているのです」
「あなたが正しいと思う方を選択しなさい…掟を守り調和を保つのか…力を使い何かを守るのか」
「何かを守る…」
「ハーフエルフに科された掟にも意味があるのです」
「え!?意味?…」
「迫害される中で何を学びましたか?正しい事は何なのか学びませんでしたか?」
「ハイエルフ達はそれを教える為に厳しい掟を作ったと?」
「それが良い方法だったのかは私には分かりません…でも中には正しい心を持つエルフが育つのも事実」
「魔女様…私はハイエルフに対して大きな勘違いをしていました」
「それで良いのです…ハイエルフはそうやって次の世代のエルフを育てているのですから」
『入り口の扉』
女海賊はその不可思議な建物に使われている建材が何なのか気になっていた
石でも無く鉄でも無い…他の建造物の様に柱や梁がある訳でもなく継ぎ目も無い
「う~ん…どうやってくっ付いてるんだぁ?」
「……」
あれこれ触り壊してしまうのを危惧したのか女戦士はそれを見守っている
「何見てんの?」
「お前は休むって事が出来んのか?さっきから何をしている?」
「この塔の壁ってさぁ…何で出来てんの?」
「アダマンタイトという石だそうだ…ドワーフが生んだミスリルの様な物らしい」
「なんそれ?聞いたこと無い」
「古代魔術の遺産で製法は消失したと聞いた」
「お姉ぇ何で知ってんの?」
「前来たときにアサシンが魔女に同じ質問をしたのだ…同じ物がシャ・バクダ遺跡にもある様だ」
「へぇ~…てことはシャ・バクダ遺跡に行けば手に入るんだね?」
「何に使う気だ?」
「これみて?」カチン!
「ん?磁石がくっつく?それがどうした?」
「取ってみてよ」
「ふん!…む!取れんな」
「磁石を90°回してみて?」
「こうか?」ポトリ
「不思議でしょ?」
「お前は天才かもしれんな…これは上手く使えば色々な物が作れる」
「これさぁ…アサシンに報告した方が良いと思うんだよね」
「おやめなさい…それは危険な物です」
「魔女の婆ちゃん…なんでさ?」
「アダマンタイトは狭間と密接な関係を持つのです…狭間を不用意に引き付けるのはとても危険な事です」
「狭間を引き付ける?」
「古代の魔術師は魔方陣の代わりにアダマンタイトを使って狭間を引き寄せ魔法を使っていたのです」
「狭間を遠ざける事を忘れてしまうと狭間から魔物が這い出てきてしまうのです」
「むむ!裏を返せば狭間の近い所にはアダマンタイトが眠ってるって事だね?」
「古代の忘れ物でしょう」
「はっは~ん…この魔女の塔はアダマンタイトで出来ているから狭間の深い所にあるんだね!」
「あなたは意外と賢いのですね…悪いことは言いませんからアダマンタイトを使うのはおやめなさい」
「わかったよ!!最後に一個教えて?狭間を遠ざけるのは磁力を90°回転させる…で合ってる?」
「世界中の狭間を遠ざけるのはとても難しい事ですよ?」
「答えになってないけど…まいっか!!ありがとね」
女海賊はとにかく世話しない…この不思議な空間で起こる物理現象が元の世界と少し違う挙動を示すからだ
塔の上から石を落として落下する様子を観察したり
桶に溜まっている水の波紋を観察したり…それを撒き散らかしたり…
塔の外で並んでいる土偶に落書きをしたり…その形を勝手に変えて見たり…
「お姉ぇ!!この粘土で出来た像って何だか知ってる?」
「ゴーレムと言うらしい…魔女の魔法で動くのだ」
「へぇ?なんか私も欲しいな」
「又ペットにでもするつもりか?」
「奴隷に決ってんじゃん…」
ゴゴゴゴ ポカ!
「あだっ!!なんだコイツ!!動くじゃん!!」
「だから言って居るだろう…魔法で動くと」
「今形変えたばっかなのに戻りやがった…コラ!!ゴレキチ!!勝手に元に戻んな!!」
「フフ…ゴレキチとは…良い遊び相手が出来たな?」
「にゃろう!!私色に形変えてやる!!ぐぬぬ…」
「ヤレヤレ…怪我をせん様にな?」
『作業台』
魔女の部屋の上階にその作業台はある
剣士と女エルフはその作業台のある部屋へ案内され体を休めていた
カン カン カン
「魔女の婆ちゃん何作ってるんだろ?」
その金属を打つ音を聞いて女海賊が戻って来た
「魔方陣のペンダントを作っているそうよ」
「へぇ?良い作業台あるんじゃん!!私も何か作りたいな…」
「さぁ出来たわ…剣士?あなたのペンダントを作りました…着けておきなさい」
「僕に?」
「光の魔法はエルフが使うエレメンタルの魔法と違って魔方陣が必要なのです…さぁ着けてごらんなさい?」
「はい…」
「あなたは魔方陣の勉強をしていないから代わりにこのペンダントを作りました…これで千里眼を使えるでしょう」
「ありがとう…」
「早速使ってみなさい?」
「えっと…千里眼!」
「何が見えますか?」
「うわぁ…何だ!!上にも下にも…頭の中に沢山の何かが入って来る」キョロ
「初めて見えるという体験をしたのですね…それが見えるという事です」
「何だ…これは何だ!?動いている?」
「今あなたが見ている物はとてもゆっくり動いているでしょう?…時間の流れが違うのです」
「想像していた物と全然違う…何が何だか分からない…」
「ここに居る間は見えることに慣れておいた方が良いですね」
「剣士の反応がウケるw」
「無理もないな…目からの情報が多すぎるのだ」
「他人の視点ってどう見えるんだろ?自分が見てるのと違ってたらやっぱ混乱するかな?」
「他人がもしも虫だったとしたらどう思う?」
「虫!?…そういや虫って一杯目があんな…そういう事かぁ…そりゃ混乱するわ」
「そういう事だ」
「うわぁぁ…はぁはぁ…」
剣士は床へ座り込み見えると言う事に混乱していた
そして没頭して行く…数日はこの状況が続く…
『花畑』
女海賊は千里眼を使って見える体験をしている剣士をそっとしておく為に暇を持て余している
ゴーレムに悪戯をするのに飽きた次は花畑で飛んで居る虫達を観察していた
「何してるの?」…女エルフがその様子を見て話しかける
「ミツバチの観察…どうやらこいつらさぁ…」
「何かの発見?」
「気にしたこと無かったんだけど多分こいつら妖精だわ」
「フフフ私知ってた…その子達はもうすぐ妖精になるの」
「ミツバチのクセに自由に狭間出入りしてて変だと思ったんだよ」
「ミツバチだけじゃないのよ?鳥たちも自由に狭間を行き来出来るの」
「へぇ~…そういやあんたさぁ…足大分良くなったぽいね?」
「魔女様に蘇生魔法を掛けてもらったの…もう痛まない」
「そりゃ良かったねぇ」
「私魔女様にお会いできて本当に良かった」
「何でも知ってる婆ちゃんだね…てか私もあのペンダント欲しいさ」
「魔女様に借りたこの魔術書にあのペンダントと同じ形の魔方陣が書いてある」
「お!?そんなもんあんだ!?見せて?」
「エルフは書物をあまり読まないから挿絵の部分しか分からない…あなた読める?」
「興味ある本は見る!!読めないけど…興味無い本は一行目で無理」
「ほら?ここの所に同じ魔方陣が書いてある…」
「どれどれ…あああああぁぁ無理無理無理!!文字が多すぎる」
「大魔法には重力や磁力を操る魔法もあるのよ?知ってる?」
「むむ!!重力…磁力!!んんんん…ちっと読んでみるかぁ…」
「文字が読めるのが羨ましい」
「私本当ちょっとしか文字読めないんだよ…興味あったらちっと勉強してみっかな…」
「てかエルフはどうやって勉強すんの?」
「知識の伝搬はオーブという物を聞くの…人間の書物と同じ」
「そっちのが全然ラクじゃん?そっちのが羨ましいって!!」
女海賊は読書の方は直ぐに飽きてなかなか読み進まなかったが
ミツバチの観察は飽きずに続き数日してミツバチと会話するようにまでなっていた
会話と言っても女海賊の一方的な独り言だがそれでも暇つぶしには十分だった
女戦士はその様子を遠めに見ながら体を休め
女エルフは剣士に寄り添い見える物が何かを教える
魔女はそんな4人に軽い食事とハーブ茶を作り穏やかに過ごしていた
「もう3日もここに居るのに全然お腹空かないね」
「そろそろ飽きたか?」
「あんまり休んでるとさぁ…落ち着かない」
「本でも読んだらどうだ?」
「今魔術書読んでるんだけど…文字が多すぎて途中でイヤになるさ」
「お前が魔術書を読むとは意外だな」
「はっきし言ってクッソ面白くねぇ!!でも重力と磁力の秘密が書いてあんのよ」
「ほう…それは興味あるな…その魔術書は持って帰れるのか?」
「写本だから持って帰って良いってさ…その代わり全部読めって言われた」
「それを読んだらお前も魔術師になれると良いな」
「無理っぽい…精神の修行がなんたらかんたら…私には絶対ムリなやつ」
「我慢する系の奴だな…フフまぁお前向きでは無いな」
「でもね?重力の事とか色々分かった事有ってさぁ…早い所元の世界に戻って試したいさ」
「何を発見したのだ?」
「狭間の中と外で落下の挙動が違うんだよ…時間の流れが違うからだと思うけどね」
「ほう…お前がそれに興味を持つのは私には嬉しい事だ」
「重力は時間の影響をすっごい受けててね…その辻褄を合わせる揺らぎ?ってのかな?それが狭間だよ」
「フフ分からん」
「元の世界もあちこち狭間があるらしくってね…その辻褄合わせるのに突風が吹いたりすんだよ」
「なるほど…その風を上手く使いたい訳か」
「他にも色々有るけどね…でもここに来てマジ勉強になったわ」
「お前は私の様に体力だけの女にならないでそちらの方向へ進むのだ…それなら私も安心できる」
「お姉ぇは体力だけってか品性だよね…私に無い物持ってると思うよ」
「お前に褒められるとむず痒いな…フフフ」
「剣士ってさぁ…ずっとあそこでブツブツ言ってるけど大丈夫なん?」
「随分落ち着いて来たように見えるが?」
「ずっと女エルフが寄り添ってんのが気に入らんけど…」
「嫉妬か?聞こえてるぞ?あれは見えてる物が何なのか教えているんだ…」
「分かってんだけどさぁ…なんだろうな…女エルフは剣士に近付き過ぎなのさ」
「お前はもっとべったりくっ付いて寝て居ただろう」
「剣士の体は子供みたいに暖かいのさ」
「まぁ嫉妬は見苦しいからほどほどにしておけ」
「元の世界はまだ夜中だよね?何が見えてるんだろ?」
「察するに森の中で何かしているのだろうな…もしかすると人間と戦っているのかもしれん」
「初めて見るにしちゃぁ優しい絵じゃないね」
「まぁ…祈りの指輪の在りかが見えて要るとなると私も黙っている訳には行かなくなった」
「奪うつもり?」
「場合によってはな?…人間やダークエルフの手に渡るのはマズイ」
「魔女の婆ちゃんは戦争の事知ってんのかな?」
「知らん訳が無いだろう…千里眼ですべてお見通しだ」
「あーーピーンと来た!!法王庁がなんで魔女狩りをするのか…」
「今頃気付いたのかお前は…」
「魔術師は千里眼を使って色々見れる訳か…それを嫌がった訳だ」
「恐らくそこら辺を指南したのはダークエルフだろう…その功もあってか今回の戦争にシン・リーンは参戦していない」
「シン・リーンはやっぱエルフ側なんかな?」
「国として協力するかは分からんが魔術師が個別で支援するくらいは出来ただろうな」
「なるほどー…そういう人を先にやっつけた訳か…」
「ダークエルフはかなりの策士だと見た…これからどう動くか分からんぞ?」
「アサシンはそこら辺分かってんのかな?」
「さぁな?肝心な所は誰にも話さん奴だからな」
「そうだよね…イマイチ行動読めなくてさ…政治絡みの取り引きも色々有ったけどあんま話してくんないよ」
「誰と取引したとか分からんのか?」
「貴族だよ…なんつったけなぁ…公爵?」
「お前は貴族に関わるな…私達は生まれが知られてはいけない立場だと心しておけ」
「うん…」
剣士は初めて見るゆっくりと動くその世界が
自分が感じて心の中で描いていた世界と全然違う事に戸惑っていた
しかし女エルフに教えてもらいながら少しづつ慣れて行く
「…何か大きな生き物と話している様だ」
「形は分かる?」
「すごく大きくてゴツゴツしている…後ろの方に大きな何かが付いている」
「それは多分ドラゴン…後ろにあるのはきっと羽ね」
「その羽の後ろに何かが…乗ってるのかな?何だろう?」
「乗ってる?どんな形?」
「あれは…人なのか?」
「人型?…手に弓の様な物を持っていない?」
「あぁ!!あれが弓なのか…だとするとこれは矢筒…沢山の矢筒がある」
「それはドラゴンライダー…ドラゴンの背に乗っているのはハイエルフよ」
「あれがドラゴンとハイエルフか…」
「他にドラゴンライダーは見える?」
「今の位置からだと見えない…あ!目が動く…上の方だ」
「どう?」
「丸い物が光っている…あれは浮いてるのか?」
「それは月ね…他には?」
「あれが月か…その周りを黒いものが回ってる…6個」
「多分それも飛んでいるドラゴンよ…全部で8匹居るはず」
「大分分かるようになってきたぞ…遠くの物は小さくて近くの物は大きい…そういう事だね?」
女エルフは剣士が千里眼で見ている先で起きている事が気になり始めた
その心を落ち着ける為なのかハーブ茶を飲みにテーブルでくつろいで居た女戦士の所へ戻って来た
「剣士の様子はどうだ?」
「慣れてきたみたい…」
「ん?どうした?浮かない顔をして…」
「ハイエルフ達が戦いの準備をしているの…ドラゴンライダーを知ってる?」
「伝説くらいはな…それを言い出すという事は準備しているのはドラゴンライダーだな?」
「そう…」
「人間も愚かな物だ…ただの魔物退治で済ませておけば良い物をエルフ達を追い込んでしまった」
「ハイエルフが前線に出る様な状況だとトロールもケンタウロスも同時に動く筈…」
「状況が悪い方向にばかり行くな…私なら一旦和平交渉だ…想定される被害が大きすぎる」
「一番傷つくのは森…人間は草木一つ一つに魂が宿っている事を分かっていない」
「質問がある…ハイエルフが祈りの指輪を持っていたことはお前は知らなかったのだな?」
「知らなかった」
「伝説では祈りの指輪を生んだのはエルフだと聞く…破壊の方法を知っているのもエルフだけなのか?」
「わからない…」
「魔王を復活させてしまう可能性を持つ指輪を何故破壊しなかったと思う?賢いエルフが…」
「製法ははるか昔に失われたの…破壊しなかった理由は精霊の魂を呼び戻す為と…」
「為と?ほかにまだ有ると?」
「まだ他に祈りの指輪が残っているかもしれないからだと思う」
「やはりそう思うか…もう一つの指輪で魔王を復活させられた場合の対抗手段…だな?」
「…でも可能性があるというだけの話…」
「指輪をひた隠しにする理由はある程度理解できる…しかし何か引っかかる」
「指輪を守ろうとする理由はそれで充分なのでは?」
「それ程精霊の魂にこだわる理由が解せん」
「魂の無い抜け殻になった精霊樹はやがて枯れてしまう」
「ハイエルフが生まれなくなる訳だな?…しかし…やはり引っかかるな」
「どうして?」
「ハイエルフ同士で子を産み育てる事を何故しない?」
「それはやって居るしハイエルフの子供も何人かは生まれて居るわ」
「それなら尚の事精霊樹にこだわる事も無い様に思うのだが…」
「エルフが精霊樹を守っている本当の理由はその根に隠されているオーブを守る為…」
「オーブ?…エルフの知識を守っていると?」
「エルフのオーブでは無く…精霊のオーブ」
「精霊の知識だと言う訳か…どれ程大事な物なのか想像つかんな…」
その話を耳にした魔女が近寄って来る
「…あなたたちは核心に近づいていますね」
「やはり指輪を破壊しない理由が他にも?」」
「指輪が破壊されてしまうと世界は滅んでしまうでしょう」
「滅ぶ?…どうして?」
「200年前の大破壊の時…狡猾な魔王はすでに滅びの一手を打っているのです」
「滅びの一手とは?」
「エルフの森のさらに北の山頂に命の泉がある事を知っていますか?」
「そこはドラゴンのねぐら…」
「この世界の命の源であるその場所に魔王は魔槍を突き立てて水を汚してしまいました」
「ただの伝説だと…」
「いいえ…それは本当の事…その水を必要とする私たち生き物すべて魔王に汚されているのです」
「人間の心が汚れているのはそのせい…」
「そう…そうやって滅びの道を歩んでいるのです…それは人間だけではなくあなた達エルフも同じ」
「それと精霊の魂とどんな関係が?」
「精霊が不在となった今…私たちは心を浄化される事もなく憎悪ばかりが増え続けやがて魔王は甦る」
「祈りの指輪が無くても魔王は甦る?」
「魔王は実体が無くとも現世に住む者の心へ影響を及ぼすのです…その結果が破壊の連鎖を呼ぶ」
「事が重大過ぎて言葉を失うな…今まさに戦争が起きている…」
「このような世界だからこそ…意味のある育てられ方をされてきたあなた達は世界を救う最後の希望」
「どうか正しい心を持ったあなた達に精霊の魂を救って欲しい…その為には祈りの指輪が必要なのです」
「そして精霊と共に命の泉に刺さった魔槍を抜き世界の闇を祓って下さい…その方法は精霊の記憶の中にしか無い」
「その記憶を失わせない為に精霊のオーブを守って居るハイエルフ達もまた勇者であると言い変えても良いでしょう」
「魔女様…ご教授ありがとうございました…私はこれからやる事が少し見えてきました」
「前に訪ねてきたアサシンはお元気かしら?」
「程なく邁進しております」
「彼もまた特異な運命を背負って居ます…魔王を滅するのはきっと彼でしょう」
「え?アサシンが…」
「私は占いも得意なのですよ?もう会えないかもしれないから…彼に会ったら伝えておいて下さい…命を大事にと」
「承知しました」
魔女は話し終えた後静かに座っていた椅子へ戻った
その姿はか細く今にもその命が尽きてしまいそうな程だった
女戦士と女エルフは魔女の話を聞き精霊の記憶が記されたオーブが如何に重要な物なのかを悟った
魔女も知らない闇の祓い方…精霊の記憶の中にしか無い情報…それが失われた時に世界は滅びの一途を辿る
これまで起こっている止めようのない戦争を見て来たから尚更それを感じる
祈りの指輪を持つ剣士の見る目の先に行かずには居られなくなった
『魔女の塔の外』
十分な休息を取った4人は剣士の見る目の先を目指す事にした
妖精は魔女の身を案じここに残ると言う
「僕はここで待ってるよ」ヒラヒラ
「わかったよ…しばらくは魔女と一緒にいるの?」
「魔女が亡くなったら魂を導くんだ…黄泉はすぐそこだけどね」
「今まで一緒に居てくれてありがとう…君のお陰で此処まで来られたよ」
「えへへ…僕の約束も忘れないでね?」
「そうだったね…月に行く約束だったね」
「楽しみだなぁ…やっと月に行ける」
「月に何か有るの?」
「僕の神様が要る筈なんだ~」
「分かったよ…目が見える様になったら直ぐに戻るよ」
「必ず戻ってくるのですよ?…あなたには教えておかなければならない事があります」
「女エルフ?剣士の目の代わり頼んだね?でもおっぱいは貸したらダメだよ?」
「ウフフ分かってる…」
「あんたのおっぱいよりも私のおっぱいの方が良いに決まってるから!」
「女海賊!見苦しいぞ!」
「へいへい…てかなんか5日ってあっという間だったなぁ…」
「魔術書は全部読んでおくのですよ?」
「はいはい分かってるって…」
「さぁ子供達…そろそろ行く時間です…気を付けて行ってらっしゃい」
「魔女様!お元気で!!」
「そうだ…忘れていたわ…剣士?その光の魔方陣を拵えたペンダントは照明魔法も使えるのよ?」
「照明魔法?」
「目が見える様になったら役に立つでしょう…暗い時に試してみなさい」
「はい!」
「ここから出る時は元来た道をまっすぐ帰るのです…振り返ってはいけませんよ?迷ってしまうから」
「あーー僕案内してくる!!」ヒラヒラ
「それなら大丈夫ね…さぁお行きなさい?」
「じゃね~」
4人は妖精の後に続き元来た追憶の森へと帰って行った
『追憶の森』
ホーホー ホーホー
あれから何時間経ったのか…まだ夜は明けておらずうっすらと空が暁色に染まり始めて居た
「じゃぁ僕はここまで!後は大丈夫だよね?」ヒラヒラ
「ありがとう妖精!」
「すぐ戻るから!魔女を見守ってあげてて!」
「じゃ又~」ヒラヒラ
妖精は森の奥へと消えて行った
「まだ暗いね?5日もブランクあると勘が鈍っちゃってる…夜明けまでどんくらいだろ?」
「今夜は小望月…もう直ぐ沈む」
「剣士?照明魔法試してみなよ…月の光が届かなくて暗いんだ」
「触媒が何か教えてもらってない」
「光の魔法はエレメンタル魔法じゃないから触媒は要らない筈よ?」
「やってみる!照明魔法!」ピカー
「おぉ!!ちょい明るすぎ…」
「その光に皮袋を被せておけ…それで十分だ」
「おっけ…じゃ戻ろうか」
「待って…魔女様に足に回復魔法を掛けなさいと言われているの…剣士お願い」
「回復魔法!」ボワー
「ぁ…」
「いちいちエロい声出すな…行くよ!!」
「気球が心配だ…早く戻ろう!走れるか?」
「足が動く!走れる!剣士!手を…」
走れるようになった女エルフは光を持つ剣士の手を引き森を駆ける
女海賊もそれに続き彼女も又エルフの様な身のこなしを少しづつ身に付けて行った
走るのは得意だったからエルフに負けない自信も有った…剣士を奪われてたまるもんかと…
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