第5話 シケタ町

『隠れ家』


盗賊とアサシンを見送った女盗賊は早朝に隠れ家へ戻った



「あ!帰ってきた…もうどこ行ってたのさぁ!!」


「ちょっとね」


「アサシンと盗賊は行っちゃったよ」


「良いのよ…あなたも疲れてるでしょう?少しお休みなさい?」


「えーと何だっけな…盗賊がよろしく言っとけってさ」


「分かってるわ…あの二人なら上手くやるわ」


「ちっと私寝てる暇無いんだ…商隊に加わる話を付けてくる」


「一人で行けて?」


「これを見て!!」ビシ


「あら?貴族の身分証ね?」


「これを使えば簡単だと思うんだ!」


「いつ出発する予定かしら?」


「わかんないけど出来るだけ早く」


「少し休んでからでも良いのでは無くって?」


「早くシャ・バクダに行きたいのさ」


「せっかちなのねフフ…まぁお好きになさい?」


「剣士はあっちで横になってるから後お願い…怪我は無いけど調子悪そう」


「そう…見てくるわ」


「私はちっと出かけてくるね~」ノシ




『寝室』


剣士は放心状態なのかベッドの上で包まりガタガタと震えていた



「ぅぅぅぅぅぅ」ブルブル


「平気?どこか痛むのかしら?」



剣士の懐から声がする



「混乱しているんだよ」


「はっ…妖精の声!?」


「今日は満月…もうすぐ沈んでしまうけどね」


「どうしたの?何があったの?」


「沢山の魂に触れてしまったんだ」


「下水の奥で何が?」


「剣士は目が見えない分彷徨う魂を感じやすいんだ…沢山の魂を感じて混乱してる」


「そんなに沢山の魂が…どうして…」


「亡くなった人達の魂の渦が剣士の魂を連れて行こうとしてた」


「熱とかは無さそうね…どうすれば良くなるかしら」


「魂が連れていかれないように心を閉ざしているんだよ…安心させてあげないと」


「安心…こう?これで良い?」ギュゥ



女盗賊は包まって居る剣士を背中から抱きしめた



「ぅぅぅ」ガクガク ブルブル


「怖かったのね?安心なさい?…あなた…体は大きいけど子供みたいなのねフフ」


「僕も入れて~」スポ


「歌を歌ってあげましょうか…子供を寝かせる歌なんだけどね」


「こんなに大きいのに困った子ですねぇ…」



寝んね~ん寝~♪


ルルル~♪


ララ~♪



女盗賊の歌ったその歌はシャ・バクダに伝わる意味のある歌だった


魔物を眠らせて夢を見させる事が出来る歌だったのだ


この時女盗賊はそんな事はつゆ知らず偶然にも剣士を夢に誘う


剣士はその優しい歌を聴き眠りに落ちた…






『夢』


剣士は物が見えると言う事を知らない


だから夢の中でもその情景は常に自分が思い描いたおぼろ…


おぼろの中で聞こえる声や音…匂いは思い出す事が出来る…そんな夢を見る



「……」


「あんたさぁ…聞いてんの?」


(きみは…誰?)


「何訳の分かんない事言ってんだよ!何処の国の言葉な訳?!ちっとこっち来いよ!」


(いや…そんなつもりじゃ)


「ちょい顔見せて」…フードをめくられた


(あ…)


「お!?ちょちょ…え?きれいな目してんじゃん…ほんで銀髪かぁ」


(え?目?)


「はっは~ん!!あんた一人?」


(え~と…僕は…誰だ?)


「まぁいいや!こっち来て…ちょい手伝って」


(どうすれば)


「そっちを押すの…せーの!えい!!」


(???)


「何やってのさ!あんた男でしょ!!もう一回!!」


(え?え?え?)


「せーの!!」ズリ


「もう一回!!せーの!!」ズリ


「おっけおっけ!乗って」


(これに?)


「良いから早く乗って!!」グイ


(あ…)


「歩くより筏乗って行った方が早いんだよ!…とりあえず町に向かうよ?」


「帆を開くからどいて」


「何やってんのさ!!もうノロマかあんたは!!」


「そこの箱に入ってる物食べて良いよ…お腹空いてんでしょ?わたしも一個取って?」


(これ?)


「わかってんじゃん…ほら…あんたも食いなよ」モグ


(……)モグ


「海の上は風が強いから体冷やさないように!!…聞いてんの?」


「ありがとう」


「なんだ!あんたしゃべれるんじゃん!!ちょっと寒いからこっちに来い!」


(???)


「毛皮なんか積んでないさ…ほらこうやって体よせて…おい逃げんな!!」


(???)


「あっち向いて背中貸して…背中合わせがあったかいの…手足は自分で何とかして」


(あったかいなぁ…)


「あんたの名前は?」


(僕は…)


「ん?あぁピーンと来た!ちょっと記憶が無い系のアレね」


(僕は…僕は…)


「わたしのなまえは…」



---君は誰だっけ?---


---僕は誰だっけ?---


---それにしてもあったかいなぁ---





『翌日』


剣士は丸一日寝込んだまま次の日の夕方になっても目を覚まさなかった


揺すっても叩いても起きない剣士を見て女海賊は少し焦っていた


グイグイ ユサユサ



「こら起きろって!!!起きろ~~」ポカ


「困ったわねぇ」


「明日の朝出発するのにぃ!!ちぃ…どうすっかな…」


「ゥゥ…」


「あ!!動いた!!おい!!」グイグイ


「アイ…リーン…」


「ちょ…目覚めの言葉がそれかよ…」


「良かった~起きたわね?…お腹空いてるでしょう」


「あ…」キョロ


「あんた昨日から寝っぱなしだったの!ホイこれ食べて」グイ


「明日の朝に商隊でシャ・バクダに向かう事になったのよ?目を覚ましたばかりで混乱しているかしら?」


「そう!私は貴族の娘役…あんたは従士という設定ね…わかった?」


「まぁ…起きたばっかりで頭が回ってないようね…食べたら荷物の整理しておいてね」


「……」モグ



寝て起きた後に記憶がおかしいのはいつもの事だった様な気がする…


でも目を覚ますとだんだんと思い出して来る…


そうだ僕は下水の奥で何かの渦に飲み込まれたんだった…



「てかさ?あんたに私の本当の名前いつ教えたっけ?その名前秘密だから言わないで貰って良い?」


「……」---なんか記憶が混同してる---


「剣士?落ち着いて来たかしら?」


「……」コクリ


「あなたの荷物がどれなのか分からないのだけど…」


「あんた大した荷物持ってないじゃん」


「フフ本当あなたはせっかちなのね」


「うるさいなぁ…剣士に手伝って貰おうと思ってたこと全部私がやったからイライラしてんの!」


「そんなに大変だったの?」


「女一人だと商隊の連中は言う事聞かないんだよ!子ども扱いされて腹立つ!ムッカ!!」


「ここを出るのは夜中かしら?」


「明日の日の出前に出発するから夜中の間に商隊の詰め所に行く」


「それなら最後に今晩バーベキューでもしましょうかフフ」


「おぉぉぉ良いねぇぇ!!」


「子供たちがバーベキュー大好きなの…娘たちもね」


「肉買ってくるわ」


「お願いするわ…子供たちも孤児院から連れて来て貰って良い?」


「おっけー!!ダッシュで行って来る」ピューーー



何か行動を起こす時の女海賊はとにかく走る


もうそれしか考えていない…ひた向きな性格なのだ


彼女の本当の名はアイリーン…隠して居るのは理由ある


それはドワーフの国の主…海賊王の娘の一人だったからだ


彼女も又…伝説に名を連ねる一人になって行く最も需要な人物の一人だった





『バーベキュー』


酒場カク・レガのある建屋の目の前で肉を焼く


貧民街では焚火を囲んで食材を焼くのは珍しい事では無い


そこに寄り集まって来る者全員に焼けた肉と少しの酒を振舞う



「おいひいね」モグモグ



女海賊も直火で焼いた肉は大好物だった


一方剣士の方は女海賊に無理矢理食べさせられ迷惑そうにしている



「お姉ぇ~こっち肉余ってない?」


「足りないの?」


「お客さんの分がちょっと足りない」


「早く~」


「仕方ないわね…子供たちの分は残しておくのよ」


「分かってるって…ちょっと持って行くね~」


「しっかりお酒も飲ませておくのよ?」


「あ~い」


「お店の客にも振舞うと盛り上がっちゃうね…良いの?放っておいて?」モグモグ


「あっちの方は放って置けば良いのよ…どうせ大したお金落として行く訳でもないし」



女海賊は女盗賊の横で座って食べて居る男の子が気になった



「ところでその子…どこか悪いの?」


「…この子はね…生まれつき心臓が悪いの」


「見た感じ普通だけどね」


「体は小さいけどあなたと同じくらいの年頃に思うわ?」


「ええ?この子が?立ってみ?」


「ご挨拶なさい?」


「やぁ!初めてお話するね」


「本当だ…背の高さは同じくらいか」


「体は弱いけどとても賢いのよ」


「僕もシャ・バクダには行ってみたかったんだ」


「ダメよ…もう少し体が強くなってからね」


「分かってるさ…次来たときは僕も一緒に頼むよ」


「おぉー見どころあるねぇ!しっかり鍛えるのだぞ?少年」


「フフ剣士はどこかしら?」


「あっちで食ってる…私から逃げてんのさ」


「そろそろ準備した方が良いのでは無くって?」


「そだね…剣士ぃ!!そろそろ行くぞぉ~」タッタッタ グイ


「うあ…」モグモグ


「あんた何食ってんだよ!豆ばっか食ってんじゃ無え!」


「フフ…剣士!?無事にシン・リーンまで行けると良いわね?」


「私が気球で乗せてくから大丈夫!」


「あなた達が居て楽しかったわ…元気でね?用が済んだら又遊びにいらっしゃい?」


「ありがとう」


「うお!!しゃべった!!」


「フフそれで良いのよ…そういう時に使うの」


「ありがとう…ありがとう…ありがとう」


「あんたぁ!!しゃべれるならしゃべれるって言ってよ!!」


「教えてあげれば良いのではなくって?しばらくは馬車なのでしょう?」


「んむぅぅメンドクサイけど話す相手が居ないのもツマラナイしなぁ…」


「よろしくお願いね?」


「おっし!!今度来たときはさぁ!!気球に乗せてあげる!!」


「楽しみにしておくわ…いってらっしゃい」


「ほい剣士!!行くよ!!じゃまたね~」ノシノシ



剣士は女海賊に引きずられる様に去って行く


女盗賊はその2人の関係が微笑ましく思った




『商隊詰め所』


そこには早朝の出発に向けて既に馬車が集まり待機していた


商隊を率いる隊長は焚火で温まりながらウトウトして居る



「ふぁ~ぁ…」


「おい!!」…女海賊はその隊長の前に仁王立ちする


「ん?…身分証…」


「昼間見せたじゃん!この顔をもう忘れたの!?」


「覚えてるが規則なんでね…こっちがお前の従士か?」…剣士の顔を覗き込む


「身分証を早くしろ」


「あぁぁイライラするなぁ!もう!!」パス


「貴族の娘…お前が貴族じゃなきゃ相手にしないんだがな」


「どの馬車に乗れば良いのさ!!?」


「こんな小娘を商隊の特定馬車とは…貴族は良いなぁケッ…通って良いぞー」


「むむむむむ…パパに言いつけるぞ!」


「おぉ怖い怖い…お嬢様…あちらのかぼちゃの馬車にてございます…これで良いんか?」


「剣士!!行くよ!!」プリプリ


「一つ注意してもらいたい事がある」


「何よ!?」


「身分を不用意に知られる様な事はしないでもらいたい…わかるかな?お嬢ちゃん」


「子供じゃないんだから分かってんよ」


「貴族と悟られると誘拐されるリスクがあってこちらが困る」


「はいはいわかりました」


「手を掛けさせないでくれな…お嬢ちゃん?」


「いちいち勘に障ること言わないで!…おっさん!」


「あっはっは…3番目の馬車だ…早く乗れ」


「いーーーーーだ!!」ベー



女海賊のこの振る舞いは良く居る貴族の娘らしい行動で誰も不振には思わなかった


従士を一人付けて馬車で移動するのは普通の事だったからだ


こうして白狼の盗賊団一味は女盗賊を残し全員セントラルから無事に脱出する





『商隊馬車』


この商隊は大規模編成では無かったから進行速度が少し早い


初めに向かうのはトアル町…剣士にとっては振り出しに戻る感じになる


ガタゴト ガタゴト



「おい!出てこい妖精!!」


「…今日は出てこないの?…んぁぁぁヒマ」


「あんたさぁ…何かしゃべろよ!!」


「……」


「わたしの言ってる事分かる!?…ちょっとまねしてみて!?」


「……」


「こんにちは」


「こんにちは…」


「お!?出来んじゃん!!」


「おできじゃん」


「ご主人さま」


「ご主人たま」


「あなたは」


「あたまは…」


「とても…」


「とても…」


「美しい」


「……」



肝心な所を真似しない



「おい!!!」


「おい」


「もう一回最初から!!」


「もういかいから」


「ご主人さま、あなたはとても美しい!」


「ご主人さま、あなたはとてもむずかしい」


「…あのね」


「あ…のね」


「ご主人さま、あなたはとてもう・つ・く・し・い!!!!」


「ご主人様、あなたはとてもむ・ず・か・し・いのね」


「のねは付けなくても良いの!!あ~イライラする」


「ご主人様、あなたはとてもむずかしいイライラする」


「ムキーーーーーーーーーー」



剣士はある程度理解しながら話して居た


女海賊をからかって遊んでいたのだ





『トアル町』


商隊は進行が早かったお陰も有り馬車に揺られる時間も少なく休憩を多くとりながら予定通り到着する


その間女海賊は剣士に言葉を教え3日の間に少しは話せるようになって居た



「…一日休憩を取る。明後日の夜明け前までに集合する事!!解散!!」



女海賊は隊長の言葉を殆ど聞いて居なかった


解散の一言を聞いて直ぐに動き出す



「剣士行くよ!!早く行かないと宿埋まっちゃう」


「はいご主人様」


「…なんか気持ち悪いなぁ」


「はいご主人様」


「もうご主人様は付けなくて良いから」


「はいご主人様」


「もう!!はい!!だけで良いの!!」


「はい…」


「付いてきて!?行くよ」タッタッタ



スポン!!


女海賊の胸の谷間に挟まって居た妖精が飛び出した



「お!!?あんた起きたね?」


「なんか前と雰囲気ちがうなぁ」


「あんた達来た事あんの?」


「ゴブリンの襲撃から逃げてきたんだ」


「そっかぁ…ここから来たんだね」


「前はもっと人が居たんだよ」


「商隊の商人達が物売りし始めたら人が出てくるんじゃない?」


「におう」クンクン



剣士は焼け焦げた死体の匂いが気になった



「え?何?どこ?」


「あっち」ユビサシ


「んん?…なんだろアレ…もしかして火刑跡!?」


「魔女狩りだね…」妖精はそれを見たくないのかもう一度女海賊の胸の谷間に挟まった


「気になるけど…今は宿屋が先!!今日泊まれないと休めなくなる」


「ちょ!!剣士!あんなん見てないで早く行くよ!」グイ




『宿屋』


その宿屋は数か月前まで女盗賊が暮らしていた宿屋だった


今では様相が変わり番台のお婆さんの姿は無く男の人が店主をしていた



「い、いらっしゃいませ」ビクビク


「2人泊まれるかな?」


「食事は付きませんがよろしいでしょうか?」


「ベットが使えればおっけー…で?何かあったの?」


「2ヶ月ほど前に魔女狩りがありまして…皆疑心暗鬼になっております」


「やっぱ外にあるのは火刑跡なんだ」


「ここで番台をしていたお婆さんが犠牲になってしまいまして…」


「へぇー魔女だったんだ?」


「いえ異教徒を見たと騒いでおりましたら本人が審問に掛けられてしまいまして…その」


「あらら…」


「町の住人がお婆さんこそ魔女だと言い始めたのがきっかけで結局火刑にされてしまいました」


「ずっと外に放置してあんの?」


「はい…魔女は復活しない様100日間見張るのだとか…」


「いこう」グイ



剣士はその話を理解したのか話を遮ろうとした



「あーメンゴ!!あんたがお話ししてくれないから…ツイ長話にさぁ…」


「お部屋にご案内いたします」



剣士にとってこの宿屋で普通に宿泊するのは初めてだった


案内された部屋は2人用の普通の部屋だ


でも剣士はその部屋に残って居る匂いで分かった


この部屋で女盗賊達が行為を行いお金を稼いでいた事を…そんな残り香が切なく思った




『路地のベンチ』


剣士は様相の変わった町と


そこに有った筈の女盗賊達の生活が無くなって居た事に


何か大事な物を無くしてしまった様な感覚を受けて彼女と一緒に歩いた路地をもう一度歩いてみた


もう日が暮れて人通りも少なくなった路地…そこにあったベンチに腰掛ける



(そろそろ帰ろうよ)…妖精が心配そうにのぞき込む


(……)


(女海賊が怒るよ?)


(ここで食べたパン…おいしかったんだ)


(あー初めて人間からもらったパンだったね)


(空っぽになったあの宿屋が寂しい)


(君が寂しいって感じるとは思わなかった)


(あの人は母さんみたいだった)


(良い人だったね)


(どんな顔だったのかな?心にその顔も描けないから心から消えてしまいそうなんだ)


(だからここに?)


(ここの匂いの中にあの人がいた事を思い出す)


(はやく見える様になると良いね)


(うん)


(なんか分かって来たよ…見えない事で寂しさが積もって行くんだね)


(うん…誰の顔も思い出せないんだ)



タッタッタ


女海賊がダッシュで駆けて来る



「あ!!!居たぁぁ!!もう!!探したんだからぁ!!!」タッタッタ


「あ…ごめんさない」


「行くなら行くって言ってよ!!心配かけんなタコ!!」


「タコ?」


「そう!!タコ!」プンスカ


「あはは…」


「あれ?笑った?あんた初めて笑ったじゃん…タコが面白いの?」


「ごめんね?タコ」


「はぁ?あんた舐めてんの?…もう!帰るよ!!」グイ



そうだよ…君はいつだって僕の周りで騒々しくて


謎の言葉で僕を励ましてくれる…多分…夢の中でも…


剣士はこの時…その声と匂いが夢で見るその人と同じだと気付き始めて居た




『商隊5日目』


トアル町ではたった一泊するだけで何をするでもなくあっという間に休憩は終わった


女海賊は少し変わった趣味が有って爆弾の材料を買ったり謎の道具を買ったり


そんな買い物に付き合わされただけでもう商隊の馬車で出発する事になる


ガタゴト ガタゴト



「はぁぁぁアッと言う間にお休みが終わった…」



そう言って馬車の中で腹を出しながら寝転ぶ女海賊はとても女性とは思えない



「おい妖精!何処に居んだよ!!どうせおっぱいに挟まてるんだろ?出て来い」


「んん?呼んだ?」ヒョコ


「暇なのさ…」


「ええと…次の休憩は4日後って言ってたね」


「何処だっけな…地図によると…次はシケタ町という所」


「行ったことある?」


「アサシンと何回か来てると思うけどどんな所かは忘れた…何でそんな事聞くん?」


「暇なら本を買って置けば良いと思うな」


「ムリムリムリ!私文字読めないから…てか本なんか読むと速攻寝る」


「アハハ…じゃぁ本読んで寝れば暇も潰せるね」


「来る!」クンクン



剣士が何かに気付き動き出す



「お!?何か起きる?今度は何!?」


「まて」ダダッ


「ちょちょ…どこ行くの?」


「うぉ!!…おいおいどこ登ってんだ…降りろ」



剣士は馬車を動かして居た馭者を押しのけ幌の上によじ登る



「ちょい!どうしたん?」ヒョイ


「うえ!」ユビサシ


「上?…なんだろ…何か飛んでる」


「飛んでるだとう?…まさかドラゴンじゃないよな?」



馭者も慌てて上を見上げる



「そのまさか…かも」


「うわわわ…先導は気付いて無いぞ?…嬢ちゃんそこの笛取ってくれんか?」


「これ?」ポイ



ピーーーーーーーー


馭者は笛を吹いて商隊を先導する馬車に異常を伝える



「ドラゴンもまだこっちに気付いてないかも…」


「傭騎兵が来たら嬢ちゃんが伝えてくれぃ…わしゃ手が離せん」


「何て?」


「ドラゴンの数と方向だな…それだけで伝わると思うで」



笛の音を聞いた傭騎兵が馬に乗って駆けつけて来る


ドドドドド



「どうしたぁぁ!」ドドド


「西の方角にドラゴンが見える!!こっちに向かってんよ!?」


「なんだとぉ…うわっ…こりゃまずい…ピーーーーーーーー」ドドド


「嬢ちゃん!刃物何か持って無いか?」


「どうすんのさ?」


「ドラゴンが来たら馬車切り離して馬で逃げなあかん」


「おっけー準備する!…て待て!それって私等置いきぼりじゃね?」


「来る!!」


「え?え?え?もう?」



ギャオーーース バッサ バッサ


ドラゴンは商隊の上空を通り過ぎ旋回している



「うわっ…でか」


「先頭は止まらんな…どうするんじゃ?」


「ドラゴンは上で旋回してる…こっち見てんのか…な?」


「商人どもが変な荷物運んでなければ襲っては来んのじゃが…」


「ん?離れて行く…助かったかも…なんで?」


「行ったかぁ?…うへぇ助かったわい」


「東の方向に飛んで行った」


「もり…いった」


「あーびっくりしたね…もう大丈夫そうかな?」


「先頭が速度上げてるぞい…ちっと揺れるで?」ハイヤ ヒヒーン


「剣士!?もう居ないから中に入って?」


「…はい」ノソリ


「どうしてドラゴン行っちゃったんだろね?」


「僕が見えたからだと思うよ」ヒラヒラ



妖精が得意げにクルクル回る



「こんなちっちゃいのに?」


「ドラゴンは人間よりずっと目が良いよ」


「へぇ…妖精が居れば襲って来ないんだ?」


「ちょっと違うけどドラゴンは妖精の役割を知ってるんだ」


「役割ねぇ…ふ~ん」


「ドワーフも同じ筈なんだけどなぁ?」


「どゆ意味?」


「君の場合違うのかもねアハハ」


「なんか腹立つんだけど…あんたぁ!妖精のクセに生意気だよ!!」



何かと騒がしい女海賊が近くに居ると僕はこの商隊の旅が暇だとは感じなかった


何故なら彼女はしきりに僕にちょっかいを掛けて来る


勝手に僕の髪の毛を切り始めたり…自分のへそのゴマの匂いを僕に嗅がせようとしたり…


僕のナイフと剣を磨いてくれたり…そのナイフで自分の体毛を処理したり


とにかく世話しなく僕の周りで騒々しい…そんなこんなで次の町まであっという間だった




『シケタ町』


商隊は予定通り次に休息する町へ到着した


でも昼寝していた女海賊が気持ちよさそうに寝て居たから起こさないで居た


もう日が落ちて暗くなった街道を2人で走る


タッタッタ



「まずいぃぃ!あんたのせいで宿屋泊まれなかったらどーすんのさ!!」


「君が寝てた」


「さっさと起こせよ!スカポンタン!!」


「スカポンタン?」


「あぁぁぁ宿屋が人だかりになってる…もう!!」


「バーベキューしよう」


「お?いいねぇ…キャンプでもいっか」



女海賊は単純だった


機嫌を損ねても他に注意を逸らすと直ぐに忘れる性格だ



「近くに川の音聞こえる」


「おけおけ!!暗くなる前に肉買いに行くよ!付いて来な!」タッタッタ



彼女はとても分かりやすい


目的が出来たらいつもダッシュで走り出す…ひた向きに前しか見て居ないから


僕は彼女に付いて行くだけ…すごく楽だ




『川辺』


薪を集めて焚火する


その脇で横になれる様に寝床を作る…天気が良ければこれで十分休息出来る


メラメラ パチ



「…ほら剣の先に肉をぶっ刺して…そのまま火の中に入れる」ジュー


「焼けたら一口食べて又火に入れる」ガブ モグ


「これが山賊焼き…やってみな?」


「こう?」ガブ モグ


「…なんかさぁ…あんたといっつもこんな事してる気がすんだよなぁ…」


「どうして?」


「なんでだろ?前世は私の奴隷だったとか?」


(僕は君の顔が分からない…)


「何訳の分かんない事言ってんだよ!何処の国の言葉な訳?」


「はっ…また既視感…何なのコレ?」


「あのさぁ!?あんた良くしゃべってる言葉…何なの?」


「森の言葉」


「森?そんな言葉があるんだ…でもねあんま使わない方が良いんだよね」


「ごめん」


「他の人に聞かれなきゃ良いんだけどさ…で?その言葉誰に通じるの?」


「森の住人」


「おぉぉなんかすげーじゃん?…で住人て誰よ?エルフ?トロール?」


「みんな」


「マジか…ちょい今度私にも教えてよ」


「はい」


「うぅブルル…ちょっと冷えてきたなぁ…あんたは良いね毛皮着ててさ!!」


「母さんの一部…あたたかい」


「ちょっと背中借りるよ…こうするとあったかいんだ」グイ


「……」


「動かないでよ?」




---この背中---


---やっぱり君なんだね?---


---僕の夢の人---


---どうして僕の夢に君が出て来るんだろう?---



「ちょちょ…何すんのさ…なんで顔触ってくんの?」


「君の顔…知りたい」


「え?なんで?もしかしてキスしたいの?」


「違う…どんな顔か知りたい」


「わーったわーった…ちゃんと触らせてやるから鼻に指突っ込むの止めて」


「鼻…」


「あんたにも付いてんじゃん…触り比べてみ?」



サワサワ ナデナデ



「なんかさ…顔をそんな撫でられると…変な気持ちになってくんだけど」


「ごめん…」


「やっべ…アソコ濡れて来た」


「アソコ?」


「何でも無い!はいはいもう終わり!!」


「ありがとう…」


「ほんで?何で顔なんか触りたいのさ?」


「夢を思い出せそうな…そんな気…した」


「ほ~ん…夢か…そういやなんか私もあんたの事夢で見た気がすんだよね」


「同じ夢?」


「おーし!!肉食ったら一緒に寝てみっか?もしかしたら同じ夢見るかも!!」


「はい…」


「寒いから背中くっつけたままね?ほらサッサと肉食え!」グイ

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