第4話 白狼の盗賊団

『酒場カク・レガ』


後日…その2人は酒場に訪れた



「いらっしゃい…ま…兄さん!」


「…女になったな」


「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」…酒場のマスターはその様子を見て気を利かせた


「良い店だな…空いているかね?」


「奥の方へどうぞ」


「へぇ~女の子いっぱい居るんだ」…女海賊は珍しそうに見回す


「ワイン2つと果物を頼む」


「かしこまりました…ごゆっくりと」



2人は女盗賊に奥のテーブル席へ案内された



「怪我は無いようだな?子供達は連れて出られたのか?」


「4人だけね…後は…」


「自力で脱出している者も多い…心配するな」


「どうしてあんな事を…」


「捕らわれて居る者達の解放と…法王庁への抵抗組織があるという民衆へのアピールだ」


「やりすぎでは無くって?」


「人への被害は最小限に収めているつもりだよ」


「盗賊ギルドが先導しているのかしら?」


「いや…ギルドは関わっていない…私が個人的に行っている」


「シャ・バクダの本部はギルマス不在で良いのかしら?」


「ギルマスの代わりなどいくらでもいるのだ…出来るやつに任せている」


「そう…いつからセントラルに?」


「…それは私の質問だよ…まだ泥棒紛いの事を続けているのか?」


「好きでやっている訳では無いわ…生きる為に仕方ないのよ」


「お前は医術や音楽の才がある…まっとうに生きて幸せになるのだ」


「兄さんの方こそまだ勇者暗殺を考えてるの?」


「…兄さんというのはもう止めにしないか?むずがゆい…アサシンで良い」


「もう勇者暗殺なんて馬鹿な事考えるのを止めて!昔の兄さんに戻って?」


「ハハ勇者暗殺は目的では無い…手段の一つだ」


「なら他の手段を選べば良いのでは無くって?」


「…そうだな…魔王の復活を阻止する術が他に在れば…な」


「…大破壊こそ魔王の復活と…妖精から聞いたわ」


「それだ!!どうやって妖精を仲間にした?私はそれを聞きに来た」


「…兄さん…私を気遣って来たのではなくて…私を利用しようとしているのね」ジロリ


「すまない…言い方が悪かった」


「もういいわ!!出て行って…」


「あ~あ女心分かってないなぁ…この場合アサシンが悪い」



兄妹の話に女海賊が割って入る



「…紹介が遅くなった…こっちは女海賊だ…私の助手をしている」


「どもども!!」ビシ


「初めまして…兄がお世話になっています」ペコリ


「あのさぁ…妖精が見えるってどういう事か知ってる?」


「え!?知らないわ?どういう事かしら…」


「普通の人が見えない物が見える…言い方を変えると特別な人…もっと言い方を変えると狭間を分かる人」


「それがどうしたというのかしら?」


「妖精はそういう人を導く役目を持ってんの」


「私たちは導かれてる?」


「どうしてだと思う?…それはね魔物と仲直りする為」


「仲直りだなんて…そんなに簡単に行くとでも思って?」


「女盗賊…お前はいつから妖精が見えて居たのだ?子供の頃からか?」


「兄さんはずっと見えてた…の?」


「妖精を追いかけて…200年前シャ・バクダ王朝が滅んだ理由を知ったのだ…子供の頃にな」


「…それでずっと一人で戦っていたの?」


「私たちは妖精の導きに従い…魔物たちとの調和をしなければならない」


「調和…」


「人間は殺しすぎなのだよ…それは憎悪しか生まない…やがて魔王を生んでしまう」


「勇者暗殺と話は逆行するのでは無くって?」


「勇者と魔王は対なるもの…勇者を封じれば魔王も生まれない…そうやって調和を保つ」


「そんなの屁理屈だわ…第一勇者がどこにいるのかさえ分かってないじゃない…魔王だって…」


「雲を掴むような話に聞こえると思うが…シャ・バクダでかつて起きた事と同じ事象がいくつかある」


「…それを調べにセントラルに来た…そういう訳ね」


「分かってくれるか?」



そこに酒瓶を片手に盗賊が現れた



「いょぅ!!やっぱり来てたか」


「盗賊か!!お前まで居たのか…どうりで手際が良い訳だ」


「ギルマス直々にどうしたってんだ?」


「あぁ…色々あってな」


「女盗賊どうしたんだ?ふくれっ面で…」


「構わないで欲しいわ…」


「こっちの娘は誰だ?アサシンの女にしちゃ…お前ロリコンだったのか?」


「あぁ紹介する…ドワーフの女海賊だ…工作専門で私の助手だ」


「ハロハロ~…てかさ!!ドワーフって強調しないで貰って良い?イラっとすんだよ」


「ほーーそれで赤毛なんか…」


「盗賊?剣士はどうしていて?」


「んぁ…ありゃ今まで一緒にいたんだがどこ行った?」


「…私に気付いたか…警戒しているな」


「剣士!?大丈夫よ…今はもう敵ではないの…出ていらっしゃい?」


「……」ソロリ


「そりゃそうと女盗賊と女海賊は名前がかぶってて混同するな」


「私もそう思うな…女盗賊!お前に盗賊は似合わない…もうやめておくんだ」


「そんなの私の勝手よ」


「まぁスリも鍵開けも出来んしなぁ…どっちかってーと医者とか踊り子なんだが」


「そんなのイヤよ」


「ハンターはどうだ?お前は弓使いだろ?」


「もう!!勝手にして」プン


「あぁ分かった分かった…やっぱりお前は女盗賊だ…中身は医者だが…それで良いな!?」


「私はこれで失礼するわ!…お店の方が忙しいの」プリプリ


「ところで剣士君…君はどういう人間なんだね?」


「……」


「うん!!近くで見るとやっぱカッコイイね!!」


「見たところその毛皮は白狼…むぅ??…目をどうした?」


「ちぃと話は長くなるんだがな…」



盗賊は剣士のいきさつをアサシンに話した



「…盲目の狼少年という訳か…盲目であれほど戦えるとはな」


「アサシン…お前はどうしてセントラルに来てる?」


「古き時代の秘宝『いのりの指輪』を探している」


「なんだそりゃ?古代の魔術師が使ってたとかいうやつか?それがセントラルに?」


「魔王の復活にはいのりの指輪が関わっている筈なのだ」


「なんでセントラルにあると思ってんだ?確かな情報は何かあるのか?」


「前にも言ったことがあると思うが…」



私はシャ・バクダが200年前に滅んだ理由を探していた


何度もシャ・バクダの遺跡に足を運び見つけたものが


古い古文書と地下あるに巨大なカタコンベ


私はそのカタコンベで彷徨う魂が渦を巻いているのを見た


200年たった今でもだ


大量の骸は数え切れる物ではない…幾多の骸が


残虐な拷問ののち遺棄されたのは見て明らかだった


古文書に記されていたのは


神々の戦い…つまり精霊と魔王の戦い


そのどちらも人々の祈りによってこの世界で実体化するらしい


いのりの指輪を使って…



「何だお前…魔王にでもなるつもりか?」


「違う!誰かが魔王を復活させてしまう前に指輪を破壊したいのが第一」


「第二は魔王と対になる勇者を暗殺…もしも魔王が復活してしまったなら…」


「おまえの言うことはどうも決定打が無いな…女盗賊が反対するのも理解できる」


「…知っているか?セントラルの地下に巨大空洞があることを?」


「なぬ!?」


「私はそこでシャ・バクダと同じ過ちをしているのでは無いかと疑っている」


「むぅぅ…」


「何か知っているのか?」


「下水の見取り図を作っていたんだがな…法王庁の下に怪しい区画がある」


「下水から行けるのか?」


「近くまでは行けるが…その奥まで繋がっているかは行ってみないと分からねぇ」


「私が行って見て来よう」


「待て待て焦るな…そのいのりの指輪のありかは分かってないのか?」


「確たる情報は無いが…法王が切望しているという話を聞いたのだ」


「その指輪を使って魔王を祈ると復活する…そういう話なんだな?」


「憎悪の渦が実体化する…古文書にはそう書いてある」


「勇者の方はどうなんだ?何か手掛かりは無いのか?」


「無い…」


「ぐはぁ…話になんねぇな本当…雲を掴む様な話だ…女盗賊の言う通りだぜまったく!!」


「ただ分かっているのは200年前の大破壊の時、魔王が倒される間際に精霊を夢幻に封印したという事」


「なんだか良くわからんが…それは関係の無い話だと思わんか?」


「いや…精霊は夢幻に封印されてもなお祈りを続けているのだ」


「夢幻の意味が分からん」


「勇者は精霊の祈りによって生まれる…この意味が分かるか?…勇者は夢幻から来る」


「昔話だぞ!?そんなもん信じてんのか?」


「これは事実…私は石となり眠る精霊をこの目で見た」


「どこにあんのよ?」


「光の国シン・リーン」


「…そこで勇者を待つってのか?アホらしい…」


「そうだ…いつまでも待っている訳に行かないからこうやって魔王復活の兆しを探している」


「…ともあれ、その話じゃ今いまどうすりゃ良いか皆目見当がつかん…お前の話にゃ具体性が無えのよ」


「今お前から情報を得た…下水からその怪しい区画に行けるのだろう?」


「だからそれは待てっての!!その後どうするか決めてからだ…一つ一つ具体的に作戦練らんと全部失敗すんぞ?」


「ふむ…」




『酒場のカウンター』


盗賊は怒って距離を置いた女盗賊を気遣ってカウンターに話をしに来た



「怒ってんのか?」


「怒ってなんかないわ…呆れてるの」


「お前の兄はやっぱり頭逝かれてんな…こう言っちゃ悪いが…」


「本質的には正義感の塊で根はやさしいの…でもね自分が見えてないというか…」


「まぁ分かる…なんとかしたい気は分かるが具体性が無ぇ」


「利用されて巻き込まれない様に気を付けて」


「ただな…言ってる事に合致してる部分があるんだ」


「聞いてたわ…下水の奥の事でしょう?」


「人骨がやたら散らばってたんだ…あいつが言ってる事と合ってる」


「…そういえば」


「ん?」


「下水の奥は狭間が近くて妖精とお話が出来たわ…」


「調べてみる必要がありそうだが…今はその時では無いな」


「わたしもそう思うわ…子供たちの回復と、セントラルの混乱が落ち着くまではね」


「その通りだ…早いとこ子供たちに旨い飯食わしてやりてぇ」


「フフあなたのそういう所好きよ」


「しかしアレだな…チラチラ噂を耳にする様になったが…法王庁の爆破事件は俺らのせいにされてんな?」


「そうね…白いクロークが目立ち過ぎたわね」


「やっぱ法王庁を良く思って居無い奴らが多いって事か…当然ちゃ当然だが…」


「そうよ…そこに白いクロークを羽織った私達が丁度目立って居たのよ…民衆はヒーローを求めてるのね」


「ふむ…ヒーローか…」


「フフ子供達から見ればあなたはヒーローよ?」


「ちっと考えるわ…それよりアサシンを遠ざけたままにしておかないで上手く仲直りしてくれ」


「もう!仕方ないわね…」




『テーブル席』


離れていた女盗賊がワインの瓶を持ってテーブルに戻った



「もうお酒が空でしょう?ワインを持って来たわ」


「あぁ気を遣わせて済まない…」


「それで?私に何か言う事があるのでは無くって?」


「急に変な話をして済まなかった…私は少し熱くなっていたようだ」


「……」ジロリ


「まずはお前の安否が確認できて良かった…本当にそう思っている」


「女心を分かってないなぁ~!!君!!ヒック…心配でしょうがないと素直にさぁ~ヒック」


「今日は一旦おいとまする…女海賊!飲みすぎだぞ!」


「交渉決裂~~ヒック」


「折角ワインが来たんだから空くまで飲んで行け!ほんでアサシン!お前はこれからどうするつもりなのよ?」


「私は引き続き調査を続けるつもりだ」


「まぁ…あれだ…内容によっては協力してやっても良い」


「盗賊!!」…女盗賊は声を荒らげた…関りを持つなと言う合図だ


「勇者の暗殺には協力する気は無ぇ…というか居るかどうかも分かんねぇんだからな」


「……」


「言っちゃいなよ~~金が欲しいってさぁ~ヒック」


「金?ぬはは…盗賊ギルドマスターが金欠か?笑っちまうぜ」


「船が必要なのだ…私はドワーフの国へ行かねばならん」


「…またぶっ飛んだ話だな…だが金が居るならやりようは在る」


「協力してもらえる…という事で良いか?妹よ…」


「私は盗賊は辞めたわ…」シラー


「フッ…」


「盗賊と剣士がどうするのかまで私は決められない…勝手にしたら良いのよ」


「ねぇねぇ女心分かる~~?今のはオッケーってことだよ?ヒック」


「もう一回言うぞ?勇者暗殺は俺たちはやらねぇ!」…盗賊は念を押す


「商談成立~~♪」



酒場でワインを飲み切った後盗賊はアサシンに隠れ家の場所を教えた


女海賊は飲み過ぎてしまった為後日改めて訪ねて来る事になった


アサシンが酒場を出る際に剣士は女海賊を背負って運んだ


その時気付く…この匂いは嗅いだことが有る…君は誰だ?


この重たい体を何度も背負った気がする…君は…僕の夢の人じゃないのか?




『隠れ家』


翌日昼過ぎにアサシンと女海賊は再び揃って訪ねて来た


盗賊は下水の見取り図をアサシンに見せ今後の作戦について相談している



「ふむ…つまり貴族居住区の堀に盗んだものを放り投げれば下水で回収できるのだな?」


「そういう事だ」


「地上部分の貴族居住区へのゲートは全部破壊してあるからどのエリアでも出入りは出来る」


「ほぅ~そりゃやり易いな…逃げ道が一ヵ所じゃ無くなるか…」


「逃走ルート確保は剣士が衛兵の足止めをする…鍵開けの担当は盗賊…見張りは女海賊」


「私は手当たり次第に盗んだ物を堀へ投棄…良い作戦だ」


「逃走時は人に紛れる為に中央経由で金をばら撒く…ふむ民衆が味方に付く事になりそうだ」


「俺達ぁ泥棒だ!!全部頂いちまおう」


「よし!装備整えて準備しよう…決行は夕暮れ過ぎだな?」


「ちょい待ちちょい待ち~みんなコレ着て行って」ドサ


「これは?…白い毛皮のマント」


「泥棒もさぁ…恰好良くないといけないと思ってさ」


「おいおい…これじゃ剣士と同じじゃねぇか…派手すぎやせんか?」


「ハハまぁ良いではないか普通の盗賊ギルドとは違うという所を見せてやろうじゃないか」


「まぁギルドに迷惑かける訳にもいかんしな…仕方ねぇか」


「白狼の盗賊団!!超かっけぇ!!」



法王庁の爆破事件からほとぼりが冷める間もなく


白狼の盗賊団は更に動き始める…今度は貴族達が蓄えている財産が狙いだ…伝説はまだまだ続く





『貴族居住区』


その夜4人は建屋の屋根を伝って貴族居住区を目指す


誰の目にも付かなかった訳ではない…闇夜に空を舞う白狼達の姿はあまりに目立つからだ



ピーーーーーーー



「剣士!足止め頼む!」タッタッタ


「よろぴこ~」ピョン


「いつも通りでな?無理すんなよ?」ダダダ


「私に続け!!」


「居たぞ!撃て!」シュン シュン



軽々と屋根を伝って逃げる白狼を相手に衛兵達は弓矢を使って対処しようとした


しかし四つ足で動き回る剣士に翻弄され狙いは定まらない



「くそう!またこいつか!!」


「弓隊!!撃て!!」シュン シュン シュン シュン


「逃がすなぁぁぁぁ!!ピーーーーーーー」


「何故当てられん!!撃て撃てぇぇ」シュン シュン シュン シュン



剣士は目が見え無い分何処から撃たれてるのか頭の中で把握する空間認識力に長けていた


だから弓矢による十字砲火を受けても難なくそれを回避する事が出来た


匂いと足音で新手の来る方向も人数も把握できる


こうして剣士が衛兵を引き付けている間に盗賊達は次々とお宝を盗み堀の下の下水へ投げ込む


引き上げる際は4人揃って屋根の上に上がり逃げる…



「逃げまーす!!」


「先回りは!!?」


「行ってる筈です…追え!!追うんだぁ!!」


「あぁぁぁ…向こうの屋根に…」


「何と言う鮮やかさ…あれはもののけか?…」



---白狼の盗賊団の暗躍は---


---セントラルを震撼させた---


---事に四つ足で闇夜を飛び回るその姿は---


---民衆を引き付け魅了し---


---憧れの対象となった---




『中央広場』


1ヶ月ほど経過し白狼の盗賊団を知らない者は居ない様になった


衛兵達は更に組織的に動く様になり昼間でも目を光らせて居る



「安いよ安いよ~白銀の毛皮!!たったの1金貨!!買った買ったぁ」


「今なら狼人形もセットだよぉぉぉ!ほら買ったぁぁ!!」



盗賊は中央広場で物売りをしている女海賊を見つけ呆れ顔で近付く



「ほらそこの兄さん!!」


「…何やってんだお前…居ないと思ったらこんな所で売り込みか?」


「テヘ…見つかっちゃった」


「売れてるんか?」


「めっちゃ売れる!!一日金貨一袋行けるヨ」


「…この毛皮はウルフの毛皮じゃ無ぇな…ヤギだ」


「お!?お目が高い!!そんなお客様にはコチラ!!」


「…そりゃウサギだ」


「テヘ…」


「テヘじゃねぇ!!まぁ…有名になっちまったから偽装したいのは分かるんだがな?…」


「良いじゃないホラそこら中に白い毛皮着てる人居るじゃん…私のおかげなんだかんね?」


「まぁちっと大人しくしてろや」


「あんたこそ何してんのさぁ!!ウロウロしてて良いの?」


「俺は町の状況をだな…」


「私と同じゃん!!」


「あー分かった分かった…とにかく…目を付けられんように気を付けろ」


「わーってるって!!うるさい人シッシッシ」




この時…衛兵達が白狼の盗賊団をなかなか捕まえられなかった原因に


貴族院の中での貴族達の対立構造が背景に有った


貴族の中にも白狼の盗賊団を泳がせておきたいと思う者も一定数居たのだ


そういう背景は盗賊達は知る由も無かった





『酒場カク・レガ』


ポロロン ポロロン♪


ピアノの音は建屋の外まで漏れていた…そこに盗賊が訪れる



「こんな昼間からお酒?」


「いや…ピアノの音が聞こえてきたから寄っただけだ」


「兄さんは?」


「知らん…どこかの調査にでも行ってるんだろ」


「きっと船の買い付けだわ」


「あぁ…そうかも知れんな」


「あなた達の噂…知ってて?」


「まぁな…潮時だ」


「少し目立ちすぎたわね?…爆破の事件以外も事も全部背負ってしまったわ」


「もう侵入は無理と見た方が良い…警備が厚すぎる」


「兄の策略にまんまと乗ってあげた…そういう事なんでしょ?」


「…ツケが回ってくるかも知れんのは考えておかないとな」


「ツケ?」


「ここも安全ではなくなるかも知れんという事だ」


「私はここが気に入ったわ…そして私は関与していません」


「そうだな…盗んだものは一旦船に積んで沖にでも出さんとガサ入れで言い訳出来ん」


「そうね…兄に言っておくわ…早く出て行ってって」


「その場合俺と剣士もしばらく離れた方が良い…背格好がバレてるからな」


「…さみしくなんかないわよ?娘たちも子供たちも居るのだから…」


「ぬはは…そうだなそれで良い」


「さて!私はピアノの練習…邪魔しないでね?」


「黙って聞いておく」



ポロロン ポロロン♪


盗賊には分かって居た…一つの関係が終わってしまう切なさが彼女の歌に現れて居たから


女盗賊が既に別れを覚悟しているのだと悟った


盗賊はワインを飲みながら一人…彼女の歌を聞き入った





『隠れ家』


盗賊はセントラルで目立った行動はもう出来ない事から数日隠れ家に籠って居た


そこにアサシンが訪ねて来る



「船の買い付けが決まった…中型のキャラック船だ…乗員も十分集まった」


「私はこの船で明日ここを離れようと思う…ただその前に一つやっておきたい事がある」


「んん?もう泥棒は出来ねぇぞ」


「法王庁の地下の調査だ…これだけはやっておきたい」


「下水か…そこまでは衛兵の手は回ってねぇか…」


「調査は私一人でも良い…奥に何があるのかだけ知りたいのだ」


「まぁそれなら案内してやっても良い」


「悪いな…恩に着る」


「その後船でドワーフの国か?何の用事がある」


「お前達には秘密を言っておこう…」


「そんな大層な秘密か?」


「ドワーフが憎悪を浄化する作用を持つ金属を発見したのだ…その名をミスリル銀と言う」


「また魔王がらみか…」


「そのミスリル銀を用いれば憎悪に満ちた魂を浄化できるかも知れんのだ…価値は高い」


「それで大金が必要だった訳か…独り占めでは無いんだな?」


「私は金になど興味は無い…魔王復活を阻止したいだけだ」


「…で俺たちはどうすんのよ?」


「女海賊は一旦シャ・バクダに戻るように言ってある…もし剣士がシン・リーンを目指すなら付いて行けば良い」


「ふむ…別れる訳だな?…お前は一人で良いのか?」


「私は一人になっても戦い続ける…今までそうして来たように」


「…んーむ」



その話を盗み聞きしていた女盗賊が割り込んで来た



「何を迷ってるの?私はあなたたちが居ない方が安全なのよ?兄の面倒を見てあげて?」


「うお!女盗賊…聞いてたのか」


「あなたが傍に居るとわたしも危険なの…分かる?」


「うむ…確かに…俺はアサシンに同行するのが最善だな」


「子供たちは心配しなくて良くってよ?」


「船への荷物の積み込みは今晩行うように乗員には伝えてある」


「法王庁の調査が終わったら私はそのまま乗船して出港するつもりだ」


「今晩が最後の仕事って訳だな」


「そうだ…これで白狼の盗賊団は解散する」


「フフわざわざ解散するとか…自惚れ屋さんの兄さんが言いそうなセリフね…」


「馬鹿にするな…これでも大真面目なんだ…私はどうにかして魔王復活を阻止したい」


「盗賊?兄が馬鹿な事をしない様に見張っていて頂戴」


「分かった…でもな?ほとぼり冷めたら俺はお前ん所戻ってくんぞ?」


「あら?それは何の告白?私はプライドが高いのよ?」


「分かってる!手土産ぐらい用意する!」


「それはどうも?フフ…」




『下水』


夜になって貴族達から盗んだお宝は下水を通って海まで運び出された


運搬役になったのはキャラック船の乗員だったが元々が海賊崩れのあらくれ共だ


お宝を運ばせている間盗賊達は例の疑わしい場所へ向かう



「あんな奴らに金銀財宝運ばせて良いのか?」


「少々無くなっても構わんよ…私の金ではない」


「俺にとってもどうでも良い金なんだが今までの苦労がな…」


「中央で金をばら撒くのと大差ない」


「んむ…まぁ良いか…これで言う事聞くと思えばな?」


「ところで剣士と女海賊は相性が良さそうと見るがどうだ?」



女海賊は目の見えない剣士に対してちょっかいを出して居た



「まぁ意外と面倒見は良さそうだな…剣士の引導の仕方をよく工夫している」


「やはりそう見るか…シン・リーンまで連れて行けと言っておいた」


「そうかそりゃ良い…だがよく言う事聞いたな?」


「私の気球を前から欲しがっていてな…それと引き換えなのだよ」


「なるほどな…おっともうすぐ梯子だ!その先に鉄格子がある」



4人は鉄格子を潜り更に奥へと進む



「見取り図が出来ているのはここまでか…この奥の区画が謎のエリアだな?」


「そうなる…ここから先はまだ行ったことがねぇ」


「もう!!何なのさココ!!人骨ばかりで気持ち悪いんだけど!!」



女海賊が溜まらず声を出した所でかすかに妖精の声も聞こえだした



「…くないよ」


「お!?これ妖精の声!?」


「私にも聞こえるぞ」


「むぅ…俺だけ聞こえないってか?俺ぁ鈍感なのか?何て言ってんだ?」



妖精の姿も見え始めた



「おおおお!!あんた久しぶりじゃん!!何処行ってたんだよ!?」


「え?君誰?妖精違いだと思うな?」


「おい!!そんな何匹も妖精居るなんて聞いて無いぞ!?」


「ええと…君の相手してる場合じゃ無いよ…狭間が近すぎて危ないんだ」


「どういう事だね?どちらの方向が良くない方向なのか?」



スラーン チャキリ


剣士が武器を抜いて構えた



「ちょ…剣士?どうしたん?」


「暗闇の向こうに何か居るな…」…そう言ってアサシンも武器を抜く


「なんだありゃ…でかいネズミ…ラットマンの巣になってんのか!?」


「ちょちょちょ…来る来る来る来る」…女海賊は慌てて剣士の陰に隠れる



「ギャース」ドドド



「4匹…押し通るぞ!!剣士!!援護しろ!!」


「暗いな…俺は明かり役だここまで引き付けろ」



剣士に明かりは関係無かった


そのまま飛び込みラットマンに剣戟を浴びせる スパ!! ザク!!



「剣士!なかなかやる…そのまま奥の方へ」


「女海賊!!お前はケツに付け…背後しっかり見とけよ?」



迫りくるラットマンは4匹どころでは無かった


次々と襲い掛かって来るラットマンを剣士とアサシンの2人で倒しながら進む



「妖精!!どっちの方向だ!?ちぃぃこう忙しくては聞こえんか…」カーン キーン


「……」ユビサシ


「そっちか!剣士が先導しろ!!」


「おいおい!又鉄格子があるぜ?この奥なんか?」


「ええい!袋小路では無いか…私がラットマンを押さえて居る間にどうにかしろ!」


「だめだぁ…こりゃ鍵なんか付いて無え!切るのに時間かかるぜ?」


「女海賊!!ヤレ」


「アイアイサー!!みんな離れてて?」ゴソゴソ


「おぉ…爆破すんだな?」


「音で上の連中が気付く…この先で何も無ければ引き返す…リミットは10分だ」


「いくよぉぉぉ…」ドーン!!パラパラ


「うひょぉぉ派手だな…壁に穴開けやがった」


「行くぞ…来い!!」




『カタコンベ』


そこは巨大なすり鉢状の空間だった


中央に人の死体が無数に積み上がりカタコンベと言うよりも人の死体捨て場と形容した方が良い


まだ新しい死体の肉片がそこら中に散乱しラットマンの餌となって居る



「…なんだこりゃ」…盗賊は唖然とする



その傍らで剣士は狂った様に武器を振り回し怯えて居た



「ううう」ブン ブン


「剣士!何やってる!!何と戦ってる!?」


「うぁぁぁ」ブン クルクル シュタ


「ちょいダメダメダメ!!剣士の周りに何か獲り付いてる…」


「なぬ!?何も見えんぞ!?」


「あぁぁぁぁ」ブン スカ


「おい!剣士!!やめろ!!」


「盗賊…お前も見たな…この屍の山を」


「こりゃお前の言ってた通りだな」


「上を見てみろ…ここからでは行けないがあそこの穴の向こう側に処刑場があるはずだ」


「あそこから死体を捨ててるってか…うぇぇ…吐きそうだ…なんだってこんなにグチャグチャになってる」


「想像を絶する拷問の後…ここに遺棄されるのだ…だがまだシャ・バクダの数には及ばない」


「やばいよやばいよ…剣士が狂いそうだよぉぉ」


「うああぁぁぁぁぁぁぁ」ブン ブン ブン


「考えたくねぇが…女、子供達の連れられて行く先はココだな?」


「最終的にはそうなるだろう…これは人間のやる事ではない」


「なぜこんな事が出来る?なぜこれほど命を欲しがる?悪魔の仕業としか思えんのだ…私はこれを止めさせたい」


「もう!!そっちはダメ!!剣士落ち着いて!!」グイ


「うあああああぁあぁぁぁぁぁ」ブン ブン


「もうだめ!!私は剣士引っ張って先に帰る」グイ


「どうするアサシン!?」


「十分だ…戻るぞ」



---私はこの殺戮を止めさせたいのだ---


---そのすべてを破壊しようとする魔王---


---それを阻止しようとする勇者---


---私にはどちらが正しいのか分からない---




剣士はその後放心状態となり戦闘不能となった


そんな剣士を女海賊が背負って帰路につくがそれで2人戦闘不能になったのと同じだった


追いすがるラットマンはアサシンが倒し盗賊は明かりを維持する役


どうにか下水の出口付近まで逃れ剣士を背負った女海賊は隠れ家へ戻る事となる




『下水の出口』


「ここが海へつながっている場所だな?」


「このまま船着き場まで走るのか?」


「女海賊!ここで別れる…お前たちは隠れ家に戻れ」


「おけおけ!ちっと剣士心配だから早い所戻るわ」


「お前の姉によろしく言って置いてくれ」


「りょ!!シャ・バクダで待ってんね」


「女盗賊に挨拶しとこうと思ったんだが…まぁ仕方ねぇか!!隠れ家戻ったらよろしく言っといてくれ」


「あれれ?名残惜しいの?ムフフフ」


「今生の別れじゃねぇからな…ほとぼり冷めたら帰ってくると伝えとけ」


「アサシン!!パパによろしく言っといてね!!」


「パパ!?なんだ!?」


「ドワーフの国に女海賊の父が居るのだ…取引先はそこだ…行くぞ!夜明け前に出港する」


「ほんじゃわたしも戻るわ…じゃね~!!」



女海賊は剣士を背負ったまま隠れ家に戻って行った




『船着き場』


「…あの船だ」


「ほー…良い船買ったじゃ無ぇか…」


「まぁ商船だ…大砲は乗って居ない」


「む!!桟橋に誰か居るな…」


「おいおい…ありゃ女盗賊じゃ無えか…こんな所に来てたらダメだろうが…誰かに見られたらどうすんのよ」



盗賊とアサシンは女盗賊に駆け寄った



「遅かったじゃない…寒くて凍える所だったわ」


「一人で待ってたのか?」


「大丈夫よ…誰にも見られてないわ」


「もうすぐ夜が明ける…このまま出港する」


「次、戻るのはいつくらいになって?」


「分からん…早くて3か月という所か」


「盗賊!?兄の言う事は話半分よ?3ヶ月と聞いたら6ヶ月掛かると言う事なの」


「あぁ分かってる」


「女盗賊…もうこんな隠れて行動する様な事をするんじゃない…お前は医者か音楽家になれ」


「知ってるわ…しばらく会えなくなる家族を見送りに来ただけよ」


「うむ…良い女になるんだぞ?お前はやさしい子だ…」


「兄さんの方こそ体には気を付けて…それからあなたも」


「お?俺か?」


「他に居ないでしょう?」


「おう!わざわざ見送りさせちまって悪いな…いや違うな…」


「俺が出て行かなきゃならん様になっちまったのは俺が悪かった…勝手に出て行っちまって済まん」


「……」ジロリ


「なんだよ何か言えよ」


「子供達はヒーローを待って居るから…こう言えば良いの?」


「ケッ!まぁ分かった…湿っぽくなるよりマシだな?またお前の歌を聞きに来る!じゃぁな」


「よし!急ぐぞ!!」


「船乗りはどこだぁぁ!!碇を上げさせろぉぉ!!」


「出港する!!…警備船を見つけても止まらず押し通れ!!」




女盗賊は出港する船を最後まで見送った


微妙な関係ではあったが共に生活をしてきた一番信頼できる男が遠くへ行ってしまうからだ


これが今生の別れになるかも知れないと…そういう予感もあった


生ぬるい海の風が嵐を予感させる…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る