第3話 『三英雄』とひとまずの指針
「はぁ……これからどうしよう……」
持ち込みの拒否というまさかまさかの事態に、ナナシアは全くもって活路を見いだせずにいた。
学者になる。
たった1つの夢が遠のいた今、彼女の足取りはすっかり重たくなっていた。
「うう……『論文』の審査が通ったら『賞金』が出るって話だったから、生活費も3日分しか貰ってきてないのに……。
このままだと、本当に
幼いころから祖父の本を読み
だが現状、彼女は帰宅コースに片足を突っ込んでいる状況だ。
このままではもう二度とチャンスは訪れない、なんとかしなければ……という危機感は、彼女の心をじわじわと蝕んでいた。
「はぁ……。ん? もしかしてあれは……」
そんなこんなで俯いたまま歩き続けていると、ナナシアはいつの間にか自分が『広場』に着いていることに気がついた。
『広場』には、立ったまま
そして、そんな彼らを見守るようにそびえ立つ、1つの『像』。
顔を上げたナナシアの視線は、すぐそれに釘付けになった。
「わぁ……すっごい! これって、あの『
その中心にそびえ立つ立派な彫像。
その壮大さと
エスクード領民……いや、ラグズ王国民なら誰もが知る、『三英雄』の像。
神から人間に与えられた『
広場の彫像も、その1つに違いなかった。
(『挿絵』でなら本で見たことあったけど……やっぱり立体で見ると迫力が違うなぁ。
『
『
ちなみに、ナナシアもご多分に漏れず『三英雄』の大ファンである。
その理由は、彼女が『文字』を習って初めて自分で
彼女にとって『三英雄』とは、歴史的・国民的な偉人というだけではなく、自分に本の楽しさ、ひいては文字の楽しさを教えてくれたきっかけとして、特別な意味を持っているのであった。
(……うん。『三英雄』様たちだって、辛いこともあったけど、諦めなかったから英雄になったんだよね。
そうだよ、私だってまだ『夢』が潰えた訳じゃないんだもん)
幼い頃から、辛いことがある度に読み返してきた『三英雄』の物語。
彼らの『物語』を思い出し、ナナシアは今一度、心の中にやる気の火をともした。
「私も『三英雄』様を見習って、夢のために頑張るぞーっ!」
おーっ、と唱えながらガッツポーズ。
空元気ではあるが、一歩を踏み出す勇気を貰い、ナナシアは顔を上げて歩き出した。
***
「そうだなぁ……とりあえず今一番マズイのは、『田舎に帰ること』。
帰ったら問答無用でお父さんに農家にされるし、二度と『都市』には行かせてもらえないかもしれない……」
彼女の脳裏にちらつくのは、クワを両手に持って2つの畝を一気に作る、筋骨隆々な父の影。
ナナシアが『学問大好き!』なのと同じくらい『農業大好き!』な父親は、どうしても娘にも農業をやって欲しいらしく、子供の頃から
彼女の『農業嫌い』は、これがひとつの原因だったりする。
「うう、私は農業より勉強してたいのに。
肉体労働は嫌だ、肉体労働は嫌だ……」
ということで、今後の方向性が一つ決まった。
『とにかく中央に居続けること』。
となると、次に考えなくてはならないのが……やはり、『生活費』についてである。
「問題は、生活費をどう稼ぐかだけど……お仕事、かぁ」
ラグズ王国には、大きく分けて3つの身分が存在する。
1つ目は、ナナシアたちが属する『農民』。
2つ目は、都市で工業・商業などを営む人々を指す『市民』。
そして3つ目は、都市および領地全体を管理する『首長・領主』である。
この3つの身分は基本的に生まれによって決まり、『社会の中の役割を担う人口を固定すること』を大義名分に、人生の中で変動することはまずない。
したがって、各々の身分に生まれた人物は、基本的にその身分を超えた職業に就くことができないのである。
「まずは、私にもできるお仕事を探さなくちゃ。
確か、前にお父さんと来たときは……」
……だが、基本的にということで、無論いくつかの例外はある。
ナナシアはいくつかの店の看板をチラチラと見て歩いた後、意を決したように頷いた。
「……うん。まず、あそこの『
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