第2話 恐怖

今回肝試しで回っていくのは昔、殺人鬼が入ったと言われている廃校。

殺人鬼が入る日の朝、トラックとバスがトンネルで衝突したらしい。

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正面玄関から入れば、学校の古さを感じさせるように苔が生えた木製の靴入れがズラーっと並んでいる。雨が降った時の湿気で木が腐ってしまっているみたい。


「わぁ、なんか…臭い」


鼻をくすぐる異様なカビ臭さに思わずボソッと呟いてしまう私を見て隣にいた達也が小さく笑う。

一気に赤くなる顔、変なことを言ってしまった、何か話そうと話題を探してる途中私の視界に彼が入ってきた。


「俺も思った 笑 ライト無いんだから離れるなよ?」


どうしてこんなにかっこいいのだろうか。

私が今まで好きになった人と系統が違うが、何故か凄く惹かれるものがある。

チャラチャラしてないのに話しやすくて、そしてなんと言っても優しい。

後、かっこいいし…


すーっと冷たい風が廊下の奥から冷たい風が吹いてきて、肌寒いはずなのに何故か生暖かいような気持ち悪い感覚が肌をなぞる。

気持ち悪い…この空間…人が入ってはいけないような、頭が痛くなるような…とにかく気持ちが悪い。


「うっ…」


急にしゃがみこむ友里愛…隣にいた彼氏の竜太が慌てたように背中をさすっている。

友里愛の真っ白な肌が青白くなって息が荒い。

何かに怯えるように震える肩…そして、何かを見つめる目。普通の状況じゃないということが誰でも分かる。


「ちょっと俺ら休んで行くから、行ってきていいよ」


友達が心配でたまらないが彼がいるなら大丈夫だろうと、お願いすればまた後でとどんどん足を進める。


「何も無かったなぁ〜はぁーガッカリだわ」


1階で離れた2人が心配だった気持ちはみんな同じだったからか、ざっくり校内を見て周り特に怪奇現象もなく最後は屋上まで来ていた。


ガチャ…ギーーッ


重いドアが錆び付いた音をたてて開く、ギーーッ…ギーーッ…屋上の扉が半分開くまでは分からなかったが人がいるみたい。

私は、その時見てしまった。

その人はこっちを見ていることに、そして、その女は微かな声で何かを呟いている。


「…す…こ…す…ころす…殺す」


最後の声ははっきりと聞こえた。他のみんなも聞こえたのか怯えた顔が視界の片隅に映って。

目と目が合う。女の片目はしっかりこっちをみていて、次には背中から落下するように後ろに倒れていなくなった。

次には、水風船が弾け飛ぶような鈍い音…確かに1つの命が無くなった…そんな音。


「おぇぇえええ」

グチャッ


雫の口から出てくる吐瀉物。ハッと今の光景から我に返れば、雫の肩を抱き寄せる。

優は落ちた人が気になるようで、走って下を見に行ったが、次に口から出た言葉はあまりに現実味がなくて。


「いない、いないぞ」


振り向く優の顔はいつもの自信満々な顔ではなくてなんだか、"戸惑ってます"と感じさせるような顔だった。

その日はどうやって帰ったか覚えてない。ただし、友里愛は最後まで何かをしっかり目で捉えていた。

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いつも通り、仲良しな3人。

あれから2週間が経とうとしていた。何も無くて忘れそうになっていた頃。

あのことも夢だった、ただの妄想だったで終わりそうになってた時。


「ねぇ!聞いてる??友里愛?」


昨日から、ずっとこの様子で話を時々聞いていないのが目立つ友里愛。

どこか遠くを見つめてる様子、と思ったら次はお手洗いに行くと行っていなくなってしまう。

それの繰り返し。

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side: 笠無 友里愛


あの晩、私は声を聞いてしまった。そして、見てしまった。

廊下の奥でこっちを見つめる女。


ペタッ…ペタッ…ペタッ


裸足で床を歩く音がどんどん近づいてくる。みんなは足音が聞こえて無い様子なのに私の耳にだけ。

気持ち悪い…怖い…どうしよう…

こっちに来る女の顔が見えないようにしゃがみこめば、どんどん近づいてくる足音が止まった。止まった?いや、前まで来ていたのだ。


「つぶれろぉぉぉぉぉぉおぉぉおお!!!

あぁあああぁああぁあぁあああぁああぁあああああああああぁああああああああああああぁあ」


耳の近く、隣で聞こえる声に頭が痛くてたまらない。どうして私にだけしか聞こえてないの。


「大丈夫か??」


ふっと隣を見ると竜太がこちらを心配そうに見ていて、その後ろにはあの女がいた。

口を大きく開いて、口の端がブチチチチチチと音をたてて破けていく。

目が離せない。何故か、別のところを見たくても目が言うことを聞いてくれない。

その後、何も言えない私は竜太におんぶで連れられて外のベンチに座る。その女は、こっちを見る前に私と竜太以外の4人について行ってしまった。

4人には申し訳ないが内心ほっとした自分がいた。

1時間後


「竜太もう大丈夫だよ…ごめんね、ありがとう」


ずっとそばに居てくれた彼に御礼を言って、立ち上がろうとした瞬間


ドンッ


目の前に広がる考えられない光景、鈍い音が自分の耳にひたすらこだまする。こっちまで来そうな飛び散った臓器や、血から目が離せない。

反対に折れ曲がった足は見てたら気分が悪くなるほどに不快で。

女の目が見えた。その目はしっかり私の目を見ていたのだった。私だけを。


「大丈夫?友里愛?」


隣で心配する竜太の声は耳に届いてなくて、今すぐにこの気持ちを共有したいのに、私にだけ見えてる。

どうして私なんだ。6人もいたのにどうして私なの、今にも狂ってしまいそうな気持ちに蓋をするように涙を堪えてはずっと目の前にある死体を見つめる。

ずっと…ずっと帰るまで"ソレ"を見つめた。

2週間、普通の毎日、あの時の事は考えないようにみんなには見えてなかったし、ただの幻覚だった。それで終わりだと思った。

昨日から声が聞こえるようになったのだ。

終わった…終わった…終わってない


「死ねええええええええええええええええええ」


頭が割れそう…夜寝ると近くに気配を感じる。

どこにいても、私の耳にへばりつく声…何度も何度も、授業中でも、家でも。どこにいようと…着いてくる声に叫びそうになる気持ちを抑えて、トイレに逃げ込む。


「はぁ…はぁ…嫌だ、嫌だ」


鏡を見た。隣に女が立っていてその女はにこにこと笑っている。こいつ、こいつ何笑ってるの。頭をぶんぶんと振る女を、隣を見ればしっかり目が合った。女の目と、鏡越しには目があった。目があったのにあっていない。

目がない。くり抜かれたように真っ黒な空洞になった目に思わず、息を飲む。


「見たな…見たな…ミタナ…オワリ…オワリ」


頭を振る速度がどんどん早くなる、そして1歩1歩迫ってくる女。前…後ろ…前…後ろ。あの時見たように口がどんどん…どんどん破けて。


ガチャッ


ビクッと肩を震わせ後ろを見れば2人が立っていた。













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