第157話 空から、地上からも探索

 翌朝、私達は日の出と共に行動を開始した。


 エドセント達が黒針竜に目印を付けた以上、少しでも早く行動する必要があった。



 クウネは幸いあの後、体調不良などもなく、今日の探索は問題なくこなせるとの事だった。



 あとはアイシャとミレニアさんだ。

 二人には朝から鬼気迫る気迫を感じた。



 ミレニアさんは朝から私に


「…ラフィーネさん。絶対にあの狩猟者より早く黒針竜を倒しましょうね」


 と、普段物静かなミレニアさんが珍しく、気合いの入った顔で声を掛けてきた。



 アイシャに至っては


「お嬢様。小間切れはダメですが、事故に見せかけて腕の一本ぐらい、イっても構いませんから」


 なんて事を真顔で言ってきた。



 …ダメだよ。



 宿屋を出た私達は、森の入口に到着した後、イスネリがワイバーン姿で空へと飛び立った。


 私達は昨日、黒針竜と交戦した時に黒針竜が逃亡した方角を目指して進んで行った。



 昨日私達が交戦した場所は、ドラゴン避けの匂いが残っているだろうから、恐らく近寄らないだろうと思ったからだ。



 私達はザージンさんを先頭にして、森の中を進んで行った。


 ザージンさんも昨日レボネが残した矢のわずかな匂いを頼りに進んでいるが、やはり色んな匂いが混じる森の中ではかなり嗅ぎ分けるのが、難しいみたいだ。



 バスクさんがザージンさんに尋ねる。


「どうだ? ザージン。匂いはやっぱり厳しいか?」


「そうっすね。昨日、ドラドーグルと黒針竜に遭遇した時に嗅いだ、その獣臭を辿った方が早いかもっす」


「分かった。お前に任せる。ラフィーネ。目印は大丈夫か?」


「うん。ちゃんと真上に飛ばしてるよ」



 イスネリが黒針竜を見つけた後、私達にすぐに知らせに来れるように、私は赤い布を巻いた三日月を目印にするため、森に入ってからずっと頭上の真上に飛ばしながら進んでいる。


 そして出来るだけモンスターに遭遇しても早く倒せるように、私は自分達の周りにも既に三日月を展開しながら、進んでいた。



 何度かモンスターに遭遇したが、私の三日月とナヴィの植物操作のスキルで、あまりモンスターに近付かずに対処する事が出来た。



 ナヴィは精霊の能力を使い、植物を動かす事が出来る。


 素早く動く昆虫系のモンスターも、投げつけた枝や周りの樹木を鞭状に変化させて、絡ませる事で動きを封じる事が出来た。


「だいぶ戦闘にも慣れてきたにゃ」


「そうだね。そうやってナヴィがモンスターの動きを拘束してくれると、私も狙いやすいよ」


「ありがとうにゃ。もうちょっと慣れてきたら、ノユンみたいにゴーレムを作って戦わせてみるにゃ」


「うん…。その時は暴走しないように注意してね」


 ナヴィはドヤ顔で任せてにゃと、返事をした。



 そのやり取りを見ていたバスクさんが声を掛けてくる。


「しかし、ワイバーンのイスネリちゃんにも大概驚いたが、ナヴィちゃんも精霊獣だったとはな…」


 私達は昨日の夜に、バスクさん達にはナヴィが精霊獣であることを明かしておいた。



 この事にもかなり驚いていたが、


「まあ、神竜のワイバーンがチームにいるんだから、精霊ぐらいいても不思議はないか…」


 と、すぐに納得したようだった。



 そうして数時間ほど森の中を進んで行ったが、黒針竜には遭遇せず、イスネリも私達に何かを知らせに来るという事はなかった。


 一刻も早く黒針竜を見つけたい私達は、ずっと空から探索してくれているイスネリの事もあって、休憩は最低限にして、森の中での探索を続けた。



 更に数時間ほど経って、イスネリが私達の真上から声を掛けてきた。


 すぐにバスクさんがイスネリに聞く。


「何か見つかったか?」



 不可視インビジブルで透明になっているイスネリの姿は見えないが、声が返ってくる。


「ええ、少し離れた場所ですが、大きな戦闘音が聞こえて、その辺りの木が揺れていますの」


「方角はどっちだ?」



 イスネリは私達の少し離れた所に色を塗った木を落とす。


 あらかじめ決めていた、方角を伝える方法だ。

 その木の不可視インビジブルが解けて、私達にも見えるようになった。


「その木の延長線上ですの」


「よし! 分かった! イスネリちゃんはその戦闘音の近くで待機していてくれ! すぐに向かう。みんな! 行くぞ!」


 私達は足を早めて、イスネリが示した方角へと向かった。



 そして一時間ほど歩いたところで、私達の耳に聞き覚えのある音が聞こえた。


 バァンッ! バァンッ!


 私とバスクさん、アイシャと目が合った。


 間違いない。


 ボウガンの発射音だ。


 私達はその音のする方へ、急いで向かって行った。

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