第155話 仕掛けられた矢

 イスネリの背中で、バスクさんがクウネの体を支えながらオドオドしている。


 そして私に不安そうに聞いてくる。


「ラフィーネ。これ、本当に周りからは見えてないんだよな?」


「ん? 大丈夫だよ。念のためにイスネリには村から少し離れた所に降りてもらうから」


「お、おう。そうか。よろしくな」



 イスネリは森の上空を快調に飛んで、あっという間にゴード村が見えてきた。



「それでは、少し離れた所に降りますの」


 イスネリはそう言うと、村から森の中に少し入った所に降り立った。


 私達はイスネリから降りて、イスネリは人間の姿になった。



 私がバスクさんに話す。


「じゃあ、バスクさん。クウネをおんぶして。ここから村まで歩くよ」



 私達四人はそこから歩いて村に入り、村の治癒師の所に向かった。


 時刻はまだお昼を過ぎたぐらいだ。

 時間的には全然余裕があった。



 クウネを担いだバスクさんが先頭になって村の中を歩き、やがて一軒の家の前でバスクさんが立ち止まった。


「ここだ。入るぞ」



 中に入ると、そこはお店ではなく普通の家で、私達が玄関で待っていると、少し年配の女性が一人で家の奥から出てきた。


「おや、怪我人ですかい?」


「ああ、この娘だ。毒にやられてるかもしれない。診てくれるか?」


「そう。では、この奥の部屋に運んでくれるかい?」



 そう言われて、私達四人は奥の部屋に通され、その部屋にあったベッドの上にクウネを座らせた。


 すると、先ほどの女性が薬箱のような物を持って、部屋に入ってきた。



 女性はクウネの前に膝をつくと、クウネの足を見た。


「この足だね。気分が悪くなったりしてないかい?」


「う、うん。だ、大丈夫」


 クウネがびくびくしながら、答える。



 私がクウネに声を掛ける。


「クウネ。大丈夫だよ。すぐに終わるから」



 バスクさんが女性に尋ねる。


「どうだい? 毒性はありそうか?」


 女性はクウネの足の包帯を外し、その傷を見る。


「見た感じだと、毒には侵されていないみたいだけど、念のため解毒をしておこうかい。で、これは何にやられた傷なんだい?」


「この矢だが、何か塗られてたみたいでな。それで毒性があるかもしれないと思って、ここに来たんだが」



 バスクさんはそう言って、あの矢を女性に見せた。


「ちょっと見せてくれるかい?」


 女性は矢を手に取り、かざして見たり、匂いを嗅いだりしている。


 そして私達に話し出した。


「狩猟者の矢だね。何かのモンスター避けの類いだね。時間が経つと、熱とかが出るかもしれないから、解毒をしてから治癒する方がいいね」



 バスクさんが女性に尋ねる。


「じゃあ、毒性は弱いのか?」


「そうだね。毒性は無い。念の為だね」


 女性はそう言うと、薬箱から何か薬草を取り出し、クウネの傷にサッと塗り、治癒のスキルを使い始めた。



 その様子を見ていた私はバスクさんに声を掛けられる。


「ラフィーネ。ちょっといいか? ここはイスネリちゃんに付き添いしてもらって、ちょっとお前に話がある」



 私はクウネの付き添いをイスネリにお願いして、バスクさんと家の外に出た。


「バスクさん。話って?」


 ハァーっとタメ息をついて、バスクさんが私に話し出す。


「とりあえず、まずはイスネリちゃんの事だな」


「あ、やっぱり?」


「イスネリちゃんは前にモーネサウラで目撃があったワイバーンなんだな?」


「うん。そうだよ」


「でも何で人間の姿で、お前達と一緒にいるんだ?」


 私はイスネリと出会ったいきさつを、バスクさんに説明をした。



 話を聞き終えたバスクさんが私に話す。


「なるほどな。お前も含めて家出娘ばっかりが集まってるんだな」



 バスクさんに私は、グレリオンの名は伏せて家出しているという事は話した。


「まー、アイシャちゃんがお前の事をお嬢様って呼んでいるから、そんな事だとは思っていたがな」


「そうだったの? でも聞いてこなかったね」


「冒険者にとって、そいつの家がどうだとかは、どうでもいい事だからな。要はそいつ自身が信用できるかどうか、だけだ」


 おー、なんかカッコいいな…。



「それと…、あいつらへの脅しだよ」


「脅しじゃないよ。警告だよ?」


「ありゃあ、どう聞いても脅しだよ。小間切れにするとか言ってただろ?」


「ああー、そういえば言ってたね?」


「言ってたよ! ホントに強気だな。お前らは」


「だってあの人達が横から邪魔するから、クウネは怪我するし、黒針竜だって逃がしちゃうし、頭に来たもんっ!」


「まあ、いいさ。俺も聞いてて、少し気持ちが良かったからよ」


 私は顔が赤くなった気がした。



 すると家の中からクウネとイスネリ、治癒師の女性が出てきた。



 私が二人に声を掛ける。


「クウネ! 大丈夫? 歩けるの?」


「うん。大丈夫だよー。ちょっと足が突っ張るから、今日は静かにしてだってー」



 治癒師の女性が私達に話し掛ける。


「そうだね。今日はもうこの娘は安静にしておくれ。明日には大丈夫だろうから。それとさっきの矢だけど、探索のスキルの対象になる呪法が込められていたね」



 バスクさんが答える。


「やっぱりそうか…。奴ら黒針竜にマーキングをしに来てやがったんだな」


「マーキング?」


「つまり、いつでも黒針竜の居場所が分かるように目印を付けたって事だ」


「じゃあ、エドセント達はいつでも黒針竜を見つけられるってこと?」


「そうだ。マーキングしたから、奴らは黒針竜の位置を捕捉できるはずだ」


 バスクさんが困ったように、頭を掻きながら答えた。



 …うーん。面倒な事になった…。

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