第154話 実はあの時の…

 エドセント達がいなくなったのを確認した私は、クウネの所に駆け出した。


 そしてクウネとアイシャの側に座り、イスネリに聞く。


「どう? イスネリ。治癒出来そう?」


「はいですの。傷はすぐに治りそうなんですが、あの矢、何か塗られていたみたいですの」



 既に抜かれて、クウネの傍らに置かれた矢をバスクさんが拾い上げて、その矢をじっと見た。


「確かに、何かが塗られているな。それと何か呪法のようなものが施されている」



 呪法!?



 私がバスクさんに尋ねる。


「何でそんなものが矢に施されてるの?」


「俺も自信が無いんだが、矢などを大型のモンスターに撃ち込んで、場所を特定するっていう狩りのやり方があるって聞いたことがある。これがそれなのか、どうなのか分からんが…」


「じゃあ、毒とかじゃないんだね?」


「それも分からん。だが村には治癒師がいる。その人なら毒かどうかは分かるだろう」



 私はクウネに尋ねる。


「クウネ。気分はどう? 痛みは?」


「うん。痛みはもうほとんど大丈夫…。だけど治癒師はイヤだ…」



 あっ! そうだった!

 クウネは知らない人に、体触られるのダメだった!



 バスクさんがイスネリに話す。


「イスネリちゃん。もし、毒だったら完全に傷口を塞がない方がいいな。クウネちゃん。悪いが、少し傷口が開いた状態で村に帰ってもらうぞ」



 クウネが泣きそうな顔で答える。


「ちゃんと診てもらわないとダメ?」


「ああ、もし毒性のあるものだったら、大変だからな。ちゃんと診てもらった方がいい」


「うー…、分かった…」


 クウネが諦めたように頷いた。



 そして私がクウネに尋ねる。


「大丈夫だよ。クウネ。すぐに終わるから! それで、歩けそう?」



 傷口はまだ開いているが、包帯を巻いた状態でクウネは立ち上がって二、三歩歩いた。


「まだ少し痛むけど、歩けるよー」



 クウネはそう答えたが、包帯がみるみる血で赤く染まっていった。



 バスクさんがそれを見て話す。


「んー。自力で歩くのは止めた方がいいな。また俺が担いで運ぶわ」


 バスクさんはそう言うと、大盾を木に立て掛けて、クウネの側に来た。



 私がバスクさんに話す。


「でも、出来るだけ早く村に戻った方がいいよね?」


「もちろんだ。早い方がいいな。だから早く乗りな。クウネちゃん」



 私がイスネリに尋ねる。


「イスネリ。七人は無理かな?」


「うーん、ちょっと難しいと思いますの」



 ナヴィが口を開く。


「私はイスネリの隣を飛べるから、六人にゃ」



 アイシャが話し出す。


「お嬢様。とにかくクウネを早く運ぶ事が優先ですから、バスクさんとクウネだけでも良いと思います」


「そうだね」



 ミレニアさんも話に入ってくる。


「…でも、ラフィーネさんも付き添いで行ってあげて。クウネちゃん不安だと思う…」


「分かった。じゃあ、悪いけど、イスネリ。私とクウネとバスクさんの三人でお願いしてもいいかな?」


「はいですの。全く問題ありませんの」



 バスクさんとザージンさんがその会話を聞いてキョトンとしている。


 バスクさんが私に尋ねてくる。


「一体、何の話をしているんだ? お前達」



 私とアイシャ、他の皆とも目が合って皆が無言で頷いたので、私がバスクさんに話す。


「バスクさん、ザージンさん。これから見る事はお墓まで持って行ってね。絶対に秘密だからね」


「おいおい。大袈裟だな。何なんだよ?」


「イスネリ。お願い」



 私に促されたイスネリがワイバーンの姿になった。


 バスクさんとザージンさんがそれを見て、後退りしながら、声を出した。


「おっ、おい! どういう事だよ? これは?」


「見ての通りだよ。バスクさん。イスネリは前にバスクさんが言ってた神竜のワイバーンなの」


「神竜だと? マジかよ?」


「ええ。正真正銘、神竜のワイバーンですの」


「…は、は。しゃべったよ…。しかもイスネリちゃんだ」



 私はバスクさんの手を取り、更に続ける。


「説明はイスネリに乗ってからするから、クウネを乗せて先にゴード村に戻るよ!」


「お、おう。分かった」



 バスクさんはクウネを抱えてイスネリに乗り込み、私も後に続いた。


 そして、イスネリの背中からアイシャに声を掛ける。


「じゃあ、アイシャ、みんな! 先に村に戻るね。みんなも気を付けて戻って来てね」



 アイシャが答える。


「分かりました。クウネをよろしくお願いします。ザージンさん。私達をゴード村まで誘導をお願いしますね」



 ザージンさんはイスネリをボーッと見ていたが、ハッとなり、答えた。


「あっ、わ、分かりましたっす。アイシャさん!」



 私はイスネリに声を掛ける。


「イスネリ。お願い!」


「行きますの!」


「お、おい! このまま村に行ったらめちゃくちゃ目立つぞっ! どうすんだっ?」



 イスネリが不可視インビジブルをかけて透明になった。



 私がバスクさんに言う。


「ほら、これで大丈夫だから。バスクさん。しっかりクウネを支えててあげてね」



 イスネリはゆっくりと舞い上がり、ゴード村に向けて飛び立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る