第153話 警告

 エドセントの仲間二人は私達を挟み込む位置まで走ると、手に持った卵のような物を黒針竜の近くに投げつけた。



 私は悪い予感がして、その玉を念動で操ろうとしたが、動かせなかった。


 二人が投げた玉は地面に当たると弾けて、中から緑色の液体が飛び散った。



 更に私達にも向かって、二人は無数の玉を放り投げてきた。


 バスクさんが私達に叫んだ。


「ラフィーネ! アイシャちゃん! 俺の後ろに隠れろっ!」


 バスクさんが飛んできた玉を大盾で防ぐと、盾はあっという間に緑色に染まった。



 大盾に付いたその液体を見て、バスクさんが呟いた。


「何だ…? これは?」



「グフゥンッ! シュッ!」



 突然、黒針竜とドラドーグル達がくしゃみをするように変な呼吸音を出し始めた。


 黒針竜とドラドーグルの体には緑色の液体は付いていない。



 バスクさんがハッとなり、声を上げた。


「ドラゴン避けかっ!」



 木の上にいるエドセントがニヤニヤしながら、バスクさんに向かって応える。


「せーかいだ! バスクさぁん! それは昔から伝わるドラゴン避けの匂い水を俺が改良したやつだっ!」



 私は思わず、少し体に付いた緑色の液体の匂いを嗅いだが、特に強い匂いなどはしなかった。



 更にエドセントが続ける。


「心配すんなっ! 人間の体には無害だからよ! これでそのまま黒針竜も倒せたら楽だったんだけどよー、やっぱ匂いを嫌がる程度しか効かないみたいだな」



 黒針竜とドラドーグルは首を何度も振り、涎を垂らしながら、森の中に逃げようとしていた。



 バスクさんと私がそれを追いかけようとすると、エドセントが叫んだ。


「無駄だぜー! お前らの体にはもうその匂いが染み付いてるからなー! ちょっと近付いただけでもドラゴンどもはどんどん離れていくぜ?」



 エドセントの言葉通り、黒針竜達はその場所にばらまかれたドラゴン避けの液体から遠ざかるように、足を早めて森の中に消えて行った。



 バスクさんがエドセントを睨み付け、呻くように声を出した。


「テメエら…」



 その横を凄い速さでアイシャが走り抜け、うずくまるクウネの隣に座る。


「クウネ! 大丈夫ですか? イスネリ! 治癒は?」



 イスネリはクウネの脚の傷口に手をかざしながら、答える。


「ええ、今、やってますの。大丈夫ですの」



 木の上からレボネが話し出した。


「周りでちょこまかするから、弾かれたアタシの弾が当たるんだよっ! 弱え奴は離れて見てりゃいいのによぉ…」



 ヒュンッ!



 アイシャが右腕を凄い速さで振った。

 その右腕から短剣がレボネに向かって一直線に向かう。



 虚をつかれたレボネの表情が固まった。

 しかし、その短剣はレボネの少し手前の空中で静止した。


 私が念動で止めた。


「? な、何だ?」


 レボネが思わず声を上げた。



 アイシャが私の方に振り返る。

 普段、冷静なアイシャが怒りで我を見失っているのが分かった。



 私は全ての三日月を木の上にいるエドセントとレボネの周りに高速回転させたまま、静止させる。



 私は静かに口を開いた。


「ダメだよ。アイシャ」



 アイシャが顔を伏せて、呟く。


「すいません。お嬢様」



 私はエドセントとレボネを見る。

 ニヤけた表情のままのエドセントが、眉を吊り上げて口を開いた。


「へぇー? この浮かせてるナイフ、君のスキル? 可愛い顔してエグいスキル持ってるねぇー?」


「エドセント、レボネ。これは警告だよ。あなた達が何をしようとしているか知らないけど、私の仲間を傷つける人は許さない。今すぐこの場から立ち去りなさい」



 エドセントはヒューっと口笛を吹いて、話し出す。


「おー、怖いねぇー? でも俺達は黒針竜を狙っただけだぜ? その獣人の娘は弾かれたその流れ弾に当たっただけだろ?」



 ビュンッ! ヒュンッ!…バキィ! バキィッ!…



 エドセントとレボネの周りで三日月が高速で動き回り、二人の周りにある木の枝を何本も切り落とす。



 エドセントとレボネの表情が険しくなった。


 そしてもう一度、私が口を開く。


「そんな言い訳はいらない。私はこの三日月でいつでもあなた達の体を小間切れに出来る。誰だか分からなくぐらい…細かくね」



 レボネが目を見開き、ボウガンを私に向けて、叫んだ。


「おいっ! テメエ! アタシらを脅してんのかぁ? こらぁ!」



 私はじっと二人を見て、それに答える。


「言ったはずだよ。これは警告。そしてあなた達には絶対、黒針竜は狩らせない」



 バァンッ!…キィン!



 レボネがボウガンで私を撃ったが、その矢はバスクさんの盾に防がれ、矢が地面に転がる。



 そしてバスクさんが声を上げる。


「ここでやり合うか? これは俺達の警告を無視したと判断していいのか?」



 すると、エドセントが答える。


「これでお互いさまだろ? さっきその姉ちゃんがレボネに短剣投げたじゃねえか?」


「相変わらず言い訳ばかりだな。エドセント」


「何とでも言え。オッサンが。言っておくが、俺は女でも容赦しねえ。黒針竜は俺らの獲物だ。お前ら、行くぞっ!」



 ボォン!ボォンッ!…



 エドセントのその声を合図に下にいる仲間の二人がまた無数の玉を地面に投げつけると、凄い勢いで辺り一帯に煙が広がり、私達の視界を奪った。



 バスクさんの声が聞こえる。


「くそっ! 煙幕か! 気を付けろ!」



 煙は瞬く間に消えて無くなったが、エドセント達四人の姿もいなくなっていた。


 その場にはドラゴン避けと呼ばれた液体を体の所々に付けられた私達だけが残った。

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