第152話 四体のドラドーグル

 黒針竜とドラドーグルは私達を見ながら、その距離を少しずつ縮めてくる。



 黒針竜はすぐに私達を敵と認識したようだ。

 四体のドラドーグルも私達に牙を剥き、唸り声を出している。



 バスクさんが大盾を構え、前を向いたまま私達に指示を出した。


「ラフィーネ! イスネリちゃん! 小さい方優先で狙ってくれ! 他の奴らは出来るだけ散って、黒針竜の注意を引いてくれ! 頼んだぞっ」


「了解っす! 行くっす!」



 ザージンさんのその声を合図に、ミレニアさんとナヴィ、クウネとザージンさんが左右に別れて走り出した。



 四体のドラドーグルと黒針竜は一瞬、そちらに気を取られ、視線がそっちに外れた隙に私とイスネリが一番前のドラドーグル目掛けて、三日月と矢を放った。



 ビュンッ! シュンッ!…



 ドラドーグルはすぐに気付き、跳んで回避するが三日月を念動で操作して、ドラドーグルの後脚に当てた。


 イスネリの矢はかわされたが、すぐに念動で動かして着地したそのドラドーグルの背中に命中させた。


「ギャーーッ!?」



 避けたはずの矢が後ろから飛んできて、混乱したドラドーグルが後ろを振り返った。



 そしてバスクさんが叫ぶ。


「三人とも! 突っ込むぞっ! 付いてこいっ!」



 バスクさんは大盾を前に構えて、そのまま走り出した。


 そしてそのまま一番前にいる、三日月と矢を命中させたドラドーグルへ大盾をぶつけるように体当たりを繰り出した。



 ドォン! ズザァーッ!



 バスクさんに体当たりされたドラドーグルが後ろに吹っ飛んだ。


「グギャァー!…」



 それを見た他の三体のドラドーグルが吠えながら、バスクさんに突っ込んできた。


「ラフィーネ! イスネリちゃん! 来たぞ!」


「了解っ! いくよーっ!」



 私は太腿のホルダーから全部の三日月を出して、バスクさんの前方を中心に三日月を高速回転で展開した。



 シュンッ! シュンッ!…ザクゥ! バシュッ!…


「グギャァー? ガァー!」



 ドラドーグル四体は自分達の体の周りを高速で飛び回る三日月に翻弄され、そしてそれらが自分達の体を切り刻んでいく事に悲鳴を上げた。


 ビュンッ! グサァ!



 イスネリも動き回るドラドーグル相手に正確に矢を突き刺していく。


 ドラドーグルは三日月と矢の波状攻撃に足を止められ、バスクさんに反撃する事さえできなかった。



 その波状攻撃の間、私は黒針竜の方をチラッと見た。



 クウネとミレニアさんとザージンさんが黒針竜の周りを走ったり、跳んだりして完璧に注意を引いていた。


 ナヴィも飛翔のスキルを使い、黒針竜の攻撃が当たらない距離を飛び回り、上手く立ち回っていた。



 時々クウネとミレニアさんが黒針竜に斬りかかっているが、鱗に弾かれて、大して効いてないようだった。


 剣が黄色くなっていないから、ミレニアさんは本気で斬りかかっていないと思うけど、それでもあの鱗は剣を弾くんだ…。


 私は黒針竜の硬さに驚いたが、まず目の前のドラドーグルを倒さないと。


 三日月と矢を避けるのに精一杯のドラドーグル達の体には、どんどん傷が増えていく。



 私は三日月を操作しながら、イスネリの矢も操作して回収すると、すぐにイスネリの手元に持っていく。



 バスクさんが私達に叫んだ。


「まだ油断するなよ! コイツら、まだこっちを狙ってるぞ!」


「了解っ!」



 私が更に三日月の回転を上げようとした瞬間、乾いた音が森の中に鳴り響いた。



 バァンッ! キィン!



「きゃー! 」


「「クウネちゃんっ!?」」


 ミレニアさんとザージンさんが同時に声を上げた。



 私はその声の方を見ると、クウネが地面にうずくまっているのが見えた。


 クウネの太腿の辺りに一本の矢が刺さっている!



 バァンッ! グサァ!


「ゴォォーンッ!」



 もう一回、乾いた音が鳴り響く。

 そして黒針竜が咆哮を上げた。



 私はイスネリに叫んだ。


「イスネリ! ここは私とアイシャに任せて、クウネに治癒をお願い!」


「分かりましたですの!」



 私にはすぐに分かった。

 クウネの足に刺さった矢が誰の物なのか…。



 黒針竜の後方の木の上。

 その木の上に矢の持ち主、ボウガンを構えたレボネの姿が見えた。



 私の後ろで、聞いた事がないくらい大きな声でアイシャが叫んだ。


「レボネーッ!」


 レボネの隣の木の上には薄ら笑いを浮かべたエドセントもいた。



 バスクさんが二人に向かって叫ぶ。


「お前ら! そこで何してやがるっ!?」


 レボネはその声が聞こえた素振りもなく、更に次の矢を装填したボウガンを構え、矢を放った。



 バァンッ!



 矢は再び、黒針竜に刺さり、黒針竜が咆哮を上げる。

 そして黒針竜はエドセントとレボネの方に振り返り、更に咆哮を上げた。


「ゴォォーッ!」



 それを冷やかに見たエドセントが片手を上げて、叫んだ。


「よぉーし! 頃合いだ! 二人とも、やれっ!」



 すると、エドセントとレボネから少し離れた木の根元付近から現れた仲間の二人が二手に別れて、私達と竜達を挟み込むように走る。



 何?…一体、何をする気なの?

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