第146話 ゴード村へ出発

 私達はバスクさん達と別れて、家に帰って行った。


 打ち合わせ以外にちょっとした問題もあったけど、私達は獣竜討伐に向けて、怯むどころか燃えまくっていた。


 もうすっかり夜になっているが、夜間外出禁止令が解除されたばかりの街はまだまだ人通りも多く、賑やかだった。



 家の扉を勢い良く開けたクウネが、大きな声を出した。


「ただいまー!」



 しかし家の中に人の気配はなく、私達は食卓の部屋に集まった。


 すると裏庭からビュンッと弓を放つ音が聞こえてきた。


 イスネリはまだ裏庭で弓の練習をしているようだった。



 私は部屋の窓から裏庭を覗き、声を掛けた。


「イスネリ。ただいま! 帰ってきたよ。まだ練習してるの?」


「あ、お帰りなさいですの。ええ、だいぶこの弓にも慣れてきましたの」


「ナヴィはいる?」


「ええ、あちらの隅の方で樹木を操るスキルの練習をしてますの」



 暗い裏庭の隅でナヴィが、手に持った木でいろいろと試しているみたいだった。



 私はその後ろ姿に向かって声を掛けた。


「ナヴィ! 帰ってきたよ。明日の打ち合わせするから、家の中に入って」


「ん? お帰りにゃ。分かったにゃー」



 六人全員が食卓の部屋に集まり、私はさっき酒場であった出来事をイスネリとナヴィに話した。


 二人もやっぱり不快感を露にして、特にイスネリにいたっては、


「そのような輩に屈する訳にはいきませんの! ラフィーネさん! 絶対にバスクさんのお仲間の仇を取りますの!」


「い、いや、イスネリ。バスクさんの仲間は死んだ訳じゃないから…。それに目的は獣竜だからね」



 その後、私達は明日の出発の打ち合わせをして、それぞれの部屋で休んだ。


 ベッドに入ってから、私は酒場での出来事を思い出してしまい、また怒りが込み上げてきた。



 ダメだ…。明日に備えて早く寝ないと…。



 ー◇◇◇◇ー


 翌朝、私達は支度を整えてバスクさん達との集合場所へ向かった。


 今回、ヴァルガン種の獣竜が現れたのはゴードルネ森林という森だ。


 ゴードルネ森林のすぐ近くにゴード村という所があり、私達はこのゴード村を拠点にして、この獣竜の討伐をする予定だ。



 このゴードルネ森林は、これまで何度もヴァルガン種以外の獣竜も現れていて、度々その周りの地域には被害が出ているそうだ。


 小型の獣竜や動物系のモンスターも元々、数多く生息しているとのことだった。



 モーネサウラからは馬車で、丸一日かからないくらいの時間でゴード村には着くので、バスクさんとは馬車乗り場で集合ということになっている。



 私達は馬車乗り場に着いたが、バスクさんとザージンさんの姿はまだなかった。


「んー。まだなのかな?」


 辺りを見回していると、一台の馬車が通りからこちらに向かって来た。


 その馬車は馬車乗り場に入って、私達の前に停まると荷台の扉が開き、中からバスクさんが出て来た。



 私が思わず聞いた。


「あー。バスクさん。もう馬車手配してくれてたの?」


「おう。全部で八人だからな。二台に分散しても良かったんだが、この馬車なら充分乗れるってんで、これにしたぜ」


 私達はその馬車に乗り込むと、中は広く八人は充分に座れた。


 全員が席に着いたところで馬車はゆっくりと出発した。



 そしてバスクさんが私達に話し掛ける。


「今日の夕方にはゴード村に到着する予定だが、宿屋もギルドを通して予約してあるから、慌てて探さなくても大丈夫だからな」


「さすがバスクさん。慣れてるって感じだね」


「まあな。それより、ラフィーネ。昨日はすまなかったな。変な連中に絡まれた上に、巻き込んだみたいに参加する事になっちまって」


「だからー! バスクさん! 私達は自分達で決めて、このクエストに参加してるの! もうそういうのは無し!」


「ああ、そうだな。すまんな」



 また私は昨日のエドセントの事を思い出した。

 あー! やっぱりムカつくっ!



 自分でも何でこんなにもムカつくのか分からないくらい、昨日も今日もあのエドセントの顔や声を思い出すだけでもムカついた。



 そして一緒にあの場にいたアイシャも私と同じような感情を持っているのか分からないけど、私の隣で時々馬車の音に混じって、アイシャの呟きが微かに聞こえる。



「…コロス。ゼッタイニ」



 …それは獣竜の事だよね? アイシャ?

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