第143話 それぞれの準備

 私達は武器屋さんの裏庭に出ると、おじさんが矢を何本か持って来てくれた。


「その弓だと、このぐらいの重さの矢じゃないと安定しないと思うから、これで試し撃ちしてみてくれるか?」


「ありがとうございますの」



 イスネリはその矢を受け取り、庭の端にある丸太の的に向かって弓を構えた。


 ビュゥンッ! バキィ!


 すごい風切り音の後に、木と矢がぶつかる衝撃音が伝わってきた。



 矢は丸太に深々と突き刺さり、矢先は少し裏側から飛び出していた。



 私が思わず声を上げる。


「すごい威力だねー。もうちょっとで貫通しそうだよ」



 私はおじさんがイスネリに持ってきた矢の一本を手に取ってみた。


 ズシッ。重っ!



 生まれて初めて、矢を持って、重いって感じたよ。



 私がおじさんに聞いた。


「おじさん。これって普段から売っている矢なの?」



 するとおじさんは首を振りながら答える。


「いやいや、こんなの使える人はいないよ! これは二、三年ぐらい前に頼まれて作った特注品の弓と矢だよ。結局作ってる途中で注文した奴が怪我しちゃって使えなくなったから、この弓と矢はうちの倉庫で眠ってたんだよ」


 ビュゥンッ! バキィッ!



 イスネリがもう一射して、おじさんに振り返り声を掛ける。


「すごくいい感じですの。きれいに保管されてたみたいですの」


「そうかい? それは良かった。今、矢は店にある分しかないけど、時間をくれれば追加で作る事もできるから、いつでも言ってくれ」


「ありがとうございますの。ラフィーネさん。これにしてもよろしいですの?」


「うん。イスネリがそれでいいなら大丈夫だよ」



 私はイスネリのその弓矢を購入することにして、店の中に戻った私達はクウネの手甲の補強と調整をしている間、店の中で待つことにした。



 私は座っているイスネリに尋ねる。


「イスネリは何で武器を変えようと思ったの?」


「今回の相手は大型の獣竜ですの。前にキャラバン隊の護衛の時に槍でデザートバイパーを仕留め損ないましたの。あの時は槍が一本しかなく、追撃出来ませんでしたけど、これならば連射して追撃も可能かと思いましたの」


「あー、そうだったね。あの時のとどめはミレニアさんが刺したもんね」


「はいですの。なので、今回わたくしは距離を取っての援護射撃に回ろうと思いますの」


「それだと心強いね。的が動いても私の念動で軌道修正出来るしね」


「でも出来るだけラフィーネさんにはご自身の武器の念動に集中していただきたいので、わたくしの矢を操作するのは最低限でもいけるように、この後家で練習しますの」


「えっ? じゃあ、バスクさんとの打ち合わせは欠席するの?」


「はい。申し訳ございませんの。明日以降の準備はしっかりしておきたいんですの」



 私はアイシャの方を向いて話し掛ける。


「そうイスネリが言ってるから、イスネリは家でお留守番してもらってもいい?」


「ええ、良いと思います。本人がしっかり練習しておきたいのであれば、した方が良いと思います。イスネリ。打ち合わせは私達がしておきますから、あまり時間はないですけど、しっかりと弓を手に馴染ませておいてください」


「ありがとうですの」



 するとナヴィが私に話し掛けてくる。


「あの、私もこの後、家でちょっと練習してていいかにゃ?」


「ナヴィも? 何の練習?」


「私は初めてのクエストだし、この姿でどのスキルが使えるとか、しっかり試しておきたいにゃ」


「なるほど。それは大事だね。それじゃ、ナヴィも欠席ということで」



 私達はバスクさん達との打ち合わせに私、アイシャ、クウネ、ミレニアさんの四人で行く事にした。



 そんな話をしていると、クウネの手甲の調整が終わり、おじさんがその手甲をクウネの所に持っていく。


「じゃあ、クウネちゃん。この部分の補強を手直ししておいたから。あとしっかり磨いておいたからね」



 ピカピカになった手甲を受け取ったクウネが早速、手甲を装着してその腕をぐるぐる回す。


「おおー。やっぱりおじさんがしてくれると違うねー」


「そうかい? そう言ってくれると嬉しいな」


「前にランシーアの武器屋さんで補強してもらったんだけど、なーんか手に馴染んでなかったのー」


「そりゃクウネちゃんの手甲に関しちゃ、俺の方が解ってるからな」


「そうだよねー。ありがとうね。おじさん! また今度、この手甲を可愛くアレンジしてね!」


「おう! 任せとけっ!」



 尻尾を振りながらおねだりするクウネに、頬の筋肉が緩みっぱなしのおじさんが自分の胸を叩きながら答えた。


 やはり恐るべし…。無邪気可愛さパワー…。

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