第140話 閑話 その2
クウネ達に話を聞いた後、ミレニアさんが私に話し掛けてくる。
「…ねえ。ラフィーネさん。明日、アルメダさんの所に一緒に行くのはダメかな?」
「ああ、そうだね。悪魔退治もとりあえず終わったし、帰って来てから全然行けなかったもんね」
そこでアイシャが話し掛けてくる。
「では明日、騎士団がこの街を出たのを確認してから、アルメダさんの所に皆で行って、その帰りにギルドに寄ってクエストを確認するというので、どうでしょうか?」
「そうだね。そうしよっか。私も騎士団が出て行ってからの方が安心だし。いいかな? ミレニアさん」
「…私は全然いつでもいいよ。明日が無理だったら、明後日でもいいから」
「ごめんね。じゃあ、あの騎士団次第だね」
私は更にイスネリに話し掛ける。
「あの、イスネリ。明日なんだけど、ちょっとお願いがあるんだ」
「はい? なんですの? わたくしで良ければ?」
「騎士団が街を出て行く所をちゃんと確認したいから、一緒に来て欲しいんだ。いいかな?」
「ええ、構いませんの。
「ありがとう。イスネリ。話が早くて助かるよ。お願いね」
やっと悪魔退治の件も終わり、明日からの予定が決まっていった。
あとはあのお兄様の騎士団が早くこの街を去っていくのを祈るだけだな…。
ー◇◇◇◇ー
翌日、お昼頃に街に騎士団の様子を見に行っていたアイシャとナヴィが帰って来て、私に騎士団がそろそろ街を出ると教えてくれた。
「ありがとう。アイシャ。ナヴィ。じゃあ、イスネリ。お願いしてもいいかな?」
「かしこまりましたですの」
裏庭でワイバーンになったイスネリが私を乗せて、
空から、街の通りを進む十数頭の馬に乗った騎士団の部隊が、街の人達に声を掛けられたり、手を振ったりしながら街の門の方に向かって行くのが見えた。
「見えましたの。あれですの」
「うん。見えたね。じゃあ、イスネリ。門に先回りしてもらっていい?」
イスネリはそのまま旋回して、街の門に近い外壁の一番上に着地した。
「ありがとう。イスネリ。ここなら門の内も外もバッチリ見えるよ」
やがて馬に乗った騎士団の行列が門へと近付いてきた。
そして私はその行列の一番前に、ギオールお兄様が馬に乗っているのが見えた。
うーん。二ヶ月ぐらいぶりかな? ギオールお兄様を見たのは。
全然変わってる感じしないな、と思いながら外壁の一番上から騎士団が街から出ていくのを待っていた。
そして門をくぐった騎士団は徐々に街から離れて行く。
そしてそのギオールお兄様の後ろ姿を見ながら、私は改めて誓う。
次にグレリオン家に帰った時には…
もう認めないとは言わせない。
二度とポンコツとも言わせない。
私とイスネリは騎士団が小さくなるまで見届けてから、家に向かって飛び立った。
家に着いてすぐに私達は全員でアルメダさんの所に向かった。
ラドズさんの屋敷の離れで、こないだの行商の後処理をしているはずなので、とりあえず行ってみた。
ラドズさんの屋敷に着くと、ラドズさんは不在だったけど、屋敷の使用人の方がアルメダさんが作業している部屋に案内してくれた。
部屋をノックして入ると、ソファに座ったアルメダさんとジャーバさん、数人のキャラバンメンバーが沢山の書類を広げたテーブルで作業をしていた。
私達が入って来た事に気付いたアルメダさん達が手を止めて、話し掛けてくる。
「おー。お前ら! 来てくれたのか?」
私が代表して答える。
「アルメダさん。すいません。忙しい時に」
「いや、全然構わねえよ。ミレニアもよく来てくれたな」
「…アルメダさん。やっぱり忙しそうですね」
アルメダさんがテーブルの書類を見て、私達に言った。
「ん? まあでも、こないだの単独行商の後処理はほとんど終わって、今は次の大規模行商に参加するための商品集めってとこだな。ジャーバから聞いてたけど、ラフィーネはギルドでクエスト受けれなくて、悪魔退治の自警団に参加してたんだろ?」
「はい。今日からクエストも再開するんで、ギルドに行く前にアルメダさんにちゃんと挨拶しとこうと思って」
「ん? 挨拶? なんで?」
ミレニアさんがアルメダさんに話す。
「…しばらくラフィーネさんのチームで冒険者させてもらおうと思って…。ちゃんとアルメダさんに言っておかないと、と思って」
アルメダさんは驚いた顔をして、
「あー、なるほど! もうラフィーネにはちゃんと伝えてるんだろ?」
「…はい。いいですか?」
アルメダさんは私の方を向いて笑いながら言う。
「ランシーアでは心配してたけど、全然大丈夫だったな。ラフィーネ」
私が答える。
「そうでしたね」
ミレニアさんは不思議そうな顔をしているが、構わずアルメダさんが話す。
「あっしの事は気にしなくていいから、思いっきり冒険者してきな。ミレニア」
「…ありがとうございます。アルメダさん」
ミレニアさんの肩を叩きながら、アルメダさんが私達に言う。
「それじゃ、ラフィーネ。アイシャ。クウネ。イスネリ。しばらくの間、ミレニアをよろしく頼むよ」
私達は力強く頷いて、私が答える。
「いえ、こちらこそです。ミレニアさんみたいに強い人が入ってくれて心強いですから」
そしてアルメダさんは私の肩も叩きながら、少し悪い笑顔になって、私達に言ってくる。
「まあ、次にあっしが単独行商に出る時にラフィーネの所にミレニアがいたら、あっしとしても護衛を頼み易いからな。そん時はよろしく頼むわ!」
私も笑顔で答えた。
「そうですね。またその時は絶対に私達に声を掛けてくださいね」
その後、私達はキャラバンメンバーの人達にもミレニアさんの事を伝え、あまり仕事の手を止めてはいけないと思い、いそいそと屋敷を後にした。
街を歩く道中で、ミレニアさんが私達に話し掛けてきた。
「…改めてお願いしますね。クエスト頑張りますから」
正式にミレニアさんを迎えて、私達は五人と一頭?になってからの初めてのクエストを探すため、冒険者ギルドへと向かった。
私達がギルドの近くまで来ると、ギルドの前に長身の二人の男がキョロキョロしているのが見えた。
ダイタスさんとスネアさんだ。
私はその二人に気付いて、アイシャに聞く。
「どうしよう。アイシャ。あの二人いるよ?」
「そうですね。でもあの様子だと、間違いなく私達を待っていると思うのですが…」
二人の姿が見えた瞬間から物陰に隠れた私達は、二人の様子を伺ってみるが、確かに誰かを待っているか、探しているように見える。
私は意を決して、アイシャに言う。
「しょうがない。あの人が何か変な事言い出したら、アイシャよろしくね」
「それは自分で処理してください」
…冷たいなー。
とりあえず私達はギルドに行かないと、クウネ達にも悪いからギルドに向かって歩きだした。
すると二人が私達に気付き、近付いて来る。
そしてスネアさんが私達に話し掛けてきた。
「おはようございます。ラフィーネ嬢。皆さん。待ってましたよ」
「おはようございます。スネアさん。ダイタスさん。私達を待ってたんですか?」
私は二人の顔を覗き込みながら尋ねる。
二人は並んでいるが、スネアさんが答える。
「ええ、僕達はもう今からこの街を離れるので、最後に挨拶をしておこうと思いまして」
「もう離れるんですね」
「はい。元々、悪魔が出たという話を聞いて、ここに来たのですが、その件はラフィーネ嬢のチームのお陰で片付いた事ですし、次の街に行く事にしました」
スネアさんが私達にそう話している間、ダイタスは静かに私の方を見ている。
私が答える。
「そうなんですね。分かりました。お二人とも気をつけて行って来てくださいね」
スネアさんはニコッと笑うと、ありがとうございますと答え、ダイタスさんの脇を肘でつついた。
すると、ダイタスさんが一歩前に出て、私の両手を握り、目線を私の高さに合わせて話し掛けてくる。
私は突然のダイタスさんの行動に顔が赤くなるのを感じた。
「ラフィーネ嬢。何故、貴女のような方が今、この街で冒険者をされているかは、敢えて聞きません。ですが、どうかお気をつけて。無理だけはされないように」
「は、は、はい。あ、ありがとうございます。気をつけます」
更にダイタスさんが続ける。
「何か困った事があったら、私を頼ってください。先ほど、ここのギルドには話を通しておきました。ギルドの受付に言えば、私に連絡が来るようにしています」
「あ、え、そんな事できるんですね?」
「はい。本来なら、貴女の側で貴女をお守りしたいのですが、困っている人達を助けるのが私の使命ですから、本当に申し訳ないと思います」
聞いてて、どんどん恥ずかしくなってきた…。
ダイタスさんは止まらない。
「私とスネアはこの街を離れますが、心は貴女達と共にあります。いつでも私を頼ってもらっても構いませんので」
そこでスネアさんがダイタスさんの肩を叩いて、
「そろそろ…。ラフィーネ嬢も困ってるから…」
ダイタスさんはそう言われ、ハッとなり、私から手を離した。
スネアさんは私達に話し掛ける。
「それじゃ、僕らはこの辺で失礼しますので、お邪魔してすみませんでした」
そう言うと、二人は私達に背を向けて歩きだした。
そして角を曲がる直前、二人が私の方に振り返ったので私は手を振って見送った。
それを見て、二人は私に会釈をすると角を曲がり消えて行った。
私の隣でアイシャとクウネがニヤニヤしている。
反対側ではミレニアさんとイスネリが口を手で押さえて、驚きの表情を浮かべている。
なぜかミレニアさんも顔が赤くなっている。
ミレニアさんが声を出した。
「…情熱的な方ですね」
それを聞いたアイシャが更にニヤニヤして、答える。
「ええ、本当にとても情熱的で真っ直ぐな人ですね」
…なんか、もうヤメテ…。
恥ずかしいから…。
私は目を瞑り、フーッと息を吐いて、皆に言った。
「よしっ! 気を取り直して、クエストを見に行こっか?」
私がギルドに向かって歩きだすと、クウネがぼそっと呟いた。
「ラフィーネ。まだ顔が赤いよ?」
…知ってるよっ!
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