〜閑話〜
第139話 閑話 その1
翌日、私以外は皆、それぞれ朝から外出していった。
アイシャとナヴィは昨日と同じく、主に騎士団を含めた街の様子を見に行き、クウネ達はギルドにクエストが再開されていないかの確認に出て行った。
私は裏庭で一人、念動を使った剣の練習をして時間を潰していた。
お昼前にアイシャ達が先に帰って来て、どうだったか聞いてみる。
「昨晩はやはり悪魔は出なかったそうです。それで今夜、騎士団と憲兵で警備をして、何もなければ明日には夜間外出禁止令は解除されるみたいです。騎士団も数名を残して、明日には街を離れるそうですよ」
「その数名にお兄様は入ってないよね?」
「ギオール様は小隊長ですから、残ることはないでしょう」
私はそれを聞いて安心した。
しばらくして、クウネ達も帰って来た。
そしてすぐに私達に報告してくれる。
ギルドは明日からクエストの発注、受注を再開すると発表されていたそうだ。
ギルドではバスクさんにも会ったそうで、私に伝言があるというので、どんな伝言だったかクウネに聞くと、
「バスクさんがまだラフィーネにお酒奢ってもらってないから、禁止令がなくなったら、連れて行けって言ってたー」
んー、なんか前にそんな約束してたような気がするな…。
グレイベアを倒した後だったかな?
とりあえず、バスクさんにお酒を奢るのはいいとして、私はあとちょっとで騎士団がこの街を出て行くということが分かって、ホッとした。
ー◇◇◇◇ー
時は少し遡り…
〈アイシャ視点〉
「さて…、ここなら大丈夫ですね」
鞄の中にいるナヴィに合図を送る。
了解にゃ、と返事が聞こえ、私の体が
ここは街にある憲兵本部。
その建物の前まで来た私は、王国騎士団の人間が中にいるのを確認した後、建物の裏手に回り、ナヴィに
建物の中を慎重に移動していくと、とある一つの部屋の扉から憲兵と王国騎士団が数名、テーブルに向かい合わせに座って、話し合いをしているのが見えた。
私はすぐにその扉から中に忍び込み、部屋の隅でその会話に聞き耳を立てる。
そしてそのテーブルについている騎士団の一人がラフィーネお嬢様の兄、ギオール様とすぐに気がついた。
「…では、あの首は間違いなく、今回街に現れた悪魔と断定してもよろしいですかな?」
騎士団の隊長の一人と思われる男が年配の憲兵に確認した。
「ええ、一昨日まで毎日出現していた悪魔が、首を持ち込まれた後の昨晩は現れなかった点と、それにその悪魔を討ち取ったという冒険者の証言から、間違いないでしょう」
騎士団の男は腕組みをして答える。
「うーむ。まあこれで解決とあれば、それに越した事はないんだが…。どう思う? ギオール隊長」
話を振られたギオール様が答える。
「ふむ。討ち取ったのが憲兵ではなく、冒険者というのが少し残念ですが。折角、我々派遣部隊がこの街に来たのですから、もう一晩見回りをしてから、何もなければ我々は撤退でいいのではないでしょうか?」
憲兵の男が答える。
「分かりました。それでは今夜は自警団を募らずに、我々憲兵と騎士団の方々で街の警備に当たり、何もなければこの件は解決という判断でよろしいですか?」
それに対し、騎士団の男が答える。
「そうだな。少し早計な気もするが…。やはり夜間外出禁止令に対する民衆の不満か?」
憲兵の男が困った顔で答える。
「はぁ。おっしゃる通りで。もう街では悪魔が討ち取られ、その首が持ち込まれた事は噂になっています。禁止令がいつ解除になるのか、という問い合わせも今朝から数多く来てる状況でして。なので、禁止令をあまり延ばす事は私どもとしては避けたいところでして…」
それを聞いたギオール様が答える。
「今回の悪魔による被害が少なかったから、民衆は余計にそう思うだろうな。我々と違って、民衆は最悪の場合など考えていないからな。もし死人が出たら、誰が責任を取るなど、考えもしないのが民衆というものだ」
それを聞いた騎士団の男と憲兵の男が苦笑いをする。
そして騎士団の男が憲兵の男に話す。
「では今夜、我々と憲兵で警備を行い、何もなければ明日以降、禁止令は解除してくれて構わない。そして我々はこの街から撤退する事にしよう。が、念のため騎士団から数名を二、三日ほど街に残すので、貴方がたの自由に使ってくれ」
憲兵の男は騎士団の男とギオール様に答える。
「ありがとうございます。禁止令が解除されて、騎士団の方がすぐにこの街を離れてしまいますと、街の者も不安がります。そうしていただけると助かります」
男達はテーブルを立ち、部屋から出て行く。
私はその後で部屋を出て、建物の裏から表に出た。
「ナヴィ。もう大丈夫です。解除してください」
「面白かったにゃ。なんか間者になった気分でドキドキしたにゃ」
「そうですね。ナヴィはこの能力がありますから、優秀な間者になれますよ、きっと」
ナヴィが少しドヤ顔になりましたけど、無視して戻ることにしましょう。
憲兵本部の建物を離れて、通りに出た時に聞き覚えのある声の男が声を掛けてきた。
「アイシャさん。お久しぶりです」
「ニーセン…さん」
そこには以前、ガイゼル様の使いで私に接触してきたニーセンがいた。
「いやー、探しましたよ。アイシャさん。ずっとラフィーネ様と行動してなかなか一人にならないし、三週間近くも行商に出て、街からいなくなっちゃうし」
私はニーセンに尋ねる。
「ずっと見ていたのですか?」
「いやいや、そんなにずっと見てたわけじゃありませんよ。それに貴女相手に尾行なんて無理ですよ。今日はここにギオール様がいますからね。もしかしたら…と思いまして」
そう言って、ニーセンは親指で憲兵本部を指差した。
私はニーセンに尋ねる。
「今日は何の用ですか?」
「特に用というのはないんですが、定期連絡みたいなものです」
「なるほど…。では場所を変えましょうか?」
私とニーセンは前と同じ店に移動して、ナヴィにはこの男に会った事はラフィーネお嬢様に内緒にするように念を押しておいた。
以前ニーセンに会ってからの私達の行動も、ニーセンは知りうる限り、情報としてガイゼル様に報告していたとの事だった。
たださすがに
昨日の魔族との出来事も変な誤解を生んではいけないと判断して、話すのを控えておいた。
一通りの話を終えると、ニーセンは席を立ち、
「じゃあ、また話聞きに来ますから、その時はお願いしますね。あ、これからは出来るだけ一人でいる時間も増やしてくださいよ」
「それは難しいですね。私はラフィーネお嬢様の警護も兼ねてますから」
「あははー、そうでしたね。では引き続き、よろしくお願いします」
そう言って、ニーセンはあっという間に私の前から姿を消した。
ナヴィが鞄から顔を出して、私の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「あの人。アイシャの知り合いにゃ?」
「ラフィーネお嬢様と私のお目付け役の人ですよ」
ナヴィはふーん、と言ってまた鞄に隠れた。
そうして私とナヴィはお嬢様の待つ、家に帰って行った。
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