第138話 それはこの家の通過儀式

 日の出近くになって、クウネ達が帰って来た。


 三人とも少し疲れた様子だったので、心配して声を掛けた。


「三人とも、大丈夫だった? ごめんね。無理させちゃって」



 イスネリが答えてくれる。


「大丈夫ですの。また三人でお昼過ぎにギルドの方に行かないといけませんので、クウネさんとミレニアさんは早く休んでもらってくださいの」


「え? そうなの? まだ何かあるの?」


「ええ、お昼に王国騎士団の方が到着されるそうなので、検分と報告に立ち会ってほしいと言われましたの」



 アイシャが三人分の紅茶を運んできて、イスネリに尋ねる。


「今日、騎士団がギルドにも来られるんですか?」


「そうみたいですの」



 私とアイシャは顔を合わせて、私がアイシャに言った。


「私、今日、家に引きこもるね」


「どうぞ。ご自由に」


 三人は出された紅茶をさっと飲み終えると、それぞれの部屋に行くため、立ち上がった。



 クウネがアイシャに言う。


「アイシャちゃーん。クウネ、今から寝るから、お昼前に起こしてねー」


「分かりました。おやすみなさい」



 イスネリ、ミレニアさんもそれぞれの部屋へと向かおうとしたので、私はミレニアさんに声を掛ける。


「ミレニアさん。ありがとうね。来てもらって早々、色んな事頼んじゃってごめんね」


「…ううん。大丈夫だよ。ラフィーネさんも私達を待ってたんでしょ? もう寝てもらってもいいよ。ありがとう」



 ミレニアさん、優しいなぁ。



 三人がそれぞれの部屋に行った後、アイシャが私の向かい側の席に座った。



 そして私に話し掛けてくる。


「とりあえずお嬢様は念のために、さっき言ったようにこの家に引きこもっていてください」


「うん。でも、アイシャも引きこもるでしょ?」


「いえ、私は街にギルドや騎士団の様子を確認しに行きます」


「え? もし、お兄様に見られたら、アイシャだって気付かれちゃうよ?」


「はい。でもナヴィと一緒に行って、不可視インビジブルで隠れますので、大丈夫です」


「えっ? ナヴィは自分以外も消せるようになったの?」


「ええ、大丈夫です。なので、私としても騎士団の動きは気になりますので、確認しに街の方に行きますので、お嬢様はこの家から出ないようにお願いします」


「分かった。じゃあ、アイシャに任せるね」


「はい。お嬢様ももうお休みになってください」



 私はアイシャにそう言われ、部屋で少し休むことにした。


ー◇◇ー


 お昼になり、全員で昼食を終えるとクウネとイスネリとミレニアさんが憲兵と王国騎士団で行われる悪魔退治の実況検分と報告のため、憲兵本部に外出していった。



 アイシャはフードを目深に被り、鞄に猫の姿になったナヴィを忍ばせて、街に情報を聞きに行くため、三人のすぐ後に出て行った。



 一人になってしまった…。



 この街に来て、家で一人きりになるなんて初めてだから、私は何をしていいか分からず、暇をもて余した。



 ビセノアのネックレスが私の視界に写った。



 暇潰しに呼び掛けたら、怒るかな?



 そんな誘惑にかられたけど、さすがに怒られると思って止めた。



 結局私は特にする事もなく、家の中をウロウロしながら掃除とかをしていると、アイシャが家に帰って来た。


「ただいま戻りました。お嬢様」


「お帰り。アイシャ。ナヴィ。街の方はどうだった」



 ナヴィも鞄から出て来て、少女姿になって私の向かい側にアイシャと並んで座る。


「そうですね。街は悪魔が退治されたという話が既に出回っていて、ちょっとした騒ぎになっていました」


「そうなんだ。騎士団は来てたの?」


「はい。バスクさんの言っていた通り、前衛派遣部隊が二十人ほど、昼前に到着したとのことでした」


「その騎士団は今は街の見回りとかしてるの?」


「いえ、見回りはしてません。クウネ達が持ち込んだ悪魔の首の検分を憲兵本部で行っているみたいなので、今はそこに全員いるみたいです。夜は恐らく憲兵と一緒に見回りをすると思います」



 そこまで聞いて、私は一番気になっていた事をアイシャに聞く。


「お兄様は来てた?」


「いえ、お姿は確認していません。ですが、憲兵本部にいらっしゃると思います。街の警護に出るかどうかは分かりませんが、この家の中にいる限りは全く問題ないでしょう」



 私が軽くタメ息をつくと、ナヴィが私に聞いてくる。


「ラフィーネはそんなにお兄さんの事嫌いなの?」


「うーん…。嫌いというか、昔から私に厳しいんだよ、あの人。だから、ちょっとね。家出してる私を見つけたら、なんて言ってくるか…」


「なんか難しいんだにゃ」


「そう、難しいんだよ。ナヴィ」



 この後のアイシャの話によると、今夜何もなければ、夜間外出禁止令も二、三日中に解除される可能性が高いとの事だった。



 そして夕方になり、クウネ達三人が家に帰って来た。

 


 私が三人に声を掛ける。


「お帰り。三人ともごめんね。面倒な事頼んじゃって」



 クウネが最初に答える。


「大丈夫だけど、お腹すいた…」



 続いてイスネリも答える。


「気にしないでくださいの。ラフィーネさん。それで騎士団の検分でわたくし達が持ち込んだ悪魔の首が本物と認定されましたので、夜に何もなければ禁止令は解除されるということですの」



 そして最後にミレニアさんが答える。


「…私はお腹は空いてないし、大丈夫だよ」


「ごめんねー。ミレニアさん。今、アイシャが夕飯作ってるから。もし良かったら、先にお風呂入ってもいいからね」



 そこでハッとクウネが椅子から立ち上がった。

 私が思わず、クウネに尋ねる。


「どうしたの? クウネ?」


「クウネまだ、ミレニアとお風呂入ってないっ!」



 えっ? それ?


「…えっ? お風呂? 私とクウネちゃんが?」



 クウネはミレニアさんの手を取ると、戸惑うミレニアさんを連れてお風呂に向かった。



 すみません。ミレニアさん。

 クウネと一緒にお風呂に入るのは、うちの通過儀式なんです…。



◆◆◆

第五章終了です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次章は二話の閑話になります。

ラフィーネが久々に家族と再会?します。

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