第137話 訳あって、会いたくないんです

 ビセノアはアイシャの騒ぎ散らす宣言を聞いて、爆笑して言った。


「ははは…、お前、オモロイな! 分かった! 頭の中で一日中騒がれるのはイヤやからな。ウチは魔族やけど、魔王の指示無しで人間を攻撃する事はありえへんから、安心し」



 私達はとりあえずビセノアの言う事に納得した。


 すると、ビセノアが私達に言ってくる。


「そや、そこに転がってるそいつの首、持って行きや」


「え? なんで?」


「今、街で外出禁止令出てるんやろ? それ持ってお前らが討ち取ったことにしたら、禁止令下げられるんちゃうか?」



 あー、なるほど。

 悪魔が出なくなるだけじゃなくて、討ち取った証拠があれば確かに早く禁止令が解けるかも。



 私はアイシャを見ると、アイシャも無言で頷き、アイシャは転がっているレッサーデーモンの首を革袋の中に入れた。



 そして私はビセノアに聞いた。


「もうこれで私達は帰ってもいい?」


「あー、そやな。あ、お前の名前聞いてなかったな」


「ラフィーネ。だよ」


「ラフィーネか。ウチの事はビセノアって呼んだらええからな。これからは長い付き合いになるかもしれんからな。仲良くしようや」



 魔族に仲良くしようって言われて、私はちょっと複雑な気分になったが、私達はモウジェノ遺跡を後にする事にした。


 すると去り際にビセノアが私達に言った。


「そうそう。この隠れ家はそのレッサーデーモン誘き寄せるのに急遽作った部屋やから、明日からウチはもうおらんで」



 私達はイスネリに乗って、モウジェノ遺跡を後にした。


 イスネリの背中で私は隣で目を瞑っているアイシャに聞く。


「その首、いつ持って行こうか? 今日の見回りはさっき終わりますって言ったところだし…」


「私もそれを考えていたのですが、この後ミレニアさんとクウネに詰所に持って行ってもらってはどうでしょうか?」


「…え?私が?」



 クウネも同様に驚く。


 アイシャが理由をミレニアさん達に説明する。


「はい。お嬢様と私は訳あって、王国騎士団と顔を合わせる事が出来ません。なので、お嬢様が討ち取ったとなれば、後日騎士団に報告とかの形で会う事になってしまうかもしれません」



 私とミレニアさんとクウネがうんうんと頷きながら聞いている。


「ですので、確実に騎士団と顔を合わせないためにも、今回の悪魔退治は別の誰かが退治したという事にしたいのです」



 そこまで聞いたミレニアさんが私に聞いてくる。


「…ラフィーネさんはそれでもいいの?」


「うん。アイシャの言う通りなんだ。だからお願いできるかな?」



 クウネが答える。


「クウネはいいよー。クウネ達がやっつけた事にして、ラフィーネの名前とかも出しちゃダメって事だよね?」



 アイシャが答える。


「そうです。ミレニアさんもお願い出来ますか?」



 ミレニアさんは私に笑顔で言う。


「…そんな事でいいんなら、大丈夫だよ」


「ありがとう。ミレニアさん。助かるよ!」



 こうして私達は家に到着すると、クウネとミレニアさん、それとイスネリも一緒にさっきの詰所にレッサーデーモンの首を持って、悪魔討伐の報告をしに行ってくれた。



 私とアイシャ、ナヴィは家でお留守番をしていた。


 家でミレニアさん達の帰りを待っている間、私はビセノアから貰ったネックレスを眺めていた。



 それでちょっと疑問に思った事を思い出したので、ネックレスを握りビセノアに呼び掛けた。


「ビセノアー。聞こえるー?」


「聞こえてんで。なんや? 何か用か?」



 すぐに返事がきたのでちょっとびっくりした…。


「あのさー、私の事守るって言ってたけど、どうやって守るの? どっかで私の事見張ってるの?」


「まー、そんなところやな。心配せんでもずっと張り付いてるわけやないで。そのネックレスは魔族の接近に反応するからラフィーネの近くに魔族が来たら、ウチにも伝わるし、ウチもたまにラフィーネの周りの様子とか見に行くし」


「ふーん。でも様子見に来るってどうやって? ビセノアが来たらめちゃくちゃ目立つよ?」


「それは内緒や。ラフィーネには分からんようにするから心配すんな」



 内緒にされると、余計に心配なんですけど…。


「だから、心配すなって!」



 あ、心の声が聞こえるんだった。


 私は慌ててネックレスから手を離した。


 ビセノアはそれでも構わずに話し掛けてきた。


「まあ、なんや楽しそうやからな。ちゃんとラフィーネらの邪魔せんと見とったるから、ウチの事は気にせんと冒険者やっといたらええで」



 魔族に見守られてる冒険って…。



 なんか最初はちょっと怖そうな魔族だったけど、話してみると案外楽しい人?だな、と思った。

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