第136話 嘘だったら、騒ぐそうです
ビセノアは玉座から立ち上がると、面倒臭そうにその悪魔に言う。
「仲間がおると思って、しばらく様子見といたったけど、どうやらお前一匹だけみたいやな?」
「ふふふ、調子に乗るなよ、ビセノア。魔王がいない時のお前など大した事などないからな」
ミレニアさんが私に小声で言ってくる。
「…あの悪魔。レッサーデーモン。中級の悪魔」
そのレッサーデーモンはこのさほど広くはない玄室の天井に届きそうな位の大きさだった。
私も名前ぐらいは聞いたことがあったが、ビセノアは相変わらず余裕でレッサーデーモンに話し掛ける。
「お前、わざわざガーゴイルに化けて、街でちょっかいかけてたらしいな? 小物がしそうなことや」
レッサーデーモンは明らかに敵意を剥き出しにしてビセノアに言う。
「お前も似たようなものだろ? 手下のガーゴイルにわざわざ街を監視させるなんて回りくどいやり方……グォ!」
ビシィッ!
レッサーデーモンの片腕と片足が飛んだ。
ビセノアはいつの間にか私達の頭上を越え、レッサーデーモンの数メートル前にいた。
そしてその手には黒い鞭が握られ、ゆらゆらと動いていた。
その鞭の一振りでレッサーデーモンの片腕と片足が切断されたみたいだ。
そして床に座った状態になったレッサーデーモンを見下ろし、言い放つ。
「とりあえず聞くわ。誰の命令や? それとも単独か?」
「ふっ、調子に乗るなよ、ビセノア。命令などなくても、俺一人で魔王の異能の場所を探るぐら……グハッ!」
ビシィッ!
レッサーデーモンの上半身と下半身が分断された。
地面に這いつくばったレッサーデーモンの頭を踏みつけて、ビセノアが更に聞く。
「お前、一匹やねんな? 」
レッサーデーモンが目を見開き、ビセノアを見た。
口をパクパク動かしているが、言葉が出てこない。
ビセノアは少し周囲を見回した後、再びレッサーデーモンを見下ろす。
「ホンマに一人っぽいな。アホやな、やっぱり」
そう言って、鞭を振った。
ビシィッ!
レッサーデーモンの首が飛び、床に音もなく転がった。
ビセノアは私達の方に振り返り、レッサーデーモンの首を指差しながら話す。
「コイツがさっき言うた反魔王派やな。どうやら、ホンマに一人で来てたみたいやけどな」
私がビセノアに聞く。
「あなたの仲間じゃないんだね?」
「アホ言え! こんなアホと一緒にせんとってくれ! あの赤男とやり合ってる時からコイツが隠れて見とったのは気付いとったけど、まさかホンマに一人とはな」
私達は床に転がったレッサーデーモンを見ると、完全に絶命しているようだった。
いつの間にか、部屋を覆っていた黒い霧も消えていた。
ビセノアは再び玉座に座ると、私達に話し出した。
「こんな連中が魔界にはおるねん。その小娘の事はまだ他の反魔王派には知られてへんと思うけど、最近モーネサウラで人間にちょっかい出してたのはコイツやで」
アイシャがビセノアに聞く。
「では、あなたが今この悪魔を殺したから、もう街にガーゴイルは出ないと?」
「ああ、そやな。ウチはその娘見つけたから、街を探す必要もないし、出る事はないわ」
アイシャはまだ納得してない様子で私に聞いてくる。
「どうしますか? お嬢様。信用できますか?」
「言ってる事は分かるんだけど、やっぱり何日か、街で本当にガーゴイルが出ないか確認しないと信用はできないよね」
ビセノアはそのやり取りを聞いて私達に話し掛ける。
「なんや、用心深いんやなあ。分かった。そしたら、これを渡しとくわ」
そう言ってビセノアは自分が首から下げているネックレスを一つ外し、私に向かって投げた。
「それ、着けてみ」
私が眉をひそめて躊躇うと、ビセノアは足をバタバタさせて言った。
「ああ! めんどくさいなっ! それ着けたら、いつでもどこでもウチの声が聞こえるようになるから! 早よ着けーや!」
「え? そうなの?」
「そうや! ええから早よ着けてみ!」
私は恐る恐るそのネックレスを着けた。
「ほんなら、しゃべるで」
そう言ってビセノアは少しタメ息をついた。
「おい! 聞こえるか? 小娘!」
私はビセノアさんの口を見ているが、口は動いていない。
「念話で話しとるからな、周りの奴には聞こえへんで。んで、そのネックレス掴んで心の中でしゃべってみ」
ビセノアにそう言われて、私はネックレスを握り、心の中で呼び掛ける。
「あのー、聞こえますか?」
「聞こえてるで」
私はネックレスから手を離し、ビセノアに直接話し掛ける。
「それで、これでどう証明するの?」
ビセノアは私達に話す。
「これがあったら、お前はいつでもウチに話し掛けられるやろ? 次にもし、街でガーゴイル見つけたらそれでウチを呼んだらええねん。そしたら、ウチがそのガーゴイルをギタギタにしたるわ。出えへんけどな」
んー、確かにそこまで言うんだったら信用しても大丈夫かな?
私はアイシャに振り返り、聞く。
「どうかな? アイシャ?」
するとアイシャが私の首のネックレスを握り、念話でビセノアに言った。
「もし嘘だと分かったら、このネックレスを握って一日中、騒ぎ散らしてやります。分かりましたね?」
アイシャ…。それは何か、可愛いすぎるよ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます