第135話 嗤う悪魔
私が驚いて聞き返す。
「えっ? え? 魔王?」
ビセノアが答える。
「まあ、落ち着いて聞きや。『魔王の異能』や。その一つなんや」
アイシャがビセノアに聞く。
「その『魔王の異能』とは何なのですか?」
「その名の通り、魔界の魔王が持つ能力の事で、『魔王の異能』は六つあると言われてる」
私がビセノアに聞く。
「その内の一つが私の『万物念動』なの?」
「そういう事やな」
「でも魔王が持つ能力だったら、何で私に授けられたの? いくつも発現するものなの?」
ちょっと考えたビセノアが答える。
「今、魔界は魔王不在やねん。その不在の間にその六つの能力は魔界やら人間界やらで突発的に誰かに発現するらしいわ。ちなみに今まで同じ『魔王の異能』は同時に複数発現した事もないらしい」
「らしい…って。あなたにも分からないの?」
「ああ、そのへんは魔族の間でもよく分からんくてな。ただ、その能力が発現した者は…」
私は息を飲んで尋ねる。
「者は…?」
「ウチら魔族は全力で守らなアカンって事になっとる」
「守る?」
「そうや。まだ発現してそんなに時間が経ってないから分からんけど、お前がそれを発現してからその能力が成長とか変化はしたか?」
そういえば、操れる数が増えたり、人が触っても動かせるようになったりしたな。
ビセノアは私のその様子を見て話す。
「どうやら、心当たりがあるみたいやな。『魔王の異能』はそうやって発現した者の中で成長するもんやねん」
「成長って、いつまで成長するの?」
「そこまでは分からん。やけど、ウチら魔族は『魔王の異能』が成長するまでは絶対に守らなアカンっていう掟があんねん」
アイシャがそこでビセノアに聞く。
「成長を終えると、このスキル…いえ、能力はどうなってしまうのですか?」
ビセノアはまたちょっと考えて答えた。
「んー、ハッキリ言うと成長を終えたらどうなるか知らんねん。ついでに言うと、例えばウチがこの娘をここで殺しても、能力を取り出して回収する事もでけへんねん」
魔族でも分からないんだ…。
私がビセノアに尋ねる。
「このスキルって、前は三百年以上前に確認されたって聞いたんだけど、その時はどうだったの?」
「おー、それ知ってるんか。そうそう。前に発現した人間はその能力が成長しきる前に魔王が回収してん。魔王は能力を取り出す事が出来るらしいわ」
私は恐る恐る聞いてみる。
「そ、その回収された人って、殺されちゃったの?」
ビセノアはちょっと驚いた顔をした後、笑いながら言った。
「大丈夫や。心配せんでも。その能力を失うだけで、魔王は命までは取らへん」
私はちょっとだけホッとした。
そしてアイシャがビセノアに聞く。
「ですが、魔族がお嬢様の能力を守るという事ですが、何から守るんでしょうか?」
そこでビセノアは真剣な顔になって答える。
「まあ、魔族の中にも少数やけど、魔王に従わへん反魔王派の奴らがおるねん。んで、そいつらアホやから能力を持っている人間を殺したら、その魔王の能力が失われると信じきってんねん。そいつらが能力を持ってる人間を狙って来よるから、ウチらはそういう連中から能力を守らなアカンねん」
「で、もし私がそいつらに殺されちゃったら、この能力はどうなるの?」
「それは分からん。他の誰かに移るんか、しばらく発現されへんか。どっちにしても、ウチらはまたその能力を探さなあかんから、厄介やねん」
私がビセノアに尋ねる。
「じゃあ、あなたは私がこの能力を持っている間は守ってくれるっていう事を私に伝えるために、街にガーゴイルを放ったの?」
「ああ、そうや。けど、人間を襲ったのはウチのガーゴイルちゃうで」
「えっ? そうなの?」
「ああ、さっき言うた反魔王派、そいつらの仕業や」
アイシャが首を傾げてビセノアに尋ねる。
「その反魔王派はなぜ街で人間を襲ったんでしょうか?」
「あいつらアホやからな、魔王の異能がモーネサウラにおる人間の女に発現したって、情報だけで攻撃して能力があるかどうか確認しとったみたいや」
アイシャが聞く。
「それをあなたは証明できますか?」
ビセノアはニヤリと笑い、私達に言った。
「ホンマはあの赤男がおらんかったら、さっきケリを着けるつもりやったんやけどな。ゆっくり説明でけへんかったからな」
? どういう事?
ビセノアはスッと手を挙げると、壁や天井、床まで黒い霧に覆われた。
アイシャとミレニアさんが剣を抜き、アイシャが叫ぶ。
「悪魔め。やはり騙したのですね!」
「ちゃうで。今言うたアホな連中をこの部屋に閉じ込めたんや」
「グバァァーー!」
私達の後ろから叫び声が聞こえ、私達が振り返ると山羊に似た頭と蝙蝠のような羽を持った悪魔が黒い霧に纏わり付かれ、苦しんでいた。
その悪魔は自身の体に纏わり付いた黒い霧を払い除けると、私達とビセノアに睨み付け、言い放った。
「ハハハ! よく気付いたな! ビセノア!」
「初めっから分かっとったわ、アホが」
ビセノアは邪悪に微笑んだ。
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