第134話 遺跡の中の隠れ家

 ダイタスさん達が立ち去った後、すぐに街に戻り、門の所にいた門兵の人にモウジェノ遺跡の場所を聞いたら、すぐに教えてくれた。


 そのまま遺跡の方に行くと怪しまれるので、私達は街に入り詰所に行って、今日の見回りは終える事を伝えてから、イスネリに運んでもらう事にした。



 私達は街の隅の少し拓けた所に移動して、ワイバーン姿になったイスネリに乗り込み、モウジェノ遺跡に向かった。


「見えてきましたの」


 十分ほど飛んだところでイスネリがそう言ったので、前を見ると朽ちた建物や柱などが密集したモウジェノ遺跡が見えてきた。



 イスネリはその遺跡郡の横に着地して、私達はイスネリから降りた。


 ミレニアさんがその遺跡を見回して、私達に言う。


「…あっちの方にこの遺跡の迷宮の入口があるはずだけど、そこで合ってるかな?」


 ミレニアさんが指差す方には少し大きめの朽ちた建物があり、その入口がぽっかりと口を開けていた。



 私達のいる位置からはその入口の奥の方まで見えなかったので、私達はその入口まで移動する。


 その入口の手前まで来ると、入口の奥の方に下へ降りる階段が見えた。


「…あの階段が迷宮へ降りる階段だけど…」


 ミレニアさんがそう言った瞬間、その入口と階段の間の暗闇に二つの赤い光が見えた。



 ガーゴイルだ!



 私達は武器に手をかけ、身構えると、そのガーゴイルが私達に話し出した。


「思ったより早よ来たな。案内するわ。そのガーゴイルについてきたらええわ」



 !?ビセノアの声?



 ガーゴイルからあの魔族の声が聞こえた。



 私がそのビセノアの声を発したガーゴイルに尋ねる。


「えっ? さっきの魔族だよね?」


「そや。コイツの口だけ借りてんねん。とりあえず早よついてきいや」


 そう言うと、目の前のガーゴイルはスタスタと進んで、奥の階段を降りて行った。



 アイシャが私に聞いてくる。


「お嬢様。易々と信じていいんでしょうか?」


「んー、難しいね。私に用があるって言ってたから、全員じゃなくて、私だけ行こうか?」


「それはいけませんっ! お嬢様! 私は絶対について行きます! 危険です」


 他の皆もうんうんと頷く。



 私が皆に聞く。


「じゃあ、何人か念のためにここに残る?」



 イスネリが答えた。


「いいえ。いざとなったら、私が皆さんを乗せて暴れますの。なので全員で降りた方がいいと思いますの」


「暴れるのはちょっと…。でも分かったよ。皆で行こうか」



 私達は全員でその遺跡の階段を降りて、ガーゴイルの後ろをついて行った。


 スタスタと迷いなく前を歩くガーゴイルが迷宮の回廊で立ち止まった。



 そして壁に向かい、手を壁に当てるとその壁が一瞬にして消えて、奥に新しい通路が現れた。



 アイシャが呟く。


「隠し通路ですか…」



 ミレニアさんも


「…こんな通路があったんだね」



 ガーゴイルはその新しく現れた通路を進み、私達もその後をついて行く。


 すると前の方に扉が現れたと思ったら、その扉がひとりでに開いた。



 そこは広い玄室のようだった。

 壁には蝋燭の明かりが等間隔にあり、玄室の一番奥には小さい玉座のようなものがあった。



 よく見ると、玉座には黒い霧がかかっていた。

 そしてその黒い霧はすぐに足組みをして偉そうに玉座に座るビセノアの姿になった。


「どうや? ウチの隠れ家や。なかなかええやろ?」



 私はビセノアに尋ねる。


「私に用があるんでしょ? なにかな?」



 するとビセノアは軽くタメ息をついて言ってくる。


「せっかちやなー。そんな急がんでも、ちゃんと話すし、ウチはもうお前らに何もせえへんよ」



 私の隣でアイシャがビセノアに言う。


「簡単に魔族を信用しろというのは無理があるでしょう?」



 ビセノアは一瞬アイシャを睨むと、すぐに表情を緩めて諦めたように言ってくる。


「まあ、確かに人間からしたらそうやな。分かった。じゃあ、とりあえずウチが何でお前に用があるか説明するわ」



 私達は武器に手をかけたまま、ビセノアの話を聞く。


「まず、その小娘の『万物念動』はウチら魔界では『魔王の異能』の一つと言われてんねん」



 へー、そうなんだ……。

 えっ? 魔王!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る