第12話 目立たないに越した事はない

 森林地帯を抜けると、平原が広がっていた。


 少し先に街道が見えた。

 私達は無事に森林地帯を抜ける事ができた。


 野盗に襲われた後、大きな犬みたいなモンスターに二回出会ったけど、私が念動を使って石つぶてをいっぱいぶつけたら、退散していった。


「本当に便利なスキルですね。文字通り、変な虫が寄り付きませんね」


「それは褒めてるんだよね?」


「もちろん、私なりの最大の賛辞です」



 私達は街道に出て、次の目的地に向かう。

 まだ日没までは時間がある。


「これなら日没までに着けそうだね」


「そうですね。今晩の宿も押さえないといけないですし、何とか日没までに着きたいですね」




 街道の先に次の目的地リノールの町並みが見えてきた。

 夕陽に照らされた綺麗な町並みだ。


「おー、見えてきたよ。アイシャ」


「良かったです。これで今夜の宿が決まれば、野宿回避ですね」



 そんなに野宿がイヤなのね。



 私達はネーシャに乗ったまま、リノールの町に入っていった。


 まだ夕暮れ時なので、人も多く行き交っている。


 私達は町並みをキョロキョロと見回しながら、宿屋を探した。


 そして一軒の宿屋を見つけ、軒先にネーシャを繋げて私達は宿屋の中に入った。

 中には若い女性の受付の人がいて、私達に気付いて声を掛ける。




「いらっしゃいませ。お泊まりですか?」


「ええ、同じ部屋でも構いませんので、二人と、あと馬もお願いしたいのですが」


「はい。大丈夫ですよ。二人部屋はまだ空きがございます。二階の部屋になりますが、予定は一泊ですか?」


「はい。明朝早くに発つ予定です」



 アイシャが受付のお姉さんと話してる間、私はキョロキョロと宿屋の中を見ていた。


 受付の周りは大きくはないが、ホールになっていて、綺麗に掃除されているのだろう、清潔感のある宿屋だなーと思って見ていた。



「この辺りで、今の時間も食事を提供しているお店とかはございませんか?」


「それでしたら、隣が酒場ですけど食事もありますよ」


「そうですか。分かりました。ありがとうございます」



 受付を終えたアイシャが私の所に来て、


「お嬢様、無事に宿に泊まれますよ。荷物をお部屋に置いたら、食事に行きましょう」


「うん、じゃあ、荷物運ぶね」



 そう言って私は鞄を念動で運ぼうとしたら、アイシャが止めた。


「お嬢様、できるだけこういう場所で、それは使わないでおきましょう」


「えっ?何で」


「お嬢様は家出中なんですよ。目立たないに越した事はないんですよ」


「そっか。それはそうだね」



 私達は荷物を持って、二階の部屋に移動した。

 部屋には二つベッドがあり、受付のホールと同じく清潔感のあるお部屋だった。


 その部屋に入った瞬間、アイシャは安堵の表情を浮かべた。


 本当に野宿がイヤなんだな…。




 そして宿屋の隣にある酒場に食事をとりに行った。


 酒場は満席というほどではないが、結構混んでいた。

 男のお客さんが多く、私達は店に入った瞬間にすごく物珍しい物を見るような目で見られ、注目を集めた。



 すると若い女性の店員さんが私達に声を掛けた。



「お二人様ですね。こちらの席へどうぞ」


「あれっ?さっきの…」


「うふふっ、案内しますので、ついてきてください」



 さっきの宿屋のカウンターにいたお姉さんだった。

 私達はお姉さんについていき、店の奥まった席に案内された。


「こちらでしたら、他のお客様からはあまり見られませんので。よろしいですか?」


「あ、ありがとうございます」


「また後で来ますので、そちらのメニューからご注文を選んでおいてください」


 そう言ってお姉さんは、席から離れて行ってしまった。


 女二人で来た私達を気遣ってくれたようだ。


「ねえ、アイシャ。さっきの宿屋のお姉さんだよね?」


「そうですね。酒場も経営しているという事でしょうか?」



 私達は注文を決めると、またお姉さんが戻って来た。

 注文を伝えた後、しばらくして別の店員さんが注文の品を私達の席に持って来た。


 結構忙しいお店で、お客さんは地元の人もいるが、旅人っぽい人も多いように感じた。




 食事を終えて、一息ついているとお姉さんが飲み物を持って、ニコニコしながら私達の席に近づいて来た。


「こちらは食後の飲み物です」

「ありがとうございます」

「ちょっとお話しても、大丈夫ですか?」

「あ、はい、大丈夫です」

「お二人で旅をされてるのですか?」

「ええ、まあ」

「さっき宿に来た時から気になってたんです。女の二人旅なんて珍しいなと思って」



 いつの間にか、私達と同じ席についたお姉さんは私達の事を聞いてきた。


 彼女はハルラと名乗り、父親が隣の宿屋とこの酒場を経営していて、ハルラさんはこうしてその手伝いをしているそうだ。


「さっき宿で受付した後、お嬢様って言ってたでしょう?だからもしかして、どこかのご令嬢がお忍びで旅をしてるのかと気になっちゃって」



 私とアイシャは目が合った。


 うん。目立たないに越した事はない、だよね?


 分かってるよ。

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