第13話 大都市モーネサウラ
アイシャがハルラさんに顔を近づけて小声で話す。
「実はそうなんです。訳あって二人で旅をしています」
「やっぱり!どちらのご令嬢の方かお聞きしても?」
「ハルラさんに迷惑を掛けるわけにはいきませんので、そっとしていただけると、助かります。誰かに追われているという事ではありませんので、そこは安心してください」
「そうですか。分かりました。誰にも言わないって約束しますよ」
「ありがとうございます。明日には発ちますので」
「そんなに急がれるなんて、よほどの事なんですね」
「そうなんです。察していただき、感謝します」
…うっ。何か聞いててちょっと心が痛む。
まさか、私がスキルを使いまくりたくて、突発的に家出しましたなんて、とても言えない…。
その後も私はほとんど話さず、アイシャがハルラさんの相手をしてくれた。
ハルラさんもあまり私達の事を聞き出すような話題はせず、リノールの町の事を色々と教えてくれた。
私の事はやっぱり気になるみたいで、チラチラこっちを見てくるけど…。
「明日、発つんでしたら大丈夫だと思いますけど、この後はあまり出歩かないでくださいね。最近、女性や子供を狙った人さらいがいるみたいで、この一ヶ月で急に行方不明の人が増えたんです」
「「人さらい?」」
「ええ、さらわれそうになった人もいて、町ではあまり夜は出歩かないように呼び掛けているんです」
「それはまた物騒ですね」
「先週から夜は自警団の人達が見回っているのですが、まだ犯人は捕まっていませんので」
私とアイシャは目を合わせた。
ハルラさんは私達に続けて
「あ、何か不安にさせちゃってすいません。そのうち捕まると思いますし、明日、町を離れるお二人にはあまり関係のない話でしたね。すいません」
「いえ、お気遣いありがとうございます。今日この後はハルラさんの宿で休むだけですので、大丈夫です」
この後も私達はハルラさんと少し話をして、隣の宿の私達の部屋に戻った。
部屋に戻った私達は、すぐに明日の支度をして休む事にした。
部屋の窓から私が外を見ていると、
「お嬢様、人さらいを捕まえてやろうとか、考えてませんよね?」
「まさか。でも、気にはなるよね」
「そうですね。自警団も出てるという事なので、ハルラさんが言うようにそのうち捕まるでしょう」
「そうだね。でも、人なんかさらってどうするんだろ?」
「レイビン王国では根絶していますが、未だに奴隷制度が非合法ではありますが、根強く残っている国もあります。考えたくありませんが、そういった国に売られるというのが、有力だと思います」
「んー、奴隷制度か…」
そう、未だに奴隷の人身売買が非合法に行われている国がある。
それは私も知っている。
だが、それをこんなに身近に感じた事はなかった。
それに対して今の私には、何もできる事はない。
いつかそんな制度は完全に無くしたいと思ってはいるが。
そんな事を考えながら、その日は眠りについた。
翌朝まだ薄暗い中、私達は支度を整え部屋を出た。
一階の受付にハルラさんがいた。
「お早うございます。本当に早く出られるんですね」
「お早うございます。ええ、今日中に次の目的地に行くにはこのぐらいの時間に出ないと日没に間に合いませんので」
「モーネサウラですね。この時間からでしたら、十分間に合うと思いますよ。気をつけて行ってきてください」
「ありがとうございます。お世話になりました」
私達はネーシャに跨がり、宿屋を後にした。
まだ人通りもなく、薄暗い大通りを私達は進んで行った。
やがて町の出口に着き、リノールの町から出て行く。
あとはこの街道を進んで行けば、私達の目的地モーネサウラにたどり着くはずだ。
太陽が傾き、赤く染まった夕陽が真横から私達を照らす。
リノールの町を出て、十数時間。
大都市モーネサウラの高い外壁が遂に見えてきた。
「アイシャ!見えたよ!モーネサウラだ!」
「ええ、やっと着きましたね」
「やっぱり大きいね!」
高い外壁に囲まれた、大都市モーネサウラ。
貿易や商業が盛んで、レイビン王国領において一番の人口を誇る大都市である。
私達は外壁にある開いた門の所までやって来た。
その門もやはり大きかった。
街の中はまだ活気に溢れていた。
もうすぐ日没なのだが、街には街灯があり、通りはその街灯に照らされ人通りもまだまだ多かった。
ロザミーさんの弟さんの商店に行くのは明日と決めているので、ひとまず今晩の宿を探す。
これだけの人と店の数だったら、宿ぐらいすぐに見つかるだろう。
私達は大通りに面した、少しキレイめの宿を見つけ、そこに泊まる事にした。
リノールの町の時と同じようにアイシャが受付を済ませ、部屋に入った。
今日の部屋は三階だ。
部屋の窓からモーネサウラの街を眺める。
宿の前の大通りには街灯が等間隔に設置されて、通り沿いの飲食店はどこも賑わっているのが見える。
夜遅くになっても外から活気のある声や雰囲気が部屋まで伝わってきた。
この大きな街で新しい生活が始まると思うと、私はワクワクして、その日の晩は今日一日中、馬に乗って移動して疲れているはずなのに、なんだかあんまり眠れなかった…。
◆◆◆
第一章終了です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回からラフィーネ達の新生活が始まります。
もし面白いと思っていただいたら、フォローと★評価のほど、よろしくお願いします。
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