第10話 やっぱり遭遇しました

 夜になって、突然大きな音と共に、ロザミーさんの家の前に一台の馬車が乗り付けた。


 馬車の荷台からロザミーさんと二人の男の人が慌てた様子で降りてくる。


 私達は何かあったのかと思い、玄関まで降りて行った。


 降りて来た私達に気付いたロザミーさんは私達に


「あ、お二人はゆっくりしててください!」


 そう言って、二人の男の人と一緒に馬車の荷台に大量に積まれた野菜を両手に抱えて、家の裏にある倉庫に運んでいた。



「ロザミーさん!どうしたんですか?こんなにたくさんの野菜?」


「今日の夕方に、これを全部受け取りに来る予定の馬車が途中で事故したみたいで、来れなかったんです。店には置いておく所がないから、とりあえず今日は私の家の倉庫に入れておく事になりまして」


 そう言っているロザミーさんが抱えている野菜の一つが落ちそうになる。


 私はとっさに念動でそれを止めた。


「えっ?」


「ロザミーさん、私達も手伝います」


 私は馬車の荷台の所に行き、最大出力で『万物念動』を使い、無数の野菜を宙に浮かせた。


「裏の倉庫に運べばいいんですよね?」


 ロザミーさんと二人の男の人は、驚いて口が開いてる。


 そして私は念動を使い、ものの数分で荷台の野菜全てを倉庫に運んだ。



 倉庫の鍵を閉めたあと、ロザミーさんが私の所にきて


「ラフィーネお嬢様!ありがとうございます!すごく助かりました!昼間に聞いてましたけど、本当にすごいスキルですね、これは」


「いえ、お役に立てて良かったです」


「ほら、あんた達もお礼言っときな!残業を早く終わらせてくれたんだから!」


 私達と話す時とは全然違う口調で、ロザミーさんは二人の男の人に言った。


 二人の男の人達は私に礼を言ったあと、馬車に乗って去っていった。


「さあさあ、お二人とも、家の中に入って!ご飯作りますから!晩ご飯にしましょう」


 ロザミーさんは私達を居間に入れた後、すぐ台所に消えてしまった。


「お嬢様、私、手伝ってきます」


 アイシャはそう言って、台所に行った。


 そしてロザミーさんとアイシャはあっという間に晩ごはんを持って、居間に現れた。


 私達は三人でご飯を食べ、少しおしゃべりした後、翌日の出発が早いので、早めに部屋で休ませてもらった。



 翌朝、早朝にもかかわらずロザミーさんは、見送りに起きて来てくれた。


「ラフィーネお嬢様、アイシャさん。気を付けて。弟にもよろしく伝えておいてください」


「ロザミーさん、本当にありがとうございました。また必ず遊びに来ます」


「楽しみにしてますよ。でも、王族になられてしまったら、無理に遊びに来なくてもいいですからね」


「いえ、それでも必ず来ますから」


 私達はロザミーさんにいっぱいお礼を言って、ネーシャに跨がり、ブルクの町を後にした。



「ロザミーさん、すごくいい人だったねー」


「ええ、本当に感謝しきれないくらい」


「私が結婚した後でも、遊びに行けるかな?」


「んー、でも、お嬢様なら何としてでも行くでしょう?」


「まあ、そうだけどね。その時はアイシャも必ず来てよ」


「もちろんです。もし私を置いて行ったら、私、お嬢様を一生恨む自信があります」


「…そんな自信は持たなくていいよ…」


 私達はそんな会話をしながら、次の目的地に向かって街道を進んで行った。



 このまま街道に沿って行けば、次の目的地のリノールという町なのだが、そのルートだと間違いなく今日中には着けない。


 この先に続く街道は森林地帯を避けるように迂回して遠回りをしているからだ。


 なので私達は途中で街道を外れ、森林地帯を突き抜ける林道を通って、また街道に戻り、リノールに向かう。

 今回の行程で一番の難所となる地帯だ。



 モーネサウラまでの道のりで私達は極力、安全な道を通るように計画しているが、ここだけはそのまま街道を通ってしまうと時間的に野宿確定となるのだ。


 夜通し移動する事も考えたけど、ネーシャの体力がもつか分からないので、それは無しにした。


 森林地帯には日中といえど、獣やモンスターが出る可能性があり、旅人が通れる林道ではあるが、野盗も出るかもしれない。


 それでもアイシャは野宿をしたくない一心で、この道を通る事を私に強要したのだ。


 普通、比較的安全な街道沿いで一晩だけ野宿するのと、森の中で野盗に襲われるのとどっち選ぶ?


 そりゃ野宿中に襲われる可能性もあるけど、野盗よりは野宿の方が全然マシでしょ?


「野盗の方がマシです。当たり前でしょう」


 どうなってるんだ、このメイドの優先順位は?



 でもこの森林地帯を抜けるのに私のスキルがめちゃくちゃ役立った。


 ネーシャの歩く前方に数十本のナイフを展開させ、歩きやすいように枝とか草を刈りながら、進む事ができた。


 私もスキルの練習になるし、枝とかを掻き分けなくていいからネーシャも歩きやすいし、まさに一石二鳥だ。


 そうやってどんどん進んでいるうちに、ちょうど良い感じに拓けた場所に出た。


 そこで私達は簡単な食事をとる為に、ひと休みする事にした。



 私達が座って食事をとっていると、森の中から声が聞こえた。


「へー、女が二人だけか。馬もいるな」


 ……ほらー、やっぱり出た。


 野盗だ。

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