第8話 名家と親バカ
私はお風呂から上がると、入れ替わりでアイシャもお風呂に入った。
ロザミーさんは私にそのまま居間で待つように言うと、居間から出て行った。
なので私はおとなしくアイシャがお風呂から出て来るのを待つ事にした。
アイシャがお風呂から出てくると、ロザミーさんが美味しそうな野菜炒めを大きなお皿にのせて戻ってきた。
「お二人とも、昼食はまだでしょう?こんな物しかできないけど、良かったら食べてください」
「ええっ?いいんですか?」
「お口に合うか、分かりませんけど遠慮なさらずにどうぞ」
ロザミーさんは更にライスやスープも持って来てくれて、昼食をいただくことにした。
家族以外の人と食事をとるのも久しぶりだなー。
そして三人で和気あいあいと、昼食をとらせてもらった。
ーその数時間前、グレリオン家屋敷ー
朝の食卓にはラフィーネを除いた家族四人が揃っていた。
そこへ一人のメイドが慌てて入って来て、ガイゼルに手紙を渡す。
ガイゼルは手紙を読み終えると、隣に座っているユイミーに渡す。
手紙を読んだユイミーはかなり驚いた顔をしたが、すぐに落ち着きガイゼルに尋ねる。
「あなた、どうされますか?すぐに連れ戻しに行かれますか?」
「ふーむ、アイシャも連れているというのなら、急がなくても良かろう。ただ、誰かにすぐ様子だけは見に行かせよう」
その会話を聞いていた、ギオールが
「すみません、お父様。何かございましたか?」
「ラフィーネが家出をしたようだ」
「ええっ!?」
ギオールはガイゼルから手紙を受け取ると、すぐに目を通す。
「あの愚妹めっ!どれだけグレリオンの名前に泥をつけるつもりかっ!」
ギオールは立ち上がり、手紙を思わず握り締める。
向かい側にいるグミールも立ち上がり、
「す、すぐに探しに行かないと!」
「座りなさい。ギオール、グミール。二人とも落ち着け」
ガイゼルは二人を一喝すると、二人に座るよう促す。
「確かにラフィーネの愚かな行為だが、お前達には関係の無い事だ。この事は儂とユイミー、ラフィーネの親子の問題だからな。お前達もラフィーネを心配する気持ちは分かるが、ラフィーネの事は儂らに任せて、二人はいつも通り過ごせば良い」
「しかし、お父様!ラフィーネはいずれ王族に入る人間ですよ!もしもの事があったら…」
「だからそれを儂らに任せろと言っている。何度も言わせるな!」
ガイゼルに一喝され、ギオールとグミールは渋々席に座る。
ギオールとグミールが朝食を終えて出て行き、その部屋にはガイゼルとユイミーの二人だけになった。
「さすがに昨日は、ちと言い過ぎたかの?」
「そうですよ。認めないなんて、大人げない。でも、まさかあの娘が家出するとは…」
「す、すまん。とにかく、知り合いに人探しを得意にしている奴がいる。そいつにラフィーネが何処で何をしているか確認させ、逐一報告させよう」
「それから連れ戻すのですか?」
「いや、すぐには連れ戻さん。ラフィーネが何をしているか聞いてから判断する。もしフラフラと遊んでいるだけのようだったら、すぐに連れ戻す」
「ふふっ、何だかんだ言って、娘には甘いですね」
ガイゼルは顔を赤くして、ユイミーと反対側を向いた。
反対側を向いたまま、ユイミーに話す。
「ギオールは家を大事に思う余りに、行き過ぎる時がある。特にラフィーネには当たりが強いからの」
「厳格な父親を演じるのも大変ですね」
更に赤くなったガイゼルが続ける。
「まさか、ラフィーネがあのような
「そうですね。どうでしたか?実際に剣を交えて?」
「初めて見た時はただ剣を浮かすだけのスキルと思ってしまったが、まさかあれだけの数を自在に操れるとは思わんかったからな。一対一であれば、よほどの相手でない限りはまず負けんだろう。剣の数で圧倒できる」
「私も何度も頭の中でラフィーネとの戦い方を考えましたが、結局何も出来ませんでした」
「儂以上にギオールがグレリオンの剣を重んじる気持ちは分かるが、ラフィーネのあのスキルは、間違いなく最強だろう」
そう言うと、ガイゼルはやっとユイミーの方を見た。
「最強…ですか。今まで非力が故にまともに剣を操れなかったあの娘は、はたして上手く使いこなせるでしょうか?」
「昨日の戦い方を見る限り、使うのは問題なさそうだな。あとは周りがあれをどう見るか。儂やギオールのように騎士道に縛られる人間には昨日のは卑怯な戦い方に写るからの」
「そうですね。貴方も思わず、認めないって言ってしまうし、ギオールもそれが許せなかったんですものね」
「うっ、そ、そうだな…。だがラフィーネもグレリオン家の人間だ。ただ強いだけでは認められないのは分かっているだろう。家を離れ、自由に剣を振る事で見える事もあるだろう」
「表向きは騎士道を重んじる一家の厳格な父、だけど本当は娘には家や騎士道に縛られて欲しくない。一人娘を愛する父親…。ふふっ、大変でしょうけど、私もお手伝いいたしますから」
「か、からかうな」
ガイゼルはまた赤くなって、そっぽを向いた。
ユイミーはガイゼルのその様子を見て、いたずらっぽく笑った。
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