第5話 決行しました

 私の家出先はモーネサウラという街にした。


 そこは王国領で一番大きくて人口が多く、商業や貿易が非常に盛んで、賑やかな街だ。


 グレリオン家の屋敷があるレイビン王国領ポーリアの街から馬を使って三、四日かかるが、山岳地帯とかの危険な場所は通らないので、比較的安全に行ける。


 レイビン王国の端に位置しており、ちょっと先にはブレデオン公国がある。


 人の行き来が多いし、冒険者ギルドもあるので、身を隠したり日銭を稼ぐにはちょうど良いとアイシャが言ってた。


 お金ももちろん持って行くが、お金を稼ぐ手段を確保しておかないと、手持ちが無くなってしまったら、そこで終わりだ。


 そういった理由でモーネサウラは何かと私達に都合が良いので、そこに行く事に決めた。



 そして夕方、アイシャは早くしないとお店が閉まると言って、大急ぎで必要な物の買い出しに出て行った。


 私はその間に条件に出された、書き置きの文面を考えて書く事にした。


 夕食も部屋でとって、私達は家出作戦の確認をした。



 家出は皆が寝静まった深夜から行動する。


 アイシャが馬は一頭だけ手配してくれたので、今夜は夜通し移動して、明日の昼頃に次の町に行ける段取りだ。


 モーネサウラまでは基本、馬だけで移動をする。


 毎日早朝に出発して、確実に次の町に移動できるよう計画した。


 少し日数がかかったとしても、移動は日中のみと決めた。


 モンスターが出る地域も通る事になるが、日中であれば、それほど遭遇はしないだろう。


 野宿はアイシャが断固拒否してくるので、野宿は絶対に避ける事となった。



 そしてその日の深夜、アイシャが私の部屋に来た。


「お嬢様、準備はできていますか?」


「うん、大丈夫」


「では参りましょう」



 私達は家を出て、馬を預けている民家を目指す。


 ポーリアの中にあるその民家の人にはアイシャが話をつけてて、今晩だけ馬を置いてほしいと了解を得ていた。


 私は自分の鞄とアイシャの鞄を『万物念動』で持ち上げ、運んで行く。


 その民家に向かう途中、アイシャが言った。


「お嬢様のそのスキルがあると、何も持たなくていいから便利ですね」


「でしょ?馬に乗っている間もこれで行こうと思うの」


「そうですね。それならば馬への負担も減りますし、いいですね」



 民家に到着すると、その隣の馬小屋へ向かった。

 入ってすぐの馬房に栗毛の体の大きな馬がいて


「お嬢様、こちらの馬です」


「あれ?なんかこの馬見たことあるような?」


「はい。以前はグレリオン家で使用している馬車を引いていた馬です。今は馬車を引退していますが、体力はお墨付きをいただいています」


 アイシャはグレリオン家が使用している馬車の馬主さんの所で、引退していたこの馬を安く購入出来たそうだ。


 馬主さんが言うには荷台を引く力も速度も落ちてるけど、ゆっくりした長距離移動に耐える体力はまだまだあるそうだ。


「そうなんだ。それじゃまた、よろしくね!えっと…この子、名前は?」


「えーと、すいません。ちょっと忘れてしまいました」


「そっか。せっかくだし、名付けてあげよう。この子は女の子だったけ?」


「はい、牝馬です」


「うーん、よし!じゃあ、私とアイシャをもじってネーシャと名付けましょ!」


「良い名前だと思います」


「じゃあ、アイシャ、ネーシャ。行こうか!」


 私達はネーシャに乗り、前に私、後ろにアイシャが乗り、全部で四つある鞄はネーシャのすぐ脇に、パッと見は吊り下げて見えるように浮かせた状態で移動を始めた。



 月明かりだけに照らされた街道は思ったより明るい。


 後ろを振り返ると、グレリオン家の屋敷は真っ暗で屋敷のシルエットぐらいしか見えなかった。


 私はネーシャの足音だけを聞きながら、月を見た。


 お母様、お父様、ギオールお兄様、グミール…使用人の皆の顔を…思い出した。


 また涙が出てきた。


 今朝、あんなに泣いたのに、また涙が出た。


 でも朝は悔しいがほとんどだったけど、今はたぶん寂しいの涙かな?


 そんな私をアイシャは察してくれたのだろう、朝の時のお母様と同じように、後ろから私を抱き締めて無言で頭を撫でてくれた。


 18歳にもなるのに一日に二回も泣いて、二回とも頭を撫でられて…。



 我ながら情けないなーと思った。


 でも私は自由を手に入れた。



 期限付きの自由だけど、せっかく授かったスキルを思う存分に使うんだ。


 そして、願わくばグレリオン家に認められるように…。


 ぼやけてあんまり前は見えてないけど、しっかりと前を見た。


 そしたらいつの間にかアイシャに抱き締められたまま、ネーシャの上で私は眠りついた。

 

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