第4話 決めました
お母様の腕の中でひとしきり泣いたら、ちょっと落ち着いた。
するとお母様が
「ラフィーネ、可愛いお顔が台無しよ」
たぶん私は今、ヒドイ顔をしてるのだろう。
そりゃそうだ。
今までの人生でダントツ一番に泣いたもん。
「ギオールはああ言ってるけど、お母さんは安心したのよ、ラフィーネ」
「?なんで?」
「だって、どんな形であれ、あのガイゼル・グレリオンに勝ったのよ。たとえあなたが誰かに襲われたとしても、自分の身を守る事が出来るわって」
思わず笑ってしまった。
確かにあのお父様に勝ったのだ。
戦い方は認めてはくれなかったけど、あのお父様より強い人間なんてそうそういない。
どんな人間が相手でも自分の身くらいは守れるよね。
「ユイミー奥様。ガイゼル様がお呼びです」
お母様のメイドが部屋の入口の所からそう声をかけた。
するとお母様は立ち上がり、
「ごめんね、ラフィーネ。ちょっとあの人と話してくるわね」
「うん、分かった」
「大丈夫よ。疲れたでしょう?ゆっくりお休み」
そう言ってお母様は私の部屋から出て行った。
入れ替わりでアイシャが入ってきた。
「ごめんね、アイシャ。いっぱい練習に付き合ってくれたのに、こんな事になっちゃって」
「いいえ、私は全然大丈夫です。それよりお嬢様こそ大丈夫ですか?」
「うん。まだ大丈夫じゃないけど、お母様と話してちょっと落ち着いた」
たぶんアイシャは私が声を上げて泣いている間も部屋のすぐ外にいたんだろう。
アイシャは私と二つしか歳は変わらないけど、すごくしっかりしてて、ずっとお姉ちゃんだ。
いつでも私を優しく見守ってくれている。
お母様、グミール、その次に私に優しいのがアイシャだ。
みんなと顔を合わせたくないから、その日の昼食は自分の部屋でとりたいとアイシャにお願いしたら、もうお父様とお兄様は出掛けたらしい。
お母様もそのすぐ後に出掛けたらしく、弟のグミールは学校に行っているから、結局家にいるのは私だけだった。
昼食をとった後、私はアイシャに言った。
「私、家出する」
「えっ?」
「決めたの。私、この家出る」
「いや、ガイゼル様とギオール様にあの様に言われてお気持ちは分かりますけど、それはちょっと…」
「なんでよ?」
「だって、お嬢様には婚約者もいるんですよ?」
そう、私には許嫁がいる。
グレリオン家が代々仕えているレイビン王国。
その王国の第三王子、ロイベル王子が私の婚約者だ。
「でも
「それはまあ、そうですけど…」
もう五年以上も前に親同士が決めた結婚だ。
しかも結婚相手のロイベル王子に私は二回しか会った事がない。
直近で会ったのはもう三年以上も前だ。
そして理由も分からないまま、結婚はずっと先延ばしにされている。
お父様も王国騎士団の隊長という立場上、あまり王家に突っ込んで聞くわけにもいかず、私は今もって宙ぶらりんにされたままなのだ。
「だったら、そこは気を使わなくていいんじゃない?」
「いや!そういうわけにはいかないでしょう!」
でも、私はもう決めたのだ。
王家に嫁いでしまったら、たぶんこのスキルを使って自由に剣を使うなんて事は出来なくなってしまう。
なんとかグレリオン家の人間でいる間に、せっかく授かったこのスキルで、剣を思いっきり使いたい。
その為には、この家の中に居ては駄目だ。
この家では恐らくこのスキルは使わせてくれないし、使ったとしても、さっきみたいに絶対に認めてくれない。
覚悟を決めた私にアイシャが聞いてくる。
「ちなみに…、ちなみになんですけど、お嬢様。出るのはいつ頃を予定してますか?」
「今日。今晩から」
「はぁー!? 何の準備もしてないのに!? 今日?」
「今から準備すればいいじゃない。まだお昼だし」
「散歩?散歩ですか?お嬢様!家出を散歩気分でなされるんですか?」
いつになくアイシャが声を張って怒ってくる。
「うるさいなー。じゃあ、いつどうやって家出すればいいのよ?」
「どこの世界に家出の仕方を教えるメイドがいますかっ!」
「でも、家出ってだいたいみんな突発的にするもんじゃない?もう我慢出来ませんっ!ばんっ!みたいな感じで」
「まあ、そういうのもありますけど、お嬢様の場合は違うでしょ!」
「えー、でもお父様とお兄様が帰ってくる前に出ていきたいなー」
とまあ、そんなやり取りがあったけど、私はアイシャの制止を一切聞かず、最後はアイシャも渋々折れた。
だけど、家出をするのにアイシャからいくつか条件が出された。
その条件とは、
まず書き置きを残す事。
誘拐と思われたら大変だからね。
その書き置きにいつ頃帰るか書く事。
期限を決めておけば、慌てて連れ戻すという可能性も減るだろうと予測して。
行く場所を一つに決める事。
当てのない旅は危険とアイシャが言うから。
そして最後に。
アイシャを一緒に連れて行く事。それを書き置きにも書く事。
家の人間も私がアイシャと一緒だったら、多少安心してくれるだろう。
でも、アイシャに迷惑かからない?とアイシャに聞いたら
「その時はお嬢様に無理やり連れて行かされたと答えますから」
だ、そうだ。(笑)
そうして私達は今から着替えなどの旅支度をして、今晩中に家を出る準備を整えていった。
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